英国海上保険法における単独海損不担保・連続損害・損害防止義務
英国海上保険法における単独海損不担保・連続損害・損害防止義務とは
英国海上保険法における単独海損不担保、連続損害及び損害防止義務とは、貨物に分損や複数の事故が発生した場合に、保険者がどの損害又は費用について責任を負い、被保険者がどのような損害防止・軽減措置を取るべきかを整理する考え方です。
MIA1906第76条は、保険対象が単独海損不担保とされている場合の分損、按分可能部分の全損、一定割合未満不担保、救助料、Particular Charges及び損害防止費用の取扱いを定めています。
MIA1906第77条は、同一保険証券のもとで複数の損害が連続して発生した場合と、未修理又は未補修の分損に続いて全損が発生した場合の回収関係を定めています。
MIA1906第78条は、損害防止約款を保険契約本体を補足する独立した約定として位置付け、正当に支出された費用の回収、対象外となる費用及び被保険者・代理人の合理的な損害防止義務を定めています。
これらの規定は、単に「分損が担保されるか」を判断するだけのものではありません。貨物をロットや梱包単位に分けて評価できるか、複数の事故を別々の損害として整理できるか、先行する分損が修理・補修されていたか、支出した費用が担保危険による損害を防止するためのものかを確認する必要があります。
この記事で扱う範囲
| 項目 | この記事で扱う内容 | 他の記事で詳しく扱う内容 |
|---|---|---|
| 単独海損不担保 | MIA1906第76条に基づく、通常の単独海損を保険者の責任から除外する条件 | 単独海損そのものの定義は「英国海上保険法における分損・単独海損・共同海損」で扱います。 |
| 按分可能な契約 | 保険対象を独立した部分に分け、その部分の全損を別個に評価できる場合の取扱い | 保険価額及び保険金額の詳細な按分計算は別記事で扱います。 |
| 一定割合未満不担保 | 指定された割合へ達したかを判定する損害範囲と、共同海損等を加算できないルール | 各保険証券に定める免責金額、免責歩合及びフランチャイズの個別計算は契約ごとに確認します。 |
| 連続損害 | 同一保険証券の期間中に複数の損害が順次発生した場合の基本的な責任関係 | 事故原因ごとの損害額算定及び求償関係は別記事で扱います。 |
| 分損後の全損 | 未修理又は未補修の分損に続いて全損が発生した場合の回収制限 | 現実全損及び推定全損の成立要件は全損の専門記事で扱います。 |
| 損害防止約款 | 保険契約本体を補足する約定としての独立性と、正当に支出した費用の回収 | 個別保険証券における損害防止費用の限度額や特約は契約ごとに確認します。 |
| 損害防止義務 | 被保険者及び代理人が合理的な損害防止・軽減措置を取る義務 | 運送人、倉庫業者その他の第三者に対する具体的な求償手続は別記事で扱います。 |
| 現行ICCとの関係 | 伝統的なFPAとICC(A)(B)(C)2009の担保危険・免責・第16条との接続 | ICC(A)(B)(C)の危険別の詳細比較は協会貨物約款の専門記事で扱います。 |
制度の目的と背景
海上保険では、保険金額を限度として損害をてん補することが原則ですが、貨物事故では、一度の事故で終了せず、輸送中に複数の損害が順次発生することがあります。
また、保険証券が通常の単独海損を担保しない場合でも、共同海損犠牲、救助料、Particular Charges又は損害防止約款に基づく費用まで、すべて不担保になるとは限りません。
MIA1906第76条は、通常の単独海損と、それとは法的性質の異なる損害・費用を区別するための規定です。
第77条は、複数の事故による損害を単純に一つへまとめず、各損害の発生順序、修理・補修の有無及び後発する全損との関係を整理するための規定です。
第78条は、被保険者が損害の拡大を放置することを防ぎ、合理的な保全措置を促す一方で、その措置のために正当に支出した費用を保険契約本体とは補足的な関係で回収できるようにする規定です。
第76条から第78条までの用語階層
| 区分 | 基本的な意味 | 保険上の効果 | 主な判断資料 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 単独海損不担保 | 通常の単独海損を保険者の責任から除外する条件 | 原則として保険対象の一部損害を回収できない | 保険証券、適用約款、特別約款 | 共同海損犠牲、救助料、Particular Charges等まで一律に不担保になるとは限りません。 |
