外航貨物海上保険案内

Institute Cargo Clauses 1963–2009 | 外航貨物海上保険の解説・Q&A・ICC条項全文

知的財産侵害物品と貨物保険・輸入実務

知的財産侵害物品と貨物保険・輸入実務

輸入貨物を扱う実務では、「保険を付けているから大丈夫」という発想が通用しないリスクがあります。その代表例が、知的財産侵害物品です。

知的財産侵害物品とは、商標権、意匠権、著作権、特許権、育成者権などの知的財産権を侵害する物品や、不正競争防止法に違反する一定の物品をいいます。輸入実務では、偽ブランド品、コピー商品、模倣品、無断使用のキャラクター商品、権利者の許諾を確認できないブランド品などが問題になりやすい分野です。

これらの貨物は、単に「輸入後に権利者と揉めるかもしれない商品」ではありません。関税法第69条の11では、知的財産侵害物品は輸入してはならない貨物とされており、税関で差し止められ、認定手続の対象となることがあります。

貨物海上保険の観点から見ると、このリスクは通常の輸送中の破損、濡損、盗難、火災、沈没とは性質がまったく異なります。知的財産侵害物品として輸入できない、販売できない、廃棄や積戻しが必要になるという損失は、輸送中の偶然な外的事故による貨物の物的損害ではなく、輸入者側の法令・権利確認リスクに属する問題です。

関税法上の輸入禁止貨物としての位置づけ

知的財産侵害物品は、関税法上の「輸入してはならない貨物」に含まれます。これは、麻薬、銃砲、偽造通貨などと同じ条文体系の中で、水際取締りの対象として位置づけられているという意味です。

輸入者にとって重要なのは、知的財産侵害物品の問題が、単なる売買契約上のトラブルや販売後のクレームではないという点です。税関の段階で輸入が止まり、貨物が日本国内に入らないことがあります。

その結果、輸入者は販売計画の中断、納期遅延、保管費用、取引先への説明、廃棄・積戻し対応などを迫られることがあります。しかし、これらは貨物が輸送中に壊れたことによる損害ではありません。貨物そのものの輸入適法性、真正品性、権利者の許諾関係が問われているのです。

知的財産権の種類と輸入実務上の問題

知的財産侵害物品と一口にいっても、問題となる権利や法律は一つではありません。輸入実務では、どの権利が問題になっているのかを整理しないと、確認すべき資料や対応方針を誤ります。

権利・法律 輸入実務で問題になりやすい貨物 確認すべき主な資料
商標権 ブランドロゴ、商品名、マークを無断使用したバッグ、衣類、靴、時計、雑貨など 正規仕入書、真正品証明、販売許諾書、権利者との取引関係資料
意匠権 商品の形状、外観、デザインを模倣した商品 設計資料、メーカー資料、権利者の許諾資料、商品デザインの由来を示す資料
著作権 キャラクター、イラスト、画像、映像、音楽、書籍などを無断使用した商品 ライセンス契約書、使用許諾書、権利者表示、正規販売ルートの資料
特許権・実用新案権 技術的な構造、機能、仕組みを無断で利用した機械、部品、電子機器など 技術資料、製造元資料、権利関係の確認資料、ライセンス資料
育成者権 登録品種を無断で利用した種苗、植物、農産物関連貨物など 品種登録・利用許諾に関する資料、正規流通経路を示す資料
不正競争防止法 著名な商品表示の冒用、形態模倣品、誤認を招く表示の商品など 商品表示の根拠、販売資料、メーカー資料、真正品・正規流通を示す資料

たとえば、ブランドロゴが問題なら商標権、商品の外観が問題なら意匠権、キャラクターやイラストが問題なら著作権、機械や電子部品の構造が問題なら特許権・実用新案権というように、確認すべき観点が変わります。

また、不正競争防止法は、商標法や著作権法のような個別の知的財産権法とは異なります。しかし、関税法上は一定の不正競争防止法違反物品も輸入してはならない貨物の対象になります。

不正競争防止法違反物品については、商標登録や意匠登録がない場合でも問題となることがあります。たとえば、著名な商品表示を利用して需要者に混同を生じさせるものや、他人の商品形態を模倣した商品などは、登録権利の有無だけでは判断できません。

