陶磁器・美術品・装飾品等 Pair and Set Clause

Pair and Set Clause

Pair and Set Clause(ペア・セット約款)とは

Pair and Set Clause(ペア・セット約款)とは、陶磁器、美術品、装飾品、骨董品、家具、食器セットなど、一対又は一組として価値を持つ貨物について、その一部が損傷した場合の損害評価を整理するための特別約款です。

この種の貨物では、個々の構成品を単独で見た価値と、完全な一対又は一組としての価値が一致しないことがあります。

たとえば、対作品の片方、一対の装飾品の片方、12点組の陶磁器のうち1点が損傷すると、残りの構成品は物理的には残っていても、完全なセットとしての市場価値、展示価値、収蔵価値又は商品価値が低下することがあります。

Pair and Set Clauseの中心的な論点は、損傷した構成品の単品価値だけでなく、セット全体の価値低下、残存部分の価値、修復可能性、修復後の格落ち及び代替品の取得可能性を、貨物保険上どのように評価するかという点にあります。

ただし、一部損傷が発生したからといって、セット全体の価額が当然に保険金として支払われるわけではありません。

保険証券、Pair and Set Clauseの正式文言、保険金額、事故前の鑑定資料、損傷の程度、修復可能性、代替取得の可否及び事故後の残存価値に基づいて個別に判断されます。

Pair and Set Clauseでは、「一部が壊れたためセット全体が全損である」と直ちに判断するのではなく、損傷部分、残存部分、セット価値、修復可能性及び代替取得可能性を分けて評価することが重要です。

この記事で扱う範囲

項目 この記事で扱う内容 別記事又は個別契約で確認する内容
Pair and Set Clause 一対又は一組として価値を持つ貨物の一部損傷時の評価方法を整理します。 最終的な適用可否は保険証券と正式な約款文言で確認します。
損傷部分の単品価値 破損した構成品単体の価値、修理費又は交換費用を整理します。 市場価格が存在しない美術品等では専門鑑定が必要です。
セット全体の価値低下 一部損傷によって一対・一組としての価値が低下する場合を扱います。 格落ち損害の詳細は美術品貨物の格落ちに関する専用記事で扱います。
修復費用 損傷品の修復によって価値がどの程度回復するかを整理します。 修復方法の妥当性は専門修復業者又は鑑定人へ確認します。
代替取得 同一品又は同等品を市場から取得できる場合の評価を整理します。 美術品・骨董品の同等性は作者、年代、来歴等に基づいて判断します。
残存価値 損傷後も残存部分に販売、展示又は利用価値がある場合を整理します。 残存物の所有権及び処分方法は保険会社と個別に確認します。
鑑定資料 事故前後の鑑定、写真、市場資料及び収蔵記録を整理します。 鑑定人の選定及び評価基準は個別貨物に応じて確認します。
保険金額 セット全体の価値が保険金額へ反映されているかを確認します。 高価品の価額申告はWarranty of Ad Valorem等の条件も確認します。
保険期間 輸送中又は搬入・搬出中の一部損傷を扱います。 美術品等の壁から壁までの保険期間はWall to Wall Clauseで確認します。
フォワーダーの関与 受託、梱包、輸送、事故通知、資料収集及び責任整理を扱います。 最終的な賠償責任は契約上の地位、過失及び責任制限により判断します。

なぜPair and Set Clauseが必要になるのか

一対又は一組で構成される貨物では、一部の損傷がセット全体の価値に影響することがあります。

個々の構成品には単品としての価値がある一方、完全な組み合わせ、統一された意匠、共通の作者、同一の製作時期又は共通の来歴が維持されていること自体に、追加的な価値が認められる場合があるためです。

陶磁器の茶器セット、皿の組物、対作品として制作された美術品、一対の花瓶、アンティーク家具の揃い物などでは、1点の欠品又は破損によって、残存部分だけでは完全な商品又は作品として販売・展示できなくなることがあります。

一方、一部が損傷したからといって、セット全体の物理的利用価値が失われるとは限りません。

残存部分を単品として販売できる場合、修復により外観や機能が回復する場合、又は代替品を取得できる場合には、セット全体を全損として扱うことが過大な損害評価となる可能性があります。

Pair and Set Clauseは、このような一部損傷とセット全体の価値低下との関係を整理し、保険者の責任範囲と損害評価方法を明確にするために使用されます。

