外航貨物海上保険―戦争危険とストライキ危険

Marine Cargo Insurance — War Risks and Strikes Risks

戦争危険・ストライキ危険とは、外航貨物海上保険において、通常のInstitute Cargo Clauses(ICC)とは別に確認される特別な危険です。

ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)では、戦争、内乱、革命、反乱その他の戦争危険や、ストライキ、暴動、騒乱、テロ行為その他のストライキ危険が通常条件から除外されています。そのため、これらの危険について補償を必要とする場合は、Institute War Clauses (Cargo)やInstitute Strikes Clauses (Cargo)等が実際の保険契約に付帯されているかを確認する必要があります。

ただし、「Warを付けた」「Strikesを付けた」というだけで、紛争・暴動・ストライキに関係するすべての損害が補償されるわけではありません。事故原因、対象危険、保険期間、対象区間、免責、航路変更、追加保険料、制裁条項その他の契約条件を個別に確認します。

特に重要なのは、Institute War Clauses (Cargo)とInstitute Strikes Clauses (Cargo)では、保険期間の構造が大きく異なることです。標準的なInstitute War Clauses (Cargo) 1/1/09は、原則として貨物がoversea vesselへ積載された時から戦争危険担保が開始する独自のTransit Clauseを持ちます。一方、Institute Strikes Clauses (Cargo) 1/1/09は、倉庫等で輸送開始のため貨物が最初に動かされた時から通常の輸送過程中継続する構造を持ちます。

本記事では、特記のない限りInstitute War Clauses (Cargo) 1/1/09及びInstitute Strikes Clauses (Cargo) 1/1/09を中心に、通常ICCとの関係、対象危険、免責、保険期間、航路変更、制裁、高リスク地域、事故対応及びフォワーダー実務を整理します。実際の契約では保険会社独自の特別約款、Termination of Transit Clause、Sanction Limitation and Exclusion Clauseその他の追加条件が付帯されることがあるため、個別案件では保険証券一式を確認する必要があります。

この記事で扱う範囲

項目 この記事で扱う内容 他記事で扱う内容
戦争危険 Institute War Clauses (Cargo)の対象危険、免責、期間及び航路変更 ICC(A)・ICC(B)・ICC(C)で通常貨物危険を扱う
ストライキ危険 Institute Strikes Clauses (Cargo)の対象危険、免責、期間及び事故原因 ICC各条件で通常の貨物損害を扱う
通常ICCとの関係 ICC Clauses 6・7で除外された危険を別約款で検討する構造 外航貨物海上保険で補償されない損害でClauses 4~7の免責構造全体を扱う
オールリスクとの関係 ICC(A)でもWar・Strikesが当然に含まれるわけではないこと オールリスク条件の誤解で顧客説明・期待値管理を扱う
保険期間 WarとStrikesで異なるTransit Clauseの構造 外航貨物海上保険の保険期間で通常ICCの期間を詳しく扱う
遅延 戦争・ストライキが原因でも遅延損害が当然には補償されないこと 遅延損害で物的損害と経済的損失を詳しく扱う
制裁 制裁が担保危険ではなく引受・支払制限の別問題となること 安全保障貿易管理・制裁関連の記事で取引規制を扱う
高リスク航路 紛争周辺海域、経路変更、追加寄港等での付保確認 輸送区間・保険期間の記事で通常輸送区間を扱う
事故対応 事故原因、約款、対象区間、損害軽減、第三者への権利保全 運送人責任・代位求償の記事で責任追及を詳しく扱う

通常ICCとWar・Strikesの基本構造

通常のICC(A)、ICC(B)、ICC(C)では、戦争危険はClause 6、ストライキ・暴動・テロ等はClause 7で原則として除外されています。

そのため、事故が火災、破損、滅失等の外形を持っていても、その原因が戦争、暴動、テロその他の通常ICCから除外された危険である場合には、通常ICCだけで判断せず、Institute War Clauses又はInstitute Strikes Clausesが付帯されているかを確認します。

例えば、倉庫火災でも、電気設備の偶発的な出火と、政治的動機による放火では、検討する約款が異なる可能性があります。「火災だからICC(A)」と損害の外形だけで判断するのではなく、誰が、どのような原因・動機で事故を発生させたかを確認することが重要です。

