EXTENSION CLAUSE FOR MAR FORM

Extension Clause for MAR Formとは

Extension Clause for MAR Formとは、ICC(1982)以降のMAR Formを前提とする貨物保険において、協会戦争約款(貨物)と海賊リスクの関係を補正するために用いられる特別約款です。

この約款の中心は、S.G. Form時代の補償構造と、MAR Form移行後の補償構造の違いによって、海賊行為に伴う捕獲、拘束、差押え、抑留などのリスクが十分に整理されない可能性を補う点にあります。

実務上は、単に「海賊リスクを補償する約款」と見るだけでは不十分です。なぜMAR Formへの移行後に補正条項が必要になったのか、協会戦争約款のどの補償構造と関係するのか、通常の貨物条件やICC(1963)時代の扱いとどう違うのかを理解することが重要です。

この記事で扱う範囲

この記事では、Extension Clause for MAR Formの基本的な意味と、MAR Form、S.G. Form、協会戦争約款、海賊リスクとの関係を整理します。

項目 この記事で扱う内容 別に確認すべき内容
Extension Clause for MAR Form MAR Formを前提とする貨物保険で、海賊リスクの扱いを補正する考え方 個別保険契約上の文言、保険会社の引受判断、補償可否
Institute War Clauses 協会戦争約款と海賊行為、捕獲、拘束、抑留との関係 戦争危険、テロ、機雷、魚雷、ストライキ危険との詳細な区分
ICC(1963)とS.G. Form 旧来の証券形式における海賊リスクの整理 S.G. Formの歴史的構造、旧約款時代の補償設計
ICC(1982)以降とMAR Form MAR Form移行後に補正条項が必要になる理由 MAR Formの証券構造、Institute Clausesとの組み合わせ
高リスク海域の実務 海賊リスクが意識される航路での保険条件確認 最新の航路リスク、危険海域指定、追加保険料、通知要否

したがって、この記事はExtension Clause for MAR Formの位置づけを理解するための記事であり、協会戦争約款そのもの、ICC(1963)とICC(1982)の詳細、現在の危険海域指定や追加保険料については、個別に確認する必要があります。

なぜExtension Clause for MAR Formが必要になるのか

海賊行為は、通常の貨物の破損や水濡れとは異なり、船舶や貨物の捕獲、拘束、差押え、抑留といった行為と結び付くことがあります。このため、通常の貨物条件だけでなく、協会戦争約款(貨物)との関係で整理されることがあります。

ICC(1963)時代には、S.G. Formを前提とした古い保険証券構造の中で、海賊行為や捕獲・拘束に関する伝統的なリスクが整理されていました。

ところが、ICC(1982)以降にMAR Formへ移行したことで、証券形式と約款構成が変更され、従来の補償構造をそのまま前提にできない場面が生じました。

Extension Clause for MAR Formは、MAR Form移行後の協会戦争約款の構造において、海賊行為およびその結果として生じる損害を補償範囲に含める意図を明確にするために用いられます。

S.G. FormとMAR Formの違い

S.G. FormとMAR Formは、貨物保険の証券形式や約款構成を理解するうえで重要な違いがあります。

項目 S.G. Form MAR Form
位置づけ 英国海上保険の古い保険証券様式を基礎とする伝統的な形式 ICC(1982)以降の現代的な保険証券様式
約款構成 古典的な表現や包括的な文言を前提に補償構造が組まれていた Institute Cargo Clauses、Institute War Clauses、Institute Strikes Clausesなどを組み合わせて補償範囲を構成する
海賊リスクの扱い 伝統的な海上危険や戦争危険との関係で整理されていた 協会戦争約款との関係で、海賊行為をどのように含めるかを明確にする必要がある
実務上の確認点 旧証券形式を前提とした補償範囲がどこまで残るかを確認する MAR Form、戦争約款、Extension Clause for MAR Formの有無を確認する
注意点 古い表現に依存するため、現代の約款構成との対応関係を確認する必要がある 約款構成は整理されたが、旧来の海賊リスク補償を補正条項で確認する必要がある

MAR Formへの移行により、貨物保険の構造は分かりやすく整理されました。一方で、S.G. Form時代に前提とされていた海賊リスクの扱いを、MAR Formのもとでどのように維持するかが実務上の確認点となりました。

海賊リスクが問題になる理由

海賊リスクは、通常の貨物事故とは異なる性質を持ちます。

貨物が濡れた、壊れた、盗まれたという単純な物的損害だけでなく、船舶や貨物が海賊により捕獲、拘束、差押え、抑留され、その結果として遅延、損傷、滅失、費用発生が生じることがあります。

また、海賊行為は、平時に発生する犯罪行為である一方で、海上での捕獲や拘束という点では戦争危険に近い性質も持ちます。そのため、通常の貨物条件と戦争約款のどちらで扱うべきかが分かりにくいリスクです。

Extension Clause for MAR Formは、このような海賊リスクについて、協会戦争約款(貨物)上の補償との関係を明確にし、MAR Formのもとでも補償範囲に含める趣旨を整理するために用いられます。

