英国海上保険法における損害填補額の算定
英国海上保険法における損害填補額の算定とは
英国海上保険法における損害填補額の算定とは、保険事故が発生した場合に、被保険者が海上保険契約に基づいて回収できる金額を、保険証券の種類、保険価額、保険金額、損害の種類及び損害割合に応じて算定することです。
MIA1906第67条から第75条は、評価済保険証券と評価未済保険証券、全損、船舶・運賃・貨物の分損、評価額の按分、共同海損分担金、救助料及び第三者賠償責任について、損害填補額の基本的な算定方法を定めています。
外航貨物海上保険では、貨物に損害が発生しても、保険金額の全額が当然に支払われるわけではありません。貨物の一部が全損したのか、損傷した状態で到着したのか、到着地での価値がどの程度低下したのか、評価済保険証券か評価未済保険証券かを区別する必要があります。
特に貨物の分損では、修理費又は被保険者の請求額をそのまま填補額とするのではなく、総正品価額と総損品価額から損害割合を求め、その割合を保険証券上の評価額又は保険価額へ適用する場合があります。
この記事の計算例は、MIA1906の基本構造を説明するためのものです。実際の保険金支払額は、保険証券、協会貨物約款、特別約款、免責金額、一部保険、既払保険金及び個別の損害資料によって異なります。
この記事で扱う範囲
| 項目 | この記事で扱う内容 | 他の記事で詳しく扱う内容 |
|---|---|---|
| 損害填補額の基本原則 | MIA1906第67条に基づく評価済・評価未済保険証券と保険者の責任割合 | 保険価額そのものの算定は保険価額の専門記事で扱います。 |
| 全損 | MIA1906第68条に基づく全損時の算定基準 | 現実全損及び推定全損の成立要件は全損の専門記事で扱います。 |
| 船舶の分損 | 修理済み、部分修理及び未修理の場合の算定方法 | 船舶保険の修繕費査定及び新旧交換控除は個別契約を確認します。 |
| 運賃の分損 | 失われた運賃の割合を用いる算定方法 | 運賃利益及び未収運賃の被保険利益は別記事で扱います。 |
| 貨物の一部全損 | 失われた部分の保険価額割合による算定 | 按分可能部分の全損及び単独海損不担保との関係は別記事で扱います。 |
| 損傷貨物 | 総正品価額と総損品価額から損害割合を求める方法 | 具体的な残存物売却、修理、再調整及び品質低下の査定は個別に確認します。 |
| 評価額の按分 | 複数種類・複数品質の貨物を一つの評価額で付保した場合の配分 | 個々の保険申告及び包括予定保険の処理は別記事で扱います。 |
| 共同海損分担金・救助料 | 全部保険及び一部保険の場合の填補割合 | 共同海損の成立要件及び精算手続は共同海損の専門記事で扱います。 |
| 第三者賠償責任 | 明示的に付保された第三者責任の填補額 | フォワーダー責任、運送人責任及び船主責任保険は別記事で扱います。 |
| 一般規定 | 明示されていない保険対象、重複保険及び被保険利益との関係 | 重複保険、代位及び保険者間の分担は別記事で扱います。 |
制度の目的と背景
海上保険は、被保険者に発生した損害を保険契約の範囲内で填補する制度であり、被保険者へ損害を超える利益を与える制度ではありません。
同じ貨物損害でも、評価済保険証券か評価未済保険証券かによって、計算の基礎となる価額が異なります。また、貨物の一部が完全に失われた場合と、損傷した状態で到着した場合でも計算方法が異なります。
例えば、損傷貨物が到着した場合には、修理費だけでなく、到着地における正品としての価値と損品としての価値を比較し、価値減少率を算定する必要があります。
共同海損分担金及び救助料では、貨物が分担価額の全額について付保されているかが重要です。一部保険の場合には、保険者の負担額が付保割合に応じて減額されることがあります。
MIA1906第67条から第75条は、これらの異なる損害類型に対して、共通する填補原則と個別の算定方法を示しています。
損害填補額を算定するための主要用語
| 用語 | 基本的な意味 | 計算上の役割 | 混同しやすい用語 | 主な確認資料 |
|---|---|---|---|---|
| 損害填補額 | 保険契約上、被保険者が回収できる損害額の算定基準 | 損害の種類ごとに法定又は契約上の算定式を適用する | 被保険者の請求額、修理見積額 | 保険証券、約款、損害明細 |
