加工工程基準とは
概要
加工工程基準とは、特定の製造工程や加工工程が協定締約国内で行われたことを条件に、貨物を原産品と認めるための原産地基準です。
関税分類変更基準(CTC)や付加価値基準(RVC)が、HSコードの変化や価額割合を重視するのに対し、加工工程基準は、実際にどのような加工が、どの国で行われたかを重視します。
加工工程基準は、特に繊維製品、化学品、食品加工品などで重要になります。
これらの品目では、単に輸出国で包装、選別、ラベル貼付、簡単な組立を行っただけでは、原産品と認められない場合があります。
実務では、対象貨物のHSコードを確認し、品目別原産地規則(PSR)の中で、どの加工工程が求められているかを確認します。
そのうえで、工程表、製造記録、作業指図書、外注先資料などを整理し、税関確認に対応できる状態にしておく必要があります。
加工工程基準が使われる理由
加工工程基準は、貨物が協定締約国内で実質的な加工を受けたかどうかを確認するために使われます。
原産地規則では、単に貨物がある国から輸出されたというだけでは原産品とは認められません。
その国または協定域内で、実質的な製造や加工が行われている必要があります。
加工工程基準は、形式的な作業や軽微な加工だけで特恵税率を利用することを防ぎ、協定締約国内で実質的な生産活動が行われたかを確認する役割を持ちます。
CTC・RVCとの違い
関税分類変更基準(CTC)は、非原産材料と完成品との間でHSコードが一定以上変わったかを確認する基準です。
付加価値基準(RVC)は、完成品の価額のうち、一定割合以上が協定域内で生み出されたかを確認する基準です。
これに対して、加工工程基準は、特定の工程が協定締約国内で行われたかを確認します。
たとえば、化学反応、紡績、製織、縫製、発酵、精製、特定の食品加工など、品目ごとに必要な工程が定められることがあります。
品目別原産地規則(PSR)では、加工工程基準が単独で求められる場合もあれば、「CTCまたはRVCまたは加工工程基準」のように選択制になっている場合もあります。
また、CTCに加えて特定工程を求めるように、複数の基準が組み合わされる場合もあります。
実務の流れ
加工工程基準を確認する場合、一般的には次の流れで進めます。
- 対象貨物のHSコードを確認する
- 利用するEPA、FTA、CPTPP、RCEPなどの協定を確認する
- 品目別原産地規則(PSR)を確認する
- 加工工程基準が単独で求められているか、CTCやRVCとの選択制かを確認する
- 協定上求められる加工工程を確認する
- 実際にどの工程が、どの国で、誰によって行われたかを整理する
- 工程表、製造記録、作業指図書などを準備する
- 外注工程がある場合は、委託先の工程資料を確認する
- 原産地証明書または原産品申告書の根拠資料として保存する
- 税関の事後確認に備えて資料を保管する
軽微な加工との違い
加工工程基準を確認する際に重要なのが、軽微な加工との違いです。
軽微な加工とは、貨物に実質的な変化を与えない単純な作業をいいます。
たとえば、包装、詰替え、ラベル貼付、単純な選別、洗浄、単純な組立、単なる切断や小分けなどは、協定によっては原産性を与える加工とは認められない場合があります。
重要なのは、作業が行われたかどうかではなく、その作業が協定上、原産性を与える実質的な加工に該当するかどうかです。
そのため、工程名だけで判断せず、実際の作業内容、使用材料、加工前後の状態、品目別原産地規則との関係を確認する必要があります。
軽微な加工は、加工工程基準だけでなく、CTC、RVC、原産地証明制度全体にも関係する独立した論点です。
詳細は、軽微な加工に関する記事で整理する必要があります。
繊維製品での加工工程基準
繊維製品では、加工工程基準が特に重要になります。
繊維製品は、糸、織物、編物、裁断、縫製、仕上げなど、複数の工程に分かれるため、どの段階から協定域内で加工が必要かが細かく定められることがあります。
たとえば、第三国産の生地を輸入し、協定締約国内で単に縫製しただけでは、対象協定のPSRを満たさず、原産品と認められないケースがあります。
一方で、糸から生地を作り、さらに縫製まで協定域内で行うことが求められる場合もあります。
繊維製品では、工程ごとの証拠資料が重要になります。
糸の原産地、生地の生産地、裁断・縫製の実施地、外注加工の有無を確認し、工程の連続性を説明できるようにしておく必要があります。
化学品での加工工程基準
化学品では、特定の化学反応や精製工程が協定締約国内で行われたことが原産性の判断に関係する場合があります。
単なる混合、希釈、小分け、包装では、原産性を与える加工として十分ではない場合があります。
実務上は、原材料、反応工程、生成物、工程条件、製造記録、品質規格などを確認します。
化学品では、工程名だけでなく、実際に化学的な変化が生じているか、協定上求められる工程に該当するかを確認することが重要です。
食品加工品での加工工程基準
食品加工品では、原材料の原産地と加工工程の内容が重要になります。
単なる小分け包装、ラベル貼付、簡単な混合だけでは、原産性を与える加工として認められない場合があります。
一方で、加熱、発酵、抽出、精製、調味、成形、缶詰加工など、品目ごとに実質的な加工として評価される工程が問題になることがあります。
食品加工品では、原材料表、製造工程表、配合表、製造記録、加工場所、外注工程の有無を整理し、対象協定の品目別原産地規則に照らして確認します。
CPTPPでの加工工程基準
CPTPPでは、品目別原産地規則の中で、CTC、RVC、加工工程基準などが定められている場合があります。
