航空運送人の責任
航空運送人の責任とは
航空運送人の責任とは、航空運送人が引き受けた貨物を航空輸送中に適切に管理し、到着地で引き渡す義務に関連して、貨物の滅失、毀損、延着が発生した場合に負う損害賠償責任をいいます。
航空貨物に損害が発生した場合は、まずどの条約が適用されるか、次に誰が運送人か、そして責任制限額、損害通知期間、出訴期限を確認することが重要です。
航空運送では、海上運送と異なり、発着地の国がどの航空運送条約に加盟しているかによって責任の考え方が変わることがあります。そのため、発着空港の所在国に共通して適用される条約を確認することが、実務上の出発点になります。
また、航空貨物ではAir Waybill(AWB)、House Air Waybill(HAWB)、Master Air Waybill(MAWB)、混載業者、実際運送人が関係することが多く、書類上の運送人と実際に貨物を運んだ航空会社が一致しない場合があります。そのため、貨物事故が起きた場合は、条約、AWB記載、契約関係、責任制限、通知期限をまとめて確認する必要があります。
この記事で扱う範囲
| 扱うテーマ | 本記事で扱う内容 | 他記事で詳しく扱う内容 |
|---|---|---|
| 航空運送人責任の基本 | 航空貨物の滅失、毀損、延着に対する航空運送人の責任構造を整理します。 | 個別事故の損害査定、サーベイ、保険金請求手続は貨物事故・保険実務の記事で扱います。 |
| 適用条約 | ワルソー条約、ヘーグ議定書、モントリオール第四議定書、モントリオール条約の関係を整理します。 | 各国の批准状況、国内実施法、条約本文の逐条解説は専門資料で確認します。 |
| 契約運送人と実際運送人 | AWB、HAWB、MAWB、混載業者、航空会社の関係を整理します。 | 契約運送人と実際運送人の一般的な違いは別記事で扱います。 |
| 航空運送の責任区間 | 航空輸送中、空港外の陸上輸送、積込み・引渡し・積替えに付随する輸送の扱いを整理します。 | 複合輸送における事故区間の切り分けは、貨物事故の発生区間と責任主体の記事で扱います。 |
| 損害通知期間・出訴期限 | 毀損7日・14日、延着14日・21日、出訴期限2年の基本を整理します。 | 具体的な時効中断、訴訟提起、求償期限管理は専門家確認が必要です。 |
| 責任制限 | 250金フラン/kg、US$20/kg目安、SDR/kg、価額申告、責任制限排除の考え方を整理します。 | SDR換算、航空会社約款、個別国の国内法上の扱いは案件ごとに確認します。 |
| 貨物保険との関係 | 航空運送人から回収できない部分を貨物保険で補完する実務、代位求償、証拠保全を整理します。 | 貨物保険の補償範囲、保険金請求、代位求償の詳細は保険実務の記事で扱います。 |
航空運送人の責任の基本
航空運送人は、引き受けた貨物を航空輸送中に適切に管理し、到着地で引き渡す義務を負います。貨物の滅失、毀損、延着が生じた場合には、一定の範囲で損害賠償責任を負います。
ただし、その責任は常に無制限ではありません。適用される航空運送条約、AWB約款、責任制限、損害通知期間、出訴期限によって、実際に回収できる金額や請求可能性が変わります。
また、どの場面でも同じルールが使われるわけではなく、航空輸送中に限って航空運送条約が適用されるのが原則です。したがって、複合輸送や空港外の運送区間が絡む場合には、どこまでが航空運送人の責任区間かを丁寧に確認する必要があります。
まず確認すべきポイント
- 発地国・着地国に共通して適用される航空運送条約は何か
- 契約運送人は誰か
- 実際運送人が別に存在するか
- HAWBとMAWBのどちらの関係で請求するのか
- 損害が航空輸送中に発生したものといえるか
- 空港外の陸上輸送が航空運送契約に付随するものか
- 損害通知期間に間に合うか
- 出訴期限に間に合うか
- 責任制限額はいくらか
- AWB上の価額申告があるか
- 貨物保険者による代位求償の可能性があるか
適用される条約
