口頭指示だけで動いた場合のリスク

概要

フォワーダー実務では、荷主から電話や口頭で指示を受け、そのままBooking、配送、通関、B/L訂正、納品日変更などを進めることがあります。

急ぎの案件では口頭指示が避けられない場面もあります。しかし、口頭指示だけで手配を進め、後からメールや書面で確認していない場合、追加費用、納期遅延、誤配送、B/L記載ミス、保険未手配、責任範囲をめぐるトラブルに発展することがあります。

本記事では、フォワーダーが荷主の口頭指示だけで動いた場合にどのようなリスクがあるか、また実務上どのように記録を残すべきかを整理します。

口頭指示は残らない

口頭指示の最大の問題は、後から確認できる記録が残らないことです。

電話では、荷主が「急いでお願いします」と言ったつもりでも、フォワーダー側は「最短便で手配してよい」と受け取ることがあります。荷主が「保険もお願いします」と言ったつもりでも、担当者が聞き取っていなければ、後日確認できません。

また、口頭指示では、誰が、いつ、何を、どの条件で依頼したのかが曖昧になります。

事故や追加費用が発生した後に、「言った」「聞いていない」という争いになると、フォワーダー側は説明に苦労します。

口頭指示だけで動くと責任範囲が曖昧になる

フォワーダーが口頭指示だけで動くと、業務範囲と責任範囲が曖昧になります。

例えば、荷主から「納品先に直接届けてください」と電話で言われた場合、その指示に国内配送、時間指定、荷降ろし条件、フォークリフト手配、再配達費用が含まれているのかは明確ではありません。

また、「保険も見ておいてください」という曖昧な表現が、貨物保険の正式手配依頼なのか、保険の必要性確認だけなのかで、意味は大きく変わります。

口頭指示だけでは、荷主が何を期待していたのか、フォワーダーが何を引き受けたのかを後から証明しにくくなります。

追加費用トラブルが起きやすい

口頭指示でよく問題になるのが追加費用です。

荷主から電話で「今日中に納品してほしい」と言われ、フォワーダーが時間指定便や専用車を手配した場合、通常配送より高い費用が発生することがあります。

しかし、事前に追加費用の発生をメールで確認していなければ、荷主から「そこまで高くなるとは聞いていない」と言われる可能性があります。

納品先都合による待機料、再配達費用、小型車積替え費用、休日配送費用なども同じです。

口頭指示を受けた場合でも、追加費用が発生する可能性があるときは、必ずメールで条件を確認すべきです。

B/L・通関・保険では特に危険

口頭指示だけで動くことが特に危険なのは、B/L、通関、貨物保険に関する指示です。

B/LのShipper、Consignee、Notify Party、品名、数量、船積日、Surrender、Sea Waybillなどは、貨物引渡し、決済、保険金請求、代位求償に影響します。

通関では、品名、HSコード、原産地、用途、価格、輸入者名義などが問題になります。口頭で聞いた情報だけで申告を進めると、誤申告や追加確認につながることがあります。

貨物保険では、保険金額、輸送区間、保険条件被保険者名、船積日、貨物内容を確認する必要があります。口頭で「保険をお願いします」と言われただけでは、必要情報が不足している場合があります。

B/L、通関、保険に関する指示は、必ずメールまたは書面で確認するべきです。

事故後に口頭指示がどう問題になるか

貨物事故が発生すると、事故前のやり取りが確認されます。

例えば、荷主が「急ぎなので梱包は簡易でよい」と口頭で言った場合でも、その記録が残っていなければ、事故後に荷主がその指示を認めないことがあります。

また、荷主が「保険はいらない」と電話で言ったにもかかわらず、事故後に「保険を提案されなかった」と主張することもあります。

フォワーダーが口頭指示に基づいて動いた場合、その指示が存在したこと、内容が明確だったこと、追加費用やリスクを説明したことを示せなければ、後日の責任整理で不利になります。

