貨物損害に付随する費用損害とフォワーダー賠償責任
貨物損害に付随する費用損害とフォワーダー賠償責任
貨物事故で実務上大きな争点となるのは、貨物そのものの損害だけではありません。
検品費用、仕分け費用、再梱包費用、廃棄費用、保管料、再輸送費用、代替品の急送費用、現地対応費用、納期遅延による費用など、貨物損害に付随して発生する費用損害が問題になることがあります。
荷主から見ると、これらの費用は「貨物事故がなければ発生しなかった損害」です。
しかし、貨物保険やB/L約款の世界では、貨物そのものの損害と、それに付随して発生した二次損害、間接損害、派生損害は、同じように扱われるとは限りません。
そのため、貨物損害額そのものは小さくても、付随費用の請求によって、フォワーダー・NVOCCとの間で大きな紛争になることがあります。
この記事で扱う範囲
この記事では、貨物事故に伴って発生する費用損害と、フォワーダー・NVOCCの賠償責任との関係を整理します。
具体的には、検品費用、仕分け費用、再梱包費用、廃棄費用、保管料、再輸送費用、急送費用、サーベイ費用、現地対応費用、納期遅延損害、営業損害などを扱います。
本記事の中心は、貨物そのものの損害と付随費用を分けて考え、貨物保険、B/L約款、フォワーダー賠償保険、荷主との契約書で、それぞれどこまで負担対象になるのかを確認することです。
貨物損害と費用損害は別に考える
貨物損害とは、貨物自体が滅失、損傷、汚損、水濡れ、不足、腐敗、変質などを起こしたことによる損害をいいます。
一方、費用損害とは、貨物事故に伴って発生する追加費用をいいます。
たとえば、損傷貨物を仕分けるための検品費用、廃棄費用、再梱包費用、保管料、代替品を航空便で送る費用、現地での調査費用などです。
実務では、この費用損害が荷主からフォワーダーへ請求されることがあります。
特に、荷主が「元請として輸送を引き受けたのだから、貨物事故に伴う費用も負担すべきだ」と主張する場合、B/L約款や契約書の責任範囲が問題になります。
費用損害の類型別整理
貨物事故に付随する費用は、種類によって貨物保険、B/L約款、フォワーダー賠償保険での扱いが異なります。
| 費用類型 | 貨物保険での扱い | B/L約款での扱い | フォワーダー賠償保険での扱い |
|---|---|---|---|
| 検品費用 | 損害確認や損害軽減に必要な費用として問題になることがある | 貨物損害そのものとは別費用として争点になりやすい | フォワーダーに責任がある場合、対象になる可能性がある |
| 仕分け費用 | 損傷品と正常品の選別に必要な場合は検討対象になることがある | 必要性と相当性が問題になる | 事故原因と責任範囲により判断される |
| 再梱包費用 | 損害拡大防止や再輸送に必要な場合は対象になることがある | 直接損害か付随費用かが争点になる | 損害軽減費用として検討されることがある |
| 廃棄費用 | 残存物処理や衛生上必要な場合に検討対象になることがある | 貨物の価額損害とは別に扱われることが多い | 責任原因と保険条件により対象可否が分かれる |
| 保管料・倉庫料 | 事故調査や通関遅延に伴う費用として争点になりやすい | 遅延損害・付随費用として制限されることがある | フォワーダーの過失との因果関係が必要になる |
| 再輸送費用 | 損傷貨物の再発送や代替輸送として検討されることがある | 運送人責任の範囲外とされる場合がある | 必要性、相当性、責任関係により判断される |
| 代替品の急送費用 | 通常の貨物保険では争点になりやすい | 間接損害・特別損害として制限されやすい | 特約や個別条件がないと対象外になりやすい |
| サーベイ費用 | 保険会社手配の場合、保険事故処理費用として扱われることがある | 責任判断のための調査費用として別管理になる | 防御費用・争訟費用として対象になることがある |
| 弁護士費用・争訟費用 | 荷主の貨物保険では通常別問題になる | 運送人に当然請求できるとは限らない | 争訟費用や防御費用として対象になることがある |
| 納期遅延損害 | 貨物保険では対象外または争点になりやすい | 遅延損害として免責・制限されやすい | 対象外または制限対象になりやすい |
| 販売機会の喪失・逸失利益 | 間接損害として対象外になりやすい | 特別損害・間接損害として制限されやすい | 対象外になりやすい |
