株式会社日本貿易保険(NEXI)と輸出信用保険実務
株式会社日本貿易保険(NEXI)と輸出信用保険実務
株式会社日本貿易保険(NEXI)は、日本企業等による輸出、海外投資、海外融資その他の対外取引に伴うリスクを対象とする貿易保険を取り扱う公的輸出信用機関です。
NEXIは株式会社の形態を採っていますが、一般の民間損害保険会社と同じ位置付けではありません。貿易保険法に基づいて設立された全額政府出資の特殊会社であり、対外取引において通常の保険では救済することが難しい危険を保険する政策的な役割を担っています。
国際取引では、相手国の戦争、内乱、外貨送金規制、輸入制限、買主の破産、支払遅延、契約不履行等により、輸出代金、投資資金又は融資金を回収できなくなることがあります。
これらは、輸送中の貨物の破損、滅失、盗難等を主な対象とする外航貨物海上保険とは異なるリスクです。
本記事では、NEXIという機関全体の位置付け、貿易保険と輸出信用保険の関係、非常危険と信用危険、主な保険商品、国カテゴリー、信用調査及び外航貨物海上保険との役割分担を整理します。
この記事で扱う範囲
| 項目 | この記事で扱う内容 | 他記事で扱う内容 |
|---|---|---|
| NEXIの位置付け | 貿易保険法に基づく全額政府出資の公的輸出信用機関としての役割 | NEXIの組織、人事、財務及び政策決定過程の詳細は扱いません |
| 貿易保険 | 輸出、投資、融資その他の対外取引リスクを補完する制度の全体像 | 個別保険商品の約款、てん補率、保険料率及び申込手続はNEXIの最新商品案内で確認します |
| 輸出信用保険 | 輸出代金回収リスク等を対象とする保険制度を示す一般的な用語としての位置付け | 実際の申込みでは、貿易一般保険等の正式な個別商品名を確認します |
| 非常危険 | 戦争、外貨送金規制、輸入制限等の不可抗力的な危険の基本的な考え方 | 各商品の具体的なてん補事由は約款及び運用規程で確認します |
| 信用危険 | 買主等の破産、支払不能、支払遅延等に関する基本的な考え方 | 信用危険の具体的な成立要件や待機期間は商品ごとに確認します |
| 外航貨物海上保険 | 貨物の物理的損害と輸出代金回収不能を切り分ける方法 | 貨物損害の補償条件、免責及び保険期間は外航貨物海上保険の各記事で扱います |
| 主な保険商品 | 輸出、投資、融資等の取引形態と主な商品との関係 | 各商品の詳細な申込要件、告知、通知及び保険金請求は個別商品案内で確認します |
| 国カテゴリー | 相手国のカントリーリスクを確認するための区分と実務上の意味 | 現在の国カテゴリーと国別引受方針はNEXI公式サイトで確認します |
| 信用調査 | 買主、支払人、借入人等の信用状況と引受判断との関係 | 具体的な格付け、個別保証枠及び調査手続はNEXIへ確認します |
| 輸出手形保険 | 荷為替手形を買い取った銀行が被保険者となる制度の基本 | 買取条件、対象手形、通知及び保険金請求手続は輸出手形保険の個別記事又は公式規程で確認します |
| ODA・プロジェクト貨物 | 輸送、輸出代金、投資及び融資の複数リスクを分ける考え方 | 個別の資金調達、政府保証、プロジェクトファイナンス契約等は専門家へ確認します |
本記事の位置付け
本記事は、NEXIの各保険商品を個別に解説する記事ではなく、NEXIの制度全体と外航貨物海上保険との役割分担を整理する入口記事です。
輸出取引、海外投資、融資、前払購入、荷為替手形の買取等では、取引形態によって適用を検討する保険商品が異なります。
そのため、本記事では特定の商品だけを中心とせず、最初に次の事項を判断できるように整理します。
- 問題が貨物の物理的損害なのか、代金等の回収不能なのか
- リスクの原因が相手国事情なのか、取引相手の信用状態なのか
- 船積前の輸出不能なのか、船積後の代金回収不能なのか
- 輸出取引、投資又は融資のどの取引に関するリスクなのか
- 輸出者、銀行、投資者又は融資者の誰が保険を利用するのか
「輸出信用保険」という用語の意味
輸出信用保険は、輸出取引に伴う代金回収不能等の信用リスクやカントリーリスクを補完する保険制度を示す一般的な用語です。
NEXI自身は公的輸出信用機関に位置付けられますが、「輸出信用保険」という名称だけで一つの現行保険商品を示すとは限りません。
実際に保険を利用する場合は、貿易一般保険、中小企業・農林水産業輸出代金保険、輸出手形保険等の正式な商品名、約款及び申込条件を確認します。