対象になりやすい貨物

貨物 セットとして価値を持つ理由 一部損傷時の主な問題 輸送前に確認する資料
陶磁器のセット 同じ窯、作家、年代、意匠又は釉薬で統一されています。 1点の欠品で組物としての完全性が失われます。 セット全体写真、点数明細、鑑定書、購入資料
茶器・食器セット 同一シリーズ又は同一用途の組合せとして販売されます。 代替品の入手可能性と残存セットの販売価値が問題になります。 商品番号、購入明細、メーカー資料、写真
一対の花瓶・置物 左右の意匠、形状又は図柄が組み合わさって完成します。 片方のみでは展示価値及び市場価値が低下する場合があります。 対作品写真、作者・年代資料、鑑定書
対作品の美術品 二つ以上の作品を一体として制作・展示することがあります。 残存作品のみでは作家の意図又は構成が維持されません。 作品証明書、展示記録、収蔵記録、来歴資料
アンティーク家具 同一時代、様式又は製作者の揃い物として評価されます。 一脚又は一台の損傷でセット全体の希少性が低下します。 鑑定書、購入契約、各構成品写真、修復履歴
装飾品・宝飾品のペア 左右一対又は同一デザインの組合せで使用されます。 片方を失うと残存品の実用価値が大きく低下する場合があります。 鑑別書、購入明細、重量・材質資料
限定品・ブランドセット 限定数、特別仕様又は統一された商品構成に価値があります。 同一ロット又は同一仕様の代替品を取得できるかが問題になります。 限定証明、商品番号、販売資料、購入記録
展示品・収蔵品 企画、テーマ又はコレクションとしての一体性があります。 一部欠損により展示又は収蔵目的を達成できない場合があります。 展示計画、収蔵台帳、保険明細、写真
歴史的・文化的な組物 共通の由来、使用歴又は歴史的背景に価値があります。 代替品が存在しても、来歴の同一性を回復できません。 来歴資料、文化財資料、専門鑑定

美術品や骨董品では、単なる物理的機能だけでなく、作者、年代、保存状態、来歴、希少性及び完全性が市場価値に影響します。

そのため、通常の商品貨物と同じように単品交換費用だけで損害を評価することが適切でない場合があります。

一部損傷とセット価値の評価

Pair and Set Clauseで実務上問題になるのは、一部損傷が発生した場合に、損傷した構成品の単品価値を中心に見るのか、セット全体の価値低下まで評価するのかという点です。

評価の考え方 適する状況 保険上の見方 主な確認資料 注意点
損傷した1点の価値を中心に見る 損傷品が単独でも市場価値を持ち、残存部分の価値低下が限定的な場合 修復費、交換費又は単品価値を中心に損害を整理します。 単品価格、修復見積、交換見積、販売実績 セット価値低下を主張するには追加資料が必要です。
セット全体の価値低下を見る 一部損傷で完全な一対・一組としての市場価値が大きく低下する場合 事故前セット価値と事故後残存価値との差額が問題になります。 事故前後の鑑定、セット写真、市場資料 一部損傷だけで全体全損になるわけではありません。
修復費用を中心に見る 修復によって外観、機能又は展示価値が相当程度回復する場合 合理的かつ必要な修復費を中心に評価します。 修復見積、修復方法、専門業者意見 修復後の格落ちが残るか確認します。
修復費用と格落ちを評価する 修復後も市場価値又は美術的価値が完全には回復しない場合 修復費に加えて、客観的に確認できる価値低下を検討します。 事故前後鑑定、修復後評価、取引資料 格落ち評価は主観的になりやすいため客観資料が必要です。
代替取得費用を検討する 同一品、同一ロット又は同一シリーズを入手できる場合 代替品の取得費用とセット価値の回復程度を確認します。 市場在庫、販売価格、メーカー資料 美術品・骨董品では同等性が争点になります。
残存価値を控除する 残存部分に販売、展示、利用又は部品価値がある場合 事故前価値から事故後に残る価値を差し引きます。 残存価値鑑定、売却見積、利用可能性 残存部分を被保険者が保持する場合は特に重要です。

