外航貨物海上保険案内

Institute Cargo Clauses 1963–2009 | 外航貨物海上保険の解説・Q&A・ICC条項全文

外航貨物海上保険の保険金請求に必要な書類と計算方法

1.事故発生時の初動と保険金請求書類

外航貨物海上保険の保険金請求では、書類をそろえることだけでなく、 事故発見直後の対応によって、損害原因の確認、保険金の算定および 運送人等への代位求償の可否が大きく左右されます。

【重要】
保険金の支払額は、請求者が計算結果をもって自由に決定するものではありません。 保険会社が、保険契約、適用約款、担保危険、事故原因、損害額、 残存価額、免責金額、費用の妥当性および提出書類等を確認した上で決定します。 本記事の計算式と金額は、一般的な考え方を示す 「保険金支払額の計算例」です。

(1)事故を発見した直後に行うこと

  1. 保険会社または保険代理店へ、事故の概要、損傷貨物の保管場所、 損害見込額および担当者の連絡先を速やかに通知します。
  2. 損傷貨物、外装、内装、梱包材、コンテナ、封印等を、 可能な限り事故発見時の状態で保存します。
  3. 損害の拡大を防止する必要がある場合は、 作業前に貨物、梱包、コンテナ内部、シール、濡れ跡、破損箇所等を 複数方向から撮影します。
  4. 貨物受取証、Delivery Receipt、入庫報告書、Devanning Report等に、 不足、濡れ、破損、へこみ、錆、封印異常その他の事故摘要 (リマーク)を記載します。
  5. 船会社、航空会社、フォワーダー、倉庫業者、国内運送人その他の 事故責任者となり得る者へ、書面でClaim Noticeを提出します。
  6. 運送契約、B/L裏面約款、航空運送約款、国際条約等による 事故通知期限および損害賠償請求期限を確認します。
  7. 緊急の損害拡大防止措置を除き、保険会社との協議前に、 損品の廃棄、転売、大規模な修理、梱包材の処分または責任者との 示談を行わないようにします。
【損害拡大防止と証拠保存】
濡損貨物の乾燥、仕分け、洗浄、冷却その他の応急措置が必要な場合は、 損害を放置するのではなく、必要な措置を行います。 ただし、作業前後の写真、作業記録、費用明細、廃棄数量および 損品の保管状況を記録し、保険会社へ報告することが重要です。

(2)原則として準備する基本書類

必要書類は保険会社、契約内容、事故原因、損害額および輸送形態によって異なります。 次の表は、外航貨物海上保険で一般的に確認される代表的な書類です。

区分 書類名 書類の内容・確認目的 実務上の注意点
共通書類 事故報告 事故発見日、発見場所、損傷状況、損害見込額、 損傷貨物の保管場所等を保険会社へ連絡するための資料です。 正式な保険金請求書の提出前でも、事故報告は早期に行います。
保険金請求書
Claim Note
保険金請求者、請求意思、支払先口座、請求内容等を確認する書類です。 保険会社所定の様式を使用します。 保険会社によっては、支払額の協議後にフォームが交付されます。
保険証券・保険証明書・引受確認資料 対象貨物、保険金額、輸送区間、保険条件および 追加特約を確認する資料です。 包括予定保険の場合は、確定通知書、保険料請求書、 保険引受確認書等が使用される場合があります。
Commercial Invoice 貨物の品名、数量、単価、取引価格、売主、買主等を確認する商業送り状です。 損害貨物の価額、貨物全体の価額および保険金額との関係を確認します。
Packing List 梱包番号、梱包数、内容、重量、容積等を記載した明細書です。 損傷梱包、不着梱包および損害数量の特定に使用します。
運送書類 Bill of Lading、Sea Waybill、House B/L、Air Waybill等、 運送契約と輸送内容を示す書類です。 表面だけでなく、事故内容によっては裏面約款も必要です。
到着・受渡し時の記録 入庫報告書、Devanning Report、Cargo Boat Note、 Landing Report、Delivery Order等です。 貨物がいつ、どこで、どの状態で引き渡されたかを確認します。
損傷貨物・梱包の写真 貨物全体、損傷箇所、外装、内装、梱包材、 コンテナ内部、封印等の状況を示します。 修理、仕分け、廃棄または移動の前に撮影します。
Claim Noticeおよび運送人等の回答書 運送人その他の事故責任者へ損害を通知し、 損害賠償請求権を保全するための書類です。 回答が届いていない場合でも、Claim Noticeは先に提出します。

