遅延損害と貨物海上保険

Delay Damages and Marine Cargo Insurance

遅延損害と貨物海上保険とは、貨物の輸送又は引渡しが遅れたことによって生じた滅失、損傷、費用又は経済的損失が、貨物海上保険上どのように扱われるかを整理する論点です。

ICC(A)、ICC(B)、ICC(C) 1/1/09では、Clause 4.5に共通して遅延によって生じた滅失、損傷又は費用を除外する規定があります。この免責は、遅延自体が担保危険によって生じた場合にも適用される構造となっています。

そのため、遅延免責は「貨物に物的損害がなければ保険対象外」というだけの問題ではありません。輸送期間の長期化によって食品が腐敗した場合のように、貨物に物的な品質損害が生じていても、その損害原因が遅延であればClause 4.5が問題となります。

一方、貨物が遅延している間に倉庫火災、漏水、盗難、異常な衝撃、冷凍機故障その他の別個の事故が発生し、それによって貨物が損傷した場合には、「遅延中に事故が起きた」ことと「遅延によって損害が生じた」ことを区別する必要があります。

また、Clause 4.5はClause 2によって支払われる費用を明示的に例外としています。したがって、遅延が関係する案件でも、共同海損・救助料についてはClause 2の要件を別途確認します。

本記事では、ICC 1/1/09 Clause 4.5を中心に、遅延免責の条文構造、MIA 1906 Section 55との関係、物的損害との因果関係、Clause 2・Clause 4.4・Clause 18との区別、冷凍・冷蔵貨物、保険期間、デマレージ・ディテンション及びフォワーダー実務を整理します。

この記事で扱う範囲

項目 この記事で扱う内容 他記事で扱う内容
ICC Clause 4.5 遅延によって生じた滅失、損傷又は費用の免責構造 外航貨物海上保険で補償されない損害で一般免責全体を扱う
ICC(A)・ICC(B)・ICC(C) 三条件に共通する遅延免責の基本 各ICC条件記事でそれぞれの担保危険を扱う
貨物固有の性質 時間経過と貨物自体の劣化性が競合する場合の切り分け 貨物固有の性質と保険免責でClause 4.4を詳しく扱う
遅延中の別事故 遅延そのものと、遅延中の火災・濡損・盗難・温度事故等を区別すること 各損害・事故原因の記事で個別危険を扱う
共同海損・救助料 Clause 4.5の明示的なClause 2例外との関係 共同海損の記事で保証・分担・精算を詳しく扱う
冷凍・冷蔵貨物 遅延による自然な品質低下と別個の温度管理事故の区別 冷凍・冷蔵貨物の記事で温度特約等を詳しく扱う
保険期間 長期滞留中の事故で保険期間を別途確認する必要性 輸送区間と保険期間でTransit Clauseを詳しく扱う
デマレージ・ディテンション 遅延による費用と貨物保険上の損害を区別すること デマレージ・ディテンション・保管料の記事で費用負担を扱う
運送人責任 貨物保険の遅延免責と運送人の責任を分けること 運送人責任・NVOCC責任の記事で詳しく扱う

Clause 4.5の基本構造

Clause 4.5を理解するうえで重要なのは、「遅延が発生したか」だけではなく、請求している損害が遅延によって生じたものかを確認することです。

確認要素 確認する内容 実務上の意味 主な資料
遅延の存在 予定された輸送又は引渡しと実際の日程との差 まず何日・どの区間で遅れたかを確定する Booking、本船スケジュール、到着通知、搬出記録
請求する損害 物的損害、品質低下、価格下落、違約金、費用等 「遅れた」という事実と請求項目を分ける 貨物写真、検査資料、契約書、請求書
遅延との因果関係 その損害が時間経過・到着遅れによって生じたか Clause 4.5の中心となる判断 時系列、品質資料、市場資料、専門鑑定
遅延原因 海難、港湾混雑、ストライキ、通関、航路変更等 遅延原因が担保危険でもClause 4.5は問題となる 船会社通知、港湾資料、事故報告
別個の事故 遅延中に火災、水濡れ、盗難、機器故障等が発生したか 遅延が単なる背景事情なのか損害原因なのかを区別する 事故報告、写真、温度ログ、警察届
Clause 2 共同海損・救助料に該当する費用か Clause 4.5にはClause 2費用の明示的例外がある 共同海損宣言、Average Adjuster資料
他の免責 貨物固有の性質、通常減耗等も関係するか 一つの案件で複数条項が問題となる場合がある 貨物仕様、品質資料、重量記録
保険期間 別個の事故が発生した時点で保険が継続していたか 遅延免責と期間外事故を混同しない 保険証券、搬入・搬出・保管記録