| 按分可能部分の全損 | 独立して識別・評価できる保険対象の一部分が全損となること | 単独海損不担保でも、その部分の全損を回収できる場合がある | Invoice、Packing List、保険明細、ロット資料 | 一部が独立した保険対象として扱えるかを確認します。 |
| 一定割合未満不担保 | 実損害が指定割合へ達しない場合に単独海損を不担保とする条件 | 割合へ達したかを保険対象そのものの実損害で判定する | 損害明細、保険価額、数量資料、鑑定資料 | 共同海損、Particular Charges、調査・立証費用を加えて基準へ到達させることはできません。 |
| 連続損害 | 同一保険証券のもとで複数の損害が順次発生すること | 保険証券に別段の定めがなければ、損害合計が保険金額を超えても責任が生じる場合がある | 事故時系列、各事故の損害明細、修理記録 | 同一損害の重複請求ではなく、各事故の因果関係を区別します。 |
| 未修理分損後の全損 | 修理・補修されていない分損の後に全損が発生すること | 原則として全損についてのみ回収する | 修理状況、全損事故資料、先行損害の請求資料 | 先行分損と全損の二重回収を防止します。 |
| 損害防止費用 | 担保危険による損害を防止又は軽減するため正当に支出した費用 | 損害防止約款に基づき本体損害とは別に回収できる場合がある | 作業指示、見積書、請求書、写真、作業報告 | 必要性、合理性及び担保危険との関係を立証します。 |
| 損害防止義務 | 被保険者及び代理人が合理的な損害防止・軽減措置を取る義務 | 事故後の放置を避け、第三者に対する権利も保全する | 事故通知、求償通知、サーベイ記録、対応履歴 | 保険会社の指示を待つ間も、緊急かつ合理的な措置が必要な場合があります。 |
制度が問題になる主な場面
| 発生場面 | 主に問題となる規定 | 確認するポイント | 最初に行う対応 |
|---|---|---|---|
| FPA条件で貨物の一部が濡損した | MIA1906第76条第1項 | 通常の分損か、共同海損犠牲か、按分可能部分の全損か | 損害単位、ロット、梱包及び事故原因を確認する |
| 複数ロットのうち一つのロットが全部滅失した | 按分可能部分の全損 | そのロットを独立して識別・評価できるか | Invoice、Packing List及び保険明細を照合する |
| 損害が免責割合の直下にある | 第76条第3項・第4項 | 割合判定へ含められる実損害の範囲 | 貨物自体の実損害と付随費用を分ける |
| 同じ輸送中に別々の事故が発生した | MIA1906第77条第1項 | 各事故の原因、発生日、損害範囲及び重複の有無 | 事故ごとに証拠と損害明細を分けて保存する |
| 分損後、修理前に貨物が全損となった | MIA1906第77条第2項 | 先行分損が修理又は補修されていたか | 修理状況と全損発生時点を確定する |
| 濡損貨物を緊急に乾燥・再梱包した | MIA1906第78条 | 担保危険による損害を防止するための合理的費用か | 作業理由、費用及び作業前後の状態を記録する |
| 担保外の遅延損害を防ぐため費用を支出した | 第78条第3項 | 防止しようとした損害が保険で担保されるか | 担保危険と費用目的を分けて確認する |
| 運送人に対する求償期限が迫っている | 損害防止・権利保全義務 | 事故通知、留保、求償及び時効管理 | 運送人等へ書面で権利を留保する |
単独海損不担保の適用要件
| 確認項目 | 判断内容 | 該当する場合 | 該当しない場合 |
|---|---|---|---|
| 不担保条件の存在 | 保険証券にFPA又は同等の単独海損不担保条件があるか | 第76条の検討対象となる | 通常の担保危険及び免責条件により判断する |
| 損害の性質 | 貨物の一部損害か、共同海損犠牲か、全損か | 通常の一部損害は不担保となる可能性がある | 共同海損犠牲又は全損として別に検討する |
| 契約の按分可能性 | 保険対象を独立した部分に分けられるか | 按分可能部分の全損を回収できる可能性がある | 全体に対する一部損害として扱われる可能性がある |
