コンテナ海中流出の強制報告義務(SOLAS改正・2026年)

コンテナ海中流出の強制報告義務とは、船舶からコンテナが海上に流出した場合、または漂流コンテナを発見した場合に、船長等が関係先へ報告しなければならない制度です。

2026年1月1日から、SOLAS条約第5章およびMARPOL条約関連規定の改正により、コンテナ流出・漂流コンテナ発見に関する国際的な報告ルールが強化されました。

流出コンテナは、航行中の船舶にとって危険物となるだけでなく、環境汚染、漁業被害、海岸漂着、危険品流出、貨物事故、P&I保険対応に関わる重要な問題です。

本記事では、SOLAS改正による報告義務の内容、船主・運航者・船長・フォワーダー・荷主が確認すべき実務対応、保険上の影響を整理します。

制度の概要

2026年1月1日から、コンテナの海中流出および漂流コンテナの発見について、国際的な強制報告制度が導入されました。

これまでも、コンテナ流出事故は業界団体や船会社によって自主的に把握・報告されることがありました。しかし、国際的に統一された強制報告制度が十分に整っていたわけではありません。

新制度では、コンテナ流出船の船長が、近隣船舶、最寄りの沿岸国、旗国に対して、遅滞なく必要情報を通報することが求められます。

また、流出した船舶だけでなく、漂流コンテナを発見した船舶にも報告義務が生じます。

旗国は、受け取った情報をIMOのGISIS(Global Integrated Shipping Information System)へ報告する役割を負います。

制度的根拠

今回の改正の中心は、SOLAS条約第5章のRegulation 31およびRegulation 32です。

Regulation 31は、危険通報(Danger Messages)に関する規定であり、コンテナ流出や漂流コンテナの発見を報告対象として整理します。

Regulation 32は、報告すべき情報の内容を定める規定です。

また、MARPOL Protocol I Article Vも改正され、貨物コンテナの流出に関する報告は、SOLAS Regulation V/31およびV/32に従って行う形で整合が図られました。

つまり、この制度は、航行安全だけでなく、海洋環境保護の観点からも位置づけられています。

報告対象

報告対象となるのは、大きく分けて二つです。

一つは、自船からコンテナが海中に流出した場合です。

もう一つは、他船から流出したものを含め、海上で漂流コンテナを発見した場合です。

コンテナが完全に沈没した場合だけでなく、海面上を漂流している場合には、他船の航行に危険を及ぼす可能性があります。

そのため、流出した船舶だけでなく、漂流コンテナを発見した船舶にも、関係先へ速やかに情報を伝える役割があります。

報告先

コンテナ流出が発生した場合、船長は、近隣船舶、最寄りの沿岸国、旗国に対して報告を行います。

近隣船舶への通報は、漂流コンテナが航行上の危険物となるためです。

沿岸国への通報は、航行警報、捜索、監視、環境対応、漂着対応などにつなげるためです。

旗国への通報は、旗国がIMOのGISISへ情報を報告するために必要です。

船舶が放棄された場合や、船長が報告できない場合には、SOLAS上の会社が可能な範囲で報告義務を引き継ぐことがあります。

報告内容

報告内容には、船舶、事故、位置、コンテナ、貨物に関する情報が含まれます。

実務上は、次のような情報を整理する必要があります。

  • 報告の種類
  • 船名、IMO番号、コールサイン、MMSIなどの船舶識別情報
  • 事故発生時刻または発見時刻
  • 流出または発見位置
  • 流出したコンテナ数または推定数
  • 危険物の有無
  • 危険物がある場合のUN番号などの情報
  • コンテナの種類、サイズ、空コンか実入りか
  • 天候、海象、漂流方向、追加的に把握している情報

初期報告時点で全情報が揃っていない場合でも、可能な範囲で報告し、後から確認できた情報を追加報告することが重要です。

流出本数が後で確定した場合には、最終報告として整理する必要があります。

流出統計と強制報告制度の関係

World Shipping Councilの2025年報告では、2024年に世界で576本のコンテナが海上で失われたとされています。

この数字は、2023年の221本より増加していますが、10年平均の1,274本よりは低い水準です。

ただし、この数字は、2026年1月からの強制報告制度が始まる前の自主報告ベースの統計です。

したがって、2024年の576本という数字を、強制報告制度の効果として読むのは適切ではありません。

むしろ、2026年以降は強制報告により、流出件数、流出場所、危険物の有無、流出原因などの統計精度が高まる可能性があります。

保険の構造

コンテナ海中流出では、貨物保険、P&I保険、船体保険、運送人責任保険など、複数の保険が関係することがあります。

貨物そのものが海中に流出して滅失した場合、荷主側では貨物保険の対象になる可能性があります。

一方、流出コンテナが航行危険、環境汚染、海岸漂着、回収費用、第三者損害を生じさせた場合には、船主側のP&I保険が問題になることがあります。

また、報告義務の履行状況は、事故後の保険対応でも確認される可能性があります。

特に、報告遅延や報告漏れにより、沿岸国対応、回収対応、環境被害、第三者損害が拡大した場合には、保険会社やP&Iクラブとの間で、事故後対応の適切性が争点になることがあります。

