輸入者自己申告とは
概要
輸入者自己申告とは、輸入者が自ら保有する情報に基づき、輸入貨物が協定上の原産品であることを申告し、EPA税率やFTA上の特恵税率の適用を求める制度です。
原産地証明は、輸出者や生産者が行うものだけではありません。
協定によっては、輸入者が原産品申告書を作成し、輸入国税関に提出することで、特恵税率の適用を求めることができます。
輸入者自己申告では、輸入者が原産性を説明できる資料を管理し、税関からの事後確認に対応できる状態にしておくことが重要です。
単に輸出者から書類を受け取るだけでなく、輸入者自身が原産地証明の責任主体になる点に特徴があります。
輸入者自己申告が使われる場面
輸入者自己申告は、米国を中心としたFTA実務で使われるほか、日本のEPA実務でも、協定によって利用できる場合があります。
米国・メキシコ・カナダ協定であるUSMCAでは、輸入者、輸出者、生産者が原産地証明を行う仕組みが採用されています。
米国向け輸入実務では、輸入者が原産性を説明できる資料を持ち、税関からの確認に対応することが重要になります。
日本への輸入実務でも、CPTPPやRCEPなど、協定によっては輸入者による自己申告が認められる場合があります。
ただし、誰が申告主体になれるか、どの書類が必要か、どの言語で作成できるか、保存義務の内容は協定ごとに異なります。
自己申告制度との関係
自己申告制度とは、輸入者、輸出者または生産者が、貨物が協定上の原産品であることを自ら申告する制度です。
輸入者自己申告は、その中でも、輸入者が申告主体となる場合を指します。
自己申告制度では、第三者機関が原産地証明書を発給する方式とは異なり、申告主体が自ら原産性を説明できる資料を保有していることが重要になります。
輸出者や生産者が申告する場合は、製造情報を持つ側が原産性を説明しやすい一方、輸入者自己申告では、輸入者が輸出者・生産者から必要情報を取得し、自ら税関対応を行う必要があります。
輸出者申告・生産者申告との違い
輸出者申告では、輸出者が原産品申告書や原産地申告文を作成します。
輸出者が製造情報を十分に把握している場合には、原産性の説明が比較的しやすいことがあります。
生産者申告では、実際に貨物を生産した者が原産性を申告します。
原材料、工程、RVC計算、サプライヤー情報を最も把握しているのが生産者である場合、税関確認への対応に向いていることがあります。
輸入者自己申告では、輸入者が申告主体となるため、輸入者自身が原産性を判断する根拠資料を保有し、必要に応じて輸出者や生産者から追加情報を取得できる体制を整えておく必要があります。
輸入者自己申告の特徴
輸入者自己申告の特徴は、輸入者が特恵税率の適用を求める立場として、原産性の説明責任を負いやすい点にあります。
- 輸入者が原産品申告書を作成する
- 輸入者が原産性の根拠資料を保存する
- 輸入者が輸入国税関からの照会に対応する
- 輸出者や生産者から製造情報・原材料情報を取得する必要がある
- 誤申告があった場合、輸入者側で関税差額や追加納税が問題になることがある
この制度は、輸入者側で原産地管理を主体的に行える場合には柔軟に使えます。
一方で、輸入者が必要情報を持っていない場合や、輸出者・生産者の協力が得られない場合には、リスクが高くなります。
日本のEPA実務での位置づけ
日本への輸入で自己申告制度を利用する場合、対象協定ごとに、輸入者、輸出者、生産者のどの者が原産品申告書を作成できるかを確認します。
CPTPPでは、輸入者、輸出者または生産者が原産品申告書を作成できる制度が採用されています。
輸入者が自己申告を行う場合、輸入者自身が原産性を明らかにする資料を整理し、税関確認に対応できる状態にしておく必要があります。
RCEPでも、一定の場合に輸入者による自己申告が利用されます。
ただし、RCEPでは原産国の特定、連続する原産地証明、広域累積、保存義務、事後確認の方法など、RCEP特有の確認事項があります。
そのため、RCEPで輸入者自己申告を使う場合は、通常の自己申告以上に、原産性資料と取引先協力体制を整える必要があります。
特に、連続する原産地証明が関係する取引では、元の原産地証明、経由国での証明、積送基準、再輸出時の管理状況をあわせて確認する必要があります。