Institute War ClausesとInstitute Strikes Clausesの違い

項目 Institute War Clauses (Cargo) Institute Strikes Clauses (Cargo) 実務上の意味 主な確認資料
主な対象危険 戦争、内乱、革命、反乱、暴動から生じる内戦的争乱、交戦国による敵対行為等 ストライキ参加者、ロックアウトされた労働者、労働争議・暴動・騒乱参加者等による損害 事故名称ではなく原因を分類する 公的事故報告、警察資料、船会社通知
拿捕・抑留等 Clause 1.1の戦争危険から生じるcapture、seizure、arrest、restraint、detainment等をClause 1.2で扱う 通常の担保対象ではない 単なる行政差止め等を自動的にWar riskとしない 当局命令、拿捕理由、事故背景
遺棄兵器 遺棄された機雷、魚雷、爆弾等をClause 1.3で扱う 通常の担保対象ではない 戦闘終了後の遺棄兵器事故も論点となり得る 当局・海事事故資料
テロ 標準War ClausesのClause 1で一般的なテロ危険を包括的に列挙しているわけではない Clause 1.2・1.3で一定のテロ行為及び政治的・思想的・宗教的動機による行為を扱う 「テロ=War」と機械的に分類しない 行為者、組織、動機、公的資料
保険始期 原則として貨物がoversea vesselへ積載された時 原則として出発地倉庫等で輸送開始のため貨物が最初に動かされた時 Warは通常のWarehouse-to-Warehouseと同じではない 積載記録、B/L、搬入記録
最終港での終期 原則として本船から荷卸しされた時又は本船到着日の翌日ではなく到着日深夜から起算する所定15日経過のうち早い時 最終倉庫での荷卸し、通常輸送外保管への移行又は最終港荷卸し後60日等のうち早い時 WarとStrikesでは期間管理が大きく異なる 本船到着、荷卸し、搬出、納品記録
遅延 Clause 3.5で遅延による損害を除外 Clause 3.5で遅延による損害を除外 危険が付帯されても納期損失等が当然には補償されない 貨物状態、輸送日程、損害明細
労働力不足 中心的な論点ではない Clause 3.7でストライキ等による労働力の欠如・不足・留保から生じる損害を除外 ストライキによる単なる作業停止と貨物への物的損害を区別する 港湾情報、貨物損害資料
航路・仕向地変更 Clause 6で通知・料率・条件確認が問題となる Clause 7で通知・料率・条件確認が問題となる 高リスク地域への経路変更は早期連絡が重要 Booking、航路変更通知、保険会社回答

Institute War Clauses (Cargo) 1/1/09の主な構造

Clause 主な内容 実務上の意味 注意点
Clause 1 戦争危険による貨物の滅失・損傷 戦争、内乱、革命、反乱等及び一定の拿捕・抑留、遺棄兵器を扱う Clause 1.2の拿捕等はClause 1.1の危険から生じることが標準文言上重要
Clause 2 共同海損・救助費用 担保危険を回避するために生じる一定の共同海損・救助費用を扱う 貨物の直接物損だけを見るものではない
Clause 3 一般免責 故意、通常減耗、梱包不備、固有の性質、遅延、航海挫折等を除外する Warを付帯しても無制限担保ではない
Clause 4 不堪航・不適合 被保険者の認識、積込主体等によって免責を検討する 単なるコンテナ欠陥だけで直ちに結論を出さない
Clause 5 戦争危険固有のTransit Clause 原則としてoversea vesselへの積載から担保が開始する 通常ICCのWarehouse-to-Warehouseと混同しない
Clause 6 Change of Voyage 被保険者が仕向地を変更した場合は保険者へ迅速に通知する 料率・条件変更又は追加保険料が必要となり得る
Clause 8 Insurable Interest 損害時の被保険利益を確認する 保険が付いていることと請求権の存在は別問題
Clause 11 Minimising Losses 損害軽減及び第三者への権利保全を求める 保険請求だけで事故対応を終えない
Clause 14 Law and Practice 標準約款はEnglish law and practiceに従う 実際の保険契約全体と準拠法を確認する