| 保険価額 | 保険利益を金銭的に評価した価額 | 評価未済保険証券及び一部保険の計算基礎となる | 保険金額 | Invoice、運賃、保険料、保険申告 |
| 保険金額 | 保険契約上の保険者の責任限度として設定された金額 | 最終的な支払限度及び一部保険の判断に関係する | 保険価額、協定価額 | 保険証券、保険明細 |
| 協定価額・評価額 | 評価済保険証券であらかじめ合意された価額 | 全損及び分損の填補額を算定する基礎となる | 到着地市場価額 | 評価済保険証券 |
| 総正品価額 | 貨物が損傷していなかった場合の到着地における総価額 | 損傷貨物の損害割合の分母となる | Invoice価格、協定価額 | 市場価格資料、Survey Report |
| 総損品価額 | 貨物が損傷した状態での到着地における総価額 | 総正品価額との差額を算定する | 残存物の売却代金 | 売却見積、残存価額、鑑定資料 |
| 損害割合 | 総正品価額に対する価値減少の割合 | 評価額又は保険価額へ乗じる | 損傷数量割合 | 正品・損品価額資料 |
| 分担価額 | 共同海損分担金を計算する基礎となる価額 | 共同海損分担金の一部保険割合を判定する | 保険価額 | 共同海損精算書、貨物価額申告 |
| 付保割合 | 保険価額又は分担価額に対して付保されている割合 | 一部保険時の保険者負担額を減額する | 共同保険の引受割合 | 保険証券、精算書 |
MIA1906第67条から第75条までの比較
| 条文 | 対象 | 主な算定基準 | 主な数値 | 貨物保険実務との関係 |
|---|---|---|---|---|
| 第67条 | 保険者の責任範囲 | 評価済保険証券の評価額又は評価未済保険証券の保険価額 | 評価額、保険価額、各保険者の引受額 | すべての算定の基礎となる |
| 第68条 | 全損 | 評価済は評価額、評価未済は保険価額 | 全損時の基準価額 | 現実全損・推定全損の填補額に関係する |
| 第69条 | 船舶の分損 | 合理的修理費又は未修理損傷による価値低下 | 修理費、価値低下額、保険金額 | 貨物保険の中心ではないが修理費上限の参考となる |
| 第70条 | 運賃の分損 | 失われた運賃の割合 | 全運賃、失われた運賃、評価額 | 運賃利益を付保した契約で問題となる |
| 第71条 | 貨物の分損 | 一部全損の価額割合又は到着地での価値減少率 | 失われた部分の保険価額、総正品価額、総損品価額 | 外航貨物海上保険で最も重要な算定条文の一つ |
| 第72条 | 評価額の按分 | 各種類・品質・明細の保険価額割合 | 全体評価額、各部分の保険価額 | 複数品目・複数ロットの一括付保で問題となる |
| 第73条 | 共同海損分担金・救助料 | 全部保険又は一部保険の割合 | 分担価額、付保価額、分担金、救助料 | 共同海損及び救助事故で重要となる |
| 第74条 | 第三者賠償責任 | 第三者へ支払った又は支払うべき金額 | 確定責任額、保険限度額 | 責任保険として明示的に付保された場合に適用する |
| 第75条 | 一般規定 | 前条までの原則を可能な限り準用 | 個別損害に適した価額 | 明示されていない保険対象の算定を補完する |
主要な算定式
| 損害類型 | 基本的な算定式 | 主な適用条文 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 評価済保険証券の全損 | 損害填補額=保険証券上の評価額 | 第68条 | 保険証券の明示条件及び保険金額上限を確認する |
| 評価未済保険証券の全損 | 損害填補額=保険価額 | 第68条 | 保険価額を事後的に立証する必要がある |
| 評価済保険証券で貨物の一部が全損 | 評価額×失われた部分の保険価額÷全体の保険価額 | 第71条第1項 | 数量割合ではなく保険価額割合を用いる |
| 評価未済保険証券で貨物の一部が全損 | 損害填補額=失われた部分の保険価額 | 第71条第1項 | 失われた部分を個別に評価できる資料が必要 |
| 損傷貨物の損害割合 | 損害割合=(総正品価額-総損品価額)÷総正品価額 | 第71条第2項 | 到着地での価額を用いる |
| 評価済保険証券の損傷貨物 | 損害填補額=評価額×損害割合 | 第71条第2項 | 修理費だけで決めない |
| 評価未済保険証券の損傷貨物 | 損害填補額=保険価額×損害割合 | 第71条第2項 | 保険価額と総正品価額は同じ概念ではない |