「遅延の原因」と「遅延による損害」を分ける

Clause 4.5の特徴は、遅延自体が担保危険によって発生した場合でも、遅延によって生じた損害を原則として除外している点です。

例えば、本船火災という担保危険のため本船が避難港へ入港し、輸送が20日遅れたとします。

火災によって貨物自体が焼損した場合は、火災による物的損害として担保条件を検討します。

一方、貨物自体には火災損害がなく、20日の遅延によって季節商品としての販売時期を失っただけであれば、その市場価値低下は遅延によって生じた損害としてClause 4.5が問題となります。

つまり、「遅延原因が保険事故だったか」と「請求している損害が何によって生じたか」は別の質問です。

遅延中に別個の事故が起きた場合

遅延中に貨物へ損害が発生した場合、すべてをClause 4.5で処理することは適切ではありません。

状況 遅延の役割 直接の損害原因候補 主な判断 確認資料
港湾混雑中に倉庫漏水 貨物が倉庫に長く存在する背景 屋根・配管等からの水浸入 濡損が漏水によって生じたか 倉庫事故記録、写真、保管記録
本船待ち中に盗難 滞留期間を長くした事情 盗難・抜荷 盗難危険と保険期間を確認する 警察届、シール、在庫記録
冷凍貨物の滞留中に電源停止 貨物がリーファー内に長く存在する背景 電源停止・冷凍機故障 温度事故が品質損害を生じさせたか 温度・電源・機器記録
遅延だけで賞味期限を経過 損害原因そのもの 時間経過 Clause 4.5及びClause 4.4を確認する 製造日、期限、輸送日程
滞留中の倉庫火災 火災発生時にその場所にいた背景 火災 火災危険と保険期間を確認する 消防資料、保管記録、保険証券

重要なのは、遅延が貨物をその場所に長く留めたというだけなのか、遅延という時間経過自体が損害を発生させたのかを区別することです。

Clause 2の共同海損・救助料との関係

Clause 4.5は、遅延による滅失、損傷又は費用を除外する一方で、Clause 2により支払われる費用を明示的に例外としています。

Clause 2は、運送契約及び適用される法・実務に従って算定又は決定される一定の共同海損・救助料を扱います。

例えば、本船火災により避難港へ入港し、共同海損が宣言された結果、航海が長期間遅れた場合でも、共同海損分担金については「遅延が関係しているからClause 4.5で全部免責」と判断するものではありません。

その費用がClause 2の要件を満たすかを独立して確認します。

請求項目 主な原因 Clause 4.5との関係 別途確認する条項
販売機会喪失 到着遅れ 遅延による損害として問題となる Clause 4.5
遅延による貨物品質低下 時間経過 物的損害でもClause 4.5が問題となる Clause 4.4・4.5
共同海損分担金 共同海損行為 Clause 4.5の明示的例外を確認する Clause 2
救助料 救助行為 Clause 2の要件を別途確認する Clause 2
倉庫漏水による濡損 漏水事故 遅延中でも直接原因が別事故ならその危険を確認する 適用ICC、保険期間

MIA 1906 Section 55との関係

MIA 1906 Section 55(2)(b)には、遅延が担保危険によって生じた場合であっても、遅延によって近因的に生じた損害について、保険者は原則として責任を負わないという遅延免責の原則があります。

ICC 1/1/09 Clause 4.5も、担保危険によって遅延が生じた場合を含め、遅延によって生じた滅失、損傷又は費用を除外する構造を採っています。

ICCではさらにClause 2費用について明示的な例外を置いているため、個別案件ではMIA上の一般原則だけでなく、実際に保険契約へ組み込まれたICCその他の約款を確認します。

