ICC2009 保険期間条項の基本構造
ICC2009のDURATIONとは
ICC2009のDURATIONとは、Institute Cargo Clauses 2009において、貨物保険がいつ開始し、いつ終了し、予定された輸送に運送打切りや仕向地変更が生じた場合にどのように扱われるかを定める条項群です。
Institute Cargo Clauses (A)、(B)および(C)のDURATIONは、主に第8条のTransit Clause、第9条のTermination of Contract of Carriage、第10条のChange of Voyageで構成されています。
貨物事故では、火災、濡損、破損、盗難などの事故原因だけでなく、その損害が保険期間中に発生したかを確認する必要があります。事故が補償対象となる危険によって発生していても、保険始期前または保険終期後の損害であれば、保険金支払いの対象外となる可能性があります。
反対に、損害が保険終期後に発見された場合でも、保険期間中に発生したことを証明できれば、直ちに補償対象外となるわけではありません。損害発見日と損害発生日を区別し、貨物の移動履歴、引渡し状態、保管目的および事故原因を確認します。
保険期間内であることは、保険金支払いが確定することを意味しません。保険期間、補償危険、免責事由、被保険利益、損害額および事故通知は、それぞれ別の要件として確認する必要があります。
この記事で扱う範囲
| 項目 | この記事で扱う内容 | 他の記事で詳しく扱う内容 |
|---|---|---|
| 第8条 Transit Clause | 保険始期、通常の輸送過程、保険終期および60日条項を扱います。 | 外航貨物海上保険全般の期間設計は「外航貨物海上保険の保険期間」で扱います。 |
| 第9条 運送契約の打切り | 本来の仕向地以外で運送契約または輸送が打ち切られた場合を扱います。 | 運送人の運送打切権限やB/L上の自由裁量権はB/L裏面約款関連記事で扱います。 |
| 第10条 航海変更 | 被保険者による仕向地変更と、被保険者が知らない別仕向地への出帆を扱います。 | 仕向地変更に伴う運送契約上の責任はNVOCC・B/L関連記事で扱います。 |
| 通常の輸送過程 | 輸送上必要な一時保管と、在庫・割当・分配目的の保管を区別します。 | 倉庫保管中の事故原因や保管責任は倉庫事故関連記事で扱います。 |
| 60日条項 | 第8.1.4項と第9.1項で異なる起算点および終了事由を整理します。 | 個別契約による保険期間延長は保険会社・代理店への確認事項として扱います。 |
| コンテナの保管利用 | 輸送用具やコンテナを通常輸送外の保管に使用した場合の終期を扱います。 | Demurrage、DetentionおよびFree Timeの計算は各費用記事で扱います。 |
| 通関保留 | 書類不備、他法令確認、検査等による滞留と保険期間の関係を扱います。 | 通関手続上の原因と対応は「書類不備による通関保留」で扱います。 |
| Incoterms | 保険期間と売買上の危険移転が別概念であることを扱います。 | 条件別の付保手配は「インコタームズと外航貨物海上保険」で扱います。 |
| 被保険利益 | 第8条が第11条に従うことと、期間内損害でも被保険利益が必要であることを扱います。 | 譲受人、CIF取引、保険証券譲渡は「ICC2009 保険の利益条項」で扱います。 |
| 運送人・フォワーダー責任 | 保険期間、売買上の危険移転、運送人責任を分けて確認します。 | 責任分担は「貨物保険とフォワーダー責任の切り分け」で扱います。 |
| 事故区間不明 | 正常だった最後の時点と、異常が確認された最初の時点から期間内事故を検討します。 | 区間別の証拠評価は「事故区間不明の場合の責任判断」で扱います。 |
| 責任制限・代位求償 | 保険期間中の事故でも、運送人への求償には別の期限・限度があることを扱います。 | 責任限度額は「責任制限条項の確認」、求償手続は代位求償関連記事で扱います。 |
この記事が対象とする約款
| 確認項目 | この記事の対象 | この記事だけでは判断できない事項 | 別途確認する資料 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 基本約款 | Institute Cargo Clauses (A)、(B)、(C) 1/1/09の第8条から第10条 | 個別保険契約で修正・延長されているか | 保険証券、Certificate、特約 | ICC2009の標準文言だけで契約内容を確定しません。 |
| 航空貨物 | 海上貨物約款との比較上必要な範囲に限ります。 | Institute Cargo Clauses (Air)の固有の終期 | 航空貨物に適用される約款 | 海上貨物の60日を航空貨物へそのまま適用しません。 |
| 戦争・ストライキ危険 | 通常の貨物約款との関係のみ扱います。 | 戦争・ストライキ約款固有の保険期間 | Institute War Clauses、Institute Strikes Clauses | 基本貨物約款と同一の期間とは限りません。 |
| 補償危険 | 保険期間と補償危険を区別します。 | 事故原因がICC(A)、(B)、(C)で補償されるか | 適用条件、免責条項、事故資料 | 期間内であるだけでは補償されません。 |
| 被保険利益 | 第8条が第11条に従うことを確認します。 | 誰が損害時に経済的利害を有していたか | 売買契約、Incoterms、保険証券 | 期間内損害でも被保険利益が必要です。 |
| 期間延長 | 第9条・第10条の通知と継続要請の構造を扱います。 | 保険者が提示する追加保険料・条件 | 通知記録、保険者の承認 | 通知だけで無条件に補償が延長されるわけではありません。 |
DURATION条項の目的と背景
外航貨物海上保険は、貨物が特定の場所に存在することだけを理由に、無期限に補償を継続する保険ではありません。
