英国海上保険法における代位求償・分担・一部保険

英国海上保険法における保険者の支払後の権利とは

英国海上保険法における保険者の支払後の権利とは、保険者が保険金を支払った後に、被保険者が有していた権利や救済手段をどの範囲で取得するかを整理する考え方です。

外航貨物海上保険では、貨物事故が発生して保険金が支払われた後、保険会社が運送人、NVOCC、フォワーダー、倉庫業者、荷役業者などに対して求償することがあります。

MIA1906第79条から第81条は、代位求償、重複保険における保険者間の分担、一部保険の場合の自己負担関係を定めています。貨物保険の事故処理では、保険金の支払いだけでなく、その後の求償関係まで理解しておくことが重要です。

代位求償とは

代位求償とは、保険者が保険金を支払った後、被保険者が第三者に対して有していた権利や請求権を、支払った範囲で取得することをいいます。

海上保険は損害を填補する制度です。そのため、被保険者が保険金を受け取ったうえで、さらに同じ損害について運送人や加害者から二重に回収することは原則として認められません。

保険者は、保険金を支払うことにより、被保険者が持っていた損害賠償請求権などを代位取得し、責任を負うべき第三者に対して求償することができます。

全損の場合の代位

MIA1906第79条では、保険者が保険対象の全部、または貨物の按分可能な一部について全損として保険金を支払った場合、保険者はその支払対象について残存する利益を取得するとされています。

また、保険者は、その損害を発生させた事故時点から、被保険者が有していたすべての権利および救済手段に代位します。

貨物事故でいえば、貨物が全損となり保険会社が保険金を支払った場合、残存物があればその残存物に関する利益や、運送人などに対する請求権が保険者に移ることがあります。

分損の場合の代位

分損の場合、保険者は保険金を支払っても、保険対象そのものの所有権を取得するわけではありません。

ただし、保険者は、支払った保険金の範囲で、被保険者が有していた権利や救済手段に代位します。

例えば、貨物の一部が破損し、保険会社がその損害について保険金を支払った場合、保険会社はその支払額の範囲で、運送人や倉庫業者などに対して求償することがあります。

貨物事故実務での代位求償

外航貨物海上保険では、保険金支払い後に、運送人、NVOCC、フォワーダー、倉庫業者、ターミナル、荷役業者などへの求償が問題になることがあります。

この場合、保険会社は、被保険者が持っていた請求権を前提に求償します。そのため、被保険者側が事故直後に運送人へ適切な通知をしているか、Claim Letterを送付しているか、B/L上の通知期限や出訴期限を守っているかが重要になります。

保険金が支払われた後でも、求償に必要な権利が失われていれば、保険会社の求償に支障が出ることがあります。貨物事故では、保険請求と同時に、運送人責任を保全する対応が必要です。

代位求償と二重回収の防止

代位求償の重要な役割は、被保険者の二重回収を防ぐことです。

被保険者が保険金を受け取った後、同じ損害について運送人や加害者からも回収できると、損害額を超える利益を得ることになります。

海上保険は損害填補の制度であり、事故によって利益を得る制度ではありません。そのため、保険者が被保険者の権利に代位し、責任を負うべき者に求償する仕組みが置かれています。

保険者間の分担とは

MIA1906第80条では、重複保険により被保険者が超過保険の状態にある場合、各保険者は、それぞれの契約上の責任額に応じて、損害を割合的に分担するとされています。

重複保険とは、同一の航海事業や同一の被保険利益について、複数の保険契約が存在する状態をいいます。

外航貨物海上保険では、売主側の保険、買主側の包括予定保険、商社の保険、荷主独自の保険などが重なることがあります。この場合、どの保険者がどの割合で負担するかが問題になります。