戦争危険の保険期間は通常のWarehouse-to-Warehouseと異なる

Institute War Clauses (Cargo) 1/1/09で特に重要なのがClause 5です。

標準的なWar Clausesでは、戦争危険担保は原則として、被保険貨物又はその一部がoversea vesselへ積載された時に開始します。

最終港では、原則として貨物がoversea vesselから荷卸しされた時、又は本船が最終港・最終荷卸地へ到着した日の深夜から起算して15日が経過した時のうち、早い方で終了します。

したがって、出荷地の工場から積港までのトラック輸送や、揚港から最終納品先までの国内配送について、「通常の貨物保険にWarを付けたから戦争危険も当然Warehouse-to-Warehouseである」と考えることはできません。

中間港又は避難港で貨物が荷卸しされる場合には、Clause 5.2等により15日の期間や再積載時の再付着、追加保険料等が問題になります。また、航海が予定外の港で終了し、その後再輸送する場合にも通知及び再付着条件を確認する必要があります。

一方、機雷・遺棄魚雷等については、Clause 5.4に別の拡張があります。したがって、War Clausesの期間を単純な一つの始期・終期だけで説明しないことが重要です。

Institute Strikes Clauses (Cargo) 1/1/09の主な構造

Clause 主な内容 実務上の意味 注意点
Clause 1.1 ストライキ参加者、ロックアウトされた労働者、労働争議・暴動・騒乱参加者等 それらの者によって貨物に生じた滅失・損傷を扱う ストライキが存在しただけでは足りない
Clause 1.2 一定のテロ行為 政府へ暴力等によって影響を与えようとする組織に関係する一定の行為を扱う 事故原因・行為者・組織との関係を確認する
Clause 1.3 政治的、思想的又は宗教的動機による行為 動機が保険事故分類の重要な要素となる 単なる器物損壊と区別する
Clause 2 共同海損・救助費用 担保危険を避けるための一定の費用を扱う 直接物損だけに限定されない
Clause 3.5 遅延免責 担保危険が遅延原因でも遅延による損害を原則除外する 物的損害と商業損失を区別する
Clause 3.7 労働力の欠如・不足・留保 ストライキ等による単なる作業不能・労働力不足から生じる損害を除外する 「ストライキが原因なら全部対象」という理解を避ける
Clause 3.8 航海・輸送の挫折に基づく請求 輸送計画が失敗しただけの経済的損失等を区別する 貨物の物的損害を確認する
Clause 3.10 戦争危険 戦争、内乱、革命等をStrikes Clauses側から除外する WarとStrikesを混同しない
Clause 5 Transit Clause 通常の輸送過程を基礎として保険期間を定める War Clausesの期間とは大きく異なる
Clause 6 Termination of Contract of Carriage 予定外の場所で運送契約が終了した場合の継続担保を扱う 迅速な通知及び追加保険料が重要
Clause 7 Change of Voyage 仕向地変更を迅速に保険者へ通知する 新条件の合意前に事故が起きる場合もある
Clause 11 Minimising Losses 損害軽減及び第三者への権利保全を求める 事故通知と並行して行う
Clause 14 Law and Practice 標準約款はEnglish law and practiceに従う 実際の契約全体を確認する

ストライキ発生とストライキ損害は同じではない

Institute Strikes Clausesで最も誤解されやすい点の一つは、「港湾ストライキが発生したから、その結果生じた損失はすべてストライキ危険で補償される」という考え方です。

例えば、港湾労働者のストライキにより貨物の搬出が10日遅れ、その結果販売時期を逸して商品価格が下落したとしても、貨物そのものに物的損害が生じていなければ、通常の貨物損害とは異なる問題です。

また、Institute Strikes Clauses (Cargo) 1/1/09 Clause 3.7は、ストライキ、ロックアウト、労働争議、暴動又は騒乱から生じる労働力の欠如・不足・留保による損害を除外しています。

一方、暴動参加者が倉庫へ放火し、その火災によって貨物が焼損した場合には、その物的損害がClause 1の担保危険によって生じたかを検討します。

したがって、「ストライキがあったか」ではなく、「誰のどの行為によって、貨物にどのような物的損害が生じたか」を確認する必要があります。

拿捕・差押え・抑留は理由を確認する

Institute War Clauses (Cargo) 1/1/09 Clause 1.2は、capture、seizure、arrest、restraint又はdetainmentを扱いますが、標準文言ではClause 1.1の戦争危険から生じるものとの関係が重要です。