単に「セット品だから全体が損害である」と整理するのではなく、損傷部分の価値、残存部分の価値及びセットとして失われた価値を分けて確認します。

損害評価方法の比較

評価方法 内容 適する状況 必要資料 注意点
事故前セット価値と事故後残存価値の差額 事故前のセット全体価値から事故後の残存価値を差し引きます。 セットとしての市場価値が大きく低下した場合 事故前後鑑定、事故前写真、残存価値評価 事故前にセットとして評価されていた資料が重要です。
損傷部分の単品価値 損傷した構成品単体の価値を基準とします。 残存部分への影響が小さい場合 購入明細、単品価格、同等品価格 セット価値低下を十分に反映しない場合があります。
修復費用 損傷部分を合理的に修復する費用を基準とします。 修復により外観・機能が回復する場合 修復見積、修復計画、専門業者意見 過剰な修復方法又は改善費用は分けて確認します。
修復費用と格落ち 修復費に修復後も残る市場価値低下を加えます。 美術品、骨董品、陶磁器等で修復痕が価値に影響する場合 修復後鑑定、事故前価値、格落ち資料 修復費と格落ちの重複計上を避けます。
代替取得費用 同等の構成品を市場から取得する費用を基準とします。 同一仕様又は同等品を取得できる場合 販売価格、在庫確認、取得費用 同一性と単なる類似性を区別します。
残存部分の売却・利用価値 残った構成品の売却価値又は利用価値を損害額から控除します。 残存部分が単独で利用又は販売できる場合 売却見積、鑑定、オークション資料 実際の市場性があるか確認します。
再製作費用 同じ仕様で再製作できる場合の合理的費用を検討します。 現代工芸品、特注家具又は製作者が再製作可能な場合 製作者見積、仕様書、製作期間 再製作品が原作品と同じ市場価値を持つとは限りません。

どの評価方法を採用するかは、貨物の性質保険条件、事故前資料、損傷の程度、修復可能性、代替取得可能性及び残存価値によって変わります。

保険者の責任範囲を整理する機能

Pair and Set Clauseは、セット品の一部が損傷しただけで、セット全体の保険価額が当然に損害額となることを避ける機能を持ちます。

被保険者側から見れば、一部損傷によって完全なセットとしての価値が失われたと考えられる場合があります。

一方、保険者側では、損傷した部分の価値、残存部分の価値、修復可能性、代替品の有無、事故前の申告価額及び保険金額を確認します。

したがって、Pair and Set Clauseは単なる免責又は保険者側の責任制限としてだけでなく、セット品特有の価値低下を保険上どのように評価するかを整理する枠組みとして理解する必要があります。

被保険者にとっても、契約時に貨物が一対又は一組として価値を持つことを明示し、セット構成、評価額及び鑑定資料を保険会社へ提示しておくことが重要です。

損害評価で確認すべき点

確認項目 主な確認内容 損害評価への影響 主な資料
セット構成 何点で一対又は一組を構成しているか 一部損傷が全体へ与える影響を確認します。 点数明細、配置図、セット全体写真
損傷点数 何点が全損、修復可能又は軽微損傷か 単品損害と全体価値低下を分けます。 事故写真、サーベイレポート
損傷程度 破損、欠損、擦傷、変形、変色等の程度 修復可能性と格落ちを判断します。 拡大写真、検査記録
セットとしての一体性 作者、年代、意匠、来歴又は用途が統一されているか セット価値の存在を確認します。 鑑定書、来歴資料、作品証明
残存部分の利用価値 単独で使用、販売又は展示できるか 事故後残存価値として考慮します。 市場資料、専門家意見
修復可能性 修復方法、費用、期間及び修復痕の有無 修復費と修復後価値を確認します。 修復見積、修復計画
代替取得可能性 同一品又は同等品を取得できるか 取得費用とセット価値回復を確認します。 市場在庫、販売資料
事故前価値 事故前にセットとしてどのように評価されていたか 損害評価の基礎となります。 事故前鑑定、購入価格、保険明細
事故後残存価値 損傷後のセット及び各構成品の価値 事故前後の価値差を確認します。 事故後鑑定、売却見積
保険金額 セット全体の価値が適切に付保されているか 保険者の支払限度と過少付保を確認します。 保険証券、付保明細、鑑定書