Clause 18 Avoidance of Delayとの違い

ICC 1/1/09には、Clause 4.5とは別にClause 18 Avoidance of Delayがあります。

Clause 18では、被保険者が自己の支配可能なすべての事情についてreasonable despatchで行動することが保険条件とされています。

Clause 4.5は「遅延によって生じた損害をどう扱うか」という免責の問題であるのに対し、Clause 18は「被保険者が輸送について不合理に遅滞しないこと」を求める別の規定です。

条項 中心論点 典型的な確認 実務上の区別
Clause 4.5 損害が遅延によって生じたか 時間経過と損害の因果関係 損害原因の問題
Clause 18 被保険者が支配可能な事情でreasonable despatchを尽くしたか 指示、手配、貨物引取り等の対応時期 被保険者側の行動の問題
Transit Clause 事故時に保険期間が継続していたか 輸送目的、保管、搬出、納品等 保険期間の問題

貨物の物的損害と経済的損失を区別する

損害 具体例 遅延との関係 主な確認
販売機会喪失 季節商品を販売できなかった 典型的な遅延による経済的損失 到着日、販売時期、貨物状態
市場価格下落 遅着時には商品相場が低下していた 遅延による価値低下が中心 市場資料、貨物状態
違約金 買主から納期違反ペナルティを請求された 取引契約上の経済的損失 売買契約、違約金条項
操業停止損失 部品到着遅れで工場が停止した 貨物そのものとは別の間接損失 生産資料、納期、貨物状態
腐敗・品質低下 長期間輸送で食品が劣化した 物的・品質損害でも遅延原因ならClause 4.5が問題となる 品質保持期間、温度、輸送日程
遅延中の火災損害 滞留倉庫で貨物が焼損した 遅延とは別の物的事故を確認する 火災原因、保険期間

冷凍・冷蔵貨物では「時間経過」と「温度事故」を分ける

冷凍・冷蔵貨物では、遅延が生じると品質損害が発生しやすいため、Clause 4.5と他の事故原因の切り分けが特に重要です。

状況 主な原因候補 保険上の確認 重要資料
温度正常のまま品質保持期限を経過 時間経過・貨物特性 Clause 4.4・4.5 製造日、期限、温度ログ
遅延中に冷凍機故障 機械故障 別個の温度管理事故と適用特約を確認する Reefer log、alarm、修理記録
遅延中に電源供給停止 電源停止 直接原因と保険条件を確認する Power log、温度記録
温度記録正常だが品質低下 出荷前品質・自然劣化 Clause 4.4との関係を確認する 品質検査、予冷、製造日
温度異常後に貨物温度が上昇 異常温度管理 遅延ではなく温度事故が損害原因か確認する 生データ、貨物中心温度、検査結果

したがって、「遅延していたから品質が悪くなった」「遅延中に故障したからすべて遅延免責」といった単純な判断は避ける必要があります。

保険期間との関係

輸送が遅延しただけで、貨物海上保険が直ちに終了するわけではありません。

一方、長期滞留中に別個の事故が発生した場合には、その事故時点で貨物が適用されるTransit Clause上の通常の輸送過程にあったか、輸送以外の保管へ移行していなかったか、所定の終了事由が発生していなかったかを確認する必要があります。

したがって、「遅延免責」と「保険期間外」は異なる問題です。

遅延によって生じた損害であればClause 4.5が問題となり、遅延中の別事故であれば、その事故原因に加えて事故時点の保険期間を確認します。

デマレージ・ディテンション・保管料との違い

遅延によってデマレージ、ディテンション、倉庫保管料、追加配送費用その他の費用が発生することがあります。

これらは貨物そのものの滅失・損傷とは異なる費用であり、発生したというだけで貨物海上保険から支払われるものではありません。

また、「貨物保険には費用補償もあるから、デマレージもClause 2で出る」と考えることも適切ではありません。Clause 2は共同海損・救助料を対象とする規定であり、通常のデマレージ・ディテンションとは異なります。

