外航貨物海上保険案内

Institute Cargo Clauses 1963–2009 | 外航貨物海上保険の解説・Q&A・ICC条項全文

Insurable Value|MIA 1906 Section 16

Insurable Value|MIA 1906 Section 16

Marine Insurance Act 1906(MIA 1906)のSection 16は、
Insurable Value(保険価額)をどのように算定するかを定める規定です。

船舶、運賃、貨物・商品、その他の保険対象について、それぞれ保険価額の基本的な算定方法を規定しています。
外航貨物海上保険では、特にSection 16(3)の貨物・商品に関する規定が重要です。

最初に区別すべき用語:
「保険価額(Insurable Value)」と「保険金額(Sum Insured)」は同じものではありません。
保険価額は、被保険利益を金銭的に評価した価額の基礎となる概念であり、
保険金額は、保険契約において実際に設定される契約上の保険金の限度額です。
このページのSection

Section 16|Measure of insurable value

16. Measure of insurable value

Subject to any express provision or valuation in the policy, the insurable value of the subject-matter insured must be ascertained as follows:

(1) In insurance on ship, the insurable value is the value, at the commencement of the risk, of the ship, including her outfit, provisions and stores for the officers and crew, money advanced for seamen’s wages, and other disbursements (if any) incurred to make the ship fit for the voyage or adventure contemplated by the policy, plus the charges of insurance upon the whole: The insurable value, in the case of a steamship, includes also the machinery, boilers, and coals and engine stores if owned by the assured, and, in the case of a ship engaged in a special trade, the ordinary fittings requisite for that trade:

(2) In insurance on freight, whether paid in advance or otherwise, the insurable value is the gross amount of the freight at the risk of the assured, plus the charges of insurance:

(3) In insurance on goods or merchandise, the insurable value is the prime cost of the property insured, plus the expenses of and incidental to shipping and the charges of insurance upon the whole:

(4) In insurance on any other subject-matter, the insurable value is the amount at the risk of the assured when the policy attaches, plus the charges of insurance.

概要

Section 16は、保険証券に別段の明示的な定めまたは評価額がない場合に、
被保険目的物のInsurable Value(保険価額)をどのように算定するかを定めています。

船舶、運賃、貨物・商品、その他の目的物についてそれぞれ算定基準を定めており、
貨物・商品については、被保険財産の原価に、船積みのための費用および船積みに付随する費用、
さらにそれら全体に対する保険費用を加えた額を基本とします。

Section 16の基本構造

本条の冒頭には、
「Subject to any express provision or valuation in the policy」
とあります。

これは非常に重要です。
Section 16の算定方法が常に機械的に適用されるのではなく、
保険証券に保険価額について明示的な定めや合意された評価額がある場合には、
まずその契約内容を確認する必要があります。

したがってSection 16は、個々の保険契約で別の評価方法が合意されていない場合の、
MIA 1906上の基本的な算定基準と理解するのが適切です。

貨物・商品の保険価額|Section 16(3)

外航貨物海上保険で最も重要なのがSection 16(3)です。
貨物または商品の保険価額について、次の要素を基礎としています。

貨物・商品の原価
+ 船積みのための費用
+ 船積みに付随する費用
+ これら全体に対する保険費用
構成要素 MIA 1906の考え方 貨物保険実務での確認事項
Prime cost 被保険財産の原価 Commercial Invoice、売買価格その他の基礎価額を確認
Expenses of shipping 船積みに要する費用 輸送費その他、貨物を輸送に供するために必要な費用を確認
Expenses incidental to shipping 船積みに付随する費用 どの費用を含めるかは取引・契約関係を確認
Charges of insurance 全体についての保険費用 保険料等を含む保険費用

「原価」だけが保険価額ではない

Section 16(3)では、貨物そのものの原価だけを保険価額としているわけではありません。
貨物を輸送に供するために必要となる費用や保険費用も含める構造となっています。

これは、貨物が滅失した場合に被保険者が失う経済的価値が、
単純な商品原価だけとは限らないことを反映したものです。

実務上のポイント
損害時にCommercial Invoiceの金額だけを見て「これがMIA上の保険価額である」と即断するのは適切ではありません。
Section 16(3)が示す構成要素と、実際の保険証券で合意された評価方法の双方を確認します。

保険価額と保険金額は別の概念

貨物保険実務では、「保険価額」と「保険金額」が混同されることがあります。
しかし、両者は法律上・契約上の役割が異なります。

項目 意味 実務上の役割
保険価額
Insurable Value
被保険利益を金銭的に評価する基礎となる価額 どの程度の経済的利益が保険の対象となるかを考える基礎
保険金額
Sum Insured
保険契約で設定された金額 契約上の保険者の支払限度額等に関係
損害額
Amount of Loss
事故によって実際に発生した損害 保険金計算の基礎

したがって、保険金額が大きいからといって、
実際の損害を超えて当然にその全額を受け取れるという意味ではありません。
海上保険は原則として損害填補を基本とする保険だからです。