そのため、輸入実務では「登録商標が見つからない」「意匠登録が確認できない」というだけで安全と判断するのではなく、商品の表示、外観、販売方法、広告表現が他社商品と誤認混同を生じさせないかも確認する必要があります。

税関差止・認定手続で何が起きるか

税関が輸入貨物について知的財産侵害物品に該当する疑いがあると判断した場合、その貨物は認定手続の対象となります。認定手続とは、税関が発見した侵害疑義物品について、実際に知的財産侵害物品に該当するかどうかを判断するための手続です。

認定手続が開始されると、輸入者と権利者に通知が行われます。輸入者は、貨物が真正品であること、権利者の許諾を得ていること、権利侵害に該当しないことなどを主張する場合、期限内に意見や証拠資料を提出する必要があります。

税関実務では、認定手続開始通知書の日付の翌日から原則として10執務日以内に、意見・証拠を提出する必要があります。また、認定手続自体は、認定手続開始通知から1か月以内を目途に行われるとされています。ただし、事案の内容、簡素化手続の適用、提出資料の状況などにより、実際の対応は個別に確認が必要です。

ここで重要なのは、「後から説明すれば何とかなる」と考えないことです。真正品であること、正規流通品であること、権利者から許諾を得ていることを示す資料が手元にない場合、輸入者側の反論は非常に弱くなります。

認定手続開始後に慌てて海外販売者へ連絡しても、必要な資料が期限内に揃わないことがあります。正規仕入書、真正品証明、ライセンス契約書、販売許諾書、メーカー資料などは、通関時ではなく輸入前から準備しておく必要があります。

また、税関で止まっている間にも、貨物の保管、通関手続の遅延、納期遅延、取引先への説明、追加費用の発生といった問題が生じます。認定手続の結果、知的財産侵害物品に該当すると判断された場合、その貨物は輸入できず、没収、廃棄、積戻しなどの対象となります。

つまり、認定手続は単なる形式的な確認ではありません。輸入者が、輸入前にどれだけ権利関係を確認し、証拠資料を確保していたかが問われる実務上の重要な局面です。

貨物保険で処理できない理由

知的財産侵害物品の差止めは、貨物保険で処理するリスクではありません。ここを誤解すると、輸入者もフォワーダーも判断を誤ります。

貨物海上保険は、基本的に、輸送中に発生した偶然な外的事故による貨物の物的損害を対象とする保険です。海難、火災、盗難、濡損、破損、荷崩れなどにより、貨物そのものに損害が生じた場合に問題となります。

一方、知的財産侵害物品として税関で差し止められた場合の損失は、貨物が輸送中に壊れたことによって発生するものではありません。問題の本質は、「その貨物を日本に輸入してよいのか」「権利者の権利を侵害していないのか」「真正品であることを説明できるのか」という輸入適法性と権利確認にあります。

このため、知的財産侵害物品と認定されたことにより、貨物が輸入できない、販売できない、廃棄費用が発生した、積戻し費用が発生した、納期遅延が生じたといった損失は、通常の貨物海上保険で補償される性質のものではありません。

輸入者から見れば、差し止められた貨物は経済的価値を失ったように見えるかもしれません。しかし、それは輸送中の偶然な事故で貨物が損傷したからではなく、法令上・権利上、日本への輸入が認められないからです。

貨物保険の約款上も、保険の対象となる危険は、原則として輸送中の偶然な事故による物的損害として整理されます。知的財産権侵害、輸入禁止、行政上の差止め、販売不能、信用悪化、納期遅延といった問題は、貨物そのものに外的事故が発生した場合とは性質が異なります。

したがって、知的財産侵害物品のリスクを貨物保険で代替できると考えるのは危険です。このリスクは、保険事故として処理する前に、輸入前の権利確認・真正品確認・許諾確認によって排除すべきリスクです。

「偽物とは知らなかった」は十分な防御にならない

輸入者が「偽物とは知らなかった」「海外の販売者から本物だと説明された」「安く仕入れられる正規品だと思った」と主張しても、貨物自体が知的財産侵害物品に該当すると判断されれば、輸入が認められないことがあります。