費用の種類、発生原因、運送契約、フリータイム、誰の行為又は手続によって発生したかを確認し、貨物保険とは別の費用負担問題として整理します。

遅延損害の制度適用フロー

  1. 適用される保険証券とICCを確認する。
    ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)、特別約款及び貨物別条件を確認します。
  2. 予定輸送と実際の輸送を比較する。
    どこで、いつから、どの程度遅延したかを確定します。
  3. 遅延原因を確認する。
    海難、港湾混雑、ストライキ、通関、航路変更等を整理します。
  4. 請求する損害を項目別に分ける。
    貨物損害、品質損害、市場損失、違約金、保管料等を分離します。
  5. 貨物に物的・品質損害があるか確認する。
    ただし物的損害があるだけでClause 4.5が排除されるわけではありません。
  6. 遅延と損害の因果関係を確認する。
    時間経過そのものが損害を生じさせたかを確認します。
  7. 遅延中の別個の事故を調査する。
    火災、盗難、漏水、機器故障、温度事故等を確認します。
  8. Clause 4.4との関係を確認する。
    貨物固有の性質と時間経過のどちらが問題となるか整理します。
  9. Clause 2の適用を確認する。
    共同海損・救助料であればClause 4.5の例外を含め別途判断します。
  10. Clause 18を確認する。
    被保険者が支配可能な事情について合理的に迅速な対応をしていたかを確認します。
  11. 保険期間を確認する。
    遅延中の別事故についてTransit Clause上の担保継続を確認します。
  12. 損害軽減措置を行う。
    貨物状態を監視し、二次損害を合理的に防止します。
  13. 第三者への権利を保全する。
    契約運送人、実運送人、倉庫その他の関係者へ必要な通知を行います。
  14. 保険会社・保険代理店へ資料を提出する。
    遅延、別事故、損害及び各請求項目を分けて報告します。

実務で問題になりやすいケース

ケース 主な争点 確認資料 判断のポイント 初動対応
季節商品が販売時期を逸失 貨物無損傷で市場価値だけ低下 輸送日程、販売計画、貨物状態 遅延による経済的損失か 貨物損害と営業損失を分ける
冷凍貨物が遅延中に解凍 時間経過かリーファー故障か 温度、電源、機器記録 直接原因を特定する 生データと検体を確保する
ストライキ滞留中に倉庫漏水 ストライキ・遅延か漏水事故か 倉庫記録、漏水写真、保管期間 遅延と別事故を区別する 倉庫・保険側へ通知する
本船遅延で違約金発生 貨物損害か取引上の損害か 売買契約、違約金通知 貨物自体の損害と切り分ける 請求項目を区分する
通関遅延でデマレージ発生 貨物保険か費用負担か 通関記録、船会社請求書 Clause 2と混同しない 遅延原因と契約関係を確認する
遅延中に盗難 遅延か盗難危険か 警察届、シール、在庫記録 盗難の発生時期・保険期間を確認する 証拠と第三者請求を保全する
長期輸送で食品腐敗 Clause 4.4と4.5 期限、温度、出荷時品質 時間経過と貨物特性を分析する 品質検査を行う
長期滞留中に火災 保険期間と火災危険 保管理由、火災記録、保険証券 遅延免責と期間問題を分ける 火災証拠と保管記録を保存する

制度適用シナリオ1―季節商品が遅延で販売時期を逃した場合

事例:横浜からロサンゼルス向けに、保険金額6,000万円の冬季限定衣料品をICC(A)で輸出したとします。

本船の機関事故とその後のスケジュール変更により、予定より25日遅れて貨物が到着しました。

貨物自体には破損、濡損、盗難その他の物的損害はありませんでした。しかし、主要販売期間を逸失したため、買主は値引販売を余儀なくされ、荷主は2,500万円の販売価値低下を主張しました。

この場合、機関事故が保険上検討される事故であったとしても、請求している2,500万円が機関事故による貨物の物的損害ではなく、25日の到着遅れによる市場・販売上の損失である点が重要です。

Clause 4.5は、遅延自体が担保危険によって生じた場合でも、遅延によって生じた損害を除外する構造です。

したがって、機関事故が存在したという事実だけで販売価値低下が貨物保険の補償対象になるとは判断せず、請求損害の原因を確認します。

制度適用シナリオ2―冷凍貨物の遅延中にリーファー電源が停止した場合

事例:シンガポールから東京向けに、保険金額8,500万円の冷凍水産品を輸送していたとします。

積替港の混雑により7日間の遅延が発生しました。その滞留中、リーファーコンテナへの電源供給が約14時間停止し、貨物温度が上昇しました。到着後、約3,200万円の品質損害が確認されました。

