大量破壊兵器キャッチオール
大量破壊兵器キャッチオールとは、リスト規制に該当しない貨物や技術であっても、大量破壊兵器等の開発、製造、使用または貯蔵に用いられるおそれがある場合に、輸出や技術提供について経済産業大臣の許可が必要となる制度です。
安全保障貿易管理では、まず輸出令別表第1や外為令別表に基づくリスト規制を確認します。しかし、リスト規制に該当しない貨物や技術であっても、用途や需要者に大量破壊兵器等への転用懸念がある場合には、キャッチオール規制により許可が必要になることがあります。
大量破壊兵器キャッチオールは、リスト規制だけでは把握しきれない懸念取引を補完する制度です。民生品、一般部品、研究機材、化学品、電子部品、ソフトウェア、技術資料であっても、用途や需要者によっては確認が必要になります。
大量破壊兵器キャッチオールの目的
大量破壊兵器キャッチオールの目的は、核兵器、化学兵器、生物兵器、一定のミサイルなどの大量破壊兵器等の開発、製造、使用、貯蔵に用いられるおそれのある貨物や技術の流出を防ぐことです。
リスト規制は、あらかじめ規制対象として定められた貨物や技術を管理する制度です。一方、大量破壊兵器キャッチオールは、リスト規制に該当しない貨物や技術であっても、取引の用途や需要者に懸念がある場合に許可を求める補完的な制度です。
そのため、該非判定で非該当となった場合でも、輸出管理上の確認が終わるわけではありません。最終用途、最終需要者、仕向地、取引経路、外国ユーザーリスト、インフォーム通知の有無を確認する必要があります。
大量破壊兵器等の対象範囲
大量破壊兵器等とは、核兵器、化学兵器、生物兵器、一定のミサイルなどを指します。大量破壊兵器キャッチオールでは、これらの開発、製造、使用、貯蔵に用いられるおそれがあるかを確認します。
主な対象分野は次のとおりです。
- 核兵器関連:核兵器、核物質、濃縮・再処理、原子力関連装置や材料に関係する分野
- 化学兵器関連:化学兵器、化学剤、前駆物質、化学品製造設備などに関係する分野
- 生物兵器関連:病原体、毒素、培養設備、バイオ関連装置などに関係する分野
- ミサイル関連:ロケット、無人航空機、推進装置、誘導・制御装置、関連部品や技術に関係する分野
これらの分野は、国際的な輸出管理レジームや条約とも関係します。原子力分野ではNSG、化学兵器分野ではCWC、生物兵器分野ではBWC、ミサイル関連ではMTCRなどが背景にあります。ただし、実務上の許可要否は、日本の外為法、輸出令、外為令、関係通達、経済産業省の公表資料に基づいて確認します。
通常兵器キャッチオールとの違い
キャッチオール規制は、大きく分けて大量破壊兵器キャッチオールと通常兵器キャッチオールに分けられます。両者はいずれも、リスト規制に該当しない貨物や技術であっても、用途や需要者に懸念がある場合に許可が必要となる制度です。
ただし、対象となる用途が異なります。
- 大量破壊兵器キャッチオール:核兵器、化学兵器、生物兵器、一定のミサイルなどの開発・製造・使用・貯蔵に用いられるおそれを確認する
- 通常兵器キャッチオール:通常兵器の開発・製造・使用に用いられるおそれを確認する
大量破壊兵器キャッチオールでは、明らかガイドライン、外国ユーザーリスト、おそれの強い貨物例、用途確認、需要者確認が特に重要になります。一方、通常兵器キャッチオールでは、軍、国防関連機関、通常兵器の開発・製造・使用に関係する需要者や用途の確認が中心になります。
実務では、リスト規制の該非判定を行ったうえで、大量破壊兵器キャッチオールと通常兵器キャッチオールをあわせて確認します。どちらか一方だけを確認すればよいわけではありません。
客観要件とは
大量破壊兵器キャッチオールの客観要件では、輸出者が用途確認や需要者確認を行った結果、大量破壊兵器等の開発、製造、使用、貯蔵に用いられるおそれがあるかを確認します。
客観要件で重要なのは、輸出者が知っている情報、取引の過程で入手した情報、契約書、注文書、仕様書、用途確認書、需要者情報、公開情報などから、WMD関連用途への懸念を把握できるかどうかです。
たとえば、次のような場合は慎重な確認が必要になります。
- 需要者が外国ユーザーリストに掲載されている
- 需要者が核、化学、生物、ミサイル関連の研究・開発・製造に関係している
- 用途説明が大量破壊兵器等の開発・製造・使用・貯蔵と関係する
