HNS条約(危険物・有害物質損害賠償条約)法規制

International Convention on Liability and Compensation for Damage in Connection with the Carriage of Hazardous and Noxious Substances by Sea (HNS Convention)

HNS条約とは

HNS条約(危険物・有害物質損害賠償条約)とは、危険物・有害物質(HNS:Hazardous and Noxious Substances)の海上輸送中に発生した事故について、被害者への賠償と補償の仕組みを定める国際条約です。

正式名称は、International Convention on Liability and Compensation for Damage in Connection with the Carriage of Hazardous and Noxious Substances by Seaです。化学品、液化ガス、一定の油類、危険な液体ばら積み貨物、危険物コンテナ貨物、危険な固体ばら積み貨物などによる事故で、火災、爆発、汚染、人身損害、財物損害、予防措置費用が発生した場合の補償制度を整えるものです。

HNS条約の特徴は、通常の貨物事故のように荷主と運送人の契約関係だけで処理するのではなく、船主責任とHNS Fundによる基金補償を組み合わせて、大規模な第三者被害に対応する点にあります。貨物所有者だけでなく、沿岸住民、港湾施設、他船、漁業者、荷役業者、乗組員、環境被害関係者などが被害者となる可能性があるため、個別のB/L約款や貨物保険だけでは処理しきれない事故を想定した制度です。

この記事で扱う範囲

扱う範囲 この記事での説明内容 実務上の確認先
HNS条約の基本構造 船主責任とHNS Fundによる2段階補償制度を説明します。 船会社、P&I保険者、保険実務担当者
対象となる物質 IMDG Code、IBC Code、IGC Code、MARPOL関連規則、IMSBC Codeなどに基づくHNS該当性を整理します。 荷主、SDS発行者、危険物担当者、船会社
対象となる損害 人身損害、第三者財物損害、環境汚染、予防措置費用などを説明します。 船主、P&I保険者、当局、サーベイヤー
対象外・他制度との切り分け CLC条約、バンカー油条約、アテネ条約、貨物保険、P&I保険との関係を整理します。 保険会社、P&Iクラブ、弁護士、船会社
受取人・拠出貨物の実務 HNS Fundへの拠出、受取量報告、受取人側の管理体制を説明します。 荷受人、輸入者、化学品会社、液化ガス取扱企業
フォワーダー・NVOCCの注意点 危険物申告、SDS、DGD、B/L、船会社への情報伝達の確認ポイントを整理します。 フォワーダー、NVOCC、荷主、船会社

制度の目的・背景

HNS条約は、危険物・有害物質の海上輸送事故が、通常の貨物損害を超えて大規模な第三者被害を発生させる可能性があることを背景に作られた制度です。化学品、液化ガス、危険液体、危険物コンテナなどの事故では、火災、爆発、毒性物質の漏洩、海洋汚染、港湾停止、漁業被害、沿岸地域への被害が同時に発生することがあります。

通常の貨物事故では、貨物保険、B/L約款、海上運送人の責任制限、P&I保険などが中心になります。しかし、HNS事故では被害者が貨物所有者に限られません。港湾施設、他船、乗組員、荷役業者、沿岸住民、行政機関、環境回復関係者など、契約関係のない第三者が被害者となるため、個別契約だけでは補償が不足するおそれがあります。

このため、HNS条約は、船主に厳格責任と強制保険を課し、さらにHNS Fundによる追加補償を設けることで、被害者保護と国際的な補償の安定性を確保する制度として位置づけられます。

発効状況

1996年に採択されたHNS条約は発効に至らず、その後、2010年議定書により実務上の課題が修正されました。2010年議定書は、1996年条約の発効を妨げていた拠出貨物の報告や基金制度の運用に関する問題を修正するために採択されたものです。

2010年議定書が発効すると、1996年条約は2010年議定書により修正された形で、2010年HNS条約として運用されます。発効後は、船主の強制保険、HNS Fundへの拠出、HNS拠出貨物の受取量報告、危険物申告の正確性が実務上重要になります。

2026年時点では、2010年HNS条約は発効に向けた最終段階に近づいており、発効予定時期として2027年11月29日が示されています。ただし、実務では各国の国内実施法、報告制度、証明書制度、保険実務の整備状況を継続して確認する必要があります。

