輸送中に品質が変化しても、直ちに保険事故とはならない
外航貨物の輸送では、貨物が到着した時点で、変色、腐敗、酸化、乾燥、固化、沈殿、成分分離、異臭、カビ、錆、性能低下その他の品質異常が発見されることがあります。
このような品質変化によって、貨物が本来の用途に使用できなくなったり、買主の品質規格を満たさなくなったり、通常の商品として販売できなくなったりすることがあります。
しかし、貨物の品質が低下したという事実だけで、外航貨物海上保険の補償対象になるわけではありません。
貨物保険で重要なのは、品質変化という結果ではなく、その結果を発生させた原因です。
コンテナへの水の侵入、火災、外部汚染、荷役事故、冷却機器の故障など、輸送中の偶然な外部事故によって品質が変化したのであれば、適用される保険条件に従って補償を検討できる可能性があります。
一方、貨物自体が持つ性質、製造上の品質問題、出荷前から存在していた劣化、通常の時間経過、輸送に耐えない梱包または単なる遅延によって品質が低下した場合は、貨物保険上の除外事項が問題になります。
したがって、品質変化事故では、事故原因、保険条件、出荷前品質、貨物の性質、梱包、輸送環境、発生時期および損害額を順番に切り分ける必要があります。
品質変化事故で区別すべき四つの原因
品質変化事故では、主に四つの原因を区別します。
第一は、輸送中の偶然な外部事故です。
コンテナ破孔からの水の侵入、倉庫漏水、船舶火災、冷却機器の故障、異物混入、油汚染など、貨物の外部から予期しない作用が加わった場合です。
第二は、貨物固有の性質です。
貨物が本来的に持つ吸湿性、腐敗性、酸化性、揮発性、発酵性、変色性、沈殿性、分離性、自己発熱性などによって品質が変化した場合です。
第三は、製造上または出荷前から存在していた品質問題です。
製造時の配合不良、乾燥不足、含水率過多、予冷不足、菌の付着、品質保持期間の切迫、既存の錆や劣化などが該当します。
第四は、梱包、輸送準備または保管条件の不備です。
防湿材や乾燥剤の不足、不適切な容器、通風阻害、不十分な防錆処理、温度設定の誤り、予冷不足などによって品質変化が発生した場合です。
実際の事故では、これらの原因が一つだけではなく、複数重なっていることがあります。
たとえば、含水率の高い木材を十分に乾燥させず、防湿措置も不足した状態で密閉コンテナへ積み込み、航路上の温度差によって結露とカビが発生した場合は、貨物固有の性質、出荷前品質および梱包不備が競合します。
固有の瑕疵・Inherent Viceとは
固有の瑕疵は、英語ではInherent Viceと呼ばれます。
Inherent Viceとは、貨物自体が持つ性質、欠陥、弱点または劣化しやすさによって、通常の輸送過程において外部からの偶然な事故がなくても損害が発生する原因をいいます。
代表的なものには、次のような性質があります。
- 湿気を吸収しやすい性質
- 水分を放出しやすい性質
- 酸化または腐敗しやすい性質
- 温度変化によって成分が変化しやすい性質
- 時間の経過によって固化または沈殿しやすい性質
- 振動によって成分が分離しやすい性質
- 臭気を吸着しやすい性質
- 自然に発酵または自己発熱する性質
- 乾燥、蒸発または重量減少を生じやすい性質
貨物保険は、基本的に輸送中の偶然な事故による損害を対象とするものです。
そのため、通常の輸送期間と通常の輸送環境の下で、貨物が自らの性質によって自然に劣化した場合は、輸送事故による損害とは区別されます。
ただし、劣化しやすい貨物であるという理由だけで、すべての品質損害がInherent Viceとして除外されるわけではありません。
劣化しやすい貨物であっても、コンテナへの海水侵入、冷却機器の故障、火災、外部汚染その他の偶然な事故によって品質変化が発生した場合は、その外部事故と損害との因果関係を確認する必要があります。
ICCにおける固有の瑕疵と関連する除外事項
ICC 2009 Clause 4.4は、被保険貨物の固有の瑕疵または性質によって生じた損害または費用を除外しています。
しかし、品質変化事故では、Clause 4.4だけを確認すればよいわけではありません。
