CIF条件と保険金請求権のねじれ
CIF条件と保険金請求権のねじれ
CIF条件では、売主が海上運賃と貨物保険を手配し、買主へ船積書類を提供するのが基本です。
しかし、CIF条件では、貨物保険を売主が手配すること、売買上の危険負担がいつ移転するか、事故時に誰が保険金を請求できるかは、同じ問題ではありません。
実務上は、倉庫間約款により保険が輸出者倉庫から開始している一方で、CIF上の危険負担や被保険利益、保険金請求権の帰属が事故時点によって変わるため、整理を誤ると混乱が生じます。
3つの軸を分けて考える
CIF条件を理解するうえで重要なのは、次の3つを分けて考えることです。
- 保険がいつからいつまで有効か
- 売買上の危険負担がいつ売主から買主へ移るか
- 事故時に誰が保険金を請求できるか
倉庫間約款は、保険期間の問題です。
CIF条件の危険負担は、売主と買主の間で損害を誰が負担するかという売買契約上の問題です。
保険金請求権は、事故時点で誰に被保険利益があり、誰が保険証券に基づき請求できるかという問題です。
この3つを同じものとして扱うと、CIF条件での事故対応を誤りやすくなります。
倉庫間約款による保険開始
Institute Cargo ClausesのTransit Clauseでは、保険契約で指定された倉庫または保管場所において、輸送開始のために貨物が最初に動かされた時から保険が開始するという考え方が採られています。
つまり、貨物が輸出者の倉庫から搬出され、トラック、CY、CFS、本船、輸入港、最終倉庫へ移動していく一連の輸送過程が、保険期間の対象になります。
そのため、CIF条件であっても、保険のカバーは本船積込時点から始まるのではなく、保険契約上指定された倉庫や保管場所で、輸送開始のために貨物が最初に動かされた時から始まることがあります。
CIF条件の危険負担移転とは別問題
CIF条件では、売主が保険を手配しますが、保険が開始する時点と、売買上の危険負担が移転する時点は必ずしも一致しません。
倉庫間約款上は輸出者倉庫から保険が開始していても、売買契約上の危険負担がどの時点で買主へ移るかは、インコタームズ条件や売買契約によって判断されます。
したがって、保険期間内の事故であることと、買主が当然に保険金請求権を持つことは同じではありません。
保険が有効に開始していても、その事故による損害を誰が負担する立場にあるのかを確認する必要があります。
輸出者倉庫から運送人引渡し前の事故
輸出者倉庫を出た後であっても、まだ運送人、CY、CFSなどへ引き渡される前に事故が発生することがあります。
倉庫間約款上は、すでに保険期間内に入っている可能性があります。
しかし、その事故が売買上の危険移転前に発生している場合、経済的損失を受けるのは輸出者側と整理されることがあります。
この場合、保険金請求権は、事故時点で被保険利益を持つ輸出者側に立つのが自然です。
つまり、保険は開始していても、買主がまだ損害を負担する立場にない場合には、買主の請求権として処理できるとは限りません。
CY・CFSで事故が起きた場合
実務上、最も悩ましいのは、貨物がCYやCFSに搬入された後、本船積込前に台風、地震、水濡れ、コンテナ損傷、構内事故などで損害が発生する場合です。
倉庫間約款上は、輸送過程にある貨物として保険期間内に入っている可能性があります。
一方で、本船積込前であるため、CIF条件における危険負担移転との関係では、売主側の危険と見るのか、買主側が保険証券に基づき請求できるのかが問題になります。
実務では、保険証券が買主へ譲渡され、買主が商品代金を支払う関係にある場合、買主側が保険金請求を行う場面があります。
そのため、CY・CFSでの本船積込前事故は、「保険は効いているが、誰の損害として請求するのか」を慎重に整理すべき典型例です。
買主が保険請求するのに代金を支払う矛盾
CIF条件では、買主が保険証券を受け取り、貨物損害について保険金請求を行うことがあります。
しかし、事故が本船積込前に発生している場合、買主から見ると「まだ危険移転前の事故なのに、なぜ代金を支払い、保険請求をしなければならないのか」という疑問が生じます。
この矛盾は、保険期間、売買上の危険負担、保険証券に基づく請求権を同時に考える必要があるために生じます。
保険は倉庫間約款により早い時点から開始している一方、CIFの危険負担移転や買主の代金支払義務は、売買契約や船積書類の引渡しと関係します。
したがって、事故時には単に「保険期間内か」だけでなく、売買契約上誰が損害を負担するのか、保険証券が誰に譲渡されているのか、誰が被保険利益を持つのかを確認する必要があります。
保険証券の譲渡と保険金請求権
CIF条件では、売主が貨物保険を手配し、保険証券を買主へ引き渡すことがあります。
しかし、保険証券を持っていることと、事故時に当然に保険金請求権を持つことは同じではありません。
保険金請求には、事故時点での被保険利益、売買契約、危険負担、保険証券の内容、保険証券の譲渡や裏書の有無が関係します。