制度が適用される主な場面

場面 想定される事故 関係する損害 実務上の確認事項
液化ガス船の事故 LNG、LPGなどの漏洩、火災、爆発 人身損害、港湾施設損害、避難費用、予防措置費用 貨物分類、船主保険、受取人、拠出貨物管理
ケミカルタンカーの漏洩 有害液体物質の海上流出 環境汚染、漁業被害、港湾停止、清掃費用 IBC Code、MARPOL分類、P&I保険、当局通報
危険物コンテナの火災 IMDG貨物の発火、爆発、延焼 周辺貨物損害、船体損害、乗組員被害、港湾損害 DGD、SDS、UN番号、B/L品名、積付け情報
固体ばら積み危険物の事故 自然発熱、化学反応、ガス発生 船舶損害、人身損害、航海中断、除去費用 IMSBC Code、貨物特性、積載条件、申告内容
港湾荷役中のHNS事故 荷役中の漏洩、容器破損、火災 荷役業者被害、港湾施設損害、操業停止損害 責任主体、保険通知、当局対応、サーベイ
HNS該当性が不明な貨物 一般貨物として申告された化学品の事故 求償、受託判断ミス、保険上の争い SDS、UN番号、輸送形態、船会社確認

対象となるHNS物質

HNS条約におけるHNS物質は、単に「危険物」と一般的に呼ばれるものすべてを意味するわけではありません。対象物質は、IMDG Code、IBC Code、IGC Code、MARPOL関連規則、IMSBC Codeなど、国際的な危険物・有害物質の分類に基づいて整理されます。

代表的には、一定の油類、有害液体物質、液化ガス、引火点の低い液体、危険物として包装・コンテナ輸送される物質、化学的危険性を有する固体ばら積み貨物などが含まれます。HNS該当性を判断する場合は、商品名だけではなく、UN番号、IMDG分類、SDS、輸送形態、包装貨物かばら積み貨物か、油濁制度との関係を確認する必要があります。

適用要件・対象外となるもの

区分 適用・対象外の考え方 確認すべき資料 注意点
対象となる貨物 条約上のHNSに該当する危険物・有害物質の海上輸送 SDS、UN番号、IMDG Code、IBC Code、IGC Code、IMSBC Code 商品名だけでは判断せず、輸送上の分類で確認します。
対象となる損害 人身損害、船外の財物損害、環境汚染、予防措置費用 事故報告、サーベイ報告、当局記録、保険通知 貨物自体の損害だけを対象にする制度ではありません。
船主責任 HNS事故について船主が条約上の責任限度額まで責任を負う 船舶情報、保険証明、P&I保険情報 強制保険または財務保証が重要になります。
HNS Fund補償 船主責任限度額を超える場合などに基金が追加補償する 損害額、責任限度額、基金制度、受取量報告 総補償上限は1事故あたり250百万SDRです。
油濁制度との切り分け CLC条約やIOPC Funds制度が対象とする油濁損害は別制度が中心 貨物の種類、油濁損害の内容、適用条約 HNS条約と油濁制度の重複を避けて判断します。
船舶燃料油による損害 バンカー油による損害はバンカー油条約が問題になることがある 燃料油の種類、船舶情報、損害原因 貨物としてのHNSか、船舶燃料油かを区別します。
旅客・手荷物 旅客の死亡・負傷や手荷物はアテネ条約など別制度が問題になることがある 旅客契約、事故原因、損害内容 HNS事故であっても損害類型ごとに制度を切り分けます。

2段階補償制度

HNS条約の補償制度は、船主責任を第1段階、HNS Fundによる補償を第2段階とする構造です。第1段階では、船主が厳格責任を負い、HNS事故による損害について条約上の責任限度額まで賠償責任を負います。船主には、HNS貨物を運送する船舶について、強制保険または財務保証を維持する義務が課されます。

第2段階では、損害が船主責任限度額を超える場合や、船主側から十分な補償が得られない場合に、HNS Fundが追加補償を行います。この2段階制度により、被害者は船主責任だけでは足りない大規模事故でも、一定範囲で補償を受けられる仕組みになります。

船主責任限度額とHNS Fundの上限

HNS条約では、事故類型に応じて船主責任限度額が定められています。ばら積みHNSによる損害の場合、船主責任の上限は最大100百万SDRとされています。包装HNSによる損害、またはばら積みHNSと包装HNSの双方が関係する損害の場合、船主責任の上限は最大115百万SDRとされています。

船主責任限度額を超える損害については、HNS Fundが第2段階の補償を行います。HNS Fundを含めた総補償上限は、1事故あたり250百万SDRです。この責任限度額は、P&I保険、強制保険証明、荷主・受取人側のリスク評価に直結するため、HNS条約の実務上の核心部分です。

