Institute War Clauses(Cargo)とは
Institute War Clauses(Cargo)とは、外航貨物海上保険において、通常の協会貨物約款では免責となる戦争危険を、別途担保するための協会戦争約款です。
ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)では、戦争、内乱、革命、反乱、敵対行為、捕獲、拿捕、抑留、遺棄された機雷・魚雷・爆弾などによる損害は、原則として免責とされています。
そのため、これらの危険を補償対象にするには、通常のICC本体だけでなく、Institute War Clauses(Cargo)などの戦争危険担保約款が付帯されているかを確認する必要があります。
本記事の位置づけ
本記事は、Institute War Clauses(Cargo)シリーズの入口記事です。
戦争危険約款の詳しい実務判断は、担保危険、保険期間と航海変更、免責条項の各記事で個別に整理します。本記事では、まずInstitute War Clauses(Cargo)とは何か、通常のICC本体やInstitute Strikes Clauses(Cargo)とどう違うのか、どの記事をどの順番で確認すべきかを整理します。
したがって、本記事では各論点を深掘りしすぎず、戦争危険約款全体の見取り図を示します。
Institute War Clauses(Cargo)シリーズの読み方
Institute War Clauses(Cargo)は、次の4本に分けて読むと理解しやすくなります。
| 記事 | 役割 | 確認できること |
|---|---|---|
| Institute War Clauses(Cargo)とは | 入口・全体像 | 戦争約款の位置づけ、ICC本体・Strikes Clausesとの違い、読む順番 |
| Institute War Clauses(Cargo)の担保危険 | 補償される危険の整理 | 戦争、内乱、敵対行為、捕獲、拿捕、抑留、遺棄機雷など |
| Institute War Clauses(Cargo)の保険期間と航海変更 | 戦争約款特有の保険期間 | 航洋船舶への積込み、荷卸し、15日ルール、再積送、積替え、航海変更 |
| Institute War Clauses(Cargo)の免責条項 | 補償されない損害・費用の整理 | 一般免責、航海事業の喪失・中絶、核兵器、不堪航・不適合など |
本記事は、この4本のうち最初に読む記事です。実際の事故対応では、本記事で全体像を確認したうえで、担保危険、保険期間、免責条項を個別に確認します。
通常のICC本体との関係
ICC本体の第6条では、戦争危険は免責として整理されています。
通常のICC(A)、ICC(B)、ICC(C)は、火災、座礁、沈没、衝突、海水浸入、破損、濡損などの通常貨物危険を確認するための約款です。一方、戦争、内乱、敵対行為、捕獲、拿捕、抑留、遺棄機雷などは、通常のICC本体では原則として免責となります。
Institute War Clauses(Cargo)は、この通常のICC本体で免責となる戦争危険を、別途担保するための約款です。
したがって、貨物保険を確認する際には、通常のICC条件がICC(A)、ICC(B)、ICC(C)のいずれかを確認するだけでなく、戦争危険担保が付帯されているかを別に確認する必要があります。
Institute Strikes Clauses(Cargo)との関係
Institute War Clauses(Cargo)とInstitute Strikes Clauses(Cargo)は、いずれも通常のICC本体では免責となる危険を別途担保するための付帯約款です。
ただし、対象となる危険は異なります。
| 危険の種類 | 主に確認する約款 | 実務上の見方 |
|---|---|---|
| 戦争、内乱、革命、反乱、敵対行為 | Institute War Clauses(Cargo) | 国家間の戦争、内戦、軍事的・敵対的行為として整理する |
| 捕獲、拿捕、拘束、抑留 | Institute War Clauses(Cargo) | 船舶・貨物が軍事的・政治的な理由で拘束されたかを確認する |
| 遺棄された機雷、魚雷、爆弾など | Institute War Clauses(Cargo) | 戦争兵器による貨物損害かを確認する |
| ストライキ、労働争議、職場閉鎖 | Institute Strikes Clauses(Cargo) | 労働争議参加者等による直接の貨物損害かを確認する |
| 暴動、騒じょう、テロ行為、政治的・思想的・宗教的動機による行為 | 主にInstitute Strikes Clauses(Cargo)側で確認 | 戦争危険、ストライキ危険、悪意損害を混同しない |