| 用語 | 主な意味 | 対象となる場面 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 貿易保険 | NEXIが取り扱う輸出入、投資、融資等の対外取引保険の総称 | 輸出代金、投資、融資、前払購入等 | 実際の補償内容は個別の商品及び約款で決まります |
| 輸出信用保険 | 輸出代金回収等に関する信用・非常リスクを補完する一般的な制度名称 | 海外買主との掛取引、ユーザンス取引等 | 現在の商品名と同一とは限りません |
| 輸出代金保険 | 輸出者が輸出代金を回収できないリスクに備える保険を示す表現 | 輸出契約に基づく代金回収 | 企業規模や取引条件に応じて正式商品を確認します |
| 輸出手形保険 | 銀行が買い取った荷為替手形の不払いリスクに備える保険 | D/P、D/A、L/C付荷為替手形等の買取 | 銀行が被保険者であり、単なる取立扱いとは区別します |
| 外航貨物海上保険 | 国際輸送中の貨物の物理的損害等を対象とする保険 | 破損、濡損、盗難、滅失、共同海損等 | 輸出代金回収不能は通常の主たる補償対象ではありません |
NEXIの制度上の位置付け
NEXIは、貿易保険法に基づいて設立された全額政府出資の特殊会社です。
対外取引において生じる危険のうち、通常の保険では救済することが難しい危険を保険することを目的としています。
株式会社であることだけを理由に、一般の民間損害保険会社と同じ商品体系、審査方法又は引受方針を持つと考えてはいけません。
| 項目 | NEXI | 一般的な民間保険会社 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 設立・位置付け | 貿易保険法に基づく全額政府出資の特殊会社 | 保険業法等に基づく民間保険会社 | 同じ「保険」であっても制度目的が異なります |
| 主な対象 | 輸出、投資、融資等の対外取引リスク | 財物、賠償、信用、傷害その他の商品ごとのリスク | 貨物保険と貿易保険を分けて確認します |
| カントリーリスク | 国カテゴリーや国別引受方針を設定 | 商品及び保険会社独自の審査による | NEXIの国別方針は随時変更される可能性があります |
| 信用調査 | 買主等の格付けや与信枠が引受に関係 | 保険会社独自の信用審査等による | 取引開始前に調査期間を見込む必要があります |
| 保険商品 | 貿易一般保険、海外投資保険、融資関係保険等 | 貨物保険、取引信用保険、賠償責任保険等 | 正式な商品名と被保険者を確認します |
外航貨物海上保険との違い
| 比較項目 | NEXIの貿易保険 | 外航貨物海上保険 | 両方が関係する可能性がある場面 | 実務上の確認点 |
|---|---|---|---|---|
| 主な対象 | 輸出代金、投資、融資等の回収不能又は損失 | 輸送中の貨物の物理的損害 | 貨物事故後に買主が代金支払いを拒絶した場合 | 貨物損害と代金債権を別々に確認します |
| 主な危険 | 非常危険、信用危険 | 海上・航空・陸上輸送中の偶然な事故等 | 戦争や輸入禁止により貨物が途中で滞留した場合 | 損害原因と各保険の約款を確認します |
| 保険の目的 | 代金債権、投資、融資等 | 貨物の経済的利益 | 高額設備の分割船積・分割払い | 船積単位と支払マイルストーンを分けます |
| 事故の発生 | 約款所定の回収不能、輸出不能、投資損失等 | 貨物の破損、滅失、盗難等 | 買主の受取拒否により貨物が長期間保管された場合 | 保管中の物損と不払リスクを分けます |
| 遅延 | 所定の支払遅延等が信用危険となる場合があります | 純粋な遅延損害は通常の貨物保険で問題となります | 支払遅延と貨物到着遅延が同時に起きた場合 | 「遅延」という言葉だけで同じ事故と判断しません |
| 申込時期 | 契約締結、船積、融資実行等の前に確認が必要です | 原則として危険開始前に付保します | 長期プロジェクトや複数回船積 | 保険開始時点と申込期限を各保険で確認します |
| 相談先 | NEXI、取引金融機関、貿易保険担当者 | 保険会社、貨物保険代理店 | 貨物事故と代金回収不能が混在する場合 | 一方の保険だけへ通知して終わらせません |
非常危険と信用危険
NEXIの貿易保険では、てん補危険を確認する際に、非常危険と信用危険を区別します。
非常危険は、戦争、外貨送金規制等、契約当事者の責任によらない不可抗力的な事由による危険を指します。
信用危険は、輸出契約等の相手方の破産、資金繰り悪化による債務履行遅滞等、相手方の信用状態に起因する危険を指します。