HNS Fundとは

HNS Fundとは、船主責任だけでは補償が不足する場合に追加補償を行う基金です。HNS Fundは、HNS貨物を受け取る者からの拠出により運営されます。拠出は、事故発生後に必要な補償資金を確保する仕組みとして設計されています。

HNS Fundには、一般勘定のほか、油、LNG、LPGなどの特別勘定が設けられる構造になっています。これは、異なる種類のHNS貨物間で不合理な負担移転が生じないようにするためです。HNS貨物を大量に輸入・受領する企業は、発効後、受取量の把握、報告、社内管理体制の整備が重要になります。

他制度との比較

制度 主な対象 補償・保険の中心 HNS条約との違い 実務上の確認ポイント
HNS条約 危険物・有害物質の海上輸送事故 船主責任、強制保険、HNS Fund 火災、爆発、人身損害、第三者財物損害、環境損害を広く扱います。 HNS該当性、SDS、DGD、B/L、受取量報告
CLC条約・IOPC Funds タンカー油濁損害 船主責任、油濁補償基金 油濁損害を中心とする制度で、HNS全般を扱う制度ではありません。 油の種類、油濁損害、適用条約、基金補償
バンカー油条約 船舶燃料油による汚染損害 船主責任、強制保険 貨物としてのHNSではなく、船舶燃料油による損害を扱います。 燃料油か貨物か、損害原因、船舶保険
アテネ条約 旅客の死亡・負傷、旅客手荷物 旅客運送人責任、保険 HNS貨物事故の第三者損害とは対象が異なります。 旅客契約、旅客損害、事故原因
貨物保険 荷主自身の貨物損害 貨物保険会社 HNS条約は荷主貨物の保険制度ではなく、第三者損害を含む補償制度です。 保険条件、免責、共同海損、救助費用、求償
P&I保険 船主の第三者賠償責任 P&Iクラブ、船主保険 HNS条約における船主責任と強制保険を実務上支える役割を持ちます。 保険証明、通知、責任限度額、事故対応

危険物申告との関係

HNS条約の実務では、危険物申告の正確性が極めて重要です。貨物がHNSに該当するかどうかは、SDS、UN番号、IMDG Code、IBC Code、IGC Code、IMSBC Codeなどに基づき確認されます。荷主が危険物情報を正しく申告しない場合、船会社、フォワーダー、港湾、船主は適切な積付け、隔離、消火、緊急対応を行えません。

危険物の未申告や誤申告は、事故時に荷主への求償、保険会社からの代位求償、船会社からの損害賠償請求につながる可能性があります。HNS条約の発効後は、危険物申告の正確性が、単なる運送実務上の問題にとどまらず、国際補償制度との関係でも重要になります。

B/L・輸送書類との関係

HNS貨物を輸送する場合、B/LやSea Waybillなどの輸送書類にも正確な貨物情報が反映されている必要があります。危険物であるにもかかわらず一般貨物として記載されている場合、船会社やフォワーダーの受託判断、積付け判断、保険引受判断に影響します。

貨物名、UN番号、Class、Packing Group、数量、容器・包装形態がSDSや危険物申告書と整合しているかを確認する必要があります。B/L上の品名が曖昧な場合、事故後に貨物の危険性や申告内容をめぐって争いになることがあります。したがって、HNS貨物では、B/L、DGD、SDS、インボイス、パッキングリストの整合性を確認することが重要です。

フォワーダー・NVOCCの関与範囲

関与場面 フォワーダー・NVOCCの役割 注意すべき書類 問題がある場合の対応
ブッキング前 貨物が危険物またはHNSに該当する可能性がないか確認します。 SDS、商品説明、UN番号、危険物情報 荷主へ追加資料を求め、船会社へ受託可否を確認します。
危険物申告受領時 DGD、SDS、貨物情報の整合性を確認します。 DGD、SDS、IMDG分類、Packing Group 不一致があれば訂正後に船会社へ提出します。
House B/L発行時 荷主から実運送人への情報伝達が途切れないようにします。 House B/L、Master B/L、Shipping Instruction 品名・数量・危険物情報の不整合を修正します。
船会社への申告時 荷主から受けた危険物情報を正確に船会社へ伝達します。 船会社指定フォーム、DGD、Booking Confirmation 船会社の危険品受託確認を取得します。
事故発生時 書類、申告経緯、連絡履歴を整理し、関係者へ通知します。 B/L、DGD、SDS、メール履歴、保険証券 荷主、船会社、保険会社、サーベイヤーへ速やかに連絡します。
発効後の管理 HNS制度に関係する貨物情報を実務上把握できる体制を整えます。 受取人情報、貨物分類、受取量資料 拠出主体か否かは荷受人・輸入者側と確認します。

