英国海上保険法における全損・推定全損・委付

英国海上保険法における全損・分損とは

英国海上保険法における損害は、大きく全損と分損に分けられます。

全損とは、保険の対象が全部失われたと評価される損害をいいます。これに対し、全損に該当しない損害は分損として扱われます。

外航貨物海上保険では、貨物が完全に失われた場合だけでなく、損傷の程度、回復可能性、修理費用、転送費用、到着時価値などによって、全損か分損かが問題になることがあります。

現実全損と推定全損

MIA1906第56条では、全損には現実全損と推定全損があるとされています。

現実全損とは、保険の対象が実際に滅失し、または当初の種類の物として存在しなくなるほど損傷し、または被保険者が回復不能にその対象を奪われた場合をいいます。

推定全損とは、現実全損に至ることが避けがたいと考えられる場合や、現実全損を避けるために必要な費用が、保険対象の価額を超えるような場合に認められる考え方です。

全損担保と推定全損

MIA1906第56条では、保険証券に別段の意思が示されていない限り、全損を担保する保険は、現実全損だけでなく推定全損も含むとされています。

つまり、保険の対象が物理的に完全に失われていない場合でも、経済的・実務的に全損として扱うべき場合には、推定全損が問題になります。

貨物保険実務では、貨物の回収費用、修理費用、再梱包費用、転送費用、残存価額、売却処分価額などを確認し、分損として処理するのか、推定全損として扱うのかを検討することがあります。

全損請求と分損認定

MIA1906第56条では、被保険者が全損として請求した場合でも、証拠上は分損にすぎないと認められる場合には、保険証券に別段の定めがない限り、分損として回収できるとされています。

これは、請求時の主張が全損であっても、実際の損害評価に応じて分損として処理される余地があるということです。

外航貨物海上保険では、事故当初は全損と思われた貨物でも、検品、修理、再梱包、選別、売却処分により、一部価値が残ることがあります。その場合、最終的な損害額は分損として整理されることがあります。

識別不能貨物の扱い

MIA1906第56条では、貨物が現物として仕向地に到着しているものの、マークの消失その他の理由により識別できない場合、その損害は全損ではなく分損とされています。

これは、貨物自体が存在している以上、直ちに全損とは扱わないという考え方です。

実務では、貨物マークの消失、ラベル剥がれ、梱包破損、混載貨物の識別不能、ロット不明などが問題になることがあります。この場合、貨物の同一性、所有者、数量、品質、販売可能性を確認する必要があります。

現実全損とは

MIA1906第57条では、保険の対象が破壊された場合、または付保された当初の種類の物として存在しなくなるほど損傷した場合、または被保険者が回復不能に保険対象を奪われた場合に、現実全損があるとされています。

貨物でいえば、完全焼失、沈没による回収不能、貨物の性質を失うほどの重大損傷、盗難による回復不能などが問題になります。

現実全損の場合には、委付の通知は不要とされています。これは、保険の対象がすでに失われており、保険者に移転すべき残存利益がない、または委付を要しない状態だからです。

消息不明船と現実全損

MIA1906第58条では、航海に関係する船舶が消息不明となり、相当期間を経過しても消息が得られない場合には、現実全損が推定され得るとされています。

これは、船舶および積載貨物の所在や安全が確認できない場合に、一定期間経過後、現実全損として扱う考え方です。

現代では通信技術や追跡システムが発達していますが、船舶事故、沈没、戦争危険、拿捕、通信途絶などにより、船舶や貨物の状況が不明となる可能性はあります。

積替え・再積込みと保険の継続

MIA1906第59条では、担保危険によって航海が中間港または中間地点で中断され、船長が貨物を陸揚げし、再積込みし、または積替えて仕向地へ送ることが正当化される場合、保険者の責任はその間も継続するとされています。

外航貨物海上保険では、本船事故、港湾事情、航海中断、船舶故障、共同海損、救助、トランシップなどにより、貨物が予定外の中間地で陸揚げされることがあります。

このような場合でも、正当な事情に基づいて貨物を再積込みまたは積替えて仕向地に送るのであれば、保険が継続する可能性があります。

推定全損とは

MIA1906第60条では、保険の対象が現実全損になることが避けがたいと考えられる場合、または現実全損を避けるための費用が、その費用をかけた後の価額を超える場合に、推定全損が認められるとされています。

