税関による輸入差止め

税関による輸入差止めとは

税関による輸入差止めとは、輸入貨物が知的財産権を侵害する疑いがある場合に、税関が水際で貨物の輸入を止め、知的財産侵害物品に該当するかどうかを確認する制度・実務です。

対象となるのは、商標権、意匠権、著作権、著作隣接権、特許権、実用新案権、育成者権などを侵害する可能性がある貨物や、不正競争防止法違反に該当する一定の貨物です。

輸入実務では、模倣品、偽ブランド品、ロゴ入りコピー商品、キャラクター商品、デザイン模倣品、海賊版商品、純正品に似た交換部品などが問題になりやすい分野です。

税関による輸入差止めは、単なる通関遅延ではありません。知的財産侵害物品に該当する可能性がある貨物について、輸入を認めるかどうかを判断するための水際取締りの一部です。

この記事で扱う範囲

本記事では、税関による輸入差止め、輸入差止申立制度、税関の水際取締り、輸入者・フォワーダー側から見た注意点を整理します。

「通関保留」は、税関確認や資料提出が必要となり、輸入許可が一時的に止まっている実務上の状態です。

「認定手続」は、税関が発見した侵害疑義物品について、知的財産侵害物品に該当するかどうかを判断する手続です。

「輸入差止申立制度」は、権利者が自己の権利を侵害すると認める貨物について、税関長に対し、輸入差止めと認定手続を求める制度です。

したがって、通関保留、認定手続、輸入差止申立制度は同義ではありません。本記事では、特に「輸入差止申立制度」と「税関による水際差止め」を中心に扱います。

通関保留、権利者確認、認定手続への移行の詳しい流れは、別記事「権利者確認と通関保留」で整理します。

輸入差止申立制度とは

輸入差止申立制度とは、知的財産権を有する権利者などが、自己の権利を侵害すると認める貨物が輸入されようとする場合に、税関長に対して、その貨物の輸入を差し止め、認定手続を行うよう申し立てる制度です。

権利者が事前に輸入差止申立を行い、税関に受理されている場合、税関は申立内容に該当するおそれのある輸入貨物について確認を行います。

この制度は、権利者側から見ると、模倣品や権利侵害品を日本の市場に入れないための水際対策です。

輸入者やフォワーダー側から見ると、通関時に突然確認が入り、正規品性、仕入経路、権利者の許諾、並行輸入としての説明資料などを求められる場面として現れます。

対象となる主な権利

輸入差止めの対象となり得る知的財産権には、次のようなものがあります。

権利・法律 主な対象 輸入実務で問題になりやすい貨物
商標権 ブランド名、ロゴ、商品名、マーク 偽ブランド品、ロゴ入りコピー商品、無断商標使用品
意匠権 商品の形状、外観、デザイン、模様 有名商品の外観に似た家具、家電、雑貨、交換部品
著作権 キャラクター、イラスト、画像、映像、音楽、書籍、ソフトウェア 海賊版商品、無断キャラクター商品、無断複製品
著作隣接権 音源、映像、放送、実演など 無断複製された音源・映像関連商品
特許権・実用新案権 技術的な発明、構造、機能 権利者の技術を無断使用した製品や部品
育成者権 登録品種、種苗、植物等 権利者の許諾なく輸入される種苗・植物等
不正競争防止法違反物品 商品表示の混同惹起、著名表示の冒用、形態模倣品など 著名ブランド表示を利用した商品、形態模倣品