| 指定割合 | 一定割合未満不担保の条件があるか | 貨物自体の実損害が割合へ達したかを確認する | 割合判定ではなく、全面的なFPA又は通常担保として判断する |
| 費用の区分 | 救助料、Particular Charges又は損害防止費用か | 通常の単独海損とは別に回収できる可能性がある | 貨物自体の分損として不担保条件を検討する |
| 担保危険との関係 | 損害又は費用が担保危険に関係するか | 他の要件を満たせば回収可能性がある | 損害防止費用を含め回収できない可能性がある |
按分可能な契約とは
MIA1906第76条第1項では、保険対象が単独海損不担保であっても、保険契約が按分可能であり、その按分可能な一部について全損が発生した場合には、その部分の全損を回収できるとしています。
按分可能性は、貨物の一部に損害があったという事実だけでは決まりません。保険契約上、対象貨物を独立した部分として識別し、その部分の数量及び価額を個別に評価できるかが重要です。
実務上の判断材料には、ロットごとの品名及び数量、Invoice上の個別価額、Packing List上の梱包番号、保険申告明細、コンテナ又はパレットごとの構成、個別の保険金額設定などがあります。
| 判断軸 | 按分可能性を認めやすい事情 | 按分可能性が不明確な事情 | 確認資料 |
|---|---|---|---|
| 貨物の識別 | ロット番号、製造番号又は梱包番号で区別できる | 同種貨物が混在し、損害部分を特定できない | Packing List、梱包明細、写真 |
| 数量 | ロット又は梱包ごとの数量が確定している | 全体数量だけが記載されている | Invoice、重量証明、受渡記録 |
| 価額 | 各ロット又は各明細に個別価額がある | 一式価額で個別配分の根拠がない | Invoice、価格表、保険申告 |
| 保険証券 | 品目又はロット別に保険金額が示されている | 貨物全体のみを一括記載している | 保険証券、明細書、申込書 |
| 損害状態 | 特定部分が全部滅失し、他の部分が残存している | 全体に同程度の一部損害が広がっている | Survey Report、検品記録 |
| 契約上の単位 | 各部分を独立した保険対象として扱う合理的根拠がある | 単に計算上分けられるだけで契約上の独立性がない | 保険条件、取引書類、申告方法 |
これらは実務上の判断材料であり、いずれか一つが存在するだけで按分可能性が確定するものではありません。最終的には保険証券の記載、申告方法、貨物の構成及び個別価額を総合して判断します。
一定割合未満不担保の判定
MIA1906第76条第3項及び第4項は、単独海損が指定割合へ達したかを判定する場合の計算範囲を定めています。
保険証券に別段の定めがない限り、共同海損損害を単独海損へ加算して、指定された割合へ到達させることはできません。
また、割合の判定では、保険対象そのものが受けた実損害だけを考慮します。Particular Charges並びに損害を調査、確定又は立証するための費用は、割合判定から除外されます。
この規定により、法的性質の異なる共同海損や付随費用を加算し、単独海損の最低割合を形式的に超える取扱いが防止されます。
| 損害・費用 | 指定割合の判定へ算入 | 理由 | 別途回収の可能性 |
|---|---|---|---|
| 貨物自体の単独海損 | 算入する | 保険対象そのものの実損害であるため | 指定割合及び担保条件による |
| 共同海損犠牲 | 算入しない | 単独海損とは異なる損害区分であるため | 共同海損として検討する |
| 共同海損分担金 | 算入しない | 貨物自体の単独海損ではないため | 保険条件に従い別途検討する |
| Particular Charges | 算入しない | 貨物の保存に要した費用であり、実損害ではないため | 第76条第2項等により別途検討する |
| サーベイ費用 | 算入しない | 損害の調査又は立証に付随する費用であるため | 契約条件及び費用の性質による |
| 損害防止費用 | 算入しない | 貨物自体の実損害とは別の費用であるため | 損害防止約款に基づき別途検討する |
複数回の単独海損を合算して指定割合へ達したと判断できるかは、保険証券が割合を一事故、全航海、各荷口、各梱包又はその他の単位のいずれで判定するかによって異なります。MIA1906第76条だけから一律に決まるものではありません。
フランチャイズと免責金額の違い