鑑定評価と市場価値の確認

美術品、陶磁器、骨董品又は装飾品では、一般的な商品と異なり、同一型番又は同一仕様の商品を市場で容易に取得できない場合があります。

そのため、損害評価には専門的な鑑定が必要になることがあります。

鑑定では、事故前のセット価値、損傷した構成品の価値、残存部分の価値、修復後の価値、代替品の有無、市場での取引可能性及び来歴への影響などが確認されます。

特に重要なのは、事故前に貨物が一対又は一組として評価されていたことを示す客観資料です。

輸送前のインボイス、売買契約、鑑定書、セット全体写真、展示記録、収蔵記録、作品証明、オークション結果等があると、事故前の完全なセット価値を説明しやすくなります。

反対に、事故後に初めて「セットとして非常に高い価値があった」と主張しても、事故前資料が不足している場合には、価値低下の立証が難しくなることがあります。

サーベイヤー・保険者との確認ポイント

確認主体 主な確認内容 確認の目的 注意点
サーベイヤー 事故原因、損傷状態、梱包、取扱状況、事故区間 物理的損傷と輸送事故との因果関係を確認します。 損害評価と賠償責任を分けます。
鑑定人 事故前価値、残存価値、修復後価値、格落ち 市場価値又は美術的価値の低下を評価します。 評価根拠と市場資料を明示します。
修復業者 修復方法、費用、期間、修復後の外観 修復可能性と合理的費用を確認します。 修復前に保険会社の確認を得ます。
保険会社 約款、保険金額、Pair and Set Clause、残存価値 保険上の損害額と支払限度を判断します。 正式約款と申告内容を確認します。
運送人 事故原因、取扱記録、責任区間、責任制限 運送責任上の賠償範囲を整理します。 貨物保険上の評価額と一致するとは限りません。

輸送前に確認しておくべき資料

資料 確認内容 事故後の利用目的 注意点
セット全体の写真 完全な一対・一組の状態 事故前の完全性を証明します。 全体と配置が分かるように撮影します。
各構成品の写真 個別状態、既存損傷、作者印等 損傷前後を比較します。 番号と写真を対応させます。
点数・品目明細 構成品の点数、寸法、品番、名称 欠品及び損傷点数を確認します。 ケース番号や梱包配置も記録します。
鑑定書 作者、年代、来歴、事故前価値 事故前のセット価値を立証します。 鑑定日と鑑定人を確認します。
インボイス・売買契約 購入価格、セット販売か単品販売か 保険価額及び取引条件を確認します。 購入価格と市場価値を区別します。
修復歴 既存修復、補修、欠損の有無 既存損害と事故損害を区別します。 修復前後の資料を保存します。
展示・収蔵記録 セットとしての展示・管理実績 セットとしての一体性を説明します。 単なる同時保管との違いを示します。
オークション資料 市場取引価格、類似品、完全品と欠品の価格差 セット価値低下の根拠とします。 同一性と類似性を区別します。
保険証券・付保明細 保険金額、セットとしての申告、特別約款 保険者の責任範囲を確認します。 Pair and Set Clauseの正式文言を確認します。
梱包仕様・配置図 各構成品の梱包方法と位置 事故原因と梱包責任を確認します。 実際の梱包と仕様を照合します。

具体例1:一対の花瓶の片方が破損した場合

同じ作家が左右一対として制作した装飾用花瓶を輸送中、一方の花瓶だけが落下して大きく破損したとします。

残った片方には物理的損傷がなく、単独でも装飾品として使用することは可能でした。

しかし、事故前の鑑定書では、二つの花瓶は同じ時期、同じ図柄及び同じ来歴を持つ対作品として評価されており、個別に販売する場合よりも一対として高い市場価値が認められていました。

この場合、破損した花瓶単体の価値だけでなく、残った片方の事故後価値も確認します。

破損品の修復可能性、修復後の外観、残存品を単独で販売した場合の市場価値及び一対としての事故前評価を比較し、事故前セット価値から事故後残存価値を差し引く方法が検討されます。

ただし、残った片方にも単品として相当の価値がある場合は、一対全体の価額をそのまま損害額とすることはできません。

対作品の片方が破損した場合は、破損品の価値だけでなく、残存品の単品価値と一対として失われた追加価値を分けて評価します。

具体例2:12客組の茶器の1客が破損した場合

同一作家が制作した12客組の茶器を輸送したところ、1客だけが割れたとします。

メーカーの量産品であり、同じ型番、色及び仕様の1客を市場から購入できる場合は、代替取得費用を中心に損害評価できる可能性があります。

一方、手作業で制作された限定品で、釉薬の色、製作時期及び作者の作風が個体ごとに異なり、同等品を容易に取得できない場合は、残り11客のセット価値低下が問題になります。

