Double Insurance|MIA 1906 Section 32
Marine Insurance Act 1906(MIA 1906)のSection 32は、
Double Insurance(重複保険)によるOver-insurance(超過保険)の取扱いを規定しています。
同一のmarine adventureおよび同一のinterestについて複数の保険契約が存在し、
その保険金額の合計がMIA 1906上認められる填補額を超える場合、
被保険者はdouble insuranceによってover-insuredであるとされます。
「同じ貨物について保険証券が2枚存在する」というだけで、
当然にSection 32のDouble Insuranceとなるわけではありません。
同一のmarine adventure、同一のinterestまたはその一部について保険され、
その結果として保険金額の合計が認められる填補額を超えるかを確認する必要があります。
Section 32|Double insurance
現行
(1) Where two or more policies are effected by or on behalf of the assured on the same adventure and interest or any part thereof, and the sums insured exceed the indemnity allowed by this Act, the assured is said to be over-insured by double insurance.
(2) Where the assured is over-insured by double insurance:
(a) The assured, unless the policy otherwise provides, may claim payment from the insurers in such order as he may think fit, provided that he is not entitled to receive any sum in excess of the indemnity allowed by this Act;
(b) Where the policy under which the assured claims is a valued policy, the assured must give credit as against the valuation for any sum received by him under any other policy without regard to the actual value of the subject-matter insured;
(c) Where the policy under which the assured claims is an unvalued policy he must give credit, as against the full insurable value, for any sum received by him under any other policy;
(d) Where the assured receives any sum in excess of the indemnity allowed by this Act, he is deemed to hold such sum in trust for the insurers, according to their right of contribution among themselves.
概要
Section 32は、同一のmarine adventureおよびinterestについて二つ以上のPolicyが付保され、
その保険金額の合計がMIA 1906上認められる填補額を超える場合を、
Double InsuranceによるOver-insuranceとして扱います。
被保険者は、Policyに別段の定めがない限り、
複数の保険者のうちどの保険者から先に請求するかを選択できます。
ただし、最終的に実際に認められる填補額を超えて保険金を取得することはできません。
Double Insurance成立の基本要素
Section 32(1)から、Double InsuranceによるOver-insuranceを考える際には、
少なくとも次の要素を確認します。
| 確認事項 | 意味 | 実務上の確認 |
|---|---|---|
| Two or more policies | 二つ以上の保険契約 | Policy、Certificate、Open Cover等を確認 |
| Same adventure | 同一の海上事業 | 同一輸送・同一航海に関係するか |
| Same interest | 同一の被保険利益 | 誰のどの経済的利益を保険しているか |
| Sums insured exceed indemnity | 保険金額合計が認められる填補額を超える | 単なる複数契約ではなく超過状態があるか |
被保険者は請求先を選択できる
Section 32(2)(a)では、
Policyに別段の定めがない限り、
被保険者は複数の保険者に対して自ら選択した順序で保険金を請求できるとしています。
たとえば、同一貨物・同一利益についてA保険者とB保険者の双方に保険が存在する場合、
MIA 1906上は必ず50%ずつ請求しなければならないという構造ではありません。