航空運送では、主にワルソー条約、ヘーグ議定書、モントリオール第四議定書、モントリオール条約が問題になります。
これらは別個の条約であり、各国がどれに加盟しているかによって適用関係が決まります。実務では、発着空港の所在国が共通して加盟している条約のうち、最も新しい適用関係にあたるものを確認することが重要です。
これは、同じ当事国間で同じ事項を扱う複数の条約がある場合、後に締結・批准された条約が優先して適用されるという考え方に基づきます。そのため、単に「どの条約に加盟しているか」だけでなく、両国に共通して適用される最新の条約関係を確認する必要があります。
発着国の加盟状況は、ICAOの条約データベース、各国民航当局、航空会社約款、AWB裏面約款などを通じて確認します。航空貨物事故では、最初にこの適用条約を確認しないと、責任制限額、通知期間、出訴期限の判断を誤ることがあります。
例えば、一方の国がワルソー条約、改正ワルソー条約、モントリオール第四議定書に加盟しており、相手国も同じ範囲で加盟していれば、その区間ではモントリオール第四議定書が適用される整理になります。逆に、加盟状況がずれていると、古い条約が適用されることがあります。
航空輸送に関わる条約の沿革
| 条約・議定書 | 位置づけ | 実務上の意味 | 確認すべき点 |
|---|---|---|---|
| ワルソー条約 | 国際航空運送における運送人責任の基本的な枠組みです。 | 古い責任制限体系や過失責任主義が問題になります。 | 発着国がワルソー条約のみの関係にあるか確認します。 |
| ヘーグ議定書 | ワルソー条約を改正する議定書です。 | ワルソー条約の一部改正として責任関係を確認します。 | 相手国がヘーグ議定書を批准しているか確認します。 |
| モントリオール第四議定書 | 航空貨物運送に関する責任制度を近代化した議定書です。 | 貨物についてSDR/kgを基礎とする責任制限が問題になります。 | 発着国双方の批准状況とAWB約款を確認します。 |
| モントリオール条約 | ワルソー条約体系を統合・近代化した条約です。 | 契約運送人と実際運送人、責任制限、通知期間、出訴期限を総合的に確認します。 | 発着国双方がモントリオール条約締約国か確認します。 |
契約運送人と実際運送人
航空運送では、荷主が契約した相手と、実際に運送を担当する者が一致しないことがあります。
特に、フォワーダーや混載業者がHAWBを発行し、航空会社がMAWBを発行している場合、契約運送人と実際運送人を分けて考える必要があります。
モントリオール条約では、契約運送人と実際運送人の双方が条約に従うとされています。そのため、荷主がフォワーダーや混載業者に請求する場面と、フォワーダー側が航空会社へ求償する場面を分けて整理することが重要です。
一方で、ワルソー条約系では、運送人の定義が明確に置かれておらず、実務上は契約運送人中心に考える場面が多くなります。したがって、AWBの記載、HAWBとMAWBの関係、運送契約、実際の輸送手配を見て、請求相手を誤らないことが重要です。
HAWBとMAWBの関係
| 項目 | HAWB | MAWB | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 正式名称 | House Air Waybill | Master Air Waybill | どちらの書類に基づいて請求するかを確認します。 |
| 発行者 | フォワーダー、混載業者などです。 | 航空会社が発行することが一般的です。 | 荷主が直接持っている書類がHAWBかMAWBかを確認します。 |
| 主な当事者関係 | 荷主とフォワーダー・混載業者の関係を示します。 | フォワーダー・混載業者と航空会社の関係を示します。 | 荷主と航空会社が直接契約関係にない場合があります。 |
| 契約運送人 | HAWB発行者が契約運送人として見られることがあります。 | 航空会社が実際運送人または契約運送人として関係します。 | 荷主対応と航空会社への求償を分けて管理します。 |