戦争危険とストライキ・テロ関連危険は、似て見える場面があります。しかし、どの約款で確認するかが異なるため、事故原因、行為者、動機、発生地域、政府・軍事行為の有無を整理することが重要です。
約款の基本構造
Institute War Clauses(Cargo)は、主に担保危険、共同海損、免責条項、保険期間、航海変更、被保険利益、増値保険、保険の利益、損害軽減義務、準拠法などで構成されています。
ただし、被保険利益、増値保険、保険の利益、損害軽減義務、権利放棄、遅延回避、法律および慣習については、ICC2009本体と同様の考え方が用いられています。
実務上は、戦争危険約款に特有の部分である、担保危険、保険期間、航海変更、免責条項を重点的に確認します。
| 確認項目 | 概要 | 詳細確認先 |
|---|---|---|
| 担保危険 | 戦争、内乱、敵対行為、捕獲、拿捕、抑留、遺棄機雷など | Institute War Clauses(Cargo)の担保危険 |
| 保険期間 | 航洋船舶への積込み、荷卸し、15日ルールなど | Institute War Clauses(Cargo)の保険期間と航海変更 |
| 航海変更 | 仕向地変更、運送打切り、再積送、積替え、通知義務 | Institute War Clauses(Cargo)の保険期間と航海変更 |
| 免責条項 | 一般免責、航海事業の喪失・中絶、核兵器、不堪航・不適合など | Institute War Clauses(Cargo)の免責条項 |
担保される主な危険の概要
Institute War Clauses(Cargo)では、戦争、内乱、革命、反乱、国内闘争、敵対行為などによって生じる被保険貨物の滅失または損傷が問題になります。
また、担保される戦争危険から生じる捕獲、拿捕、拘束、抑止、抑留や、それらの結果、またはそれらの企図による損害も対象になります。
さらに、遺棄された機雷、魚雷、爆弾、その他の遺棄された兵器による損害も、戦争危険約款で問題となります。
ただし、これらの詳細な範囲は、担保危険の記事で個別に確認します。本記事では、戦争危険約款が通常のICC本体とは別に、戦争危険を担保するための約款である点を押さえることが重要です。
捕獲・拿捕・抑留とは
Institute War Clauses(Cargo)では、捕獲、拿捕、拘束、抑止、抑留といった戦争危険特有の用語が出てきます。
これらは、船舶や貨物が軍事的、政治的、国家的な理由により自由に航行・引渡しできなくなる場面で問題になります。
| 用語 | 大まかな意味 | 実務上の確認点 |
|---|---|---|
| 捕獲 | 敵対行為や戦争危険に関連して船舶や貨物が奪われること | 誰が、どの権限で、どの理由で船舶・貨物を押さえたか |
| 拿捕 | 船舶が軍事的・政治的理由により差し押さえられること | 戦争危険によるものか、通常の行政・税関手続によるものか |
| 拘束・抑止 | 船舶や貨物の移動が制限されること | 戦争危険、制裁、行政処分、商業上の滞留を区別する |
| 抑留 | 船舶や貨物が一定期間引き止められること | 保険期間、貨物引渡し、追加費用、B/L上の責任を確認する |
これらの用語は、単なる遅延や港湾混雑とは異なります。戦争危険として扱えるかどうかは、発生原因、当局の行為、軍事的・政治的背景、保険条件を確認する必要があります。
戦争危険約款で注意すべき点
Institute War Clauses(Cargo)は、戦争に関係するすべての損害や費用を無制限に補償する約款ではありません。
対象となるのは、約款で担保される危険によって生じる被保険貨物の滅失または損傷が中心です。
費用損害、間接損害、航海事業の喪失や中絶、遅延による損害、核兵器の敵対的使用、不堪航・不適合などは、免責条項との関係で確認します。
したがって、紛争地域で発生した損害であっても、それが戦争危険として担保される貨物損害なのか、遅延・追加費用・航海中絶・行政処分・商業上の損失なのかを切り分ける必要があります。
保険期間の概要
Institute War Clauses(Cargo)では、通常のICC本体とは異なる保険期間の考え方があります。
通常のICC本体では、倉庫から倉庫までの輸送過程を基本に保険期間を考えます。一方、戦争危険約款では、原則として被保険貨物が航洋船舶に積み込まれた時に開始し、最終荷卸港または荷卸地で航洋船舶から荷卸しされた時などに終了するという、海上危険に強く結びついた保険期間が用いられます。
このため、戦争危険では、通常のICC本体よりも保険期間が狭くなる場面があります。陸上保管中、港湾滞留中、荷卸し後の危険は、通常の貨物危険と同じように扱えるとは限りません。