品目によっては、加工工程基準が単独で求められる場合もあれば、CTCやRVCとの選択制になっている場合もあります。
CPTPPは自己申告制度を採用しているため、加工工程基準を使う場合には、申告主体が工程内容を説明できる資料を保存しておくことが重要です。
工程表、製造記録、外注工程資料、原材料資料などを整理し、税関確認に対応できる状態にしておく必要があります。
具体的な加工工程や条件は品目ごとに異なるため、対象貨物のHSコードとCPTPPの品目別原産地規則を確認します。
RCEPでの加工工程基準
RCEPでも、品目別原産地規則の中で加工工程基準が使われる場合があります。
RCEPは広域累積を特徴とするため、複数のRCEP締約国にまたがって材料調達や加工が行われる場合には、どの工程がどの国で行われたかを整理することが重要です。
RCEP締約国内で加工が行われていても、その工程が協定上求められる加工工程に該当するかを確認する必要があります。
単にRCEP参加国で作業が行われたというだけでは足りず、品目別原産地規則上の条件を満たしているかを確認します。
RCEPで加工工程基準を利用する場合は、対象国、原産国、HSコード、PSR、累積制度、証明方式、工程資料、保存資料をあわせて確認する必要があります。
外注工程がある場合
加工工程の一部を外注している場合は、委託先で実際にどの作業が行われたかを確認する必要があります。
自社で最終製品を出荷していても、原産性の判断に必要な工程が外注先で行われている場合、その工程資料が必要になることがあります。
実務上は、外注契約書、作業指図書、委託先の工程表、製造記録、納品記録、加工報告書などを確認します。
外注先が海外にある場合には、その国が協定締約国かどうか、工程が協定上有効に扱われるかも確認する必要があります。
外注工程の資料が不足していると、実際に必要な加工が行われていたとしても、税関確認時に原産性を説明できない場合があります。
主要書類
加工工程基準を利用する場合に確認・保存する主な書類は次のとおりです。
- 品目別原産地規則(PSR)の確認資料
- HSコード確認資料
- 工程表
- 製造記録
- 作業指図書
- 製造工程フロー
- 原材料リスト
- 部品表、材料表
- 配合表
- 外注工程がある場合の委託先資料
- 加工報告書
- 検査記録、品質記録
- 原産地証明書または原産品申告書
- 税関確認に備える保存資料
実務上のポイント
加工工程基準では、どの工程が、どの国で、誰によって行われたかを説明できる資料が必要です。
工程名だけでは不十分であり、実際の作業内容を確認できる資料が重要になります。
包装、ラベル貼付、選別、洗浄、単純な組立などの軽微な加工は、協定によっては原産性を与える加工とは認められない場合があります。
そのため、対象貨物の加工内容が、品目別原産地規則で求められる加工工程に該当するかを確認する必要があります。
HSコード分類や品目別原産地規則の判断が難しい場合には、税関の事前教示や専門家確認を利用することがあります。
事前教示とは、輸入申告前に税関へ照会し、関税分類や原産地などについて事前に確認を受ける制度です。
特に、化学品、加工食品、複雑な製造工程を持つ製品では、必要に応じて検討します。
フォワーダーは、インボイス、パッキングリスト、B/L、Sea Waybillなどの書類整合や輸送経路の確認を支援することはありますが、工程内容の真偽や原産性そのものを判断する立場ではありません。
加工工程の説明責任は、輸入者、輸出者、生産者が中心になります。
注意点
加工工程基準を利用する際は、次の点に注意が必要です。
- 対象協定と品目別原産地規則を確認する必要がある
- 加工工程基準が単独条件か、CTCやRVCとの選択制かを確認する必要がある
- 工程名だけでなく、実際の作業内容を説明できる資料が必要になる
- 軽微な加工だけでは原産性が認められない場合がある
- 繊維製品では、糸、生地、縫製など工程段階の確認が重要になる
- 化学品では、特定の化学反応や精製工程の有無が問題になることがある
- 食品加工品では、単なる小分け包装と実質的加工を区別する必要がある
- 外注工程がある場合、委託先の工程資料が必要になることがある
- 判断が難しい場合、事前教示や専門家確認を検討することがある
- 証拠資料が不足すると、税関確認で原産性を説明できない場合がある
具体例
加工工程基準では、次のような場面が問題になります。
- 繊維製品:第三国産の生地を輸入し、協定締約国内で単に縫製しただけでは、対象協定のPSRを満たさず、原産品と認められないケース
- 化学品:協定締約国内で特定の化学反応工程が行われ、その工程資料により原産性を説明するケース
- 食品加工品:単なる小分け包装ではなく、協定締約国内で実質的な加工工程が行われたことを工程表で説明するケース
- 外注工程:原産性に必要な加工工程を外注先で行っているが、委託先資料が不足し、税関確認で説明が困難になるケース
- 軽微な加工:ラベル貼付や簡単な選別だけで原産品として申告しようとしたが、実質的加工ではないとして問題になるケース
まとめ
加工工程基準は、貨物がどの国でどのような実質的加工を受けたかを確認する原産地基準です。
CTCやRVCとは異なり、実際の工程内容を重視するため、工程表、製造記録、作業指図書、外注先資料などが重要になります。
特に、繊維製品、化学品、食品加工品では、単純な包装やラベル貼付では足りず、協定上求められる実質的加工が行われたかを確認する必要があります。
実務では、HSコード、PSR、加工工程、軽微な加工との違い、CPTPPやRCEPでの扱い、外注工程の資料を整理し、税関確認に対応できる状態にしておくことが重要です。