| 責任条件 | フォワーダー約款、混載業者約款、HAWB条件が問題になります。 | 航空会社約款、航空運送条約、MAWB条件が問題になります。 | HAWBとMAWBで通知期間、裁判管轄、責任制限がずれることがあります。 |
適用範囲
航空運送人の責任は、原則として航空輸送中に限られます。モントリオール条約では、空港外で行われる陸上輸送、海上輸送、内水輸送の区間は、原則としてそのまま航空輸送には含まれません。
ただし、積込み、引渡し、積替えのために付随して行われる陸上輸送、海上輸送、内水輸送である場合や、航空運送契約に基づく一連の輸送として扱われる場合には注意が必要です。
また、運送人が荷送人の同意なく、航空輸送を他の輸送手段に置き換えた場合には、その輸送期間も航空輸送中とみなされることがあります。
このような場合には、トラック輸送中の損害であっても、航空運送契約の一部として扱われ、航空条約上の責任制限が問題になる可能性があります。
したがって、複合輸送では、単に「トラック区間で壊れたから航空条約は関係ない」とは判断せず、その陸上輸送が航空輸送に付随するものか、航空会社または混載業者の運送契約に含まれるものかを確認する必要があります。
責任区間の比較
| 区間 | 航空運送人責任が問題になる可能性 | 主な確認資料 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 空港上屋での受託後 | 航空運送契約上の管理下であれば問題になります。 | AWB、上屋受領記録、搬入記録、リマーク | 貨物受託時の外装状態を確認します。 |
| 航空機への積込み・搭載中 | 航空輸送中の管理として問題になりやすい区間です。 | 搭載記録、航空会社記録、事故報告書 | 荷扱い、温度管理、危険品管理を確認します。 |
| 飛行中 | 航空運送人責任の中心区間です。 | AWB、航空会社事故報告、到着記録 | 遅延、温度逸脱、損傷原因を確認します。 |
| 到着空港での荷卸し・上屋保管中 | 航空運送人または上屋業者の管理下として問題になります。 | 到着記録、上屋記録、異常メモ、写真 | 引渡し前後の貨物状態を区別します。 |
| 空港外の陸上配送中 | 原則として航空輸送には含まれませんが、付随輸送であれば問題になることがあります。 | 配送伝票、委託契約、HAWB、MAWB、配送記録 | 航空運送契約の一部か、別契約の国内配送かを確認します。 |
| 運送人が無断で代替輸送した区間 | 航空輸送中とみなされる可能性があります。 | 運送指示、代替輸送記録、荷主同意の有無 | 荷送人の同意なく代替されたかを確認します。 |
損害通知期間
貨物損害では、運送人に対する通知が遅れると請求が不利になります。条約によって通知期間は異なります。
| 損害の種類 | ワルソー条約 | ヘーグ議定書・モントリオール第四議定書・モントリオール条約 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 貨物に毀損があった場合 | 貨物受取日から7日以内です。 | 貨物受取日から14日以内です。 | 受取時に異常があれば直ちに書面で保留通知します。 |
| 延着の場合 | 貨物の処分が可能となった日から14日以内です。 | 貨物の処分が可能となった日から21日以内です。 | 温度管理品や販売時期のある貨物では遅延損害資料も保存します。 |
通知期間内に書面で異議を述べない場合、貨物は良好な状態で引き渡されたものと推定され、運送人に責任がなかったものとして扱われる方向に働きます。これは反証できる場合もありますが、荷主側・保険者側にとって大きな不利になります。
そのため、実務では、貨物に異常があれば、受領時点で直ちに保留通知を出し、写真、検品記録、到着時の異常メモ、サーベイ結果を添えてクレーム通知を行う運用が安全です。
出訴期限
航空運送の出訴期限は、原則として2年です。起算点は、到着地への到達の日、航空機が到着すべきであった日、または運送が中止された日です。