貨物が出荷のために動き始め、通常の輸送過程を経て、指定された最終倉庫で荷卸しされるまでを基本的な時間的・場所的範囲とし、その途中で輸送上必要な遅延、積替え、やむを得ない荷卸し等が生じた場合の継続条件を定める必要があります。
一方、貨物が輸送目的から離れ、在庫保管、販売先別の割当、分配、納品時期調整などのために保管される場合まで、通常の貨物保険を自動的に継続させることは、輸送保険と保管保険の境界を不明確にします。
第8条は通常輸送の始期・終期を定め、第9条は被保険者の支配しえない事情による運送打切りを扱い、第10条は仕向地変更という予定輸送からの変更を扱います。
DURATION条項の目的は、「貨物がどこにあったか」だけでなく、「何の目的で動かされ、または保管されていたか」「予定された輸送が継続していたか」を基準として、保険期間の境界を設定することにあります。
DURATIONを構成する3つの条項
| 条項 | 条項名 | 主な機能 | 中心となる質問 | 通知・追加条件 |
|---|---|---|---|---|
| 第8条 | Transit Clause | 保険始期、通常の輸送過程、保険終期を定めます。 | 貨物はいつ輸送開始のために動き、いつ輸送目的を終えたか | 第8.3項の範囲内であれば一定の輸送変更中も継続しますが、第9条の適用に注意します。 |
| 第9条 | Termination of Contract of Carriage | 本来の仕向地以外で運送契約・輸送が打ち切られた場合を扱います。 | 打切りが被保険者の支配しえない事情によるものか | 遅滞ない通知、補償継続の要請および必要に応じた割増保険料が必要です。 |
| 第10条 | Change of Voyage | 保険開始後の仕向地変更と、知らない航海変更を扱います。 | 誰が仕向地を変更し、被保険者はいつ知ったか | 被保険者による変更では、遅滞ない通知と保険料率・条件の協定が必要です。 |
DURATIONが問題になる主な場面
| 適用場面 | 典型的な状況 | 中心となる条項 | 主な確認事項 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 出荷倉庫内の事故 | 貨物をトラック積込み場所へ移動中に転倒した | 第8.1項 | 輸送開始のための最初の移動か | 在庫移動や梱包作業とは区別します。 |
| 最終倉庫での荷卸し事故 | 配送車両から荷卸し中に貨物が落下した | 第8.1.1項 | 荷卸し完了前か後か | 到着時ではなく荷卸し完了時が重要です。 |
| 別倉庫への入庫 | 販売先別の割当のため中間倉庫へ搬入した | 第8.1.2項 | 通常輸送上の保管か、割当・分配目的か | 倉庫名ではなく利用目的を確認します。 |
| コンテナ保管 | 納品先未定のためコンテナを保管代わりに使用した | 第8.1.3項 | 被保険者側が保管利用を選択した時点 | Free Time内かどうかだけでは決まりません。 |
| 港頭長期滞留 | 通関保留により荷卸し後60日近く滞留した | 第8.1.4項 | 最終荷卸港での荷卸し完了日 | 通関保留中でも60日は進行します。 |
| 運送打切り | 港湾閉鎖等により別港で運送が終了した | 第9条 | 打切地、到着日、通知、継搬予定 | 補償継続の要請を行わなければ原則終了が問題になります。 |
| 荷主による仕向地変更 | 東京向け貨物を途中で大阪向けへ変更した | 第10.1項 | 変更時点、通知時点、保険者の条件 | 従前条件での自動継続ではありません。 |
| 知らない航海変更 | 被保険者に知らされず本船が別仕向地へ出帆した | 第10.2項 | 当初輸送の開始と被保険者の認識 | 危険開始を認める規定であり、無期限の補償を保証する規定ではありません。 |
| 事故発見が荷卸し後 | 最終倉庫で開梱後に内部損傷が判明した | 第8条 | 損害発見日ではなく発生時期 | 輸送中損害であることの証拠が必要です。 |
第8条 Transit Clauseの基本構造
第8条は、保険始期、通常輸送中の継続および保険終期を定める中心条項です。
第8.1項は第11条の被保険利益条項に従うことを前提としています。したがって、第8条上の保険期間内に損害が発生しても、請求者が損害時に被保険利益を有していなければ、保険金請求が当然に認められるわけではありません。
第8条の基本的な流れは次のとおりです。
- 保険契約で指定された出発地の倉庫・保管場所を確認する。
- 輸送開始のために貨物が最初に動かされた時点を確認する。
- 貨物が通常の輸送過程にあるかを継続して確認する。
- 第8.1.1項から第8.1.4項の終了事由を比較する。
- 最も早く発生した終了事由を保険終期とする。
- 途中で運送打切りや仕向地変更があれば、第9条・第10条を確認する。
保険始期は「輸送開始のために最初に動かされた時」
ICC2009では、保険契約で指定された倉庫または保管場所において、輸送開始のために輸送車両その他の輸送用具へ直ちに積み込む目的で、被保険貨物が最初に動かされた時に保険が開始します。
単に倉庫内で貨物が物理的に動いたという事実だけでは足りません。その移動が、保険契約で予定された輸送の開始を目的とするものであったかを確認します。
| 移動の場面 | 保険始期と見やすい事情 | 始期前が問題になりやすい事情 | 確認資料 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 棚から出荷場所への移動 | 積込み車両が決まり、そのまま積込みへ続く | 出荷日未定のまま仮置きした | 出荷指示、配車記録、作業時刻 | 移動目的と積込みとの連続性を確認します。 |
| フォークリフトによる移動 | 輸送車両への積込み作業の一部 | 棚卸しや在庫整理のための移動 | 作業指示書、倉庫記録 | 使用機器ではなく作業目的が重要です。 |
| 梱包場所への移動 | 梱包済みで、そのまま出荷積込みへ移る | これから梱包・検品・加工を行う | 梱包完了記録、作業工程 | 出荷準備と輸送開始を区別します。 |