(3)輸送形態別の代表的な書類

輸送形態 代表的な書類 内容・目的 注意点
在来船・ばら積み輸送 Bill of Lading 運送契約、貨物の受取、船積みおよび引渡請求権等を確認します。 用船契約がある場合は、Charter Partyの提出を求められることがあります。
Cargo Boat Note 本船から艀または岸壁へ貨物を荷卸しする際の 数量および異常の有無を記録します。 荷揚げ時に異常があれば、リマークが記載されます。
Landing Report・Rechecking Report 艀または本船から陸上へ荷卸しする際の数量・状態を確認します。 不足、濡れ、破袋その他の異常記録を確認します。
Tally Sheet 荷役中の貨物の個数、荷姿および異常の有無を記録する検数表です。 梱包単位の不足・破損事故で重要になります。
Weight Certificate 積地または揚地で計測された貨物重量を証明します。 ばら積み貨物の不足事故等で必要となる場合があります。
コンテナ輸送 Bill of Lading・Sea Waybill コンテナ番号、封印番号、輸送区間、運送条件等を確認します。 House B/LとMaster B/Lの双方が必要となる場合があります。
Devanning Report・入庫報告書 デバンニング時または倉庫搬入時の数量・状態を記録します。 FCL貨物を荷主工場で開梱した場合は、 工場・倉庫の受入記録や事故現認書を準備します。
Equipment Interchange Receipt(EIR) コンテナの搬出入・受渡し時の外観、損傷等を記録する機器受渡証です。 穴、亀裂、ドア不良、パッキン不良その他のコンテナ異常を確認します。
コンテナ・封印写真 コンテナ番号、封印番号、外板、屋根、ドア、 パッキン、床および内部の状態を記録します。 開扉前に封印番号とB/L記載を照合します。
温度チャート・運転記録 リーファーコンテナの設定温度、庫内温度、警報、 電源供給状況等を確認します。 温度変化、冷凍機故障、電源停止事故で重要になります。
Stowage Plan 本船上のコンテナ積付位置を示します。 海水濡れ、甲板積み、火災その他の事故原因確認で必要となる場合があります。
航空輸送 House Air Waybill フォワーダーまたは航空貨物混載業者が荷主等へ発行する航空運送状です。 荷主とフォワーダー間の運送契約・受渡関係を確認します。
Master Air Waybill 航空会社がフォワーダー等へ発行する航空運送状です。 実運送区間、航空会社、便名等の確認に使用します。
Delivery Order・受渡記録 フォワーダー経由で航空貨物が到着した際の 貨物引渡しおよび異常の有無を記録します。 損傷、不足その他の異常がある場合はリマークを取得します。
内容点検実施確認書 空港ターミナルまたはフォワーダー等が、 外装・内容品を点検した結果を記載します。 開梱時の立会者、日時、場所および損傷状況を確認します。
航空会社等の事故証明 不着、破損、遅配、取扱事故等についての航空会社等の証明です。 航空運送には短期の事故通知期限が設けられているため、 速やかな通知が必要です。