ただし、何が保険事故となるか、何か月の遅延が必要か、船積前の事故も対象となるか等は、保険商品、約款、運用規程及び特約によって異なります。
| 危険区分 | 典型的な原因 | 主な確認資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 非常危険 | 戦争、内乱、革命、外貨送金規制 | 政府発表、銀行通知、送金記録、契約書 | 単なる市場価格下落や商業判断とは区別します |
| 非常危険 | 輸入制限、輸入禁止、経済制裁 | 法令、税関通知、輸入許可関係書類 | 契約締結時から存在した規制等は別途判断が必要です |
| 非常危険 | 政府等による収用、契約履行妨害 | 行政処分、政府契約、投資契約 | 海外投資保険等の商品要件を確認します |
| 信用危険 | 買主の破産、支払不能 | 登記、破産手続資料、信用調査資料 | 事故通知や債権保全義務を確認します |
| 信用危険 | 所定期間以上の支払遅延 | インボイス、支払期限、入金記録、督促記録 | 商品ごとの事故成立時期を確認します |
| 信用危険ではない可能性がある場面 | 品質、数量、契約履行をめぐる紛争 | 検査記録、契約書、クレーム書、サーベイ | 買主の支払拒絶だけで信用事故と断定しません |
| 被保険者側の問題 | 契約違反、無断条件変更、通知義務違反 | 約款、変更契約、通知記録 | 保険金不払い又は減額につながる可能性があります |
主な保険商品
NEXIの商品は、取引形態、取引頻度、契約期間、支払条件、被保険者及び対象リスクに応じて選択します。
| 保険商品・制度 | 主な対象取引 | 主な利用者 | 主なリスク | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 貿易一般保険 | 輸出契約、仲介貿易契約等 | 輸出者、商社、メーカー等 | 非常危険、信用危険 | 船積前・船積後の対象範囲や契約条件を確認します |
| 中小企業・農林水産業輸出代金保険 | 中小企業や農林水産業者等の輸出取引 | 対象要件を満たす輸出者 | 輸出代金回収不能等 | 企業要件、対象取引、申込手続を確認します |
| 限度額設定型貿易保険 | 継続的な輸出取引等 | 一定の取引管理を行う企業 | 非常危険、信用危険 | 限度額、通知、与信管理等を確認します |
| 簡易通知型包括保険 | 多数の輸出取引を包括的に管理する場合 | 継続的な輸出者等 | 対象契約の回収不能等 | 通知対象取引と包括条件を確認します |
| 輸出手形保険 | 輸出貨物代金の決済のために振り出された荷為替手形の買取 | 荷為替手形を買い取る銀行 | 買取後の手形不払い | 輸出者が直接申し込む商品ではなく、取立のみとは区別します |
| 前払購入保険 | 輸入者等が外国へ前払金を支払う取引 | 前払購入を行う企業等 | 前払金の回収不能等 | 旧称や類似表現ではなく現行の商品名を確認します |
| 海外投資保険 | 外国法人への出資、権利取得等 | 海外投資を行う企業 | 収用、戦争、送金不能、事業不能等 | 投資形態と対象となる政治リスクを確認します |
| 海外事業資金貸付保険 | 海外事業への貸付、保証等 | 金融機関、企業等 | 融資回収不能、保証債務等 | 事前相談や内諾が必要となる場合があります |
| 貿易代金貸付保険 | 輸出代金等に関係する貸付 | 金融機関等 | 貸付金回収不能等 | 貸付契約、対象取引、償還条件を確認します |
| 信用状確認保険 | 信用状確認に伴うリスク | 信用状確認を行う銀行等 | 信用状発行銀行等に関する危険 | 輸出者の通常の貨物保険とは別制度です |
国カテゴリーとは
国カテゴリーとは、相手国又は取引関係国のカントリーリスクを一定の区分に分類したものです。
国カテゴリーは、貿易保険の引受方針、保険料率、ユーザンス条件その他の確認に関係します。
ただし、国カテゴリーだけで個別案件の引受可否が自動的に決まるわけではありません。
同じ国でも、保険商品、取引期間、買主の属性、決済方法、政府保証の有無、案件内容等により、引受条件が異なる場合があります。
| 確認項目 | 意味 | 実務への影響 | 確認方法 |
|---|---|---|---|
| 国カテゴリー | 国・地域のカントリーリスクに関する区分 | 保険料率や条件確認に関係します | NEXIの最新国カテゴリー表を確認します |
| 国別引受方針 | 国・地域ごとの商品別の引受態度 | 引受可能、条件付、制限等の確認に関係します | 取引開始前及び申込前に確認します |
| 案件枠 | 国や案件に設定される引受上の限度等 | 大型案件や長期案件の引受に影響する可能性があります | NEXIへ個別に確認します |
