外航貨物海上保険の保険条件(担保危険)
概要
外航貨物海上保険の保険条件(担保危険)とは、国際輸送中の貨物損害について、どの種類の危険を保険で対象にするかを定める基本条件です。実務では、単に「貨物保険に入っているか」ではなく、どの危険が担保され、どの危険が別約款又は特約扱いになるのかを確認する必要があります。
外航貨物海上保険の担保危険は、大きく分けて、海上危険、戦争危険、ストライキ等危険に整理されます。通常の貨物損害はInstitute Cargo Clauses(ICC)で確認し、戦争危険はInstitute War Clauses、ストライキ・暴動・テロ等の危険はInstitute Strikes Clausesなどで確認します。
実務上重要なのは、ICC(A)・ICC(B)・ICC(C)の違いだけではありません。戦争危険やストライキ危険が付いているか、保険期間が本体条件と異ならないか、特定貨物に追加担保が必要か、事故原因がどの危険に該当するかを整理することが重要です。
担保危険の基本構造
| 区分 | 主な約款 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 海上危険 | Institute Cargo Clauses | 通常の輸送中に発生する貨物損害を対象にする基本条件です。 |
| 戦争危険 | Institute War Clauses | 戦争、内乱、捕獲・拿捕、遺棄機雷など、通常のICC本体では免責となる危険を別途担保します。 |
| ストライキ等危険 | Institute Strikes Clauses | ストライキ、労働争議、暴動、騒乱、テロ行為などによる損害を別途担保します。 |
一般的な外航貨物海上保険では、ICC(A)・ICC(B)・ICC(C)などの海上危険を基本に、必要に応じて戦争危険、ストライキ等危険、その他の特約を組み合わせます。したがって、保険条件を確認する際は、ICC条件だけでなく、War、Strikes、その他の特約の有無も確認する必要があります。
海上危険とICC条件
海上危険は、外航貨物海上保険の基本となる危険です。Institute Cargo Clausesにより、どのような事故が補償対象となるか、どのような損害が免責となるかが定められます。
| 条件 | 補償範囲の考え方 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| ICC(A) | 免責事項を除き、偶然な外来事故による損害を広く対象とする条件です。 | 広い条件ですが、梱包不十分、貨物固有の性質、遅延損害などは問題になります。 |
| ICC(B) | 列挙された危険を中心に補償する条件です。 | 水濡れ、盗難、不着、破損などが当然に対象になるとは限らないため、追加担保の確認が必要です。 |
| ICC(C) | 火災、座礁、沈没、衝突、共同海損、投荷など、より限定された危険を中心に補償する条件です。 | 補償範囲が狭いため、貨物の性質によっては実務上不足する場合があります。 |
| ICC(Air) | 航空輸送用の貨物保険条件です。 | 航空輸送ではB/LではなくAir Waybillや航空輸送実務との関係で確認します。 |
旧来の実務では、座礁、沈没、火災、衝突をまとめてSSBCと呼ぶことがあります。ただし、現在の実務では、SSBCだけを中心に考えるのではなく、ICC(A)・ICC(B)・ICC(C)の具体的な担保危険と免責条項を確認することが重要です。
戦争危険との関係
戦争危険は、通常のICC(A)・ICC(B)・ICC(C)では原則として免責となる危険を、Institute War Clausesなどにより別途担保するものです。戦争、内乱、革命、反乱、敵対行為、捕獲・拿捕、抑留、遺棄機雷、魚雷、爆弾などが問題になります。
戦争危険は、通常の海上危険とは保険期間の考え方が異なる場合があります。たとえば、貨物が本船に積み込まれてから荷卸しされるまでを中心に整理され、仕向港到着後の一定期間や積替え中の扱いが問題になることがあります。
ただし、戦争危険の保険期間や日数制限は、適用されるInstitute War Clausesの版、保険証券、特約、航路、保険会社の引受条件によって確認が必要です。実務では、15日、60日などの数字だけを単独で覚えるのではなく、必ず実際に適用される約款本文で確認します。
ストライキ等危険との関係
ストライキ等危険は、Institute Strikes Clausesなどにより担保される危険です。ストライキ参加者、労働争議、暴動、騒乱、テロ行為、政治的・思想的・宗教的動機による破壊行為などが問題になります。
ストライキ危険は、港湾ストライキや労働争議だけを意味するものではありません。実務では、暴動、騒乱、テロ、政治的動機による損害が、通常のICC本体条件ではなくStrikes Clauses側で検討されることがあります。
ただし、ストライキやテロに関係するすべての損害が当然に補償されるわけではありません。遅延損害、販売機会喪失、市場価格下落、納期遅れによる違約金などは、貨物そのものの物的損害とは分けて確認する必要があります。
ICC(B)・ICC(C)で追加担保を検討する場面
ICC(B)・ICC(C)は列挙危険を中心に補償する条件であるため、貨物の性質や輸送方法によっては追加担保が必要になることがあります。単に特約名を並べるだけでなく、どの貨物で何が問題になりやすいかを確認することが重要です。
