英国海上保険法における航海の変更・離路・遅延

英国海上保険法における航海とは

英国海上保険法における航海とは、保険証券で予定された出発地から目的地までの海上輸送の流れをいいます。

外航貨物海上保険では、単に貨物に保険が付いているかどうかだけでなく、その貨物が保険証券で予定された航海、輸送区間、仕出地、仕向地、経路に従って輸送されているかが重要になります。

MIA1906第42条から第49条は、航海の開始、仕出地の変更、仕向地の変更、航海の変更、離路、複数荷卸港、航海中の遅延、離路・遅延が正当化される場合について整理した規定です。

危険開始と航海の開始

航海保険において、保険証券が「at and from」または「from」特定の場所からの航海を対象としている場合、保険契約締結時に船舶がその場所にいる必要はありません。

ただし、予定された航海は合理的な期間内に開始される必要があります。航海が合理的な期間内に開始されない場合、保険者は契約を取り消すことができると整理されています。

これは、保険者が予定された航海危険を前提に引き受けているためです。航海開始が大きく遅れれば、季節、航路、政治情勢、港湾事情、貨物状態などが変わり、当初の引受判断と異なる危険になる可能性があります。

合理的な期間内に開始されない場合

MIA1906第42条では、航海が合理的な期間内に開始されない場合でも、その遅延の事情を保険者が契約締結前に知っていた場合、または保険者がその条件を放棄した場合には、保険者が契約を取り消せないことがあります。

外航貨物海上保険の実務でも、船積予定日、実際の船積日、船名変更、ロールオーバー、港湾混雑などにより、当初予定と実際の輸送がずれることがあります。

そのため、保険手配時の予定と実際の輸送内容に差異が出た場合には、保険会社または代理店に早めに連絡し、保険条件上問題がないかを確認することが重要です。

仕出地の変更

MIA1906第43条では、保険証券に出発地が明記されている場合に、船舶がその場所ではなく別の場所から出航したときは、保険の危険が開始しないとされています。

これは、保険者が特定の仕出地からの航海を前提に危険を引き受けているためです。仕出地が変わると、航路、港湾事情、積付け状態、貨物の搬入状況、航海危険が変わる可能性があります。

外航貨物海上保険では、輸出港の変更、積港変更、フィーダー港の追加、別港船積みなどが起こることがあります。このような場合、保険証券上の輸送区間や仕出地表示との整合性を確認する必要があります。

仕向地の変更

MIA1906第44条では、保険証券に目的地が明記されている場合に、船舶がその目的地ではなく別の目的地に向けて出航したときは、保険の危険が開始しないとされています。

仕向地は、保険者が引き受ける航海危険を判断する重要な要素です。仕向地が変われば、航路、寄港地、港湾リスク、戦争危険、ストライキ危険、陸揚げ後の輸送条件が変わることがあります。

そのため、輸入地変更、揚港変更、最終仕向地変更、別港揚げなどが生じる場合には、保険証券上の記載と実際の輸送計画を照合する必要があります。

航海の変更とは

MIA1906第45条では、危険開始後に、船舶の仕向地が保険証券で予定された仕向地から自発的に変更された場合、航海の変更があったものと整理されています。

航海の変更があると、別段の定めがない限り、保険者はその変更時点から責任を免れるとされています。

重要なのは、実際に船舶が予定航路を離れていなくても、航海変更の意思決定が明らかになった時点で問題になり得るという点です。

航海変更と貨物保険実務

外航貨物海上保険では、本船スケジュールの変更、揚港変更、トランシップ変更、港湾閉鎖、戦争危険地域の回避、船会社都合による経路変更などが起こることがあります。

これらがすべて直ちに保険免責になるわけではありませんが、保険証券で予定された航海と実際の輸送が大きく異なる場合には、保険条件上の確認が必要です。

特に、被保険者側が任意に仕向地を変更した場合、または貨物の輸送目的地を変更した場合には、保険会社への通知や承認が重要になります。

離路とは

MIA1906第46条では、船舶が正当な理由なく、保険証券で予定された航海から外れた場合、離路があったものとされています。

保険証券に具体的な航路が指定されている場合には、その航路から外れることが離路になります。

また、保険証券に航路が具体的に指定されていない場合でも、通常かつ慣習上の航路から外れた場合には、離路とされることがあります。

離路の効果

正当な理由のない離路がある場合、保険者は離路の時点から責任を免れるとされています。

また、船舶がその後予定航路に戻ったとしても、すでに発生した離路の効果は当然に消えるわけではありません。

MIA1906では、離路の意思だけでは足りず、実際に離路が行われる必要があるとされています。つまり、予定航路を外れるつもりがあっただけではなく、事実として航路を外れたかどうかが問題になります。