この場合、事故前の12客組としての評価、11客組としての事故後価値、代替品の市場在庫及び取得可能性を確認します。

似た茶器を購入できたとしても、同じ作者、同じ時期及び同じ来歴を持たなければ、事故前のセット価値を完全に回復できない場合があります。

代替品が市場に存在するかだけでなく、その代替品によって事故前のセット価値が実際に回復するかを確認します。

具体例3:対作品を修復した後も格落ちが残った場合

二枚一組で展示される絵画のうち、一方が輸送中の衝撃によって裂け、専門修復が行われたとします。

修復によって展示可能な状態には戻りましたが、修復痕が確認され、事故前と同じ市場価値には回復しないと鑑定人が評価しました。

この場合、合理的な修復費用だけでなく、修復後も残る市場価値低下をどのように評価するかが問題になります。

事故前の鑑定書、修復前後の写真、修復業者の報告、修復後の鑑定評価及び同種作品の市場資料を確認します。

ただし、修復費用と格落ち分を合算する場合は、同じ価値低下を二重に計上していないかを確認する必要があります。

残存するもう一方の作品の価値についても、対作品としての一体性が失われたことによる影響を個別に評価します。

修復可能であることと、事故前の市場価値が完全に回復することは同じではありません。

実務で問題になりやすいケース

ケース 主な争点 確認資料 判断のポイント 初動対応
一対の花瓶の片方が全損 残存品価値、対作品価値、全体全損 事故前鑑定、対作品写真、事故後鑑定 残存品にどの程度の単品価値があるか 破損品と残存品の双方を保存します。
12枚組の皿の1枚が破損 代替取得、セット価値低下 メーカー資料、市場在庫、購入明細 同一品を取得して価値を回復できるか 商品番号と製造時期を確認します。
美術品の対作品を修復 修復費、修復後格落ち、残存作品価値 修復見積、事故前後鑑定 修復後も価値低下が残るか 修復前に保険会社へ通知します。
アンティーク椅子4脚組の1脚が破損 再製作、セットの希少性、残存価値 鑑定書、製作者資料、修復見積 再製作品が同等価値を持つか 残り3脚も含めて評価します。
限定セット商品の一部が欠品 単品調達、限定価値、販売可能性 限定証明、販売価格、市場在庫 欠品状態での市場価値を確認できるか セット番号と限定証明を保存します。
事故前鑑定書が存在しない 事故前価値、セット価値の立証 購入契約、写真、オークション資料 事故前の完全な価値を客観的に示せるか 複数の市場資料を収集します。
残存品を被保険者が保持 残存価値控除、所有権 残存価値鑑定、売却見積 事故後も被保険者に残る価値はいくらか 処分前に保険会社と協議します。
荷主がセット全体価額をフォワーダーへ請求 保険評価と運送責任、責任制限 運送契約、B/L、事故資料、鑑定書 保険上の損害額と賠償責任額を区別できるか 責任を認めず資料を整理します。

フォワーダー関与範囲の標準五分類

本記事の五分類は、法令上又は業界全体で確立された分類ではなく、本シリーズにおいてフォワーダーの関与範囲を整理するために使用する分析上の枠組みです。

標準五分類 Pair and Set Clauseに関する主な関与 責任判断の中心 主な確認資料
Simple Intermediary(単純取次) 荷主、保険会社、鑑定人、梱包業者及び運送人の連絡を取り次ぎます。 単なる取次を超えて、セット価値又は保険金支払を保証したか 見積書、メール、案内文、取次記録
Cargo Transportation Service Provider(貨物利用運送事業者) 美術品等の輸送、保管、搬入出及び関連作業を輸送サービスとして提供します。 輸送区間、運送人選定、取扱指示、事故通知及び下請管理 運送契約、輸送指示、事故記録、作業報告
NVOCC / House B/L Issuer House B/Lを発行し、国際輸送の契約運送人として関与します。 House B/L上の責任区間、通知期限、責任制限及び事故原因 House B/L、Master B/L、Booking、事故通知
Door-to-Door Single Contractor 梱包、集荷、海上輸送、保管、搬入及び開梱までを一括して引き受けます。 一括契約の範囲、梱包管理、下請管理及び搬入出作業 包括見積書、仕様書、下請契約、作業計画
Agent/Coordinator for Specific Operations(特定業務の代理・調整者) 鑑定、修復、サーベイ、保険手配、展示搬入又は特別梱包を個別に調整します。 委任範囲、確認義務、手配期限、通知権限及び最終決定者 委任記録、作業依頼、鑑定依頼、承認書