| 区分 | 基準未満の場合 | 基準へ達した場合 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 一定割合未満不担保・フランチャイズ型 | 原則として単独海損を回収できない | 保険証券の定めに従い損害を回収できる場合がある | 基準割合を損害額から控除する制度とは限りません。 |
| 免責金額・Deductible型 | 損害から所定額又は割合を控除する | 基準を超えた部分だけが支払対象となることがある | 計算方法は保険証券の文言によります。 |
| 全面的なFPA | 通常の単独海損を原則として不担保とする | 割合到達による回復ではなく、例外損害・費用を別途検討する | 按分可能部分の全損、共同海損犠牲等を確認します。 |
一定割合未満不担保と免責金額は、いずれも小額損害を保険者の責任から外す効果を持つことがありますが、計算方法は同じとは限りません。具体的な支払額は、保険証券及び特別約款の文言によって判断します。
MIA1906第77条における連続損害
MIA1906第77条第1項では、保険証券に別段の定めがない限り、保険者は連続して発生した損害について責任を負うとされています。
この場合、複数の損害を合計した金額が保険金額を超える場合であっても、同条により保険者の責任が認められることがあります。
ただし、同一の損害を複数の事故として重複請求できるという意味ではありません。各損害について、事故原因、発生時点、損害範囲、修理・補修の有無及び既払保険金との重複を確認する必要があります。
| 時系列 | 貨物状態 | 主な判断 | 必要資料 |
|---|---|---|---|
| 第1事故のみ | 一部濡損 | 担保危険による分損か | 事故報告、写真、Survey Report |
| 第1事故後 | 乾燥・再梱包を実施 | 先行損害が補修又は回復されたか | 作業報告、請求書、検品記録 |
| 第2事故 | 衝突により追加損害 | 第1事故と独立した損害か | 第2事故資料、追加損害明細 |
| 保険金請求 | 複数損害が存在 | 重複を除き、各損害を個別に算定できるか | 事故別請求書、既払保険金記録 |
分損後に全損が発生した場合
MIA1906第77条第2項では、同一保険証券のもとで、修理又はその他の方法により補修されていない分損に続いて全損が発生した場合、被保険者は原則として全損についてのみ回収できるとしています。
例えば、貨物に20%の損害が発生した後、その損害を修理又は補修しないまま、後続事故によって貨物全体が滅失した場合、先行する20%の分損と100%の全損を重ねて回収することはできません。
これは、全損保険金に先行する未修理分損の価値減少が含まれるため、同じ経済的損失を二重に回収することを防ぐためです。
一方、先行する分損が既に適切に修理又は補修され、保険対象の価値が回復していた場合には、第77条第2項の未修理分損として一律に全損へ吸収されるとは限りません。各事故及び支払済み損害を個別に確認する必要があります。
また、第77条第2項は、損害防止約款に基づく保険者の責任には影響しないと明記しています。先行事故後に正当に支出した損害防止費用は、後に全損が発生しても別途回収できる可能性があります。
MIA1906第78条における損害防止約款
MIA1906第78条では、保険証券に損害防止約款がある場合、その約款に基づく約定は保険契約本体を補足するものとされています。
被保険者は、損害防止約款に従って正当に支出した費用を、保険者から回収できる場合があります。
この補足的性質により、保険者が全損保険金を支払った場合や、保険対象が単独海損不担保又は一定割合未満不担保とされている場合でも、正当な損害防止費用が別途回収対象となる可能性があります。
ただし、損害防止約款は、担保外損害を費用請求へ置き換えるための規定ではありません。費用が必要かつ合理的であり、担保危険による損害を防止又は軽減する目的で支出されていることが必要です。
損害防止費用に含まれないもの
| 損害・費用 | 損害防止約款による回収 | 理由 | 検討する別の区分 |
|---|---|---|---|
| 共同海損犠牲 | 対象外 | 共同海損損害として独立した回収関係を持つため | 共同海損損害 |
| 共同海損費用 | 対象外 | 共同海損精算の対象となるため | 共同海損費用 |
