外航貨物海上保険案内

Institute Cargo Clauses 1963–2009 | 外航貨物海上保険の解説・Q&A・ICC条項全文

Insurable Interest|MIA 1906 Section 4–15

Insurable Interest|MIA 1906 Section 4–15

Marine Insurance Act 1906(MIA 1906)のSection 4からSection 15は、
海上保険におけるInsurable Interest(被保険利益)について規定しています。

被保険利益は、「誰が保険金を受け取ることができるのか」を判断するだけの概念ではありません。
海上事業や被保険財産との間に、損害が発生すれば経済的不利益を受け、安全に到着すれば利益を受けるような法的・衡平法上の関係が存在するかという、海上保険契約の基礎となる概念です。

貨物保険で特に重要:
被保険利益、貨物の所有権、売買契約上の危険負担、Incoterms®によるrisk transferは、相互に関係しますが同一の概念ではありません。
事故時に誰が被保険利益を有していたかは、売買条件だけで機械的に判断せず、売買契約、貨物に対する法的・経済的関係、保険契約および事故発生時点を併せて確認する必要があります。

Section 4|Avoidance of wagering or gaming contracts

4. Avoidance of wagering or gaming contracts

(1) Every contract of marine insurance by way of gaming or wagering is void.

(2) A contract of marine insurance is deemed to be a gaming or wagering contract—

(a) Where the assured has not an insurable interest as defined by this Act, and the contract is entered into with no expectation of acquiring such an interest; or

(b) Where the policy is made “interest or no interest,” or “without further proof of interest than the policy itself,” or “without benefit of salvage to the insurer,” or subject to any other like term:

Provided that, where there is no possibility of salvage, a policy may be effected without benefit of salvage to the insurer.

概要

Section 4は、賭博または賭事として行われる海上保険契約を無効とする規定です。
被保険者に被保険利益がなく、かつ将来それを取得する見込みもない場合などは、海上保険を利用した単なる投機的契約として扱われます。

条文の意味

損害保険としての海上保険は、事故が起きたことによって利益を得るための賭けではありません。
被保険者には、被保険財産またはmarine adventureとの間に、損害によって不利益を受ける実質的な関係が必要です。

この考え方によって、貨物とは何の経済的関係もない第三者が、単に「貨物が沈没すれば保険金を受け取れる」という契約を行うことは排除されます。

実務上のポイント
「保険証券に名前がある」ことだけで被保険利益が当然に認められるわけではありません。
事故発生時に、その者が貨物の安全な到着によって利益を受け、または貨物の滅失・損傷によって経済的不利益を受ける立場にあったかが重要です。

関連Section

現行法上の注意

Section 4は現在もMIA 1906の被保険利益に関する基本規定として残っています。

Section 5|Insurable interest defined

5. Insurable interest defined

(1) Subject to the provisions of this Act, every person has an insurable interest who is interested in a marine adventure.

(2) In particular a person is interested in a marine adventure where he stands in any legal or equitable relation to the adventure or to any insurable property at risk therein, in consequence of which he may benefit by the safety or due arrival of insurable property, or may be prejudiced by its loss, or by damage thereto, or by the detention thereof, or may incur liability in respect thereof.

概要

Section 5は、Insurable Interest(被保険利益)の中心的な定義規定です。
marine adventureまたはその中で危険にさらされる財産との間に法的または衡平法上の関係を有し、その安全・到着によって利益を受け、滅失・損傷・留置によって不利益を受け、または責任を負う可能性がある者は、被保険利益を有します。

条文の意味

被保険利益は、単純な所有権だけを意味しません。
所有者でなくても、貨物の安全な到着によって経済的利益を得る者、損害によって金銭的不利益を受ける者、あるいは貨物に関して第三者責任を負う可能性がある者について、被保険利益が成立する場合があります。

関係 被保険利益との関係 貨物保険での例
所有権 典型的な被保険利益の基礎 自己所有貨物の輸送
危険負担 損害時に経済的不利益を受ける関係 売買契約上、輸送中の危険を負担する買主または売主
契約上の利益 安全な到着によって経済的利益を得る関係 貨物の到着を前提とする取引上の利益
責任 貨物事故によって第三者責任を負う可能性 貨物に関する一定の責任関係

外航貨物海上保険実務との関係

国際売買では、所有権移転時期と危険移転時期が一致するとは限りません。
また、Incoterms®は主として売主・買主間の費用負担、危険移転、運送・保険手配等を整理するルールであり、それ自体が英国海上保険法上の被保険利益を最終決定するものではありません。

実務上のポイント
貨物事故では、「誰が貨物を所有していたか」だけでなく、「事故時点で誰が貨物の損害による経済的不利益を負ったのか」を確認することが重要です。

関連Section

現行法上の注意

Section 5は現在もMIA 1906における被保険利益の中心的な定義規定です。

Section 6|When interest must attach

6. When interest must attach

(1) The assured must be interested in the subject-matter insured at the time of the loss though he need not be interested when the insurance is effected: Provided that where the subject-matter is insured “lost or not lost,” the assured may recover although he may not have acquired his interest until after the loss, unless at the time of effecting the contract of insurance the assured was aware of the loss, and the insurer was not.

