Sue and Labour|損害防止義務とは
Sue and Labourとは、海上保険において、事故や危険が発生した場合に、被保険者またはその代理人が損害の防止・軽減のために合理的な措置を取る義務をいいます。 日本語では「損害防止義務」「損害防止・軽減義務」などと説明されます。
外航貨物海上保険では、貨物事故が発生した後、単に保険会社へ通知するだけでは足りません。 濡損、温度上昇、破損、汚染、遅延、積替港での滞留などが発生した場合には、損害を拡大させないための合理的な対応が求められます。
Sue and Labourの基本的な考え方
Sue and Labourは、保険事故が発生した場合に、被保険者側が貨物を放置せず、損害を防止または軽減するために必要な行動を取るという考え方です。
たとえば、貨物が濡れた場合には乾燥や仕分けを行う、冷凍貨物の温度異常が発生した場合には代替保管や再冷却を検討する、機械貨物に衝撃があった場合には点検や追加損傷防止措置を取る、といった対応が問題になります。
英国海上保険法1906における位置づけ
Marine Insurance Act 1906(MIA1906)では、保険証券にSue and Labour Clauseがある場合、被保険者がその約款に従って正当に支出した費用は、一定の場合に保険者から回収できるものとされています。
また、損害を防止または軽減するために合理的な処置を取ることは、被保険者およびその代理人の義務とされています。 このため、事故後に何もしない、証拠を保全しない、貨物を放置して損害を拡大させる、といった対応は問題になります。
ICC約款との関係
ICC約款では、貨物事故発生後の被保険者の義務として、損害を回避・軽減するための合理的な措置や、保険者の求償権を保全するための対応が問題になります。
ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)のいずれの条件であっても、事故発生後の対応は重要です。 補償範囲の広い条件で付保していても、事故後の対応が不十分であれば、損害額の拡大、証拠不足、求償権の喪失などの問題が生じる可能性があります。
実務で問題になる損害防止措置
外航貨物海上保険でSue and Labourが問題になる場面は多くあります。 代表的には、次のような対応です。
- 濡損貨物の乾燥、仕分け、再梱包
- 冷凍・冷蔵貨物の代替冷蔵庫への移動
- 温度異常貨物の検査、隔離、販売可否確認
- 汚染貨物の分別、清掃、再処理
- 破損貨物の応急補修、追加破損防止
- 機械貨物の点検、防錆、保管環境の確保
- コンテナ事故後の積替、再梱包、継送
- 港湾滞留中の保管場所変更、盗難防止措置
- 残存価値を守るための一時保管、売却、廃棄判断
費用が常に認められるわけではない
Sue and Labourに関連する費用は、損害を防止・軽減する目的で支出されたからといって、常に保険金として認められるわけではありません。
実務上は、次の点が確認されます。
- 保険事故との因果関係があるか
- その措置が合理的だったか
- 費用額が過大ではないか
- 損害拡大防止に実際に役立つ措置だったか
- 保険会社またはサーベイヤーの承認・指示があったか
- 共同海損、救助料、通常費用と区別できるか
特に高額な処置を行う場合や、廃棄、返送、再加工、第三国での処理、緊急輸送などを行う場合には、事前に保険会社またはサーベイヤーへ相談することが重要です。
共同海損・救助料との違い
Sue and Labour費用は、共同海損や救助料とは区別して考える必要があります。 共同海損は、共同の航海事業における危険を避けるために、故意かつ合理的に異常な犠牲や費用を支出する場合に問題になります。
救助料は、海難救助に関連して発生する費用です。 一方、Sue and Labourは、被保険者側が保険の目的物である貨物の損害を防止・軽減するために支出する費用として問題になります。
同じ「事故後の費用」であっても、共同海損、救助料、損害防止費用、通常の営業費用、残存物処分費用は、それぞれ性質が異なります。 そのため、費用項目ごとに整理して保険会社へ提出する必要があります。
貨物保険で特に注意すべき場面
貨物保険では、事故後の初動が遅れると、損害が急速に拡大することがあります。 特に次のような貨物では注意が必要です。
- 冷凍・冷蔵貨物
- 食品、医薬品、化学品
- 水濡れに弱い紙製品、繊維製品、精密機器
- 錆びやすい機械、金属製品
- 汚染・臭気移りが問題になる貨物
- 展示品、試作品、代替困難な貨物
- 高額貨物、販売時期が限定される貨物
これらの貨物では、事故後すぐに保管環境、温度、湿度、梱包状態、残存価値、再販売可能性を確認することが重要です。
フォワーダー実務での注意点
フォワーダーは、貨物事故の第一報を受ける立場にあることが多く、初動対応が損害額や求償可能性に大きく影響します。
フォワーダーが注意すべきポイントは、次の通りです。
- 事故を把握したら速やかに保険会社または保険代理店へ通知する
- 荷主、現地代理店、運送人、倉庫業者との連絡記録を残す
- 事故写真、温度記録、POD、D/O、B/Lなどを確保する
- 損害拡大を防ぐための応急措置を検討する
- 高額費用を支出する前に保険会社またはサーベイヤーへ確認する
- 運送人・倉庫業者へのクレーム通知を遅らせない
残存価値の保全
Sue and Labourでは、貨物の残存価値を守ることも重要です。 損害を受けた貨物であっても、仕分け、再加工、修理、値引販売、部品取り、転売などにより一定の価値が残ることがあります。
保険金請求では、損害額だけでなく、残存価値の評価や処分方法も問題になります。 貨物を安易に廃棄すると、残存価値の確認ができず、保険査定や求償に支障が出る可能性があります。 廃棄する場合には、事前承認、写真、検査報告、廃棄証明などを確保することが重要です。
事前承認の重要性
事故後に発生する費用の中には、緊急性が高く、即時対応が必要なものもあります。 一方で、返送、再加工、再梱包、第三国処理、緊急航空輸送などは高額になりやすく、保険でどこまで認められるかが問題になります。
そのため、可能な限り、保険会社またはサーベイヤーの指示・承認を得てから進めることが安全です。 やむを得ず先行対応する場合でも、理由、必要性、費用見積、代替手段の有無、損害拡大防止との関係を記録しておく必要があります。
実務上の確認ポイント
Sue and Labourに関しては、事故発生後に次の点を確認します。
- 損害拡大を防ぐために何をすべきか
- 緊急対応が必要か
- サーベイヤーの手配が必要か
- 保険会社または保険代理店へ通知したか
- 費用支出の前に承認を取れるか
- 写真、記録、見積書、作業報告書を残しているか
- 残存価値を確認しているか
- 運送人や第三者への求償権を保全しているか
まとめ
Sue and Labourは、外航貨物海上保険における重要な実務概念です。 事故が発生した場合、被保険者やその代理人は、損害を放置せず、合理的な損害防止・軽減措置を取る必要があります。
ただし、事故後に支出した費用がすべて当然に保険で認められるわけではありません。 保険事故との因果関係、措置の合理性、費用の妥当性、事前承認、証拠資料、残存価値、求償権保全を総合的に確認することが重要です。