| 評価額の按分 | 各部分の評価額=全体評価額×各部分の保険価額÷全体の保険価額 | 第72条 | 品目・品質・ロット別に合理的な基礎を用いる |
| 一部保険時の共同海損分担金 | 保険者負担額=分担金×付保価額÷分担価額 | 第73条 | 共同海損精算書上の価額を確認する |
| 共同保険者間の分担 | 各保険者負担額=損害填補額×各保険者の引受割合 | 第67条 | 重複保険とは区別する |
評価済保険証券と評価未済保険証券
MIA1906第67条では、評価未済保険証券の場合には保険価額の範囲内で、評価済保険証券の場合には保険証券で定められた評価額の範囲内で、被保険者が損害を回収できるとしています。
評価済保険証券では、保険証券上の協定価額が全損及び分損の算定基礎となります。
評価未済保険証券では、損害発生後に保険価額を確定し、その保険価額を基礎として填補額を算定します。
| 比較項目 | 評価済保険証券 | 評価未済保険証券 | 実務上の影響 |
|---|---|---|---|
| 価額の決定時期 | 契約締結時に評価額を定める | 損害発生後に保険価額を立証する | 評価未済では価額資料の収集負担が大きい |
| 全損時の基準 | 保険証券上の評価額 | 保険価額 | 同じ貨物でも算定基礎が異なる場合がある |
| 一部全損 | 失われた部分の保険価額割合を評価額へ適用 | 失われた部分の保険価額 | 評価済では割合計算が必要 |
| 損傷貨物 | 損害割合を評価額へ適用 | 損害割合を保険価額へ適用 | 損害割合が同じでも填補額が異なる場合がある |
| 主な資料 | 保険証券、保険明細 | Invoice、運賃、保険料、価額資料 | 証拠不足が算定へ影響する |
評価済・評価未済保険証券の数値比較
損傷貨物の総正品価額が1,000万円、総損品価額が700万円の場合を考えます。
損害割合=(1,000万円-700万円)÷1,000万円=30%
| 保険証券 | 算定基礎 | 計算 | 損害填補額 |
|---|---|---|---|
| 評価済保険証券 | 評価額1,200万円 | 1,200万円×30% | 360万円 |
| 評価未済保険証券 | 保険価額1,000万円 | 1,000万円×30% | 300万円 |
両者の差は、損害割合ではなく、損害割合を適用する基礎価額の違いによって生じています。
複数の保険者が共同で引き受けている場合
複数の保険者が一つの保険契約を共同で引き受けている場合、各保険者は、それぞれの引受額又は引受割合に応じて損害填補責任を負います。
これは、一つの危険を複数の保険者が一定割合で引き受ける共同保険の計算です。同一の利益について複数の独立した保険契約が存在する重複保険とは区別します。
損害填補額が360万円で、保険者Aが60%、保険者Bが40%を引き受けている場合は、次のとおりです。
| 保険者 | 引受割合 | 計算 | 負担額 |
|---|---|---|---|
| 保険者A | 60% | 360万円×60% | 216万円 |
| 保険者B | 40% | 360万円×40% | 144万円 |
| 合計 | 100% | 216万円+144万円 | 360万円 |
MIA1906第68条における全損
保険対象に全損が発生した場合、評価済保険証券では保険証券上の評価額が、評価未済保険証券では保険価額が、損害填補額の基本的な基準となります。
| 保険証券 | 基準価額 | 数値例 | 基本的な填補額 |
|---|---|---|---|
| 評価済保険証券 | 保険証券上の評価額 | 評価額1,200万円の貨物が全損 | 1,200万円 |
| 評価未済保険証券 | 保険価額 | 保険価額1,000万円の貨物が全損 | 1,000万円 |
実際の支払額については、保険金額、一部保険、免責、保険対象及び担保危険に関する保険証券上の条件を別途確認します。
MIA1906第69条における船舶の分損
船舶が修理された場合には、合理的な修理費用から慣習的な控除を行った金額が算定基礎となります。ただし、一事故について保険金額を超えて回収することはできません。
一部だけが修理された場合には、実際の合理的な修理費用と、未修理部分による合理的な価値低下を合算します。ただし、損害全体を修理する合理的費用を超えることはできません。
修理されていない場合には、未修理損傷による合理的な価値低下が基準となりますが、その損傷を修理する合理的費用が上限となります。