| 共同海損分担金 | 対象外 | 共同海損分担関係により処理されるため | 共同海損分担金 |
| 救助料 | 対象外 | MIA1906上、独立した救助料として定義されているため | 救助料 |
| 担保外損害を防ぐ費用 | 対象外 | 保険証券で担保されない損害を防止する費用であるため | 被保険者の自己負担又は他の保険 |
| 必要性のない通常作業費 | 原則として対象外 | 事故による特別かつ合理的な損害防止費用ではないため | 通常の事業費用 |
被保険者の損害防止・軽減義務
MIA1906第78条第4項では、被保険者及びその代理人は、すべての場合において、損害を防止又は最小化するために合理的な措置を取る義務があるとされています。
貨物事故が発生した場合、被保険者は、保険会社からの正式な指示を待つことだけを理由として、緊急に必要な保全措置を行わず損害を拡大させてはなりません。
一方、合理性を欠く高額な作業、貨物価値を上回る保全措置、担保外損害だけを防ぐ作業又は証拠を残さず実施した作業は、費用回収が認められない可能性があります。
| 措置 | 主な目的 | 合理性を確認する事項 | 保存する証拠 |
|---|---|---|---|
| 濡損貨物の乾燥 | 腐敗、錆、カビ等の拡大防止 | 緊急性、作業方法、費用と貨物価値の均衡 | 写真、含水状況、作業報告、請求書 |
| 損傷品と健全品の仕分け | 損害範囲の限定及び二次汚染の防止 | 仕分けの必要性及び作業量 | 検品表、数量表、作業記録 |
| 再梱包 | 追加破損や内容物流出の防止 | 既存梱包の状態及び輸送継続の必要性 | 梱包前後の写真、材料費、作業費 |
| 一時保管 | 雨濡れ、盗難又は品質低下の防止 | 保管場所、期間及び保管料 | 倉庫記録、入出庫記録、請求書 |
| サーベイ手配 | 損害原因・範囲の確認及び証拠保全 | 調査の必要性及び専門性 | Survey Report、依頼書、費用明細 |
| 運送人への通知 | 求償権及び抗弁権の保全 | 通知期限、事故内容及び相手方 | メール、書面、受領記録 |
現行ICC(A)(B)(C)との関係
FPAは、伝統的な海上保険における単独海損不担保の考え方です。現行のICC(A)(B)(C)2009を判断する場合には、FPAという名称だけで担保範囲を決めるのではなく、それぞれの約款に定める担保危険、免責危険及び損害軽減義務を確認する必要があります。
ICC(A)は、明示された免責事項を除き、保険対象の滅失又は損傷に関する広い危険を担保する構造です。
ICC(B)及びICC(C)は、約款第1条に列挙された危険を原因とする滅失又は損傷を担保する構造です。部分損害であるという理由だけで一律に不担保となるのではなく、列挙危険に該当するか、免責事項に該当しないかによって判断します。
ICC(A)(B)(C)はいずれも、共同海損及び救助料について独立した規定を置き、第16条で、回収可能な損害を防止又は軽減するための合理的な措置と、運送人、受寄者その他の第三者に対する権利保全を求めています。
| 条件 | 担保構造 | 部分損害の考え方 | 損害防止費用 | FPAとの関係 |
|---|---|---|---|---|
| 伝統的な全面FPA | 通常の単独海損を原則として不担保 | 按分可能部分の全損等を除き回収できない場合がある | 第76条・第78条により別途回収の可能性がある | MIA1906第76条の直接的な対象 |
| 一定割合未満不担保 | 指定割合未満の単独海損を不担保 | 貨物自体の実損害で割合を判定する | 割合判定へは加算しないが、別途回収の可能性がある | 第76条第2項~第4項を確認する |
| ICC(A)2009 | 明示された免責を除く広い危険を担保 | 担保危険による部分損害も原則として検討対象 | 第16条に基づく合理的費用を検討する | 伝統的な全面FPAとは異なる |
| ICC(B)2009 | 第1条に列挙された危険を担保 | 列挙危険による部分損害かを確認する | 第16条に基づく合理的費用を検討する | FPAと機械的に同一視しない |
| ICC(C)2009 | ICC(B)より限定された列挙危険を担保 | 部分損害か全損かだけでなく、原因危険を確認する | 第16条に基づく合理的費用を検討する | 伝統的なFPAの名称だけでは説明できない |
| 特別約款付き契約 | 基本約款を拡張又は制限する | 特約で追加された危険、免責及び限度額を確認する | 特約の費用規定を優先して確認する | 証券全体の文言が最終基準となる |