| 取引先への違約金 | 貨物そのものの損害ではないため対象外になりやすい | 契約上のペナルティとして免責されやすい | 契約上特別に引き受けた責任として対象外になりやすい |
| 工場ライン停止損害 | 間接損害として対象外になりやすい | 派生損害として免責・制限されやすい | 通常は対象外または慎重判断になる |
同じ「貨物事故に伴う費用」であっても、直接損害に近い費用なのか、損害軽減のための費用なのか、営業上の損害なのかによって扱いは変わります。
荷主・フォワーダー・保険会社の立場別整理
付随費用を整理するには、荷主側、フォワーダー側、保険会社側のどの立場で見るかを分ける必要があります。
| 立場 | 主な見方 | 問題になりやすい費用 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 荷主側 | 貨物事故がなければ発生しなかった費用として捉える | 検品費用、仕分け費用、再梱包費用、急送費用、納期遅延費用 | すべてが貨物保険やフォワーダー賠償で回収できるとは限らない |
| フォワーダー側 | 自社の責任範囲内の費用かを確認する | 荷主からの付随費用請求、代替輸送費用、保管料、再輸送費用 | B/L約款、契約書、責任制限、保険対象可否を確認する必要がある |
| 貨物保険会社側 | 貨物保険で担保される損害かを確認する | 損害防止軽減費用、サーベイ費用、残存物処理費用 | 保険条件、費用の必要性、相当性、事故原因が重要になる |
| フォワーダー賠償保険会社側 | フォワーダーの法律上・契約上の賠償責任かを確認する | 防御費用、争訟費用、付随費用の賠償請求 | 責任承認前の通知、事前承認、免責事項が重要になる |
荷主にとって現実に発生した費用であっても、フォワーダーが当然に負担するとは限りません。
また、フォワーダーが荷主対応として支払った費用であっても、保険会社が当然に認めるとは限りません。
貨物保険で補償されにくい場合
荷主が外航貨物海上保険に加入していても、貨物事故に伴うすべての費用が補償されるわけではありません。
貨物保険は、基本的には貨物そのものの物的損害を中心に設計されています。
そのため、貨物損害に伴って発生した営業損害、納期遅延による損害、販売機会の喪失、取引先への違約金、工場停止損害などは、二次損害・間接損害として補償対象外または争点になることがあります。
また、梱包不備、積付不良、ラッシング不備、危険品申告不備などが事故原因である場合、貨物保険上の免責が問題になることもあります。
この場合、荷主は貨物保険で回収できなかった損害や費用を、フォワーダー、NVOCC、梱包業者、倉庫業者などに請求することがあります。
損害防止軽減費用とSue and Labour
貨物保険では、貨物に事故が発生した場合に、損害の拡大を防止または軽減するために支出した費用が問題になることがあります。
このような費用は、損害防止軽減費用、またはSue and Labour費用として整理されることがあります。
たとえば、濡損貨物を乾燥させる費用、正常品と損傷品を仕分ける費用、損害拡大を防ぐための再梱包費用、汚染貨物の隔離費用、残存貨物の価値を守るための緊急対応費用などです。
ただし、Sue and Labourとして認められるかどうかは、保険条件、事故原因、費用の必要性、費用の相当性、保険会社への通知状況によって変わります。
また、損害軽減のための費用と、納期遅延を回避するための営業上の急送費用や取引先対応費用は、同じように扱われるとは限りません。
そのため、荷主やフォワーダーが費用を支出する前に、可能な限り貨物保険会社や賠償保険会社へ連絡し、費用の扱いを確認することが重要です。
B/L約款でも二次損害は争点になりやすい
NVOCC・フォワーダーがHouse B/Lを発行している場合、貨物事故についてはB/L約款上の責任制限や免責条項が問題になります。
多くの場合、B/L約款は貨物の滅失・損傷に関する運送人責任を中心に構成されており、遅延損害、間接損害、営業損害、特別損害、派生損害については免責または制限される方向で整理されています。
しかし、荷主側は「事故に伴って実際に発生した費用だから負担してほしい」と主張することがあります。
特に、元請フォワーダーとして全体の輸送を手配している場合、荷主から直接請求を受けることは珍しくありません。