| 荷捌場への移動 | 当日の集荷車両へ直ちに積み込む | 数日間荷捌場で保管する予定 | 集荷時刻、車両受付記録 | 「直ちに積み込む目的」があるか確認します。 |
| コンテナへのバンニング | 予定輸送の開始として行われる | コンテナ内へ長期保管するために収納する | バンニング指示、Booking | 輸送用コンテナか保管用コンテナかを区別します。 |
保険終期となる4つの事由
第8.1項では、次の終了事由のうち、最初に発生した時に保険が終了します。
| 条項 | 終了事由 | 終了時点 | 典型例 | 確認資料 |
|---|---|---|---|---|
| 第8.1.1項 | 指定仕向地の最終倉庫・保管場所への到着 | 輸送用具からの荷卸しが完了した時 | 輸入者倉庫でトラックから全貨物を荷卸しした | POD、荷卸し記録、監視映像 |
| 第8.1.2項 | 通常輸送外の保管、割当、分配に使用する別倉庫 | その倉庫で輸送用具からの荷卸しが完了した時 | 販売先別仕分けのため配送センターへ搬入した | 入庫指示、保管契約、配送計画 |
| 第8.1.3項 | 輸送用具またはコンテナを通常輸送外の保管に使用 | 被保険者または使用人が保管利用を選択した時 | 納品先未定のためコンテナを在庫保管に使用した | メール、納品延期指示、滞留理由 |
| 第8.1.4項 | 最終荷卸港での荷卸し後の期間経過 | 航洋船舶からの荷卸し完了後60日 | 通関未了のままCY・CFSで長期滞留した | 本船荷卸し記録、ターミナル記録 |
最終倉庫へ貨物が到着しただけでは、第8.1.1項上の終了時点とは限りません。輸送用具からの荷卸しが完了した時点を確認します。
一方、第8.1.3項では、コンテナや車両から荷卸しされていなくても、被保険者側がそれを通常輸送外の保管に利用することを選択した時点で終了が問題になります。
2種類の「60日」を混同しない
ICC2009には、第8.1.4項と第9.1項に60日の期間が登場しますが、起算点も適用場面も異なります。
| 比較項目 | 第8.1.4項の60日 | 第9.1項の60日 | 共通点 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 適用場面 | 予定された最終荷卸港まで到着した通常の輸送 | 被保険者の支配しえない事情で別港・別場所に運送が打ち切られた場合 | 無期限の保険継続を防ぐ時間的限界です。 | どちらの条項が適用されるかを先に確定します。 |
| 起算点 | 最終荷卸港で航洋船舶からの荷卸しが完了した時 | 被保険貨物が運送打切港・打切地へ到着した時 | いずれも日付の証拠が重要です。 | 本船到着日だけで計算しません。 |
| 保険継続の要請 | 標準の終了事由として機能します。 | 第9条による継続には遅滞ない通知と継続要請が必要です。 | 特約で変更される可能性があります。 | 第9条は通知しなければ当然継続する構造ではありません。 |
| 期間内の継搬 | 第8.2項または第10条との関係を確認します。 | 60日または合意延長期間内に継搬すれば第8条による終期まで継続し得ます。 | 変更後の仕向地・輸送条件を確認します。 | 継搬開始前に保険者へ連絡します。 |
| 他の終了事由 | 第8.1.1項から第8.1.3項が先に起きれば、その時点で終了します。 | 貨物が売却・引渡しされた時が60日より早ければ、その時点で終了します。 | いずれも「最初に起きた時」を確認します。 | 60日間必ず補償されるという意味ではありません。 |
通常の輸送過程とは
通常の輸送過程とは、保険契約で予定された出発地から仕向地まで、輸送目的に沿って貨物が継続的に移動している状態をいいます。
一時的に倉庫、CFS、CYまたはターミナルへ置かれていても、その保管が通関、積替え、配車待ち、船積み待ち等のために輸送上通常必要なものであれば、直ちに通常の輸送過程を外れるとは限りません。
形式的な場所の名称だけでは判断できません。保管の目的、期間、次の輸送手配、被保険者の選択および貨物の利用可能性を総合して確認します。
| 判断軸 | 通常の輸送過程内と見やすい事情 | 通常輸送外の保管と見やすい事情 | 確認資料 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 保管目的 | 通関、積替え、配車、船積み等の輸送上の必要 | 在庫保管、販売先別割当、分配、納品時期調整 | 保管指示、配送計画 | 費用科目より実際の目的を確認します。 |
| 保管期間 | 通常の手続に必要な期間 | 期間を定めず長期滞留している | 入出庫日、作業予定 | 短期間でも保管目的なら終了が問題になります。 |
| 次の輸送 | 車両、船便、納品日が具体的に決まっている | 次の輸送先・日程が決まっていない | Booking、配車依頼 | 予定の具体性を確認します。 |
| 被保険者の選択 | 港湾混雑等によりやむを得ず滞留した | 被保険者の在庫都合で保管を選択した | メール、社内指示 | 支配しえない遅延か自主的選択かを分けます。 |
| 貨物の使用可能性 | 輸送完了前で販売・使用できない状態 | 貨物を在庫として自由に割当・出荷できる状態 | 在庫登録、販売指示 | 物理的な場所だけで判断しません。 |
| 契約上の仕向地 | 保険契約で指定された最終目的地へ向かっている | 指定外の場所で輸送目的が終了している | 保険証券、運送指示 | 第9条・第10条の適用も確認します。 |
コンテナや車両を保管代わりに使用する場合
第8.1.3項は、被保険者またはその使用人が、輸送車両その他の輸送用具またはコンテナを、通常の輸送過程以外の保管に使用することを選んだ時を終了事由としています。
したがって、貨物がコンテナ内に残っていることだけを理由に、「まだ輸送中である」と判断することはできません。