通常の漏出、通常の重量または容積の減少、通常損耗については、Clause 4.2との関係を確認します。
梱包または輸送準備が不十分または不適切であった場合は、Clause 4.3が問題になります。
Clause 4.3の文言上、梱包または輸送準備の不備による損害が問題となるのは、被保険者もしくはその使用人が梱包・準備を行った場合、または梱包・準備が保険の危険開始前に行われた場合です。
同条項では、梱包にはコンテナ内への積付けを含み、使用人には独立した請負業者を含まないと規定されています。
したがって、独立した梱包業者が作業を行ったという理由だけで、Clause 4.3が常に適用されなくなるわけではありません。
独立した梱包業者による作業であっても、保険の危険開始前に梱包または輸送準備が行われていた場合は、Clause 4.3の免責が問題となります。
一方、保険の危険開始後に独立した請負業者が梱包を行った場合は、Clause 4.3の文言上の適用範囲から外れる可能性があります。ただし、その場合でも、貨物固有の性質、保険期間、その他の除外事項、事故原因および梱包業者への求償可能性を別に確認します。
輸送遅延によって品質が低下した場合は、Clause 4.5の遅延免責を確認します。
Clause 4.5は、遅延が担保危険によって生じた場合であっても、遅延によって生じた損害または費用を原則として除外しています。
コンテナまたは輸送用具自体が安全な輸送に適していなかった場合は、Clause 5.1.2との関係を確認する必要があります。
Clause 5.1.2では、コンテナまたは輸送用具への積込みが保険の危険開始前に行われた場合、または被保険者もしくはその使用人が積込みを行い、かつ積込み時点でその不適合を認識していた場合が問題となります。
したがって、コンテナに破孔、扉不良、床面汚染その他の不具合があったという事実だけで、一律に免責となるわけではありません。
保険の危険開始時点、実際の積込み時点、積込みを行った者、不適合の内容および被保険者側の認識を個別に確認する必要があります。
なお、Clause 5.2は、善意の売買契約によって保険契約の譲渡を受けた保険金請求者について、Clause 5.1.1の船舶または舟艇の不堪航・不適合に関する免責を適用しないことを定めた規定です。
また、Clause 5.3は、船舶の堪航性および貨物を目的地まで安全に運送するための船舶の適合性に関する黙示担保違反を保険者が放棄する規定です。
Clause 5.2およびClause 5.3は、コンテナまたは輸送用具の不適合を定めるClause 5.1.2を一般的に適用除外とする規定ではありません。
| 原因 | 主に確認する条項 | 代表的な事例 | 実務上の確認点 |
|---|---|---|---|
| 通常損耗・通常減量 | Clause 4.2 | 通常の乾燥、蒸発、重量減少、軽微な摩耗 | 貨物ごとの通常減耗率や過去実績を確認する |
| 梱包・輸送準備不備 | Clause 4.3 | 防湿不足、乾燥剤不足、防錆不足、予冷不足 | 梱包者、梱包時期、実際の梱包内容および保険の危険開始時点を確認する |
| 貨物固有の性質 | Clause 4.4 | 自然腐敗、酸化、発酵、自然変色、自然沈殿 | 外的事故がなくても発生する変化かを確認する |
| 遅延 | Clause 4.5 | 賞味期限切迫、販売時期逸失、長期輸送による劣化 | 物的損害と遅延・商業上の損失を区別する |
| コンテナ等の不適合 | Clause 5.1.2 | コンテナ破孔、扉不良、床面汚染、輸送用具の不適合 | 危険開始時点、積込み時点、積込み主体および不適合の認識を確認する |
自然劣化と偶然な事故による損害の違い
自然劣化とは、時間の経過または通常の環境変化によって貨物の品質が徐々に低下することをいいます。
食品の酸化や腐敗、農産物の熟成、木材の乾燥、化学品の沈殿、樹脂の固化、金属の軽微な酸化などは、貨物の性質によって通常発生する可能性があります。
一方、偶然な外部事故による品質変化は、通常の輸送過程だけでは発生しない異常な出来事によって引き起こされます。
たとえば、コンテナ側壁の破孔から雨水が侵入した、倉庫の配管が破裂した、リーファー機器が故障した、隣接貨物の薬品が漏出したという場合です。