| ユーザンス条件 | 決済期限又は償還期限までの期間 | 長期支払条件の引受可否に関係します | 契約書と支払スケジュールを提示します |
| 引受方針の変更 | 国際情勢等により方針が改定されること | 過去に可能だった取引が同条件で引き受けられるとは限りません | 契約締結前と申込時に再確認します |
信用調査と買主審査
信用危険を引き受ける場合、買主、支払人、借入人、保証人等の信用状態が重要になります。
NEXIでは、海外商社格付けや個別保証枠等が信用危険の引受に関係する場合があります。
取引先と長年の取引実績があることや、過去に支払遅延がなかったことだけで、信用調査が不要になるとは限りません。
| 確認対象 | 主な確認事項 | 必要となり得る資料 | 問題がある場合の対応 |
|---|---|---|---|
| 買主・支払人 | 財務状況、支払履歴、事業内容、格付け | 財務諸表、登記、信用調査報告等 | 前受金、L/C、保証等の決済条件を検討します |
| 保証人 | 保証の法的有効性、資力、保証範囲 | 保証状、親会社保証、政府保証等 | 保証文言や準拠法を専門家へ確認します |
| 政府・公的機関 | 予算、支払権限、ソブリン性、契約履行能力 | 政府契約、予算資料、保証書等 | 公的機関であることだけで無条件に安全と判断しません |
| 信用状発行銀行 | 銀行の信用状態、信用状条件、確認の有無 | L/C、銀行情報、SWIFTメッセージ等 | 信用状確認等の必要性を金融機関へ相談します |
| 過去の支払遅延 | 延滞期間、理由、解消状況 | 入金履歴、督促記録、合意書 | 取引条件や与信枠を見直します |
貿易保険の選択フロー
- 取引が輸出、輸入、投資又は融資のどれに該当するか確認する
- 誰が損失を受けるのか、輸出者、銀行、投資者又は融資者を確認する
- 問題となるリスクが貨物損害か、代金・投資・融資の回収不能かを区別する
- リスクが非常危険か、信用危険か、契約紛争かを整理する
- 船積前の輸出不能か、船積後の代金回収不能かを確認する
- 相手国の国カテゴリー及び国別引受方針を確認する
- 買主、支払人、借入人又は保証人の信用調査要否を確認する
- 支払条件、ユーザンス、L/C、D/P、D/A、分割払い等を確認する
- 該当する正式な保険商品及び申込期限をNEXIへ確認する
- 外航貨物海上保険、賠償責任保険、銀行保証等との役割分担を確認する
外航貨物海上保険と貿易保険の判断が難しい場面
| 場面 | 貨物保険で確認する事項 | 貿易保険で確認する事項 | どちらにも自動的に含まれない可能性がある費用 | 初動対応 |
|---|---|---|---|---|
| 輸送中に貨物が破損し、買主が支払いを拒絶した | 破損原因、保険期間、免責、損害額 | 支払拒絶が信用危険か契約紛争か | 値引き、違約金、将来利益等 | 貨物事故通知と債権保全を並行します |
| 買主が受取りを拒否し、貨物が現地で滞留した | 保管中の物損、保険期間の継続 | 受取拒否の原因、代金回収不能 | 保管料、demurrage、detention、再輸出費用等 | 契約、B/L、保険約款を同時に確認します |
| 買主が破産したが貨物は無傷で到着した | 通常は物理的損害がないか確認 | 信用危険としての事故成立 | 貨物処分費用、値下げ損等 | NEXIへ通知し、貨物の処分を協議します |
| 輸入禁止により貨物が第三国へ迂回した | 迂回中の物損、保険条件の変更 | 非常危険、輸出不能又は代金回収不能 | 追加運賃、保管料、契約上の遅延損害等 | 両保険者へ事情を通知します |
| 戦争により港が閉鎖され船積できない | まだ危険開始前か、保管中の貨物損害があるか | 船積前危険が対象となる商品か | 生産停止費用、契約違約金等 | 契約解除前にNEXIへ確認します |
| 品質クレームを理由に買主が代金を支払わない | 輸送事故による品質変化か | 信用事故か契約履行争いか | 商業上の値引き、再検査費用等 | サーベイと契約履行資料を保全します |
| プロジェクト貨物の一部が損傷し、マイルストーン代金が支払われない | 損傷部分の修理・再調達費用 | 未払代金、政府・買主の信用リスク | 工程遅延、逸失利益、液体化損害賠償等 | 輸送契約、売買契約、保険を分けて整理します |
| 現地通貨では支払われたが外貨送金できない | 貨物損害の有無 | 外貨送金規制等の非常危険 | 為替差損、資金調達費用等 | 銀行記録と送金規制資料を保全します |