通関、搬出、配車等に通常必要な期間だけCYで待機している場合と、倉庫不足、販売先未定、納品日未定等の理由によりコンテナを在庫保管場所として使用する場合は区別します。
第8.1.3項では、実際に貨物をコンテナから荷卸しした時ではなく、通常輸送外の保管に使用することを選んだ時が問題になる点に注意が必要です。
第8.2項と第10.1項の違い
第8.2項と第10.1項はいずれも仕向地の変更に関係しますが、適用される段階と効果が異なります。
| 比較項目 | 第8.2項 | 第10.1項 | 判断の中心 | 実務対応 |
|---|---|---|---|---|
| 適用時期 | 最終荷卸港で航洋船舶から荷卸しされた後、保険終了前 | 保険開始後に被保険者が仕向地を変更した場合 | 変更がいつ行われたか | 変更指示の日時を保存します。 |
| 基本効果 | 変更先への輸送開始のため貨物が最初に動かされた時以降は標準補償が延長されません。 | 保険者へ遅滞なく通知し、保険料率・条件を協定します。 | 標準期間でどこまで継続するか | 貨物を動かす前に保険者へ確認します。 |
| 通知 | 第10条との関係を含め、継続希望なら通知が必要です。 | 遅滞ない通知が明示的に要求されます。 | 通知時点と変更時点 | 口頭連絡だけでなく書面記録を残します。 |
| 損害が協定前に発生 | 第8.2項だけで新仕向地への補償を確定できません。 | 合理的な市場料率・条件で補償が得られた場合に限り、補償が提供される可能性があります。 | 市場で引受可能だったか | 自動補償と説明しません。 |
第8.3項で保険が継続する場面
第8.3項では、第8.1.1項から第8.1.4項の終了事由および第9条に従うことを前提として、次の期間中も保険が有効に存続するとされています。
- 被保険者の支配しえない遅延
- 離路
- やむを得ない荷卸し
- 再積込み
- 積替え
- 運送契約により運送人へ与えられた自由裁量権の行使による輸送上の変更
ただし、保険が遅延期間中も有効に存続することと、遅延によって生じた損害自体が補償されることは別問題です。
ICC(A)、(B)、(C)では、原則として遅延によって生じた損害・費用は免責条項の対象となります。したがって、「遅延中も保険期間内である」ことから、「遅延損害も補償される」と結論づけることはできません。
第9条 運送契約の打切り
第9条は、被保険者の支配しえない事情により、運送契約が本来の仕向地以外の港・場所で打ち切られた場合、または第8条に定める荷卸し前に輸送が終了した場合を扱います。
この場合、原則として貨物保険も終了します。ただし、被保険者が遅滞なく保険者へ通知し、補償の継続を要請した場合には、保険者が必要とする割増保険料の支払いを条件として補償が継続される可能性があります。
| 確認項目 | 確認内容 | 第9条上の意味 | 主な資料 | 問題がある場合の対応 |
|---|---|---|---|---|
| 本来の仕向地 | 保険契約・運送契約で指定された場所 | 運送打切地との相違を判断します。 | 保険証券、B/L | 保険契約とB/Lの表記差を整理します。 |
| 打切り理由 | 港湾閉鎖、運送不能、政治的事情等 | 被保険者の支配しえない事情か確認します。 | 運送人通知、公的情報 | 被保険者自身の自主変更なら第10条も検討します。 |
| 到着日 | 貨物が打切港・打切地へ到着した日 | 第9.1項の60日の起算点になります。 | Arrival Notice、搬入記録 | 本船到着日と貨物到着日を区別します。 |
| 通知時期 | 被保険者が打切りを知り、保険者へ通知した時 | 補償継続の前提になります。 | メール、通知受付記録 | 運送人への連絡だけで保険者通知に代えません。 |
| 継続要請 | 補償を継続してほしい旨の明示 | 単なる事故報告と区別されます。 | 継続依頼書 | 目的地、経路、保管予定を明示します。 |
| 売却・引渡し | 打切地で貨物を売却・引き渡すか | 売却・引渡し時が終了事由になります。 | 売買・引渡し記録 | 60日より先でも売却時に終了します。 |
| 継搬 | 60日または合意延長期間内に再輸送するか | 第8条による終期まで継続し得ます。 | 新Booking、配車記録 | 追加条件・保険料を確認します。 |
第10条 Change of Voyage
第10.1項:被保険者が仕向地を変更する場合
保険開始後に被保険者が仕向地を変更する場合は、遅滞なく保険者へ通知し、保険料率および保険条件について協定する必要があります。
仕向地を変更したからといって、従前と同じ保険料・条件で補償が自動的に継続するわけではありません。
協定前に損害が発生した場合でも、合理的な市場料率および合理的な市場条件で補償を引き受けることが可能だった場合に限り、補償が提供される可能性があります。
したがって、第10.1項は「通知さえすれば必ず補償される」という規定ではありません。変更後の貨物、経路、保管、危険状態について、市場で合理的に保険を引き受けられたかが問題になります。
第10.2項:被保険者が知らないまま別仕向地へ出帆した場合
第10.2項は、被保険貨物が第8.1項に従って予定された輸送を開始したものの、被保険者またはその使用人が知らないまま、本船が別の仕向地へ出帆した場合を扱います。
この場合でも、保険は予定された輸送の開始時に危険を開始したものと扱われます。
この規定は、被保険者が知らない航海変更を理由として、保険始期そのものが否定されることを防ぐ機能を持ちます。
ただし、第10.2項は、別仕向地への全輸送について無条件・無期限に補償を保証する規定ではありません。被保険者が事実を知った後は、直ちに保険者へ連絡し、その後の保険条件を確認する必要があります。
第8.3項・第9条・第10条の区別
| 比較項目 | 第8.3項 | 第9条 | 第10条 | 判断のポイント |
|---|---|---|---|---|