| 状態 | 数値例 | 計算上の考え方 | 填補額 |
|---|---|---|---|
| 全部修理 | 合理的修理費300万円 | 慣習的控除後の合理的修理費 | 原則300万円以内 |
| 一部修理 | 修理費150万円+未修理価値低下100万円 | 合計250万円。ただし全修理費の合理的上限を超えない | 原則250万円以内 |
| 未修理 | 価値低下250万円、合理的修理費200万円 | 修理費相当額が上限 | 200万円 |
MIA1906第70条における運賃の分損
運賃の一部を失った場合、全運賃に対する失われた運賃の割合を求め、その割合を評価額又は保険価額へ適用します。
運賃全体が500万円、そのうち100万円を失った場合、失われた割合は20%です。
| 保険証券 | 算定基礎 | 計算 | 填補額 |
|---|---|---|---|
| 評価済保険証券 | 評価額600万円 | 600万円×100万円÷500万円 | 120万円 |
| 評価未済保険証券 | 保険価額500万円 | 500万円×100万円÷500万円 | 100万円 |
MIA1906第71条における貨物の一部全損
貨物の一部が完全に失われた場合、評価済保険証券と評価未済保険証券では算定方法が異なります。
評価済保険証券では、失われた部分の保険価額が貨物全体の保険価額に占める割合を求め、その割合を保険証券上の評価額へ乗じます。
評価未済保険証券では、失われた部分そのものの保険価額が算定基礎となります。
貨物一部全損の数値例
貨物全体の保険価額が1,000万円、そのうち200万円相当のロットが完全に失われたとします。
失われた部分の割合=200万円÷1,000万円=20%
| 保険証券 | 算定基礎 | 計算 | 損害填補額 |
|---|---|---|---|
| 評価済保険証券 | 評価額1,200万円 | 1,200万円×20% | 240万円 |
| 評価未済保険証券 | 失われた部分の保険価額200万円 | 200万円 | 200万円 |
貨物数量の20%が失われた場合でも、各貨物の単価が異なれば、保険価額割合が20%になるとは限りません。数量ではなく、失われた部分の保険価額を確認する必要があります。
損傷した貨物の填補額
貨物の全部又は一部が損傷した状態で仕向地へ到着した場合、総正品価額と総損品価額の差から損害割合を算定します。
損害割合=(総正品価額-総損品価額)÷総正品価額
評価済保険証券では、この損害割合を保険証券上の評価額へ乗じます。
評価未済保険証券では、この損害割合を保険価額へ乗じます。
総正品価額・総損品価額を用いた計算例
損傷がなければ到着地で800万円の価値があった貨物が、損傷した状態では600万円と評価された場合を考えます。
価値減少額=800万円-600万円=200万円
損害割合=200万円÷800万円=25%
| 保険証券 | 算定基礎 | 計算 | 損害填補額 |
|---|---|---|---|
| 評価済保険証券 | 評価額1,000万円 | 1,000万円×25% | 250万円 |
| 評価未済保険証券 | 保険価額800万円 | 800万円×25% | 200万円 |
到着地での価値減少額200万円を、そのまま評価済保険証券の填補額とするのではありません。評価済保険証券では、価値減少率25%を評価額1,000万円へ適用するため、填補額は250万円となります。
Invoice価格と到着地価額を混同しない
総正品価額及び総損品価額は、到着地における正品及び損品の価値を比較するための概念です。
Invoice価格は重要な証拠資料ですが、常に総正品価額と同額になるとは限りません。到着地市場価格、卸売価格、貨物の品質、売却可能性、修理後価値及び残存価額などを確認する必要があります。
| 資料 | 確認できる内容 | 総正品価額への利用 | 総損品価額への利用 |
|---|---|---|---|
| Commercial Invoice | 売買価格、品名、数量 | 基礎資料となる | 損傷後価値を直接示すものではない |
| 到着地市場価格 | 到着時の正品市場価値 | 重要な算定資料となる | 正品との差を判断する基礎となる |
| Survey Report | 損傷状態、原因、数量及び品質低下 | 正品状態との比較に利用する | 損品評価の中心資料となる |