貨物保険との関係

HNS条約は、第三者損害や大規模事故の補償制度であり、荷主の貨物保険とは役割が異なります。貨物保険は、通常、荷主自身の貨物に生じた物的損害を対象とします。一方、HNS条約は、HNS事故による人身損害、第三者財物損害、環境損害、予防措置費用などを対象とする国際補償制度です。

したがって、HNS条約があるからといって、荷主が貨物保険を不要にできるわけではありません。HNS貨物の荷主は、自社貨物の損害、共同海損、救助費用、遅延、追加費用、第三者からの請求、求償リスクを分けて保険設計を確認する必要があります。

P&I保険との関係

HNS条約では、船主の責任と強制保険が重要になります。実務上、船主のHNS責任を支える中心的な保険はP&I保険です。P&I保険は、船主の第三者賠償責任、汚染責任、人身損害、港湾施設損害、除去費用などに関係します。

HNS条約発効後は、HNS貨物を運送する船主に対して、条約上の保険証明が求められることになります。フォワーダーや荷主は、個別にP&I保険証明を確認する立場とは限りませんが、大規模HNS事故ではP&I保険とHNS Fundの関係が事故対応の中心になります。

制度適用フロー

  1. 貨物が危険物・有害物質に該当する可能性があるかを確認します。
  2. SDS、UN番号、IMDG Code、IBC Code、IGC Code、IMSBC Codeなどの分類資料を確認します。
  3. 包装貨物、コンテナ貨物、液体ばら積み、液化ガス、固体ばら積みのいずれかを整理します。
  4. HNS条約上の対象物質に該当する可能性があるかを確認します。
  5. 事故による損害が、人身損害、第三者財物損害、環境損害、予防措置費用に該当するかを確認します。
  6. 油濁制度、バンカー油条約、アテネ条約、貨物保険、P&I保険など他制度との切り分けを行います。
  7. 船主責任、強制保険、P&I保険による第1段階の補償可能性を確認します。
  8. 船主責任限度額を超える場合や十分な補償が得られない場合、HNS Fundによる第2段階補償を確認します。
  9. 受取人側でHNS拠出貨物の受取量報告や拠出義務が発生するかを確認します。
  10. 荷主、受取人、船会社、フォワーダー、NVOCC、保険者、当局の役割を整理し、事故対応と書類管理を行います。

典型的に問題になるケース

ケース 何が問題になるか 確認すべき資料 実務上の対応
危険物コンテナが船上で火災を起こした 危険物申告、積付け、隔離、B/L品名、荷主の申告責任が問題になります。 SDS、DGD、B/L、Booking Confirmation、船会社受託確認 申告内容と船会社への伝達履歴を整理し、保険者へ通知します。
化学品が一般貨物として申告されていた HNS該当性、荷主の申告義務違反、フォワーダーの確認不足が問題になります。 SDS、UN番号、商品説明、Shipping Instruction 荷主へ根拠資料を求め、船会社・保険会社へ事実関係を報告します。
ケミカルタンカーから有害液体物質が漏洩した 環境損害、港湾停止、漁業被害、清掃費用、P&I保険が問題になります。 IBC Code分類、貨物明細、事故報告、当局記録 船主責任とHNS Fundの補償可能性を確認します。
液化ガス船で爆発が発生した 人身損害、港湾施設損害、避難費用、責任限度額が問題になります。 IGC Code関連資料、船主保険証明、P&I情報、貨物明細 船主の強制保険とHNS Fund補償の関係を確認します。
受取人がHNS拠出貨物の管理をしていない 発効後の受取量報告、拠出義務、社内管理体制が問題になります。 輸入実績、受取量資料、貨物分類、会計資料 対象貨物の受取量を把握し、国内実施法に基づく報告体制を整えます。
油濁損害とHNS損害が混在している CLC条約、IOPC Funds、HNS条約、バンカー油条約の切り分けが問題になります。 貨物種類、燃料油情報、損害原因、事故調査資料 損害原因と対象制度を分け、保険者・専門家へ確認します。
B/L品名が曖昧でSDSと一致しない 事故後に貨物の危険性、申告内容、受託判断をめぐる争いになります。 B/L、SDS、インボイス、パッキングリスト、DGD 書類間の品名・数量・分類を照合し、必要に応じて訂正します。