| 中心事象 | 輸送中の遅延、離路、積替え等 | 予定仕向地以外で運送契約・輸送が打ち切られた | 仕向地そのものが変更された | 輸送が継続しているか、終了したか、目的地が変わったかを区別します。 |
| 被保険者の関与 | 支配しえない遅延等が中心 | 支配しえない事情が要件 | 第10.1項は被保険者による変更、第10.2項は知らない変更 | 誰が変更を決めたか確認します。 |
| 標準補償の継続 | 第8条の終了事由・第9条に従い継続 | 原則終了。通知と継続要請で継続し得る | 通知・条件協定が必要 | 同じ「予定変更」でも効果が異なります。 |
| 追加保険料 | 第8.3項自体では必ずしも要求されません。 | 保険者が要求する場合があります。 | 変更後の料率・条件を協定します。 | 追加保険料の有無は保険者へ確認します。 |
| 代表例 | 本船遅延、通常の積替港変更、やむを得ない荷卸し | 港湾閉鎖により途中港で運送終了 | 買主の指示で東京から大阪へ仕向地変更 | 名称だけでなく実際の運送状況を確認します。 |
ICC1963・ICC1982・ICC2009の比較
| 比較項目 | ICC1963 | ICC1982 | ICC2009 | 実務上の変化 |
|---|---|---|---|---|
| 保険始期 | 貨物が輸送開始のため倉庫・保管場所を離れた時 | 貨物が輸送開始のため倉庫・保管場所を離れた時 | 直ちに輸送用具へ積み込む目的で貨物が最初に動かされた時 | 倉庫出口ではなく、倉庫内の最初の輸送開始作業へ基準が具体化されました。 |
| 最終倉庫での終期 | 最終倉庫・保管場所への引渡し | 最終倉庫・保管場所への引渡し | 輸送用具からの荷卸し完了 | 到着・引渡しより具体的な作業時点が明示されました。 |
| 通常輸送外の別倉庫 | 保管、割当、分配のために選択した倉庫への引渡し | 保管、割当、分配のために選択した倉庫への引渡し | 当該倉庫で輸送用具からの荷卸しが完了した時 | 終了時点が荷卸し完了として具体化されました。 |
| コンテナ・車両の保管利用 | 独立した終了事由としては明示されていません。 | 独立した終了事由としては明示されていません。 | 第8.1.3項で明示されました。 | コンテナを倉庫代わりに使う場合の境界が明確になりました。 |
| 最終荷卸港後の60日 | 規定あり | 規定あり | 第8.1.4項として継承 | 60日という基本枠組みは維持されています。 |
| 運送打切り | Termination of Adventureとして規定 | Termination of Contract of Carriageとして第9条に規定 | 第9条として継承・整理 | 運送契約・輸送の終了との関係が明確になっています。 |
| 仕向地変更 | 割増保険料を条件とするHeld Covered型 | 遅滞ない通知、保険料・条件を後日協定するHeld Covered型 | 合理的な市場料率・条件での引受可能性を含めて具体化 | 協定前損害の判断基準が明確化されました。 |
| 知らない別仕向地への出帆 | 現行第10.2項に相当する明示規定なし | 現行第10.2項に相当する明示規定なし | 第10.2項で危険開始を明示 | 被保険者が知らない航海変更時の始期が明確になりました。 |
保険期間と関連制度の違い
| 概念 | 主な意味 | 判断基準 | 主な確認資料 | DURATIONとの関係 |
|---|---|---|---|---|
| 保険期間 | 貨物保険が時間的・場所的に有効な範囲 | 第8条から第10条、特約 | 保険証券、移動記録 | DURATIONが直接規律します。 |
| 補償危険 | どの事故原因を保険で補償するか | ICC(A)、(B)、(C)および免責条項 | 事故原因資料、適用約款 | 期間内でも補償危険でなければ支払われません。 |
| 売買上の危険移転 | 売主・買主のどちらが貨物損害リスクを負うか | 売買契約、Incoterms | 注文書、インボイス | 保険期間と一致するとは限りません。 |
| 被保険利益 | 損害によって経済的損失を受ける関係 | ICC2009第11条、取引構造 | 売買契約、保険証券 | 期間内損害の請求資格に関係します。 |
| 運送人責任 | 運送人・NVOCC等が損害賠償責任を負う範囲 | B/L、運送契約、適用法 | House B/L、Master B/L | 保険期間とは別契約上の問題です。 |
| Free Time | Demurrage等が発生しない猶予期間 | 船会社・ターミナルの料金条件 | Arrival Notice、Tariff | 保険期間を決定する期間ではありません。 |
| Demurrage・Detention | コンテナ・ターミナル使用に関する追加費用 | 料金条件、返却日、搬出日 | 請求明細、EIR | 費用発生の有無と保険終期は別問題です。 |
| 保管契約 | 倉庫業者が貨物を保管する契約期間 | 倉庫契約、入出庫記録 | 倉庫受領書 | 輸送保険終了後も保管契約は続く場合があります。 |
保険期間を判断する実務フロー
| 段階 | 確認内容 | 主な資料 | 判断結果 | 次の対応 |
|---|---|---|---|---|
| 1. 適用約款 | ICC2009のA・B・C、特約の有無 | 保険証券、Certificate | 適用する期間条項を確定 | 航空・戦争・ストライキ約款を区別します。 |
| 2. 指定出発地 | 保険契約で指定された倉庫・保管場所 | 保険証券、申込書 | 始期判定の場所を確定 | 実際の出荷場所との相違を確認します。 |
| 3. 最初の移動 | 輸送開始のために貨物が最初に動いた日時 | 作業記録、配車記録 | 保険始期を推定 | 在庫移動・梱包作業を除外します。 |
| 4. 通常輸送 | 各保管・滞留が輸送目的か | Booking、通関・配送記録 | 通常の輸送過程内か判断 | 自主的保管への切替えを確認します。 |