(2) Where the assured has no interest at the time of the loss, he cannot acquire interest by any act or election after he is aware of the loss.

概要

Section 6は、被保険利益をいつ有していなければならないかを定めています。
原則として、保険契約締結時に被保険利益を有している必要はありませんが、損害発生時には被保険利益を有していなければなりません。

条文の意味

貨物海上保険では、保険契約が手配された時点と、売買契約上の危険が売主から買主へ移る時点が異なる場合があります。
そのため、付保時にまだ貨物について最終的な被保険利益を取得していない者であっても、事故発生時に必要な被保険利益を有していれば、Section 6の原則に適合し得ます。

一方、事故が発生した後、その事故を知った者が事後的に貨物の利益を取得して保険金請求権を作り出すことは認められません。

重要:
「保険契約を締結した時点」と「損害発生時点」を分けて考えることがSection 6のポイントです。

外航貨物海上保険実務との関係

国際売買では、船積み、船積書類の取得、危険移転、代金決済、貨物引渡しなどが異なる時点で行われます。
事故時の被保険利益を確認する際には、Incoterms®だけでなく、実際の売買契約と取引経過を確認する必要があります。

実務上のポイント
貨物事故の初動では、事故日時とともに、売買条件、船積日、危険移転時点、Invoice、B/L、保険証券等を確認します。
これは「事故時に誰が被保険利益を有していたか」を整理するためです。

関連Section

現行法上の注意

Section 6は現在も、海上保険における被保険利益の時点を判断する基本規定です。

Section 7|Defeasible or contingent interest

7. Defeasible or contingent interest

(1) A defeasible interest is insurable, as also is a contingent interest.

(2) In particular, where the buyer of goods has insured them, he has an insurable interest, notwithstanding that he might, at his election, have rejected the goods, or have treated them as at the seller’s risk, by reason of the latter’s delay in making delivery or otherwise.

概要

Section 7は、将来消滅する可能性のある利益(defeasible interest)や、一定の条件が成立した場合に具体化する利益(contingent interest)も保険の対象となり得ることを規定しています。

条文の意味

被保険利益は、事故発生まで完全かつ確定的な所有権として存在していなければならないわけではありません。
条件付き、解除可能、あるいは取引の結果によって変化する利益であっても、海上保険上の被保険利益となり得ます。

第2項は貨物売買に直接関係する重要な例です。
買主が貨物を保険に付した場合、売主の引渡遅延等を理由として買主が貨物を拒絶したり、売主危険として扱える可能性があったとしても、そのことだけで買主の被保険利益が否定されるわけではありません。

外航貨物海上保険実務との関係

国際売買では、事故後に貨物の受領拒否、契約解除、返品、価格調整などの問題が生じることがあります。
しかし、そのような選択肢が存在することと、事故発生時に被保険利益が存在するかどうかは別問題です。

実務上のポイント
「買主が後で貨物を拒絶できる可能性があったから、買主には被保険利益がない」と単純には判断できません。
Section 7は、国際貨物売買における条件付き・変動的な利益にも対応する規定です。

関連Section

現行法上の注意

Section 7は現在もMIA 1906の被保険利益に関する規定として残っています。

Section 8|Partial interest

8. Partial interest

A partial interest of any nature is insurable.

概要

Section 8は、全部ではなく一部についての利益であっても被保険利益となり得ることを規定しています。

条文の意味

海上保険の対象となるために、被保険者が被保険財産の全価値について利益を有する必要はありません。
一部の経済的利益だけを持つ場合でも、その範囲について被保険利益が成立し得ます。

実務上のポイント
被保険利益の存在とその金額は別に検討する必要があります。
「利益があるか」だけでなく、「どの範囲・金額について利益があるか」が保険金額や損害填補の判断につながります。

関連Section

現行法上の注意

Section 8は現在も被保険利益の範囲に関する基本規定です。

Section 9|Re-insurance

9. Re-insurance

(1) The insurer under a contract of marine insurance has an insurable interest in his risk, and may re-insure in respect of it.

(2) Unless the policy otherwise provides, the original assured has no right or interest in respect of such re-insurance.