| 修理見積 | 修理可能性及び修理費 | 正品回復の可能性を示す | 損傷後の価値低下を判断する資料となる |
| 残存物売却見積 | 現状売却価額 | 通常は直接使用しない | 総損品価額の重要資料となる |
| 専門家鑑定 | 品質低下、機能低下及び市場性 | 正品価値を補足する | 損品価値を補足する |
MIA1906第72条における評価額の按分
異なる種類、品質又は明細の財産が一つの評価額で付保されている場合、評価額は、それぞれの保険価額に応じて按分します。
各種類の仕入原価等を確認できない場合には、到着地における正品の正味価額を用いて合理的に区分することがあります。
評価額按分の数値例
一つの評価済保険証券で、貨物A、B、Cを合計1,500万円の評価額で付保しているとします。
| 貨物 | 個別の保険価額 | 全体に占める割合 | 按分後の評価額 |
|---|---|---|---|
| 貨物A | 600万円 | 600万円÷1,000万円=60% | 1,500万円×60%=900万円 |
| 貨物B | 300万円 | 300万円÷1,000万円=30% | 1,500万円×30%=450万円 |
| 貨物C | 100万円 | 100万円÷1,000万円=10% | 1,500万円×10%=150万円 |
| 合計 | 1,000万円 | 100% | 1,500万円 |
貨物Bだけに50%の損害が発生した場合、貨物Bに按分された評価額450万円へ50%を乗じ、基本的な填補額は225万円となります。
450万円×50%=225万円
MIA1906第73条における共同海損分担金
被保険者が共同海損分担金を支払った場合又は支払う責任を負う場合、保険対象が分担価額の全額について付保されていれば、原則として分担金の全額が填補対象となります。
分担価額の一部しか付保されていない場合には、保険者の責任は一部保険の割合に応じて減額されます。
共同海損分担金の数値例
貨物の分担価額が1,000万円、共同海損分担金が100万円の場合を考えます。
| 付保状況 | 付保価額 | 計算 | 保険者負担額 |
|---|---|---|---|
| 全部保険 | 1,000万円 | 100万円×1,000万円÷1,000万円 | 100万円 |
| 80%の一部保険 | 800万円 | 100万円×800万円÷1,000万円 | 80万円 |
| 60%の一部保険 | 600万円 | 100万円×600万円÷1,000万円 | 60万円 |
共同海損精算上、保険者が責任を負う単独海損が分担価額から控除されている場合には、その単独海損額を付保価額からも控除して保険者の負担割合を確認します。
救助料の数値例
MIA1906第73条では、救助料についても、共同海損分担金と同様の原則で保険者の責任範囲を判断します。
分担価額又は救助対象価額が1,000万円、付保価額が800万円、救助料が50万円の場合を考えます。
保険者負担額=50万円×800万円÷1,000万円=40万円
救助料の具体的な負担方法は、救助契約、救助裁定、救助対象価額及び保険証券の明示条件を確認する必要があります。
MIA1906第74条における第三者賠償責任
被保険者が第三者に対する賠償責任を明示的に保険に付けている場合、損害填補額は、保険証券に別段の定めがない限り、被保険者が第三者へ支払った又は支払うべき金額となります。
例えば、第三者に対する確定責任額が1,200万円で、保険契約上の限度額が2,000万円の場合、基本的な填補額は1,200万円です。
一方、確定責任額が2,500万円で保険限度額が2,000万円の場合には、実際の支払額は保険限度額及び保険証券の条件によって制限されます。
外航貨物海上保険は貨物自体の損害を中心とするため、フォワーダー責任、運送人責任、船主責任その他の第三者賠償責任保険と混同しないことが重要です。
MIA1906第75条の一般規定
第67条から第74条までに明示されていない保険対象について損害が発生した場合には、個別事案に適用できる範囲で、これらの規定に可能な限り従って損害填補額を算定します。
また、第75条第2項は、損害填補額に関する規定が重複保険のルールへ影響を与えないことを定めています。
同項は、保険者が、被保険者の被保険利益の全部又は一部を否定することや、損害発生時に保険対象の全部又は一部が保険証券上の危険にさらされていなかったことを立証することを妨げません。