| 5. 終了事由 | 第8.1.1項から第8.1.4項の発生日時 | POD、荷卸し・港湾記録 | 最も早い終期を特定 | 60日だけで判断しません。 |
| 6. 運送打切り | 本来の仕向地以外で輸送が終了したか | 運送人通知、Arrival Notice | 第9条の適用を判断 | 直ちに保険者へ通知します。 |
| 7. 仕向地変更 | 被保険者が変更したか、知らない変更か | 変更指示、船会社通知 | 第10.1項または第10.2項を判断 | 保険料率・条件を確認します。 |
| 8. 損害時期 | 損害がいつ発生した可能性が高いか | 写真、Survey Report、温度記録 | 期間内事故か評価 | 発見日と発生日を区別します。 |
| 9. 補償危険 | 事故原因が適用条件で補償されるか | 事故調査、適用約款 | 期間以外の担保要件を確認 | 遅延・固有の瑕疵等の免責を確認します。 |
| 10. 権利保全 | 運送人・倉庫等への通知と期限 | Claim Letter、B/L | 代位求償可能性を維持 | 保険査定と並行して通知します。 |
よくある誤解
| よくある誤解 | 実際の考え方 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 海上輸送貨物の保険は本船積込み時に始まる | ICC2009では、指定倉庫等で輸送開始のため貨物が最初に動かされた時が始期になります。 | 倉庫内の作業目的と車両積込みとの連続性を確認します。 |
| 倉庫内で一度でも動けば保険が始まる | 輸送用具へ直ちに積み込む目的で、輸送開始のために動かされたことが必要です。 | 棚卸し、在庫整理、梱包作業を区別します。 |
| 最終倉庫へ到着した瞬間に保険が終わる | 第8.1.1項では、輸送用具からの荷卸し完了時が終期です。 | PODだけでなく荷卸し記録を確認します。 |
| コンテナ内にあれば常に輸送中である | コンテナを通常輸送外の保管に利用することを選択した時に終了が問題になります。 | 納品延期・在庫保管の指示時点を確認します。 |
| 最終荷卸港から必ず60日間補償される | 第8.1.1項から第8.1.3項が先に発生すれば、その時点で終了します。 | 60日は最長期間ではなく、複数の終了事由の一つです。 |
| 第8条と第9条の60日は同じ起算点である | 第8.1.4項は最終港での荷卸し完了後、第9.1項は打切地への到着後です。 | 適用条項と起算資料を分けます。 |
| Free Time内なら保険期間内である | Free Timeはコンテナ・ターミナル料金上の期間であり、保険期間とは別です。 | Free Timeと第8条の終期を別々に計算します。 |
| 通関保留中は無期限に通常輸送が続く | 通関保留中でも第8.1.4項の60日は進行し、保管目的への切替えも問題になります。 | 長期化する前に期間延長を相談します。 |
| 遅延中も保険が続くため、遅延損害も補償される | 第8.3項上の期間継続と、遅延損害の免責は別問題です。 | 事故原因が遅延そのものか、期間中の別危険かを確認します。 |
| 仕向地変更を通知すれば必ず同条件で補償される | 第10.1項では保険料率・条件の協定が必要で、協定前損害には市場引受可能性の条件があります。 | 変更前または判明直後に書面で確認します。 |
| 被保険者が知らない航海変更では全損害が無条件に補償される | 第10.2項は予定輸送開始時の危険開始を認める規定です。 | 変更判明後の通知と、その後の条件確認が必要です。 |
| 損害が保険終期後に発見されれば必ず対象外である | 保険期間中に損害が発生したことを立証できれば、発見日だけで排除されるとは限りません。 | 正常時点、異常発見時点、梱包状態を記録します。 |
実務で問題になりやすいケース
| ケース | 主な争点 | 中心となる条項 | 確認資料 | 初動対応 |
|---|---|---|---|---|
| 輸出倉庫内でトラック積込み前に貨物が転倒した | 輸送開始のための最初の移動か | 第8.1項 | 作業指示、配車記録、監視映像 | 移動目的と積込み予定を確定します。 |
| 最終倉庫で荷卸し中に貨物が落下した | 荷卸し完了前の事故か | 第8.1.1項 | POD、荷卸し記録、写真 | 荷卸しの完了時刻と事故時刻を記録します。 |
| 配送センターで販売先別に保管した後に損傷した | 通常輸送外の割当・分配目的か | 第8.1.2項 | 入庫目的、在庫・分配指示 | 荷卸し完了時点を確認します。 |
| 輸入者の倉庫不足でコンテナを保管代わりに使用した | 保管利用を選択した時点 | 第8.1.3項 | 納品延期メール、Free Time記録 | 保険者へ期間・保管条件を直ちに照会します。 |
| 通関保留中に最終港荷卸し後60日を超えた | 第8.1.4項による保険終了 | 第8.1.4項 | 荷卸し完了日、通関記録 | 事故発生推定日と延長合意を確認します。 |
| 港湾閉鎖により途中港で運送が打ち切られた | 第9条による終了と補償継続 | 第9条 | 運送人通知、到着日、保険者通知 | 継続要請と継搬予定を保険者へ通知します。 |
| 荷主が輸送途中で仕向地を変更した | 変更後条件の協定 | 第10.1項 | 変更指示、保険者回答 | 変更先へ輸送する前に承認を取得します。 |
| 被保険者が知らないまま本船が別港へ向かった | 危険開始と判明後の通知 | 第10.2項 | 船会社通知、航海記録 | 知った時点を記録し、直ちに保険者へ通知します。 |
| 最終倉庫で開梱後に内部濡損を発見した | 損害発生日と発見日の相違 | 第8条 | 開梱動画、梱包材、Survey Report | 輸送中損害の証拠を保存します。 |
判断チェックリスト
| 確認場面 | 確認する相手 | 確認事項 | 問題がある場合の対応 |
|---|---|---|---|
| 適用約款の確認 | 保険会社、保険代理店 | ICC2009のA・B・C、特約、期間延長 | 保険証券と適用約款を取得します。 |
