ICC2009約款とは
ICC2009約款とは、外航貨物海上保険で使用される協会貨物約款(Institute Cargo Clauses)について、1982年版を基礎に改定された2009年版の約款群です。
ICCは、国際的な貨物海上保険の標準約款として広く使用されており、外航貨物保険証券、L/C取引、CIF・CIP取引、貿易実務、貨物事故対応において重要な位置を占めます。
ICC2009は、ICC(1982)の基本構造を全面的に作り替えたものではありません。基本的な枠組みを維持しつつ、国際輸送実務で問題になりやすかった部分について、文言の明確化、免責範囲の整理、通知義務の明確化、現代の輸送環境に合わせた修正が行われたものです。
本記事の位置づけ
本記事は、ICC2009約款解説シリーズ全体の入口記事です。
個別の変更点を実務上のチェックリストとして確認する場合は、「ICC2009約款の主な変更点」を確認します。危険担保、保険期間、保険金請求、免責、保険の利益、通知義務などの各条項を詳しく確認する場合は、それぞれの個別記事を確認します。
本記事では、ICC2009とは何か、なぜ改定されたのか、どの約款群が対象になったのか、ICC(1982)からICC2009への改定をどのように理解すべきかを整理します。
本記事と「主な変更点」記事の役割分担
本記事と「ICC2009約款の主な変更点」は、似たテーマを扱いますが、役割が異なります。
| 記事 | 主な役割 | 読む目的 |
|---|---|---|
| ICC2009約款の変遷と改定概要 | ICC2009の成立背景、全体像、約款ファミリー、シリーズ全体の入口 | ICC2009とは何か、なぜ改定されたのかを理解する |
| ICC2009約款の主な変更点 | ICC1982とICC2009の実務上の違いを比較する早見表 | 保険期間、梱包不十分、船社倒産、不堪航、航海変更の違いを確認する |
| 個別条項記事 | 各条項の実務判断を深掘りする記事 | 実際の貨物事故や保険金請求で何を確認すべきかを調べる |
つまり、本記事は「ICC2009を初めて読む人の入口」、主な変更点記事は「ICC1982との違いを実務上確認する早見表」、個別条項記事は「事故対応時の深掘り記事」という位置づけです。
ICC約款の変遷
ICC(1982)は、長年にわたり外航貨物海上保険の標準約款として広く使用されてきました。
しかし、1982年以降、国際輸送実務は大きく変化しました。コンテナ輸送の普及、複合輸送の一般化、フォワーダー・NVOCCの役割拡大、国際物流網の複雑化、テロリスクの顕在化、船社倒産リスク、L/C取引や保険証券譲渡をめぐる実務の変化などがありました。
そのため、ICC2009では、ICC(1982)の基本的な考え方を維持しつつ、実務上あいまいになりやすかった部分について文言を整理し、現代の輸送実務に合わせた改定が行われました。
なぜICC2009へ改定されたのか
ICC2009への改定は、単に古い約款を新しい表現に置き換えたものではありません。
国際輸送実務では、次のような点が問題になりやすくなっていました。
- 保険期間がいつ始まり、いつ終わるのか
- 倉庫内での出荷準備や最終荷卸し後の損害をどう扱うのか
- 梱包不十分やコンテナ内積付け不良を誰の問題として扱うのか
- 船会社や運送人の支払不能を、どこまで保険で扱うのか
- 本船やコンテナの不適合を被保険者が知らなかった場合にどう扱うのか
- テロ行為やストライキ危険を通常の貨物危険とどう区別するのか
- 仕向地変更や運送打切りの際、保険者へいつ通知すべきか
ICC2009は、こうした実務上の争点を整理し、保険者、被保険者、フォワーダー、NVOCC、荷主が判断しやすいように文言を整えた約款といえます。
ICC2009で改定対象となった約款群
ICC2009で重要なのは、ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)だけではありません。
実際には、貨物海上保険に関連する複数の協会約款が改定対象となっています。
| 約款群 | 概要 | 実務上の確認点 |
|---|---|---|
| Institute Cargo Clauses (A) | 広い補償を前提とする貨物海上保険条件 | 免責条項、保険期間、事故原因の確認が重要 |
| Institute Cargo Clauses (B) | 列挙された危険を中心に補償する条件 | 事故原因が列挙危険に該当するかを確認する |
| Institute Cargo Clauses (C) | 重大な輸送事故を中心に補償する限定的な条件 | ICC(B)よりもさらに補償範囲が狭い点に注意する |