多く支払った保険者の分担請求

MIA1906第80条では、ある保険者が自分の負担割合を超えて保険金を支払った場合、その保険者は他の保険者に対して分担を求めることができるとされています。

これは、複数の保険者が存在する場合に、一部の保険者だけが過大に負担することを防ぐための仕組みです。

被保険者との関係では、どの保険者から支払いを受けるかが問題になりますが、保険者間では、最終的な負担割合を調整する必要があります。

重複保険と実務上の確認事項

貨物事故が発生した場合、その貨物に複数の保険が付いていないかを確認する必要があります。

例えば、CIF条件で売主が保険を手配しているにもかかわらず、買主も自社の包括予定保険で同じ貨物を付保している場合があります。

また、商社経由の取引、名義貸し、輸入代行、グループ会社間取引では、誰がどの保険を手配しているかが分かりにくいことがあります。

重複保険がある場合には、保険証券、被保険者名、保険金額、保険価額、対象貨物、保険区間、適用約款を確認し、二重回収が生じないように整理する必要があります。

一部保険とは

MIA1906第81条では、被保険者が保険価額より少ない金額で保険を付けている場合、または評価済保険証券で証券上の評価額より少ない金額で保険を付けている場合、被保険者は未保険部分について自己保険者とみなされるとされています。

つまり、貨物価額の全額を保険に付けていない場合、保険に付けていない部分については、被保険者自身がリスクを負担することになります。

外航貨物海上保険では、保険金額が貨物価額に不足している場合、損害発生時に十分な保険金を受け取れない可能性があります。

保険金額不足の実務上の問題

保険金額が不足している場合、損害額の全額が保険で回収できるとは限りません。

例えば、貨物価額が1,000万円であるにもかかわらず、保険金額が700万円であれば、残り300万円部分については被保険者が自己負担する構造になります。

このような一部保険の状態では、全損の場合だけでなく、共同海損分担金や救助料、分損処理においても、保険者の責任範囲が問題になることがあります。

貨物保険で一部保険を避けるための確認

外航貨物海上保険では、保険金額を設定する際に、インボイス価額、運賃、保険料、その他の付随費用をどこまで含めるかを確認する必要があります。

また、CIF価額、FOB価額、加算率、為替、付保漏れ、追加費用、複数インボイス、分割船積などによって、保険金額が実際の保険価額に足りなくなることがあります。

特に、包括予定保険では、通知金額の誤りやインボイス金額の不足、運賃・保険料の未加算により、一部保険の状態が生じることがあります。

代位求償・分担・一部保険の関係

代位求償、分担、一部保険はいずれも、海上保険が損害填補の制度であることと関係しています。

代位求償は、保険者が保険金を支払った後に、責任を負うべき第三者に対して請求する仕組みです。

分担は、重複保険がある場合に、複数の保険者間で負担を調整する仕組みです。

一部保険は、保険に付けていない部分について、被保険者自身がリスクを負うという考え方です。

第82条以降の扱い

MIA1906第82条以降には、返還保険料、相互保険、補足規定、解釈規定、廃止規定、短縮題名、附則などが置かれています。

これらは英国海上保険法全体を理解するうえでは意味がありますが、外航貨物海上保険の約款解釈や貨物事故実務では、第79条から第81条ほど頻繁に問題になるものではありません。

そのため、実務上は、代位求償、保険者間分担、一部保険の3点を押さえておくことが重要です。

実務上の注意点

貨物事故が発生した場合には、保険金請求だけでなく、求償に必要な権利保全も意識する必要があります。

運送人への事故通知、Claim Letter、B/L約款上の通知期限、出訴期限、サーベイ手配写真資料、納品時の受領書記載などは、保険会社の代位求償に影響することがあります。

また、同じ貨物に複数の保険が付いていないか、保険金額が保険価額に足りているかも確認が必要です。

MIA1906第79条から第81条は、保険金支払後の代位求償、重複保険における分担、一部保険による自己負担を整理する重要な条文です。外航貨物海上保険では、事故発生時の保険請求だけでなく、その後の求償・分担・自己負担関係まで見据えて対応することが重要です。

同義語・別表記

  • 代位求償
  • 保険代位
  • Subrogation
  • Right of Subrogation
  • 分担請求
  • Contribution
  • Right of Contribution
  • 一部保険
  • Under Insurance
  • 自己保険
  • MIA1906第79条
  • MIA1906第80条
  • MIA1906第81条

関連用語