英国海上保険法における担保損害・免責損害
英国海上保険法における担保損害・免責損害とは
英国海上保険法における担保損害・免責損害とは、海上保険契約において、保険者がどの損害について責任を負い、どの損害について責任を負わないかを整理する考え方です。
外航貨物海上保険では、貨物に損害が発生したという事実だけでは、保険金支払の対象になるとは限りません。その損害が、保険契約で担保された危険によって近因的に発生したものかどうかを確認する必要があります。
近因による損害
MIA1906第55条では、保険証券に別段の定めがない限り、保険者は担保危険によって近因的に発生した損害について責任を負うとされています。
ここでいう近因とは、損害の主要な原因、実質的な原因を意味します。単に時間的に近い原因というだけではなく、損害を発生させた有力な原因が何であるかを確認する必要があります。
外航貨物海上保険では、海水濡れ、火災、荷崩れ、盗難、船舶事故、港湾作業中の落下などが発生した場合、その損害が保険で担保される危険に近因しているかが問題になります。
担保危険に近因しない損害
一方で、損害が担保危険に近因していない場合、保険者は原則として責任を負いません。
例えば、貨物の劣化が輸送中の事故ではなく、貨物自体の性質、通常の変質、自然劣化、温度管理を要する貨物の性質などに起因する場合、保険上の担保損害とはいえないことがあります。
そのため、貨物事故では、損害の結果だけでなく、損害原因を確認することが重要です。写真、検品記録、温度記録、サーベイレポート、輸送経路、梱包状態などを整理する必要があります。
被保険者の故意による損害
MIA1906第55条では、被保険者の故意の不正行為に起因する損害について、保険者は責任を負わないとされています。
海上保険は偶然の事故による損害を填補する制度であり、被保険者自身の故意によって発生した損害を補償するものではありません。
外航貨物海上保険でも、被保険者が意図的に損害を発生させた場合や、事故を装った場合には、保険金請求は認められない可能性があります。
船長・乗組員の過失との違い
MIA1906第55条では、保険証券に別段の定めがない限り、船長または乗組員の不正行為や過失がなければ損害が発生しなかった場合であっても、担保危険によって近因的に損害が発生した場合には、保険者が責任を負うことがあります。
これは、被保険者自身の故意と、船長・乗組員の行為を区別している点で重要です。
貨物保険実務では、船会社や運送人側の作業ミス、積付けミス、荷役ミス、管理不備が問題になることがあります。この場合、貨物保険での支払可否と、運送人への求償可能性を分けて確認する必要があります。
遅延による損害
MIA1906第55条では、保険証券に別段の定めがない限り、船舶または貨物について、遅延に近因する損害について保険者は責任を負わないとされています。
重要なのは、遅延が担保危険によって生じた場合であっても、遅延そのものに近因する損害は免責となる可能性があるという点です。
外航貨物海上保険では、納期遅れによる販売機会の喪失、違約金、操業停止損害、市況変動による損失などは、通常の貨物損害とは別に整理する必要があります。
遅延中に発生した貨物損害との切り分け
遅延による損害と、遅延中に発生した物的損害は分けて考える必要があります。
例えば、本船遅延により納品が遅れたこと自体による経済損害は、貨物海上保険で補償されないことがあります。
一方で、輸送中に火災、海水濡れ、盗難、荷崩れなどの担保危険が発生し、その結果として貨物に物的損害が生じた場合には、保険条件に従って検討されることになります。
通常損耗・通常漏損・通常破損
MIA1906第55条では、通常の損耗、通常の漏損、通常の破損について、保険者は原則として責任を負わないとされています。
これは、海上保険が偶然の事故による損害を対象とするものであり、通常の輸送過程で自然に生じる減耗や軽微な損傷まで当然に補償するものではないという考え方です。
貨物の種類によっては、輸送中に若干の重量減少、蒸発、乾燥、擦れ、へこみ、外装の軽微な傷みが発生することがあります。これらが通常の範囲内であれば、保険事故とは評価されにくい場合があります。
貨物固有の性質
MIA1906第55条では、保険の目的物の固有の瑕疵または性質による損害について、保険者は原則として責任を負わないとされています。
貨物固有の性質とは、貨物自体が本来持っている性質により、外部からの偶然の事故がなくても劣化、変質、腐敗、発熱、変色、重量減少などが生じる性質をいいます。
例えば、温度管理を要する食品、化学品、液体貨物、粉体、農産物、精密機器、中古品などでは、貨物固有の性質と輸送中の事故を切り分けることが重要になります。
ねずみ・害虫・機械損傷
MIA1906第55条では、保険証券に別段の定めがない限り、ねずみや害虫による損害、海上危険に近因しない機械損傷についても、保険者は責任を負わないとされています。
貨物保険実務では、害虫混入、虫害、保管中の食害、機械の内部故障、電気的故障などが問題になることがあります。
このような場合、その損害が外部からの偶然な事故によるものか、貨物や機械そのものの性質・内部要因によるものかを確認する必要があります。
協会貨物約款との関係
現代の外航貨物海上保険では、実際の補償範囲はICC(A)、ICC(B)、ICC(C)などの協会貨物約款、戦争危険約款、ストライキ危険約款、特別約款に基づいて判断されます。
ただし、MIA1906第55条の考え方は、損害原因、近因、免責危険、遅延損害、固有の性質を整理するうえで重要です。
特に、ICC(A)がいわゆるAll Risks型の約款であっても、すべての損害が無条件に補償されるわけではありません。免責約款、遅延、貨物固有の性質、梱包不備などは、別途確認が必要です。
実務上の注意点
貨物事故が発生した場合には、まず損害の近因を確認する必要があります。
確認すべき事項は、事故発生区間、事故原因、貨物の性質、梱包状態、輸送方法、温度管理、保管状況、運送人側の作業内容、遅延の有無、損害の発見時点などです。
保険金請求では、単に貨物に損害があることを示すだけでは足りません。その損害が担保危険に近因して発生したものであり、免責事由に該当しないことを整理する必要があります。
MIA1906第55条は、外航貨物海上保険において、保険者が負担する損害と負担しない損害を分ける基本的な考え方を示す重要な条文です。
