貨物事故の出訴期限
貨物事故の出訴期限とは
貨物事故の出訴期限とは、貨物の破損、濡損、数量不足、汚損などについて、運送人、NVOCC、フォワーダーに対して裁判上の請求を行うことができる期限をいいます。
貨物事故では、Claim Letterを送ったか、サーベイを行ったか、損害額資料を提出したかという実務対応とは別に、出訴期限を確認する必要があります。
出訴期限を過ぎると、損害が実際に発生していても、運送人側に対する請求が認められにくくなります。そのため、貨物事故では、事故原因や損害額の確認と並行して、期限管理を行うことが重要です。
Claim Letterの通知期限とは別の期限
出訴期限は、Claim Letterの通知期限とは別のものです。
Claim Letterは、貨物損害の発生を運送人側に通知するための書面です。受取時に見える損害や、開梱後に判明した損害について、速やかに相手方へ通知する意味があります。
一方、出訴期限は、裁判上の請求を行う期限です。
Claim Letterを期限内に送っていても、それだけで出訴期限が当然に止まるわけではありません。
実務上は、「Claim Letterを送ったから安心」ではなく、「出訴期限までに何をするか」を別に管理する必要があります。
海上貨物では1年が重要
国際海上輸送では、貨物の引渡し日、または引き渡すべき日から1年以内に裁判上の請求をしないと、運送人の責任が消滅するという考え方が重要です。
この1年は、貨物事故実務では非常に重要な期限です。
荷主、保険会社、NVOCC、フォワーダーの間で交渉が続いていても、出訴期限を過ぎれば、運送人側から期限徒過を主張される可能性があります。
そのため、貨物事故を受け付けた段階で、まず次の3つの日付を確認します。
- 貨物の引渡日
- 貨物を引き渡すべき日
- Claim Letterまたは事故通知の日
特に、貨物が誤配送された場合、引渡しが遅れた場合、貨物が未着の場合などは、「実際にいつ引き渡されたか」だけでなく、「いつ引き渡されるべきだったか」も確認する必要があります。
交渉中でも期限は進む
貨物事故では、関係者間で長く交渉が続くことがあります。
例えば、荷主、保険会社、NVOCC、船会社、海外代理店、サーベイヤーの間で、事故原因や損害額について確認を続けているうちに、出訴期限が近づくことがあります。
しかし、交渉中であることだけで、出訴期限が当然に延びるわけではありません。
相手方が資料提出を求めている場合や、回答を保留している場合でも、期限管理は請求側で行う必要があります。
そのため、実務では、交渉状況とは別に、期限日を明確に管理します。
期限延長の合意
海上貨物では、損害発生後に当事者が合意すれば、出訴期限を延長できる場合があります。
ただし、単なるメールのやり取りや、調査中という返答だけでは、期限延長の合意があるとは限りません。
期限延長を行う場合は、次の点を明確にしておく必要があります。
- 誰と誰の間の合意か
- どのB/L、どの貨物、どの事故に関する延長か
- いつまで延長するのか
- 書面またはメールで明確に残っているか
- 責任を認める趣旨ではないことが明記されているか
期限延長を依頼する側も、受ける側も、曖昧な表現のまま進めるのは危険です。
B/L約款・準拠法・裁判管轄の確認
貨物事故の出訴期限を確認する際は、B/L約款、準拠法、裁判管轄も確認します。
同じ貨物事故でも、House B/L、Master B/L、Sea Waybill、FCRなど、どの運送書類に基づいて請求するかによって、確認すべき約款が変わります。
また、B/L裏面約款には、準拠法、裁判管轄、責任制限、免責事由、出訴期限に関する規定が置かれていることがあります。
NVOCCがHouse B/Lを発行している場合、荷主からNVOCCに対する請求と、NVOCCから船会社に対する請求を分けて確認する必要があります。
代位求償での注意点
貨物保険で保険金が支払われた後、保険会社が運送人、NVOCC、フォワーダーに代位求償する場合があります。
この場合でも、出訴期限の管理は重要です。
保険会社が保険金を支払った時点で、すでに運送人に対する出訴期限が近い、または経過している場合があります。
代位求償を受ける側は、次の点を確認します。
- 貨物の引渡日または引渡予定日
- Claim Letterの通知日
- 保険金支払日
- 代位求償書の受領日
- 出訴期限が経過していないか
- 期限延長の合意があるか
保険会社から請求を受けた場合でも、出訴期限を過ぎている可能性があるため、請求額を検討する前に期限を確認します。
NVOCC・フォワーダー側の対応
NVOCCやフォワーダーが貨物事故の請求を受けた場合、まず請求内容をそのまま認めるのではなく、期限関係を確認します。
確認すべき資料は次のとおりです。
- House B/L
- Master B/L
- Waybill、FCRなどの運送書類
- 到着案内、引渡記録
- 受領書、納品書
- Claim Letter
- サーベイレポート
- 保険会社からの代位求償書類
- 期限延長に関するメールや書面
期限徒過の可能性がある場合は、責任原因や損害額の議論に入る前に、出訴期限の観点から反論できるかを検討します。
初期回答で注意すべきこと
出訴期限が問題になる事故では、初期回答の表現にも注意が必要です。
例えば、「引き続き対応します」「補償の方向で確認します」「支払いについて検討します」といった表現が、責任を認めたように受け取られる可能性があります。
初期回答では、次のような内容にとどめることが実務上は安全です。
- 請求書類を受領したこと
- 関係資料を確認中であること
- 責任の有無、期限、約款を含めて確認すること
- 回答は責任を認める趣旨ではないこと
- 必要に応じて追加資料を求めること
特に、期限延長を求められた場合は、延長に応じるかどうかを慎重に判断し、応じる場合も範囲と期間を明確にします。
航空貨物との違い
航空貨物では、海上貨物とは異なる出訴期限が問題になります。
国際航空貨物では、モントリオール条約などにより、損害賠償請求の出訴期限が2年と整理されることがあります。
そのため、海上貨物、航空貨物、国内輸送、複合一貫輸送では、同じ「貨物事故」でも適用される期限が異なる可能性があります。
実務では、事故貨物がどの輸送区間で損傷したのか、どの運送書類に基づく請求なのかを確認し、期限を個別に判断します。
まとめ
貨物事故の出訴期限は、運送人、NVOCC、フォワーダーに対して裁判上の請求を行うための重要な期限です。
Claim Letterを送っていても、出訴期限が当然に止まるわけではありません。損害額の確定、サーベイ、保険金支払い、代位求償の手続きが進んでいても、期限管理は別に行う必要があります。
実務では、貨物の引渡日、引渡予定日、B/L約款、準拠法、裁判管轄、期限延長の有無を確認し、出訴期限を過ぎる前に必要な対応を判断することが重要です。