権利の種類によって、確認すべき資料や判断軸は異なります。

ブランド名やロゴが問題になる場合は商標権、商品の外観が問題になる場合は意匠権、キャラクターや画像が問題になる場合は著作権が中心になります。

差止めが発生する場面

輸入差止めは、税関検査、書類確認、貨物確認、権利者からの輸入差止申立情報などをきっかけに発生することがあります。

権利者があらかじめ税関に輸入差止申立をしている場合、税関はその申立内容に基づいて、該当するおそれのある貨物を確認します。

また、申立てがない場合でも、貨物の表示、外観、価格、数量、仕入先、販売ページなどから疑義がある場合には、税関確認や通関保留の対象になることがあります。

この段階では、輸入者が違法行為を行ったと確定しているわけではありません。

ただし、輸入者が正規品性、権利者の許諾、仕入経路、権利侵害に該当しない理由を説明できなければ、認定手続へ進む可能性があります。

認定手続との関係

認定手続とは、税関が発見した侵害疑義物品について、知的財産侵害物品に該当するかどうかを判断するための手続です。

認定手続が開始されると、税関から輸入者および権利者へ通知が行われます。

輸入者は、指定された期限までに、貨物が輸入してはならない貨物に該当しないこと、知的財産権を侵害しないことを示す意見や証拠を提出する必要があります。

非該当と認定されれば、輸入許可へ進みます。

一方、知的財産侵害物品に該当すると認定された場合は、輸入できず、廃棄、任意放棄、権利者からの輸入同意書取得、修正対応、積戻し可否などを検討することになります。

認定手続の詳細、通関保留から認定手続へ進む流れ、輸入者・フォワーダー側の具体的な対応は、別記事「権利者確認と通関保留」で整理します。

輸入者側から見た輸入差止申立情報の意味

輸入差止申立が受理されている権利については、税関が水際で重点的に確認する可能性があります。

輸入者は、自社が扱う商品について、商標、意匠、著作物、キャラクター、技術、形状などに他人の権利が関係していないかを事前に確認する必要があります。

特に、海外EC仕入れ、海外卸業者からのブランド品仕入れ、キャラクター商品、純正品に似た交換部品、外観模倣品では注意が必要です。

輸入者が「海外では普通に売られていた」「販売者が正規品と言っていた」と説明しても、税関での説明資料として十分とは限りません。

輸入差止めと通関保留の違い

通関保留は、税関確認や資料提出が必要となり、輸入許可が一時的に止まっている実務上の状態です。

輸入差止めは、知的財産侵害物品に該当する疑いがある貨物について、税関が輸入を止め、認定手続やその後の処理へ進める制度上の概念です。

認定手続は、侵害疑義物品が知的財産侵害物品に該当するかどうかを税関が判断するための手続です。

この3つは実務上つながりますが、同じ意味ではありません。

用語 意味 実務上の位置づけ
通関保留 輸入許可が一時的に止まっている状態 初期確認段階
輸入差止め 知的財産侵害の疑いがある貨物の輸入を税関が止めること 水際取締り・差止め段階
認定手続 知的財産侵害物品に該当するかどうかを税関が判断する手続 該当性判断の手続段階

実務の流れ

段階 主な確認事項 止まりやすい原因
仕入前 商標、意匠、著作権、ライセンス、仕入経路を確認 海外販売者の説明だけで正規品と判断してしまう
輸入手配前 ブランド名、ロゴ、キャラクター、商品外観、型番を確認 インボイスの商品名が曖昧で、権利リスクを見落とす
税関確認・検査 貨物の表示、外観、数量、価格、パッケージを確認 書類内容と貨物外観が一致しない
通関保留 正規品性、使用許諾、仕入経路を資料で説明 正規販売証明やライセンス資料が提出できない
認定手続開始 輸入者が期限内に意見書・証拠を提出するか判断 輸入者が手続の意味を理解しておらず、回答期限が迫る
認定結果 非該当なら輸入許可、該当なら廃棄・任意放棄・同意書取得等を検討 保管料、廃棄費用、販売計画、費用負担が問題になる

輸入者に求められる資料

税関による輸入差止めや認定手続に関係する場合、輸入者は次のような資料を準備する必要があります。

  • 正規仕入れを示すインボイス
  • 購入証明
  • 正規販売証明
  • 仕入先情報
  • ライセンス契約書
  • 使用許諾書
  • 権利者または正規代理店からの証明書
  • 商品写真
  • 商品カタログ
  • 販売ページ
  • 型番資料
  • 登録意匠や著作物との非類似説明資料
  • 並行輸入として問題がないことを説明する資料

これらの資料は、単に「本物です」と主張するためではなく、知的財産侵害物品に該当しないことを説明するために使われます。

外国語の資料しかない場合、日本語訳や補足説明が必要になることがあります。資料提出が遅れると、回答期限、保管料、納期遅延、販売計画への影響が大きくなります。

フォワーダー実務での影響

輸入差止めが発生すると、通関スケジュールは大きく遅れます。

納品予定、販売予定、倉庫手配、配送手配、販売開始日、工場投入予定などに影響が出ることがあります。

また、保管料、検査立会費用、書類準備費用、翻訳費用、配送再手配費用、FCL貨物であればDemurrage、Storage、Detentionなどの追加費用が発生する可能性があります。