| 指定出発地の確認 | 荷主、保険会社 | 保険契約で指定された倉庫・保管場所 | 実際の出荷場所との差を通知します。 |
| 保険始期の確認 | 倉庫、梱包会社、配送会社 | 最初の移動時刻、目的、積込みとの連続性 | 監視映像・作業記録を保存します。 |
| 通常輸送の確認 | 荷主、フォワーダー、倉庫 | 保管目的、期間、次の輸送予定 | 保管目的への切替え時点を特定します。 |
| 最終荷卸しの確認 | 配送会社、納品先 | 荷卸し開始・完了日時、事故時刻 | PODだけでなく作業記録を取得します。 |
| 別倉庫利用の確認 | 荷主、倉庫会社 | 通常輸送、在庫保管、割当、分配の別 | 第8.1.2項の終了可能性を確認します。 |
| コンテナ保管の確認 | 荷主、NVOCC、配送会社 | 保管利用を決めた者・日時・理由 | 第8.1.3項と期間延長の要否を確認します。 |
| 第8条の60日確認 | 船会社、ターミナル | 最終港での航洋船舶からの荷卸し完了日 | ターミナルの公式記録を取得します。 |
| 運送打切りの確認 | 船会社、NVOCC | 打切地、理由、到着日、継搬予定 | 直ちに保険者へ継続を要請します。 |
| 第9条の60日確認 | 運送人、現地代理店 | 打切港・場所への貨物到着日 | 第8条の60日と別に期限管理します。 |
| 仕向地変更の確認 | 荷主、買主、フォワーダー | 変更決定者、変更日時、新仕向地 | 保険者と料率・条件を協定します。 |
| 知らない航海変更 | 船会社、NVOCC | 本船の実際の仕向地、被保険者の認識時点 | 判明後直ちに保険者へ通知します。 |
| 損害発生時期 | Surveyor、倉庫、配送会社 | 最後に正常だった時点、最初の異常確認 | 期間内発生を示す証拠を時系列化します。 |
| 権利保全 | 運送人、NVOCC、倉庫会社 | 事故通知、Claim Letter、通知・出訴期限 | 保険期間の判断を待たずに権利留保します。 |
フォワーダー標準5区分と保険期間確認
| 標準区分 | 保険期間確認で関与しやすい業務 | 確認・説明できる範囲 | 断定すべきでない事項 | 最終判断の主体 |
|---|---|---|---|---|
| 単純取次 | 保険申込み、運送人・倉庫との連絡、移動記録の収集 | 適用約款、出荷・荷卸し・通知日時の整理 | 保険金支払いの可否や保険終期の最終確定 | 保険会社、保険代理店、契約当事者 |
| 貨物利用運送事業者 | 区間別輸送、積替え、継搬、配送手配 | 自社が引き受けた輸送区間と貨物移動履歴の説明 | 自社の運送責任と貨物保険の補償を同一視すること | 保険会社、契約当事者、必要に応じ専門家 |
| NVOCC・House B/L発行者 | 海上輸送、積替え、最終港荷卸し、運送打切りの通知 | House B/L・Master B/L上の運送履歴と日付の提供 | 貨物保険の期間がHouse B/L責任期間と一致すると断定すること | 保険会社、契約当事者 |
| Door to Door一括引受者 | 出荷倉庫から最終納品先までの時系列管理 | 始期・終期候補、事故区間、保管目的の整理 | 一括引受けであることを理由に保険期間内と保証すること | 保険会社、保険契約者・被保険者 |
| 特定業務の代理・調整者 | 通関、倉庫、梱包、配送、仕向地変更等の調整 | 受託業務内で知った変更事実と通知履歴の整理 | 保険者の承認なしに期間延長・仕向地変更補償を約束すること | 保険会社、契約当事者 |
フォワーダーやNVOCCは、貨物の移動日時、荷卸し日時、保管目的、運送打切り、仕向地変更等の事実資料を整理できますが、保険期間内かどうかの最終判断や、保険金支払いの可否を独自に確定する立場ではありません。
また、フォワーダーが貨物保険の手配を取り次いだ場合でも、運送変更や長期保管が判明した時点で、保険契約者・被保険者から保険会社または代理店へ正式に通知し、書面による回答を取得する必要があります。
具体例1:輸入コンテナを保管代わりに使用したケース
輸入コンテナが港へ到着しましたが、輸入者の倉庫が満杯であったため、納品日を決めずにコンテナをCYへ留置し、そのまま在庫保管場所として使用することにしました。その後、コンテナ内で結露とカビが発見されました。
このケースでは、貨物がコンテナ内に残っていたことだけを理由に、通常の輸送過程中であったとは判断できません。
通関・搬出・配車のために通常必要な一時的滞留だったのか、輸入者が倉庫不足を理由にコンテナを保管利用することを選択したのかを確認します。
保管利用が選択された場合は、第8.1.3項による保険終了が問題になります。Free Time内であったか、Demurrageが発生していたかは参考資料にはなりますが、保険終期を直接決定するものではありません。
Arrival Notice、通関許可日、搬出可能日、納品延期指示、倉庫との調整記録、Free Time、温湿度記録および貨物写真を時系列で整理します。
具体例2:通関保留が長期化したケース
書類不備と輸入規制の確認により通関が長期化し、貨物が最終荷卸港のCFSへ長期間留置されました。荷卸し完了後58日目に外装異常が発見され、詳細調査は62日目に行われました。
この場合、最初に確認するのは損害発見日ではなく、航洋船舶からの荷卸し完了日と、損害がいつ発生した可能性が高いかです。
第8.1.4項の60日は、最終荷卸港での荷卸し完了後に進行します。通関保留中であることだけで、保険期間が無期限に延長されるわけではありません。
58日目の外装異常、入庫時の状態、CFS内での保管状況、温湿度、雨水浸入記録、写真を確認し、期間内に損害が発生した可能性を検討します。
60日を超える可能性が判明した段階で、保険会社へ通知し、期間延長または保管条件変更の必要性を確認しておくべきケースです。
具体例3:途中港で運送契約が打ち切られたケース
港湾閉鎖により、本来の仕向地まで運送できず、貨物が途中港で荷卸しされ、運送契約が打ち切られました。