ただし、これは被保険者が二つの保険から損害額を二重に取得してよいという意味ではありません。
複数のPolicyが存在しても、被保険者が取得できる総額は、
MIA 1906上認められるindemnityの範囲内です。
海上保険は原則として損害填補を目的とするため、
同じ損害について利益を得るための二重取得は認められません。
Valued Policyの場合|Section 32(2)(b)
請求対象となるPolicyがValued Policyの場合、
被保険者が他のPolicyから既に受領した保険金について、
Policyで合意されたvaluationから控除して考えます。
この場合、条文上は被保険目的物の実際の価額ではなく、
Valued Policyで合意された価額との関係で処理されます。
Unvalued Policyの場合|Section 32(2)(c)
Unvalued Policyの場合には、
他のPolicyから受領した金額を、
full insurable valueに対してcreditすることになります。
| Policy | 基準 | 関連Section |
|---|---|---|
| Valued Policy | Policy上の合意valuation | Section 27 |
| Unvalued Policy | Full Insurable Value | Section 16・28 |
超過して受け取った保険金|Section 32(2)(d)
被保険者がMIA 1906上認められる填補額を超えて金銭を受領した場合、
その超過額を自由に自己の利益として保持できるわけではありません。
Section 32(2)(d)は、
その金額について保険者間のRight of Contribution(分担請求権)に従って、
被保険者が保険者のためにtrustとして保有するものと扱います。
この保険者間のContributionを直接規定するのがSection 80です。
Section 80|Right of Contributionとの関係
Section 32が主として被保険者側からDouble Insuranceを整理するのに対し、
Section 80は保険者相互間のContributionを規定します。
| Section | 視点 | 主な内容 |
|---|---|---|
| Section 32 | 被保険者と複数保険者 | 重複保険・請求・二重取得禁止 |
| Section 80 | 保険者相互 | 各保険者の適正なContribution |
被保険者に対する保険金支払と、
その後に保険者同士で行われるContributionの調整は分けて考えます。
被保険者が一つの保険者から先に保険金を受け取ったとしても、
最終的な保険者間の負担割合がそのまま同じとは限りません。
貨物海上保険で起こり得る場面
| 場面 | Double Insuranceの可能性 | 確認事項 |
|---|---|---|
| 同一荷主が同一貨物を別々の保険会社へ付保 | 高い | 同一interest・同一輸送か確認 |
| 包括予定保険と個別保険が重なった | あり得る | 包括契約の対象貨物か、個別契約との重複期間を確認 |
| CIF保険と輸入者側の別保険 | ケースによる | 同じinterestを担保しているか確認 |
| 貨物保険とフォワーダー賠償責任保険 | 通常は同一ではない | 貨物そのものの利益と賠償責任という異なるinterestを区別 |
| 貨物保険とContingency Insurance | 契約内容による | 担保するinterest・発動条件・損害範囲を確認 |
| 元受保険と再保険 | 被保険者側のDouble Insuranceとは別 | Section 9のRe-insuranceとの違いを確認 |
CIF輸入時に特に注意
CIF取引では、売主が貨物保険を手配する一方、
輸入者側が自ら別の保険を手配している場合があります。
しかし、海外側Policyと輸入者側Policyの双方が存在するからといって、
直ちにSection 32上のDouble Insuranceになるとは限りません。
誰のinterestを担保しているか、
どの区間・危険・条件を担保するか、
一方がContingency Insuranceとして補完的に機能する契約なのか等を確認する必要があります。
CIF輸入貨物事故では、
「海外保険がある」「国内でも保険がある」という契約数だけを見るのではなく、
両PolicyのAssured、Insured Interest、保険区間、担保危険、保険金額を横並びで確認します。
Double Insuranceと似ているが異なるもの
| 制度 | Double Insuranceとの違い | 主な関係Section |
|---|---|---|
| Co-insurance | 一つのリスクを複数保険者があらかじめ分担して引受ける構造 | Section 24等 |
| Re-insurance | 元受保険者が自己の引受リスクを再保険する | Section 9 |
| Under-insurance | 保険金額が保険価額より少ない状態 | Section 81 |
| Double Insurance | 同一adventure・interestについて複数保険が重なりover-insuredとなる | Section 32 |
事故発生時の確認手順
| 確認順序 | 確認事項 | 主な資料 | 判断目的 |
|---|---|---|---|
