フォワーダーの運送責任とCMR条約

CMR条約とは、国際道路物品運送における運送契約、運送書類、運送人責任を定める国際条約です。

欧州を中心とする国際トラック輸送では、貨物の滅失、損傷、遅延が発生した場合に、CMR条約が責任判断の基礎になることがあります。

フォワーダーは、単に荷主の代理人として輸送を手配するだけの場合もありますが、自ら運送契約の当事者として荷主に運送サービスを提供する場合には、CMR上の運送人として責任を負うことがあります。

そのため、日本の荷主やフォワーダーであっても、欧州内道路輸送や欧州を含む複合輸送を手配する場合には、CMR条約の適用可能性、責任制限、時効、保険対応を理解しておく必要があります。

CMR条約とは

CMR条約は、国際道路輸送における運送契約のルールを統一するための条約です。

対象となるのは、有償で行われる道路による貨物運送契約です。

CMR条約は、貨物の受取地と引渡地が異なる国にあり、その少なくとも一方がCMR締約国である場合に適用されます。

したがって、単に「出発地または到着地のどちらかが締約国であればよい」というだけでは不十分です。受取地と引渡地が異なる国にあることが前提になります。

日本はCMR条約の締約国ではありませんが、日本企業が欧州内の国際道路輸送、または欧州を含む複合輸送の一部として道路輸送を手配する場合、該当する道路区間にCMRが適用されることがあります。

フォワーダーが責任を負う構造

フォワーダーの責任を考える場合、まずフォワーダーがどの立場で関与しているかを確認する必要があります。

フォワーダーが荷主の代理人として、単に実運送人を手配しているだけであれば、原則として運送人そのものではなく、手配者としての責任が問題になります。

一方、フォワーダーが自社名で運送契約を引き受け、荷主に対して一貫輸送サービスを提供している場合には、実際のトラック輸送を下請け業者に委託していても、荷主との関係では運送人として責任を負うことがあります。

特に、フォワーダーがHouse B/L、Waybill、運送引受書、混載輸送書類などを発行し、自ら輸送サービスの提供者として振る舞っている場合には、単なる代理人ではなく、契約上の運送人として扱われる可能性があります。

この区別を誤ると、事故発生時に、荷主、フォワーダー、実運送人、保険会社の間で、誰が第一次的に責任を負うのかが争点になります。

CMRの適用範囲

CMR条約は、国際道路輸送に適用されます。

たとえば、フランスからドイツ、オランダからイタリア、ポーランドからスペインのように、受取地と引渡地が異なる国にあり、少なくとも一方がCMR締約国であれば、CMRの適用が問題になります。

日本向け貨物であっても、欧州内の工場から欧州港までの道路輸送、または欧州内での集荷・配送区間について、道路運送契約上の受取地と引渡地が異なる国にある場合には、その道路区間にCMRが適用される可能性があります。