口頭指示を受けた後に送る確認メール

口頭指示を受けた場合、実務上はすぐに確認メールを送ることが重要です。

確認メールでは、受けた指示内容、手配内容、追加費用の有無、未確認事項、荷主に確認してほしい点を簡潔に記載します。

例えば、次のような表現が使えます。

「先ほどお電話でご指示いただいた件につき、下記内容で手配を進めます。追加費用が発生する場合は実費にて別途ご請求となりますので、あらかじめご了承ください。」

「本件は本日中納品のご希望として承りました。時間指定対応となるため、通常配送費とは別に追加費用が発生する可能性があります。」

「貨物保険については、本メール時点では正式な付保依頼を受けておりません。必要な場合は、保険金額、輸送区間、保険条件をご指示ください。」

確認メールは、長文である必要はありません。重要なのは、口頭指示を記録に変えることです。

荷主が急いでいる場合の対応

急ぎの案件では、荷主から「メールは後でいいから先に動いて」と言われることがあります。

この場合でも、フォワーダー側は最低限の確認を残すべきです。

例えば、電話後すぐに「取り急ぎ、以下の内容で手配を開始します。相違がある場合は至急ご連絡ください」とメールを送る方法があります。

このメールに荷主から返信がなくても、少なくともフォワーダー側がどの理解で手配を開始したかの記録になります。

急ぎの案件ほど、後でトラブルになりやすいものです。急ぎだから記録を省略するのではなく、急ぎだからこそ短い確認メールを残す必要があります。

英文での確認フレーズ

海外荷主や海外代理店から電話やオンライン会議で指示を受けた場合も、確認メールを送ることが重要です。

As discussed by phone, we will proceed with the arrangement based on the following instructions. Please let us know immediately if any of the details below are incorrect.

追加費用の可能性を伝える場合は、次のように書けます。

Please note that any additional costs arising from urgent arrangement, waiting time, re-delivery, customs inspection, storage, demurrage or detention will be charged separately at actual cost.

責任を限定したい場合は、次の表現も使えます。

We are proceeding based on your verbal instructions and the information currently available to us. Any change or discrepancy may result in additional costs or delay.

英文でも、電話での合意を「As discussed」だけで終わらせず、具体的な指示内容を本文に残すことが重要です。

社内記録として残すべきこと

口頭指示を受けた場合、荷主への確認メールだけでなく、社内記録も重要です。

記録すべき事項は、指示を受けた日時、相手方担当者名、指示内容、追加費用説明の有無、未確認事項、社内判断者、手配開始時刻です。

特に高額貨物、危険品、冷凍・冷蔵貨物、L/C案件、B/L訂正、保険手配、納品先変更では、口頭指示だけで進めた理由と、誰が判断したかを残しておくべきです。

担当者個人の記憶に頼る運用は危険です。事故やクレームが発生したときに、社内で説明できる記録が必要になります。

具体例:電話指示による納品先変更でトラブルになったケース

輸入貨物の配送前日、荷主から電話で「納品先を変更してほしい」と連絡が入りました。担当者は急ぎの案件と判断し、メール確認を取らずに配送会社へ新しい納品先を伝えました。

しかし、新しい納品先は大型車両の進入ができない場所であり、現地で小型車への積替えと再配達が必要になりました。追加費用として、小型車積替え費用、待機料、再配達費用が発生しました。

フォワーダーが荷主へ追加費用を請求したところ、荷主は「納品先変更は伝えたが、追加費用がかかるとは聞いていない」と主張しました。

フォワーダー側には電話指示のメモはありましたが、追加費用の可能性を事前にメールで伝えた記録はありませんでした。

このケースでは、納品先変更自体は荷主の指示でしたが、追加費用の説明記録がなかったため、費用負担をめぐって交渉が難しくなりました。

電話後すぐに「納品先変更に伴い、車両変更・待機・再配達等の追加費用が発生する場合は実費別途となります」とメールしていれば、トラブルをかなり防ぐことができました。

まとめ

口頭指示だけで動くことは、フォワーダー実務では大きなリスクになります。

電話や口頭で受けた指示は、後から内容を確認できず、追加費用、B/L、通関、保険、事故対応で「言った・聞いていない」の争いになりやすいからです。

特に、B/L訂正、通関情報、貨物保険、納品先変更、急ぎ手配、追加費用が関係する指示は、必ずメールまたは書面で確認する必要があります。

フォワーダーにとって重要なのは、口頭指示を拒否することではありません。口頭指示を受けた後、すぐに確認メールや社内記録に変えることです。それが、後日の費用回収、責任範囲の整理、事故対応における防御資料になります。

同義語・別表記

  • 口頭指示
  • 電話指示
  • Verbal Instruction
  • Oral Instruction
  • メール確認なし