そのため、税関手続、債権執行、輸入規制違反、制裁措置その他の行政上・商取引上の理由による貨物差止めを、名称だけで「Warの拿捕・抑留」と判断してはいけません。

また、Clause 3.7では、航海又は海上冒険のloss or frustrationに基づく請求が除外されています。したがって、貨物が一定期間動かなくなったというだけで、その間の経済的損失、販売損失又は航海挫折そのものが当然に補償されるわけではありません。

拿捕・差押え・抑留案件では、行為主体、法的根拠、軍事的背景、戦争危険との関係、貨物の実際の滅失・損傷及び適用される追加特約を確認します。

制裁はWar riskそのものではない

制裁対象地域、制裁対象者又は制裁対象取引に関係する輸送では、戦争危険とは別に制裁上の問題が発生することがあります。

制裁はそれ自体がInstitute War Clausesの「担保危険」を意味するものではありません。保険証券にSanction Limitation and Exclusion Clauseその他の制裁条項が付帯されている場合、保険会社が保険提供、保険金支払その他の給付を行うことで適用される制裁・禁止・制限に抵触するかが別途問題になります。

したがって、「War coverが付いているから制裁対象地域でも補償される」「制裁によって貨物が止められたからWar claimになる」と判断するのは適切ではありません。

制裁リスクが疑われる場合は、仕向地、経由地、荷送人、荷受人、銀行、船舶、貨物、実質的支配者等の情報を整理し、保険会社・保険代理店及び必要に応じ制裁・貿易管理に詳しい専門家へ確認します。

地域リスク・輸送段階別に確認が必要になる場面

場面 主なリスク 確認する約款・条件 判断上の注意点 実務対応
紛争周辺海域を航行する場合 軍事行動、敵対行為、拿捕、遺棄兵器 Institute War Clauses、追加条件 Warの保険期間と航路条件を確認する 付保前に航路・寄港地を保険側へ照会する
積港までの陸上輸送 政治的暴力、暴動、テロ Institute Strikes Clausesその他の付帯条件 標準War Clausesは原則として本船積載前には開始していない 陸上区間に必要な危険を別途確認する
中間港・避難港での荷卸し 戦争危険、長期滞留 War Clause 5.2等 15日、再積載、追加保険料等を確認する 直ちに保険会社へ通知する
港湾ストライキ 作業停止、遅延、暴動 Strikes Clauses 労働力不足・遅延と物的損害を区別する 貨物損害の有無と事故原因を確認する
暴動・騒乱 放火、破壊、略奪 Strikes Clauses、通常ICC 行為者・動機と物的損害との関係を確認する 警察・消防・現地代理店資料を収集する
テロ行為 倉庫、船舶、車両等への攻撃 Strikes Clauses、Termination of Transit Clause等 付帯されている特別約款による期間制限も確認する 証券一式と事故原因を確認する
制裁関係輸送 引受・支払制限、貨物差止め Sanctions Clause等 制裁とWar riskを混同しない 船積前に関係者・貨物・地域を照会する
紛争回避による航路変更 高リスク地域への新規寄港、追加航海 War Clause 6、Strikes Clause 7等 通知・料率・条件変更が必要となり得る 変更確定前後に速やかに保険側へ通知する

