ICC2009約款(Institute Cargo Clauses 2009)
概要
**ICC2009約款(Institute Cargo Clauses 2009)**とは、英国保険市場で作成された外航貨物海上保険の標準約款であり、従来の ICC(1982) を見直して2009年1月1日から順次適用された改定版である。
Institute Cargo Clauses は、外航貨物海上保険における代表的な普通保険約款であり、一般に ICC の略称で呼ばれる。荷為替信用状(L/C)において保険条件として指定されることも多く、世界的に広く利用されている国際標準約款である。
ICC2009は、ICC(1982)の基本構造を維持しつつ、国際輸送の実態変化、テロリスクの拡大、輸送実務の多様化に対応するために改定された。大きな思想変更はないが、全体として 被保険者に有利な見直し と 文言の明確化・平明化 が行われた点が特徴である。
背景
ICC(1982)の制定から四半世紀が経過する間に、国際物流の環境は大きく変化した。輸送形態の多様化に加え、テロリズム、船社倒産リスク、保険契約譲渡への対応など、従来約款では十分に整理されていなかった論点が実務上重要になった。
このため、英国保険市場では1982年協会約款の改定が進められ、海上輸送に適用される ICC(A)(B)(C)、Institute War Clauses (Cargo)、Institute Strikes Clauses (Cargo)、さらに Termination of Transit Clause (TERRORISM) なども併せて見直された。
日本でも、外航貨物海上保険の実務は英国約款を基礎としつつ、日本法との整合を踏まえた運用が行われており、ICC2009への移行は実務上重要な改定と位置付けられる。
主な改定ポイント
1. 保険期間の明確化
ICC2009では、保険の始期と終期が従来より具体的に規定された。
保険始期は、単に倉庫を離れた時ではなく、輸送開始のために貨物が最初に動かされた時点を基準に整理された。
保険終期についても、最終倉庫への引渡時という表現から、輸送用具からの荷卸し完了時点がより明確に示された。
さらに、被保険者またはその使用人が、輸送用具やコンテナを通常の輸送過程ではなく保管目的で使用した場合には、その時点で保険が終了することも明記された。
2. 船社倒産免責の緩和
ICC(1982)では、船社倒産に関する免責は比較的広く定められていた。
ICC2009では、被保険者が倒産情報を知っていた、または通常業務上知るべきであった場合に限り免責 とされ、免責適用が限定された。
また、善意の第三者として保険契約を譲り受けた者 には、この免責条項を適用しないことも明記された。
3. 梱包不十分免責の緩和
梱包または準備の不十分・不適切については、通常の輸送中に生じうる事故に耐えうる水準が必要であることが、より明確に示された。
一方で、免責が適用されるのは、被保険者またはその使用人が危険開始前に行った梱包・準備に限る という整理になり、従来よりも被保険者に有利な見直しが行われた。
4. テロの定義の明確化
テロ行為の定義について、政治的動機だけでなく、思想的(ideological)、宗教的(religious) な動機も含めて整理された。
これにより、テロ危険の対象範囲がより具体的に明示された。
5. 航海変更への対応
従来の held covered という伝統的表現が見直され、実務上わかりやすい表現に修正された。
また、本船が当初予定とは異なる仕向地に輸送された場合であっても、一定の条件のもとで保険責任が継続しうることが整理された。
6. 保険利益の明確化
保険契約の譲受人も被保険者に含まれることが明示され、貨物売買やL/C取引の実務に沿った規定となった。
7. 原子力免責の整理
原子核分裂、核融合、放射能、放射性物質を使用する兵器などに関する免責は、文言上さらに明確化された。
もっとも、日本の実務では別途付帯される除外約款により、同種の危険は従来から免責として扱われることが多い。
8. 不堪航免責の見直し
不堪航または輸送手段の不適合については、被保険者がそれを知っていた場合 に限定して整理され、使用人が知っていた場合まで広げる規定は削除された。
ここでも、善意の第三者である保険契約譲受人には免責を適用しない旨が追加された。
文言の平明化
ICC2009では、約款全体の文言も実務家に理解しやすいよう整理された。
たとえば、
- policy → contract of insurance
- Servants → Employees
- Shipowners → Carrier
- Underwriter → Insurers
- contract of affreightment → contract of carriage
- held covered → cover may be provided
など、より現代的でわかりやすい用語へ修正された。
この点は、ICC2009の大きな特徴の一つであり、従来の英国保険約款にみられた難解さを軽減する方向に働いている。
実務上のポイント
ICC2009は、ICC(1982)を全面的に否定するものではなく、従来の実務を維持しつつ、現代物流に合わせて補強した改定約款 と理解すると分かりやすい。
実務上は、次の点を確認することが重要である。
- 適用条件が ICC(1982) か ICC(2009) か
- 保険期間 の始期・終期がどこか
- 船社倒産免責 や 不堪航免責 の適用条件
- War / Strikes / Terrorism の付帯有無
- 保険契約の譲渡がある取引かどうか
特に、売買契約・L/C条件・保険証券記載内容とあわせて確認しないと、補償範囲の誤解につながることがある。
関連用語
- Institute Cargo Clauses
- Cargo Insurance
- War Risks
- Strikes Risks
- Marine Insurance Act 1906
- Marine Cargo Insurance Policy