この案件では、「7日間遅延したからClause 4.5」というだけでは不十分です。

遅延は貨物が積替港に滞留する背景となっていますが、実際の品質損害が14時間の電源停止と温度上昇によって生じたのであれば、直接の損害原因として別個の温度管理事故を検討する必要があります。

一方、電源停止以前から品質保持期間の限界に達していた場合には、Clause 4.4やClause 4.5との競合も確認します。

適用される冷凍・冷蔵貨物条件、電源ログ、リーファー生データ、貨物中心温度、出荷時品質、事故時点の保険期間を確認して判断します。

制度適用シナリオ3―港湾ストライキ中の倉庫漏水で貨物が濡損した場合

事例:東京向けに輸入する保険金額4,000万円の電子部品が、欧州積港の港湾ストライキにより12日間倉庫へ滞留していたとします。

滞留中に倉庫屋根から雨水が浸入し、貨物の一部に約1,800万円の濡損が発生しました。

ストライキがなければ貨物は倉庫から既に搬出されていた可能性があります。しかし、それだけで濡損を「遅延によって生じた損害」と確定することはできません。

実際の物的損害が倉庫への雨水浸入によって生じたのであれば、漏水という別個の事故原因、適用されるICC、事故時点の保険期間及び必要に応じStrikes条件との関係を確認します。

この事例では、「遅延が事故発生の機会を作ったこと」と「何が貨物を物理的に損傷させたか」を分けることが重要です。

フォワーダーの関与範囲

この五分類は、法令上又は業界全体で確立された法的分類ではなく、本シリーズにおいて、フォワーダーが契約及び実務上どの範囲まで関与しているかを整理するための分析上の枠組みである。

Standard Five Classifications 一般的な関与 遅延との接点 確認すべき限界 主な対応
1. Simple Intermediary 船会社、荷主、保険側との連絡を行う 遅延情報・変更スケジュールを伝達する 遅延責任や保険金支払を独自に確定しない 事実と未確認事項を分けて通知する
2. Cargo Transportation Service Provider 集荷、保管、配送、温度管理等を行う 遅延中の貨物管理が事故原因となる場合がある Clause 4.5と自社の作業責任を混同しない 保管・温度・作業記録を保存する
3. NVOCC / House B/L Issuer House B/Lを発行し契約運送人となる 遅延又は滞留中事故について運送責任が問題となり得る 貨物保険の遅延免責と運送人責任は別問題 House B/L、裏面約款、事故区間を確認する
4. Door-to-Door Single Contractor 輸送全体を一括して受託する 複数区間の遅延・保管状況を統合して把握する 遅延したというだけで全損害を負担するとは限らない 遅延原因と各下請関係を整理する
5. Agent / Coordinator for Specific Operations 代替輸送、保管、サーベイ等を調整する 遅延拡大防止や事故証拠収集を支援する 代理権を超えて責任・補償を確定しない 指示記録と現地資料を保存する

五分類だけで遅延責任又は保険上の補償可否を決めることはできません。

実際には、フォワーダーが契約運送人(Contracting Carrier)、実運送人(Actual Carrier)又は単なる手配者のいずれであるか、スケジュール、保管、温度管理、代替輸送等についてどの範囲を受託していたかを確認します。

事故時に確認すべき資料

資料 確認内容 主な目的 注意点
保険証券・Certificate ICC、特約、保険期間 Clause 4.5等の適用条件を確定する ICC(A)という名称だけで判断しない
B/L・AWB 運送人、輸送区間、予定経路 輸送・責任関係を確認する 実際の経路変更も確認する
Booking・スケジュール 予定日と実際の日程 遅延期間を確定する 変更履歴を残す
遅延通知 遅延理由と関係者の説明 遅延原因を確認する 推測と確認済み事実を区別する
搬入・搬出・保管記録 貨物所在と滞留期間 事故区間・保険期間を確認する 事故発見日と発生日を分ける
貨物写真・検品資料 物的・品質損害の有無 遅延損失と貨物損害を分ける 開梱前後を記録する
温度・リーファー記録 電源、設定、温度異常 冷凍貨物の別個の事故を確認する 生データを保存する
消防・倉庫・警察資料 火災、漏水、盗難等 遅延中の別事故を確認する 早期取得が重要
共同海損資料 GA宣言、保証、分担金 Clause 2の検討 Clause 4.5と一括しない
取引契約・請求書 違約金、市場損失、追加費用 請求項目を区分する 貨物損害とは別に整理する