複数荷卸港がある場合

MIA1906第47条では、複数の荷卸港が保険証券に記載されている場合の離路について定めています。

複数の荷卸港が指定されている場合、特段の慣習や十分な理由がない限り、船舶は保険証券に記載された順序に従って航行する必要があります。

また、特定地域内の「諸荷卸港」とされていて、具体的な港名が記載されていない場合には、特段の事情がない限り、地理的順序に従って航行する必要があります。

この順序に反する場合には、離路と評価されることがあります。

航海中の遅延

MIA1906第48条では、航海保険において、保険対象となる航海は合理的な迅速さをもって遂行されなければならないとされています。

正当な理由なく航海が合理的に進められない場合、保険者は、その遅延が不合理となった時点から責任を免れるとされています。

外航貨物海上保険では、遅延そのものによる損害は協会貨物約款上も免責として問題になることがありますが、MIA1906上も、航海保険における不合理な遅延は重要な問題です。

実務で問題になりやすい遅延

国際輸送では、船会社都合のスケジュール変更、港湾混雑、抜港、ロールオーバー、トランシップ遅延、ストライキ、検査、天候不良、事故、戦争危険地域の回避などにより、航海や輸送が遅れることがあります。

これらの遅延がすべて保険上問題になるわけではありません。問題は、その遅延が正当な理由に基づくものか、保険証券で予定された航海の範囲内といえるか、保険者に通知すべき変更にあたるかです。

貨物保険実務では、遅延によって貨物が劣化した場合でも、遅延そのものが免責とされることがあります。そのため、事故原因が遅延なのか、遅延中に発生した別の担保危険なのかを分けて整理する必要があります。

離路または遅延が正当化される場合

MIA1906第49条では、離路または遅延が正当化される場合を定めています。

例えば、保険証券の特別条件で認められている場合、船長や船主の支配を超える事情による場合、明示または黙示のワランティを守るために合理的に必要な場合、船舶または保険対象物の安全のために合理的に必要な場合には、離路や遅延が許されることがあります。

また、人命救助、遭難船の救助、船内の者に医療措置を受けさせるために必要な場合なども、離路や遅延が正当化される典型例です。

救助・安全確保と離路

海上輸送では、人命救助や船舶の安全確保が優先されます。

そのため、予定航路から外れたとしても、それが人命救助、遭難船の援助、船舶や貨物の安全確保のために合理的に必要であれば、保険上の離路として直ちに不利益に扱われない場合があります。

ただし、離路や遅延を正当化する原因がなくなった後は、船舶は合理的な迅速さをもって航路に復帰し、航海を継続する必要があります。

外航貨物海上保険での実務上の注意点

外航貨物海上保険では、仕出地、仕向地、航路、船名、積替え、輸送区間が保険条件と密接に関係します。

船積港や揚港が変更された場合、予定していた本船から別船に変更された場合、トランシップが追加された場合、仕向地が変わった場合、または大幅な遅延が発生した場合には、保険会社または保険代理店に確認することが重要です。

特に、被保険者側の指示による仕向地変更、任意の保管延長、別ルート配送、予定外の積替え、危険地域への航行などは、保険条件に影響する可能性があります。

遅延損害と貨物損害の切り分け

貨物保険実務では、遅延そのものによる経済損害と、遅延中に発生した貨物の物的損害を分けて考える必要があります。

例えば、納期遅れによる販売機会の喪失、違約金、操業停止損害などは、通常の貨物海上保険では担保されないことがあります。

一方で、輸送中に火災、海水濡れ、荷崩れ、盗難などの担保危険が発生し、その結果として貨物に物的損害が生じた場合には、保険条件に従って検討されることになります。

したがって、事故処理では、単に「遅れたから損害が出た」と整理するのではなく、遅延の原因、貨物損害の原因、発生区間、保険期間、免責事由を分けて確認する必要があります。

まとめ

MIA1906第42条から第49条は、航海保険における危険開始、仕出地変更、仕向地変更、航海変更、離路、複数荷卸港、遅延、離路・遅延の正当化事由を整理する重要な条文です。

外航貨物海上保険では、貨物が保険証券で予定された輸送区間と航海に従って運ばれているかが重要になります。

本船スケジュール変更、抜港、ロールオーバー、港湾混雑、仕向地変更などは実務上よく起こりますが、それが保険条件にどのような影響を与えるかは、保険証券、協会貨物約款、特別条件、事故原因を合わせて確認する必要があります。

航海の変更、離路、遅延の考え方を理解しておくことは、外航貨物海上保険の保険期間、免責、事故原因、保険金請求の可否を判断するうえで重要です。

同義語・別表記

  • 航海の変更
  • 離路
  • 遅延
  • Change of Voyage
  • Deviation
  • Delay in Voyage
  • The Voyage
  • MIA1906第42条
  • MIA1906第43条
  • MIA1906第45条
  • MIA1906第46条
  • MIA1906第48条
  • MIA1906第49条

関連用語