一方、日本から欧州までの海上輸送全体にCMRが直接適用されるわけではありません。

複合輸送では、道路区間にはCMR、海上区間にはヘーグ・ヴィスビー・ルールや運送契約上の約款が問題になるなど、区間ごとに適用されるルールが異なることがあります。

CMR状の役割

CMR状、またはCMR Consignment Noteは、CMR条約上の運送書類です。

CMR状は、運送契約の存在、貨物の受取、貨物の状態、運送条件を示す重要な証拠になります。

CMR状がない場合でも、運送契約そのものが無効になるわけではありませんが、事故時の責任判断や証拠整理が難しくなります。

CMR状には、荷送人、運送人、荷受人、受取地、引渡地、貨物の種類、梱包状態、個数、重量、運賃、税関手続に必要な情報などが記載されます。

運送人が貨物を受け取る際、個数・外装状態・包装状態について異常があれば、CMR状にリマークを入れることが重要です。

運送人責任の基本

CMR条約では、運送人は、貨物を受け取った時点から引き渡す時点までの間に生じた滅失、損傷、遅延について責任を負います。

ただし、すべての事故について無制限に責任を負うわけではありません。

荷主側の行為、荷主の指示、貨物の固有の性質、避けることができなかった事情などがある場合には、運送人が免責を主張できることがあります。

また、梱包不備、荷主による積付け・荷卸し、貨物の性質、マーク不足など、特定のリスクについても、運送人の責任が制限または免除される余地があります。

責任限度額

CMR条約では、貨物の滅失・損傷について、運送人の責任は一定額に制限されます。

現在の実務では、1978年議定書に基づき、責任限度額は原則として不足重量1キログラムあたり8.33SDRを基準に整理されます。

SDRとは、IMFが定める特別引出権のことで、実際の金額は為替相場によって変動します。

この責任制限は、運送人やフォワーダーにとって重要な保護手段です。

一方で、高価品、軽量高額貨物、電子機器、医薬品、ブランド品などでは、8.33SDR/kgでは実損額に大きく届かないことがあります。

そのため、荷主側では貨物保険を手配し、フォワーダー側では賠償責任保険の限度額とCMR上の責任限度額を確認しておく必要があります。

責任制限が排除される場合

CMR条約では、運送人に故意または故意と同視される重大な行為がある場合、責任制限を主張できないことがあります。

これはCMR第29条の問題です。

たとえば、高価品であることを認識しながら無防備な駐車場に長時間放置した場合、危険地域で適切な警備を行わなかった場合、運送指示に反して著しく危険な運行を行った場合などでは、責任制限の排除が争点になることがあります。

ただし、責任制限の排除は簡単に認められるものではありません。単なる過失ではなく、裁判地の法に照らして故意または故意に相当する重大な行為と評価されるかが問題になります。

そのため、事故後は、運行ルート、駐車場所、警備状況、運転手の行動、指示書、GPS記録、休憩記録などの証拠保全が重要になります。

時効

CMR条約上の請求権には時効があります。

原則として、CMRに基づく訴えの時効期間は1年です。

ただし、故意または故意と同視される重大な行為がある場合には、時効期間は3年とされます。

損傷・一部滅失・遅延の場合、時効の起算点は原則として引渡日です。

全損の場合やその他の場合には、CMR第32条に従って起算点が異なるため、事故発生後は早期に時効を確認する必要があります。

フォワーダー保険との関係

フォワーダーやNVOCCがCMR上の運送人として扱われる場合、荷主からの損害賠償請求に対して、フォワーダー賠償責任保険が問題になります。

フォワーダー賠償責任保険は、CMRの責任制限を前提に設計されていることがあります。

しかし、荷主が貨物保険に入っていない場合、実損額全額をフォワーダーへ請求してくることがあります。

この場合、フォワーダーはCMR上の責任制限を主張できるか、責任制限が排除される事情がないか、自社の保険で争訟費用や和解金がどこまでカバーされるかを確認する必要があります。

特に高価品や盗難リスクの高い貨物では、運送契約時点で、責任限度、特別利益の申告、保険付保、警備条件を明確にしておくことが重要です。

下請け運送人への求償

フォワーダーが荷主に対して賠償した場合でも、実際に事故を起こしたのが下請けのトラック業者であれば、フォワーダーはその下請け業者へ求償できることがあります。

CMRでは、複数の運送人が関与する場合の責任分担や求償関係も問題になります。

ただし、下請け業者が無資力である場合、保険に加入していない場合、または保険限度額が不足している場合には、フォワーダーが支払った金額を十分に回収できないことがあります。

そのため、下請けトラック業者を選定する際には、単に運賃だけでなく、CMR保険の有無、保険限度額、盗難対策、運行管理体制を確認することが重要です。

複合輸送での注意点

欧州から日本向けの輸送では、工場から欧州港までの道路輸送、海上輸送、日本到着後の国内配送など、複数の区間が連続することがあります。

この場合、全体を一つの輸送として見ても、責任法制は区間ごとに異なることがあります。

欧州内の国際道路区間にはCMRが適用される可能性があります。

海上区間では、B/L約款、ヘーグ・ヴィスビー・ルール、国際海上物品運送法などが問題になることがあります。

日本国内配送区間では、日本法上の運送契約や約款が問題になります。

そのため、事故発生時には、どの区間で事故が発生したかを特定し、その区間に適用される責任ルールを確認する必要があります。

実務上の流れ

CMRが関係する輸送では、まず道路輸送区間の受取地と引渡地を確認します。

次に、その区間が異なる国をまたぐ国際道路輸送であり、少なくとも一方がCMR締約国であるかを確認します。

そのうえで、フォワーダーが代理人として関与しているのか、自ら運送契約の当事者として荷主に責任を負う立場なのかを確認します。

さらに、CMR状、運送指示書、下請け契約、保険条件、貨物価額、警備条件を確認します。

事故が発生した場合は、貨物の状態、事故発生区間、運送人の管理状況、盗難・破損・遅延の原因、時効、責任制限、保険対応を整理します。

実務上の確認ポイント

CMR条約が関係する場合、まず適用範囲を正確に確認する必要があります。

特に、日本の荷主やフォワーダーは、日本がCMR締約国ではないことから、CMRを自分たちには関係ないものと考えがちです。

しかし、欧州内の集荷・配送区間や欧州発着の国際道路区間では、契約上の当事者が日本企業であっても、CMRが適用される可能性があります。

次に、CMR状の記載内容を確認します。貨物の種類、個数、重量、受取地、引渡地、運送人、リマーク、特別指示、保険指示が不明確だと、事故後の責任判断が難しくなります。

