海上運送人の責任

海上運送における損害賠償の実務では、まず誰が運送人かを特定し、そのうえでどの条約・国内法が適用されるか、さらに責任制限・出訴期限がどうなっているかを確認することが重要です。船荷証券(B/L)の表面だけではなく、裏面約款の文言傭船契約の有無まで見ないと、請求相手を誤ることがあります。

運送人の責任とは

海上運送人は、受け取った貨物を目的地まで運び、適切に引き渡す義務を負います。貨物の滅失、損傷、延着が発生した場合、一定の範囲で損害賠償責任を負いますが、その責任は常に無制限ではなく、適用法令やB/L約款によって免責や責任制限が働くのが実務上の特徴です。

まず確認すべきポイント

海上事故や貨物損害が起きたときは、次の順で確認すると実務が早いです。

  1. 契約運送人は誰か
  2. 実際運送人は誰か
  3. どの条約・国内法が適用されるか
  4. 責任制限額はいくらか
  5. 損害通知と出訴期限に間に合うか

契約運送人の特定

通常は、船荷証券の発行者が運送人と考えます。もっとも、航海傭船契約が絡む場合や、B/L裏面約款に特別な文言がある場合は、それだけでは決まりません。特に、Demise ClauseIdentity of Carrier Clause が入っていると、B/Lを発行した会社ではなく、船舶所有者や裸傭船者が契約運送人とされることがあります。

また、実際運送人は物理的に運送を担当していても、契約当事者でない場合があります。この場合、契約責任ではなく、不法行為責任など別の構成で問題になることがあります。したがって、請求前に「B/L発行者=必ず最終責任者」と決めつけるのは危険です。

運送人の定義

運送人の定義は、適用される法令や約款によって少しずつ異なります。
日本の国際海上物品運送法では、海上運送を行う船舶所有者・船舶賃借人・傭船者が中心です。
一方、B/L約款では、運送契約を締結し、その履行義務を負う表面記載会社が運送人とされる整理がみられます。
さらに、ハンブルグ・ルールでは運送人実際運送人を分けて捉えます。

どのルールが適用されるか

海上運送では、主に次のルールが問題になります。
ヘーグ・ルールヘーグ・ヴィスビー・ルールハンブルグ・ルール、そして日本では国際海上物品運送法です。各国の国内法であるCOGSAは、批准した条約を踏まえて制定されているため、どの国の法が準拠法かB/L裏面約款がどの条約系なのかを確認する必要があります。

実務では、米国系ならヘーグ・ルール、主要貿易国ではヘーグ・ヴィスビー・ルール、発展途上国ではハンブルグ・ルールが混在することがあるため、船社ごと・B/Lごとに確認する姿勢が必要です。

責任範囲

日本の国際海上物品運送法では、運送人は、受取、船積、積付、運送、保管、荷揚、引渡しまでの各段階で、貨物の滅失・損傷・延着について一定の責任を負います。条約ごとに責任区間は異なり、船積港から荷卸港までを基本とするものもあれば、受取から引渡しまでを対象とするものもあります。

また、運送人には、貨物の取扱いだけでなく、船舶の堪航性、人的な堪航性、船倉等の堪貨性に関する義務も問題になります。どの時点までその義務を負うかは、適用されるルールによって異なります。

免責

海上運送人の責任には、古くから多くの免責事由があります。代表例は、航海過失、火災、海固有の危険、天災、戦争、海賊、検疫、荷主の行為、ストライキ、運送品の性質、隠れた欠陥、荷造り不完全などです。もっとも、どのルールでも同じではなく、たとえばハンブルグ・ルールでは、ヘーグ系に比べて運送人の責任が重くなる場面があります。

責任制限

海上運送人は、損害が発生しても、原則として無制限に賠償するわけではありません。日本の国際海上物品運送法では、基本的に
666.67 SDR / package または 2 SDR / kg のいずれか高い方
が責任限度となります。

コンテナ輸送では、B/L上に個品数・重量などの記載があるかどうかで、package limitation の単位認定が変わる点が重要です。B/Lへの記載が不十分だと、個品単位ではなくコンテナ単位で制限される可能性があります。

ただし、運送人に故意または重過失がある場合は、責任制限が使えず、全損害の賠償が問題になることがあります。逆に、荷送人が貨物価格を著しく不適切に申告した場合には、荷主側に不利になることもあります。

船主責任制限との関係

さらに、個別の運送契約上の責任制限とは別に、船主責任制限法による大枠の制限が問題になることがあります。これは船舶所有者や傭船者等が、一定の場合に自己の責任総額を船舶トン数ベースで制限できる制度です。したがって、荷主や保険者が求償しても、理論上の損害額どおりに回収できないことがあります。

出訴期限

日本の国際海上物品運送法では、原則として引渡しから1年が出訴期限です。また、損害発生前に1年より長い期間を定めることはできず、逆に1年より短い出訴期限を定めるB/L条項は無効とされます。

第三者の下請運送人などへの求償では、延長の扱いが常に同じではありません。下請契約に日本の国際海上物品運送法が適用されるかどうかで結論が変わるため、陸上運送・航空運送・国内海上運送が絡む案件では特に注意が必要です。

ヒマラヤ・クローズ

Himalaya Clause は、運送人に認められる責任制限や免責の利益を、使用人、代理人、下請運送人など第三者にも拡張するためのB/L裏面条項です。これが入っていると、荷主側は実際運送人や港湾業者等に直接請求しても、運送人と同様の責任制限を主張されることがあります。

貨物海上保険との関係

運送人の責任には免責や限度額があるため、貨物損害が起きても、荷主が全額回収できるとは限りません。そこで重要になるのが外航貨物海上保険です。保険に加入していれば、まず保険者が被保険者に保険金を支払い、その後に代位求償で運送人へ請求します。

この仕組みにより、荷主は運送人の責任制限リスクをそのまま抱え込まずに済みます。また、保険者による回収は、保険成績や損害率の観点でも意味があり、運送人側への事故防止の注意喚起にもつながります。

実務上のまとめ

海上運送人の責任を考えるときは、単に「損害が出たから船社に請求する」という発想では足りません。
誰が契約運送人かどの法体系かB/L約款でどう書かれているか責任制限はいくらか出訴期限に間に合うかを、最初にまとめて確認することが重要です。


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