戦争危険・ストライキ危険の制度適用フロー

  1. 適用される保険証券一式を確認する。
    ICCだけでなくInstitute War Clauses、Institute Strikes Clauses、Termination of Transit Clause、Sanctions Clauseその他の特別条件を確認します。
  2. 約款版を確認する。
    1/1/09その他、実際に適用されている版を確認します。
  3. 被保険貨物と被保険利益を確認する。
    事故貨物が保険の目的であり、請求者が損害時に被保険利益を有するかを確認します。
  4. 事故場所と時刻を確定する。
    工場、積港、本船上、中間港、揚港、倉庫、国内配送等のどこで事故が発生したかを整理します。
  5. WarとStrikesそれぞれの保険期間へ当てはめる。
    特にWarは通常ICCと始期・終期が異なることに注意します。
  6. 事故原因を特定する。
    軍事行動、拿捕、暴動、ストライキ参加者の行為、テロ、政治的動機等を確認します。
  7. 対象危険へ当てはめる。
    War Clause 1又はStrikes Clause 1に該当するかを確認します。
  8. 貨物損害との因果関係を確認する。
    地域情勢やストライキが存在するだけでなく、その危険が貨物の滅失・損傷を生じさせたかを確認します。
  9. 免責を確認する。
    遅延、梱包不備、固有の性質、労働力不足、航海挫折等を確認します。
  10. 航路・仕向地変更を確認する。
    通知義務、追加保険料及び新たな引受条件を確認します。
  11. 制裁その他の追加条件を確認する。
    War・Strikesとは別に保険提供・支払制限が生じないかを確認します。
  12. 損害軽減と第三者への権利保全を行う。
    貨物を保全し、運送人、倉庫その他の第三者への権利を保存します。
  13. 保険会社・保険代理店へ資料を提出する。
    事故原因、適用約款、期間、損害額、公的資料等を整理して補償判断につなげます。

実務で問題になりやすいケース

ケース 主な原因・争点 確認資料 判断のポイント 初動対応
紛争関連で本船が拿捕された Clause 1.1の危険から生じるClause 1.2の拿捕等か 当局命令、船会社通知、軍事情勢、保険証券 拿捕という名称だけでWar claimと判断しない 保険会社へ即時通知し法的根拠を確認する
港湾ストライキで貨物搬出が停止 単なる労働力不足・遅延か 港湾通知、貨物状態、搬出記録 Clause 3.7及び遅延免責を確認する 貨物に物的損害がないか確認する
暴動参加者が倉庫へ放火 Strikes Clause 1に該当する行為か 警察・消防報告、監視映像、貨物写真 火災の原因・行為者・動機を確認する 公的資料とサーベイ資料を保存する
テロ行為で港湾貨物が損傷 テロの定義、期間、特別約款 当局資料、証券、事故報告 Strikes Clauseと追加の期間条件を確認する 事故原因の確定と保険通知を優先する
中間港へ緊急荷卸し War coverの15日・再付着条件 本船到着日、荷卸し記録、再積載予定 通常ICCの60日ルールと混同しない 保険者へ迅速に通知する
紛争回避で寄港地変更 Change of Voyage Booking、船会社通知、新航路、保険回答 変更後条件・追加保険料を確認する 航路変更を把握した時点で通知する
制裁関係で貨物が差し止められた War riskか制裁上の別問題か 当局通知、Sanctions Clause、取引関係者情報 行政差止めを自動的にWarのdetainmentとしない 保険側と法務へ早期照会する
ストライキで季節商品が販売時期を逸した 遅延による市場損失 貨物状態、販売契約、輸送日程 物的損害と経済的損失を分ける 請求項目を区分して整理する

制度適用シナリオ1―紅海周辺航路で本船が戦争関連の抑留を受けた場合

事例:日本の輸出者が保険金額1億2,000万円の産業機械を、横浜港から紅海周辺を経由する航路で中東向けに輸送したとします。貨物にはICC(A)及びInstitute War Clauses (Cargo)が付帯されていました。

航海中、周辺の武力衝突に関連して本船が武装勢力によって抑留され、貨物の引渡しが長期間停止しました。

この案件で最初に確認するのは、「本船が抑留された」という名称だけではありません。抑留がWar Clause 1.1に規定する戦争・内乱・敵対行為等から生じるClause 1.2のdetainmentに該当するかを確認します。

次に、貨物自体に滅失又は損傷があるのか、単に航海が中断しているだけなのかを分けます。War Clausesには遅延損害及び航海のloss or frustrationに関する免責があるため、長期間貨物が届かないことによる販売損失や違約金が当然に補償されるわけではありません。

船会社通知、当局資料、武力行為との関係、貨物状態、War Clausesの付帯、特別条件及び制裁条項を確認した上で判断します。

制度適用シナリオ2―港湾ストライキ中の暴動で輸入貨物が破壊された場合

事例:日本の輸入者が保険金額6,500万円の機械部品を欧州港から東京向けに輸送していました。Institute Strikes Clauses (Cargo)が付帯されていました。