また、高価品や盗難リスクの高い貨物では、通常のCMR責任限度では実損額を回収できない可能性があるため、貨物保険や特別利益の申告を検討する必要があります。

確認すべき書類

CMR条約が関係する輸送では、次の書類を確認します。

  • CMR状(CMR Consignment Note)
  • 運送指示書
  • 見積書・運送契約書
  • フォワーダー発行のHouse B/L、Waybill、混載運送書類
  • 下請けトラック業者との契約書
  • 貨物明細、インボイスパッキングリスト
  • 貨物価格を示す資料
  • GPS記録、運行記録、駐車記録
  • 事故報告書、警察レポート
  • サーベイレポート
  • フォワーダー賠償責任保険証券
  • 下請け運送人のCMR保険証券
  • 荷主側の貨物保険証券

特に、CMR状は、運送契約と貨物受取状態を示す中心書類です。

貨物の個数、重量、外装状態、リマークの有無は、事故後の責任判断や保険対応に大きく影響します。

注意点

CMR条約では、責任制限があるからといって、常に運送人やフォワーダーが安全というわけではありません。

故意または故意と同視される重大な行為がある場合、責任制限を主張できないことがあります。

また、時効期間が短いため、荷主側もフォワーダー側も、事故後の通知、書面請求、資料収集を早期に行う必要があります。

下請け運送人を使う場合には、その業者の保険加入状況、盗難対策、運行管理体制を確認しておくことが重要です。

日本のフォワーダーが欧州内の道路輸送を手配する場合でも、CMRの適用可能性を前提に、契約書、CMR状、保険条件を整理しておく必要があります。

具体例

欧州内グルーパージ輸送で盗難が発生したケース

フォワーダーが欧州内で混載トラック輸送を手配し、高価な貨物を含む車両がサービスエリアで盗難に遭うことがあります。

荷主は実損額全額を請求しますが、フォワーダーはCMRの責任制限を主張します。

この場合、荷主は責任制限の排除を主張するため、駐車場所、警備状況、運転手の行動、盗難リスクの認識などを問題にすることがあります。

フォワーダーは、CMR保険、下請け業者の保険、運行指示書、GPS記録、事故報告書を整理し、責任制限の適用可否と求償可能性を確認すべきでした。

日本のフォワーダーが欧州内道路輸送を手配したケース

日本のフォワーダーが、欧州工場から欧州港までの国際道路輸送を手配することがあります。

日本企業が契約に関与しているためCMRは関係ないと考えていたところ、事故後に、道路輸送区間がCMRの適用対象であることが判明することがあります。

この場合、フォワーダーは、手配した道路区間の受取地・引渡地、CMR状の有無、実運送人の保険、荷主への説明内容を確認する必要があります。

このケースでは、輸送手配前に、道路区間にCMRが適用されるか、フォワーダーが代理人なのか運送契約当事者なのかを明確にしておくべきでした。

複合輸送で事故区間が不明確だったケース

欧州内トラック輸送、海上輸送、日本国内配送が連続する複合輸送で、貨物到着時に損傷が発見されることがあります。

事故区間が欧州道路区間なのか、海上輸送中なのか、日本国内配送中なのかが分からない場合、どの責任ルールを適用するかが問題になります。

CMR、B/L約款、日本国内運送約款では、責任制限、時効、立証責任が異なるため、事故区間の特定が重要です。

このケースでは、フォワーダーと荷主が、各区間の受渡記録、サーベイ、写真、CMR状、B/L、配送伝票を早期に整理すべきでした。

まとめ

CMR条約は、欧州などの国際道路輸送で運送人責任を判断する重要な条約です。

フォワーダーは、単なる代理人として関与する場合と、自ら運送契約の当事者として関与する場合で、責任の重さが大きく変わります。

CMRでは、原則として責任制限がありますが、故意または故意と同視される重大な行為がある場合には、その制限を主張できないことがあります。

日本の荷主やフォワーダーであっても、欧州内道路輸送や欧州を含む複合輸送を手配する場合には、CMRの適用範囲、CMR状、責任制限、時効、保険条件、下請け運送人への求償を確認することが重要です。

同義語・別表記

  • CMR条約
  • Convention on the Contract for the International Carriage of Goods by Road
  • CMR Convention
  • 国際道路物品運送条約

関連用語

公式情報