累積制度とは
概要
累積制度とは、EPA・FTAなどの協定において、複数の協定締約国で生産された原産材料や加工工程を、最終製品の原産地判定に組み込める制度です。
通常、非原産材料を使用している場合は、関税分類変更基準(CTC)、付加価値基準(RVC)、加工工程基準などを満たす必要があります。
累積制度を利用できる場合、他の締約国で生産された原産材料や加工を、自国の原産材料・加工として扱えることがあります。
現代のサプライチェーンでは、部品調達、加工、組立が複数国にまたがることが多いため、累積制度はEPA・FTA活用の重要な仕組みです。
ただし、協定ごとに累積の範囲や証明方法が異なるため、対象協定ごとの確認が必要です。
累積制度が使われる理由
累積制度は、協定締約国間での部品調達や加工を原産地判定に反映させるために使われます。
たとえば、ある締約国で作られた原産部品を、別の締約国で組み立てる場合、その部品を非原産材料として扱うのではなく、協定域内の原産材料として扱える場合があります。
これにより、複数国にまたがる製造工程でも、協定域内で一定の生産活動が行われていれば、最終製品を原産品として認めやすくなります。
累積制度の主な種類
累積制度には、協定の内容によっていくつかの種類があります。
代表的なものは、二国間累積、多国間累積、対角累積です。
二国間累積
二国間累積とは、二国間EPA・FTAにおいて、相手国の原産材料を自国の原産材料として扱える仕組みです。
たとえば、日本と相手国とのEPAで、相手国原産の材料を日本で加工する場合、その材料を原産材料として扱えることがあります。
多国間累積
多国間累積とは、複数の締約国が参加する協定において、複数国の原産材料や加工を累積できる仕組みです。
RCEPのように多数の国が参加する協定では、複数の締約国にまたがるサプライチェーンで累積制度が重要になります。
ただし、参加国から仕入れた材料であっても、その材料自体が協定上の原産材料であることを説明できなければ、累積の対象にはなりません。
対角累積
対角累積とは、複数の協定関係にある国や地域の間で、一定の条件を満たす場合に、第三国の原産材料や加工を累積できる仕組みです。
たとえば、EU関連の原産地規則では、一定の協定関係にある国・地域間で、材料や加工を相互に累積できる仕組みが問題になることがあります。
ただし、対角累積は制度設計が複雑で、すべての協定で認められるものではありません。
日本のEPA実務では、RCEPのような多国間累積の方が実務上登場しやすく、対角累積の適用場面は限定的です。
対角累積を検討する場合は、対象国、対象協定、原産地証明の条件、累積対象となる材料や工程を個別に確認する必要があります。
CPTPPでの累積制度
CPTPPでは、締約国間での累積制度が原産地判定に関係します。
CPTPP締約国で生産された原産材料を、別のCPTPP締約国で使用する場合、その材料を原産材料として扱えることがあります。
CPTPPでは、自己申告制度が採用されているため、累積制度を使う場合でも、申告主体が原産性を説明できる資料を保存しておく必要があります。
実務では、材料の原産性、サプライヤー証明、品目別原産地規則、CTC、RVC、デミニミス規定、積送基準をあわせて確認します。
RCEPでの累積制度
RCEPでは、広域累積が重要な特徴の一つです。
RCEP締約国間で生産された原産材料や加工を、最終製品の原産地判定に組み込める場合があります。
たとえば、あるRCEP締約国で生産された原産部品を、別のRCEP締約国で加工・組立し、さらに日本へ輸入するような取引では、累積制度の利用可否が重要になります。
ただし、RCEP参加国から仕入れた材料であっても、それだけで自動的にRCEP原産材料になるわけではありません。
その材料がRCEPの原産地規則を満たしていることを、原産地証明書、自己申告書、サプライヤー証明書などで確認する必要があります。
累積対象となる材料の確認方法
累積制度を利用するには、対象となる材料や部品が協定上の原産材料であることを確認する必要があります。
確認には、次のような資料が使われます。
- 原産地証明書
- 原産品申告書
- サプライヤー証明書
- 材料明細書
- 部品表
- 製造工程表
- RVC計算資料
- 累積対象材料の仕入資料
- 輸出者・生産者からの原産性資料
材料が協定締約国から購入されたというだけでは足りません。
その材料自体が、対象協定の原産地規則を満たしていることを確認できる資料が必要です。
RVCとの関係
累積制度は、付加価値基準(RVC)と組み合わせて使われることがあります。
RVCでは、完成品の価額のうち、どれだけ協定域内で価値が生み出されたかを計算します。
累積制度を利用できる場合、他の締約国で生産された原産材料を域内原産材料として扱えるため、RVC比率を満たしやすくなることがあります。
ただし、累積対象として扱う材料の価額や原産性を説明できなければ、RVC計算上も問題になります。
RVCを使う場合は、累積対象材料の原産性資料と計算根拠をあわせて保存する必要があります。
CTCとの関係
関税分類変更基準(CTC)では、非原産材料と完成品のHSコードが協定で定められた水準以上に変わっているかを確認します。
累積制度を利用できる場合、協定締約国の原産材料は非原産材料として扱わずに済む場合があります。
その結果、CTCの判定対象となる非原産材料を整理しやすくなることがあります。
ただし、累積対象となる材料が本当に原産材料であるかを確認できなければ、CTC判定上の非原産材料として扱う必要が出てくる場合があります。
