英国海上保険法におけるワランティと堪航性
英国海上保険法におけるワランティとは
英国海上保険法におけるワランティとは、被保険者が、ある特定の事項を行うこと、行わないこと、一定の条件を満たすこと、または特定の事実状態が存在することを約束する条項をいいます。
日本語では「担保」と訳されることがありますが、ここでいうワランティは、一般的な商品保証や品質保証とは意味が異なります。海上保険におけるワランティは、保険契約上の重要な約束事項であり、これに違反した場合には保険者の責任に大きな影響を与えるものとして扱われてきました。
MIA1906では、ワランティは明示担保または黙示担保のいずれかであり、伝統的には、その内容に正確に従う必要があるものと整理されていました。
MIA1906における伝統的なワランティ違反の効果
MIA1906第33条では、ワランティは、危険にとって重要であるかどうかにかかわらず、正確に遵守されるべき条件であるとされています。
伝統的な理解では、ワランティに違反した場合、保険証券に別段の定めがない限り、保険者はワランティ違反の日から責任を免れるとされていました。
この点は、英国海上保険法の特徴的な部分です。ワランティ違反と実際の損害との因果関係が常に必要とされるわけではなく、ワランティ違反そのものが保険者の責任に重大な影響を与えるものとして扱われてきました。
現行英国法との関係
ただし、現在の英国法では、Insurance Act 2015 により、ワランティ違反の効果は従来の考え方から修正されています。
現在は、ワランティ違反があると保険者の責任が一定期間停止し、その違反が修復可能で修復された場合には、保険者の責任が復活するという方向で整理されています。
そのため、MIA1906のワランティ規定を読む場合には、外航貨物海上保険の伝統的な約款解釈を理解するための基礎として押さえつつ、現行英国法上の扱いとは区別して理解する必要があります。
ワランティ違反が免責される場合
MIA1906第34条では、事情の変更によりワランティが契約の状況に適用されなくなった場合、またはその後の法律によりワランティの履行が違法となった場合には、ワランティ不遵守が免責されると整理されています。
一方で、伝統的なMIA1906の考え方では、一度ワランティに違反した場合、その後に違反状態を解消しても、損害発生前にワランティが履行されたという抗弁は原則として認められないとされていました。
ただし、保険者はワランティ違反を放棄することができます。つまり、保険者がその違反を問題にしないとする場合には、ワランティ違反の効果が争点にならないことがあります。
明示担保とは
MIA1906第35条では、明示担保について定めています。
明示担保とは、保険証券上または保険証券に取り込まれた書類上に、明示的に記載されたワランティをいいます。
明示担保は、特定の文言形式でなければならないわけではありません。重要なのは、その文言から、被保険者が一定の事項を約束している趣旨が読み取れるかどうかです。
また、明示担保が存在する場合でも、それと矛盾しない限り、黙示担保が排除されるわけではありません。
中立性に関するワランティ
MIA1906第36条では、船舶または貨物について中立性が明示的にワランティされている場合の扱いを定めています。
保険の目的物が中立であると明示された場合には、危険開始時にその目的物が中立性を有しており、さらに被保険者が管理できる範囲で、その中立性が保険期間中も維持されることが前提となります。
また、船舶について中立性が明示されている場合には、必要な書類を備え、中立性を証明できる状態にしておくことも重要になります。書類を偽造したり、隠したり、仮装書類を使用したりすることは問題になります。
船籍に関する黙示担保はない
MIA1906第37条では、船舶の国籍について、黙示担保はないとされています。
つまり、特段の明示がない限り、船舶が特定の国籍であることや、保険期間中に国籍が変更されないことまでは、当然のワランティとはされません。
ただし、現代実務では、船籍、船級、制裁対象、危険地域、航路、船齢などが引受判断や保険条件に影響することがあります。そのため、船籍そのものが黙示担保でないとしても、保険手配時には船舶情報の確認が重要です。
Good Safetyとは
MIA1906第38条では、保険の目的物が特定の日に「well」または「in good safety」とワランティされた場合、その日のいずれかの時点で安全であれば足りるとされています。
