Loss of Marketとは|輸入拒否・遅延・販売機会喪失と貨物保険
Loss of Marketとは
Loss of Marketとは、貨物を当初予定していた市場、時期、価格又は販売先で販売できなくなったことによって生じる商業上の損失をいいます。
輸入拒否、通関遅延、検疫停止、輸送遅延、販売シーズンの逸失、買主の受取拒否、市場価格の下落等により、貨物が物理的には存在し、品質にも異常がないにもかかわらず、予定どおり販売できなくなることがあります。
Loss of Marketの中心は、「貨物そのものが壊れたこと」ではなく、「貨物を予定どおり売れなくなったこと」です。
そのため、貨物自体の滅失・損傷、輸入拒否によって失われた貨物価額、廃棄・消毒・返送等の追加費用とは、損害の性質を分けて整理する必要があります。
通常の貨物保険では、貨物の物的損害ではなく、遅延、市場変動、販売先喪失又は予定利益の逸失を原因とするLoss of Marketは、対象外又は重大な争点になりやすい損害です。
この記事で扱う範囲
| 項目 | この記事で扱う内容 | 別に確認すべき内容 |
|---|---|---|
| Loss of Market | 販売時期逸失、市場価格下落、買主キャンセル及び再販売価格低下による商業損失 | 個別特約、遅延保険、売買契約及び損害算定方法 |
| 貨物の物的損害 | 水濡れ、破損、盗難、温度逸脱等による貨物自体の損害との区別 | 担保危険、免責事由、近因、サーベイ及び損害査定 |
| ICC 2009 Clause 4.5 | 遅延によって生じた損害・費用に関する免責との関係 | 実際に適用されるICCの版、個別約款及び特約による変更 |
| Rejection Insurance | 政府・行政当局による輸入拒否によって貨物価額が問題となる場面との違い | 対象国、対象品目、拒否原因、当局命令及び約款上の担保範囲 |
| Rejection Expenses | 輸入拒否後の消毒、燻蒸、検査、廃棄、保管、再輸出等の費用との違い | 対象費用、必要性、事前承認、限度額及び免責金額 |
| Ship Back Expenses | 貨物を輸出国又は第三国へ返送・再輸出する費用との違い | 返送先、再輸出手続、運賃、通関費及び付保条件 |
| Sue and Labour | 回収可能な貨物損害を防止・軽減するための合理的費用とLoss of Marketとの区別 | 費用の必要性、保険会社への通知、対象損害及び約款文言 |
| 買主の受取拒否 | 当局による輸入拒否と、買主都合による商業上の受取拒否との区別 | 売買契約、品質条件、支払条件、契約解除及び損害賠償 |
| 食品・季節商品 | 賞味期限、需要期、鮮度、市場価格及び販売期限による影響 | Decay and Deterioration、温度条件、規制及び個別引受 |
| フォワーダー実務 | 貨物損害、輸入拒否費用及び販売損失を区分して資料を整理する方法 | 保険金支払判断、売買契約責任及び運送人責任の最終判断 |
Loss of Marketで問題になる損失
Loss of Marketで問題になるのは、貨物そのものの物理的な滅失・損傷ではなく、販売環境、需要、市場価格、販売時期又は買主との取引関係が変化したことによる損失です。
代表的な損失には、次のものがあります。
- 販売シーズンを逃したことによる値下げ損
- 季節商品として販売できなくなったことによる在庫損
- 市場価格又は相場の下落による差額損
- 予定していた買主が受取りを拒否したことによる損失
- 別の買主又は別市場へ安く再販売したことによる差額損
- 当初予定していた販売利益又は契約利益の喪失
- 販売先を失ったことに伴う追加営業費用
- ブランド価値又は信用の低下による将来損失
- 催事、展示会、キャンペーン又は販売開始日に間に合わなかった損失
これらは、貨物の物的状態ではなく、貨物を取り巻く商業条件の変化によって生じる損失です。
貨物損害とLoss of Marketの違い
| 状況 | 貨物損害としての見方 | Loss of Marketとしての見方 | 主な確認資料 |
|---|---|---|---|