両者を区別する際には、損害の発生範囲も重要です。
貨物全体に均一な変色や劣化が発生している場合は、製造品質、出荷前状態または貨物固有の性質が疑われます。
これに対し、コンテナ扉付近、破孔周辺、床面付近または特定の積付位置に損害が集中している場合は、局所的な水の侵入、外部汚染または輸送環境の異常が疑われます。
ただし、損害分布だけで原因を確定することはできません。
出荷前品質、梱包、貨物配置、温湿度記録、コンテナ状態および第三者検査を併せて確認します。
ICC(A)でも品質変化が無条件で補償されるわけではない
ICC(A)は、Clause 4、Clause 5、Clause 6およびClause 7の除外事項を除き、被保険貨物に生じた滅失または損傷の危険を広く補償する保険条件です。
しかし、ICC(A)が付帯されているという理由だけで、変色、腐敗、固化、沈殿または異臭がすべて補償されるわけではありません。
品質変化が保険期間中に発生した損害であることに加え、固有の瑕疵、通常損耗、梱包不備、遅延その他の除外事項に該当しないかを確認します。
品質変化の原因となった具体的な事故が確認できない場合は、出荷前品質、製造ロット、貨物の性質、輸送期間、温湿度および損害分布から、事故の偶然性と原因を検討します。
ICC(B)およびICC(C)は、約款に列挙された危険による損害を補償する保険条件です。
そのため、ICC(B)またはICC(C)では、品質変化そのものではなく、その品質変化を発生させた原因が、各条件に列挙された担保危険に該当するかを確認する必要があります。
単なる温度変化、湿気、経時劣化、変色または腐敗だけでは、列挙された危険との因果関係を説明できない場合があります。
出荷前品質が判断を左右する
品質変化事故では、貨物が保険の危険開始時点で正常な品質を有していたかという点が重要です。
到着時に異常が発見されたとしても、その原因が製造段階や出荷前保管中に存在していた場合は、輸送中の保険事故とは評価されない可能性があります。
出荷前品質を確認する資料には、製造記録、ロット番号、船積前検査、品質証明、含水率、成分分析、微生物検査、予冷記録、製造日、冷凍日、賞味期限および出荷前写真などがあります。
出荷前の客観的な品質資料が存在しない場合は、輸送中に新たに発生した損害であることを説明しにくくなります。
製造者が発行した品質証明書があっても、証明書の数値だけで判断するとは限りません。
検査が行われた日時、試料の採取方法、検査対象となったロット、分析方法および実際に輸送された貨物との同一性を確認する必要があります。
同一ロットの比較が重要になる
品質変化の原因を調査するときは、事故貨物だけでなく、同一製造ロットの別貨物や製造者が保管している保存サンプルを比較することが有効です。
同一ロットの別輸送分でも同様の変色、固化、沈殿または成分変化が発生している場合は、製造品質または貨物固有の経時変化が疑われます。
反対に、事故対象となったコンテナまたは容器だけに損害が発生している場合は、輸送中の局所的な事故を検討します。
ただし、比較対象の保管条件が異なれば、単純に比較することはできません。
製造者の保存サンプルが一定温度の室内で保管され、事故貨物が長期間コンテナ輸送されていた場合は、その環境差も考慮する必要があります。
梱包不備と貨物固有の性質は別の問題である
劣化しやすい貨物には、その性質に適した梱包や輸送準備が必要です。
吸湿しやすい貨物であれば防湿包装、結露が予想される貨物であれば適切な乾燥剤やライナー、腐食しやすい金属であれば防錆処理が必要になります。
貨物自体に劣化しやすい性質があったとしても、その性質に対応するために通常必要な梱包が行われていなかった場合は、固有の瑕疵だけでなく、梱包不備も問題になります。
一方、通常必要とされる梱包を適切に実施していたにもかかわらず、コンテナ破孔や異常な水の侵入によって損害が発生した場合は、外部事故との因果関係を検討できます。
実務では、予定されていた梱包仕様ではなく、実際に行われた梱包を確認します。
見積書や作業指示書に防湿材や乾燥剤が記載されていても、実際に使用されていなければ、適切な梱包が行われたことにはなりません。