(4)事故内容によって追加される書類

事故・損害の内容 追加書類の例 確認目的 注意点
サーベイを実施しない事故 事故現認書・損害状況報告書 損傷原因、発見状況、損害数量、損傷程度、 修理可否等を確認します。 開梱・受入れに立ち会った者が、具体的な事実を記載します。
サーベイを実施した事故 Survey Report 第三者サーベイヤーが事故原因、発生時点、 損害数量、程度等を調査した報告書です。 サーベイヤーは保険会社側で手配される場合があるため、 被保険者が独自に依頼する前に確認します。
修理・手直し 見積書、請求書、領収書、作業報告書、交換部品明細 修理方法、合理性、実施費用および修理後の状態を確認します。 修理着手前に保険会社またはサーベイヤーと協議します。
格落ち・値引き 正品・損品の市場価格資料、販売記録、入札書、損率協定書 損傷による価値減少率であるAllowanceを確認します。 関係会社間販売等では、価格の客観性を示す資料が必要となる場合があります。
全損・廃棄 廃棄証明書、廃棄写真、マニフェスト、残存価額資料 廃棄数量、再利用不能性、残存価額および処分方法を確認します。 保険会社の承認前に廃棄しないことが原則です。
不着 Non-Delivery Certificate、追跡調査結果、在庫・入出庫記録 貨物が最終的に引き渡されていない事実を確認します。 単なる到着遅延と不着を区別します。
不足・抜荷 重量証明、Tally Sheet、封印記録、開梱記録、在庫記録 不足数量、発生区間、梱包・封印の異常を確認します。 受取後長期間を経て発見された場合は、 発生時期・場所の立証が困難となります。
関税保険 輸入許可通知書・輸入(納税)申告書 実際に支払った関税額を確認します。 実際に関税を支払っていない不着貨物等では、 関税保険が適用されない場合があります。
第三者への求償 Claim Notice、回答書、責任認定書、時効延長状、 運送契約、倉庫契約等 船会社、航空会社、フォワーダー、倉庫業者等への 損害賠償請求権を確認・保全します。 保険会社との協議なく、求償権の放棄や示談を行わないようにします。

上記以外にも、事故原因、保険条件、貨物の種類および損害額に応じて、 保険会社から追加書類の提出を求められる場合があります。

2.保険金支払額の基本的な計算方法

【計算例の前提】
次の計算例は、事故原因が保険契約上の担保危険に該当し、 免責事項、保険金額不足、他保険、残存価額、回収金、 特別な支払限度額その他の調整がないことを前提としています。 実際の支払額は個別契約と事故内容により異なります。

(1)貨物または可分の一部が全損となった場合

貨物全部が全損となった場合のほか、梱包、商品群または貨物の一部が 物理的に滅失し、修理・再調整・販売等ができない場合には、 損害を受けた部分について全損計算が行われることがあります。

保険金支払額の計算例 = 協定保険金額 ×(損害貨物のインボイス価額 ÷ 貨物全体のインボイス価額)

※一般的な貿易取引では、協定保険金額をCIF価額の110%とする例がありますが、 保険金額の算定方法は契約によって異なります。
※修理費、追加費用、共同海損、救助料、関税、残存価額等がある場合には、 別の算定または調整が必要です。

【計算例1】同一単価の貨物の一部が全損となった場合

ウイスキー1,200本を輸入したところ、70本が破損し、 商品として使用・販売できない状態となりました。

協定保険金額:1,200,000円
貨物総数量:1,200本
全損数量:70本

1,200,000円 ×(70本 ÷ 1,200本)= 70,000円

したがって、この前提における保険金支払額の計算例は 70,000円です。

【計算例2】単価が異なる貨物の一部が全損となった場合

スコッチ・ウイスキー300ダースと、 バーボン・ウイスキー200ダースを輸入したところ、 スコッチ20ダース、バーボン30ダースが破損し、 全損として認定される前提とします。

協定保険金額:11,000,000円

貨物 数量 インボイス価額 単価 全損数量 損害貨物価額
スコッチ・ウイスキー 300ダース 7,200,000円 24,000円/ダース 20ダース 480,000円
バーボン・ウイスキー 200ダース 2,400,000円 12,000円/ダース 30ダース 360,000円
合計 9,600,000円 840,000円
11,000,000円 ×(840,000円 ÷ 9,600,000円) = 962,500円