| Institute War Clauses | 戦争危険に関する約款 | 通常のICC(A)(B)(C)では戦争危険が基本的に免責となるため、付帯状況を確認する |
| Institute Strikes Clauses | ストライキ、暴動、テロ行為などに関する約款 | ストライキ危険やテロリスクを補償するには付帯状況を確認する |
| 航空貨物向け協会約款 | 航空貨物輸送に使用される協会約款 | 海上貨物向けICC(A)(B)(C)とは別に、航空貨物条件を確認する |
貨物保険実務では、ICC(A)だけを確認すれば足りるわけではありません。戦争危険、ストライキ危険、テロリスク、航空貨物条件、特約、保険証券上の記載をあわせて確認する必要があります。
ICC(A)(B)(C)の基本構造
ICC2009でも、貨物海上保険の基本はICC(A)、ICC(B)、ICC(C)の3条件です。
| 条件 | 性格 | 実務上の見方 |
|---|---|---|
| ICC(A) | 広い補償を前提とする条件 | まず免責条項に該当しないかを確認する |
| ICC(B) | 列挙危険を中心に補償する条件 | 事故原因が列挙危険に該当するかを確認する |
| ICC(C) | 重大事故を中心とする限定的な条件 | 火災、座礁、沈没、衝突など重大事故との関係を確認する |
ICC2009の理解では、まずこの3条件の違いを把握することが重要です。そのうえで、保険期間、免責、保険金請求、通知義務、特約の有無を確認します。
ICC2009で変わらなかったこと
ICC2009は、すべてを新しく作り替えた約款ではありません。
次のような基本構造は維持されています。
- ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)という基本的な条件区分
- 補償危険と免責条項を分けて確認する考え方
- 共同海損や救助料を貨物保険で扱う考え方
- 保険期間を輸送過程と関連させて考える構造
- 戦争危険、ストライキ危険を通常の貨物危険と分けて扱う考え方
- 貨物保険と運送人責任を分けて整理する実務
したがって、ICC2009は「まったく新しい約款」というより、ICC(1982)で実務上問題になりやすかった点を現代の輸送実務に合わせて調整した約款と理解するのが適切です。
ICC2009で明確化された主な方向性
ICC2009の改定は、個別論点ごとに見ると複雑ですが、大きな方向性としては次のように整理できます。
| 方向性 | 内容 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 保険期間の具体化 | 貨物の最初の移動、荷卸し完了など、作業時点に着目 | 始期・終期を時系列で確認しやすくなった |
| 被保険者の認識の重視 | 船社倒産、不堪航、不適合で、被保険者が知っていたかを重視 | 誰が、いつ、何を知っていたかの記録が重要になった |
| 第三者作業との切り分け | 梱包、準備、積付けについて、誰がいつ行ったかを重視 | 荷主、フォワーダー、NVOCC、倉庫業者の役割分担が重要になった |
| 通知義務の明確化 | 仕向地変更や運送打切りで保険者への通知が重要に | 補償継続や条件変更を早めに確認する必要がある |
| 現代的リスクへの対応 | テロリスク、船社倒産、複合輸送、コンテナ輸送を意識 | 通常貨物危険、戦争危険、ストライキ・テロ危険を分けて確認する必要がある |
これらに共通するのは、「誰が」「いつ」「何を知っていたか」「どの時点で危険が始まり終わったか」「保険者へ通知したか」を重視する方向です。
held coveredという表現の見直し
ICC(1982)では、航海変更などが発生した場合に、一定の条件で保険を継続する趣旨として、held coveredという表現が使われていました。
held coveredとは、簡単にいえば、予定外の変更が発生した場合でも、被保険者が必要な通知を行い、追加保険料や条件について保険者と協定することにより、保険を継続させる考え方です。
ただし、この表現は、実務上「自動的に補償が続く」と誤解されるおそれがありました。
ICC2009では、仕向地変更などがあった場合に、被保険者が保険者へ遅滞なく通知し、保険料率や条件について協定する必要があることが、より具体的に整理されています。
したがって、仕向地変更、運送打切り、積替え、途中港留置などが発生した場合には、保険者への早期通知が重要になります。
テロリスクの定義が重要になった背景
ICC2009では、テロ行為の定義も明確化されています。