したがって、CIF条件では、保険証券が買主に渡っているかだけでなく、その事故について買主が損害を負担する立場にあるかを確認する必要があります。
売主が保険を手配する意味
CIF条件では、売主が保険を手配します。
これは、買主のために輸送中のリスクに備える保険を用意し、保険証券を含む船積書類を買主へ提供するためです。
ただし、売主が保険を手配するからといって、全期間にわたり売主だけが保険金を請求するという意味ではありません。
また、買主が保険証券を受け取るからといって、すべての事故について買主が当然に保険金請求権を持つという意味でもありません。
事故時点の被保険利益と損害負担者を確認することが重要です。
保険開始・危険移転・請求権の時系列
CIF条件の貨物では、次のように時系列を分けると理解しやすくなります。
- 輸出者倉庫で貨物が輸送開始のために動かされる
- 倉庫間約款により保険が開始する
- トラック輸送、CY搬入、CFS搬入などの輸送過程に入る
- 貨物が本船に積み込まれる
- CIF条件上の危険負担が買主側へ移転する
- 船積書類と保険証券が買主側へ引き渡される
- 事故時点に応じて、誰が被保険利益を持つかを確認する
このように、保険開始、危険負担移転、保険証券の引渡し、保険金請求権は、同じ時点で一斉に動くわけではありません。
本船積込後の事故
本船積込後に貨物損害が発生した場合、CIF条件では買主側へ危険負担が移転していると整理されることがあります。
この場合、買主は貨物に損害が発生していても、売買契約上、商品代金を支払う義務を負うことがあります。
その一方で、買主は売主から受け取った保険証券に基づき、貨物保険会社へ保険金請求を行うことになります。
これが、CIF条件で売主が保険を手配する実務上の重要な意味です。
本船積込前の事故
本船積込前の事故では、より慎重な整理が必要です。
倉庫間約款上は保険期間内に入っていても、CIF条件上の危険負担移転前であれば、売主側の損害として整理される場合があります。
一方、貨物がすでに運送人、CY、CFSなどへ引き渡され、保険証券の譲渡や売買書類の流れが進んでいる場合には、買主側が保険請求を行う実務もあります。
したがって、本船積込前事故では、事故場所、事故時点、運送人への引渡し状況、保険証券の名義・譲渡、売買契約上の代金支払義務を確認する必要があります。
保険会社が確認する資料
CIF条件で貨物損害が発生した場合、保険会社は次のような資料を確認します。
- 保険証券
- B/LまたはSea Waybill
- Invoice
- Packing List
- 売買契約または取引条件
- インコタームズ条件
- 事故発生場所と事故発生日
- CY・CFS搬入日
- 本船積込日
- サーベイレポート
これらをもとに、保険期間内の事故か、誰に被保険利益があるか、誰が保険金請求権を行使できるかが確認されます。
NVOCC・フォワーダーが注意すべき点
NVOCCやフォワーダーは、CIF条件の貨物について、単に「売主が保険をかけている」とだけ理解してはいけません。
事故が発生した場合には、保険期間、危険負担、保険証券の名義、保険金請求権の帰属が問題になります。
特に、CY・CFSでの本船積込前事故、台風や地震による構内損害、コンテナ搬入後の損害では、買主・売主・保険会社の間で認識がずれやすくなります。
そのため、事故報告時には、事故場所、事故時点、貨物の引渡し状況、B/L発行状況、保険証券の流れを整理して報告する必要があります。
実務上の確認事項
CIF条件で貨物損害が発生した場合、少なくとも次の点を確認する必要があります。
- 保険はいつ開始しているか
- 事故は輸出者倉庫、内陸輸送中、CY、CFS、本船上のどこで発生したか
- 事故時点で貨物は運送人に引き渡されていたか
- 本船積込前か、本船積込後か
- CIF条件上の危険負担は誰にあるか
- 保険証券のAssuredは誰か
- 保険証券は買主へ譲渡されているか
- 買主は商品代金を支払う義務を負う状態か
- 誰が被保険利益を持つか
- 誰が保険金請求を行うべきか
CIF条件では、保険が効いているかどうかだけでなく、誰の損害として保険請求するかを確認することが重要です。
まとめ
CIF条件では、売主が貨物保険を手配します。
しかし、倉庫間約款による保険開始、CIF条件上の危険負担移転、保険金請求権の帰属は、必ずしも同じ時点で動くわけではありません。
保険は輸出者倉庫から開始していても、事故時点で誰が損害を負担するのか、誰が被保険利益を持つのかにより、保険金請求権の整理が変わります。
特にCY・CFSでの本船積込前事故は、保険期間内でありながら、CIF上の危険負担や保険金請求権の帰属が問題になりやすい典型例です。
CIF条件を理解するには、「保険はいつから始まるか」「危険はいつ移るか」「誰が保険金を請求できるか」を分けて考えることが重要です。