- 貨物や技術の性能が、説明された民生用途と整合しない
- おそれの強い貨物例に近い貨物や技術である
- 最終用途や最終需要者の開示を拒まれる
- 第三国経由や再輸出の理由が不明確である
- 研究用・試験用とされているが、研究内容や使用場所が不明確である
客観要件に該当する可能性がある場合、輸出者は出荷を進めず、追加確認、社内審査、許可申請の要否確認を行う必要があります。
明らかガイドラインとは
明らかガイドラインとは、輸出者が取引の中で大量破壊兵器等への転用懸念を判断する際に参照する重要な資料です。正式には、輸出者等が「明らかなとき」を判断するためのガイドラインとして位置づけられています。
このガイドラインは、輸出者が取引内容、用途、需要者、貨物の性質、取引経路などを確認する際の判断材料になります。たとえば、用途説明が不自然である、需要者の事業内容と貨物の性能が合わない、最終需要者が不明確である、外国ユーザーリストに掲載された組織向けの取引である、といった場合には、慎重な確認が必要になります。
明らかガイドラインで重要なのは、形式的に書類を集めることではありません。輸出者が入手した情報から見て、大量破壊兵器等への転用懸念が明らかかどうかを確認し、懸念が払拭できない場合は出荷を止める判断につなげることです。
外国ユーザーリストの活用
外国ユーザーリストとは、大量破壊兵器等との関連性が指摘されているなど、懸念が払拭されない外国の企業・組織に関する情報を提供するためのリストです。輸出者が需要者確認を行う際の重要な参考資料になります。
外国ユーザーリストに掲載されている需要者との取引では、直ちにすべての輸出が禁止されるという意味ではありません。しかし、輸出しようとする貨物や提供しようとする技術について、大量破壊兵器等に用いられるおそれがないかを慎重に確認する必要があります。
実務では、取引先名、最終需要者名、関係会社名、研究機関名、英語表記、略称、所在地などを確認し、外国ユーザーリストと照合します。名称の表記揺れや関連会社、研究所名の違いにも注意が必要です。
用途確認と需要者確認
大量破壊兵器キャッチオールでは、用途確認と需要者確認を分けて整理することが重要です。
- 用途確認:貨物や技術が何に使われるかを確認する
- 需要者確認:誰が貨物や技術を使用するかを確認する
用途確認では、輸出する貨物や提供する技術が、核兵器、化学兵器、生物兵器、ミサイルなどの開発、製造、使用、貯蔵に用いられるおそれがないかを確認します。単に「研究用」「産業用」「試験用」と書かれているだけでは不十分な場合があります。
需要者確認では、最終需要者、使用者、研究機関、関連会社、軍関連機関、政府機関との関係を確認します。外国ユーザーリストに掲載された組織や、WMD関連活動が疑われる組織との取引では、用途確認とあわせて慎重な判断が必要です。
インフォーム通知との関係
インフォーム通知とは、経済産業大臣から、特定の輸出または技術提供について許可申請が必要である旨の通知を受けることをいいます。
大量破壊兵器キャッチオールでは、輸出者が客観要件に該当すると判断していない場合であっても、経済産業大臣からインフォーム通知を受けた場合には、許可を受けなければ輸出や技術提供を行うことはできません。
インフォーム通知を受けた場合、通常の社内判断だけで出荷を進めることはできません。通知内容、対象貨物、対象技術、取引先、用途、需要者、出荷予定を確認し、許可申請、出荷保留、関係部門への連絡を行う必要があります。
対象となりやすい貨物・技術
大量破壊兵器キャッチオールでは、リスト規制に該当しない民生品や汎用品でも、WMD関連用途に用いられるおそれがあれば問題になります。
特に確認が必要になりやすい貨物・技術には、次のようなものがあります。
- 化学品、試薬、触媒、前駆物質
- バイオ関連機器、培養装置、遠心分離機、分析装置
- 高性能ポンプ、バルブ、配管、耐腐食材料
- 真空装置、計測機器、検査装置、センサー
- 電子部品、制御装置、通信機器、電源装置
- 工作機械、加工装置、試験装置、精密機器
- 無人航空機、ロケット関連部品、推進関連部品
- 制御ソフトウェア、設計データ、技術マニュアル
これらの貨物や技術が常に許可対象になるわけではありません。重要なのは、最終用途、需要者、仕様、性能、仕向地、取引経路を確認し、大量破壊兵器等への転用懸念があるかを判断することです。
問題になりやすい取引の例