このとき、B/L約款の責任制限が有効に働くのか、荷主との個別契約が優先するのか、見積条件や取引基本契約にどのような責任条項があるのかが重要になります。
商品損害より費用損害の方が大きくなることがある
実務上、貨物そのものの損害額は比較的小さくても、その後に発生する費用損害の方が大きくなることがあります。
たとえば、食品や化学品の一部に損傷や漏出が発生した場合、貨物そのものの損害額よりも、仕分け、検品、廃棄、清掃、再梱包、倉庫保管、現地対応の費用が大きくなることがあります。
また、機械部品や生産ライン向け貨物では、損傷部品の代替品を航空便で急送する費用や、納期遅延による取引先対応費用が問題になることがあります。
このような費用は、荷主にとっては現実に発生した損害ですが、運送人やフォワーダー側から見ると、B/L約款上の責任範囲や保険の補償範囲を超える可能性があります。
荷主からフォワーダーへ請求が来る理由
貨物事故が発生した場合、荷主はまず貨物保険で回収できるかを確認します。
しかし、貨物保険で全額が支払われない場合、または付随費用が補償対象外となる場合、荷主は輸送を手配したフォワーダーに請求することがあります。
荷主から見れば、フォワーダーは窓口であり、元請であり、輸送全体を手配した相手です。
そのため、実際の事故原因が船会社、CFS、倉庫、トラック業者、海外代理店、梱包業者にあったとしても、まずフォワーダーへ請求が向かうことがあります。
フォワーダーは、その後に実運送人や下請業者へ求償できるかを検討することになります。
しかし、事故原因の立証が難しい場合や、海外側の関係者に十分な賠償資力がない場合、フォワーダー側に負担が残る可能性があります。
費用損害のリスクが高い案件類型
付随費用のリスクは、すべての貨物で同じではありません。
次のような案件では、貨物本体の損害よりも付随費用が大きくなる可能性があります。
| 案件類型 | 発生しやすい付随費用 | 契約前に確認すべきこと |
|---|---|---|
| 食品・飲料 | 検品費用、廃棄費用、衛生検査費、再梱包費用 | 廃棄費用、検査費用、衛生上の処理費用を誰が負担するか |
| 化学品・液体貨物 | 清掃費用、他貨物汚損、廃棄費用、倉庫対応費用 | 漏洩時の第三者損害、清掃費用、他貨物損害の扱い |
| 危険品 | 緊急対応費用、隔離費用、廃棄費用、船会社請求 | SDS、申告内容、受託可否、未申告時の補償責任 |
| 温度管理貨物 | 品質検査費、廃棄費用、再輸送費、サーベイ費用 | 温度逸脱時の判断基準、データロガー、廃棄判断者 |
| 生産ライン向け部品 | 急送費用、ライン停止損害、取引先対応費用 | 納期保証の有無、急送費用・ライン停止損害の除外 |
| 高額機械・精密機器 | 検査費、修理費、再梱包費、現地技術者費用 | 修理費用、技術者費用、間接損害の扱い |
| LCL混載貨物 | 他貨物損害、仕分け費用、CFS作業費、清掃費用 | 同載貨物への波及、CFS責任、Co-Loader責任 |
| 展示品・イベント貨物 | 急送費用、設営遅延費用、イベント損害 | 納期遅延損害、イベント中止損害、特別損害の除外 |
これらの案件では、見積時点で貨物価額だけを見るのではなく、事故が起きた場合にどのような費用が派生するかを確認する必要があります。
契約前に除外・制限しておくべき損害
費用損害や二次損害は、事故後に争うよりも、契約前に責任範囲を整理しておくことが重要です。
荷主との取引基本契約、見積条件、B/L約款、個別契約では、次のような損害について、フォワーダーがどこまで責任を負うのかを確認しておく必要があります。
| 除外・制限したい損害 | 理由 | 契約前の対応 |
|---|---|---|
| 間接損害 | 貨物損害から派生する範囲が広く、金額が膨らみやすい | 間接損害は責任対象外とする条項を検討する |
| 特別損害 | フォワーダーが通常予見できない損害まで請求される可能性がある | 特別損害は事前合意がない限り除外する |
| 派生損害 | 事故に関連する追加費用が広く含まれやすい | 直接損害に限定する表現を確認する |
| 営業損害・逸失利益 | 販売機会喪失や利益喪失は保険対象外になりやすい | 逸失利益、営業損害を除外する |