Valued Policyとの関係

Section 16だけを読むと、すべての貨物について事故後に原価・運賃・費用を積み上げて
保険価額を計算するようにも見えますが、実務では保険証券上あらかじめ価額を合意する場合があります。

この点を規定するのが、後に出てくるSection 27のValued Policy(評価済保険証券)です。
一方、Section 28はUnvalued Policy(評価未済保険証券)を規定しています。

Section 制度 Section 16との関係
Section 16 Measure of insurable value 保険価額の基本的な算定基準
Section 27 Valued policy 契約当事者が目的物の価額をあらかじめ合意する保険証券
Section 28 Unvalued policy 価額をあらかじめ確定せず、Section 16に従って保険価額を確認する構造
重要:
貨物保険実務で用いられる評価方法や保険金額の設定と、
Section 16が定めるMIA上のInsurable Valueを同一視しないことが重要です。
まず保険証券上のvaluationを確認し、そのうえでMIA 1906の規定との関係を整理します。

「CIF+10%」「110%」との関係

外航貨物海上保険では、保険金額について「CIF価額の110%」などの設定を目にすることがあります。
しかし、Section 16(3)には「110%」という数字は規定されていません。

Section 16はMIA 1906上のInsurable Valueの基本的な算定方法を定める規定です。
これに対し、110%という設定は、売買条件、保険契約、信用状条件、保険実務など、
別の契約上・実務上のルールとの関係で現れるものです。

ここは特に混同しない:
MIA 1906 Section 16 = CIF × 110%ではありません。
Section 16の法的な保険価額と、実際の貨物保険で設定する保険金額を分けて理解することが必要です。

保険価額と保険金額の実務については、
「保険価格と保険金額」
も併せて確認してください。

船舶・運賃・その他の保険価額

Section 16は貨物だけを対象とする規定ではありません。
船舶、運賃その他の被保険目的物についても、それぞれ保険価額の算定方法を定めています。

対象 Section 基本的な算定の考え方
船舶 16(1) 危険開始時の船価に、航海に必要な一定の艤装・費用等および保険費用を加える
運賃 16(2) 被保険者の危険にさらされる総運賃額に保険費用を加える
貨物・商品 16(3) 原価+船積費用・付随費用+保険費用
その他 16(4) 保険責任開始時に被保険者の危険にさらされる金額+保険費用

貨物保険事故での確認手順

確認順序 確認事項 主な資料 目的
1 保険証券上の評価方法 Policy、Certificate、Open Cover 明示されたvaluationがあるか確認
2 保険金額 Policy、Certificate 契約上設定された金額を確認
3 貨物原価 Commercial Invoice Section 16(3)の基礎価額を確認
4 運送・船積関連費用 Freight Invoice、輸送関連書類 保険価額に関係する費用を確認
5 保険費用 保険料明細等 Section 16(3)の構成要素を確認
6 実際の損害 Survey Report、修理見積、販売資料等 損害額と保険価額・保険金額を区別して保険金を算定

実務例

たとえば輸出貨物についてCommercial Invoiceに商品代金が記載されていても、
それだけを見て保険価額が確定するとは限りません。

実際には、保険証券でどのようなvaluationが合意されているか、
貨物の原価のほかにどの輸送関連費用や保険費用が含まれるかを確認します。
さらに、事故時の保険金計算では、保険価額だけでなく保険金額、損害の程度、
適用される約款・免責等も確認する必要があります。

逆に、保険証券であらかじめ評価額が合意されているValued Policyの場合には、
Section 27との関係を踏まえてその合意価額を確認する必要があります。

関連Section

現行法上の注意

Section 16は現在もMIA 1906におけるInsurable Valueの基本的な算定規定です。
ただし、本条自身が「保険金額を必ずいくらに設定するか」を定めているわけではありません。
実際の保険契約では、保険証券上のvaluation、保険金額、Section 27・28その他の規定を併せて確認する必要があります。

Section 16のまとめ

ポイント 内容
Section 16の役割 Insurable Value(保険価額)の基本的な算定方法を定める
貨物の場合 原価に船積費用・付随費用・保険費用を加えることを基本とする
保険証券の優先確認 明示的な規定またはvaluationがある場合は、その契約内容を先に確認する
保険価額と保険金額 同一概念ではない
110% Section 16自体が110%を規定しているわけではない
Valued Policy Section 27との関係が重要
Unvalued Policy Section 28およびSection 16による価額算定との関係が重要

Section 16によって被保険利益をどのように金銭的に評価するかが整理されます。
次の「Disclosure and Representations」では、Section 17からSection 21まで、
最大善意、告知・表示および保険契約の成立時期を扱います。

次のSection 17~21は特に重要です。
Section 18~20はInsurance Act 2015によって法的状態が大きく変更されているため、
1906年原文をそのまま「現在の義務」として説明することはできません。
次ページでは、1906年当時の規定と現在の英国保険法を明確に分けて解説します。