| 貨物が水濡れ又は破損した。 | 貨物自体の物的損害として検討する。 | 物的損害による販売価格低下か、市場事情による値下げかを分ける。 | 写真、サーベイレポート、修理・処分見積 |
| 貨物は無傷だが到着が遅れた。 | 物的損害がなければ、通常は貨物損害とは評価しにくい。 | 販売時期逸失、買主キャンセル又は市場下落の問題となる。 | 運送記録、到着日、売買契約、キャンセル通知 |
| 輸入後に市場相場が下落した。 | 貨物自体の品質又は数量に異常がなければ物的損害とは別である。 | 市場価格変動による商業損失となりやすい。 | 市場価格資料、販売契約、再販売記録 |
| 買主が受取りを拒否した。 | 品質損傷が理由であれば、物的損害の有無を確認する。 | 納期、価格又は買主の経営事情が理由なら商業リスクとなりやすい。 | 拒否通知、検査結果、売買契約 |
| 賞味期限の残存期間が短くなった。 | 腐敗、変質又は品質劣化が生じているか確認する。 | 品質は正常でも販売条件が悪化した場合はLoss of Marketとなり得る。 | 品質検査、賞味期限、販売基準、温度記録 |
| 貨物が規格不適合で廃棄された。 | 輸送中の担保事故による品質変化か確認する。 | 市場を失ったことではなく、輸入拒否又は契約不適合が中心となる場合がある。 | 当局命令、試験結果、製造記録、保険条件 |
同じ案件の中に、貨物損害とLoss of Marketが併存することもあります。
例えば、輸送中の水濡れによって商品の一部が汚損し、残りの無傷の商品についても販売キャンペーンに間に合わなかった場合、汚損部分の貨物損害と、キャンペーン逸失による商業損失を分けて査定します。
ICC 2009 Clause 4.5と遅延免責
ICC 2009のInstitute Cargo Clauses (A) Clause 4.5では、遅延によって生じた損害又は費用は、その遅延が保険で担保される危険によって生じた場合であっても、原則として免責とされています。ただし、Clause 2の共同海損及び救助料に関する費用は別に扱われます。
この遅延免責は、Loss of Marketを考えるうえで重要です。
例えば、船舶事故が保険上の担保危険であっても、その事故により到着が遅れ、販売シーズンを逃したことだけを理由とする利益減少又は相場下落は、船舶事故があったという事実だけで貨物保険の対象になるとは限りません。
| 損害の近因 | 典型的な損害 | 基本的な整理 | 確認事項 |
|---|---|---|---|
| 衝突、転倒、水濡れ等の担保危険 | 破損、濡損、数量不足、品質劣化 | 貨物の物的損害として検討する。 | 事故と損傷との因果関係 |
| 遅延 | 販売時期逸失、市場下落、買主キャンセル | Clause 4.5の遅延免責との関係を確認する。 | 実際の適用約款、特約、損害の中心原因 |
| 輸送事故後の物的劣化 | 冷蔵設備停止による腐敗又は温度損害 | 単なる遅延か、独立した物的損害かを確認する。 | 温度記録、電源記録、品質検査 |
| 市場価格の変動 | 予定価格と実販売価格との差額 | 貨物自体の損傷がなければ市場リスクとなりやすい。 | 事故前後の市場価格、販売記録 |
実務では、「遅れたため売れなかった」という表現だけで判断せず、損害を実質的に生じさせた近因が、貨物の物的損傷なのか、遅延なのか、市場変動なのかを確認します。
なお、ICCの版、保険証券、個別特約及び引受条件によって条項番号や文言が異なる場合があります。
Rejection Insurance・Rejection Expenses・Ship Back Expensesとの違い
| 区分 | 主な対象 | 具体例 | Loss of Marketとの違い | 主な確認事項 |
|---|---|---|---|---|
| Rejection Insurance | 政府又は行政当局による輸入拒否によって貨物価額が失われる損害 | 当局命令によって輸入できず、貨物を廃棄又は返送する。 | 貨物価額に関する損失であり、販売利益や相場下落とは別である。 | 対象品目、拒否原因、当局命令、約款、限度額 |
