英国海上保険法における分損・単独海損・共同海損
英国海上保険法における分損とは
英国海上保険法における分損とは、全損に至らない損害をいいます。
外航貨物海上保険では、貨物が完全に滅失した場合だけでなく、一部破損、濡損、汚損、数量不足、変形、外装破損、修理可能な損傷などが問題になります。これらは、全損ではなく分損として処理されることがあります。
MIA1906第64条から第66条では、分損の中でも、単独海損、救助料、共同海損について整理されています。貨物事故の損害処理では、これらを区別して理解することが重要です。
単独海損とは
単独海損とは、保険で担保される危険によって生じた、保険対象物の分損であり、共同海損ではない損害をいいます。
外航貨物海上保険では、特定の貨物だけが濡れた、破損した、汚損した、数量不足となった、外装が破れた、といった場合に、単独海損として問題になることがあります。
単独海損は、共同の航海全体を救うための犠牲や費用ではなく、個別の保険対象物に発生した部分的な損害です。
単独海損と共同海損の違い
単独海損と共同海損の違いは、その損害が個別の貨物や保険対象に発生した損害か、それとも共同の海上冒険を救うために意図的・合理的に発生させた犠牲または費用かという点にあります。
例えば、ある貨物だけが荷役中に落下して破損した場合は、通常は単独海損として整理されます。
一方で、船舶と積荷全体を救うために一部貨物を投棄した場合や、共同の安全のために特別な費用を支出した場合には、共同海損として問題になることがあります。
Particular Chargesとは
MIA1906第64条では、被保険者または被保険者のために、保険対象物の安全または保存のために支出された費用で、共同海損および救助料に該当しないものをParticular Chargesとしています。
Particular Chargesは、単独海損そのものには含まれません。
この点は実務上重要です。貨物の損害額と、貨物を保全するために支出した費用は、保険上の扱いが異なることがあります。
貨物保全費用の実務上の意味
貨物事故では、損害拡大を防ぐために、検品、再梱包、乾燥、仕分け、一時保管、転送、廃棄準備、残存物の保全などの費用が発生することがあります。
これらの費用がすべて当然に単独海損として扱われるわけではありません。費用の性質、発生原因、保険条件、共同海損や救助料との関係を確認する必要があります。
実務では、貨物そのものの損害額と、損害防止・軽減のための費用を分けて整理することが重要です。
救助料とは
MIA1906第65条では、保険で担保される危険による損害を防ぐために発生した救助料について、保険上回収できるものと整理されています。
救助料とは、海事法上、契約とは独立して救助者が回収できる費用をいいます。
船舶事故、座礁、火災、沈没危険、漂流、航行不能などの場面では、船舶や積荷を救助するためにサルベージ作業が行われることがあります。この場合、救助料が発生することがあります。
救助料と損害防止費用の違い
MIA1906第65条では、被保険者、被保険者の代理人、または被保険者に雇われた者が、保険で担保される危険を避けるために行った救助的な作業費用は、救助料には含まれないとされています。
そのような費用は、発生状況に応じて、Particular Chargesまたは共同海損損害として回収されることがあります。
つまり、外部の救助者による海事法上の救助料と、被保険者側が貨物を守るために支出した費用は、区別して整理する必要があります。
共同海損とは
共同海損とは、共同の海上冒険に属する船舶・貨物・運賃などを危険から救うために、非常時に、任意かつ合理的に行われた特別な犠牲または支出をいいます。
MIA1906第66条では、共同海損損害は、共同海損行為により、またはその直接の結果として発生した損害であり、共同海損費用と共同海損犠牲を含むとされています。
共同海損は、単に貨物に損害が発生したというだけでは成立しません。共同の危険があり、その危険から全体を救うために、特別な犠牲または費用が任意かつ合理的に発生していることが必要です。
共同海損行為とは
共同海損行為とは、危険時に、共同の海上冒険に属する財産を守るために、特別な犠牲または費用が任意かつ合理的に行われることをいいます。
