英国海上保険法における海上保険証券
英国海上保険法における海上保険証券とは
英国海上保険法における海上保険証券とは、海上保険契約の内容を証券として具体化した書面をいいます。
海上保険契約は、申込みと承諾によって成立する場合がありますが、英国海上保険法1906年では、契約内容が海上保険証券に具体化されていなければ、証拠として用いることができないと整理されています。
外航貨物海上保険の実務でも、保険証券は単なる確認書類ではありません。被保険者、保険金額、貨物明細、輸送区間、適用約款、保険条件、特別条件などを確認するための重要な書類です。
海上保険契約と保険証券の関係
MIA1906第22条では、海上保険契約は海上保険証券に記載されなければならないとされています。
ただし、保険証券は、保険契約が成立した時点で発行される場合もあれば、その後に発行される場合もあります。
この点は実務上重要です。外航貨物海上保険では、保険会社の引受承諾、カバーノート、包括予定保険の通知、保険証券の発行時期が一致しないことがあります。そのため、事故発生時には、証券発行日だけでなく、保険契約がいつ成立したのかを確認する必要があります。
海上保険証券に記載すべき事項
MIA1906第23条では、海上保険証券には、被保険者の氏名、または被保険者のために保険を手配する者の氏名を記載すべきものとされています。
外航貨物海上保険では、誰が被保険者として記載されているかが非常に重要です。貨物所有者、売主、買主、商社、銀行、荷受人など、取引関係者が複数いる場合、保険証券上の被保険者と実際に損害を受ける者が一致しているかを確認する必要があります。
特に、CIF条件、信用状取引、商社経由の取引、輸入代行、名義貸し、B/L名義と保険証券名義が異なる取引では、保険証券上の被保険者表示が保険金請求実務に影響することがあります。
保険者の署名
MIA1906第24条では、海上保険証券には、保険者または保険者を代表する者の署名が必要とされています。
複数の保険者が保険を引き受ける場合には、特段の定めがない限り、それぞれの署名は被保険者との個別の契約を構成すると整理されています。
これは、ロイズ市場や共同引受の考え方と関係します。現代の貨物海上保険実務では、通常の利用者がこの構造を強く意識する場面は多くありませんが、海上保険証券が保険者の責任を示す重要な書面であることを理解しておく必要があります。
Voyage PolicyとTime Policy
MIA1906第25条では、海上保険証券をVoyage PolicyとTime Policyに分けて整理しています。
Voyage Policyとは、特定の場所から別の場所までの航海や輸送を対象とする保険証券です。外航貨物海上保険では、特定の輸送区間を対象とする契約がこれに近い考え方になります。
一方、Time Policyとは、一定の期間を対象として保険を付ける証券です。船舶保険などでは期間建ての保険が問題になることがあります。
また、航海と期間の両方を組み合わせた契約を同一の証券に含めることも可能とされています。
保険の目的物の表示
MIA1906第26条では、保険の目的物は、海上保険証券に合理的な確実性をもって表示されなければならないとされています。
外航貨物海上保険では、貨物名、数量、重量、梱包形態、輸送区間、船名、B/L番号、インボイス番号などが実務上の確認対象になります。
ただし、被保険者の利益の性質や範囲までは、必ずしも証券に細かく記載する必要はないとされています。証券上の表示が一般的な表現である場合には、被保険者が担保しようとした利益に適用されるように解釈されます。
このため、貨物保険では、証券上の貨物表示が曖昧すぎないか、実際の貨物と一致しているか、危険品・中古品・特殊貨物などの重要な性質が適切に反映されているかを確認する必要があります。
評価済保険証券とは
MIA1906第27条では、保険証券は評価済証券または評価未済証券のいずれかであるとされています。
評価済保険証券とは、保険の目的物について、あらかじめ合意された価額を証券に記載している証券です。
詐欺がない限り、また法律の規定に反しない限り、証券に記載された協定価額は、保険者と被保険者との間で保険価額として決定的な意味を持つとされています。
外航貨物海上保険では、保険金額や評価額が保険証券に記載されている場合、その金額が損害額算定や保険金支払の上限判断に関係します。