15日ルールと機雷危険の60日拡張
Institute War Clauses(Cargo)では、15日ルールが重要です。
これは、貨物が航洋船舶から荷卸しされた後も、一定の場面で短期間だけ保険期間が問題になる考え方です。通常のICC本体の60日条項とは期間も趣旨も異なるため、混同しないことが重要です。
戦争危険は、通常の貨物危険よりも、航洋船舶による海上輸送中の危険に強く結びついています。そのため、陸上保管中のリスクを長く広く担保するものではなく、荷卸し後の保険期間は限定的に整理されます。
一方、遺棄された機雷、魚雷、爆弾などの危険については、一定の範囲で異なる扱いが問題になることがあります。機雷危険の60日拡張など、通常の戦争危険とは異なる確認点があるため、詳細は保険期間と航海変更の記事で確認します。
航海変更・運送打切りとの関係
戦争危険が関係する輸送では、航海変更、別港揚げ、運送打切り、積替え、再積送が発生しやすくなります。
たとえば、紛争地域を避けるために航路を変更する、予定港が閉鎖されたため別港で荷卸しする、拿捕や抑留を避けるために船舶が迂回する、といった場面です。
この場合、通常のICC本体の保険期間だけでなく、Institute War Clauses(Cargo)の保険期間、通知義務、追加保険料、保険者との条件確認が重要になります。
戦争危険が関係する変更は、通常の商業上のルート変更よりも、保険期間や補償継続に与える影響が大きくなりやすいため、早期に保険者へ連絡することが重要です。
貨物保険・B/L・NVOCC責任との関係
戦争危険約款は、貨物保険の補償範囲だけでなく、B/LやNVOCC責任とも関係します。
戦争、拿捕、抑留、港湾閉鎖、航海変更、運送打切りなどが発生した場合、貨物保険で補償されるのか、運送契約上の責任が問題になるのか、荷主側の費用負担になるのかを切り分ける必要があります。
NVOCCやフォワーダーが関与する取引では、戦争危険が保険で担保されているかどうかだけでなく、B/L裏面約款、House B/L約款、運送人の自由裁量権、仕向地変更、追加費用の説明責任も確認する必要があります。
保険で支払われるかどうかと、運送人、NVOCC、フォワーダー、荷主の間で誰が追加費用を負担するかは、別の問題です。
実務シナリオ1:紛争地域周辺を通過する貨物を手配する場合
貨物が紛争地域周辺の海域や、軍事的緊張が高まっている地域を通過するルートで輸送されるとします。
この場合、通常のICC(A)が付保されているだけでは、戦争危険が補償されるとは限りません。
確認すべきことは、Institute War Clauses(Cargo)が付帯されているか、航路がどの地域を通過するか、保険者から追加保険料や条件変更の指示がないか、B/L上の航路変更・自由裁量条項がどうなっているかです。
フォワーダーやNVOCCは、荷主に対し、通常の貨物保険と戦争危険担保は別に確認する必要があることを説明する必要があります。
実務シナリオ2:船舶が拿捕・抑留された場合
航海中の船舶が、軍事的または政治的な理由により拿捕・抑留されたとします。
この場合、単なる遅延や港湾混雑ではなく、戦争危険として扱うべき事態かを確認します。
確認資料として、船会社からの通知、当局発表、本船動静、B/L、保険証券、貨物の現在地、保険者への通知記録が重要になります。
貨物が物理的に損傷していない場合でも、貨物引渡し不能、追加費用、運送契約上の問題が発生することがあります。保険で対応できる範囲と、運送契約上の費用負担を分けて整理します。
実務シナリオ3:遺棄機雷により本船または貨物が損傷した場合
航海中に遺棄された機雷、魚雷、爆弾などにより本船が損傷し、積載貨物にも損害が発生したとします。
この場合、通常のICC本体ではなく、Institute War Clauses(Cargo)の付帯有無を確認します。
また、遺棄機雷などは、通常の戦争・敵対行為とは異なる形で問題になることがあり、保険期間や特別な期間延長の確認が必要になる場合があります。
本船事故情報、サーベイレポート、共同海損宣言、救助料、保険者通知、B/L条件を確認します。
実務シナリオ4:戦争危険により予定港に入港できない場合
戦争危険や港湾閉鎖により、本船が予定していた仕向港に入港できず、別港で荷卸しされることがあります。
この場合、航海変更、運送契約の打切り、再積送、追加輸送費、保険期間、保険者通知が問題になります。
Institute War Clauses(Cargo)の保険期間は、通常のICC本体とは異なるため、別港荷卸し後に保険がどこまで継続するかを確認する必要があります。
NVOCCやフォワーダーは、荷主への説明、保険者への通知、運送人との費用負担確認を並行して行います。
よくある誤解