したがって、この前提における保険金支払額の計算例は 962,500円です。

【計算例3】関税保険が付帯されている場合

上記計算例2の事故について、関税保険が付帯されているものとします。

貨物保険金額:11,000,000円
関税保険金額:1,500,000円
実際に支払った関税額:1,376,000円

関税部分については、関税保険金額1,500,000円と 実際に支払った関税額1,376,000円のうち、 低い金額である1,376,000円を計算基礎に使用する前提とします。

(11,000,000円 + 1,376,000円) ×(840,000円 ÷ 9,600,000円) = 1,082,900円

したがって、この前提における保険金支払額の計算例は 1,082,900円です。

(2)貨物が分損・格落ちとなった場合

貨物が損傷していても使用・販売できる場合には、 正品の市場価額と損品の市場価額との差に基づき、 損率(Allowance)を算定することがあります。

損率(Allowance) =(正品市価 - 損品市価)÷ 正品市価
保険金支払額の計算例 = 損傷部分に対応する保険金額 × 損率

損品を実際に売却しない場合には、サーベイヤー、保険会社、 被保険者、売買当事者等の協議により、合理的な損率を決定することがあります。

【計算例4】種類ごとに単価と損率が異なる場合

セイロン紅茶10トンを輸入したところ、海水濡れが発生しました。

種類 輸入数量 正品単価 損傷数量 損品単価 損率
ヌワラエリア 5トン 1,000円/kg 2トン 800円/kg 20%
キャンディ 5トン 800円/kg 3トン 600円/kg 25%

協定保険金額:10,000,000円
貨物全体のインボイス価額:9,000,000円

ヌワラエリアの損傷部分価額:
2トン × 1,000,000円/トン = 2,000,000円

ヌワラエリアの全損換算額:
2,000,000円 × 20% = 400,000円

キャンディの損傷部分価額:
3トン × 800,000円/トン = 2,400,000円

キャンディの全損換算額:
2,400,000円 × 25% = 600,000円

全損換算額の合計:
400,000円 + 600,000円 = 1,000,000円

10,000,000円 ×(1,000,000円 ÷ 9,000,000円) = 約1,111,111円

したがって、この前提における保険金支払額の計算例は 約1,111,111円です。 円未満の処理は保険会社の取扱いによります。

(3)修理費用による損害の場合

機械、設備、車両その他の貨物を合理的な費用で修理できる場合には、 契約上の保険金額を限度として、必要かつ妥当な修理費用を基礎に 保険金が算定されることがあります。

ただし、次の事項が調整される場合があります。

  • 修理による性能向上または新品化に相当する部分
  • 保険契約上の免責金額
  • 保険の対象外となる間接損害や納期遅延損害
  • 回収可能な税額
  • 交換部品や損品の残存価額
  • 保険会社の承認を得ずに行った過大な修理・交換費用

3.英国海上保険法における全損・推定全損

【準拠法に関する注意】
Marine Insurance Act 1906(MIA)は英国法です。 すべての日本の外航貨物海上保険契約に自動的に適用されるものではありません。 実際の判断では、保険証券の準拠法、適用約款、特約および 契約内容を確認する必要があります。

(1)MIA第57条―現実全損

MIA第57条では、保険の目的物が滅失した場合、 損傷によって保険された種類の物として存在しなくなった場合、 または被保険者が保険の目的物を回復不能な状態で失った場合に、 現実全損(Actual Total Loss)が成立すると規定しています。

貨物については、例えば次のような場合が問題となります。

  • 本船沈没等により貨物が滅失し、回収不能となった場合
  • 貨物が著しく損傷し、保険された種類の商品として 本来の用途に使用できなくなった場合
  • 投荷等により貨物が海中へ失われた場合
  • 盗難、強奪その他の事故により、被保険者が貨物を 回復不能な状態で失った場合

(2)MIA第58条―船舶行方不明

MIA第58条では、当該航海に関係する船舶が行方不明となり、 相当期間を経過しても消息がない場合には、 現実全損を推定できると規定しています。

「相当期間」は一律の日数ではなく、航路、航海期間、通信事情、 気象、事故状況その他の事情によって判断されます。

(3)MIA第60条―推定全損の成立

MIA第60条では、現実全損が避けられないと合理的に判断される場合、 または現実全損を防止・回復するための費用が、 回復後の価額を超える場合等に、推定全損 (Constructive Total Loss)が成立すると規定しています。