大量破壊兵器キャッチオールでは、貨物や技術そのものだけでなく、取引全体の不自然さも確認します。次のような場合は、用途確認・需要者確認を慎重に行う必要があります。
- 用途説明が「研究用」「試験用」「産業用」とだけ書かれており、具体的な使用工程が分からない
- 需要者が外国ユーザーリストに掲載されている
- 需要者の事業内容と輸出貨物の性能・数量が合わない
- 第三国経由や転売先が不明確である
- 最終需要者や最終用途を開示しない
- 高性能な貨物を必要とする理由が説明されていない
- 核、化学、生物、ミサイル関連の研究・開発が示唆されている
このような場合、用途確認書、需要者情報、契約書、注文書、製品仕様書、取引先説明資料などを確認し、懸念が払拭できない場合は出荷を保留します。
確認フロー
大量破壊兵器キャッチオールの確認は、リスト規制の該非判定後に行う補完的な確認です。一般的な流れは次のとおりです。
- 輸出する貨物または提供する技術を特定する
- 輸出令別表第1・外為令別表に基づき、リスト規制の該非判定を行う
- 非該当または対象外の場合でも、キャッチオール規制の確認を行う
- 大量破壊兵器キャッチオールと通常兵器キャッチオールの用途・需要者確認を行う
- 外国ユーザーリスト、おそれの強い貨物例、明らかガイドラインを確認する
- 仕向地、経由地、再輸出、転売の可能性を確認する
- インフォーム通知の有無を確認する
- 懸念がある場合は、出荷を保留し、社内審査または許可申請の要否を確認する
- 確認内容、判断根拠、取得資料を記録として保存する
この確認では、非該当判定書だけで終わらせないことが重要です。リスト規制に該当しない貨物や技術であっても、用途や需要者に懸念があれば、大量破壊兵器キャッチオールの対象となる可能性があります。
記録保存の重要性
大量破壊兵器キャッチオールでは、確認した内容と判断根拠を記録として残すことが重要です。後日、社内監査、取引先確認、税関確認、当局照会があった場合に、どの情報をもとに出荷可能と判断したかを説明できる必要があります。
保存しておくべき資料には、次のようなものがあります。
- 該非判定書、非該当証明書
- 用途確認書、需要者確認資料
- 外国ユーザーリストとの照合記録
- 契約書、注文書、見積書
- インボイス、パッキングリスト、輸送依頼書
- 需要者の事業内容に関する資料
- 取引先とのメール、議事録、確認記録
- 社内の取引審査記録
- インフォーム通知に関する記録
特に、大量破壊兵器等への転用懸念がなかったと判断した場合でも、その判断に至った経緯を記録しておくことが重要です。確認記録がなければ、後から適切に確認したことを説明しにくくなります。
フォワーダー・通関実務での見方
フォワーダーや通関業者は、大量破壊兵器キャッチオールの許可要否を最終判断する立場ではありません。最終的な確認責任は、原則として輸出者にあります。
ただし、輸出書類や取引内容に不自然な点がある場合には、荷主に確認を促す必要があります。たとえば、品名が抽象的である、需要者が外国ユーザーリスト掲載先に見える、用途説明が不自然である、第三国経由の理由が不明確である、非該当証明書だけで用途確認がされていない、といった場合には注意が必要です。
フォワーダーが行うべきことは、許可要否を断定することではありません。荷主に対し、該非判定、用途確認、需要者確認、キャッチオール規制、外国ユーザーリスト、インフォーム通知の有無を確認し、不明点が残る場合には出荷手配を進めない判断ができる体制を持つことです。
まとめ
大量破壊兵器キャッチオールは、リスト規制に該当しない貨物や技術であっても、大量破壊兵器等の開発、製造、使用、貯蔵に用いられるおそれがある場合に、輸出や技術提供について許可が必要となる制度です。
通常兵器キャッチオールが通常兵器の開発・製造・使用に関係する用途や需要者を確認するのに対し、大量破壊兵器キャッチオールは、核兵器、化学兵器、生物兵器、一定のミサイルなどに関係する用途や需要者を確認します。
輸出者、フォワーダー、通関業者は、非該当判定だけで安心せず、用途確認、需要者確認、外国ユーザーリスト、明らかガイドライン、仕向地、経由地、インフォーム通知の有無を確認する必要があります。大量破壊兵器キャッチオールは、民生品や汎用品であっても、WMD関連用途への転用懸念を見逃さないための補完的な輸出管理制度です。