例えば、船舶と積荷を救うために一部貨物を投棄する場合、座礁船を離礁させるために特別な費用を支出する場合、安全港へ避難するために追加費用が発生する場合などが問題になります。
共同海損では、誰か一人の損害ではなく、船舶・貨物・運賃などの関係者全体で、その犠牲や費用を分担する考え方が基礎になります。
共同海損犠牲と共同海損費用
共同海損には、大きく共同海損犠牲と共同海損費用があります。
共同海損犠牲とは、共同の安全のために一部の財産を犠牲にすることです。例えば、船舶全体を救うために一部貨物を投棄した場合などが考えられます。
共同海損費用とは、共同の安全のために特別に支出された費用です。救助費用、避難港費用、再積込み費用、特別な荷役費用などが問題になることがあります。
共同海損分担金とは
共同海損が成立する場合、損害または費用を負担した者は、海事法上の条件に従い、他の利害関係者から割合に応じた分担を受ける権利を有します。
この分担額を共同海損分担金といいます。
外航貨物海上保険では、貨物の所有者や荷受人が、共同海損分担金の支払いを求められることがあります。この場合、貨物保険が共同海損分担金をどの範囲でカバーするかが重要になります。
共同海損と保険者の責任
MIA1906第66条では、被保険者が共同海損費用を負担した場合、保険証券に別段の定めがない限り、そのうち被保険者に帰属する部分について保険者から回収できるとされています。
また、共同海損犠牲の場合には、被保険者は、他の分担義務者から共同海損分担金を先に回収していなくても、保険者からその損害について回収できるとされています。
さらに、被保険者が保険対象について共同海損分担金を支払った場合、または支払う義務を負った場合にも、保険者から回収できることがあります。
担保危険との関係
MIA1906第66条では、明示の定めがない限り、共同海損損害または共同海損分担金が、担保危険を避けるため、またはその回避に関連して発生したものでない場合、保険者は責任を負わないとされています。
つまり、共同海損であれば常に保険で支払われるというわけではありません。
共同海損が、保険で担保される危険と関係しているか、保険証券や協会貨物約款上どのように扱われるかを確認する必要があります。
船舶・運賃・貨物が同一所有者の場合
MIA1906第66条では、船舶、運賃、貨物の全部または一部が同一の被保険者に属する場合でも、共同海損損害や共同海損分担金については、それぞれ別々の所有者に属するものとして保険者の責任を判断するとされています。
これは、共同海損の分担関係を保険上適切に整理するための規定です。
実務上は、関係者の所有関係が複雑な場合でも、共同海損の負担関係を形式的に整理して判断する必要があります。
外航貨物海上保険での実務上の注意点
貨物事故が発生した場合には、その損害が単独海損なのか、共同海損なのか、救助料やParticular Chargesに関係するのかを整理する必要があります。
特に、船舶事故、座礁、火災、避難港入港、積替え、共同海損宣言、サルベージ費用、共同海損分担金の請求がある場合には、通常の貨物損害とは別に整理が必要です。
貨物保険で確認すべき事項は、事故原因、共同海損宣言の有無、サルベージ契約の有無、共同海損分担金の請求書、保証状、保険証券、協会貨物約款、共同海損精算書などです。
単独海損と共同海損を混同しない
実務では、貨物に損害があるとすぐに「保険事故」と考えがちですが、その損害が単独海損なのか、共同海損に関係するものなのかで処理が変わります。
単独海損は、個別の貨物に発生した分損です。
共同海損は、共同の危険から船舶・貨物・運賃を守るために発生した特別な犠牲または費用を、関係者で分担する制度です。
この違いを理解しておくことは、保険金請求、共同海損分担金の支払い、運送人・船会社とのやり取り、荷主への説明において重要です。
まとめ
MIA1906第64条から第66条は、分損、単独海損、Particular Charges、救助料、共同海損について整理する重要な条文です。
外航貨物海上保険では、貨物の一部損害だけでなく、救助料、共同海損費用、共同海損分担金が問題になることがあります。
特に、船舶事故や避難港入港、積替え、サルベージが関係する事故では、通常の貨物破損とは異なる処理が必要になります。
分損、単独海損、救助料、共同海損の違いを理解しておくことは、外航貨物海上保険の保険金請求実務において非常に重要です。
