航空運送人の責任

航空貨物に損害が発生した場合は、まずどの条約が適用されるか、次に誰が運送人か、そして責任制限額・損害通知期間・出訴期限を確認することが重要です。航空運送では、海上運送と異なり、条約の組み合わせによって責任の考え方が変わるため、発着地の国がどの条約に加盟しているかが実務上の出発点になります。

航空運送人の責任とは

航空運送人は、引き受けた貨物を航空輸送中に適切に管理し、到着地で引き渡す義務を負います。貨物の滅失、毀損、延着が生じた場合には、一定の範囲で損害賠償責任を負いますが、その責任は常に無制限ではなく、適用条約に基づく責任制限が問題になります。

また、どの場面でも同じルールが使われるわけではなく、航空輸送中に限って適用されるのが原則です。したがって、複合輸送や空港外の運送区間が絡む場合には、どこまでが航空運送人の責任区間かを丁寧に確認する必要があります。

まず確認すべきポイント

航空貨物事故が起きたときは、次の順で確認すると整理しやすいです。

  1. 発着地の各国に共通して適用される条約は何か
  2. 契約運送人は誰か
  3. 実際運送人が別に存在するか
  4. 損害が航空輸送中に発生したものといえるか
  5. 損害通知期間と出訴期限に間に合うか
  6. 責任制限額はいくらか

適用される条約

航空運送では、主に次の条約が問題になります。

  • ワルソー条約
  • ヘーグ議定書(改正ワルソー条約)
  • モントリオール第四議定書
  • モントリオール条約

これらは別個の条約であり、各国がどれに加盟しているかによって適用関係が決まります。実務では、発着空港の所在国が共通して加盟している条約のうち、最も新しい適用関係にあたるものを確認するのが重要です。

たとえば、一方の国がワルソー条約・改正ワルソー条約・モントリオール第四議定書に加盟しており、相手国が同じ範囲で加盟していれば、その区間ではモントリオール第四議定書が適用される整理になります。逆に、加盟状況がずれていると、古い条約が適用されることがあります。

契約運送人と実際運送人

航空運送では、荷主が契約した相手と、実際に運送を担当する者が一致しないことがあります。
この点、モントリオール条約では、契約運送人実際運送人の双方が条約に従うとされています。

一方で、ワルソー条約系では、運送人の定義が明確に置かれておらず、実務上は契約運送人中心に考える場面が多くなります。したがって、フォワーダー、混載業者、実運送会社が関与している案件では、AWBの記載や契約関係を見て、請求相手を誤らないことが重要です。

適用範囲

航空運送人の責任は、原則として航空輸送中に限られます。
モントリオール条約では、空港外で行われる陸上輸送、海上輸送、内水輸送の区間は、原則としてそのまま航空輸送には含まれません。

ただし、次のような場合は注意が必要です。

  • 積込み、引渡し、積替えのために付随して行われる陸上輸送等
  • 航空運送契約に基づく一連の輸送として扱われる区間
  • 運送人が荷送人の同意なく、航空輸送を他の輸送手段に置き換えた場合

このような場合には、その区間の損害も航空輸送中の事故によるものと推定されることがあります。
また、複合輸送では、航空輸送部分についてはモントリオール条約を遵守するという整理が重要です。

損害通知期間

貨物損害では、運送人に対する通知が遅れると請求が不利になります。
条約によって期間は異なります。

ワルソー条約

  • 毀損:貨物受取日から7日以内
  • 延着:貨物の処分が可能になった日から14日以内

ヘーグ議定書・モントリオール第四議定書・モントリオール条約

  • 毀損:貨物受取日から14日以内
  • 延着:貨物の処分が可能になった日から21日以内

実務では、貨物に異常があれば、受領時点で直ちに保留通知とクレーム通知を出す運用が安全です。

出訴期限

航空運送の出訴期限は、原則として2年です。
起算点は、次のいずれかです。

  • 到着地への到達の日
  • 航空機が到着すべきであった日
  • 運送が中止された日

通知期間と出訴期限は別です。
通知を出しても、訴訟提起や正式請求の期限を過ぎれば権利行使が難しくなるため、両方を分けて管理する必要があります。

責任制限

航空運送人の責任制限は、適用条約によって異なります。

ワルソー条約・ヘーグ議定書

  • 250金フラン(概ねUS$20)/kg

この体系では、運送人またはその使用人が、損害発生の意図をもって行動した場合や、無謀に、かつ損害発生のおそれを認識して行為した場合には、責任制限が使えないとされます。

モントリオール第四議定書・モントリオール条約

  • 22SDR / kg

この体系では、ワルソー条約系より整理が進んでおり、貨物の破壊、滅失、毀損については、航空輸送中に事故が生じたことを条件に責任を負う構成です。
また、荷送人が価額を申告し、割増運賃を支払った場合は、実際価額を超えない限り、その申告価額が責任限度になることがあります。

責任原則の違い

実務上、とても重要なのが、条約ごとの責任原則の違いです。

ワルソー条約・ヘーグ議定書

  • 過失責任主義

運送人側が必要な措置を尽くしたこと、またはその措置を取れなかったことを立証できれば、責任を免れる余地があります。

モントリオール第四議定書・モントリオール条約

  • 厳格責任に近い構成

貨物の破壊、滅失、毀損については、事故が航空輸送中に生じたことが認められれば、原則として運送人が責任を負う方向で整理されます。
もっとも、貨物の固有の瑕疵、第三者による不適切な荷造り、戦争行為、公的機関の措置など、一定の免責事由はあります。

貨物保険との関係

航空運送人の責任には、通知期間、出訴期限、責任制限があるため、荷主が損害全額をそのまま回収できるとは限りません。
そこで重要なのが貨物保険です。

貨物保険に加入していれば、保険者が被保険者に保険金を支払い、その後に代位求償によって運送人へ請求する流れになります。
つまり、荷主にとっては、運送人の責任制限や請求回収リスクを、そのまま自分で抱え込まないための実務上重要な手当てになります。

実務上のまとめ

航空運送人の責任を考えるときは、まず「損害があるか」だけでは足りません。
実務では、次の6点を最初に確認するのが基本です。

  • どの条約が適用されるか
  • 誰が契約運送人か
  • 実際運送人が別にいるか
  • 損害が航空輸送中に発生したものか
  • 通知期間と出訴期限に間に合うか
  • 責任制限額はいくらか

航空貨物事故は、初動が遅いと不利になりやすいため、事故発見時にはAWB、到着記録、受領時の異常記録、写真、保険手配状況をすぐ確認することが重要です。


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