推定全損との関係
評価済保険証券に記載された価額は、保険価額として重要な意味を持ちます。
ただし、保険証券に別段の定めがない限り、その評価額だけで推定全損が成立するかどうかが決まるわけではありません。
推定全損の判断では、貨物や船舶の状態、回復可能性、修理費用、救助費用、目的地までの輸送可能性など、別の要素も問題になります。
評価未済保険証券とは
MIA1906第28条では、評価未済保険証券について、保険の目的物の価額を証券に記載せず、後日、保険価額を確定する証券であると定義しています。
評価未済証券では、保険金額の範囲内で、損害発生後に保険価額を確認する必要があります。
外航貨物海上保険では、インボイス、パッキングリスト、運賃、保険料、その他の付随費用をもとに、損害額や保険価額を整理することがあります。
Floating Policyと確定通知
MIA1906第29条では、Floating Policyについて定めています。
Floating Policyとは、保険の内容を一般的に定めておき、船名や貨物明細などの具体的事項を後日の通知によって確定させる証券をいいます。
外航貨物海上保険の実務では、包括予定保険や継続的な貨物輸送に近い考え方として理解しやすい部分です。取引ごと、船積ごとに個別の貨物明細を後から通知し、保険の対象を確定していく運用があります。
確定通知の順序と誠実性
Floating Policyでは、特段の定めがない限り、確定通知は発送または船積の順序に従って行う必要があります。
また、貨物については、保険の条件に含まれるすべての積荷を通知し、貨物価額を誠実に申告する必要があります。
ただし、通知漏れや誤った通知があった場合でも、それが善意によるものであれば、損害発生後または到着後であっても修正できる余地があります。
この点は、包括予定保険の実務で重要です。通知漏れ、船名違い、B/L番号違い、インボイス金額の誤りなどがあった場合でも、故意や不正がないか、保険条件上修正可能かを確認する必要があります。
通知が損害後になった場合
MIA1906第29条では、価額の通知が損害発生または到着の通知後になされた場合、特段の定めがない限り、その通知に関する保険対象は評価未済証券として扱われるとされています。
これは、事故後に都合よく価額を決めることを防ぐ意味を持ちます。
実務では、貨物価額、輸送区間、船名、船積日、保険金額などをできるだけ正確かつ早期に通知しておくことが重要です。
保険証券上の用語解釈
MIA1906第30条では、保険証券は同法の第一附則の様式によることができ、保険証券上の用語や表現は、特段の事情がない限り、その附則に定められた意味で解釈されると整理されています。
これは、古いS.G.フォーム証券や伝統的な海上保険用語の解釈と関係します。
現代の外航貨物海上保険では、MARフォーム証券と協会貨物約款が中心になりますが、海上保険証券上の用語には、英国法系の伝統的な意味が残っている場合があります。
保険料が未確定の場合
MIA1906第31条では、保険料を後日協議する条件で保険が手配され、その後協議がなされなかった場合には、合理的な保険料が支払われるとされています。
また、一定の事由が発生した場合に追加保険料を協議する条件で保険が手配され、その事由が発生したにもかかわらず協議がなされなかった場合にも、合理的な追加保険料が支払われるとされています。
外航貨物海上保険では、危険品、特殊貨物、積替え、危険地域、戦争危険、追加保管、航路変更などにより、追加保険料が問題になることがあります。
実務上の注意点
海上保険証券は、保険契約の内容を確認するための中心書類です。
貨物事故が発生した場合には、保険証券上の被保険者、貨物明細、保険金額、輸送区間、適用約款、特別条件、評価額、確定通知の有無を確認する必要があります。
特に、包括予定保険、証券発行前の事故、通知漏れ、貨物価額の誤り、B/L名義と保険証券名義の相違、CIF取引、信用状取引では、海上保険証券の記載内容が重要になります。
MIA1906第22条から第31条は、海上保険証券の基本構造を示す条文です。外航貨物海上保険の実務では、保険証券を単なる添付書類として扱うのではなく、保険契約、保険価額、被保険者、貨物明細、確定通知を確認するための基礎書類として読む必要があります。