通知期間と出訴期限は別です。通知を出しても、訴訟提起や正式請求の期限を過ぎれば権利行使が難しくなるため、両方を分けて管理する必要があります。
また、HAWB発行者への請求、MAWB上の航空会社への求償、空港上屋業者や国内配送業者への請求では、適用される期限が異なる可能性があります。航空貨物事故では、関係者ごとに期限管理を分けて行うことが重要です。
損害通知と出訴期限の違い
| 項目 | 損害通知期間 | 出訴期限 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 目的 | 貨物の毀損や延着について運送人へ異議を述べるための期間です。 | 裁判上の請求を行える期限です。 | 通知しただけでは出訴期限を守ったことにはなりません。 |
| 典型的な期間 | 毀損7日または14日、延着14日または21日です。 | 原則2年です。 | 適用条約によって通知期間が変わります。 |
| 怠った場合 | 良好な状態で引き渡されたと推定され、不利になります。 | 請求権の行使が困難になります。 | 事故発見時点で両方の期限を管理します。 |
| 管理対象 | HAWB発行者、航空会社、上屋業者、配送業者への通知が問題になります。 | 契約運送人、実際運送人、関係業者ごとに確認します。 | 関係者ごとに期限表を作成します。 |
責任制限
航空運送人の責任制限は、適用条約によって異なります。
ワルソー条約・ヘーグ議定書
ワルソー条約・ヘーグ議定書では、貨物について250金フラン/kgという責任制限が問題になります。実務上は、おおむねUS$20/kg程度と説明されることがありますが、現在の国際航空貨物実務では、この古い体系がそのまま問題になる区間は限られています。
このような低い責任制限が問題になる案件では、運送人からの回収だけで損害を補うことは難しく、貨物保険の重要性が特に高くなります。
この体系では、運送人またはその使用人が、損害発生の意図をもって行動した場合や、無謀に、かつ損害発生のおそれを認識して行為した場合には、責任制限が使えないとされることがあります。
モントリオール第四議定書・モントリオール条約
モントリオール第四議定書およびモントリオール条約では、貨物の破壊、滅失、毀損または延着について、責任限度額がSDR/kgで定められています。
モントリオール条約の責任限度額は定期的に見直されており、2024年改定後は、貨物について26SDR/kgが基準になります。
なお、モントリオール第四議定書や各国国内法・約款の反映時期によって、実務上の表示や契約書式に古い数値が残っていることがあります。実際の事故処理では、適用条約、事故時点、発着国の国内実施法、AWB約款を確認する必要があります。
また、荷送人が価額を申告し、必要な割増運賃を支払った場合は、実際価額を超えない限り、その申告価額が責任限度になることがあります。高額貨物では、価額申告をするのか、貨物保険で対応するのかを事前に整理しておくことが重要です。
実務上は、価額申告をした場合の割増運賃と、貨物保険料を比較して判断することになります。ただし、価額申告をしても、事故時の立証資料や免責事由の問題が残るため、高額貨物では価額申告と貨物保険を併用することもあります。
価額申告を行う場合は、AWB上に申告価額が適切に記載されているかを確認する必要があります。申告欄が空欄のまま、または実際価額より低い金額で記載されている場合、後日の請求で責任限度額をめぐる争いになることがあります。
航空輸送に関わる条約の比較
| 項目 | ワルソー条約・ヘーグ議定書 | モントリオール第四議定書・モントリオール条約 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 運送人の定義 | 明確な定義はなく、実務上は契約運送人を中心に判断されます。 | モントリオール条約では、契約運送人および実際運送人の双方が対象になります。 | HAWB発行者とMAWB上の航空会社を分けて確認します。 |