協会戦争約款との関係

協会戦争約款(貨物)は、戦争、内乱、敵対行為、機雷、魚雷などの戦争危険に関する補償を整理する約款です。

海賊行為は、伝統的には戦争危険と近い文脈で扱われることがあります。特に、貨物や船舶が海賊により拘束されたり、航海が妨げられたり、貨物の引渡しが遅れたりする場合、通常の破損事故とは異なる保険判断が必要になります。

Extension Clause for MAR Formは、協会戦争約款の特定の構造によって海賊行為の扱いが狭く解釈されることを避け、海賊行為およびその結果や未遂行為による損害を補償範囲に含めるための補正条項として機能します。

通常の貨物条件との関係

海賊リスクは、通常のInstitute Cargo Clausesだけで常に十分に整理できるとは限りません。

All Risks条件であっても、戦争危険、ストライキ危険、テロリズム、海賊行為などは、通常条件とは別の特別条件や約款で扱われることがあります。

そのため、貨物保険で海賊リスクを確認する場合には、Institute Cargo Clausesだけでなく、Institute War Clauses、Institute Strikes Clauses、その他の特別約款をあわせて確認する必要があります。

特にMAR Formを前提とする契約では、海賊行為がどの約款でどこまで扱われるのかを明確にするために、Extension Clause for MAR Formの有無が重要になることがあります。

対象となり得るリスク

Extension Clause for MAR Formで問題になりやすいのは、海賊行為により貨物や船舶が通常の輸送過程から妨げられる場面です。

リスク 具体例 実務上の確認点
捕獲 海賊により本船や貨物が支配下に置かれる 海賊行為に該当するか、戦争約款や特別約款で扱われるかを確認する
拘束・抑留・差押えに類する行為 本船や貨物の自由な移動が妨げられる 拘束の原因、期間、貨物損害との関係を確認する
未遂行為 襲撃回避行動や防衛行動により貨物損害が発生する 損害が海賊行為またはその未遂に起因するかを確認する
航路変更 海賊リスクを避けるために航路を変更する Deviation、遅延、追加費用、通知義務との関係を確認する
貨物損傷・滅失 襲撃、拘束、回避行動、保管状態悪化により貨物が損傷する 物的損害として保険対象になるか、事故原因を整理する
救助・回収・再輸送・保管費用 拘束解除後の保管、転送、回収、再輸送が必要になる 費用損害、共同海損、救助料、保険条件との関係を確認する

ただし、これらが常にすべて補償されるわけではありません。実際には、付保条件、戦争約款、ストライキ約款、免責条項、保険期間、事故原因との関係で判断されます。

高リスク海域での実務上の意味

海賊リスクは、特定の海域で問題になりやすいリスクです。たとえば、ソマリア沖、アデン湾、紅海周辺、マラッカ海峡、西アフリカ沿岸などでは、時期によって海賊、武装強盗、船舶拘束、航路変更のリスクが注目されることがあります。

これらの海域を通過する場合、貨物保険では、通常の貨物条件だけでなく、戦争・ストライキ・海賊リスクに関する特別条件の有無を確認する必要があります。

また、航路変更、危険海域の回避、追加保険料、保険者への事前通知が問題になることもあります。

Extension Clause for MAR Formは、このような高リスク海域での海賊リスクについて、MAR Form上の補償構造を補正する役割を持ちます。ただし、実際の補償可否は、個別の保険条件と事故状況によって確認する必要があります。

よくある誤解

Extension Clause for MAR Formでは、All Risks、戦争約款、海賊リスク、遅延損害が混同されやすいため、次の点に注意が必要です。

よくある誤解 実際の考え方 実務上の対応
All Risksなら海賊リスクも当然に大丈夫である All Risks条件であっても、戦争危険、ストライキ危険、海賊リスクは別約款や特別条件で確認する必要がある Institute War ClausesやExtension Clause for MAR Formの有無を確認する
戦争約款が付いていれば海賊リスクは必ずカバーされる 戦争約款の構造や適用条件により、海賊行為の扱いを補正条項で確認する必要がある場合がある 協会戦争約款の文言とExtension Clause for MAR Formの有無を確認する
海賊による遅延もすべて貨物保険で回収できる 遅延損害そのものと、海賊行為に起因する貨物の物的損害や費用損害は分けて考える必要がある 貨物損害、費用損害、遅延損害を区分して確認する
海賊に襲われたら自動的に共同海損になる 共同海損に該当するかは、共同の安全のための犠牲や費用かどうかなど別途判断が必要である 共同海損宣言、救助料、費用明細、保険条件を確認する
MAR Formなら旧来の補償構造はすべてそのまま引き継がれる MAR Form移行後は証券形式と約款構成が整理されているため、旧来の海賊リスク補償を補正条項で確認することがある 旧条件からの切替時には、補償範囲が意図せず狭くなっていないか確認する
海賊リスクは船会社やP&Iだけの問題である 船舶側の問題であっても、貨物の損傷、滅失、引渡し不能、費用発生があれば貨物保険上の確認が必要になる 貨物保険、運送人責任、共同海損、救助料を分けて整理する

実務上確認すべきポイント

Extension Clause for MAR Formが問題になる場合、単に海賊被害があったかどうかだけでなく、どの約款でどの範囲まで補償されるかを確認する必要があります。