| 追加担保・特約例 | 問題になりやすい貨物・場面 | 実務上の確認点 |
|---|---|---|
| RFWD Rain and Fresh Water Damage |
紙製品、繊維製品、食品、機械、梱包材が水に弱い貨物 | 雨濡れ、淡水濡れ、倉庫・荷役中の水濡れをどこまで見るか確認します。 |
| TPND Theft, Pilferage and Non-Delivery |
小型高額品、電子部品、アパレル、消費財 | 盗難、荷抜き、不着が基本条件で対象になるか、追加担保が必要か確認します。 |
| Shortage / Leakage | 袋物、液体貨物、粉体、ドラム・缶入り貨物 | 不足、漏損、容器破損、計量差、自然減耗との切り分けが重要です。 |
| Breakage / Bending / Denting | 機械、鋼材、部品、ガラス製品、陶磁器 | 破損・曲損・へこみが輸送中事故か、梱包不備か、既存損傷かを確認します。 |
| Sweat and Heating | 金属製品、農産品、食品、結露に弱い貨物 | 汗濡れ、結露、発熱、貨物固有の性質との関係を確認します。 |
| Contamination | 液体貨物、バルクケミカル、食品原料、油脂類 | 前荷、タンク洗浄、異物混入、臭気移り、品質規格外との関係を確認します。 |
| Spontaneous Combustion | 石炭、油脂、粉体、自己発熱性のある貨物 | 自然発火が貨物固有の性質か、特約でどこまで対象になるか確認します。 |
| Rats and Vermin | 穀物、食品、飼料、紙製品、倉庫保管貨物 | 害獣・虫害が保険対象か、保管状態や防虫防鼠管理との関係を確認します。 |
| Jettison / Washing Overboard | 甲板積み貨物、特殊貨物、プロジェクト貨物 | 甲板積みの申告、B/L表示、On Deck条件、投荷・波ざらいの扱いを確認します。 |
追加担保は、すべての貨物に機械的に付ければよいものではありません。貨物の性質、梱包、輸送形態、積替え、保管環境、過去の事故傾向、保険料とのバランスを踏まえて判断します。
MARフォームと旧S.G.フォームとの違い
ICC(B)・ICC(C)の特徴を理解するうえでは、旧来のS.G.フォーム時代のWA条件・FPA条件との違いに触れておく必要があります。旧来の条件では、分損の扱いや免責歩合の考え方が実務上重要でした。
MARフォームに基づくICC(B)・ICC(C)では、約款上列挙された担保危険による損害であれば、分損であっても免責歩合なしに補償される点が特徴です。これは、旧来のWA・FPA条件と比較した場合に、実務上理解しておきたい違いです。
ただし、この点はICC(B)・ICC(C)が広い条件であるという意味ではありません。あくまでも、列挙された危険に該当する損害についての扱いであり、列挙危険に該当しない損害は対象外となる可能性があります。
実務で確認すべきポイント
- 保険条件がICC(A)、ICC(B)、ICC(C)、ICC(Air)のどれかを確認する。
- War RisksとStrikes Risksが付帯されているか確認する。
- 戦争危険の保険期間が、通常のICC本体条件と異なる可能性を確認する。
- 輸送経路に紛争地域、制裁対象地域、港湾ストライキ地域が含まれないか確認する。
- ICC(B)・ICC(C)の場合、貨物の性質に応じてRFWD、TPND、Breakage、Contaminationなどの追加担保が必要か確認する。
- 冷凍・冷蔵貨物、危険品、中古品、展示品、バルク貨物などでは、通常条件だけで足りるか確認する。
- 事故時には、損害原因が海上危険、戦争危険、ストライキ等危険、免責危険のどれに近いか整理する。
- L/C条件や売買契約で指定された保険条件と、実際の保険証券の条件が一致しているか確認する。
事故時に担保危険を確認する意味
貨物事故が発生した場合、最初に確認すべきことは、保険が付いているかどうかだけではありません。どの危険を原因として損害が発生したのかを整理する必要があります。
たとえば、水濡れ損害でも、海水濡れ、雨濡れ、結露、倉庫内漏水、梱包不備では保険上の整理が異なります。盗難や不着でも、ICC(A)なのか、ICC(B)・ICC(C)にTPNDが付いているのかによって判断が変わります。
また、港湾ストライキ、暴動、テロ、戦争危険に関係する損害では、ICC本体条件ではなく、War ClausesやStrikes Clausesの有無を確認する必要があります。事故原因を正しく整理しなければ、保険金請求や運送人への求償の方向を誤る可能性があります。
まとめ
外航貨物海上保険の保険条件(担保危険)は、海上危険、戦争危険、ストライキ等危険を組み合わせて構成されます。実務では、ICC(A)・ICC(B)・ICC(C)の違いだけでなく、War Risks、Strikes Risks、追加担保、特約、保険期間の違いを確認することが重要です。
特にICC(B)・ICC(C)では、列挙危険方式であるため、貨物の性質に応じて追加担保が必要になる場合があります。事故時には、損害原因がどの担保危険に該当するのかを整理し、保険証券、約款、特約、L/C条件、売買契約とあわせて確認する必要があります。