D/P・D/Aと輸出手形保険
D/P又はD/A取引で荷為替手形が使用される場合でも、すべての取立取引が輸出手形保険の対象となるわけではありません。
輸出手形保険は、輸出貨物代金の決済のために振り出された荷為替手形を銀行が買い取る場合に、当該銀行が被保険者となる制度です。
輸出者が銀行へ取立のみを依頼し、銀行が荷為替手形を買い取らない場合は、輸出手形保険の「買取」を前提とする保険関係とは区別する必要があります。
| 取扱い | 銀行の役割 | 輸出手形保険との関係 | 輸出者側の確認事項 |
|---|---|---|---|
| D/P・D/Aの取立 | 書類及び手形を海外銀行経由で取立てる | 銀行による買取がなければ、輸出手形保険の買取案件とは区別します | 他の貿易保険商品の利用可否を確認します |
| 荷為替手形の買取 | 銀行が手形を買い取り、輸出者へ資金を支払う | 所定要件を満たせば輸出手形保険を検討します | 銀行を通じて申込みや条件を確認します |
| L/C付手形の買取 | 信用状条件を確認して手形等を買い取る | 取消不能信用状その他の要件を確認します | ディスクレパンシーや信用状条件を確認します |
| オープンアカウント | 通常は荷為替手形の買取を伴わない | 輸出手形保険以外の商品を検討します | 買主信用、支払期限、債権管理を確認します |
ODA案件・プロジェクト貨物との関係
ODA関連案件、港湾インフラ、発電設備、鉄道、プラント、海外建設その他のプロジェクトでは、貨物輸送、輸出代金、融資、投資及び現地工事が一つの案件に含まれることがあります。
そのため、「プロジェクト全体に保険を付けた」という説明だけでは、どのリスクがどの保険でカバーされるか判断できません。
| リスク | 主に確認する制度・契約 | 確認事項 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 海上輸送中の設備破損 | 外航貨物海上保険 | 保険金額、梱包、積付け、保険期間 | 輸出代金回収不能とは別です |
| 買主からの代金不払い | NEXIの輸出取引関係保険 | 支払条件、買主信用、非常・信用危険 | 品質紛争等は別途確認します |
| 政府による契約停止 | 貿易保険、投資保険等 | 政府契約、非常危険、契約履行状況 | 単なる予算不足か政策措置かを確認します |
| 現地法人への投資損失 | 海外投資保険 | 出資形態、収用、送金不能、事業不能 | 通常の事業不振とは区別します |
| プロジェクト融資の返済不能 | 海外事業資金貸付保険等 | 借入人、保証、償還条件、プロジェクト収益 | 事前相談や政府確認が必要となる場合があります |
| 据付け後の性能不足 | 売買契約、EPC契約、賠償責任保険等 | 性能保証、検収、瑕疵、責任制限 | 貨物保険や信用保険で当然に補償されるとは限りません |
フォワーダーの関与範囲
本記事における五分類は、法令上又は業界全体で確立された分類ではなく、本シリーズにおいてフォワーダーの関与範囲を整理するために使用する分析上の枠組みです。
| 標準五分類 | NEXI・輸出信用保険に関する主な関与 | 対応できる範囲 | 原則として対応できない範囲 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|---|
| Simple Intermediary(単純取次) | NEXI、金融機関、保険代理店等の相談先を案内する | 一般的な制度説明、連絡取次、書類授受 | 保険引受可否、買主信用、保険金支払の判断 | 貨物保険だけで代金回収リスクへ対応できると説明しません |
| Cargo Transportation Service Provider(貨物利用運送事業者) | 国際輸送を引き受け、船積日、到着日、輸送状況等を提供する | 輸送計画、運送書類、事故記録の提供 | 輸出契約上の代金回収保証 | 輸送事故と信用事故を区別します |
| NVOCC / House B/L Issuer | House B/Lを発行し、貨物事故時の運送責任を確認する | 運送契約、事故区間、貨物損害対応 | 買主の支払能力又は相手国の政治リスクの保証 | 貨物損害と輸出代金不払いを別案件として整理します |
| Door-to-Door Single Contractor | 集荷から納品までの輸送を一体的に管理する | 輸送、通関、保管、納品等の統合管理 | 売買代金、投資又は融資の回収保証 | 買主の受取拒否時には契約当事者と保険者へ早期連絡します |