よくある誤解

誤解 実際の考え方 実務上の注意点
貨物に物的損害がなければClause 4.5、物的損害があれば補償される 物的・品質損害でも、その原因が遅延ならClause 4.5が問題となります。 損害の種類だけでなく原因を確認します。
遅延原因が担保危険なら遅延損害も補償される Clause 4.5は担保危険が遅延を生じさせた場合も対象とする構造です。 遅延原因と請求損害の原因を分けます。
遅延中に起きた損害はすべて遅延免責になる 遅延中に火災、盗難、漏水等の別個の事故が生じる場合があります。 直接の損害原因を確認します。
港湾ストライキ中の貨物損害はすべて遅延損害である 暴動、火災、漏水等が直接原因となる場合があります。 War・Strikes及び通常ICCも確認します。
冷凍貨物が遅延中に傷めばすべてClause 4.5である 電源停止や冷凍機故障等の別事故を確認する必要があります。 温度と機器の生データを確認します。
デマレージはClause 2の費用補償で支払われる Clause 2は共同海損・救助料の規定です。 通常のデマレージと区別します。
輸送が長引けば自動的に保険期間外になる 遅延だけで直ちに終了するわけではなく、Transit Clauseを確認します。 保管目的・所在地・終了事由を確認します。
貨物保険で遅延免責なら運送人にも責任はない 保険免責と運送契約上の責任は別問題です。 第三者への請求期限を保全します。
本船遅延なら船会社・フォワーダーが必ず違約金を負担する 責任は運送契約、約款、遅延原因等によって異なります。 貨物保険と運送責任を分けます。
共同海損が遅延を伴えば分担金もClause 4.5で免責になる Clause 4.5はClause 2による費用を明示的に例外としています。 共同海損はClause 2へ当てはめます。

判断チェックリスト

確認場面 確認する相手 確認事項 問題がある場合の対応
遅延発生時 船会社、フォワーダー、倉庫等 遅延原因、開始時期、予想期間 確認済み事実と推測を分けて記録する
貨物状態確認時 荷受人、倉庫、配送会社 物的損害・品質損害の有無 写真・検品記録を保存する
Clause 4.5確認時 保険会社、保険代理店 遅延と請求損害との因果関係 損害項目ごとに整理する
別事故確認時 運送人、倉庫、サーベイヤー 火災、盗難、漏水、衝撃等 事故資料を早期確保する
冷凍貨物確認時 運送人、ターミナル、リーファー業者 電源、機器、温度、異常時間 生データを保存する
共同海損時 保険会社、船会社、Average Adjuster Clause 2対象費用 遅延損害と分けて処理する
保険期間確認時 保険会社、倉庫、運送人 貨物所在地、保管目的、輸送継続状況 Transit Clauseへ当てはめる
デマレージ発生時 船会社、荷主、通関業者等 発生理由、フリータイム、費用負担 貨物保険と契約費用を分ける
Clause 18確認時 荷主、フォワーダー、保険会社 支配可能な事情についての対応時期 対応履歴を保存する
第三者請求時 契約運送人、実運送人、倉庫等 責任、Claim Notice、出訴期限 保険判断を待たず権利を保全する
法的紛争時 保険会社、海事弁護士 Clause 4.5、近因、Clause 2、責任関係 時系列と証拠を整理して相談する

損害軽減と第三者への権利保全

輸送が遅延した場合でも、被保険者は貨物損害の拡大を放置すべきではありません。

冷凍貨物であれば電源・温度状態を確認する、濡損が疑われる貨物を安全な乾燥環境へ移す、盗難リスクが高まっている場合には適切な保管場所を確保する等、状況に応じた合理的な損害軽減措置が必要になる場合があります。