国際輸送では、貨物が複数国をまたぎ、港湾、空港、倉庫、ターミナル、内陸輸送を経由します。そのため、テロ、暴動、ストライキ、政治的・思想的・宗教的動機による行為が、貨物の滅失・損傷や輸送遅延に影響する可能性があります。
通常の貨物危険、戦争危険、ストライキ危険、テロリスクは、それぞれ保険上の扱いが異なります。
ICC2009では、政治的動機だけでなく、思想的または宗教的動機による行為も、テロ行為として整理される可能性がある点が明確化されています。
実務では、通常のICC(A)(B)(C)だけでなく、戦争危険やストライキ危険の付帯状況、テロリスクの扱い、免責条項を合わせて確認する必要があります。
保険期間の明確化
ICC2009で特に重要な変更点の一つが、保険期間の始期と終期の明確化です。
従来は「貨物が倉庫を離れる時」や「最終倉庫に引き渡される時」という表現が中心でしたが、2009年版では、輸送開始のために貨物が最初に動かされた時、または最終倉庫等で輸送用具から荷卸しが完了した時など、より実務に即した表現に整理されました。
これにより、貨物がどの時点から保険に入るのか、どの時点で保険が終わるのかを、実際の作業記録に基づいて確認することが重要になりました。
船社倒産免責の緩和
ICC2009では、船会社、管理者、用船者、運航者などの支払不能または金銭債務不履行による免責について、被保険者の認識が重視される方向で整理されました。
被保険者が、積込み時点でそのような支払不能や金銭債務不履行を知っていた、または通常の業務上知っているべきであった場合に、免責が問題になります。
また、善意の第三者として保険契約を譲り受けた者については、この免責がそのまま適用されない旨も整理されています。
梱包不十分免責の整理
ICC2009では、梱包または準備の不十分・不適切に関する免責も整理されました。
貨物は、通常の輸送中に生じる出来事に耐えられる程度に梱包・準備されている必要があります。ここでいう梱包には、コンテナ内の積付けも含まれます。
実務では、梱包や積付けを誰が行ったのか、保険の危険開始前だったのか後だったのか、被保険者またはその使用人が関与していたのかを確認します。
不堪航・不適合免責の整理
ICC2009では、本船の不堪航、艀の不堪航、コンテナや輸送用具の不適合に関する免責についても整理されました。
重要なのは、被保険者が不堪航または不適合を知っていたかどうか、誰が積込みを行ったか、保険の危険開始前か後かです。
これは、荷主、フォワーダー、NVOCC、Co-Loader、実運送人の責任分担を考えるうえでも重要です。
航海変更と保険の継続
ICC2009では、航海変更に関する表現も整理されました。
危険開始後に被保険者が仕向地を変更する場合には、遅滞なく保険者へ通知し、保険料率や保険条件について協定する必要があります。
一方で、被保険者やその使用人が知らないまま、本船が別の仕向地に向けて出帆した場合には、被保険者に不意打ち的な不利益が生じないよう整理されています。
実務では、仕向地変更、積替え、遅延、ルート変更、本船変更などが発生した場合に、保険者への通知が必要になることがあります。
シリーズ全体の読み方
ICC2009約款を実務で理解するには、本記事で全体像を確認したうえで、次の記事群を順に確認すると整理しやすくなります。
| 読む順番 | 記事 | 確認できること |
|---|---|---|
| 1 | ICC2009約款の変遷と改定概要 | ICC2009の背景、対象約款、全体像 |
| 2 | ICC2009約款の主な変更点 | ICC1982との違い、実務上の変更点、早見表 |
| 3 | ICC2009 危険担保条項の基本構造 | 補償される危険、ICC(A)(B)(C)の違い、共同海損、双方過失衝突条項 |
| 4 | ICC2009 保険期間条項の基本構造 | 保険始期、保険終期、通常の輸送過程、60日条項、仕向地変更 |
| 5 | ICC2009 保険金請求条項の基本構造 | 被保険利益、遡及付保、継搬費用、推定全損、委付、増値保険 |
| 6 | ICC2009 免責条項の基本構造 | 梱包不十分、貨物固有の性質、船社倒産、不堪航、不適合、戦争・ストライキ免責 |
| 7 | ICC2009 保険の利益条項 | 保険の利益、被保険利益、保険証券の譲渡、代位求償 |
| 8 | ICC2009 遅延回避・準拠法・通知義務 | 事故時の初動、保険者通知、英国法および英国実務、Claim Letter |
実際の貨物事故では、これらの記事を一つずつ独立して読むのではなく、事故原因、保険期間、免責、通知義務、B/L・NVOCC責任を横断して確認することが重要です。