| 1 | すべての保険契約 | Policy、Certificate、Open Cover | 複数契約の有無を把握 |
| 2 | 被保険者 | PolicyのAssured欄 | 誰の契約か確認 |
| 3 | Insurable Interest | 売買契約、Invoice等 | 同一interestか確認 |
| 4 | Marine Adventure | B/L、AWB、輸送書類 | 同一輸送か確認 |
| 5 | 保険期間・担保条件 | ICC、特約、Transit Clause | 実際に担保が重複するか確認 |
| 6 | Valuation | Policy、Invoice | Valued / Unvaluedを確認 |
| 7 | 既払保険金 | Settlement、支払通知 | 二重取得を防止 |
| 8 | Contribution | 各保険契約 | 保険者間の負担調整を確認 |
実務例1|同じ貨物に二つの貨物保険
輸入者が同一貨物についてA保険会社へ貨物保険を付保していたにもかかわらず、
社内の別部署が同じ貨物をB保険会社へも付保していたとします。
両契約が同じ輸送、同じ被保険利益、同じ事故を担保し、
保険金額合計が認められる填補額を超えるのであれば、
Section 32のDouble Insuranceが問題となります。
被保険者は損害額を超えてA社とB社双方から満額を取得することはできません。
実務例2|包括予定保険と個別保険
包括予定保険契約の対象となる貨物について、
担当者が対象外と誤認して個別に別の貨物保険を付保した場合、
結果として同じ貨物・同じinterestを二重に担保している可能性があります。
この場合には、まず包括契約の対象範囲とDeclarationを確認し、
実際に二つのPolicyが同一利益を担保していたかを確認します。
実務例3|貨物保険と賠償責任保険
貨物所有者がCargo Insuranceに加入し、
フォワーダーがFreight Forwarder's Liability Insuranceに加入している場合、
同じ事故から二つの保険が関係することがあります。
しかし、一方は貨物所有者の財産的利益、
もう一方はフォワーダーの第三者に対する賠償責任を対象としているのであれば、
同じinterestを保険しているわけではありません。
したがって、「同じ事故について保険会社が二社関係した」というだけで
Section 32のDouble Insuranceとは判断できません。
よくある誤解
| 誤解 | 実際の考え方 | 実務上の注意 |
|---|---|---|
| 保険証券が2枚あれば必ずDouble Insurance | 同一adventure・interest等を確認する | 契約数だけで判断しない |
| 二つの保険会社からそれぞれ満額を取れる | 認められる填補額を超える取得は不可 | 既払保険金を確認 |
| 各保険会社へ必ず同額ずつ請求する | Policyに別段の定めがなければ請求順序を選択できる | Contributionとは別問題 |
| 貨物保険と責任保険もDouble Insurance | 通常は異なるinterest | 何を保険しているか確認 |
| 再保険もDouble Insurance | 再保険は元受保険者自身のriskに対する別契約 | Section 9と区別 |
| 海外保険+国内保険なら必ず重複保険 | 担保interest・区間・条件による | CIF・Contingency等を個別確認 |
関連Section
現行法上の注意
また、Double Insuranceにおける保険者相互間のContributionについてはSection 80が別途規定しています。
実際の事故では、Section 32だけでなく、各Policyの契約条件、被保険利益、保険価額、既払保険金等を確認して判断する必要があります。
Section 32のまとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| Double Insurance | 同一adventure・interestについて複数Policyが存在し、保険金額合計が填補額を超える場合 |
| 請求順序 | Policyに別段の定めがない限り被保険者が選択可能 |
| 二重取得 | 認められる填補額を超えて取得できない |
| Valued Policy | 合意valuationとの関係で既払額をcredit |
| Unvalued Policy | Full Insurable Valueとの関係で既払額をcredit |
| Contribution | 保険者相互の分担はSection 80 |
| 実務判断 | Policy数ではなくinterest・adventure・担保範囲を確認 |
公式法令
Section 32は一条だけですが、
貨物保険の実務では「複数の保険が存在すること」と
「同じ被保険利益についてDouble Insuranceが成立すること」を分けて考える必要がある重要な規定です。
次の「Warranties, Etc.」では、Section 33からSection 41まで、
Warranty、Warranty違反、Express Warranty、Neutrality、Seaworthiness、Legality等を扱います。
MIA 1906制定当時のWarranty違反の効果は、
Insurance Act 2015によって大きく変更されています。
したがって、1906年原文と現在の英国法上の効果を明確に分けて解説します。