このケースでは、第8.3項のやむを得ない荷卸しとして輸送が一時的に継続しているのか、運送契約・輸送自体が終了して第9条が適用されるのかを確認します。
運送人が本来の仕向地までの運送を終了すると正式に通知している場合は、第9条による保険終了が問題になります。
被保険者は、打切りを知った後、遅滞なく保険者へ通知し、補償継続を要請します。新たな船便または陸送で継搬する場合は、経路、仕向地、保管期間および追加保険料を確認します。
第9.1項の60日は、その打切港・場所への貨物到着後を起算点とするため、第8.1.4項の60日と混同してはいけません。
具体例4:荷主が仕向地を東京から大阪へ変更したケース
東京向けとして保険を手配した貨物について、海上輸送中に買主の都合で大阪へ仕向地を変更することになりました。
被保険者の判断による仕向地変更であるため、第10.1項が問題になります。
荷主またはフォワーダーは、変更後の輸送を開始する前に、保険会社へ新仕向地、経路、輸送用具、予定日程および保管予定を通知し、料率・条件を確認します。
変更後も従前と同じ条件で自動的に補償されるわけではありません。協定前に損害が発生した場合は、合理的な市場条件で補償を引き受けることが可能だったかが問題になります。
運送人へ仕向地変更を依頼した記録と、保険者へ通知した記録を分けて保存します。運送人への指示は、保険者への通知の代わりにはなりません。
具体例5:被保険者が知らないまま本船が別仕向地へ出帆したケース
被保険者は予定どおりの仕向地へ本船が向かっていると認識していましたが、船会社の運航上の事情により、本船が当初予定とは異なる仕向地へ出帆していました。
被保険者およびその使用人がこの変更を知らなかった場合、第10.2項により、保険は予定された輸送の開始時に危険を開始したものと扱われます。
ただし、変更を知った後も通知せず、その後の輸送や保管を放置した場合まで、従前条件で当然に補償が続くとは限りません。
船会社の航海変更通知、被保険者が通知を受領した日時、保険者への連絡日時、その後の輸送計画を確認します。
被保険者が変更を知った時点を明確にするため、メール受信記録や社内転送記録を保存することが重要です。
実務上確認すべき資料
- 保険証券、Insurance Certificate、保険申込書
- 適用されるICC2009および個別特約
- 保険契約で指定された出発地・仕向地
- インボイス、Packing List、売買契約
- Incoterms、注文書、契約変更記録
- B/L、House B/L、Master B/L、必要に応じAWB
- Booking、Shipping Instructions、配車依頼
- 輸出倉庫の出庫・作業・監視記録
- バンニング記録、CFS・CY搬入記録、EIR
- 本船出港日、到着日、荷卸し開始・完了記録
- Arrival Notice、D/O交換日、輸入許可日
- CFS・CY・倉庫の入出庫記録
- 最終配送日、POD、荷卸し開始・完了記録
- Free Time、Demurrage、Detentionおよび保管料の記録
- コンテナ・車両を保管利用する旨の指示
- 運送打切り、継搬および仕向地変更の連絡記録
- 保険者への通知、継続要請および承認記録
- 追加保険料・変更条件の提示書
- 事故通知、Claim Letter、Survey Report
- 写真、開梱動画、温湿度・監視記録
保険期間の確認では、日付だけでなく、貨物がその時点で何の目的で動かされ、または保管されていたかを記録する必要があります。
事故発生日が特定できない場合は、「正常であることが最後に確認された時点」と「異常が最初に確認された時点」を設定し、その間の移動、保管、荷役および管理者を時系列表にします。
まとめ
ICC2009のDURATIONは、第8条のTransit Clause、第9条のTermination of Contract of Carriage、第10条のChange of Voyageから構成されます。
第8条では、保険契約で指定された倉庫・保管場所において、輸送開始のために輸送用具へ直ちに積み込む目的で、貨物が最初に動かされた時に保険が開始します。
保険は通常の輸送過程中継続し、指定仕向地の最終倉庫での荷卸し完了、通常輸送外の保管・割当・分配に使用する別倉庫での荷卸し完了、輸送用具・コンテナを保管利用することを選択した時、または最終荷卸港での荷卸し完了後60日のうち、最も早い時に終了します。
第8.1.4項の60日は最終荷卸港での荷卸し完了後を起算点とします。一方、第9.1項の60日は、運送打切港・場所への貨物到着後を起算点とします。両者は適用場面も起算点も異なります。
第8.3項により、被保険者の支配しえない遅延、離路、やむを得ない荷卸し、再積込み、積替え等の期間中も保険が継続する場合があります。ただし、遅延中も保険期間内であることと、遅延によって生じた損害が補償されることは別問題です。
第9条では、被保険者の支配しえない事情により運送が本来の仕向地以外で打ち切られた場合、原則として保険も終了します。補償を継続するには、遅滞ない通知、継続要請および必要に応じた割増保険料の支払いが必要です。
第10.1項では、被保険者が仕向地を変更した場合、遅滞なく保険者へ通知し、保険料率・条件を協定する必要があります。第10.2項では、被保険者が知らないまま本船が別仕向地へ出帆した場合でも、予定輸送の開始時に保険が開始したものと扱われます。
保険期間、売買上の危険移転、被保険利益、運送人責任、Free Time、DemurrageおよびDetentionは、それぞれ別の概念です。一つの期間や名義だけを見て、保険金支払いまたは責任の有無を判断してはいけません。
事故発生時は、保険始期、通常の輸送過程、最初に生じた終了事由、運送打切り、仕向地変更、損害発生時期および保険者への通知を時系列で確認します。
外航貨物海上保険は、保険料より条件で差が出ます。付保条件の選択と約款の解釈は、専門の保険会社・代理店にご相談ください。

ICC2009 免責条項の基本構造