また、Clause 18との関係でも、被保険者が支配可能な事情について不必要な遅延を拡大させないことが重要です。

一方、貨物を移動・修理・廃棄する前には、損害原因の立証に必要な写真、温度記録、貨物サンプル、倉庫記録その他の証拠を可能な範囲で保存します。

貨物保険でClause 4.5が適用されるかどうかと、契約運送人、実運送人、倉庫、ターミナル、通関業者その他の関係者が責任を負うかどうかは別問題です。

保険会社の最終判断を待つことで運送人への通知期限又は出訴期間を失わないよう、Claim Noticeその他の権利保全を並行して行います。

保険会社・保険代理店・海事弁護士へ相談すべき場面

通常の遅延通知、貨物状態の確認及び保険条件の照会は、まず保険会社又は保険代理店と進めます。ただし、次のような場合には、海上保険・国際運送に詳しい海事弁護士等への相談を検討します。

  • 遅延と別個の貨物事故のどちらが直接の損害原因か争われている場合
  • 担保危険による遅延とClause 4.5の関係が争われている場合
  • Clause 4.4の貨物固有の性質とClause 4.5の遅延が競合している場合
  • Clause 2の共同海損・救助料とClause 4.5の例外関係が問題となっている場合
  • 長期滞留によって保険期間終了の有無が争われている場合
  • Clause 18のreasonable despatchが問題となっている場合
  • 冷凍・冷蔵貨物で遅延と温度事故の因果関係が争われている場合
  • 高額な違約金、操業停止損失又は市場損失と貨物損害が同時に請求されている場合
  • 貨物保険の遅延免責と契約運送人・実運送人等の遅延責任が同時に争われている場合
  • 海外の倉庫、ターミナル、船会社等から事故資料を緊急に確保する必要がある場合
  • 保険金請求又は第三者への通知・出訴期限が迫っている場合

実務上のポイント

Clause 4.5で最も重要なのは、「遅延した」という事実だけでなく、何の損害を、何が原因で請求しているのかを確認することです。

貨物に物的損害がなく、市場価格下落、販売機会喪失、違約金等だけが発生している場合は、典型的な遅延・経済損失の問題となります。

一方、貨物に物的又は品質損害があっても、その損害が時間経過によって生じたのであればClause 4.5が問題となります。したがって、「物的損害があるから遅延免責ではない」という整理も正確ではありません。

反対に、遅延中に火災、盗難、漏水、冷凍機故障等の別個の事故が発生した場合には、遅延を単なる背景事情とし、実際の損害原因となった事故を個別に検討する必要があります。

また、Clause 4.5にはClause 2費用の明示的な例外があり、Clause 18にはreasonable despatchという別の規定があります。遅延案件を一つの条項だけで判断しないことが重要です。

まとめ

ICC 1/1/09 Clause 4.5は、遅延によって生じた滅失、損傷又は費用を除外する重要な一般免責です。

この免責は、遅延自体が担保危険によって生じた場合にも適用される構造であるため、「保険事故が原因で本船が遅れたから、その遅延損害も補償される」と単純に考えることはできません。

また、Clause 4.5は経済的損失だけを対象とする免責ではありません。時間経過によって貨物自体に品質損害が生じた場合にも、その損害原因が遅延であればClause 4.5が問題となります。

一方、遅延中に火災、濡損、盗難、冷凍機故障その他の別個の事故が貨物損害を生じさせた場合には、遅延とその事故を分けて検討します。

Clause 4.5にはClause 2による共同海損・救助料の明示的例外があり、Clause 18には被保険者が支配可能な事情についてreasonable despatchで行動する別の規定があります。

実務では、遅延原因、請求する損害、直接の損害原因、保険期間、共同海損・費用、貨物固有の性質及び第三者責任を順番に切り分け、保険会社への通知と並行して損害軽減、証拠保存及び第三者への権利保全を進めることが重要です。

同義語・別表記

  • 遅延損害
  • 納期遅れ
  • 納品遅延
  • 延着損害
  • Delay Loss
  • Loss Caused by Delay
  • Delay Damage

関連用語