Clause 4.3の適用を検討するときは、梱包者だけでなく、梱包が行われた時期と保険の危険開始時点を確認します。
被保険者またはその使用人による梱包である場合と、独立した梱包業者による梱包である場合では、Clause 4.3の適用関係が異なる可能性があります。
ただし、独立した梱包業者による梱包であっても、保険の危険開始前に行われていれば、Clause 4.3の免責が問題となります。
また、Clause 4.3が適用されない場合でも、当然に保険金が支払われるわけではありません。貨物固有の性質、保険期間、事故の偶然性、その他の除外事項および個別の保険条件を確認します。
コンテナの不適合と貨物側の梱包不備を区別する
貨物側の梱包不備と、コンテナまたは輸送用具自体の不適合は、別の論点です。
防湿材、乾燥剤、内装材、防錆処理またはコンテナ内積付けの不備は、主としてClause 4.3との関係が問題になります。
これに対し、コンテナ自体の破孔、扉の密閉不良、床面の油汚染、輸送用具の構造上の不具合などは、Clause 5.1.2との関係を確認します。
Clause 5.1.2は、コンテナに不具合があれば自動的に適用される免責ではありません。
積込みが保険の危険開始前に行われていたのか、被保険者またはその使用人が積込みを行ったのか、その場合に積込み時点で不適合を認識していたのかを確認します。
コンテナの外観写真、EIR、積込み前点検記録、バンニング写真、コンテナ受渡し記録、積込み日時および関係者の作業記録を保存することが重要です。
遅延による品質低下と物的損害
本船遅延、積替え遅延、通関遅延または港湾混雑によって輸送期間が延びると、貨物の賞味期限、使用期限または販売可能期間が短くなることがあります。
しかし、貨物が予定より遅く到着したことや、販売可能期間が短くなったことだけでは、貨物自体に物理的な損傷が発生したとは限りません。
単なる納期遅れ、販売機会の喪失、市場価格の下落または賞味期限の接近は、遅延または商業上の損失として整理される場合があります。
これに対し、遅延中に冷却機器が故障し、貨物温度が許容範囲を超えた結果、腐敗や成分変化が発生した場合は、物的な品質損害の有無を別に確認します。
遅延が存在した場合でも、品質損害の直接原因が遅延なのか、遅延中に発生した別の事故なのかを区別することが重要です。
温度管理貨物で確認すべきこと
冷凍食品、冷蔵食品、医薬品、化学品その他の温度管理貨物では、温度逸脱が確認されたという事実だけで、直ちに全損になるわけではありません。
設定温度、許容温度、逸脱温度、逸脱時間、貨物中心温度、予冷状態、リーファー機器の記録および貨物の安定性資料を確認します。
短時間の温度逸脱で品質に影響がない貨物もあれば、短時間でも重大な影響を受ける貨物もあります。
特に医薬品などでは、規制または品質管理上の理由から出荷できない場合がありますが、規制上の出荷停止と、貨物保険上の物的損害が常に一致するとは限りません。
製造者の安定性試験、品質部門の判定、第三者検査および適用される特別約款を確認する必要があります。
化学品の固化・沈殿・分離と貨物保険
化学品、樹脂、塗料、接着剤、油脂その他の原料では、輸送後に固化、沈殿、分離、粘度変化、変色または成分変化が発見されることがあります。
この場合、貨物の性質、製造品質、輸送温度、振動、保管期間、水分混入および容器状態を確認します。
貨物が通常の輸送条件でも沈殿や分離を起こしやすく、攪拌または加温によって正常な状態へ戻せるのであれば、恒久的な物的損害が発生していない可能性があります。
反対に、外部から水分や異物が混入し、化学反応によって回復不能な品質変化が発生した場合は、外部汚染事故として検討できる可能性があります。
買主がスペックオフと判定した場合でも、その原因が製造品質、測定条件、サンプリング方法または輸送事故のいずれであるかを確認します。
出荷時と到着時で分析方法、試験温度または試料採取位置が異なる場合は、検査条件の違いによって数値差が生じていないかも確認する必要があります。
品質クレームと貨物保険事故は同じではない