積港で大規模な港湾ストライキが発生し、抗議活動の一部が暴動化しました。港湾区域内に保管されていた貨物のコンテナが暴動参加者によって破壊され、内部貨物にも約1,800万円の物的損害が発生しました。

この場合、「ストライキがあった」という事実だけで判断するのではなく、実際の破壊行為がStrikes Clause 1.1の対象となる者の行為に該当するかを確認します。

単に港湾労働者が作業を停止した結果、貨物搬出が遅れただけであれば、Clause 3.7の労働力不足又はClause 3.5の遅延が問題となります。しかし、本件では暴動参加者による直接の破壊行為で物的損害が生じているため、異なる分析となります。

警察報告、港湾当局資料、監視映像、事故写真及びStrikes Clausesの適用期間を確認して当てはめます。

制度適用シナリオ3―航路変更後に制裁上の問題が判明した場合

事例:日本の輸出者が保険金額8,000万円の産業用部品をアジアから欧州向けに輸送していました。航海開始後、紛争回避のため船会社が当初予定していなかった第三国港への寄港を決定しました。

その後、その港で予定される取引関係者の一部について制裁対象該当性が疑われ、保険会社から追加確認が求められました。

この場合、「紛争回避のための航路変更だからWar riskの問題」とだけ整理するのは不十分です。まずWar Clauses又はStrikes Clauses上のChange of Voyageに関する通知・料率・条件を確認します。

そのうえで、制裁問題を別論点として確認します。Sanctions Clause等が付帯されている場合、保険会社が保険提供又は保険金支払を行うこと自体が制裁規制との関係で制限される可能性があります。

したがって、本件では航路変更の保険条件と、制裁上の引受・支払可否を別々に整理し、船積書類、変更航路、寄港地、関係者情報及び保険会社の回答を記録します。

フォワーダーの関与範囲

この五分類は、法令上又は業界全体で確立された法的分類ではなく、本シリーズにおいて、フォワーダーが契約及び実務上どの範囲まで関与しているかを整理するための分析上の枠組みである。

Standard Five Classifications 一般的な関与 War・Strikesとの接点 確認すべき限界 主な対応
1. Simple Intermediary 荷主、船会社、保険側の連絡を仲介する 航路・事故・地域情報を伝達する 引受可否・補償可否を確定しない 情報を迅速に保険側へ伝える
2. Cargo Transportation Service Provider 集荷、保管、荷役、配送等を行う 暴動・テロ等による作業中損害の当事者となり得る 保険判断と自社作業責任を混同しない 現場記録と貨物状態を保存する
3. NVOCC / House B/L Issuer House B/Lを発行しContracting Carrierとなる 経路選択、積替え、貨物引渡し等で運送責任が問題となり得る War・Strikesの保険不払と運送人責任は別である House B/L、裏面約款、事故区間を確認する
4. Door-to-Door Single Contractor 全輸送区間を一括して受託する 陸上・海上・倉庫の地域リスク情報を統合する 一括受託だけでWar coverの期間が拡張されるわけではない 各区間の保険・運送条件を確認する
5. Agent / Coordinator for Specific Operations 現地保管、サーベイ、代替輸送等を調整する 暴動・拿捕・港湾閉鎖等の現地情報を収集する 代理権及び保険判断権限を確認する 当局資料と現地報告を確保する

五分類だけで責任又は保険上の権限を決めることはできません。実際には、当該フォワーダーがContracting Carrier、Actual Carrier又は単なる手配者のいずれであるか、航路変更、事故通知、保険手配及び顧客説明についてどの範囲の権限を有していたかを確認します。