報告義務違反が問題になる場面

報告義務を履行しなかった場合、旗国または関係当局による行政上の対応が問題になることがあります。

具体的には、旗国国内法に基づく調査、是正指示、行政処分、PSC検査での指摘、SMS不備としての指摘などが考えられます。

寄港国や沿岸国の法令に違反した場合には、現地当局による調査や処分が問題になることもあります。

また、報告義務の不履行が、第三者損害や環境対応の遅れにつながった場合には、民事上の責任や保険上の争点にも影響する可能性があります。

そのため、船主・運航者は、単に「報告すればよい」というだけでなく、誰が、いつ、どこへ、どの情報を報告するかをSMSに組み込む必要があります。

危険物コンテナが流出した場合

危険物を積載したコンテナが流出した場合には、通常のコンテナ流出以上に慎重な対応が必要です。

IMDGコード対象貨物、環境有害物質、化学品、リチウム電池、可燃性物質などが含まれている場合、航行安全だけでなく、海洋環境、漁業、沿岸地域への影響が問題になります。

報告時には、危険物の有無、UN番号、貨物内容、流出位置、漂流可能性をできる限り正確に伝える必要があります。

危険品が関係する場合、MARPOL上の有害物質報告や沿岸国の緊急対応とも接続するため、船会社、荷主、フォワーダー、P&Iクラブ、当局の連携が重要になります。

実務上の流れ

コンテナ流出が発生した場合、まず船長または船橋チームは、乗組員と船舶の安全を確保します。

次に、流出位置、時刻、天候、海象、流出した可能性のあるコンテナ数を確認します。

危険物コンテナが含まれている可能性がある場合には、マニフェスト、積付計画、危険品申告、コンテナ番号を確認します。

そのうえで、近隣船舶、最寄りの沿岸国、旗国へ報告します。

会社側では、旗国報告、P&Iクラブへの通知、荷主・フォワーダーへの連絡、積荷情報の整理、追加報告の準備を行います。

その後、流出本数の確定、漂流予測、回収可能性、沿岸国対応、貨物保険・P&I保険の整理を進めます。

実務上の確認ポイント

船主・運航者は、SOLAS V/31・V/32に基づく報告手順をSMSに組み込む必要があります。

船長や航海士が、コンテナ流出時にどの順番で通報するのか、どの通信手段を使うのか、どの情報を記録するのかを事前に理解しておくことが重要です。

また、危険物コンテナや環境有害物質の情報を速やかに取り出せるよう、積付計画、危険品マニフェスト、コンテナ番号、荷主情報を整理しておく必要があります。

フォワーダーやNVOCCは、流出したコンテナが自社手配貨物に該当する場合、荷主への通知、貨物保険会社への連絡、B/L・Booking・コンテナ番号・貨物明細の整理を行います。

荷主側では、貨物保険の有無、保険金額、付保区間、事故通知期限、必要書類を確認する必要があります。

確認すべき書類

コンテナ流出事故では、報告義務、貨物特定、保険対応のため、次の書類を確認します。

  • 本船積付計画
  • コンテナ番号リスト
  • 危険品マニフェスト
  • IMDG関連書類
  • B/LまたはSea Waybill
  • Booking Confirmation
  • 商業インボイス
  • パッキングリスト
  • 船長報告書
  • 航海日誌
  • 気象・海象記録
  • 沿岸国・旗国への報告記録
  • GISIS報告に関する記録
  • P&Iクラブへの通知記録
  • 貨物保険証券