| 運送人の責任 | 運送人が必要な措置を取ったこと、または取ることができなかったことを証明した場合、責任を負わないとされることがあります。 | 貨物の破壊、滅失または毀損について、その原因となった事故が航空輸送中に生じたことを条件として責任を負います。 | 責任原則の違いが請求・防御に影響します。 |
| 免責 | 貨物の性質または固有の欠陥による滅失・損害が問題になります。 | 貨物の固有の瑕疵・性質、第三者による荷造りの欠陥、戦争行為・武力衝突、公的機関の措置などが免責事由になります。 | 事故原因と貨物固有性、梱包状態を確認します。 |
| 責任制限 | 250金フラン/kg、実務上US$20/kg相当として扱われることがあります。 | SDR/kgを基準とし、2024年改定後は貨物について26SDR/kgが基準になります。 | 事故時点、適用条約、AWB約款の数値を確認します。 |
| 責任制限排除 | 一定の悪質な行為では責任制限が認められないことがあります。 | 貨物については、運送人に故意がある場合でも責任制限が認められることがあります。 | 適用条約によって責任制限排除の考え方が異なります。 |
| 損害通知 | ワルソー条約では毀損7日、延着14日。ヘーグ議定書では毀損14日、延着21日が問題になります。 | 毀損14日、延着21日が問題になります。 | 通知期間を過ぎると請求が不利になります。 |
| 出訴期限 | 到着地への到達の日、航空機が到着すべきであった日、または運送中止の日から2年以内です。 | 到着地への到達の日、航空機が到着すべきであった日、または運送中止の日から2年以内です。 | 損害通知とは別に管理します。 |
責任原則の違い
航空運送人の責任では、条約ごとの責任原則の違いが重要です。
ワルソー条約・ヘーグ議定書では、過失責任主義を基礎に考えます。運送人側が必要な措置を尽くしたこと、またはその措置を取れなかったことを立証できれば、責任を免れる余地があります。
一方、モントリオール第四議定書・モントリオール条約では、貨物の破壊、滅失、毀損について、荷主側が損害の発生と、それが航空輸送中に生じたことを示せば、運送人が免責事由を立証しない限り責任を負う構成になります。
もっとも、運送人が常に無条件で責任を負うわけではありません。貨物の固有の瑕疵、品質または欠陥、第三者による不適切な荷造り、戦争行為、公的機関の措置など、一定の免責事由はあります。
貨物保険との関係
航空運送人の責任には、通知期間、出訴期限、責任制限があります。そのため、荷主が損害全額をそのまま航空運送人から回収できるとは限りません。ここで重要になるのが貨物保険です。
貨物保険に加入していれば、保険者が被保険者に保険金を支払い、その後に代位求償によって運送人へ請求する流れになります。つまり、荷主にとっては、運送人の責任制限や請求回収リスクを、そのまま自分で抱え込まないための重要な手当てになります。
もっとも、保険者が代位求償を行う場合でも、AWB、到着記録、受領時の異常記録、写真、検品記録、サーベイ報告書、損害通知の写しが不足していると、回収可能性が下がります。
航空貨物事故では、初動段階から保険者への連絡と証拠保全を並行して行う必要があります。
フォワーダー・混載業者の関与範囲
航空貨物では、フォワーダーや混載業者がHAWBを発行し、航空会社がMAWBを発行する形が多く見られます。この場合、荷主から見れば、HAWB発行者であるフォワーダーや混載業者が契約運送人として責任を問われることがあります。
一方で、実際の航空輸送はMAWBに基づいて航空会社が行うため、フォワーダーや混載業者は、荷主対応と並行して、航空会社、上屋業者、国内配送業者、海外代理店への求償可能性を確認する必要があります。
| 区分 | 支援しやすいこと | 断定すべきでないこと | 実務上の対応 |
|---|---|---|---|
| AWB確認 | HAWB、MAWB、航空会社名、発着空港、貨物明細を確認すること | 誰が最終的に法的責任を負うかの断定 | HAWBとMAWBを並べて、契約運送人と実際運送人を整理します。 |