事故時の判断チェックリスト

確認場面 確認する相手 確認事項 問題がある場合の対応
付保時 荷主、保険会社、保険代理店 ICC、War、Strikes、追加特約の付帯 条件名だけで判断せず証券内容を確認する
航路確認時 船会社、フォワーダー、荷主 寄港地、積替地、高リスク地域 必要に応じ保険側へ事前照会する
War期間確認時 船会社、保険会社、保険代理店 本船積載日、到着日、荷卸し日、中間港滞留 通常のWarehouse-to-Warehouseと混同しない
Strikes期間確認時 保険会社、倉庫、配送会社 通常輸送過程、保管目的、最終納品 通常輸送外保管への移行を確認する
事故原因確認時 警察、港湾、船会社、現地代理店 戦争、暴動、ストライキ、テロ、政治的動機等 事故名称だけで危険分類を確定しない
拿捕・抑留時 船会社、当局、保険会社 行為主体、理由、軍事的背景、貨物状態 行政差止め・制裁措置等とWar riskを区別する
ストライキ時 港湾、倉庫、現地代理店 単なる労働力不足か貨物への直接損害か Clause 3.7とClause 1を分けて確認する
航路変更時 船会社、保険会社、保険代理店 変更航路、新寄港地、通知要否、追加保険料 速やかに書面で通知する
制裁確認時 荷主、保険会社、法務担当 地域、取引相手、船舶、貨物、Sanctions Clause War coverと別問題として専門確認する
損害確認時 荷受人、倉庫、サーベイヤー 物的損害、損害額、事故との因果関係 修理・廃棄前に証拠を保存する
第三者請求時 Contracting Carrier、Actual Carrier、倉庫等 責任区間、Claim Notice、出訴期限 保険判断を待たず権利を保全する
法的紛争時 保険会社、海事弁護士 約款分類、原因、準拠法、制裁、責任関係 権利を留保し専門家へ相談する

損害軽減と第三者への権利保全

Institute War Clauses及びInstitute Strikes Clausesでは、被保険者、その使用人及び代理人に対し、担保される損害を回避又は軽減するため合理的な措置を講じること、並びに運送人、倉庫業者その他の第三者に対する権利を適切に保存・行使することが求められています。

例えば、暴動により港湾倉庫の一部が破壊された場合、残存貨物を安全な場所へ移すこと、火災・漏水等による二次損害を防ぐこと等が考えられます。

一方、事故貨物を直ちに廃棄、修理又は移動すると、行為者、事故原因、損害範囲、運送人責任等を確認する証拠が失われる場合があります。安全上必要な措置を優先しつつ、可能な範囲で写真、動画、サーベイ、当局資料、サンプル等を確保します。

また、War・Strikesによる保険金請求と、Contracting Carrier、Actual Carrier、倉庫業者、港湾事業者その他の第三者への請求は別問題です。保険会社の判断を待つことで通知期限又は出訴期間を失わないよう、Claim Notice等を並行して行います。

保険会社・保険代理店・海事弁護士へ相談すべき場面

通常の付保確認や事故通知は、保険会社又は保険代理店と進めます。ただし、次のような案件では、海上保険・国際運送に詳しい海事弁護士又は関連分野の専門家への相談を検討します。

  • 事故がWar risk、Strikes risk又は通常ICCのいずれに該当するか争われている場合
  • 拿捕、差押え、抑留の法的根拠とWar Clause 1.2への該当性が問題となる場合
  • テロ、政治的・思想的・宗教的動機の認定が争われている場合
  • War Clauses固有の保険期間又は15日ルールが争点となる場合
  • 中間港・避難港・代替港での担保継続又は再付着が問題となる場合
  • 航路変更の通知時期、追加保険料又は引受条件が争われている場合
  • 制裁条項により保険提供又は保険金支払が制限される可能性がある場合
  • 保険上の不払とContracting Carrier・Actual Carrierの賠償責任が同時に争われている場合
  • 国外の当局資料、警察資料又は証拠を早急に確保する必要がある場合
  • 高額損害で複数の保険会社、共同保険者又は再保険関係が関与する場合
  • 保険金請求、運送人通知又は出訴期限が迫っている場合