| Rejection Expenses | 輸入拒否後に合理的に必要となる追加費用 | 検査、消毒、燻蒸、廃棄、保管、再輸出等 | 実際に支出する費用であり、販売機会喪失とは性質が異なる。 | 必要性、事前承認、請求書、費用限度 |
| Ship Back Expenses | 貨物を輸出国又は第三国へ返送・再輸出する費用 | 返送運賃、輸出通関費、保管費、国内輸送費 | 貨物の移動費用であり、値下げ損又は予定利益とは別である。 | 返送先、輸送手段、見積、保険会社の承認 |
| Loss of Market | 予定した市場、時期、価格又は買主を失った商業損失 | 相場下落、販売シーズン逸失、買主キャンセル、予定利益喪失 | 貨物価額又は追加実費ではなく、販売上の不利益である。 | 物的損害の有無、遅延、売買契約、市場価格 |
Rejection Insuranceが付帯されていても、販売利益、予定利益、市場価格下落又は販売時期逸失まで当然に補償されるわけではありません。
同様に、Rejection Expenses又はShip Back Expensesが認められる場合でも、再販売価格の低下や買主キャンセルによるLoss of Marketは別に判断されます。
当局による輸入拒否と買主の受取拒否
| 区分 | 拒否する主体 | 典型的な理由 | 保険実務上の見方 |
|---|---|---|---|
| 当局による輸入拒否 | 税関、検疫所、食品・医薬品等の監督当局 | 検疫違反、成分基準、表示不備、衛生基準、輸入許可不足 | Rejection Insurance又はRejection Expensesの付帯内容を確認する。 |
| 買主都合の受取拒否 | 輸入者、買主、販売先 | 相場下落、資金不足、販売先喪失、納期遅れ、契約解除 | 売買契約上の商業リスク又はLoss of Marketとなりやすい。 |
| 品質条件をめぐる拒否 | 買主、検査会社、販売先 | 仕様不一致、品質不良、契約基準未達 | 物的損害、契約不適合及び買主クレームを分ける。 |
| 当局検査中の保留 | 税関、検疫所、監督当局 | 検査、分析、追加資料待ち | 正式な輸入拒否か、単なる手続保留かを確認する。 |
買主が貨物を受け取らないという事実だけで、Rejection Insuranceの対象となる輸入拒否とはいえません。
拒否した主体、拒否理由、正式な命令の有無及び売買契約上の責任を確認します。
Sue and LabourとLoss of Marketの関係
ICC 2009 Clause 16では、被保険者、その従業員及び代理人に対し、保険で回収可能な損害を防止又は軽減するために合理的な措置を講じ、運送人、受寄者その他の第三者に対する権利を適切に保全・行使することを求めています。
これらの義務に従って適切かつ合理的に支出された費用は、約款条件に従い検討されることがあります。
ただし、Sue and Labourは、もともと免責となるLoss of Marketそのものを補償対象へ変更する制度ではありません。
| 措置・費用 | Sue and Labourとして検討され得る場面 | Loss of Marketとの区別 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 冷蔵倉庫への緊急移送 | 貨物の腐敗又は温度損害を防止するために必要である。 | 貨物の物的損害軽減を目的とする。 | 必要性、緊急性、費用の合理性を確認する。 |
| 燻蒸・消毒 | 担保対象となり得る貨物損害又は輸入拒否後の損失を軽減する。 | 販売価格の下落自体を補償するものではない。 | Rejection Expensesの特約との関係を確認する。 |
| 貨物の選別・再梱包 | 損傷貨物と無傷貨物を分け、損害拡大を防ぐ。 | 再販売価格差額とは別に整理する。 | 作業記録と選別結果を保存する。 |
| 新たな買主を探す営業費用 | 通常は販売上の商業対応である。 | Loss of Market又は販売活動費用となりやすい。 | Sue and Labourとして当然に認められるものではない。 |