Contracting Carrier及びActual Carrierは法的又は契約上の地位を示す概念であり、本記事の標準五分類を置き換える代替分類ではありません。

鑑定、修復、梱包、展示搬入、写真撮影又は資料収集等の個別作業は、それ自体で第六の分類を構成しません。

フォワーダー実務での判断チェックリスト

確認場面 確認する相手 確認事項 問題がある場合の対応
受託時 荷主、輸出者、輸入者 貨物が一対、一組、対作品又はコレクションとして価値を持つか 通常貨物として扱わず、セット構成と評価額を確認します。
保険手配時 荷主、保険会社、保険代理店 Pair and Set Clause、保険金額、セット価値及び鑑定資料 セット品として保険者へ申告する必要性を確認します。
梱包前 荷主、梱包業者、倉庫業者 セット全体、各構成品、点数、配置、ケース番号及び既存損傷 事故前の完全性を説明できる写真と明細を残します。
輸送・搬入出時 運送人、倉庫業者、配送業者、現地代理店 取扱い、荷役、積替え、中継保管、開梱及び管理主体 事故区間と責任主体を時系列で整理します。
事故発見時 荷主、倉庫業者、配送業者、サーベイヤー 損傷部分、残存部分、セット全体、梱包及び発見時刻 損傷品だけでなく残存品も撮影・保存します。
損害評価時 保険会社、サーベイヤー、鑑定人、修復業者 単品価値、セット価値、修復費、格落ち、残存価値及び代替品 複数の評価方法を比較します。
修復前 荷主、保険会社、修復業者、鑑定人 修復方法、費用、修復痕及び修復後価値 修復前に写真、見積及び承認を確保します。
保険請求時 保険会社、保険代理店、サーベイヤー 保険条件、Pair and Set Clause、保険金額、鑑定及び残存価値 セット全体全損と断定せず正式条件を照合します。
責任整理時 荷主、運送人、倉庫業者、梱包業者、海事弁護士 保険上の損害評価と運送人・フォワーダーの賠償範囲 保険請求と賠償請求を分けて整理します。

証拠として重要になる資料

資料区分 主な資料 確認目的 実務上の注意点
セット構成 全体写真、個別写真、点数明細、配置図 事故前の完全な構成を確認します。 各構成品へ識別番号を付けます。
事故前価値 鑑定書、購入契約、インボイス、保険価額明細 事故前のセット価値を確認します。 単品価値とセット価値を区別します。
作品情報 作者、年代、品番、来歴、作品証明書 セットとしての一体性と希少性を確認します。 代替品との同等性判断にも使用します。
既存状態 修復歴、既存損傷、状態報告、梱包前写真 事故前損傷と新たな損傷を区別します。 修復痕も記録します。
梱包 梱包仕様、ケース番号、配置図、緩衝材写真 梱包方法と事故原因を確認します。 損傷後も梱包材を保存します。
輸送 B/L、Waybill、搬出入記録、積替記録 事故区間と管理主体を確認します。 開梱又は再梱包の有無を確認します。
事故状態 損傷写真、残存品写真、動画、事故報告 損傷程度とセットへの影響を確認します。 修復又は移動前に記録します。
修復 修復見積、修復計画、修復後写真 合理的な修復費用と回復程度を確認します。 複数見積が必要な場合があります。
事故後価値 残存価値鑑定、格落ち評価、売却見積 事故前後の価値差を算定します。 評価根拠を明示します。
代替取得 市場在庫、販売見積、オークション資料 代替品の取得可能性と費用を確認します。 単なる類似品か同等品かを区別します。
保険条件 保険証券、Pair and Set Clause、特別約款 保険者の責任範囲を確認します。 正式文言と付保明細を確認します。
第三者通知 運送人、倉庫業者、梱包業者への事故通知 賠償請求及び求償権を保全します。 相手方ごとに通知期限を管理します。