よくある誤解

誤解 実際の考え方 実務上の注意点
ICC(A)なら戦争・ストライキ危険も当然に含まれる 通常ICCではClauses 6・7で除外され、別約款の付帯を確認します。 ICCとWar・Strikesを別々に確認します。
Warを付ければ工場から納品先まで戦争危険が全部対象になる 標準Institute War Clauses (Cargo)には通常ICCと異なる独自の期間があります。 本船積載、荷卸し、中間港等を確認します。
船や貨物が抑留されれば必ずWar claimになる Clause 1.2では戦争危険との関係が重要であり、行政差止め等は別問題となり得ます。 抑留理由と法的根拠を確認します。
ストライキで港が止まれば損失はすべてStrikesで出る 労働力不足や遅延から生じる損害は別途除外が問題となります。 貨物への直接の物的損害があるか確認します。
ストライキで納期が遅れた販売損失も補償される War・Strikesとも遅延による損害を原則として除外します。 物的損害と経済的損失を分けます。
テロはすべてWar riskである Institute Strikes Clausesで扱われる一定のテロ・政治的動機行為があります。 事故原因、行為者、動機及び実際の約款を確認します。
制裁対象地域ならWar riskで処理する 制裁は担保危険とは別の引受・支払制限論点です。 Sanctions Clause等を別途確認します。
高リスク地域でもWarを付ければ必ず保険会社が引き受ける 地域・航路・情勢等により料率、条件又は引受可否が変わり得ます。 船積前に保険側へ照会します。
航路変更は船会社の判断なので保険会社へ連絡しなくてもよい Change of Voyageやdeviationに関する通知・条件確認が必要になる場合があります。 変更を把握したら速やかに通知します。
War・Strikesの保険が出なければ運送人にも請求できない 貨物保険の補償と運送人責任は別問題です。 第三者への通知期限・出訴期間を保全します。

実務上のポイント

戦争危険・ストライキ危険の実務では、「Warが付いているか」「Strikesが付いているか」という二択だけでは不十分です。

まず、通常ICCのどの危険が除外され、どのInstitute Clausesによって補完されているかを確認します。次に、事故原因がWar Clause 1又はStrikes Clause 1へ該当するかを確認し、さらに各約款固有の保険期間、免責、航路変更及び追加条件を確認します。

特にInstitute War Clauses (Cargo)の保険期間は、通常ICCやInstitute Strikes ClausesのWarehouse-to-Warehouse型の考え方と同じではありません。本船への積載、最終港での荷卸し、15日、中間港・避難港等を正確に確認する必要があります。

また、ストライキ、暴動又は紛争が存在するだけで保険事故となるわけではありません。貨物に何が起き、誰のどの行為が損害原因となったかを特定することが重要です。

制裁についてもWar riskとは分離して考えます。高リスク地域、取引相手又は航路変更が関係する場合は、船積前又は変更判明後できるだけ早く保険会社・保険代理店へ確認することが基本です。

まとめ

戦争危険・ストライキ危険は、通常のICC(A)、ICC(B)、ICC(C)から除外される危険を、Institute War Clauses及びInstitute Strikes Clauses等によって別途検討する外航貨物海上保険上の重要な補償分野です。

Institute War Clauses (Cargo)では、戦争、内乱、革命、反乱、一定の敵対行為、それらから生じる一定の拿捕・抑留及び遺棄兵器等を扱います。一方、Institute Strikes Clauses (Cargo)では、ストライキ参加者等による行為、暴動・騒乱、一定のテロ行為、政治的・思想的・宗教的動機による行為等を扱います。

両者は対象危険だけでなく、保険期間にも大きな違いがあります。特に標準Institute War Clauses (Cargo)は、通常のWarehouse-to-Warehouse型保険期間と同一ではありません。

また、War・Strikesを付帯しても、遅延、労働力不足、航海挫折等による損害が当然に補償されるわけではありません。事故原因、物的損害、保険期間及び免責を確認する必要があります。

制裁、高リスク航路、仕向地変更等は、War・Strikesの補償判断とは別に引受条件又は保険金支払へ影響することがあります。

実務では、保険証券一式、事故原因、航路、積卸日、地域情勢、公的資料、貨物損害及び第三者責任を整理し、必要に応じて保険会社・保険代理店・海事弁護士等の専門家へ早期に確認することが重要です。

同義語・別表記

  • 戦争危険
  • ストライキ危険
  • 戦争危険担保
  • ストライキ危険担保
  • War Risks
  • Strikes Risks
  • SRCC
  • War and Strikes Risks
  • 協会戦争約款
  • 協会ストライキ約款

公式情報