詳細は、RCEPの原産地規則や連続する原産地証明に関する記事で整理するテーマです。
米国・USMCA実務での位置づけ
USMCAは、United States-Mexico-Canada Agreementの略で、米国・メキシコ・カナダ協定を意味します。
米国、メキシコ、カナダ間の取引では、輸入者、輸出者、生産者による原産地証明が問題になります。
USMCAでは、輸入者が原産地証明に関与する場面があり、米国税関からの確認に対応できるよう、原産地情報、製造情報、サプライヤー資料、契約上の協力義務を整備しておくことが重要になります。
ただし、日本への輸入実務で直接使うEPA制度とは異なるため、日本の輸入実務では、USMCAを参考例として扱い、実際には日本が締結しているEPA・FTA・CPTPP・RCEPの制度を確認する必要があります。
実務の流れ
輸入者自己申告を行う場合、一般的には次の流れで確認します。
- 利用するEPA、FTA、CPTPP、RCEPなどの協定を確認する
- その協定で輸入者自己申告が利用できるか確認する
- 対象貨物のHSコードを確認する
- 品目別原産地規則(PSR)を確認する
- CTC、RVC、加工工程基準などの原産地基準を確認する
- 輸出者・生産者から原材料情報、製造工程、原価資料などを取得する
- 必要に応じてサプライヤー証明書や製造記録を確認する
- 原産品申告書を作成する
- 必要に応じて原産品申告明細書などの根拠資料を整理する
- 輸入申告時に特恵税率の適用を申告する
- 輸入後の税関確認に備えて根拠資料を保存する
輸入者が確認すべき情報
輸入者自己申告では、輸入者が原産性を説明できる資料を持っていることが前提になります。
主に次の情報を確認します。
- 対象貨物のHSコード
- 利用する協定と適用税率
- 品目別原産地規則(PSR)
- 原材料構成
- 原産材料と非原産材料の区分
- 製造工程
- 加工国・加工場所
- RVCを使う場合の原価資料・計算資料
- 累積制度を使う場合の材料の原産性資料
- デミニミス規定を使う場合の計算根拠
- 積送基準を確認する輸送書類
- 輸出者・生産者からの証明資料
輸入者がこれらの情報を十分に持たないまま自己申告を行うと、税関確認時に原産性を説明できないおそれがあります。
主要書類
輸入者自己申告を行う場合に確認・保存する主な書類は次のとおりです。
- 原産品申告書
- 原産品申告明細書
- インボイス
- パッキングリスト
- HSコード確認資料
- 品目別原産地規則(PSR)の確認資料
- 原材料リスト
- 部品表、材料表
- 製造工程表
- RVC計算資料
- サプライヤー証明書
- 輸出者または生産者から提供された原産性資料
- B/L、Sea Waybill、航空運送状などの輸送書類
- 積送基準を確認するための通し船荷証券や経由地資料
- 税関確認に備える保存資料
原産品申告書は、貨物が協定上の原産品であることを申告する書類です。
一方、原産品申告明細書は、その申告内容の根拠となるHSコード、品目別原産地規則、原材料、製造工程、RVC計算などを整理するための資料として使われます。
協定や通関実務によって必要書類の扱いが異なるため、対象協定ごとに確認します。
事後確認と税関対応
輸入者自己申告を利用した場合、輸入国税関から原産性に関する事後確認を受けることがあります。
この事後確認は、Verificationと呼ばれます。
事後確認では、輸入者に対して、原産品申告書の根拠資料、製造工程資料、原材料資料、RVC計算資料、サプライヤー証明書、輸送書類などの提出や説明が求められることがあります。
米国実務ではAuditという表現が使われることがありますが、日本のEPA実務では、税関による事後確認、原産地調査、事後調査などの文脈で整理する方が分かりやすくなります。
本記事では、輸入後に税関が原産性を確認する手続を広く「事後確認」として整理します。
輸出者・生産者との協力体制
輸入者自己申告では、輸入者が原産性の説明責任を負う一方で、実際の製造情報や原材料情報は輸出者や生産者が持っていることが多くあります。