| 値下げ販売 | 損傷貨物の残存価値を確保する目的で行う場合がある。 | 市場下落だけを理由とする値下げとは区別する。 | 保険会社の承認、損傷との因果関係を確認する。 |
| 運送人へのクレーム通知 | 第三者に対する求償権を保全する。 | Loss of Marketの補償可否とは別問題である。 | 通知期限、証拠、時効・出訴期限を確認する。 |
Marine Insurance Act 1906上も、保険証券にSue and Labour Clauseがある場合、その約定は保険契約に付随するものとして扱われます。
実際の費用回収可否は、対象となる損害が保険上回収可能な損害であるか、措置が合理的であったか、事前又は早期に保険会社へ相談したかによって判断されます。
遅延損害・食品貨物・季節商品で問題になりやすい理由
食品、農水産物、冷凍冷蔵貨物、季節商品、催事商品及びキャンペーン商品は、販売可能な期間が限定されるため、Loss of Marketが大きくなりやすい貨物です。
貨物が物理的に正常でも、数日又は数週間の遅延により、次の問題が生じることがあります。
- 需要期又は販売シーズンを過ぎる。
- 賞味期限の残存期間が販売先の基準を下回る。
- 買主が別の供給者から代替品を購入する。
- 市場への供給量が増え、相場が下落する。
- 催事、展示会又はキャンペーンが終了する。
- 小売店が棚又は販売枠を別商品へ割り当てる。
これらの事情による販売損失は重大であっても、貨物自体の物的損害とは限りません。
補償されにくい典型的なケース
| ケース | 主な原因 | 確認資料 | 判断のポイント | 初動対応 |
|---|---|---|---|---|
| 通関遅延中に市場価格が下落した。 | 検査、書類不備、審査長期化、市場変動 | 通関記録、市場価格資料、売買契約 | 貨物の物的損害か、相場下落だけか | 貨物状態と価格変動を分けて記録する。 |
| クリスマス商品が販売時期後に到着した。 | 本船遅延、港湾混雑、積替遅延 | 運送日程、販売計画、到着記録 | 遅延による販売機会喪失か | 買主通知と代替販売の記録を保存する。 |
| 検疫保留中に賞味期限の残存期間が短くなった。 | 検査長期化、分析結果待ち | 検疫通知、賞味期限、品質検査 | 品質劣化か、販売条件悪化だけか | 温度・品質状態を継続確認する。 |
| 買主が相場下落を理由に受取りを拒否した。 | 市場価格低下、契約条件、買主都合 | 拒否通知、市場価格、売買契約 | 当局拒否か商業上の契約問題か | 拒否理由を文書で取得する。 |
| 輸入拒否後、第三国へ安く再販売した。 | 規制不適合、当局命令、代替市場不足 | 当局書面、再販売契約、費用明細 | 貨物価額、返送費用、値下げ損を分けられるか | 処分・再販売前に保険会社へ相談する。 |
| 冷凍食品は正常だが主要販売先を失った。 | 長期滞留、納期超過、販売先の代替調達 | 温度記録、品質検査、キャンセル通知 | 物的損害がないLoss of Marketか | 品質資料と商業損失資料を分ける。 |
| 展示会貨物が展示会終了後に到着した。 | 航空便欠航、書類不備、通関遅延 | 展示会日程、運送記録、貨物状態 | 展示機会喪失は貨物損害か | 返送・保管・別用途の費用を整理する。 |
| 値下げ販売のため追加広告費が生じた。 | 当初買主のキャンセル、販売時期逸失 | 広告費、販売記録、価格資料 | 損害軽減費用か通常の営業費用か | 費用支出前に目的と必要性を記録する。 |
Practical Example 1 青果物が検疫で輸入拒否された場合
日本から台湾へ輸出された果物8,000,000円相当について、現地検疫で対象害虫が発見され、輸入当局から返送又は廃棄を求められたとします。
返送費用は1,200,000円、現地保管・検査費用は500,000円でした。返送後に別市場で販売できましたが、販売シーズンを過ぎたため、当初予定価格より3,000,000円低い価格となりました。
この場合、貨物価額の損失についてはRejection Insuranceの付帯内容、検査・保管・返送費用についてはRejection Expenses又はShip Back Expensesの条件を確認します。