特に、流出したコンテナ番号と貨物内容の特定は重要です。

危険物が含まれているかどうか、荷主が誰か、どの保険に通知すべきかを早期に整理しなければ、報告・回収・保険対応が遅れる可能性があります。

フォワーダー・NVOCCの関与範囲

コンテナ流出の報告義務そのものは、主として船長、船主、運航者、旗国に関係する制度です。

フォワーダーやNVOCCが、SOLAS上の一次報告義務者になるとは限りません。

しかし、自社が手配した貨物が流出コンテナに含まれている場合、荷主、貨物保険会社、船会社、P&Iクラブとの連絡窓口として重要な役割を果たします。

特にNVOCCとしてHouse B/Lを発行している場合には、荷主との関係で事故説明、書類提供、保険請求補助、求償対応の窓口になることがあります。

そのため、フォワーダーやNVOCCは、Booking、コンテナ番号、B/L番号、荷主情報、貨物明細、保険手配の有無をすぐに確認できる体制を整える必要があります。

当局対応・回収費用・P&Iの関係

コンテナ流出の報告を受けた沿岸国は、航行警報、監視、漂流予測、沿岸漂着対応、環境対応を行うことがあります。

危険物や環境有害物質が含まれている場合には、回収、監視、汚染防止措置が必要になることがあります。

これらの費用が誰の負担になるかは、船舶の責任、貨物内容、沿岸国法令、P&I保険の条件、事故原因によって異なります。

一般に、船主側のP&I保険では、第三者損害、汚染対応、回収費用、当局対応費用が問題になることがあります。

ただし、すべての費用が自動的にP&Iで処理されるわけではないため、事故発生時には早期にP&Iクラブへ通知し、対応方針を確認することが重要です。

注意点

コンテナ流出事故では、初期報告の遅れが、その後の航行安全、環境対応、保険対応に影響します。

初期段階では、流出本数や貨物内容が完全に確定していないことがあります。その場合でも、分かっている範囲で速やかに報告し、後から追加報告を行うことが重要です。

危険物が含まれている可能性がある場合には、通常の流出報告だけでなく、危険物情報の確認と沿岸国・P&Iクラブへの早期連絡が必要です。

報告義務の不履行や記録不足は、旗国・寄港国・PSC・保険会社との関係で問題になる可能性があります。

また、2024年以前の流出統計は自主報告ベースであるため、2026年以降の強制報告ベースの統計とは単純比較しないことが重要です。

具体例

荒天中にコンテナが海中流出したケース

外洋航海中に荒天を受け、複数のコンテナが海中に流出することがあります。

船長は、乗組員と船舶の安全を確認したうえで、近隣船舶、最寄り沿岸国、旗国へ速やかに報告する必要があります。

初期段階では流出本数が確定していないこともありますが、推定情報をもとに初期報告を行い、後から確認できた情報を追加報告すべきです。

このケースでは、船主・運航者は、SMSに基づく報告手順、積付計画、コンテナ番号リスト、危険品情報、P&Iクラブへの通知を直ちに実行すべきでした。

漂流コンテナを他船が発見したケース

航行中の船舶が、海上を漂流するコンテナを発見することがあります。

この場合、流出元の船舶でなくても、発見した船舶の船長は、近隣船舶および最寄り沿岸国へ報告する必要があります。

漂流コンテナは、夜間や荒天時に小型船や漁船にとって重大な航行危険となる可能性があります。

このケースでは、発見船は位置、時刻、コンテナの状態、漂流方向、視認できる番号や危険表示の有無を記録し、速やかに通報すべきでした。

危険物コンテナが流出したケース

流出コンテナの中にIMDGコード対象の危険物が含まれている場合、通常の流出事故よりも対応が複雑になります。

沿岸国は、航行警報だけでなく、海洋汚染、漁業被害、海岸漂着、回収対応を検討することがあります。

船主・運航者は、危険品マニフェスト、UN番号、貨物内容、積付位置、コンテナ番号を早期に整理し、沿岸国、旗国、P&Iクラブへ提供する必要があります。

このケースでは、荷主・フォワーダーも、貨物内容、危険品情報、緊急連絡先、保険情報を速やかに提供すべきでした。

2014年の大規模流出事例

2014年には、SVENDBORG MAERSKがビスケー湾で多数のコンテナを流出させた事例があります。

このような大規模流出事故では、流出位置、流出本数、貨物内容、漂流予測、回収可能性の把握が極めて重要になります。

制度改正の背景には、こうした過去の事故を踏まえ、流出情報を迅速かつ統一的に報告・集約する必要性がありました。

現在の制度では、船長・船主・旗国・IMO間の報告ルートを明確にし、GISISを通じて国際的な情報蓄積を進めることが求められています。

まとめ

2026年1月1日から、コンテナ海中流出および漂流コンテナ発見について、SOLAS Chapter V Regulation 31・32を中心とする強制報告制度が始まりました。

この制度は、流出コンテナによる航行危険、環境汚染、危険物流出、漁業被害、海岸漂着リスクに対応するためのものです。

船主・運航者は、報告手順をSMSに組み込み、船長・船橋チームが初期報告、追加報告、旗国・沿岸国・P&Iクラブへの連絡を実行できる体制を整える必要があります。

フォワーダーやNVOCCは、一次報告義務者ではない場合でも、自社手配貨物が関係する場合には、コンテナ番号、貨物内容、危険品情報、保険情報を速やかに整理し、荷主・船会社・保険会社との連絡窓口として対応することが重要です。

同義語・別表記

  • コンテナ海中流出
  • Containers Lost at Sea
  • Lost Containers
  • Drifting Containers
  • SOLAS Chapter V
  • SOLAS V/31
  • SOLAS V/32
  • GISIS

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