英国海上保険法における返還保険料・相互保険・補足規定
英国海上保険法における補足規定とは
英国海上保険法1906年の後半には、返還保険料、相互保険、追認、黙示義務の変更、合理的期間、スリップやカバーノートの証拠性、用語解釈などの補足規定が置かれています。
これらの規定は、被保険利益、保険証券、ワランティ、航海の変更、損害填補、代位求償などに比べると、外航貨物海上保険の事故処理で頻繁に前面に出るものではありません。
しかし、海上保険契約全体の仕組みを理解するうえでは、保険料の返還、契約の追認、取引慣習による変更、契約書類の証拠性などを補助的に確認しておく意味があります。
返還保険料とは
返還保険料とは、一定の場合に、被保険者に返還されるべき保険料またはその一部をいいます。
MIA1906第82条では、保険料またはその比例部分が返還されるべき場合、すでに支払われていれば被保険者が保険者から回収でき、未払いであれば被保険者またはその代理人が支払いを留保できるとされています。
つまり、保険料が返還対象となる場合には、すでに払っていれば返還請求、まだ払っていなければ支払い留保という形で調整されます。
合意による返還
MIA1906第83条では、保険証券に、一定の事由が発生した場合に保険料またはその一部を返還する旨の定めがある場合、その事由が発生すれば返還されるとされています。
外航貨物海上保険でも、契約内容や保険条件によっては、危険が発生しなかった場合、保険期間が短縮された場合、保険対象が一部消滅した場合などに、保険料調整が問題になることがあります。
ただし、実務上は、保険証券、包括契約、保険会社の規定、個別の引受条件を確認する必要があります。
対価関係が失われた場合の返還
MIA1906第84条では、保険料支払の対価が全部失われ、被保険者または代理人に詐欺や違法行為がない場合、保険料は返還されるとされています。
また、対価関係が分割可能で、その一部について全部失われた場合には、比例部分の保険料が返還されることがあります。
例えば、保険契約が無効であった場合、危険がまったく開始しなかった場合、保険対象が一度も危険にさらされなかった場合などには、保険料返還が問題になることがあります。
被保険利益がない場合と返還保険料
MIA1906第84条では、被保険者が危険期間を通じて被保険利益を有しなかった場合、原則として保険料が返還されるとされています。
ただし、賭博または投機目的の保険契約については、この取扱いは適用されません。
これは、被保険利益のない保険契約を通常の保険契約として扱わない一方で、詐欺や違法性がない場合には、保険料の返還関係を整理する趣旨といえます。
超過保険・重複保険と返還保険料
評価未済保険証券で超過保険となった場合には、複数の保険料の比例部分が返還されることがあります。
また、重複保険により超過保険となった場合にも、原則として複数の保険料の比例部分が返還されることがあります。
ただし、先に成立した保険契約が一時でも全危険を負担していた場合や、その保険契約に基づいて保険金が支払われている場合、また被保険者が重複保険であることを知りながら契約した場合には、返還が認められないことがあります。
相互保険とは
MIA1906第85条では、二人以上の者が、海上損害について相互に保険し合う場合を相互保険としています。
相互保険では、通常の保険料に関する規定はそのまま適用されず、保険料に代えて保証その他当事者間で合意された仕組みを用いることができます。
また、相互保険では、当事者間の合意、組合の規則、会則などによって、MIA1906の規定が修正されることがあります。
追認とは
MIA1906第86条では、ある者が他人のために善意で海上保険契約を締結した場合、その本人は、損害を知った後であっても契約を追認できるとされています。
これは、本人のために保険が手配されたものの、当初から明確な承認がなかった場合に、後からその契約を有効なものとして認める考え方です。
外航貨物海上保険では、商社、代理人、フォワーダー、関連会社などが保険手配に関与することがあるため、誰のために保険が手配されたのかを確認することが重要です。
黙示義務の変更
MIA1906第87条では、海上保険契約上、法律上当然に発生する権利、義務、責任について、明示の合意または取引慣習により、否定または変更できる場合があるとされています。
これは、海上保険契約が、法律の規定だけでなく、保険証券、協会約款、特別約款、当事者間の合意、取引慣習によって具体化されることを示しています。
外航貨物海上保険では、標準約款だけでなく、特別条件や個別合意を確認する必要があります。
合理的期間・合理的保険料・合理的注意
MIA1906第88条では、同法上の合理的期間、合理的保険料、合理的注意などについて、何が合理的かは事実問題であるとされています。
つまり、機械的に一律の期間や金額が決まるのではなく、具体的な事情に応じて判断されます。
外航貨物海上保険でも、通知の時期、委付通知、航海開始の遅れ、損害防止措置などでは、何が合理的かを事実関係に基づいて整理する必要があります。
スリップ・カバーノートの証拠性
MIA1906第89条では、適切に作成された保険証券がある場合、従来どおり、法的手続においてスリップまたはカバーノートを参照できるとされています。
海上保険契約では、正式な保険証券の発行前に、スリップ、カバーノート、その他の契約メモが実務上使われることがあります。
事故発生時には、保険証券だけでなく、保険引受の承諾、カバーノート、申込内容、通知記録なども確認資料になります。
用語解釈
MIA1906第90条では、同法上の用語について、文脈上別の意味が必要でない限り、一定の解釈を示しています。
例えば、Actionには反訴や相殺が含まれ、Freightには第三者から支払われる運賃だけでなく、船主が自己の貨物を運ぶことによって得る利益も含まれるとされています。
また、Moveablesは船舶以外の動産を意味し、金銭、有価証券、その他の書類も含まれます。Policyは海上保険証券を意味します。
他の法律・コモンローとの関係
MIA1906第91条では、同法によっても、印紙法、会社法、明示的に廃止されていない他の法律の規定には影響しないとされています。
また、同法の明示規定と矛盾しない限り、コモンローや商慣習法のルールは、海上保険契約に引き続き適用されるとされています。
これは、英国海上保険法が海上保険法理を成文化したものでありながら、コモンローや商慣習と完全に切り離されたものではないことを示しています。
廃止規定・短縮題名
MIA1906第92条および第93条は、その後の法改正により廃止されています。
第94条では、この法律の短縮題名を Marine Insurance Act 1906 とすると定めています。
これらは実務上の約款解釈や貨物事故処理では中心的な論点ではありませんが、法律全体の構成を理解するうえで補足的な意味を持ちます。
実務上の注意点
MIA1906第82条から第94条は、返還保険料、相互保険、追認、黙示義務の変更、合理的判断、スリップ・カバーノート、用語解釈などを定める補足規定です。
外航貨物海上保険の事故処理では、これらが主役になることは多くありません。
しかし、保険料返還、保険契約の追認、カバーノートの確認、取引慣習による条件変更、合理的期間の判断などが問題になる場合には、補助的に参照されることがあります。
このシリーズでは、被保険利益、保険証券、ワランティ、航海、損害、代位求償などの主要論点を中心に整理し、第82条以降は海上保険契約を支える補足規定として理解しておくとよいでしょう。