| Agent / Coordinator for Specific Operations(特定業務の代理・調整者) | 船積書類、銀行提出書類、事故資料等の特定業務を補助する | 個別に委任された書類作成・調整 | NEXIへの保険申込み又は信用判断を当然に代理すること | 委任範囲と提出期限を明確にします |
Contracting Carrier及びActual Carrier等は、運送契約上又は法的な地位を示す概念であり、本記事の標準五分類を置き換えるものではありません。
実務で問題になりやすいケース
| ケース | 主な原因 | 確認資料 | 判断のポイント | 初動対応 |
|---|---|---|---|---|
| NEXI保険があれば貨物損害も補償されると考えた | 貿易保険と貨物保険の混同 | 保険証券、輸出契約、B/L | 保険の目的とてん補危険を区別します | 貨物保険会社へ事故通知します |
| 貨物が無傷で到着したが買主が破産した | 買主の信用悪化 | インボイス、支払期限、破産資料 | 貨物事故ではなく信用危険の可能性を確認します | NEXIへ所定の通知を行います |
| 買主の受取拒否で貨物が港に滞留した | 契約紛争、信用不安、輸入規制等 | 売買契約、B/L、クレーム書、税関通知 | 受取拒否の原因と物損の有無を分けます | 両保険者、金融機関、弁護士へ連絡します |
| D/P取立が不払となり輸出手形保険を請求しようとした | 取立と買取の混同 | 銀行依頼書、手形、取立指図 | 銀行が手形を買い取ったか確認します | 他の貿易保険商品の有無を確認します |
| 品質クレームを理由に支払拒絶された | 品質紛争と信用事故の混同 | 検査証明、サーベイ、契約仕様 | 輸出者側の契約履行に問題がないか確認します | 証拠保全と法律確認を行います |
| 契約締結後に国別引受方針が変更された | 事前確認又は再確認不足 | 契約書、引受方針、申込記録 | 保険関係成立時期と条件を確認します | NEXIへ直ちに相談します |
| 海外投資の事業不振を政治リスクと考えた | 通常の事業リスクと非常危険の混同 | 財務資料、政府措置、投資契約 | 収用、送金不能等の所定事由があるか確認します | 投資保険の約款を確認します |
| 分割船積の一部だけ事故となった | 船積単位と支払条件の管理不足 | 船積記録、インボイス、支払予定表 | 貨物損害と未払代金の対象額を分けます | 事故船積分を特定して通知します |
具体例1:貨物損害と輸出代金不払いが同時に発生した場合
日本のメーカーが海外買主へ機械を輸出し、輸送中に一部が水濡れしたとします。
買主は貨物の受取り後、機械が契約仕様を満たしていないとして、輸出代金全額の支払いを拒絶しました。
この場合、貨物の水濡れ損害については、外航貨物海上保険の保険期間、事故原因、免責及び損害額を確認します。
一方、代金不払いについては、単に支払いがないという理由だけで信用危険と判断できません。買主の主張が輸送事故による損傷なのか、製品自体の品質不良なのか、契約上の検収条件を満たしていないのかを確認する必要があります。
輸出者は、貨物保険会社、NEXI、買主、フォワーダー及びサーベイヤーへの連絡を並行して行い、貨物損害と代金債権を別々に整理します。
具体例2:買主の受取拒否により貨物が現地で滞留した場合
輸出貨物が仕向港へ到着したものの、買主の資金繰り悪化により、買主が貨物を引き取らなかったとします。
貨物は港又は保税倉庫で長期間保管され、保管料、demurrage、detention及び再輸出費用が発生しました。
買主の支払不能については、NEXIの信用危険が関係する可能性があります。
一方、保管中に貨物が錆びたり品質劣化した場合は、貨物保険の保険期間や免責を確認します。
保管料、demurrage、detention及び再輸出費用は、いずれかの保険で当然に全額補償されるとは限りません。貨物処分又は再輸出を決定する前に、NEXI、貨物保険会社、shipping line、フォワーダー及び弁護士へ確認します。
具体例3:D/A手形を銀行が買い取った後に不払となった場合
輸出者がD/A条件で海外買主へ貨物を輸出し、荷為替手形を取引銀行が買い取ったとします。
満期に買主が支払いを行わなかった場合、所定の要件を満たしていれば、銀行が被保険者となる輸出手形保険が関係する可能性があります。
輸出手形保険は、輸出者が直接NEXIへ申し込む保険ではありません。輸出者は、手形を買い取った銀行を通じて保険関係、対象手形、通知及び求償関係を確認します。