デミニミス規定との関係
累積制度を利用する場合でも、すべての材料を原産材料として扱えるとは限りません。
協定締約国の材料であっても、原産性を証明できない場合は、非原産材料として整理する必要が出てくることがあります。
このような場合、一部の非原産材料がCTCを満たさないときに、デミニミス規定を利用できるかが問題になることがあります。
デミニミス規定とは、原産地基準を満たさない一部の非原産材料について、協定で定められた範囲内で例外的に許容する制度です。
実務では、まず累積制度により原産材料として扱える材料を整理し、それでも非原産材料として残るものについて、CTC、RVC、デミニミス規定のいずれで説明するかを確認します。
累積とデミニミスは別制度であり、どちらで整理しているのかを明確にしておくことが重要です。
実務の流れ
累積制度を利用する場合、一般的には次の流れで確認します。
- 利用するEPA、FTA、CPTPP、RCEPなどの協定を確認する
- 対象貨物のHSコードを確認する
- 品目別原産地規則(PSR)を確認する
- 累積制度が利用できる協定か確認する
- 累積の種類と対象国を確認する
- 使用する材料・部品を原産材料と非原産材料に分ける
- 累積対象となる材料の原産性資料を確認する
- CTC、RVC、加工工程基準との関係を整理する
- デミニミス規定を利用する余地があるか確認する
- サプライヤー証明書や原産品申告書を取得・保存する
- 積送基準を満たすか確認する
- 税関の事後確認に備えて資料を保存する
主要書類
累積制度を利用する場合に確認・保存する主な書類は次のとおりです。
- 原産地証明書
- 原産品申告書
- サプライヤー証明書
- 材料表、部品表
- 原産材料・非原産材料の区分資料
- 品目別原産地規則(PSR)の確認資料
- HSコード確認資料
- RVC計算資料
- デミニミス規定を利用する場合の計算根拠資料
- 製造工程表
- インボイス
- パッキングリスト
- B/L、Sea Waybill、航空運送状などの輸送書類
- 積送基準を確認するための資料
- 税関確認に備える保存資料
フォワーダーの関与範囲
フォワーダーは、累積制度の適用可否や原産性そのものを判断する責任主体ではありません。
累積制度の判断には、材料の原産性、製造工程、RVC計算、サプライヤー証明などが必要であり、これは輸入者、輸出者、生産者が管理すべき情報です。
一方で、フォワーダーは、インボイス、パッキングリスト、B/L、Sea Waybill、Arrival Noticeなどの書類整合を確認する立場にあります。
また、積送基準に関係する輸送経路や輸送書類の整理を補助することがあります。
フォワーダー実務では、累積制度を使えるかどうかを断定するのではなく、必要書類、輸送経路、通関手続、税関確認への備えを補助する立場として整理するのが安全です。
注意点
累積制度を利用する際は、次の点に注意が必要です。
- 協定ごとに累積制度の内容や対象国が異なる
- 二国間累積、多国間累積、対角累積の違いを確認する必要がある
- 対角累積は適用場面が限定的で、対象協定ごとの確認が必要になる
- 締約国から仕入れた材料でも、自動的に原産材料になるわけではない
- 累積対象材料の原産性資料が必要になる
- サプライヤー証明書や原産品申告書の内容を確認する必要がある
- RVC計算に使う場合は、材料価額と原産性の根拠を保存する必要がある
- CTC判定では、どの材料を非原産材料として扱うかが重要になる
- 累積で整理できない非原産材料について、デミニミス規定の利用可否を確認することがある
- 書類不備があると累積の適用を説明できない場合がある
- 積送基準を満たさない場合、特恵税率の適用に影響することがある
具体例
累積制度では、次のような場面が問題になります。
- RCEPでの広域累積:タイで生産されたRCEP原産部品をベトナムで加工し、日本へ輸入する際に、累積制度を使えるか確認するケース
- CPTPPでの累積:CPTPP締約国で生産された原産材料を、別のCPTPP締約国で使用し、最終製品の原産地判定に組み込むケース
- RVCでの利用:複数の締約国で生産された原産材料を域内原産材料として扱い、RVC基準を満たすか確認するケース
- CTCでの利用:締約国原産材料を非原産材料から除外できるか確認し、CTC判定を行うケース
- デミニミスとの関係:累積で原産材料として扱えない一部材料について、デミニミス規定で整理できるか確認するケース
- 対角累積:複数の協定関係にある国・地域間で、第三国の原産材料を累積できるか確認するケース
- サプライヤー証明不足:材料が締約国から仕入れられているものの、原産材料であることを示す資料がなく、累積を説明できないケース
- 非締約国材料:一部材料が協定非締約国産であり、累積対象外としてCTCやRVCで別途確認が必要になるケース
- 積送基準不足:累積制度で原産性を満たしていても、輸送経路や第三国経由の説明資料が不足し、特恵税率の適用に影響するケース
まとめ
累積制度は、複数の協定締約国で生産された原産材料や加工を、最終製品の原産地判定に組み込める制度です。
二国間累積、多国間累積、対角累積などの種類があり、CPTPPやRCEPなど協定ごとに扱いが異なります。
実務では、材料が締約国から来ているというだけでなく、その材料自体が協定上の原産材料であることを確認する必要があります。
サプライヤー証明書、原産品申告書、RVC計算資料、材料表、デミニミス規定との関係、輸送書類を整理し、税関確認に対応できる状態にしておくことが重要です。