| 適用条約確認 | 発着国、航空会社約款、AWB裏面約款を確認すること | 条約適用の最終法的判断 | 発着国双方に共通する最新の条約関係を確認します。 |
| 損害通知 | HAWB発行者、航空会社、上屋業者、配送業者へ通知すること | 通知だけで出訴期限も守られるとの説明 | 通知期間と出訴期限を分けて管理します。 |
| 事故区間確認 | 空港上屋、航空輸送中、空港外配送中のどこで損害が発生したかを整理すること | 事故区間が不明な段階で責任主体を断定すること | 受渡記録、到着記録、写真、検品記録を集めます。 |
| 航空会社への求償 | MAWB、Claim Letter、Survey Report、写真、到着記録を提出すること | 航空会社から必ず全額回収できるとの説明 | 責任制限、免責、通知期限、出訴期限を確認します。 |
| 保険対応 | 貨物保険会社、Freight Forwarder Liability Insurance保険者へ資料を共有すること | 保険で必ず全額カバーされるとの断定 | 保険通知、免責、限度額、代位求償の可能性を確認します。 |
フォワーダー・混載実務での注意点
HAWBとMAWBで、責任制限、準拠法、裁判管轄、通知期間、出訴期限が完全に一致するとは限りません。例えば、HAWBはフォワーダー約款や混載業者約款に基づく一方、MAWBは航空会社約款や航空条約に基づくため、請求期限、裁判管轄、責任制限の扱いがずれる場合があります。
そのため、荷主に対する責任と、航空会社に対する求償を同じ条件で処理できると考えるのは危険です。荷主からの請求を受けた時点で、HAWB上の条件とMAWB上の条件を並べて確認する必要があります。
特に、損害通知の遅れ、サーベイ未実施、写真不足、到着時異常記録の欠落、HAWB・MAWB記載の不一致、貨物保険の有無は、後の回収可能性に直結します。
事故発生直後から、荷主対応、航空会社対応、保険会社対応、サーベイ手配、求償準備を並行して進めることが重要です。
実務で問題になりやすいケース
| ケース | 問題になりやすい点 | 確認すべき資料 | 実務上の対応 |
|---|---|---|---|
| HAWB発行者に荷主から請求が来た | フォワーダーや混載業者が契約運送人として責任を問われます。 | HAWB、MAWB、AWB裏面約款、事故通知 | 荷主対応と航空会社への求償を分けて管理します。 |
| HAWBとMAWBの記載が一致しない | 貨物明細、重量、個数、運送条件、責任制限の確認に支障が出ます。 | HAWB、MAWB、Invoice、Packing List | 記載差異を整理し、どの書類に基づいて請求するか確認します。 |
| 受領時に異常があったが通知が遅れた | 貨物が良好な状態で引き渡されたものと推定され、不利になります。 | 受領記録、写真、検品記録、Claim Letter | 発見時点で直ちに書面通知し、受領記録を残します。 |
| 空港外配送中に損害が発生した | 航空輸送中の事故か、別契約の陸上配送事故かが問題になります。 | 配送伝票、HAWB、MAWB、配送委託契約、到着記録 | 航空運送契約に付随する輸送かどうかを確認します。 |
| 高額貨物で価額申告がなかった | 責任制限額が実損額を大きく下回る可能性があります。 | AWB、申告価額欄、Invoice、貨物保険証券 | 輸送前に価額申告と貨物保険の選択を検討します。 |
| 温度管理貨物で延着・温度逸脱が発生した | 延着通知期間、温度記録、損害因果関係が問題になります。 | 温度記録、AWB、到着記録、検品記録、サーベイ報告書 | 延着通知と損害資料を早期に提出します。 |
| 航空会社から責任制限を主張された | 適用条約、責任限度額、価額申告の有無が争点になります。 | AWB、適用条約、事故日、SDR換算資料、Invoice | 実損額と法的回収可能額を分けて整理します。 |
判断チェックリスト