銀行へ単に取立を依頼しただけで、銀行が手形を買い取っていない場合は、同じD/A取引であっても輸出手形保険の買取案件とは異なります。
具体例4:プロジェクト貨物で輸送事故と政府支払停止が発生した場合
日本企業が外国政府機関向けに大型設備を輸出し、複数回の船積と現地据付けを行う契約を締結したとします。
一部の貨物が輸送中に破損した後、相手国の外貨不足及び政府措置により、残代金の海外送金が停止されました。
輸送中の物理的損害は外航貨物海上保険で確認し、外貨送金規制による代金回収不能はNEXIの非常危険として確認します。
ただし、設備の性能不足、据付け遅延、検収未了等を理由として支払われていない部分は、契約履行上の紛争である可能性があります。
船積ごとの貨物価額、支払マイルストーン、検収条件、輸送事故、政府措置及び未払金額を分け、貨物保険会社、NEXI、取引金融機関及び弁護士へ確認します。
判断チェックリスト
| 確認場面 | 確認する相手 | 確認事項 | 問題がある場合の対応 |
|---|---|---|---|
| 輸出契約締結前 | NEXI、取引金融機関、法務担当者 | 相手国、買主、支払条件、商品、申込期限 | 前受金、L/C、保証等を含め条件を見直します |
| 買主選定時 | NEXI、信用調査会社、金融機関 | 買主格付け、財務状況、与信枠 | 取引限度額又は決済条件を変更します |
| 国別リスク確認時 | NEXI | 国カテゴリー、国別引受方針、案件枠 | 引受条件を確認して契約内容を調整します |
| 保険商品選択時 | NEXI、貿易保険担当者 | 輸出、投資、融資、前払購入等の取引形態 | 正式な商品名と被保険者を確認します |
| D/P・D/A利用時 | 取引銀行、NEXI | 取立か買取か、対象手形、支払期限 | 輸出手形保険又は他商品を選択します |
| 船積前 | NEXI、貨物保険代理店、フォワーダー | 保険関係成立、貨物付保、輸送書類 | 保険未成立の場合は船積前に対応します |
| 支払遅延発生時 | NEXI、買主、金融機関 | 遅延理由、期間、危険発生通知等 | 約款所定の期限内に通知します |
| 貨物事故発生時 | 貨物保険会社、NEXI、フォワーダー | 貨物損害と代金回収リスクの関係 | 一方だけでなく必要な関係者へ通知します |
| 買主の受取拒否時 | NEXI、貨物保険会社、弁護士 | 拒否理由、貨物状態、契約履行、保管費用 | 貨物処分や再輸出前に承認を確認します |
| 保険金請求時 | NEXI、金融機関、弁護士 | 損失額、回収額、通知、損失防止軽減義務 | 不足書類を整備し、回収方針を共有します |
よくある誤解
| 誤解 | 実際の考え方 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| NEXIは通常の民間損害保険会社である | NEXIは貿易保険法に基づく全額政府出資の特殊会社です | 制度目的、商品及び引受方法を区別します |
| NEXIの保険に入れば輸送中の貨物損害もすべて補償される | 貨物の物理的損害は主に外航貨物海上保険で確認します | 貿易保険と貨物保険を別々に付保します |
| 貨物保険に入れば輸出代金不払いも補償される | 通常の貨物保険は代金回収不能を主たる対象としません | NEXI等の信用リスク対策を検討します |
| 買主が支払わなければ必ず信用危険になる | 品質紛争や輸出者側の契約不履行が原因の場合もあります | 支払拒絶の理由を確認します |
| 相手が政府機関なら信用調査は不要である | 公的機関でも予算、権限、保証及び支払能力の確認が必要です | ソブリン性や政府保証を個別に確認します |
| 国カテゴリーだけで引受可否が決まる | 商品、期間、買主、決済条件等も引受に関係します | 国別引受方針と個別条件を確認します |
| D/P・D/Aならすべて輸出手形保険を利用できる | 輸出手形保険は銀行による荷為替手形の買取を前提とします | 取立と買取を区別します |
| 輸出信用保険という名称の商品へ申し込めばよい | 輸出信用保険は一般的な制度名称として使用される場合があります | 実際の正式商品名を確認します |
| 一度決まった国別引受方針は契約終了まで変わらない | 国際情勢等により変更される可能性があります | 契約締結前と申込時に再確認します |
| 保険事故後はNEXIがすべての回収を自動的に行う | 被保険者にも通知、損失防止軽減、回収協力等が求められます | 約款上の義務と回収方針を確認します |
関連法令・規程・制度
| 法令・規程・制度 | 主な対象 | 本記事との関係 | 確認時の注意点 |