Pair and Set Clauseの判断フロー

  1. 事故発生日、事故発見日時、発見場所及び発見者を確認します。
  2. 損傷した構成品、残存部分及びセット全体を写真・動画で記録します。
  3. セットが何点で構成され、どの構成品が損傷したかを確認します。
  4. 梱包材、外装ケース、緩衝材、配置図及びケース番号を保存します。
  5. 事故原因、事故区間、管理主体及び輸送中の取扱状況を確認します。
  6. 事故前のセット全体写真、個別写真、点数明細及び既存損傷記録を確保します。
  7. 売買契約、インボイス、鑑定書、来歴資料及び保険価額明細を確認します。
  8. 保険証券、Pair and Set Clauseの正式文言、保険金額及び限度額を確認します。
  9. 損傷部分の単品価値と残存部分の単品価値を確認します。
  10. 一部損傷によるセット全体の市場価値又は展示価値への影響を確認します。
  11. 修復可能性、修復方法、修復費用及び修復後の格落ちを確認します。
  12. 同一品又は同等品の代替取得可能性、取得費用及び同等性を確認します。
  13. 事故前セット価値、事故後残存価値、修復費及び代替取得費を比較します。
  14. 修復、売却、廃棄又は残存品の処分前に保険会社の確認を受け、第三者へ事故通知します。
  15. 評価資料、事故資料、保険条件及び責任資料を整理し、保険会社、専門代理店、鑑定人又は海事弁護士へ提出します。

よくある誤解

誤解 実際の考え方 確認すべきこと
一部が壊れればセット全体が全損になる。 残存部分の価値、修復可能性及び代替取得可能性を確認します。 損傷品、残存品、事故後価値及び修復
セット品なら格落ちは当然に補償される。 事故前後の価値差を客観資料で示す必要があります。 事故前後鑑定、市場資料、取引実績
事故後に鑑定書を取得すれば事故前価値を証明できる。 事故前資料がなければ、完全なセット価値の立証が難しい場合があります。 輸送前写真、事故前鑑定、購入契約
修復できれば損害は修復費だけで足りる。 修復後に市場価値又は美術的価値の低下が残る場合があります。 修復後鑑定、格落ち、修復痕
同じような物を買えばセット価値は戻る。 作者、年代、意匠、来歴等が一致しなければ同等品と評価されない場合があります。 代替品の同等性、市場在庫、来歴
セットとして申告していなくても事故後に全体価値を主張できる。 付保時の申告と保険金額にセット価値が反映されているかが問題になります。 付保明細、鑑定書、保険金額
残存部分に利用価値があっても全体価額を請求できる。 事故後も残る販売・利用価値は損害額から考慮されます。 残存価値、売却可能性、利用価値
購入価格がそのまま保険上の損害額になる。 事故前市場価値、保険価額及び事故後残存価値を確認します。 購入価格、鑑定、保険価額
高額な修復方法ならすべて保険で認められる。 合理的かつ必要な修復方法と費用であるかを確認します。 複数見積、修復計画、保険会社承認
貨物保険の損害額と運送人の賠償額は同じである。 運送人責任には約款上の責任制限等が適用される場合があります。 B/L約款、責任制限、事故原因
フォワーダーが輸送したためセット全体の価値を負担する。 フォワーダーの契約上の地位、過失及び責任制限を確認します。 標準五分類、契約、事故区間及び過失
修復を急ぐため事故状態を記録する必要はない。 修復後は元の損傷程度と原因を確認できなくなる可能性があります。 修復前写真、サーベイ、梱包材

フォワーダー実務で安全な案内

  • 貨物が一対又は一組として価値を持つか確認してください。
  • セット全体と各構成品の輸送前写真を保存してください。
  • 点数、作者、年代、品番、来歴及びケース番号を明細化してください。
  • 保険証券にPair and Set Clauseが付帯されているか確認してください。
  • セット全体の価値が保険金額へ反映されているか確認してください。
  • 事故後は損傷品だけでなく、残存部分とセット全体も撮影してください。
  • 修復、廃棄又は残存品の売却前に保険会社へ連絡してください。
  • 修復費、修復後格落ち、代替取得及び残存価値を分けて確認してください。
  • 運送人、倉庫業者及び梱包業者への事故通知期限を確認してください。

フォワーダーとしては、「セット全体が全損になります」又は「損傷した1点分しか認められません」と断定するのではなく、「Pair and Set Clauseの正式文言、事故前のセット価値、修復可能性、代替取得可能性及び残存価値の確認が必要です」と案内することが基本です。

海事弁護士・専門家を利用すべき場面

  • 損害額が高額で、セット全体の価値低下が争われる場合
  • 事故前のセット価値と事故後の残存価値について鑑定が分かれる場合
  • 修復後の格落ち又は市場価値低下が争われる場合
  • 同一品又は同等品の代替取得可能性について見解が分かれる場合
  • 残存品の価値、所有権又は処分方法が問題になる場合
  • 事故前鑑定書がなく、セット価値を他の資料から立証する必要がある場合
  • 保険会社と被保険者の間でPair and Set Clauseの解釈が争われる場合
  • 荷主からフォワーダー又はNVOCCへセット全体の価額が請求されている場合
  • 保険上の損害評価と運送人責任上の賠償範囲が大きく異なる場合
  • 事故通知期限、保険金請求期限又は出訴期限が近い場合