買主や荷受人から、品質が規格に合わない、使用できない、販売できない、受取りを拒否するという連絡を受けることがあります。
しかし、売買契約上の品質クレームと貨物保険上の保険事故は別の問題です。
売主が一定の品質、成分、性能または規格を保証していたにもかかわらず、出荷時点からその条件を満たしていなかった場合は、売買契約上または製造上の問題となる可能性があります。
検査方法や許容値について売主と買主の理解が異なっていた場合も、直ちに輸送事故とはいえません。
貨物保険で確認するのは、保険期間中に担保される危険によって貨物に損害が発生したかという点です。
したがって、買主が受取りを拒否したという結果だけではなく、その拒否理由、品質検査、契約上の品質基準、輸送中の事故および出荷前品質を確認します。
販売不能と全損の違い
貨物が当初予定していた買主へ販売できなくなったとしても、直ちに貨物保険上の全損になるわけではありません。
他の買主への値引販売、別用途への転用、再加工、再調整、再梱包、選別または修理が可能であれば、残存価値が存在します。
損害額を判断するときは、正常な貨物の価値、損害後の実際の価値、再加工費用、選別費用、処分費用および残存価値を確認します。
全量廃棄を行う場合は、法令、衛生、安全性、製品規格または第三者検査に基づく合理的な理由が必要です。
荷主または買主の一方的な判断だけで廃棄すると、損害原因、損害範囲および残存価値を確認できなくなる可能性があります。
廃棄、再加工、値引販売または返品を行う前に、保険会社、保険代理店またはサーベイヤーへ連絡することが重要です。
外的事故と出荷前品質が競合する場合
品質変化事故では、輸送中の外的事故が確認されたとしても、損害のすべてがその事故によって発生したとは限りません。
たとえば、出荷前から鮮度が低下していた冷凍食品について、航海中に短時間の温度逸脱が発生した場合を考えます。
この場合、出荷前から存在した品質低下と、温度逸脱によって新たに発生または拡大した損害を分けて検討する必要があります。
温度逸脱という事故が確認されても、その事故が損害全体の直接原因であることを説明できなければ、すべてを輸送中事故として扱うことはできません。
反対に、出荷前の品質に一定の問題があったとしても、外部事故によって損害が著しく拡大した場合は、その追加損害について検討する余地があります。
複数の原因が競合する場合は、時系列、温度履歴、品質検査、同一ロット比較および専門家意見を基に、それぞれの原因が損害へどのように関与したかを確認します。
実務例1 同一ロットの一部だけに変色が発生した場合
同じ製造ロットの粉末原料100袋のうち、コンテナ扉付近に積まれていた20袋だけに固化と変色が発生した場合を考えます。
残りの80袋と製造者の保存サンプルに異常がなければ、製造ロット全体の品質問題だけでは、一部の貨物に損害が集中した理由を十分に説明できません。
コンテナ扉の状態、床面や壁面の水跡、積付位置、包装材、乾燥剤、湿度記録および損害袋の含水率を確認します。
損害の分布が水分侵入または局所的な結露の範囲と一致していれば、輸送環境による外部事故として検討できる可能性があります。
一方、損害袋だけ包装仕様が異なっていた場合や、出荷前から含水率が高かった場合は、梱包または出荷前品質も確認する必要があります。
実務例2 化学品のスペックオフが発見された場合
液体化学品が到着時の分析で粘度と色調の規格外、いわゆるスペックオフと判定された場合を考えます。
荷主が輸送中の高温を原因として主張していても、温度記録に異常がなく、容器にも損傷がなく、同一製造ロットの別出荷分にも同様の変化が確認されている場合は、製造品質または貨物固有の経時変化が疑われます。
出荷時試験の原データ、分析方法、保存サンプル、同一ロット比較、輸送温度、水分混入および容器の密閉状態を確認します。
出荷時と到着時で試験温度や分析方法が異なる場合は、測定条件の違いによる数値差も確認します。
特定の容器だけに水分や異物が混入している場合は、容器損傷、外部汚染または荷役事故を検討します。
実務例3 航海遅延で賞味期限が接近した場合
食品を積載した本船が大幅に遅延し、到着時には賞味期限までの期間が当初予定より短くなっていた場合を考えます。