制度適用の実務フロー
- 事故及び損害を発見する
貨物の濡損、破損、不足、汚損又は全損の可能性を確認します。 - 損害拡大を防止する
緊急性がある場合は、乾燥、仕分け、再梱包、移動その他の合理的な措置を行います。 - 保険会社又は保険代理店へ通知する
事故概要、貨物情報、損害状況及び予定する保全措置を伝えます。 - 適用保険条件を確認する
FPA、一定割合未満不担保、ICC(A)(B)(C)、免責金額及び特別約款を確認します。 - 損害の法的区分を整理する
単独海損、共同海損犠牲、救助料、Particular Charges又は損害防止費用に分けます。 - 按分可能性を確認する
ロット、梱包、品目又は保険明細ごとに独立して識別・評価できるかを確認します。 - 指定割合を計算する
貨物自体の実損害だけを用い、共同海損や付随費用を除外します。 - 事故時系列を作成する
複数事故がある場合は、発生日、原因、損害範囲及び修理状況を分けて整理します。 - 分損後の修理状況を確認する
後に全損が発生した場合、先行分損が修理又は補修されていたかを確認します。 - 第三者に対する権利を保全する
運送人、倉庫業者その他の関係者へ事故通知及び求償権留保を行います。 - 費用資料を分類する
作業費、保管費、サーベイ費用及び転送費用を、性質ごとに分けます。 - 保険金請求を作成する
本体損害、救助料、Particular Charges及び損害防止費用を混同せず、根拠資料とともに提出します。
実務で問題になりやすいケース
| ケース | 主な論点 | 確認資料 | 判断のポイント | 初動対応 |
|---|---|---|---|---|
| FPA条件で一部貨物が濡損 | 通常の単独海損不担保 | 保険証券、事故報告、Survey Report | 共同海損犠牲又は按分可能部分の全損ではないか | 損害区分と保険条件を確認する |
| 10ロット中1ロットが全部滅失 | 按分可能部分の全損 | Invoice、Packing List、保険明細 | 当該ロットを独立して識別・評価できるか | ロット別の数量及び価額を確定する |
| 単独海損4%、共同海損2%、基準5% | 共同海損の加算禁止 | 損害明細、共同海損資料 | 4%の単独海損だけで基準を判定する | 各損害を別区分で請求する |
| 実損4%、サーベイ費用2%、基準5% | 調査費用の除外 | 損害額計算、サーベイ請求書 | サーベイ費用を基準判定へ加算できない | 実損と付随費用を分ける |
| 濡損後に別の衝突事故で追加破損 | 連続損害 | 事故別報告書、写真、修理記録 | 各事故の損害範囲を重複なく区別できるか | 事故ごとに請求資料を作成する |
| 分損後、未修理のまま貨物が全損 | 全損のみの回収 | 先行損害資料、全損事故資料 | 先行分損が修理又は補修されていないか | 二重請求を避けて全損請求を整理する |
| FPA条件でも緊急乾燥を実施 | 損害防止費用の独立性 | 作業指示、写真、見積書、請求書 | 担保危険による損害を合理的に軽減した費用か | 作業理由と費用根拠を保存する |
| 担保外の遅延による価格下落を防ぐため転送 | 担保外損害の防止費用 | 転送理由、保険条件、費用資料 | 防止しようとした損害自体が担保されるか | 費用支出前に保険会社へ確認する |
| 運送人への通知をせず求償権を失った | 第三者に対する権利保全 | B/L、通知記録、時効資料 | 合理的な権利保全措置を取ったか | 事故発見後直ちに書面通知する |
制度適用シナリオ1:FPA条件と按分可能部分の全損
一つの保険証券で10ロットの機械部品が付保され、各ロットについて品番、数量及び価額が個別に記載されていたとします。
輸送中の事故によって、そのうち1ロットが全部滅失し、残り9ロットは無傷でした。保険証券には単独海損不担保条件が付されています。
単独海損不担保では、通常、保険対象の一部損害を回収できません。しかし、本件では、滅失した1ロットが他のロットから独立して識別でき、個別価額も確定しています。
したがって、保険契約上も各ロットを独立した部分として扱えることが確認される場合、滅失した1ロットは按分可能部分の全損として回収できる可能性が高いと考えられます。
制度適用シナリオ2:指定割合と共同海損の加算