一方、販売シーズンを過ぎたことによる3,000,000円の値下げ差額は、Loss of Marketとして別に整理します。
輸入拒否に関する特約があっても、値下げ差額まで当然に補償されるわけではありません。
Practical Example 2 冷凍水産物が通関で長期滞留した場合
ベトナムから日本へ輸入された冷凍水産物20,000,000円相当が、成分検査のため港頭冷蔵庫で20日間保留されたとします。
保管中の温度記録及び品質検査には異常がなく、貨物自体は販売可能でした。しかし、当初買主は納期超過を理由に契約を解除し、別の買主への販売価格は4,000,000円低下しました。
冷蔵保管費用については、輸入拒否費用特約、通常の保管費又は荷主負担のいずれとなるかを確認します。
貨物に温度損害又は品質劣化が認められない場合、4,000,000円の再販売価格差額は、物的貨物損害ではなくLoss of Marketとなる可能性が高くなります。
検査保留という行政手続と、正式な輸入拒否命令も区別する必要があります。
Practical Example 3 季節商品が需要期後に到着した場合
中国から日本へ輸入したクリスマス装飾品12,000,000円相当が、積替港の混雑と本船遅延により、予定より18日遅れて12月27日に到着したとします。
貨物には破損、濡損又は数量不足はありませんでしたが、主要な販売時期は終了しており、翌年用の在庫又は処分価格で販売することになりました。
この損失の中心原因は、貨物の物的損害ではなく、遅延による販売時期の逸失です。
船舶事故又は港湾事故が遅延の原因であった場合でも、販売時期逸失による値下げ損は、ICC 2009 Clause 4.5の遅延免責との関係を確認する必要があります。
売買契約上の納期条件、買主のキャンセル権及び船積前に特別な遅延手配を行っていたかも確認します。
Practical Example 4 食品当局の廃棄命令と予定利益が併存する場合
日本へ輸入された健康食品15,000,000円相当について、食品当局が使用成分の規制違反を認定し、廃棄命令を出したとします。
廃棄・保管費用として1,500,000円が発生し、荷主は当初販売によって得る予定であった利益6,000,000円も請求したいと考えました。
貨物価額15,000,000円については、Rejection Insuranceが付帯され、かつ当該拒否原因が担保されているかを確認します。
廃棄・保管費用1,500,000円については、Rejection Expensesの対象費用、承認手続及び限度額を確認します。
予定利益6,000,000円は、貨物価額又は廃棄費用とは異なる商業上の期待利益であり、Loss of Marketとして別に判断します。
遅延保険・特別手配との関係
Loss of Market又は遅延による商業損失は、通常の貨物保険では補償が困難な場合が多くあります。
ただし、貨物、契約及びプロジェクトの性質によっては、通常の貨物保険とは別に、遅延、事業中断又は特定の販売機会逸失に関する個別手配を検討できる場合があります。
検討対象となりやすいものには、次の貨物があります。
- 展示会又はイベント開催日に間に合う必要がある貨物
- 季節性が強く販売可能期間が短い商品
- 納期遅延によって大きな違約金が発生するプロジェクト貨物
- 特定の設備完成日に依存する機械・プラント貨物
- 市場価格の変動が大きい農水産物又は商品貨物
特別手配は、すべての貨物に一般的に付帯できるものではありません。対象事故、待機期間、免責期間、損害算定方法、限度額、保険料及び必要資料を個別に確認します。
フォワーダーの関与範囲
本記事で使用する五分類は、法令又は業界全体で確立された分類ではありません。本シリーズにおいて、Loss of Market、輸入拒否及び関連費用に対するフォワーダーの関与範囲を整理するための分析上の枠組みです。
| 標準五分類 | Loss of Marketに関する主な関与 | 主な確認資料 | 責任範囲を判断する際の注意点 |
|---|---|---|---|
| Simple Intermediary(単純取次) | 輸入拒否、検疫保留、運送遅延及び保険会社の案内を関係者へ伝達する。 | 通知メール、取次記録、依頼内容 | 情報を取り次いだだけで、販売損失又は保険金支払を保証するものではありません。 |