|---|---|---|---|
| 貿易保険法 | NEXI及び貿易保険制度 | NEXIの設立、目的、業務等の根拠となります | 最新法令及び改正内容を確認します |
| 各保険商品の約款 | てん補危険、免責、被保険者の義務等 | 具体的な保険契約内容を定めます | 概要資料より約款が優先されます |
| 各保険商品の運用規程 | てん補事由、引受条件、手続等 | 約款の具体的な運用に関係します | 適用日と最新版を確認します |
| 手続細則 | 申込み、通知、保険金請求等 | 提出書類と期限に関係します | 商品ごとに異なる手続を確認します |
| 国別引受方針 | 国・地域ごとの保険引受 | 引受態度、条件及び案件枠等に関係します | 変更情報を随時確認します |
| 外航貨物海上保険約款 | 国際輸送中の貨物損害 | 貿易保険と異なる物的リスクを補償します | ICC等の貨物保険条件と区別します |
| 売買契約・融資契約・投資契約 | 代金、履行、保証、返済等 | 保険対象となる権利義務の基礎になります | 保険契約と原契約の整合性を確認します |
専門家へ相談すべき場面
| 場面 | 主な相談先 | 相談が必要な理由 | 準備する資料 |
|---|---|---|---|
| どのNEXI商品を利用すべきか分からない | NEXI、取引金融機関 | 取引形態と被保険者によって商品が異なるため | 契約書、支払条件、相手国、買主情報 |
| 貨物損害と代金不払いが同時に発生した | NEXI、貨物保険会社、保険代理店 | 二つの保険の対象を分ける必要があるため | B/L、保険証券、インボイス、事故資料 |
| 買主が品質クレームを理由に支払拒絶している | 弁護士、NEXI、サーベイヤー | 信用危険か契約紛争かの判断が必要なため | 契約仕様、検査記録、クレーム書 |
| 国別引受方針が制限されている | NEXI、金融機関 | 決済条件、保証、案件構造の変更を検討するため | 案件概要、支払計画、保証資料 |
| 海外政府・公的機関との契約である | NEXI、国際取引に詳しい弁護士 | 権限、準拠法、政府保証等を確認するため | 政府契約、保証状、予算資料 |
| 輸出手形保険の利用を検討している | 取引銀行、NEXI | 銀行買取と対象手形の要件を確認するため | 手形、L/C、B/L、インボイス |
| 保険事故後に和解又は債権放棄を検討している | NEXI、弁護士、金融機関 | 保険金及び回収権へ影響する可能性があるため | 和解案、債権資料、回収記録 |
まとめ
株式会社日本貿易保険(NEXI)は、貿易保険法に基づく全額政府出資の特殊会社であり、日本の公的輸出信用機関として、輸出、海外投資、海外融資等に伴うリスクを補完しています。
- NEXIの貿易保険と外航貨物海上保険は、対象となるリスクが異なります。
- 貨物の破損、滅失、盗難等は、主に外航貨物海上保険で確認します。
- 輸出代金、投資又は融資の回収不能等は、NEXIの貿易保険で確認します。
- 非常危険は、戦争、外貨送金規制等の不可抗力的な事由に関係します。
- 信用危険は、買主等の破産、支払不能、所定期間の支払遅延等に関係します。
- 「輸出信用保険」は一般的な制度名称として使用されることがあり、実際の申込みでは正式な保険商品名を確認します。
- 国カテゴリーはカントリーリスクを確認する区分ですが、国カテゴリーだけで個別案件の引受可否が決まるわけではありません。
- 信用危険の引受では、買主等の格付け、財務状態及び個別保証枠等が関係する場合があります。
- 輸出手形保険は、荷為替手形を買い取った銀行が被保険者となり、単なる取立扱いとは区別します。
- 貨物事故と代金不払いが同時に発生した場合は、貨物保険と貿易保険の双方へ早期に通知します。
輸出契約を締結する場合は、相手国、買主、支払条件、船積予定、国カテゴリー、国別引受方針及び利用可能な保険商品を契約前に確認してください。貨物損害については貨物保険会社又は保険代理店へ、輸出代金、投資又は融資の回収リスクについてはNEXI又は取引金融機関へ相談する必要があります。
本記事は、NEXI及び貿易保険制度に関する一般的な説明です。個別案件の引受、保険料、てん補率、保険金支払い、信用格付け、国別引受方針又は回収結果を保証するものではありません。実際の対応は、NEXIの最新商品案内、保険約款、運用規程、手続細則、国別引受方針、原契約及び個別案件の事情に基づいて判断してください。
同義語・別表記
関連用語
公式情報
- 公式ホームページ: https://www.nexi.go.jp