保険証券に「5%未満の単独海損不担保」という条件があり、貨物自体の単独海損が保険価額の4%、別途共同海損犠牲が2%発生したとします。
単独海損と共同海損犠牲を合計すれば6%になりますが、MIA1906第76条では、共同海損損害を単独海損へ加算して指定割合へ到達させることはできません。
したがって、指定割合の判定は単独海損4%だけで行います。5%へ達していないため、単独海損部分は不担保となる可能性があります。
一方、共同海損犠牲2%は、単独海損の割合判定とは別に、共同海損及び保険条件に従って検討します。
制度適用シナリオ3:連続する二つの分損
航海中の最初の事故で一部貨物が濡損し、その後、別の衝突事故によって同じ貨物の別部分が破損したとします。
第1事故と第2事故について、原因、発生日及び損害範囲を区別でき、同一損害を重複して計上していない場合、二つの損害は連続損害として検討されます。
保険証券に別段の定めがなく、各事故が担保危険によるものである場合、保険者は各損害について責任を負う可能性があります。
したがって、本件では、濡損と衝突損害を一つの概算額にまとめず、事故ごとの損害明細及び証拠資料を作成して請求する必要があります。
制度適用シナリオ4:未修理分損後の全損と損害防止費用
貨物に20%の分損が発生しましたが、修理又は補修が行われないまま、後続事故により貨物全体が滅失したとします。
MIA1906第77条第2項によれば、未修理の分損に続いて全損が発生した場合、被保険者は原則として全損についてのみ回収します。
したがって、20%の先行分損と100%の全損を重ねて請求することはできません。
ただし、先行事故の直後に、損害拡大を防ぐため合理的かつ正当に乾燥・仕分け費用を支出していた場合、その費用は損害防止約款に基づき、全損保険金とは別に回収できる可能性があります。
よくある誤解
| 誤解 | 実際の考え方 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 単独海損不担保なら保険者は一切支払わない | 共同海損犠牲、按分可能部分の全損、救助料、Particular Charges及び損害防止費用は別途検討されます。 | 損害と費用を法的性質ごとに分けます。 |
| ICC(C)はFPAと完全に同じである | ICC(C)は列挙危険を担保する現行約款であり、伝統的な全面FPAと同一ではありません。 | 約款第1条の担保危険と免責事項を確認します。 |
| 指定割合は必ず損害額から控除される | フランチャイズ型とDeductible型では計算方法が異なります。 | 保険証券の具体的な文言を確認します。 |
| 共同海損を加えれば免責割合へ到達できる | 共同海損損害を単独海損へ加算することはできません。 | 共同海損は別区分で処理します。 |
| サーベイ費用も実損害として割合へ含められる | 損害の調査・立証費用は割合判定から除外されます。 | 貨物自体の実損害と費用を分けます。 |
| 連続損害の支払総額は必ず保険金額以下である | 保険証券に別段の定めがなければ、連続損害の合計が保険金額を超えても責任が生じる場合があります。 | 各事故の独立性と重複の有無を確認します。 |
| 分損後に全損となれば両方を回収できる | 先行分損が未修理・未補修の場合は、原則として全損だけを回収します。 | 先行損害の修理状況を確認します。 |
| 全損保険金を受け取ると損害防止費用は請求できない | 損害防止約款は補足的な約定であり、全損後も正当な費用を回収できる場合があります。 | 費用の必要性、合理性及び担保危険との関係を立証します。 |
| 事故後に支出した費用はすべて損害防止費用になる | 共同海損、救助料、担保外損害の防止費用及び通常費用は区別されます。 | 誰が何の目的で支出した費用かを確認します。 |
| 保険会社の指示が来るまで何もしなくてよい | 被保険者及び代理人には合理的な損害防止・軽減義務があります。 | 緊急措置を行い、同時に保険会社へ通知します。 |
| 運送人に対する求償権の保全は保険会社だけの仕事である | 被保険者側にも第三者に対する権利を適切に保全する必要があります。 | 事故通知、留保及び求償期限を管理します。 |
実務判断チェックリスト
| 確認場面 | 確認する相手 | 確認事項 | 問題がある場合の対応 |
|---|---|---|---|