確認タイミング 確認する内容 確認先 問題がある場合の対応
保険手配時 保険証券がMAR Formを前提としているか 保険代理店、保険会社、荷主 MAR Form前提か、旧条件からの切替かを確認する
約款確認時 Institute War Clausesが付されているか 保険代理店、保険会社 戦争危険、海賊危険、ストライキ危険の範囲を確認する
特別約款確認時 Extension Clause for MAR Formが付されているか 保険代理店、保険会社 海賊行為が補償対象として明確に扱われているか確認する
航路確認時 高リスク海域を通過する可能性があるか 船会社、フォワーダー、NVOCC、荷主 危険海域通過の通知要否、追加保険料、航路変更の可能性を確認する
事故発生時 損害が海賊行為、その結果、または未遂に起因するか 船会社、P&I、保険会社、サーベイヤー、フォワーダー 事故報告、位置情報、損害状況、費用資料を整理する
費用発生時 救助、回収、保管、再輸送、共同海損、遅延損害の区分 保険会社、サーベイヤー、船会社、荷主 貨物損害、費用損害、遅延損害、共同海損を分けて整理する
旧条件から切替時 ICC(1963)時代の補償範囲とMAR Form下の補償範囲の違い 保険代理店、保険会社、社内管理部門 海賊リスクの補償範囲が意図せず狭くなっていないか確認する

フォワーダー実務での注意点

フォワーダーやNVOCCの立場では、海賊リスクを単なる船会社側の問題として扱わないことが重要です。

貨物が高リスク海域を通過する場合、貨物保険の条件、戦争約款の有無、Extension Clause for MAR Formの有無によって、事故時の対応が変わります。

特に、荷主から「All Risksで付保しているから海賊も大丈夫」と理解されている場合には注意が必要です。通常のAll Risks条件と、戦争危険・海賊危険の補償は別に確認する必要があります。

フォワーダーが保険金支払の可否を判断する必要はありませんが、危険海域を通過する可能性がある場合や、海賊リスクに関する情報を得た場合には、荷主に対して保険代理店または保険会社への確認を促すことが重要です。

事故時に確認すべき資料

海賊行為に関連する事故が発生した場合、貨物保険の請求だけでなく、運送人責任、共同海損、救助料、遅延損害との切り分けも必要になります。

資料 確認できること 実務上の目的
保険証券、戦争約款、特別約款 MAR Form、Institute War Clauses、Extension Clause for MAR Formの有無 補償範囲と請求根拠を確認する
航海ルート、航海記録 危険海域通過の有無、航路変更、滞留状況 海賊リスクと損害原因の関係を確認する
船会社、船長、P&I、保険者からの事故報告 事故発生日時、場所、状況、対応内容 海賊行為または未遂行為の発生を確認する
貨物損傷記録、写真、サーベイレポート 貨物の損害状態、損害発見時点、梱包状態 物的損害と事故原因の関係を確認する
航路変更、救助、保管、再輸送に関する費用資料 発生した費用の内容、金額、発生理由 費用損害、共同海損、救助料との区分を確認する
保険者への事故通知記録 いつ、誰が、どの内容を通知したか 通知義務や事故対応の履歴を確認する
B/L、Booking、Arrival Notice 運送区間、船名、積地、揚地、貨物引渡し状況 運送人責任や引渡し不能との関係を確認する

具体例

たとえば、貨物を積載した本船がアデン湾を航行中に海賊の襲撃を受け、一時的に航行を中断し、回避行動を取った結果、貨物の一部が損傷したとします。

この場合、単に輸送中の損傷として扱うのではなく、損害が海賊行為またはその未遂に起因するものか、Institute War ClausesやExtension Clause for MAR Formが付されているかを確認する必要があります。

また、本船が海賊に拘束され、貨物の引渡しが大幅に遅れた場合でも、遅延損害そのものが当然に貨物保険で補償されるとは限りません。貨物の物的損害、救助・回収費用、共同海損、遅延損害を分けて整理する必要があります。

実務上のポイント

Extension Clause for MAR Formは、S.G. FormからMAR Formへ移行した後、協会戦争約款(貨物)における海賊リスクの扱いを補正するための特別約款です。

この約款の実務上の核心は、海賊行為、捕獲、拘束、差押え、抑留などのリスクを、通常の貨物条件ではなく、戦争約款およびMAR Formの補償構造の中でどのように扱うかを明確にする点にあります。

実務では、MAR Form、Institute War Clauses、Extension Clause for MAR Formの有無を確認し、海賊行為による貨物損害、費用、遅延、共同海損、運送人責任を分けて整理することが重要です。

特に、高リスク海域を通過する貨物では、事故が起きてから約款を探すのではなく、船積前に保険条件、通知義務、追加保険料、特別約款の有無を確認しておくことが基本です。

同義語・別表記

  • Extension Clause for MAR Form
  • MAR Form Extension Clause
  • MARフォーム拡張約款
  • MARフォーム補正約款
  • 海賊リスク拡張約款
  • 協会戦争約款補正条項

関連用語

公式情報