輸入実務では、販売者の説明だけでは足りません。税関や権利者に対して説明できる資料が必要です。たとえば、正規仕入書、メーカー発行資料、販売許諾書、ライセンス契約書、真正品証明、権利者との取引関係を示す資料などです。

特に、有名ブランド品、キャラクター商品、デザイン性の高い商品、電子機器、スマートフォン関連用品、アパレル、玩具などでは、価格が安いことや販売者の説明だけを根拠に輸入を進めることは危険です。

また、海外ECサイトやオークションサイトでは、販売ページ上で「正規品」「本物」「OEM」「ノーブランド」などと表示されていても、実際には権利侵害品であることがあります。輸入者は、販売ページの表示ではなく、第三者に説明できる客観資料を確認する必要があります。

並行輸入との違い

知的財産侵害物品と混同されやすいものに、並行輸入があります。並行輸入とは、海外で正規に流通している真正品を、国内の正規代理店とは別のルートで輸入する取引です。

真正品であり、権利者または権利者と関係のある者によって適法に流通した商品であれば、直ちに知的財産侵害物品とはなりません。したがって、正規代理店ルートではないブランド品輸入が、すべて違法になるわけではありません。

しかし、並行輸入を主張するためには、その商品が真正品であることを説明できなければなりません。出所不明の商品、真正品証明ができない商品、ロゴやデザインを無断使用した商品、正規品を装ったコピー商品は、並行輸入ではなく知的財産侵害物品として問題になります。

また、海外では正規流通している商品であっても、日本国内での表示、仕様、品質保証、ライセンス範囲、販売方法によっては、別の問題が生じることがあります。並行輸入は単なる仕入ルートの問題ではなく、真正品性、同一性、権利者との関係、国内販売表示を含めて確認すべき実務論点です。

並行輸入の詳しい考え方は、別記事で整理するのが適切です。本記事では、真正品の並行輸入と、偽物・コピー商品・権利侵害品の輸入は明確に区別すべきである、という点を押さえておく必要があります。

輸入者が事前に確認すべき資料

知的財産侵害物品のリスクは、通関時に初めて考えるものではありません。輸入者は、発注前、少なくとも船積前の段階で、権利関係と真正品性を確認しておく必要があります。

このセクションでは、税関や権利者に対して説明するために準備しておきたい資料を整理します。次の「実務上のチェックポイント」は、資料の有無だけでなく、取引全体として危険な兆候がないかを確認するための観点です。

実務上、確認すべき資料には次のようなものがあります。

  • 正規仕入書、正規販売店からの納品書
  • メーカーまたは権利者が発行した真正品証明
  • 販売許諾書、ライセンス契約書、使用許諾書
  • キャラクター、イラスト、画像、音楽、映像等の使用許諾資料
  • ブランド名、ロゴ、商品名の使用許諾に関する資料
  • 商品写真、カタログ、仕様書、パッケージ画像
  • 製造元、販売元、輸出者の会社情報
  • 海外販売者が正規販売ルートに属していることを示す資料
  • 並行輸入品の場合、真正品であることを説明できる流通経路資料
  • 国内販売時の商品説明、広告、表示内容

特に、価格が極端に安い商品、販売者の所在地や会社情報が不明確な商品、ブランド表示が不自然な商品、商品写真とインボイスの内容が一致しない商品は、慎重に確認すべきです。

輸入者が確認すべきなのは、「海外販売者が本物と言っているか」ではありません。「税関、権利者、取引先に対して、本物であること、許諾を得ていること、権利侵害ではないことを説明できるか」です。

フォワーダー・通関関係者の実務対応

フォワーダーや通関業者は、知的財産権侵害の有無を最終判断する立場ではありません。しかし、輸入実務の現場では、インボイス、パッキングリスト、商品写真、商品説明、ブランド名、型番、輸入者の事業内容などから、明らかに疑義を感じる場面があります。