実務上のポイント

  • Pair and Set Clauseは、一対又は一組として価値を持つ貨物の一部損傷時の評価を整理する約款です。
  • 一部損傷があっても、常にセット全体が全損となるわけではありません。
  • 損傷品の単品価値、セット価値低下、修復費、格落ち、代替取得及び残存価値を分けます。
  • セット価値を主張するには、事故前にセットとして評価されていた客観資料が重要です。
  • 事故後の鑑定だけでは、事故前の完全なセット価値を十分に立証できない場合があります。
  • 修復できる場合でも、修復後に格落ち又は市場価値低下が残るか確認します。
  • 代替品を取得できても、作者、年代、意匠及び来歴の同等性を確認します。
  • 残存部分に販売又は利用価値がある場合は、損害額の評価へ反映します。
  • 保険金額にセット全体の価値が反映されているか確認します。
  • 修復、売却又は廃棄の前に、写真、サーベイ及び保険会社の確認を確保します。
  • 貨物保険上の損害額と運送人・フォワーダーの賠償責任額を分けます。
  • フォワーダーは評価額又は補償可否を断定せず、資料収集と専門家確認を優先します。

まとめ

Pair and Set Clauseは、一対又は一組として価値を持つ陶磁器、美術品、装飾品、骨董品、家具及び食器セットなどについて、一部損傷時の損害評価を整理するための特別約款です。

この約款の実務上の核心は、損傷した構成品の単品価値だけでなく、セット全体として失われた価値、残存部分の価値、修復可能性、修復後の格落ち及び代替取得可能性をどのように評価するかという点にあります。

ただし、一部が損傷したという事実だけで、セット全体を全損として扱えるわけではありません。

事故前のセット価値、損傷品の価値、事故後の残存価値、修復費用、修復後の市場価値、代替品の有無及び保険金額を総合して判断します。

量産された食器セットのように同一品を容易に取得できる貨物と、同じ作者、年代、意匠及び来歴を持つ代替品を取得できない美術品・骨董品では、損害評価の方法が異なります。

美術品等を修復できる場合でも、修復によって物理的状態が回復することと、事故前の美術的価値又は市場価値が完全に回復することは同じではありません。

また、残存部分に単品としての販売価値、展示価値又は利用価値がある場合は、その価値を損害額の評価へ反映する必要があります。

事故前のセット全体写真、構成品明細、鑑定書、売買契約、来歴資料、収蔵記録及び保険明細は、事故後の価値低下を説明するための重要な資料となります。

事故後は、損傷品だけでなく、残存部分、セット全体、梱包状態及び事故発生区間を記録し、修復又は処分を行う前に保険会社、サーベイヤー及び必要な専門鑑定人へ連絡することが重要です。

フォワーダー又はNVOCCは、セット品を通常貨物と同じ感覚で扱わず、セット構成、申告価額、事故前写真、梱包、保険条件及び専門鑑定の要否を確認する必要があります。

最終的な保険金支払及び賠償責任は、保険証券、Pair and Set Clauseの正式文言、保険金額、事故前後の鑑定、修復可能性、残存価値、代替取得可能性、事故原因及び関係者の契約上の地位に基づいて個別に判断されます。

一対又は一組として価値を持つ陶磁器、美術品、骨董品、装飾品等を輸送する場合は、セット構成、事故前写真、鑑定書、保険金額、修復歴、梱包仕様及び輸送計画を準備し、保険会社又は外航貨物海上保険を扱う専門の保険代理店へ事前に相談してください。

本記事は一般的な情報を提供するものであり、個別の一対・一組貨物についてPair and Set Clauseが適用されるか、セット全体の価値低下が保険の対象となるか、修復費用、格落ち、代替取得費用又は残存価値がどのように評価されるか、保険金が支払われるか、又は運送人、倉庫業者、梱包業者、フォワーダー若しくはNVOCCが法的責任を負うかを確定するものではありません。

同義語・別表記

  • Pair and Set Clause
  • ペア・セット約款
  • 一対一組約款
  • 一対約款
  • 一組約款
  • セット品損害
  • 組み合わせ価値

関連用語

公式情報