| 確認場面 | 確認する相手 | 確認事項 | 問題がある場合の対応 |
|---|---|---|---|
| 航空貨物事故の第一報を受けたとき | 荷主、Consignee、現地代理店、上屋業者 | 発見日時、発見場所、貨物状態、写真、検品記録 | 責任を認めず、事実確認と証拠保全を優先します。 |
| 適用条約を確認するとき | 航空会社、海外代理店、保険会社、専門家 | 発地国、着地国、条約加盟状況、AWB約款 | 両国に共通して適用される最新の条約関係を確認します。 |
| 運送人を特定するとき | フォワーダー、混載業者、航空会社、荷主 | HAWB発行者、MAWB発行者、契約運送人、実際運送人 | 荷主請求先と航空会社への求償先を分けて整理します。 |
| 事故区間を確認するとき | 航空会社、上屋業者、配送業者、Surveyor | 航空輸送中か、空港上屋か、空港外配送か、付随輸送か | 受渡記録、到着記録、配送記録を時系列で整理します。 |
| 損害通知を行うとき | HAWB発行者、航空会社、上屋業者、配送業者 | 毀損7日または14日、延着14日または21日、通知先、受領確認 | 書面で保留通知を出し、受領記録を保存します。 |
| 出訴期限を確認するとき | 保険会社、弁護士、航空会社、フォワーダー | 到着日、到着予定日、運送中止日、2年期限 | 通知期間とは別に、訴訟期限を管理します。 |
| 責任制限を確認するとき | 航空会社、保険会社、法務担当 | 適用条約、責任限度額、SDR/kg、価額申告の有無 | 実損額と法的回収可能額を分けて見積もります。 |
| 保険対応を行うとき | 貨物保険会社、保険代理店、荷主 | 貨物保険証券、事故通知、Survey Report、代位求償資料 | 保険金請求と航空運送人への求償を並行して進めます。 |
よくある誤解
| 誤解 | 正しい理解 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 航空貨物事故では常にモントリオール条約が適用される | 発着国の条約加盟状況により、ワルソー系が問題になることもあります。 | 発地国・着地国に共通して適用される条約を確認します。 |
| AWBを見れば請求先はすぐ分かる | HAWBとMAWBがある場合、契約運送人と実際運送人が分かれることがあります。 | HAWB発行者とMAWB上の航空会社を分けて確認します。 |
| 空港外のトラック輸送なら航空条約は関係ない | 積込み、引渡し、積替えに付随する輸送や無断代替輸送では航空輸送中と扱われることがあります。 | 航空運送契約に含まれる輸送かどうかを確認します。 |
| 損害通知をすれば出訴期限も守られる | 損害通知期間と出訴期限は別です。 | 通知期限と2年の出訴期限を分けて管理します。 |
| 航空会社は実損額を全額賠償する | 責任制限により、実損額より低い金額しか回収できないことがあります。 | 責任限度額、価額申告、貨物保険を確認します。 |
| 高額貨物でもAWBに価額申告しなくてよい | 価額申告がない場合、通常の責任制限が適用されることがあります。 | 価額申告と貨物保険のどちらでリスク移転するか検討します。 |
| 貨物保険があれば航空運送人責任の確認は不要である | 保険会社の代位求償では、AWB、通知期間、責任制限、事故区間の確認が必要です。 | 保険対応と航空運送人への求償を並行して整理します。 |
確認すべき資料
- Air Waybill(AWB)
- House Air Waybill(HAWB)
- Master Air Waybill(MAWB)
- AWB裏面約款
- 航空会社約款
- フォワーダー約款
- 混載業者約款
- Booking記録
- 発地空港・着地空港情報
- 発着国の条約加盟状況
- 貨物受領記録
- 到着記録
- 上屋搬入・搬出記録
- 配送伝票
- 温度記録
- 写真
- 検品記録
- Survey Report
- Claim Letter