したがって、第67条から第75条に基づいて損害填補額を算定できる場合でも、重複保険の適用、被保険利益の存否及び範囲、並びに損害時に保険対象が保険証券上の危険にさらされていたかは、別個に確認する必要があります。
損害填補額の算定フロー
- 損害の種類を確認する
全損、一部全損、損傷到着、共同海損分担金、救助料又は第三者賠償責任のいずれかを確認します。 - 適用される条文を確認する
MIA1906第67条から第75条のどの算定方法が適用されるかを整理します。 - 保険証券の種類を確認する
評価済保険証券か評価未済保険証券かを確認します。 - 保険価額・評価額・保険金額を分ける
三つの価額を混同せず、証券と取引資料を照合します。 - 共同保険又は重複保険を確認する
一つの契約の共同引受か、複数契約による重複保険かを区別します。 - 一部全損の場合は価額割合を求める
失われた部分の保険価額を全体の保険価額で除します。 - 損傷到着の場合は損害割合を求める
総正品価額と総損品価額の差を総正品価額で除します。 - 複数貨物の場合は評価額を按分する
品目、品質、ロット又は明細ごとの保険価額割合を用います。 - 共同海損・救助料では付保割合を確認する
分担価額又は救助対象価額の全額が付保されているかを確認します。 - 各保険者の負担額を算定する
共同保険の場合は各保険者の引受割合を適用します。 - 保険証券上の制限を適用する
保険金額、免責金額、特別約款及び既払保険金を確認します。 - 算定根拠を資料化する
計算式、使用価額、証拠資料及び端数処理を明記して保険金請求を提出します。
実務で問題になりやすいケース
| ケース | 主な論点 | 確認資料 | 判断のポイント | 初動対応 |
|---|---|---|---|---|
| 評価済保険証券の貨物が全損 | 評価額と保険金額 | 保険証券、全損資料 | 評価額を基準としつつ証券上の制限を確認する | 評価額と保険金額を照合する |
| 複数ロットのうち一ロットが全損 | 失われた部分の保険価額割合 | Invoice、Packing List、保険明細 | 数量割合ではなく価額割合を使用する | ロット別価額を確定する |
| 貨物が損傷して到着 | 総正品価額と総損品価額 | 市場価額、Survey Report、売却見積 | 到着地での価値減少率を算定する | 正品・損品価額の資料を取得する |
| 修理費が価値減少額を上回る | 修理費と経済的価値低下 | 修理見積、残存価額、専門家意見 | 修理費をそのまま填補額としない | 修理後価値及び代替処理を確認する |
| 複数品目を一つの評価額で付保 | 第72条の評価額按分 | 品目別Invoice、保険明細 | 各品目の保険価額割合を用いる | 品目別の価額表を作成する |
| 共同保険で事故が発生 | 各保険者の引受割合 | 保険証券、共同保険明細 | 総填補額を各保険者へ按分する | 幹事保険者と処理方法を確認する |
| 一部保険で共同海損分担金を請求 | 分担価額に対する付保割合 | 共同海損精算書、保険証券 | 一部保険割合に応じて減額する | 分担価額と付保価額を照合する |
| 救助料の請求を受けた | 救助対象価額と付保割合 | 救助契約、裁定書、価額資料 | 共同海損分担金と同様の原則を適用する | 保険会社へ直ちに通知する |
| 第三者責任を明示的に付保 | 確定責任額と保険限度額 | 責任確定資料、和解書、保険証券 | 支払済み又は支払うべき金額を確認する | 保険者の事前承認条件を確認する |
制度適用シナリオ1:評価済保険証券で一部ロットが全損
貨物全体の保険価額が1,000万円、評価済保険証券上の評価額が1,200万円で、200万円相当のロットが完全に失われたとします。
失われたロットの保険価額割合は20%です。
200万円÷1,000万円=20%
評価済保険証券では、この20%を評価額1,200万円へ適用します。
1,200万円×20%=240万円
したがって、他の免責、保険金額制限及び一部保険がない場合の基本的な損害填補額は240万円です。
制度適用シナリオ2:評価未済保険証券で損傷貨物が到着
評価未済保険証券で付保された貨物の保険価額が1,000万円、到着地における総正品価額が1,100万円、総損品価額が770万円であったとします。
損害割合=(1,100万円-770万円)÷1,100万円=30%
評価未済保険証券では、保険価額1,000万円へ30%を適用します。
1,000万円×30%=300万円