4列判断チェックリスト

確認場面 確認する相手 確認事項 問題がある場合の対応
貨物受託前 荷主 貨物が危険物・有害物質に該当する可能性があるか SDS、UN番号、危険物分類資料の提出を求めます。
危険物申告時 荷主・危険物担当者 DGD、SDS、IMDG分類、Packing Groupの整合性 不一致がある場合は訂正後に船会社へ提出します。
船会社ブッキング時 船会社 危険品受託可否、積付け条件、必要書類 受託不可または条件付きの場合、代替船会社・代替航路を検討します。
B/L作成時 荷主・NVOCC・船会社 B/L品名、数量、危険物情報、DGDとの一致 曖昧な品名や一般貨物扱いを修正します。
事故発生時 船会社・保険会社・サーベイヤー 事故原因、損害範囲、HNS該当性、通知先 人命安全、当局通報、保険通知、証拠保全を優先します。
補償制度確認時 P&I保険者・弁護士・保険実務者 船主責任、強制保険、HNS Fund、他制度との切り分け 損害類型ごとに適用制度を整理します。
受取量管理時 荷受人・輸入者 HNS拠出貨物の受取量、報告義務、社内管理 国内実施法に基づく報告・管理体制を整えます。

確認すべき書類

書類 確認する内容 注意点
SDS 危険有害性、物質情報、取扱注意、緊急対応情報 古いSDSや輸送用分類が不明なSDSでは判断できないことがあります。
危険物申告書 UN番号、Class、Packing Group、Proper Shipping Name SDS、B/L、インボイスとの整合性を確認します。
B/LまたはSea Waybill 貨物名、数量、荷主、荷受人、運送区間 一般貨物のような曖昧な品名になっていないか確認します。
インボイス・パッキングリスト 商業品名、数量、包装形態、重量 DGDやSDSと異なる品名の場合、事故後に争点になります。
Booking Confirmation 船会社の受託条件、危険品受託確認 船会社が危険品として受託しているかを確認します。
貨物保険証券 荷主貨物の損害、共同海損、救助費用の補償範囲 HNS条約とは役割が異なるため、別途確認が必要です。
P&I保険関連情報 船主責任、強制保険、第三者賠償責任 大規模HNS事故では事故対応の中心になります。
受取量管理資料 HNS拠出貨物の受取量、受取人、貨物分類 発効後の報告・拠出義務に関係します。

よくある誤解

誤解 正しい理解 実務上の注意点
HNS条約は危険物コンテナだけの制度である 包装危険物だけでなく、液体ばら積み、液化ガス、固体ばら積み貨物なども関係します。 輸送形態ごとにIMDG Code、IBC Code、IGC Code、IMSBC Codeを確認します。
HNS条約があれば貨物保険は不要である HNS条約は第三者損害を含む補償制度であり、荷主貨物の保険とは別です。 自社貨物損害、共同海損、救助費用は貨物保険で確認します。
フォワーダーはHNS条約と無関係である 拠出主体でなくても、危険物申告や書類整合性に関与します。 SDS、DGD、B/L、船会社への情報伝達を確認します。
商品名だけでHNS該当性を判断できる 商品名だけでは不十分で、UN番号、SDS、輸送分類、輸送形態の確認が必要です。 曖昧な品名の場合は荷主へ分類根拠を求めます。
油に関する事故はすべてHNS条約で処理する CLC条約、IOPC Funds、バンカー油条約など別制度が関係する場合があります。 貨物油か燃料油か、油濁制度の対象かを切り分けます。
HNS Fundは常に最初から補償する まず船主責任と強制保険が第1段階となり、不足する場合に第2段階としてHNS Fundが関係します。 船主責任限度額、強制保険、損害額を確認します。
発効前なので準備は不要である 発効後は受取量報告、強制保険、書類確認の実務が問題になります。 HNS貨物を扱う企業は、発効前から貨物分類と受取量管理を整える必要があります。