最終的に輸入不可となった場合には、任意放棄、廃棄、返送可否、権利者同意書取得、修正対応などを検討する必要があります。

これらの費用や判断は、通常の輸送事故とは異なり、知的財産権・法令確認リスクとして整理する必要があります。

フォワーダーの対応

フォワーダーは、輸入差止めの判断を行う立場ではありません。

しかし、実務上は調整役となります。税関や通関業者から連絡を受けた場合、荷主へ速やかに状況を伝え、必要資料の提出を促す必要があります。

また、納期への影響、追加費用、今後の対応方針について、荷主と早期に共有することが重要です。

フォワーダーが「問題ありません」「正規品です」「権利侵害ではありません」と断定することは避けるべきです。

フォワーダーの役割は、事実確認、資料回収、通関業者との連携、期限管理、費用リスクの説明にあります。

実務シナリオ1:輸入差止申立の対象ブランド品が止まるケース

輸入者が海外ECサイトからブランドロゴ入りのバッグを仕入れ、日本国内で販売しようとするケースがあります。

そのブランドについて権利者の輸入差止申立が税関に受理されており、税関確認で貨物が申立内容に該当する疑いがあると判断されます。

輸入者は販売ページのスクリーンショットしか持っておらず、正規販売証明や購入証明を提出できません。

この場合、認定手続へ進む可能性があり、保管料、納期遅延、販売計画への影響、廃棄費用が問題になります。

実務シナリオ2:キャラクター商品で権利者の申立情報に該当するケース

輸入者がアニメキャラクター入りの雑貨を海外メーカーから仕入れるケースがあります。

商品本体やパッケージにキャラクターが表示されており、権利者の輸入差止申立情報に該当する疑いがあるとして、税関で確認が入ります。

輸入者がライセンス契約書や使用許諾書を提出できない場合、認定手続に進む可能性があります。

少量貨物であっても、販売目的であれば、権利者の許諾や正規流通を説明できる資料が重要になります。

実務シナリオ3:通関保留と輸入差止めを混同するケース

通関業者から「知財確認で止まっています」と連絡が入り、荷主が「もう輸入差止めになったのか」と誤解するケースがあります。

実際には、初期段階では通関保留や追加確認にとどまっている場合があります。

この段階で資料を提出し、疑義が解消されれば、輸入許可へ進む可能性があります。

一方、資料不足や疑義が解消されない場合には、認定手続へ進み、最終的に輸入できないと判断される可能性があります。

フォワーダーは、現在の段階が通関保留なのか、認定手続なのか、輸入差止めの判断後なのかを確認して荷主へ説明する必要があります。

実務シナリオ4:輸入不可後の費用負担が問題になるケース

認定手続の結果、知的財産侵害物品に該当すると判断され、貨物を輸入できないケースがあります。

輸入者は、廃棄、任意放棄、権利者同意書取得、修正対応、返送可否などを検討することになります。

その間に、保管料、検査立会費用、翻訳費用、配送再手配費用、販売機会の損失などが発生することがあります。

これらは輸送中の貨物事故ではなく、輸入者側の権利確認・法令確認リスクとして整理する必要があります。

知的財産侵害物品とは・権利者確認と通関保留との役割分担

「知的財産侵害物品とは」は、関税法上の輸入禁止貨物、対象権利、輸入差止申立、認定手続、貨物保険との切り分けなど、法制度面を整理する記事です。

「権利者確認と通関保留」は、税関確認、通関保留、権利者確認、認定手続への移行、費用・期限管理を整理する手続面の記事です。

これに対して、本記事「税関による輸入差止め」は、輸入差止申立制度と、税関が水際で知的財産侵害疑義物品を止める制度・実務を整理する記事です。

実務上の注意点

ブランド品、キャラクター商品、デザイン性の高い商品、純正品に似た部品、海賊版商品などは、輸入差止めが発生しやすい貨物です。

事前に仕入経路、正規性、権利者許諾、ライセンス、商品写真、販売ページを確認しておくことで、差止めリスクを低減できます。

特に初回取引、海外EC仕入れ、小口大量貨物、販売目的の継続輸入、極端に安価な商品は注意が必要です。

フォワーダーは、輸入差止めの判断者ではなく、荷主確認、資料回収、通関業者との連携、期限管理、費用リスク説明を行う調整役です。

まとめ

税関による輸入差止めは、知的財産権侵害の疑いがある貨物を水際で止める重要な制度です。

輸入差止申立制度は、権利者が自己の権利を侵害すると認める貨物について、税関長に輸入差止めと認定手続を求める制度です。

通関保留、輸入差止め、認定手続は実務上つながっていますが、それぞれ異なる段階として整理する必要があります。

輸入者は、正規品性、使用許諾、仕入経路、権利侵害に該当しない理由を資料で説明できるようにしておく必要があります。

税関による輸入差止めは、知的財産侵害物品を日本市場に入れないための水際取締りであり、仕入前の権利確認と資料準備が最重要の予防策となります。

同義語・別表記

  • 輸入差止め
  • 輸入差止
  • 税関差止め
  • 税関差止
  • 輸入差止申立制度
  • Customs Import Suspension
  • Customs Border Enforcement
  • Import Suspension

公式情報