| Cargo Transportation Service Provider(貨物利用運送事業者) | 貨物輸送、保管、返送又は第三国向け再輸送を手配する。 | 運送契約、見積書、配送・返送指示 | 受託した輸送区間と遅延発生区間を確認します。 |
| NVOCC / House B/L Issuer | House B/Lを発行し、運送契約上の遅延通知、返送又は運送人求償を整理する。 | House B/L、約款、運送通知、事故記録 | 運送人責任と貨物保険上のLoss of Market免責は別に判断します。 |
| Door-to-Door Single Contractor | 輸送、通関、納品、保管及び返送を一体的に手配する。 | 一貫輸送契約、業務範囲、下請手配 | 一体手配であっても、予定利益や市場価格下落まで無制限に負担するものではありません。 |
| Agent/Coordinator for Specific Operations(特定業務の代理・調整者) | 検疫対応、検査、廃棄、保管、返送、サーベイ又は保険通知を個別に調整する。 | 個別委任、作業依頼、調整記録 | 委任範囲を超えて、補償可否又は処分権限を決定することはできません。 |
Contracting Carrier及びActual Carrierは、運送人責任に関する法的又は契約上の地位を示す概念であり、本記事の標準五分類を置き換える分類ではありません。
また、通関、検疫対応、保管、燻蒸、廃棄、返送、再輸出、サーベイ及び販売調整等の実作業は、それ自体で第六の分類を構成するものではありません。誰のために、どの契約上の立場で、どこまで受託したかを確認します。
よくある誤解
| よくある誤解 | 実際の考え方 | 実務上の対応 |
|---|---|---|
| 輸入拒否になれば貨物保険から必ず支払われる。 | 輸入拒否の原因、当局命令、付帯約款及び対象損害によって異なります。 | 貨物価額、追加費用及び販売損失を分けます。 |
| 遅延による損害も貨物損害と同じである。 | 貨物の物的損害と、遅延による販売機会喪失は別です。 | 物的損害の有無と近因を先に確認します。 |
| Rejection Insuranceがあれば販売利益も補償される。 | 輸入拒否による貨物価額と、販売利益・相場下落は別の損害です。 | Loss of Marketの担保有無を個別に確認します。 |
| Rejection Expensesで値下げ損も回収できる。 | Rejection Expensesは実際に発生した検査、消毒、廃棄、返送等の費用が中心です。 | 費用損害と販売価格差額を分けます。 |
| 買主の受取拒否は当局の輸入拒否と同じである。 | 買主都合の拒否と行政当局による拒否は異なります。 | 拒否主体、理由及び正式書面を確認します。 |
| 相場下落は貨物価額の損害である。 | 貨物に物的損傷がなければ、市場価格変動による商業損失となりやすいです。 | 損傷による減価と市場下落を分けます。 |
| 担保危険が遅延を起こしたなら販売損失も補償される。 | ICC 2009 Clause 4.5では、担保危険による遅延であっても遅延損害が免責となる場合があります。 | 適用約款と損害の近因を確認します。 |
| Sue and Labourなら販売損失も補償される。 | Sue and Labourは回収可能な貨物損害の防止・軽減措置に関する制度です。 | 措置の対象となる損害と費用の目的を確認します。 |
| 値下げ販売をすれば差額は必ず保険請求できる。 | 損傷貨物の残存価値確保か、単なる市場対応かによって異なります。 | 値下げ理由と保険会社の承認を記録します。 |
| フォワーダーが保険対象外と判断できる。 | 最終的な補償判断は保険会社が約款と事実関係に基づいて行います。 | 損害の種類を整理し、保険会社又は保険代理店へ確認します。 |
判断チェックリスト
| 確認場面 | 確認する相手 | 確認事項 | 問題がある場合の対応 |
|---|---|---|---|