貨物については、MIA第60条第2項(iii)により、 損傷の修復・再調整費用と、貨物を仕向地まで継搬する費用の合計が、 到着時における貨物価額を超える場合 が代表的な推定全損の例となります。

また、保険事故によって貨物の占有を失い、 回復の見込みがない場合、または回収費用が回収後の価額を超える場合も、 MIA第60条第2項(i)により推定全損となる可能性があります。

(4)MIA第61条―推定全損が成立した場合の取扱い

MIA第61条では、推定全損が成立した場合、 被保険者は、その損害を分損として扱うか、 保険の目的物を保険者へ委付して、 現実全損と同様に扱うかを選択できると規定しています。

ただし、実際に推定全損として請求する場合には、 委付通知、通知時期、保険者による委付の受諾、 保険約款上の推定全損条項等も関係します。 推定全損の判断を被保険者だけで確定せず、 直ちに保険会社へ連絡する必要があります。

区分 主な根拠 基本的な内容 貨物事故の例
現実全損 MIA第57条 貨物が滅失し、商品としての性質を失い、 または回復不能に失われた場合 沈没、投荷、回復不能な盗難、用途を完全に失う損傷
船舶行方不明 MIA第58条 船舶が行方不明となり、相当期間消息がない場合に 現実全損を推定 貨物を積載した本船が消息不明となった場合
推定全損 MIA第60条 回収、修復、再調整および継搬等に必要な費用が 回復後・到着時価額を超える場合等 損傷貨物の修復費と継搬費の合計が到着時価額を超える場合
推定全損の効果 MIA第61条 分損として扱うか、委付して現実全損と同様に扱うかを選択 委付を伴う推定全損請求

4.FranchiseとExcessによる免責の計算

(1)Franchise

Franchiseは、損害額が契約で定めた一定の割合または金額に 達しない場合には保険金を支払わず、 一定の割合または金額に達した場合には、 原則として免責額を控除せずに損害額を支払う方式です。

(2)Excess・Deductible

ExcessまたはDeductibleは、 支払対象となる損害額から、契約で定めた一定の割合または金額を 控除し、その残額を支払う方式です。

方式 損害が基準未満 損害が基準以上 免責額の控除
Franchise 支払なし 原則として支払対象損害額を支払う 基準到達後は通常控除しない
Excess・Deductible 支払なし 支払対象損害額から免責額を控除 控除する

(3)ホールド別Franchiseの計算例

バルク船で魚粉2,000M/Tを輸入し、 各ホールドで次の濡損が発生したものとします。

協定保険金額:110,000,000円
損率:20%
Franchise:各ホールドの対応保険金額の2%

ホールド 積載量 濡損量 全損換算量 損害額 Franchise基準額 計算例
No.1 1,000M/T 125M/T 25M/T 1,375,000円 1,100,000円 基準以上のため1,375,000円
No.2 400M/T 15M/T 3M/T 165,000円 440,000円 基準未満のため支払なし
No.3 600M/T 10M/T 2M/T 110,000円 660,000円 基準未満のため支払なし