貨物保険・B/L・NVOCC責任との関係
ICC2009の改定は、単なる保険約款の文言変更ではありません。
保険期間、梱包不十分、航海変更、不堪航、運送人倒産、テロリスクなどは、貨物事故が発生した場合に、貨物保険で支払われるのか、運送人やNVOCCに責任追及するのか、荷主側の手配や通知に問題があったのかを判断するうえで重要です。
そのため、ICC2009約款を読む際には、保険約款だけでなく、B/L裏面約款、House B/L約款、NVOCC約款、運送契約、インコタームズ、保険証券上の被保険者、被保険利益もあわせて確認する必要があります。
実務上確認すべきこと
ICC2009約款を確認する際は、次の点を押さえることが重要です。
- 適用されている約款がICC1982かICC2009か
- ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)のどの条件か
- 戦争危険、ストライキ危険、テロリスクの付帯状況はどうなっているか
- 保険期間の始期と終期はどこか
- 梱包、準備、積付けを誰が行ったか
- 船社倒産や支払不能の情報を誰が、いつ知っていたか
- 船舶、艀、コンテナ、輸送用具の不適合を誰が知っていたか
- 仕向地変更、運送打切り、積替えについて保険者へ通知したか
- B/L、House B/L、NVOCC約款、標準取引条件との関係を確認したか
ICC2009では、保険約款の文言だけでなく、事故時の事実関係、時系列、関係者の認識、通知の有無が重要になります。
よくある誤解
ICC2009はICC1982とはまったく別の約款であるという誤解
ICC2009は、ICC1982の基本構造を全面的に変えたものではありません。
基本的な枠組みを維持しつつ、実務上問題になりやすかった部分を明確化・整理した約款です。
ICC2009では補償範囲が大幅に広がったという誤解
ICC2009には被保険者保護の方向で整理された部分がありますが、すべての損害が補償されるようになったわけではありません。
免責条項、保険期間、通知義務、戦争・ストライキ危険の扱いは引き続き確認が必要です。
ICC(A)だけ確認すれば十分という誤解
ICC(A)は重要ですが、戦争危険、ストライキ危険、テロリスク、保険期間、免責条項、特約の確認も必要です。
特に戦争危険やストライキ危険は、通常のICC(A)(B)(C)だけでは足りない場合があります。
held coveredなら自動的に補償が続くという誤解
held coveredは、予定外の変更があっても無条件に補償が継続するという意味ではありません。
仕向地変更や運送打切りがある場合には、保険者への通知、追加保険料、条件協定が重要になります。
テロリスクは戦争危険と同じに考えればよいという誤解
テロリスク、戦争危険、ストライキ危険は、それぞれ保険上の扱いが異なります。
通常の貨物危険、戦争危険、ストライキ・テロ危険を分けて確認する必要があります。
ICC2009の確認は保険会社だけの仕事という誤解
ICC2009は、荷主、フォワーダー、NVOCC、通関業者、倉庫業者にも関係します。
事故時には、梱包、積付け、コンテナ状態、保険期間、通知時点、B/L条件、NVOCC責任が問題になるためです。
実務上の注意点
ICC2009は、ICC1982と比べて文言が平易化され、被保険者に有利な整理も含まれています。
ただし、すべての事故が自動的に保険で支払われるわけではありません。
特に、梱包不十分、通常輸送過程を外れた保管、通知遅れ、航海変更、保険期間外の事故、戦争・ストライキ・テロ危険の扱いは、実務上慎重に確認する必要があります。
また、貨物保険で補償されるかどうかと、B/L上の運送人責任、NVOCC責任、フォワーダー責任、倉庫業者責任は別の問題です。保険約款と運送契約を分けて確認することが重要です。
まとめ
ICC2009約款とは、外航貨物海上保険で使用される協会貨物約款について、ICC1982を基礎に改定された2009年版の約款群です。
ICC2009は、ICC1982の基本構造を全面的に変えたものではなく、国際輸送実務で問題になりやすかった保険期間、梱包不十分、船社倒産、不堪航・不適合、航海変更、テロリスク、通知義務などを整理したものです。
本記事は、ICC2009約款解説シリーズの入口記事です。まず本記事で全体像を確認し、そのうえで「主な変更点」記事、危険担保条項、保険期間条項、保険金請求条項、免責条項、保険の利益条項、遅延回避・準拠法・通知義務の記事を確認すると、ICC2009約款の実務上の位置づけを体系的に理解できます。

ICC2009約款の主な変更点