| 納期遅延損害 | 本船遅延、港混雑、通関遅延など不可抗力要素が多い | 到着予定日は保証ではないことを明記する |
| 取引先への違約金 | 荷主と第三者との契約上のペナルティまで波及する | 第三者契約上の違約金は対象外とする |
| 工場停止損害 | 貨物価額を大きく超える損害になりやすい | 生産停止・ライン停止損害を除外する |
| 代替品の急送費用 | 営業判断による費用か損害軽減費用かが争点になる | 事前承認または個別合意を条件にする |
| 任意の顧客対応費用 | 法的責任とは別の営業上支出になりやすい | 保険会社承認なしの支出は自社負担となる可能性を確認する |
特に、荷主が「貨物事故に伴う一切の損害を負担すること」といった広い責任条項を求めている場合は、そのまま受け入れるべきではありません。
保険で守れる範囲と、契約で背負う範囲が一致しているかを確認する必要があります。
賠償保険や特約で補完できる場合
貨物損害に付随する費用の中には、賠償保険や付帯特約で補完できるものもあります。
たとえば、損害防止軽減費用、争訟費用、サーベイ費用、残存物廃棄費用、代替部品の急送費用などです。
ただし、保険で補償されるかどうかは、保険条件、特約、事故原因、費用の性質によって異なります。
荷主との契約で広く責任を引き受けている場合でも、そのすべてが賠償保険で補償されるとは限りません。
そのため、フォワーダーは、契約で引き受ける責任と、保険で補完できる範囲を事前に照合しておく必要があります。
専門家相談が必要になる場面
貨物損害に付随する費用損害は、保険だけでなく、契約解釈、B/L約款、準拠法、責任制限、求償関係が絡むことがあります。
特に、高額貨物、納期遅延リスクの大きい貨物、生産ライン向け部品、食品、化学品、危険品、温度管理貨物、LCL混載貨物、海外代理店が関与する案件では、事故前に契約条件を確認しておくことが重要です。
荷主契約で間接損害や付随費用の負担を求められる場合には、海事弁護士など専門家に相談し、フォワーダーが過大な責任を負わないように整理することが有効です。
実務上の注意点
フォワーダーが注意すべきなのは、貨物事故の損害額だけではありません。
むしろ、貨物事故に伴って発生する費用損害が、後から大きな請求として出てくることがあります。
見積段階で作業範囲を明確にし、契約書で責任範囲を確認し、B/L約款で免責・責任制限を整え、必要に応じて賠償保険や特約で補完することが重要です。
また、事故発生後に荷主から付随費用の請求を受けた場合でも、すぐに負担を認めるのではなく、費用の性質、必要性、相当性、事故原因、自社責任、保険対象可否を確認する必要があります。
実務上の確認事項
貨物損害に付随する費用損害を確認する場合、少なくとも次の点を確認する必要があります。
- 請求されている費用は貨物本体の損害か、付随費用か
- 検品費用、仕分け費用、再梱包費用、廃棄費用などの内訳が明確か
- その費用は損害軽減のために必要だったか
- 費用の金額は相当か
- 貨物保険で対象になる費用か
- Sue and Labour費用として扱える可能性があるか
- B/L約款で間接損害や派生損害が制限されているか
- 荷主との契約書で付随費用を広く引き受けていないか
- フォワーダー賠償保険や特約で補完できるか
- 保険会社へ事前通知または承認を取っているか
- 急送費用や営業損害が任意支出になっていないか
- 実運送人や下請業者へ求償できる費用か
- 契約前に除外・制限すべき損害を整理しているか
まとめ
貨物事故で本当に揉めやすいのは、貨物そのものの損害だけではなく、そこから派生する費用損害です。
検品費用、仕分け費用、廃棄費用、再輸送費用、急送費用、納期遅延損害、営業損害などは、貨物保険やB/L約款で当然に補償・負担されるとは限りません。
荷主から見れば貨物事故に伴う損害であっても、フォワーダー側から見ると、二次損害、間接損害、派生損害として免責または責任制限の対象になることがあります。
また、損害防止軽減費用やSue and Labourとして保険上検討できる費用と、営業上の急送費用、逸失利益、違約金、工場停止損害は同じではありません。
そのため、NVOCC・フォワーダーは、新規荷主や新規案件を受ける前に、貨物損害だけでなく、付随費用や二次損害をどこまで負担するのかを契約上明確にし、必要に応じて賠償保険、特約、専門家相談で補完することが重要です。