No.1ホールドの損害額はFranchise基準額を超えるため、 この前提では免責額を控除せず、 1,375,000円が保険金支払額の計算例となります。

(4)全ホールドを単位とするFranchiseの計算例

全ホールドの濡損量:
125M/T + 15M/T + 10M/T = 150M/T

全損換算量:
150M/T × 20% = 30M/T

損害額:
110,000,000円 ×(30M/T ÷ 2,000M/T) = 1,650,000円

Franchise基準額:
110,000,000円 × 2% = 2,200,000円

損害額1,650,000円 < Franchise基準額2,200,000円 = 支払なし

(5)全体にExcess 2%を適用する計算例

上記と同じ損害の場合、支払対象損害額は1,650,000円、 Excessは2,200,000円となります。

損害額1,650,000円 < Excess 2,200,000円 = 支払なし

次に、各ホールドの損害が2倍となった場合を計算します。

全損換算量:
(250M/T + 30M/T + 20M/T)× 20% = 60M/T

損害額:
110,000,000円 ×(60M/T ÷ 2,000M/T) = 3,300,000円

Excess:
110,000,000円 × 2% = 2,200,000円

3,300,000円(損害額) - 2,200,000円(Excess) = 1,100,000円

したがって、この前提における 保険金支払額の計算例は1,100,000円です。

Franchise、ExcessおよびDeductibleの適用単位は、 事故ごと、輸送ごと、ホールドごと、梱包ごと、 品目ごと等、保険証券・特約の文言により異なります。 被保険者が有利な単位を任意に選択できるとは限りません。

5.損害貨物の所有権と保険代位

保険金支払後の権利関係では、 損害貨物そのものに関する権利である 残存物代位と、 船会社、航空会社、フォワーダー、倉庫業者その他の第三者に対する 請求権代位を区別する必要があります。

(1)MIA第79条による代位

①全損に対して保険金を支払った場合

MIA第79条第1項では、保険者が全損に対して保険金を支払った場合、 保険者は、残存する保険目的物に関する被保険者の利益を 引き継ぐ権利を有し、あわせて、事故時からの被保険者の 権利および救済手段に代位すると規定しています。

ただし、代位は保険金支払によって生じます。 「事故が発生した瞬間に、保険会社が直ちにすべての権利を取得する」 という意味ではありません。 保険金支払によって成立した代位の効果が、 事故時に存在した被保険者の権利へ及ぶという構造です。

②分損に対して保険金を支払った場合

MIA第79条第2項では、保険者が分損に対して保険金を支払った場合、 保険者は、残存する保険目的物の所有権を取得しません。

一方で、支払った保険金によって被保険者が填補された範囲において、 事故時からの第三者に対する権利および救済手段へ代位します。

損害区分 残存物に関する権利 第三者への請求権 根拠
全損 保険者は、残存する目的物に関する被保険者の利益を 引き継ぐ権利を有する 保険金支払により被保険者の権利・救済手段へ代位 MIA第79条第1項
分損 原則として残存する保険目的物の所有権を取得しない 被保険者が填補された範囲で第三者への権利・救済手段へ代位 MIA第79条第2項

(2)日本の保険法第24条―残存物代位

日本の保険法第24条では、 保険の目的物の全部が滅失した場合に保険者が保険給付を行ったときは、 保険給付額の保険価額または約定保険価額に対する割合に応じて、 保険者が、当該目的物に関して被保険者の有する 所有権その他の物権へ当然に代位すると規定しています。

したがって、一部保険の場合には、 保険者が支払った保険給付額と保険価額との割合に応じて 権利が移転する構造となります。

ただし、実際の外航貨物海上保険では、 準拠法、保険証券、普通保険約款、特別約款および 保険会社の残存物取得に関する意思表示を確認する必要があります。

【残存物を処分する前の確認】
全損として保険金を請求していても、 被保険者が独自に損品を廃棄、転売、譲渡または再利用してよいとは限りません。 保険会社が残存物を取得するか、被保険者に処分を委ねるか、 残存価額を保険金から控除するかを確認した上で処理します。

(3)日本の保険法第25条―請求権代位

保険法第25条では、保険者が保険給付を行ったときは、 保険事故による損害について被保険者が第三者に対して有する債権へ、 法律上当然に代位すると規定しています。

保険者が代位する範囲は、原則として次のうち少ない額を限度とします。

  • 保険者が支払った保険給付額
  • 被保険者が第三者に対して有する債権額 (保険給付が填補損害額に不足する場合には、法律上の調整後の額)

保険金だけでは被保険者の損害が全部填補されない場合には、 被保険者は、保険者が代位した部分を除く自己の債権について、 保険者の代位債権に先立って弁済を受ける権利を有します。