したがって、基本的な損害填補額は300万円です。価値減少額330万円を、そのまま填補額とするわけではありません。
制度適用シナリオ3:共同保険者2社の負担額
損傷貨物の損害填補額が500万円で、保険者Aが60%、保険者Bが40%を共同で引き受けているとします。
保険者A=500万円×60%=300万円
保険者B=500万円×40%=200万円
被保険者の総填補額は500万円であり、共同保険によって総損害額が増えるものではありません。
制度適用シナリオ4:複数品質の貨物に対する評価額按分
一つの評価額1,500万円で、上級品600万円、標準品300万円、廉価品100万円の保険価額を持つ貨物が付保されているとします。
全体の保険価額は1,000万円です。評価額は60%、30%、10%の割合で按分されます。
上級品の按分評価額は900万円、標準品は450万円、廉価品は150万円です。
標準品だけに40%の損害が発生した場合は、次のとおりです。
450万円×40%=180万円
したがって、標準品に関する基本的な損害填補額は180万円です。
制度適用シナリオ5:一部保険と共同海損分担金
貨物の分担価額が2,000万円、付保価額が1,600万円、共同海損分担金が200万円であったとします。
付保割合は80%です。
1,600万円÷2,000万円=80%
保険者の基本的な負担額は次のとおりです。
200万円×80%=160万円
残り40万円は、一部保険による不足部分として被保険者側の負担となる可能性があります。
制度適用シナリオ6:一部保険と救助料
救助対象となった貨物の価額が2,000万円、付保価額が1,500万円、救助料が120万円であったとします。
付保割合は75%です。
1,500万円÷2,000万円=75%
120万円×75%=90万円
したがって、保険者の基本的な負担額は90万円です。ただし、救助料の法的性質、担保危険及び保険証券の条件を別途確認します。
よくある誤解
| 誤解 | 実際の考え方 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 貨物が全損すれば常に保険金額の全額が支払われる | 評価済・評価未済、保険価額、一部保険及び証券条件を確認します。 | 保険金額と損害填補額を区別します。 |
| 評価額と保険金額は同じである | 評価額は損害算定の基礎価額、保険金額は保険者の責任限度に関係します。 | 保険証券上の各欄を分けて確認します。 |
| 貨物の20%が失われれば填補額も必ず20%である | 数量割合ではなく、失われた部分の保険価額割合を用います。 | 単価の異なる貨物では結果が変わります。 |
| 修理費がそのまま貨物分損の填補額になる | 貨物では総正品価額と総損品価額による価値減少率が重要です。 | 修理費と価値低下を区別します。 |
| Invoice価格が総正品価額である | Invoiceは重要資料ですが、到着地での正品価額と常に同じではありません。 | 市場価格及び到着地資料を確認します。 |
| 総正品価額と評価額は同じである | 総正品価額は損害割合算定の基礎、評価額は填補額へ割合を適用する基礎です。 | 計算の分母と乗算基礎を区別します。 |
| 共同保険なら各保険者から損害額全額を請求できる | 各保険者は引受割合に応じて負担します。 | 重複保険と共同保険を混同しません。 |
| 複数貨物を一括付保しても評価額の按分は不要である | 損害が一部貨物だけに発生した場合は合理的な按分が必要です。 | 品目別・品質別価額を保存します。 |
| 共同海損分担金は常に全額が保険で支払われる | 分担価額の全額が付保されていない場合は比例減額されます。 | 分担価額と付保価額を照合します。 |
| 救助料は保険金額に関係なく全額支払われる | 救助料も一部保険の割合によって減額されることがあります。 | 救助対象価額及び付保割合を確認します。 |
| 算定式で金額が出れば保険金支払は確定する | 担保危険、免責、被保険利益及び保険期間の確認が別途必要です。 | 填補額の計算と担保判断を分けます。 |
| 第三者への請求額がそのまま責任保険の填補額になる | 被保険者が法的に支払った又は支払うべき責任額を確認します。 | 請求額と確定責任額を区別します。 |
実務判断チェックリスト
| 確認場面 | 確認する相手 | 確認事項 | 問題がある場合の対応 |
|---|---|---|---|