たとえば、有名ブランド品であるにもかかわらず価格が極端に低い、キャラクター商品なのにライセンス表示がない、商品説明が「ノーブランド」なのに写真には有名ロゴがある、型番やメーカー名が曖昧である、といった場合です。

このような場合、フォワーダーや通関関係者は、荷主に対して確認を促し、必要資料の提出を求めることが重要です。疑義がある貨物を無確認で進めると、通関保留、認定手続、納期遅延、追加費用、荷主とのトラブルにつながります。

一方で、フォワーダーが権利侵害の有無を断定したり、真正品性を保証したりすることは避けるべきです。実務上は、「疑義があるため輸入者側で権利関係・真正品性を確認してください」「税関から資料提出を求められる可能性があります」という形で、確認事項と責任範囲を明確にすることが重要です。

確認の記録を残すことも大切です。電話だけで済ませるのではなく、メールや書面で、どのような疑義があり、どの資料を求めたのか、荷主がどのように回答したのかを残しておくことで、後日のトラブルを防ぎやすくなります。

貨物保険と輸入コンプライアンスは分けて考える

知的財産侵害物品の問題で最も危険なのは、貨物保険と輸入コンプライアンスを混同することです。

貨物保険は、適法に輸送される貨物について、輸送中の偶然な事故による物的損害を対象とするものです。これに対して、知的財産侵害物品の問題は、そもそもその貨物を輸入してよいのか、権利者の権利を侵害していないのか、税関で説明できる資料があるのかという問題です。

したがって、輸入者は、保険を手配する前に、輸入する貨物の適法性と権利関係を確認しなければなりません。保険証券や包括予定保険の有無は、知的財産侵害物品であるかどうかの判断には影響しません。

また、フォワーダーや通関関係者も、貨物保険の有無を理由に知的財産権リスクを軽視すべきではありません。保険があるかどうかと、輸入できる貨物かどうかは別問題です。

実務上のチェックポイント

ここでは、実際に輸入案件を受ける前、または船積前に確認しておきたい実務上の観点を整理します。資料が揃っているかだけでなく、取引内容全体に不自然な点がないかを確認することが重要です。

  • ブランド名、ロゴ、商品名の使用に権利者の許諾があるか
  • 商品が真正品であることを示す客観資料があるか
  • キャラクター、画像、イラスト、音楽、映像等の使用許諾があるか
  • 商品の形状や外観が既存商品の模倣になっていないか
  • 海外販売者が正規販売者または正規流通ルートに属しているか
  • 価格が不自然に安くないか
  • 商品写真とインボイス・パッキングリストの記載が一致しているか
  • 国内販売時の広告・表示に誤認を招く表現がないか
  • 税関から認定手続開始の通知を受けた場合に、速やかに資料提出できるか
  • フォワーダー・通関業者との間で、確認依頼と回答の記録を残しているか

これらの確認は、事故後に行うものではありません。輸入前、できれば仕入契約や発注前の段階で確認しておくべき事項です。

まとめ

知的財産侵害物品は、輸入実務において非常に重要なリスクです。偽ブランド品やコピー商品だけでなく、キャラクター商品、デザイン模倣品、真正品であることを説明できないブランド品、許諾関係が不明確な商品も問題になる可能性があります。

税関で知的財産侵害物品と判断されれば、貨物は輸入できず、没収、廃棄、積戻しなどの対象となります。その結果として発生する販売不能、納期遅延、保管費用、廃棄費用、取引先とのトラブルは、通常の貨物海上保険で解決できる問題ではありません。

貨物保険は、輸送中の偶然な外的事故による物的損害を対象とするものです。これに対して、知的財産侵害物品の差止めは、輸入適法性、権利侵害、真正品性、許諾関係の問題です。

輸入者にとって重要なのは、輸入前に権利関係と真正品性を確認することです。フォワーダーや通関関係者にとって重要なのは、疑義のある貨物について早い段階で荷主に確認を促し、記録を残すことです。

知的財産侵害物品のリスクは、事故後に保険で回収するリスクではありません。輸入前に排除すべきリスクです。貨物保険、通関実務、輸入コンプライアンスを切り分けて管理することが、輸入取引を安全に進めるための基本となります。