ICC(A)なら戦争危険も補償されるという誤解
ICC(A)は広い補償条件ですが、戦争危険は通常のICC本体では免責です。
戦争危険を補償対象にするには、Institute War Clauses(Cargo)などの戦争危険担保約款が付帯されているかを確認する必要があります。
戦争危険担保があれば紛争に関するすべての損害が補償されるという誤解
Institute War Clauses(Cargo)が付帯されていても、すべての損害や費用が補償されるわけではありません。
遅延、間接損害、航海事業の喪失・中絶、一定の免責事由は個別に確認する必要があります。
戦争危険とストライキ・テロ危険は同じ約款で扱われるという誤解
戦争危険は主にInstitute War Clauses(Cargo)で確認します。
一方、ストライキ、労働争議、暴動、騒じょう、テロ行為、政治的・思想的・宗教的動機による行為は、Institute Strikes Clauses(Cargo)側で確認することがあります。
港湾閉鎖や航路変更があれば必ず戦争危険保険で対応できるという誤解
港湾閉鎖や航路変更があっても、それだけで保険金支払の対象になるとは限りません。
戦争危険による貨物の滅失・損傷か、単なる遅延・追加費用・商業上のルート変更かを確認する必要があります。
戦争危険の保険期間も通常のICC本体と同じという誤解
Institute War Clauses(Cargo)の保険期間は、通常のICC本体とは異なります。
原則として航洋船舶への積込みから始まり、荷卸しや一定期間の経過によって終了する考え方が中心です。通常の倉庫間保険期間と混同しないことが重要です。
拿捕・抑留はすべて保険金支払の対象になるという誤解
拿捕・抑留が発生しても、直ちに保険金支払の対象になるとは限りません。
戦争危険として担保される事由に該当するか、貨物に滅失・損傷があるか、免責に該当しないか、保険期間内かを確認する必要があります。
実務上確認すべき資料
Institute War Clauses(Cargo)が問題になる場合は、次の資料を確認します。
- 保険証券
- Institute War Clauses(Cargo)の付帯有無
- ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)の条件
- Institute Strikes Clauses(Cargo)の付帯有無
- 航路、積替え港、仕向港、危険地域の確認資料
- 船会社、NVOCC、フォワーダーからの通知
- 本船動静、AIS情報、港湾閉鎖情報、当局発表
- B/L、House B/L、Arrival Notice、D/O
- インボイス、パッキングリスト
- サーベイレポート、事故報告、写真
- 共同海損宣言、救助料、保証状
- 保険者への通知記録
- 追加費用、再積送費用、保管料、転送費用の明細
- 運送人、NVOCC、フォワーダーへのClaim Letter
戦争危険では、貨物損害の有無だけでなく、事故原因、発生地域、政治的・軍事的背景、航路変更、保険期間、通知義務を総合して確認します。
実務上の注意点
戦争危険は、通常の貨物事故とは異なり、事故原因、発生地域、航海経路、港湾事情、船舶の動静、政府・軍事行為、抑留や拿捕の有無などを確認する必要があります。
また、戦争危険が付帯されていない場合、通常のICC(A)であっても戦争危険による損害は原則として補償されません。
危険地域を通過する貨物、国際情勢の影響を受ける航路、紛争地域周辺の輸送では、通常のICC条件だけでなく、戦争危険担保の有無を事前に確認することが重要です。
NVOCCやフォワーダーが関与する場合には、保険で支払われるかどうかと、B/L上の費用負担、運送人の航路変更権、荷主への追加費用説明を分けて整理します。
まとめ
Institute War Clauses(Cargo)とは、通常のICC(A)、ICC(B)、ICC(C)では免責となる戦争危険を、別途担保するための協会戦争約款です。
戦争、内乱、革命、反乱、敵対行為、捕獲、拿捕、抑留、遺棄された機雷・魚雷・爆弾などによる貨物損害を確認する場合には、この約款の付帯有無が重要になります。
ただし、Institute War Clauses(Cargo)が付帯されていても、紛争に関係するすべての損害や費用が補償されるわけではありません。遅延、間接損害、航海事業の喪失・中絶、免責事由、保険期間外の損害は個別に確認する必要があります。
本記事は、Institute War Clauses(Cargo)シリーズの入口記事です。実務では、本記事で全体像を確認したうえで、担保危険、保険期間と航海変更、免責条項を個別に確認することが重要です。

ICC2009 遅延回避・準拠法・通知義務