これは、特定の日における安全状態をどのように評価するかに関する規定です。
実務上は、貨物や船舶の状態が、ある時点で安全であったかどうかを確認する場合に関係する考え方です。
船舶の堪航性に関する黙示担保
MIA1906第39条では、船舶の堪航性について定めています。
航海保険では、航海開始時に、船舶がその保険対象となる航海事業に適した堪航性を有していることが黙示担保とされています。
堪航性とは、船舶が、その航海において通常予想される海上危険に合理的に耐えられる状態にあることをいいます。
例えば、船体、機関、設備、乗組員、航海に必要な準備、積荷に対する適合性などが問題になり得ます。
航海の段階ごとの堪航性
MIA1906では、航海が複数の段階に分かれ、それぞれの段階で異なる準備や設備が必要となる場合には、各段階の開始時に、その段階に適した堪航性が必要とされています。
これは、長距離輸送や複数港を経由する航海において重要な考え方です。
船舶がある港を出る時点では問題がなくても、次の航海段階で必要な設備や準備を欠いていれば、堪航性が問題となる可能性があります。
期間保険における堪航性
期間保険では、航海のすべての段階において船舶が堪航性を有するという黙示担保はありません。
ただし、被保険者が事情を知りながら、堪航性のない状態で船舶を出航させた場合、その不堪航に起因する損害について、保険者は責任を負わないとされています。
この点は、航海保険と期間保険の違いを理解するうえで重要です。
貨物には堪航性の黙示担保はない
MIA1906第40条では、貨物またはその他の動産に関する保険では、貨物そのものについて堪航性の黙示担保はないとされています。
つまり、貨物保険において、貨物自体が「seaworthy」であることが当然に黙示担保されるわけではありません。
ただし、航海保険で貨物が保険対象となる場合には、航海開始時に、船舶が船として堪航性を有するだけでなく、その貨物を目的地まで運ぶのに合理的に適した状態であることが黙示担保とされています。
貨物保険における適貨性の実務上の意味
貨物保険では、船舶が貨物を安全に運ぶために合理的に適しているかが問題になることがあります。
例えば、冷凍・冷蔵貨物であれば、温度管理設備が適切かどうかが問題になります。危険品であれば、積載・隔離・表示・書類が適切かどうかが重要になります。重量物や大型貨物であれば、荷役・固縛・積付けに適した船舶や設備であるかが問題になります。
このように、貨物そのものの堪航性というより、船舶がその貨物を目的地まで運ぶのに適しているか、という観点が重要です。
合法性に関する黙示担保
MIA1906第41条では、保険対象となる航海事業が合法であり、被保険者が管理できる範囲において、合法的に遂行されることが黙示担保とされています。
これは、違法な航海、違法な貨物輸送、法令に反する取引を保険の対象としないという考え方です。
外航貨物海上保険では、輸出入規制、制裁、禁制品、危険品規制、通関法令、船積地・仕向地の法令などが問題になることがあります。
外航貨物海上保険での実務上の注意点
ワランティは、外航貨物海上保険の約款解釈において非常に重要な概念です。
保険契約上、特定の梱包、輸送方法、温度管理、船級、航路、保管条件、危険品申告、積替え条件などが約束事項として定められている場合、それに反する輸送が行われると、保険者の責任が問題になる可能性があります。
また、貨物保険では、船舶の堪航性そのものよりも、その船舶が当該貨物を運ぶのに適していたか、貨物の性質に応じた輸送条件が守られていたかが重要になることがあります。
特に、冷凍・冷蔵貨物、危険品、中古機械、重量物、精密機器、ばら積み貨物、特殊梱包貨物では、保険申込時の条件、保険証券上の特別条件、実際の輸送状態を照合する必要があります。
まとめ
MIA1906第33条から第41条は、海上保険におけるワランティ、明示担保、黙示担保、堪航性、合法性を整理する重要な条文です。
伝統的な英国海上保険法では、ワランティは非常に厳格に扱われ、違反があると保険者の責任に重大な影響を与えるものとされてきました。
現行英国法ではその効果は修正されていますが、外航貨物海上保険の約款解釈を理解するうえで、ワランティの考え方は今なお重要です。
外航貨物海上保険を実務で扱う場合には、単に保険が付いているかどうかだけでなく、保険契約上の約束事項、貨物に適した輸送条件、船舶の適合性、合法性を確認することが重要です。