推定全損は、物理的にはまだ貨物や船舶が存在している場合でも、経済的・実務的に回復や修理を行う意味が乏しい場合に問題になります。

貨物保険では、損傷貨物を修理し、再梱包し、仕向地へ転送する費用が、到着時の貨物価額を超える場合などに、推定全損の検討が必要になることがあります。

貨物における推定全損

MIA1906第60条では、貨物に損傷がある場合、修理費用および仕向地までの転送費用が、到着時の貨物価額を超える場合には、推定全損が問題になるとされています。

例えば、濡損した貨物を選別・乾燥・再梱包し、さらに目的地まで輸送する費用が、到着後の貨物価値を上回る場合、分損として処理するよりも推定全損として扱う方が実態に合うことがあります。

この判断には、サーベイレポート修理見積、再梱包費用、転送費用、残存価額、売却見込額などの資料が必要になります。

推定全損の効果

MIA1906第61条では、推定全損がある場合、被保険者はその損害を分損として扱うことも、保険者に保険対象を委付して現実全損として扱うこともできるとされています。

つまり、推定全損では、被保険者に選択肢があります。単に修理費用や損傷割合に基づいて分損処理をするのか、それとも委付して全損として処理するのかを検討することになります。

ただし、委付を選ぶ場合には、委付通知が重要になります。

委付通知とは

MIA1906第62条では、被保険者が保険の対象を保険者に委付することを選ぶ場合、委付通知をしなければならないとされています。

委付通知をしない場合、その損害は全損ではなく、分損としてのみ扱われます。

委付通知は、書面、口頭、またはその組み合わせで行うことができます。特定の文言は必要ありませんが、被保険者が保険対象に対する自己の利益を無条件に保険者へ委付する意思が示されている必要があります。

委付通知の時期

委付通知は、損害について信頼できる情報を受け取った後、合理的な注意をもって速やかに行う必要があります。

ただし、情報が不確実な場合には、被保険者は調査のために合理的な時間を持つことができます。

実務では、事故発生直後に全損か分損か判断できないことがあります。そのため、サーベイ、現地確認、修理見積、転送費用、残存価額の確認を行ったうえで、委付を検討することになります。

保険者が委付を拒否した場合

MIA1906第62条では、委付通知が適切になされた場合、保険者が委付を承諾しなかったとしても、被保険者の権利は害されないとされています。

つまり、被保険者が適切に委付通知を行っていれば、保険者が受け入れを拒んだことだけで、被保険者の請求権が当然に失われるわけではありません。

一方で、保険者が委付を承諾した場合、その承諾は明示または保険者の行為から黙示的に認められることがあります。ただし、単なる沈黙だけでは承諾とはされません。

委付が承諾された場合

委付通知が保険者に承諾された場合、その委付は撤回できません。

また、委付の承諾は、損害についての責任および委付通知の十分性を決定的に認めるものとされています。

このため、委付は慎重に扱う必要があります。被保険者にとっても保険者にとっても、残存物、回収可能性、売却価値、保管費用などに大きく影響するからです。

委付通知が不要な場合

MIA1906第62条では、被保険者が損害情報を受け取った時点で、委付通知をしても保険者に利益を与える可能性がない場合には、委付通知は不要とされています。

例えば、保険対象が完全に失われ、残存物や回収可能性がない場合には、委付通知を行っても保険者に移転すべき利益がないことがあります。

また、保険者は委付通知を不要とすることもできます。

委付の効果

MIA1906第63条では、有効な委付がある場合、保険者は、保険対象の残存部分に関する被保険者の利益および付随する財産権を取得するとされています。

これは、保険者が全損として保険金を支払う代わりに、残存物や回収可能な利益を引き継ぐという考え方です。

貨物保険実務では、損傷貨物の残存価額、売却処分、スクラップ処分、回収品の所有権、保管費用などが問題になります。

外航貨物海上保険での実務上の注意点

貨物事故が発生した場合には、損害が分損か、現実全損か、推定全損かを整理する必要があります。

確認すべき事項は、貨物の損傷程度、回復可能性、修理可能性、再梱包の可否、転送費用、到着時価額、残存価額、売却可能性、サーベイ結果、保管費用などです。

推定全損を検討する場合には、委付通知の要否、通知時期、保険者の承諾、残存物の扱いを確認する必要があります。

MIA1906第56条から第63条は、貨物事故後の損害処理に直結する重要な条文です。外航貨物海上保険では、全損か分損かを感覚で判断せず、損害額、回復可能性、費用対効果、委付の要否を整理して対応することが重要です。

同義語・別表記

  • 全損
  • 分損
  • 現実全損
  • 推定全損
  • 委付
  • Total Loss
  • Partial Loss
  • Actual Total Loss
  • Constructive Total Loss
  • Abandonment
  • Notice of Abandonment
  • MIA1906第56条
  • MIA1906第60条
  • MIA1906第62条

関連用語