概要

Section 9は、元受保険者が自ら引き受けた保険リスクについて被保険利益を有し、そのリスクを再保険に付すことができることを規定しています。
また、原保険の被保険者は、原則としてその再保険契約について直接の権利または利益を有しません。

条文の意味

原保険契約と再保険契約は別個の契約です。
貨物所有者等と元受保険者との間に原保険契約があり、その元受保険者が自己の引受リスクを再保険者へ移転するのが再保険です。

したがって、通常、貨物の被保険者が再保険者へ直接保険金を請求する関係にはありません。

実務上のポイント
貨物事故の保険金請求先は原則として原保険者です。
その保険者がどのような再保険手配を行っているかは、通常、被保険者の保険金請求関係とは別問題です。

関連Section

現行法上の注意

Section 9は現在もMIA 1906における再保険と被保険利益の基本規定です。

Section 10|Bottomry

10. Bottomry

The lender of money on bottomry or respondentia has an insurable interest in respect of the loan.

概要

Section 10は、bottomryまたはrespondentiaによる貸付を行った者が、その貸付金について被保険利益を有することを規定しています。

条文の意味

Bottomryは、歴史的には船舶を担保として航海資金を貸し付け、航海が成功すれば返済を受け、船舶が失われた場合には返済を受けられないという性質の海事金融でした。
Respondentiaは、これに類似して貨物等を基礎とする仕組みです。

歴史的規定:
Section 10はMIA 1906の体系を理解するうえでは意味がありますが、現代の一般的な外航貨物海上保険実務で頻繁に利用される制度ではありません。
現代の貨物保険実務では、歴史的背景を示すSectionとして理解するのが適切です。

関連Section

現行法上の注意

条文はMIA 1906に残っていますが、実務的重要性については現代の貨物保険規定と区別して読む必要があります。

Section 11|Master’s and seamen’s wages

11. Master’s and seamen’s wages

The master or any member of the crew of a ship has an insurable interest in respect of his wages.

概要

Section 11は、船長または船員が、自らの賃金について被保険利益を有することを規定しています。

条文の意味

被保険利益は船舶や貨物という物的財産に限定されず、航海に関連して危険にさらされる金銭的利益にも成立し得ることを示す規定の一つです。

貨物保険との位置付け:
外航貨物海上保険の損害処理で直接問題となることは通常多くありませんが、MIA 1906における被保険利益の広さを理解するための規定です。

現行法上の注意

Section 11は現在もMIA 1906に掲載されています。

Section 12|Advance freight

12. Advance freight

In the case of advance freight, the person advancing the freight has an insurable interest, in so far as such freight is not repayable in case of loss.

概要

Section 12は、前払運賃(advance freight)について、損害発生時にも返還されない範囲で、その運賃を前払いした者が被保険利益を有することを規定しています。

条文の意味

貨物が失われた場合でも前払運賃が返還されないのであれば、その運賃を負担した者には経済的損失が発生します。
そのため、その返還されない運賃部分について被保険利益が認められます。

実務上のポイント
被保険利益の対象は貨物価額そのものだけではありません。
輸送に関連して失われる可能性のある運賃等の経済的利益も、契約関係によって被保険利益となり得ます。

関連Section

現行法上の注意

Section 12を実際の取引へ適用する場合は、運賃契約上、その運賃が事故時に返還されるのか否かを確認する必要があります。

Section 13|Charges of insurance

13. Charges of insurance

The assured has an insurable interest in the charges of any insurance which he may effect.

概要

Section 13は、被保険者が付保する保険に要する費用についても被保険利益を有することを規定しています。

外航貨物海上保険実務との関係

貨物の保険価額を考える場合、商品価格だけでなく運賃や保険費用等を含めた価額が問題となることがあります。
Section 13は、保険費用自体にも経済的利益が存在し得ることを示します。

ただし、具体的な保険価額の算定方法についてはSection 13だけで判断せず、Section 16その他の契約条件を確認する必要があります。

実務上のポイント
Section 13は「保険料を払えば、その金額が必ずそのまま保険金として上乗せされる」という規定ではありません。
被保険利益の存在と、具体的な保険価額・保険金額の算定は分けて考えます。

関連Section

現行法上の注意

Section 13は現在もMIA 1906の被保険利益に関する規定として残っています。

Section 14|Quantum of interest

14. Quantum of interest

(1) Where the subject-matter insured is mortgaged, the mortgagor has an insurable interest in the full value thereof, and the mortgagee has an insurable interest in respect of any sum due or to become due under the mortgage.

(2) A mortgagee, consignee, or other person having an interest in the subject-matter insured may insure on behalf and for the benefit of other persons interested as well as for his own benefit.

(3) The owner of insurable property has an insurable interest in respect of the full value thereof, notwithstanding that some third person may have agreed, or be liable, to indemnify him in case of loss.