具体例1:液化ガス船の事故で爆発・人身損害が発生した場合

LPGやLNGなどの液化ガスを積載した船舶で事故が発生し、爆発や火災により港湾施設、乗組員、荷役業者、沿岸地域に損害が生じることがあります。この場合、まず確認するのは、貨物がHNS条約上の対象物質に該当するか、事故がHNS貨物の性質に起因するものか、損害が人身損害・第三者財物損害・予防措置費用に該当するかです。

次に、船主の強制保険またはP&I保険による第1段階の補償可能性を確認します。損害額が船主責任限度額を超える場合には、HNS Fundによる第2段階補償が問題になります。荷主や受取人側では、貨物分類、受取量管理、拠出貨物への該当性を確認する必要があります。

具体例2:化学品コンテナの火災で危険物申告が問題になった場合

化学品コンテナが船上で火災を起こし、周辺コンテナや船体に損害が生じることがあります。この場合、事故後に最初に問題になるのは、貨物が正しくIMDG Codeに基づき申告されていたか、SDSとDGDの内容が一致していたか、B/L上の品名が適切だったかです。

危険物申告が不正確であった場合、船会社は適切な積付けや隔離を行えず、事故拡大の原因になったと主張する可能性があります。その結果、荷主、フォワーダー、NVOCCに対する求償や説明責任が問題になります。このケースでは、荷主が正確なSDSと危険物申告を提出し、フォワーダーは船会社へ危険物情報を正確に伝達していたかを、書類と連絡履歴で確認する必要があります。

具体例3:ばら積み化学品の漏洩で沿岸被害が発生した場合

ケミカルタンカーが事故を起こし、有害液体物質が海上へ流出した場合、沿岸施設、漁業、港湾運営、環境回復に損害が生じることがあります。このような事故では、貨物自体の損害よりも、第三者損害や環境損害の規模が大きくなることがあります。

判断の順序としては、まず貨物がIBC CodeやMARPOL関連規則上どのように分類されるかを確認します。次に、損害がHNS条約上の対象損害か、CLC条約やバンカー油条約など別制度の対象ではないかを切り分けます。そのうえで、船主責任、P&I保険、HNS Fundの補償関係を整理します。

具体例4:HNS該当性を確認せずに一般貨物として手配した場合

荷主が化学品を一般貨物として申告し、フォワーダーがSDSやUN番号を十分に確認しないままブッキングすることがあります。輸送中に事故が発生した場合、貨物の危険性が事前に正しく伝わっていなかったことが重大な問題になります。

この場合、荷主の申告義務違反だけでなく、フォワーダーやNVOCCがどの程度確認すべきだったかも争点になります。フォワーダーは、貨物がHNS条約上の対象物質かを法的に最終判断する立場ではありませんが、化学品、液体、粉体、ガス、危険性が疑われる貨物については、SDS、UN番号、危険物分類の有無を確認し、船会社へ正確に伝える体制が必要です。

注意点

HNS条約は発効に向けた段階にありますが、実際の適用開始時期、国内実施法、証明書制度、受取量報告制度の内容は継続確認が必要です。HNSに該当するかどうかは、商品名だけでは判断できません。SDS、UN番号、輸送形態、関連コードを確認する必要があります。

危険物申告漏れや誤記載は、事故時に荷主、フォワーダー、NVOCCへの求償や責任追及につながる可能性があります。HNS Fundへの拠出は受取人側の実務に影響するため、HNS貨物を大量に輸入・受領する企業は、受取量管理と報告体制を整える必要があります。

HNS条約は貨物保険の代替ではありません。荷主自身の貨物損害、共同海損、追加費用、第三者請求、求償リスクは別途確認する必要があります。

まとめ

HNS条約は、危険物・有害物質の海上輸送中に発生する大規模損害について、船主責任とHNS Fundによる2段階補償制度を設ける国際条約です。対象となる損害は、貨物自体の損害にとどまらず、人身損害、第三者財物損害、環境汚染、予防措置費用に及びます。

発効後は、船主の強制保険、HNS Fundへの拠出、HNS貨物の受取量報告、危険物申告の正確性が実務上重要になります。フォワーダー、NVOCC、荷主、受取人、保険実務者は、SDS、IMDG Code、B/L、危険物申告、P&I保険、貨物保険、HNS Fundの役割を分けて理解し、HNS貨物の輸送・受取・事故対応を整理することが基本です。

同義語・別表記

  • HNS条約
  • HNS Convention
  • 2010 HNS Convention
  • HNS Protocol 2010
  • 危険物・有害物質損害賠償条約
  • Hazardous and Noxious Substances Convention

関連用語

公式情報