品質検査で異常がなく、貨物自体が安全に使用または販売できるのであれば、単に販売可能期間が短くなったことは、物的損害ではなく遅延または商業上の損失として扱われる可能性があります。
一方、遅延中に冷却設備の停止や温度逸脱があり、品質検査によって腐敗または成分変化が確認された場合は、別の物的損害が発生している可能性があります。
輸送遅延という事実だけで判断せず、貨物自体の品質変化と、その直接原因を確認することが必要です。
事故発生時に保存すべき資料
品質変化事故は、外観写真だけでは原因を判断できないことがあります。
事故発見後は、次の資料を可能な限り早く保存します。
- 保険証券、ICC条件、特別約款およびWarranty
- インボイス、パッキングリスト、B/LまたはAWB
- 製造日、ロット番号、品質証明および出荷前検査記録
- 製造者の保存サンプルおよび同一ロットの比較資料
- 梱包仕様、作業写真、防湿材および乾燥剤の記録
- 梱包者、梱包日時および保険の危険開始時点を確認できる資料
- バンニング写真、積付図、コンテナ番号およびEIR
- コンテナへの積込み日時、積込み主体および積込み前点検記録
- 温度・湿度記録、リーファー記録およびアラーム履歴
- 到着時写真、開梱記録、検品報告および荷受人の通知
- 品質分析、成分検査、含水率、菌、臭気その他の検査結果
- 再加工、選別、値引販売、返品または廃棄に関する資料
- 運送人、倉庫業者、梱包業者その他への事故通知
検査用の試料を採取する場合は、採取場所、採取日時、採取者、容器、封印および保管経路を記録します。
損害品を廃棄または再加工すると、原因調査や第三者への求償が困難になることがあります。
フォワーダー実務での注意点
フォワーダーやNVOCCは、荷主または荷受人から品質クレームを受けたという理由だけで、自社の責任や貨物保険の支払可否を判断してはなりません。
まず、貨物の性質、出荷前品質、梱包、温湿度、輸送期間、コンテナ状態、外的事故および損害発見時期を整理します。
特殊な温度、湿度、換気、遮光、防湿または保管条件を荷主から知らされていた場合は、その内容を運送人、倉庫業者、梱包業者などへ正確に伝達したかを確認します。
一方、フォワーダーが貨物の品質保証、梱包設計または製造管理を引き受けていない場合は、その業務範囲も明確にします。
Clause 4.3の適用を検討するときは、誰が梱包したかだけでなく、梱包が保険の危険開始前か開始後かを確認します。
外部の独立した梱包業者が作業した場合でも、保険の危険開始前に梱包されていれば、Clause 4.3の免責が問題となる可能性があります。
Clause 5.1.2の適用を検討するときは、コンテナの不具合だけでなく、保険の危険開始時点、積込み時点、積込み主体および被保険者側の認識を確認します。
貨物保険の補償可否と、フォワーダー、運送人、倉庫業者、梱包業者または製造者の賠償責任は、別々に判断します。
貨物保険で免責となったからといって、関係業者に責任がないとは限りません。反対に、関係業者に責任がある可能性があっても、貨物保険から直ちに保険金が支払われるとは限りません。
保険手配前に確認すべき事項
品質変化しやすい貨物では、事故後の対応だけでなく、輸送開始前の保険設計が重要です。
保険会社または保険代理店へ、貨物の種類、成分、品質保持期間、製造日、含水率、許容温度、許容湿度、包装、輸送期間、保管条件および過去の事故歴を正確に伝えます。
冷凍・冷蔵貨物、医薬品、化学品、農水産物、中古品その他の特殊貨物では、通常のICC条件に加えて特別約款や個別条件が必要になる場合があります。
温度変化、冷却機器故障、汚染、Rejection、Ship Back、スペックオフその他の品質リスクについて、必要な補償が付帯されているかを事前に確認します。
事故発生後に、付帯されていなかった補償を追加することはできません。
よくある誤解
| 誤解 | 実際の考え方 | 確認すべき事項 |
|---|---|---|
| ICC(A)なら品質変化はすべて補償される | 固有の瑕疵、通常損耗、梱包不備、遅延等の除外がある | 原因事故、保険条件および除外条項 |