| トラブル発覚時 | 貨物所有者、倉庫、フォワーダー、サーベイヤー | 貨物に破損、劣化、数量不足又は温度異常があるか | 写真、検査、温度記録及びサーベイを確保します。 |
| 輸入拒否確認時 | 税関、検疫所、輸入者、通関業者 | 正式な拒否命令か、検査保留又は追加資料要求か | 当局書面、検査結果及び法的根拠を取得します。 |
| 拒否原因確認時 | 当局、輸入者、製造者、通関業者 | 表示、成分、衛生、検疫、書類又は輸入許可の問題か | 保険約款上の担保原因と照合します。 |
| 費用発生時 | 倉庫、通関業者、処分業者、フォワーダー | 検査、保管、消毒、廃棄、返送、再輸出のどの費用か | 事前承認と費用見積を確認します。 |
| 販売不能発生時 | 貨物所有者、買主、販売部門 | 販売時期逸失、相場下落、買主キャンセル又は価格低下か | Loss of Marketとして別の損害明細を作ります。 |
| 遅延確認時 | 船会社、航空会社、フォワーダー、倉庫 | 遅延の原因、期間及び遅延中の物的損害の有無 | 遅延損害と貨物損害を分けます。 |
| 損害軽減時 | 貨物所有者、保険会社、サーベイヤー | 移送、選別、再梱包、処分又は再販売の必要性 | Sue and Labour又は残存物処分として承認を確認します。 |
| 保険条件確認時 | 保険会社、保険代理店 | ICC Clause 4.5、Rejection Insurance、Rejection Expenses、Ship Back Expenses | 対象損害、限度額、免責及び通知条件を確認します。 |
| 買主拒否確認時 | 買主、貨物所有者、商社 | 当局拒否か、納期・価格・資金事情による買主都合か | 売買契約上の責任と保険損害を分けます。 |
| 運送人求償時 | フォワーダー、船会社、航空会社、運送会社 | 遅延又は損傷に関する運送人責任、通知期限、責任制限 | 保険請求と運送人クレームを並行して整理します。 |
| 荷主説明時 | 貨物所有者、保険代理店、フォワーダー | 貨物損害、追加費用、返送費用及びLoss of Marketの区分 | 一括請求せず、損害種類別に説明します。 |
確認すべき資料
| 資料 | 確認できること | 実務上の目的 |
|---|---|---|
| 当局の輸入拒否通知・命令書 | 拒否主体、理由、日付、廃棄・返送命令 | 正式な輸入拒否の事実を確認します。 |
| 検査結果・分析報告書 | 成分、衛生、検疫、品質又は表示の問題 | 拒否原因と貨物状態を確認します。 |
| 貨物写真・サーベイレポート | 物的損傷、品質、数量及び梱包状態 | 貨物損害とLoss of Marketを区別します。 |
| 温度記録・品質検査 | 冷凍冷蔵貨物の温度逸脱及び品質状態 | 物的劣化の有無を確認します。 |
| 運送記録 | 予定日、実到着日、遅延期間及び原因 | 遅延損害と事故原因を整理します。 |
| 売買契約・注文書 | 価格、納期、買主、解除条件、品質条件 | 商業損失と契約責任を確認します。 |
| 買主の受取拒否・キャンセル通知 | 拒否理由、通知日、買主の主張 | 当局拒否と買主都合を区別します。 |
| 市場価格資料 | 事故前後の相場及び再販売価格 | 市場下落と物的損傷による減価を分けます。 |
| 再販売契約・処分記録 | 実販売価格、販売先、残存価値 | 値下げ理由と損害額を確認します。 |
| 保管・検査・廃棄費用明細 | 輸入拒否後に発生した実費 | Rejection Expensesの検討資料とします。 |
| 返送・再輸出見積 | 返送運賃、通関費、保管費、国内輸送費 | Ship Back Expensesの必要性を確認します。 |
| 保険証券・適用約款 | ICC、Rejection関連特約、限度額、免責及び通知条件 | 損害種類ごとの補償可能性を確認します。 |
| 損害軽減措置の記録 | 選別、再梱包、冷蔵移送、再販売等の経緯 | Sue and Labour又は残存価値確保との関係を確認します。 |
船積前に確認すべきこと
Loss of Marketが重大なリスクとなる貨物では、事故発生後に補償可否を確認するだけでは不十分です。