(4)Subrogation Receipt・権利移転証

保険会社は、運送人その他の事故責任者に対して代位求償を行うため、 被保険者へSubrogation Receipt、権利移転証、委任状その他の 書類への署名を求めることがあります。

法律上の代位は保険金支払によって当然に生じる場合がありますが、 これらの書類は、保険金支払の事実、代位範囲、証拠書類の引渡し、 求償手続への協力等を明確にするために使用されます。

(5)代位求償を妨げないための注意事項

  • 運送人等へのClaim Noticeを速やかに提出する
  • 受取証へ損傷・不足のリマークを記載する
  • 運送契約上の事故通知期限と請求期限を確認する
  • 時効・出訴期限が近い場合は、保険会社へ直ちに連絡する
  • 損傷貨物、梱包、封印、コンテナ等の証拠を保存する
  • 保険会社との協議なく、責任者を免責しない
  • 保険会社との協議なく、求償権を放棄または減額しない
  • 事故責任者から受領した回答書、示談案、支払案を保険会社へ提出する
被保険者が運送人等に対する権利を放棄したり、 証拠を失わせたり、請求期限を経過させたりした場合には、 保険会社の代位求償権に影響し、 保険金請求上の問題となることがあります。

6.保険金請求前の最終確認表

確認場面 確認する相手 確認事項 問題がある場合の対応
事故発見直後 保険会社・保険代理店 事故概要、損害見込額、貨物保管場所、 サーベイの要否 写真と暫定資料を先に提出し、指示を受けます。
貨物受取時 運送人・倉庫業者・フォワーダー 外装異常、不足、濡れ、破損、封印、 受取証へのリマーク 異常内容を具体的に記載し、担当者の確認を取得します。
開梱・デバンニング時 倉庫業者・立会者・サーベイヤー 開梱日時、場所、損傷数量、梱包状態、 コンテナ内部 写真、動画、事故現認書、Devanning Reportを作成します。
運送人への通知時 船会社・航空会社・フォワーダー等 Claim Notice、事故通知期限、損害賠償請求期限 書面で通知し、送信・受領記録を保存します。
修理・処分前 保険会社・サーベイヤー 修理方法、見積額、残存価額、廃棄・転売の可否 承認を得た上で作業し、費用証憑を保存します。
請求書類作成時 保険会社・保険代理店 保険証券、Invoice、Packing List、運送書類、 損害立証資料 不足資料を確認し、手元にある資料から順次提出します。
支払額協議時 保険会社・サーベイヤー 全損・分損の区分、損率、修理費、 免責、残存価額、関税 計算根拠と適用約款を確認します。
代位求償時 保険会社・海事弁護士等 Claim Notice、責任関係、請求期限、 Subrogation Receipt 証拠書類を保険会社へ引き渡し、求償手続に協力します。

7.まとめ

外航貨物海上保険の保険金請求では、 事故発生後に保険金請求書だけを提出すれば足りるものではありません。

損傷貨物と梱包の保存、事故写真、受取時のリマーク、 運送人へのClaim Notice、Invoice、Packing List、 運送書類、到着時記録、損害額の立証資料等を、 事故発見直後から体系的に確保する必要があります。

保険金支払額は、全損、分損、修理費、格落ち、 関税保険、Franchise、Excess、残存価額等によって 計算方法が異なります。 本記事の金額は一般的な計算例であり、 実際の保険金は保険会社が契約内容と事故資料に基づいて決定します。

また、保険金支払後には、損害貨物自体の権利に関する残存物代位と、 船会社、航空会社、フォワーダー、倉庫業者等への 損害賠償請求権に関する請求権代位が問題となります。

MIA第79条と日本の保険法第24条・第25条は、 適用場面と法的構造が異なります。 実際の事故では、準拠法、保険証券、普通保険約款、 特別約款および運送契約を確認し、 保険会社、保険代理店、サーベイヤーおよび必要に応じて 海事弁護士と協議することが重要です。

8.参考法令・実務案内