| 保険条件を確認するとき | 保険会社又は保険代理店 | FPA、指定割合、免責金額、ICC及び特別約款 | 保険証券一式を取得して適用順位を確認する |
| 貨物の一部損害を発見したとき | 倉庫、運送人、Surveyor | 損害範囲、事故原因、数量及び発生時期 | 写真、検品記録及び留保通知を確保する |
| 按分可能性を判断するとき | 保険会社、経理担当者、貨物管理担当者 | ロット、梱包、数量、個別価額及び保険明細 | 独立性を示す取引資料を追加提出する |
| 指定割合を計算するとき | 保険会社又はSurveyor | 貨物自体の実損害、保険価額及び計算単位 | 共同海損及び付随費用を除外して再計算する |
| 複数事故が発生したとき | 保険会社、運送人、Surveyor | 事故ごとの原因、日時、損害範囲及び重複 | 事故別の損害明細と証拠ファイルを作成する |
| 分損後に全損が発生したとき | 保険会社、修理業者、Surveyor | 先行分損の修理・補修及び価値回復の有無 | 未修理分損と全損の二重請求を避ける |
| 緊急保全作業を始めるとき | 保険会社又は保険代理店 | 作業の緊急性、必要性、費用及び代替手段 | 連絡不能でも合理的な最小限の措置を行い記録する |
| 費用を分類するとき | 保険会社又はSurveyor | Particular Charges、損害防止費用、救助料、共同海損の別 | 費用目的と支出主体を整理する |
| 担保危険を確認するとき | 保険会社又は保険代理店 | 防止しようとした損害が保険で担保されるか | 担保外損害に関する費用を請求から分離する |
| 運送人へ通知するとき | 運送人、船会社、倉庫業者 | 事故内容、責任留保、通知期限及び求償期限 | 書面通知を行い受領記録を保存する |
| サーベイを依頼するとき | 保険会社又はSurveyor | 調査範囲、費用、緊急性及び立証目的 | 過大な調査を避け、必要範囲を明確にする |
| 保険金請求を提出するとき | 保険会社又は保険代理店 | 損害区分、費用区分、根拠資料及び既払金 | 重複を除き、区分別の請求明細を作成する |
単独海損不担保と損害防止義務を混同しない
単独海損不担保は、通常の単独海損に対する保険者の責任を制限する条件です。
損害防止義務は、事故後に被保険者及び代理人が合理的な措置を取り、損害の発生又は拡大を防止する義務です。
単独海損が不担保だからといって、被保険者が損害を放置してよいわけではありません。
また、通常の単独海損が不担保であっても、救助料、Particular Charges又は損害防止約款に基づいて正当に支出した費用について、保険者が責任を負う場合があります。
ただし、損害防止約款は、担保されていない損害を費用請求によって補償対象へ変更する規定ではありません。防止しようとした損害が担保危険によるものであることが必要です。
まとめ
MIA1906第76条は、単独海損不担保、按分可能部分の全損、一定割合未満不担保及び損害防止費用等の例外を整理する規定です。
単独海損不担保であっても、共同海損犠牲、按分可能部分の全損、救助料、Particular Charges及び損害防止約款に基づく正当な費用は、別途回収できる場合があります。
指定割合へ達したかを判断する際には、保険対象そのものに発生した実損害だけを考慮し、共同海損、Particular Charges及び損害の調査・立証費用を加算しません。
MIA1906第77条では、保険証券に別段の定めがない限り、保険者は連続損害について責任を負うとされています。ただし、未修理又は未補修の分損に続いて全損が発生した場合は、原則として全損についてのみ回収します。
MIA1906第78条の損害防止約款は、保険契約本体を補足する約定です。全損保険金が支払われた場合や単独海損不担保の場合でも、正当に支出した損害防止費用を別途回収できることがあります。
共同海損損害、共同海損分担金、救助料及び担保外損害を防止する費用は、損害防止約款による回収対象ではありません。
現行のICC(A)(B)(C)2009では、伝統的なFPAという名称だけで担保範囲を判断せず、それぞれの担保危険、免責事項、第16条の損害軽減義務及び特別約款を確認する必要があります。
貨物事故が発生した場合は、損害拡大を防ぐ合理的な措置を取り、事故原因、損害区分、修理状況、費用の目的及び第三者に対する権利保全を記録したうえで、保険会社又は保険代理店へ速やかに連絡することが重要です。