| 到着時に品質が悪ければ輸送事故である | 出荷前品質や貨物固有の性質が原因の場合がある | 出荷前検査、製造記録および同一ロット比較 |
| 買主が受取拒否したため全損である | 受取拒否と物的損害は同じではない | 拒否理由、品質検査、再販売および残存価値 |
| 外的事故があれば損害の全額が補償される | 出荷前品質不良や自然劣化との競合を確認する必要がある | 事故前後の品質と追加損害の範囲 |
| 同一ロットなら全量が同じ原因で損傷している | 積付位置、包装および局所事故によって損害が異なる場合がある | 積付図、損害分布、包装および分析結果 |
| 写真だけで原因を判断できる | 品質変化には分析や比較検査が必要になることが多い | 第三者検査、保存サンプルおよび成分分析 |
| 輸送中に自然劣化したため保険事故である | 輸送中でも貨物自体の性質による通常劣化は除外が問題になる | 品質保持期間、貨物特性および輸送環境 |
| 独立した梱包業者が作業したためClause 4.3は適用されない | 保険の危険開始前に行われた梱包であれば、独立請負業者による作業でもClause 4.3が問題となる | 梱包者、梱包日時および危険開始時点 |
| コンテナに不具合があればClause 5.1.2で一律免責になる | 危険開始時点、積込み時点、積込み主体および被保険者側の認識を確認する必要がある | 積込み記録、EIR、点検記録および関係者の認識 |
| Clause 5.2またはClause 5.3によりコンテナ不適合免責は適用されない | Clause 5.2とClause 5.3はClause 5.1.2を一般的に適用除外とする規定ではない | 各条項の対象と実際の積込み状況 |
| 貨物保険で免責ならフォワーダーに責任がある | 保険の担保判断と賠償責任は別問題である | 業務範囲、契約、過失および因果関係 |
まとめ
品質変化、自然劣化および固有の瑕疵は、外航貨物海上保険で判断が分かれやすい重要な論点です。
変色、腐敗、酸化、固化、分離、沈殿、異臭、カビ、錆または性能低下が発生しても、その結果だけで保険金の支払対象になるわけではありません。
補償可否を判断するためには、偶然な外部事故、貨物固有の性質、出荷前品質、通常損耗、梱包不備、遅延およびコンテナの不適合を分けて確認します。
ICC(A)であっても、固有の瑕疵、通常損耗、梱包不備および遅延等の除外があります。ICC(B)およびICC(C)では、品質変化の原因が列挙された担保危険に該当するかを確認する必要があります。
Clause 4.3では、被保険者またはその使用人による梱包・輸送準備だけでなく、保険の危険開始前に行われた梱包・輸送準備も問題となります。
同条項上、使用人には独立した請負業者を含みませんが、独立請負業者による梱包であっても、保険の危険開始前に行われていればClause 4.3の免責が問題となります。
Clause 5.1.2では、コンテナまたは輸送用具に不具合があったという事実だけではなく、保険の危険開始時点、積込み時点、積込み主体および被保険者側の不適合に対する認識を確認します。
Clause 5.2およびClause 5.3は、Clause 5.1.2のコンテナまたは輸送用具の不適合に関する免責を一般的に排除する規定ではありません。
品質変化事故では、出荷前品質、製造ロット、保存サンプル、温湿度、輸送期間、梱包、損害分布、外的事故および第三者検査を総合して原因を判断します。
買主による受取拒否やスペックオフ判定は、直ちに貨物保険上の全損を意味するものではありません。売買契約上の品質クレーム、製造品質、物的損害、遅延および商業上の損失を区別します。
損害品を廃棄、再加工、値引販売または返品する前に、保険会社、保険代理店またはサーベイヤーへ連絡し、証拠、代表サンプルおよび残存価値を保全することが重要です。
具体的な補償可否は、実際の保険証券、適用約款、特別条件、貨物の性質、出荷前品質、事故原因、検査結果および個別の事実関係によって異なります。
品質変化しやすい貨物では、事故発生後の対応だけでなく、輸送開始前に貨物の性質と必要な保険条件を正確に申告し、適切な補償を設計することが重要です。