- Invoice
- Packing List
- SDS・危険物申告書
- 貨物保険証券
- Freight Forwarder Liability Insurance証券
具体例1:HAWB発行者に荷主から請求が来たケース
フォワーダーが荷主にHAWBを発行し、航空会社がMAWBに基づいて実際の航空輸送を行っていたケースです。到着空港で貨物の外装破損と内容品損傷が見つかり、荷主はHAWB発行者であるフォワーダーへ損害賠償を求めました。
この場合、フォワーダーは荷主との関係では契約運送人として対応を求められる可能性があります。一方で、実際の航空輸送を行った航空会社に対しては、MAWBに基づいて求償を検討します。
HAWB上の条件とMAWB上の条件が一致しない場合、フォワーダーが荷主に対応する金額と航空会社から回収できる金額に差が出ることがあります。事故直後から、HAWB、MAWB、到着記録、写真、Survey Report、損害通知の記録を整理する必要があります。
具体例2:空港外配送中の損害が航空輸送中と扱われるか問題になったケース
航空貨物が到着空港から指定倉庫まで配送される途中で破損したケースです。荷主は航空輸送中の事故として航空会社へ請求しようとしましたが、配送区間が航空運送契約に含まれるのか、別個の国内配送契約なのかが問題になりました。
空港外の陸上輸送は原則として航空輸送には含まれません。しかし、積込み、引渡し、積替えに付随する輸送である場合や、航空運送契約に基づく一連の輸送として扱われる場合には、航空輸送中の事故と推定されることがあります。
このケースでは、AWB、配送委託契約、配送伝票、航空会社またはフォワーダーの手配範囲、荷主の同意、受渡記録を確認し、航空運送人責任か国内配送責任かを切り分ける必要があります。
具体例3:高額貨物で価額申告がなく責任制限が問題になったケース
高額な精密機器を航空輸送したところ、到着時に損傷が発見されました。貨物の実損額は高額でしたが、AWB上の価額申告欄は空欄で、荷主は通常の責任制限を超える回収が難しい状況になりました。
航空運送では、荷送人が貨物価額を申告し、必要な割増運賃を支払った場合、その申告価額が責任限度になることがあります。一方、価額申告をしていない場合は、適用条約上のSDR/kgなどの責任限度額が問題になります。
このような高額貨物では、輸送前に価額申告を行うのか、貨物保険でリスク移転するのかを検討する必要があります。実務上は、割増運賃、貨物保険料、事故時の立証資料、責任制限リスクを比較して判断します。
注意点
航空運送人の責任を考えるときは、まず「損害があるか」だけでは足りません。どの条約が適用されるか、誰が契約運送人か、実際運送人が別にいるか、HAWBとMAWBのどちらの関係で請求するのかを確認する必要があります。
また、損害が航空輸送中に発生したものか、空港外の陸上輸送が航空運送契約に含まれるか、通知期間と出訴期限に間に合うか、責任制限額はいくらか、AWB上の価額申告や貨物情報に不備がないかを確認することも重要です。
航空貨物事故は、初動が遅いと不利になりやすいため、事故発見時にはAWB、到着記録、受領時の異常記録、写真、検品記録、サーベイ手配、保険手配状況をすぐ確認することが重要です。
まとめ
航空運送人の責任範囲を判断するには、AWB、契約運送人、実際運送人、発着国の条約加盟状況、損害通知期間、出訴期限、責任制限を確認する必要があります。
航空運送人の責任は、海上運送人よりも単純に見えることがありますが、実際には適用条約、HAWB/MAWBの二層構造、責任限度額、複合輸送区間の扱いによって判断が変わります。
外航貨物海上保険は、航空運送人責任では回収できない損害を補完し、事故発生時に荷主の損害を早期に処理する重要な役割を持ちます。
フォワーダーや混載業者は、荷主対応、航空会社への求償、貨物保険会社との連携、Freight Forwarder Liability Insuranceの確認を並行して行い、責任制限と期限管理を前提に事故対応を進めることが重要です。