船積前に、次の事項を確認します。
- 通常の貨物保険で補償される物的損害の範囲
- ICC等の遅延免責の内容
- Rejection Insuranceの対象国、対象品目及び対象原因
- Rejection Expenses及びShip Back Expensesの対象費用
- 特別な遅延補償又は事業中断手配の可否
- 輸入規制、検疫、成分、表示及び衛生基準
- 販売期限、賞味期限及び需要期までの輸送余裕
- 買主との契約における遅延・輸入拒否時の責任分担
- 代替販売先、返送先及び廃棄手順
- 事故時の保険会社、サーベイヤー及び現地代理店への連絡方法
Loss of Marketは、保険だけで管理できるリスクではありません。売買契約、輸入規制、物流日程、在庫計画及び代替販売計画を含めて管理する必要があります。
実務上のポイント
Loss of Marketとは、輸入拒否、遅延、市場価格下落、買主キャンセル又は販売時期逸失により、貨物を予定どおり販売できなくなった商業損失です。
貨物自体に破損、劣化又は数量不足がある場合は貨物損害として検討し、物的損害がなく販売条件だけが悪化した場合はLoss of Marketとして分けて整理します。
ICC 2009 Clause 4.5では、遅延によって生じる損害又は費用が免責となるため、担保危険が遅延の原因であったとしても、販売シーズン逸失又は市場価格下落まで当然に補償されるとは限りません。
輸入拒否案件では、Rejection Insurance、Rejection Expenses、Ship Back Expenses及びLoss of Marketを一括して扱わず、それぞれ貨物価額、追加実費、返送費用及び商業損失に区分します。
Sue and Labourとして合理的な損害軽減費用が検討される場合でも、対象となるのは回収可能な貨物損害を防止・軽減するための費用です。Loss of Marketそのものが補償対象へ変わるわけではありません。
フォワーダーは保険金支払の可否を決定する立場ではありません。当局書面、貨物状態、発生費用、販売不能の理由、買主拒否理由及び遅延経緯を分けて整理し、貨物所有者へ保険会社又は保険代理店への確認を促します。
まとめ
Loss of Marketは、貨物を予定した市場、価格、時期又は販売先で販売できなくなったことによる商業損失です。
貨物そのものの破損、濡損、盗難、温度損害及び数量不足とは異なり、貨物が物理的に正常な状態でも発生します。
輸入拒否案件では、貨物価額に関するRejection Insurance、追加費用に関するRejection Expenses、返送費用に関するShip Back Expenses及び販売機会喪失に関するLoss of Marketを分けて確認します。
ICC 2009 Clause 4.5では、遅延によって生じた損害又は費用が原則として免責となるため、到着遅延による相場下落、販売時期逸失及び買主キャンセルは、通常の貨物保険では補償が困難となる場合があります。
一方、輸送中の担保事故によって貨物に物的損傷又は品質劣化が生じた場合は、その物的損害をLoss of Marketと分けて検討します。
ICC 2009 Clause 16に基づく損害軽減措置及び第三者への権利保全も重要ですが、Sue and LabourはLoss of Market自体を補償する制度ではありません。
食品、冷凍冷蔵貨物、青果物、水産物、季節商品、展示会貨物及びキャンペーン商品では、船積前に遅延免責、輸入拒否特約、販売期限及び代替計画を確認することが重要です。
本記事はLoss of Market、Rejection Insurance、Rejection Expenses、Ship Back Expenses及びSue and Labourに関する一般的な実務を解説するものであり、個別事故における保険金支払、損害額、輸入拒否の補償、運送人責任又は売買契約上の責任を断定するものではありません。
実際の判断は、保険証券、適用約款、特約、当局書面、検査結果、売買契約、運送記録、貨物状態及び個別の事実関係を確認したうえで、保険会社又は保険代理店へ相談してください。