概要

Section 14は、被保険利益の量的範囲について規定しています。
同じ財産について、所有者、抵当権者、荷受人その他の関係者が、それぞれ異なる法的・経済的利益を有する場合があることを示しています。

条文の意味

一つの財産について被保険利益を有する者は必ずしも一人ではありません。
所有者は財産の全価値について利益を有し得る一方、担保権者等は自己の債権の範囲で別の利益を有する場合があります。

さらに、ある者が自己だけでなく他の利害関係者のためにも保険を手配することができる場合があることを示しています。

外航貨物海上保険実務との関係

国際貨物取引でも、貨物について売主、買主、金融機関、荷受人その他の関係者がそれぞれ異なる経済的利害を持つ場合があります。
そのため、「一つの貨物には一人しか被保険利益を持てない」という考え方は適切ではありません。

実務上のポイント
複数当事者が貨物について利害関係を持つ場合には、誰がどの範囲の利益について付保されているのか、保険証券のAssured、Loss Payee、譲渡関係等も含めて確認します。

関連Section

現行法上の注意

Section 14は現在もMIA 1906における被保険利益の量的範囲を示す規定です。

Section 15|Assignment of interest

15. Assignment of interest

Where the assured assigns or otherwise parts with his interest in the subject-matter insured, he does not thereby transfer to the assignee his rights under the contract of insurance, unless there be an express or implied agreement with the assignee to that effect.

But the provisions of this section do not affect a transmission of interest by operation of law.

概要

Section 15は、被保険財産に対する利益を譲渡しただけでは、海上保険契約上の権利まで当然に譲受人へ移転するわけではないことを規定しています。
保険契約上の権利を移転するためには、明示または黙示の合意が必要です。

条文の意味

「貨物そのものに対する利益の移転」と「保険契約上の権利の移転」は別問題です。
貨物を売却し、貨物に対する利益が他人へ移ったからといって、元の保険契約上の権利まで自動的に新しい貨物所有者へ移るとは限りません。

Section 15とSection 50を混同しない:
Section 15はsubject-matter insuredに対する「interestの譲渡」と保険契約上の権利との関係を扱います。
一方、Section 50はmarine policyそのものをいつ、どのようにassignできるかを扱います。

外航貨物海上保険実務との関係

国際売買では、輸送途中に売買、転売、書類譲渡等が行われる場合があります。
その際に貨物に対する経済的利益が移転しても、保険証券上の権利が誰に帰属するかは別途確認が必要です。

したがって、事故時には貨物売買の流れだけでなく、保険証券の記名、譲渡、裏書その他の保険契約上の手続も確認します。

実務上のポイント
「貨物を買った=前所有者の貨物保険も当然に引き継いだ」とは限りません。
貨物に対するinterestの移転と、policy上の権利の移転を分けて確認することが必要です。

関連Section

現行法上の注意

Section 15は現在もMIA 1906の現行条文として掲載されています。
実際の権利移転については、Section 50・51および個別の保険証券・譲渡関係を併せて確認する必要があります。

Section 4~15のまとめ

Section 中心テーマ 貨物保険実務での意味
4 Wagering contracts 被保険利益のない賭博的保険を排除
5 Insurable interest 被保険利益の基本定義
6 Interest at time of loss 原則として損害発生時に被保険利益が必要
7 Defeasible / contingent interest 条件付き・解除可能な利益も保険対象となり得る
8 Partial interest 一部利益でも保険可能
9 Re-insurance 元受保険者自身のリスクについて再保険可能
10 Bottomry 歴史的な海事金融に関する被保険利益
11 Wages 船長・船員の賃金にも被保険利益
12 Advance freight 返還されない前払運賃の利益
13 Insurance charges 保険費用についての利益
14 Quantum of interest 複数当事者・一部利益の量的範囲
15 Assignment of interest 貨物利益の移転と保険契約上の権利移転を区別

貨物保険実務での判断順序

確認順序 確認事項 主な資料 判断目的
1 事故発生日時 Survey Report、事故通知等 Section 6の基準時を確定
2 貨物と当事者の関係 Invoice、売買契約 Section 5の被保険利益を確認
3 危険移転 Incoterms®、売買契約 誰が損害を経済的に負担するか確認
4 保険契約 Policy、Certificate、Open Cover 誰がどの利益について付保されているか確認
5 利益・証券の譲渡 Endorsement、譲渡書類等 Section 15・50との関係を確認
6 保険価額・保険金額 Invoice、Freight、Policy Section 16以降の填補範囲を確認
よくある誤解:
「CIFだから売主だけが被保険利益を持つ」「FOBだから買主だけが持つ」といった一律判断は適切ではありません。
Incoterms®の危険移転は重要な判断材料ですが、MIA 1906上の被保険利益は、実際の法律関係・経済的利害・事故時点を確認して判断します。

Section 4~15によって被保険利益の基本構造が整理されます。
次のSection 16では、実際に保険の対象となる利益について、Insurable Value(保険価額)をどのように測定するかが規定されています。