| 保険証券を確認するとき | 保険会社又は保険代理店 | 評価済・評価未済、評価額、保険金額及び免責 | 証券一式と保険明細を取得する |
| 全損が発生したとき | 保険会社、Surveyor | 全損の成立、評価額又は保険価額 | 全損資料と価額資料を分けて提出する |
| 貨物の一部が全損したとき | 保険会社、貨物管理担当者 | 失われた部分の数量、単価及び保険価額 | ロット別・明細別の価額表を作成する |
| 損傷貨物が到着したとき | Surveyor、市場関係者、保険会社 | 総正品価額、総損品価額及び損害割合 | 到着地価額の根拠資料を追加する |
| 修理を検討するとき | 修理業者、Surveyor、保険会社 | 修理費、修理後価値、未修理価値及び代替方法 | 費用対効果を比較して事前承認を得る |
| 複数品目を一括付保しているとき | 経理担当者、保険会社 | 品目別・品質別の保険価額及び評価額按分 | 第72条に沿った按分表を作成する |
| 共同保険で請求するとき | 幹事保険者又は各保険者 | 各保険者の引受額、引受割合及び支払方法 | 重複請求を避け、負担割合を明示する |
| 共同海損分担金を請求するとき | 共同海損精算人、保険会社 | 分担価額、分担金、付保価額及び一部保険 | 精算書と保険証券を照合する |
| 救助料を請求するとき | 救助者、船会社、保険会社 | 救助料、救助対象価額、付保割合及び担保危険 | 独自に支払わず保険会社へ通知する |
| 第三者責任を請求するとき | 保険会社、弁護士、相手方 | 法的責任、支払額、和解条件及び保険限度額 | 保険者の承認前に責任を確定しない |
| 一部保険が疑われるとき | 保険会社、経理担当者 | 保険価額、保険金額、分担価額及び付保価額 | 不足割合を計算し自己負担額を確認する |
| 保険金請求を提出するとき | 保険会社又は保険代理店 | 使用した算定式、価額資料、損害資料及び端数処理 | 計算根拠を一覧表にして提出する |
損害額・損害填補額・保険金額を混同しない
損害額は、貨物に実際に発生した経済的な損失を示す概念です。
損害填補額は、MIA1906及び保険契約の算定方法に従って求められる、保険上の回収基準額です。
保険金額は、保険契約上設定された保険者の責任限度に関係する金額です。
| 区分 | 意味 | 例 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 損害額 | 現実に発生した価値減少又は費用 | 到着地価値が300万円低下 | そのまま保険金になるとは限らない |
| 損害填補額 | 法令・約款上の算定式による回収基準額 | 評価額1,200万円×損害割合30%=360万円 | 保険証券の制限をさらに確認する |
| 保険金額 | 保険者の責任限度に関係する契約金額 | 保険金額1,200万円 | 損害が小さければ全額は支払われない |
まとめ
MIA1906第67条から第75条は、海上保険における損害填補額の算定方法を、保険証券及び損害の種類ごとに定めています。
評価済保険証券では、保険証券上の評価額が全損及び分損の算定基礎となります。評価未済保険証券では、事後的に確定する保険価額が基礎となります。
貨物の一部が全損した場合、評価済保険証券では、失われた部分の保険価額割合を評価額へ乗じます。評価未済保険証券では、失われた部分の保険価額を基準とします。
貨物が損傷した状態で到着した場合には、総正品価額と総損品価額の差から損害割合を算定し、その割合を評価額又は保険価額へ適用します。
複数種類又は複数品質の貨物が一つの評価額で付保されている場合には、それぞれの保険価額割合に応じて評価額を按分します。
共同保険では、各保険者が引受割合に応じて損害填補額を負担します。これは複数の独立した保険契約が存在する重複保険とは異なります。
共同海損分担金及び救助料について、分担価額又は救助対象価額の全額が付保されていない場合には、一部保険の割合に応じて保険者の負担額が減額されることがあります。
第三者賠償責任を明示的に付保した場合の填補額は、原則として被保険者が第三者へ支払った又は支払うべき責任額ですが、保険限度額及び保険証券の条件を確認する必要があります。
貨物事故が発生した場合は、損害額を感覚的に決めず、評価済・評価未済の別、保険価額、評価額、保険金額、総正品価額、総損品価額、分担価額及び付保割合を区別して算定することが重要です。