そのため、輸入者は、取引開始前またはEPA利用前に、輸出者・生産者から必要情報を取得できる体制を整えておく必要があります。
特に、原材料構成、製造工程、サプライヤー資料、RVC計算に必要な原価情報は、輸入者だけでは把握できないことがあります。
輸出者や生産者が情報提供に協力しない場合、輸入者自己申告は実務上成立しにくくなります。
自己申告を利用する前に、税関確認があった場合の資料提供方法や連絡体制を確認しておくことが重要です。
契約管理の重要性
輸入者自己申告では、輸出者や生産者から提供された情報に誤りがあった場合、輸入者側で特恵税率の否認、関税差額、追加納税が問題になることがあります。
そのため、継続取引では、売買契約、取引基本契約、サプライヤー契約などで、原産地情報の提供義務、資料保存義務、税関確認への協力義務、誤情報があった場合の費用負担や補償条項を整理しておくことがあります。
特に、RVC計算や累積制度を利用する場合は、原材料やサプライヤー情報の変更が原産性に影響します。
材料変更、製造工程変更、調達先変更があった場合の通知義務を定めておくことも重要です。
フォワーダーの関与範囲
フォワーダーは、輸入者自己申告において、インボイス、パッキングリスト、B/L、Sea Waybill、Arrival Noticeなどの書類整合を確認したり、通関手続を支援したりすることがあります。
また、積送基準の確認に必要な輸送書類の整理を補助することもあります。
しかし、フォワーダーは通常、貨物の原産性そのものを判断する責任主体ではありません。
原産性の判断には、HSコード、原材料、製造工程、原価計算、サプライヤー情報などが必要であり、これは輸入者、輸出者、生産者が管理すべき情報です。
フォワーダー実務では、輸入者自己申告でEPA税率を使えるかどうかを断定するのではなく、必要書類、輸送経路、通関手続、税関確認への備えを補助する立場として整理するのが安全です。
注意点
輸入者自己申告を利用する際は、次の点に注意が必要です。
- 協定によって輸入者自己申告を利用できるかどうかが異なる
- 輸入者が原産性を説明できる根拠資料を持つ必要がある
- 原産品申告書と原産品申告明細書など、必要資料の役割を確認する必要がある
- 輸出者・生産者からの情報提供が不可欠になる
- RVC計算や累積制度を使う場合、資料管理の負担が大きくなる
- RCEPでは、連続する原産地証明や原産国の特定も問題になることがある
- 輸入者が資料を提示できない場合、特恵税率が認められないことがある
- 税関の事後確認に期限内に対応する必要がある
- 誤った申告により、関税差額や追加納税が問題になることがある
- 輸出者や生産者との契約上の協力義務を事前に整理しておく必要がある
具体例
輸入者自己申告では、次のような場面が問題になります。
- サプライヤー情報不足:輸入者が十分な製造情報を持たないまま自己申告を行い、税関確認で原産性を説明できないケース
- 誤情報提供:輸出者から提供された原産地情報に誤りがあり、輸入者側で関税差額や追加納税が問題になるケース
- 契約未整備:原産地証明に関する責任分担を契約で定めておらず、損失負担を巡って取引先との間で紛争化するケース
- RVC資料不足:輸入者自己申告でRVCを使ったが、原価資料や非原産材料の価額資料を提示できないケース
- RCEP利用:RCEPで輸入者自己申告を使う際に、RCEP原産国や累積材料の原産性資料を確認するケース
- 連続する原産地証明:RCEP原産品が別のRCEP締約国を経由して再輸出される取引で、元の原産地証明と経由国での証明のつながりを確認するケース
まとめ
輸入者自己申告とは、輸入者が自ら原産性を確認し、原産品申告書を作成して、特恵税率の適用を求める制度です。
米国・USMCAのようなFTA実務で重要になるほか、日本の輸入実務でも、CPTPPやRCEPなど協定によって利用される場合があります。
輸入者自己申告では、輸入者が書類を受け取るだけでなく、原産地証明の責任主体として、HSコード、品目別原産地規則、製造情報、原材料情報、RVC計算、累積制度、積送基準、保存資料を確認・管理する必要があります。
輸出者・生産者との情報共有と契約管理を整え、税関の事後確認に対応できる体制を作っておくことが重要です。
