SDR(特別引出権)と運送人責任制限
SDR(特別引出権)とは
SDR(Special Drawing Rights/特別引出権)とは、IMF(International Monetary Fund/国際通貨基金)が定める国際的な会計単位です。
SDRは通貨そのものではありませんが、米ドル、ユーロ、中国人民元、日本円、英ポンドの通貨バスケットに基づいて価値が算定されます。
Maritime Wikiでは、SDRを国際金融の一般論としてではなく、海上運送人・航空運送人の責任制限額を計算するための単位として整理します。
貨物事故では、B/L約款、国際条約、国内法、運送契約により、運送人の賠償責任がSDR建てで制限されることがあります。そのため、SDRは貨物クレーム、運送人求償、貨物保険の実務で重要になります。
この記事で扱う範囲
| 扱う範囲 | この記事での整理 | 別途確認すべき内容 |
|---|---|---|
| SDRの基本 | SDRを、IMFが定める国際的な会計単位として説明します。 | 国際金融、外貨準備、IMF融資制度そのものの詳細は別論点です。 |
| 海上運送人責任制限 | B/L約款、ヘーグ・ヴィスビー規則、国内法に基づく責任限度額の考え方を整理します。 | 実際の適用法、裁判管轄、B/L約款の有効性は個別確認が必要です。 |
| 航空運送人責任制限 | 航空貨物における重量基準の責任制限とSDR換算の考え方を整理します。 | モントリオール条約、AWB約款、最新の責任限度額を確認します。 |
| Package Limitationとの関係 | 1包・1単位あたりの責任制限と、重量基準による責任制限の違いを説明します。 | コンテナ貨物で何を1包・1単位と見るかはB/L記載と法的判断が関係します。 |
| 貨物保険・代位求償との関係 | 貨物保険会社が運送人へ求償する際、SDR責任制限が回収額に影響することを説明します。 | 保険金支払可否、求償方針、免責、サーベイ結果は保険会社と確認します。 |
| フォワーダー・荷主実務 | 荷主から「なぜ全額回収できないのか」と聞かれた場合の説明軸を整理します。 | 個別案件での責任判断、法的助言、訴訟判断は弁護士等に確認します。 |
| SDR換算実務 | 換算レート、換算日、貨物重量、包数、B/L・AWB記載を確認する流れを整理します。 | 実際の換算日は、約款、準拠法、裁判所、和解実務により異なる場合があります。 |
SDRが物流実務で重要になる理由
SDRは、国際物流実務では主に「運送人の責任限度額」を計算する場面で使われます。
海上輸送、航空輸送、複合輸送では、貨物に損害が発生しても、運送人が常に貨物価額全額を賠償するとは限りません。国際条約や運送約款により、一定額まで責任を制限できる場合があります。
この責任限度額の計算単位として、SDRが使われることがあります。
そのため、貨物事故では、貨物価額だけでなく、重量、包数、B/LやAir Waybill上の記載、適用約款、準拠法、SDR換算日を確認する必要があります。
制度が適用される主な場面
| 場面 | SDRが問題になる理由 | 確認すべき資料 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 海上輸送中の貨物損傷 | 運送人がB/L約款や国際条約に基づきSDR建ての責任制限を主張することがあります。 | B/L、Invoice、Packing List、重量資料、Survey Report | 貨物価額全額ではなく、責任限度額が上限になる可能性があります。 |
| 航空貨物の破損・紛失 | 航空運送人の責任限度額が重量基準でSDR建てとなることがあります。 | Air Waybill、重量資料、貨物明細、事故報告 | 高額貨物では、運送人責任だけでは実損額を回収できないことがあります。 |
| 貨物保険会社による代位求償 | 保険会社が荷主へ支払った後、運送人へ求償する際にSDR責任制限が問題になります。 | 保険金支払資料、求償状、B/L、AWB、サーベイ資料 | 保険金支払額と求償回収額は一致しない場合があります。 |
| コンテナ貨物の責任制限 | B/L上の包数記載により、1コンテナを1単位と見るか、個別包数を基準にするかが問題になります。 | B/L、コンテナ明細、Packing List、Shipping Instruction | 包数記載が責任限度額に大きく影響することがあります。 |
| 高額貨物の事故 | 貨物価額が高くても、運送人責任制限により回収額が限定されることがあります。 | Invoice、保険証券、B/L、AWB、重量資料 | 精密機械、電子部品、医薬品などでは貨物保険手配が重要です。 |
| 荷主から全額請求を受けた場合 | 荷主は貨物価額全額を請求しても、運送人側は責任制限を主張することがあります。 | 請求書、損害明細、B/L、約款、準拠法 | 安易に全額賠償を前提に回答しないことが重要です。 |
| 和解交渉・訴訟対応 | SDR換算日、換算通貨、責任制限の適用可否が争点になることがあります。 | 約款、準拠法、裁判資料、IMFレート、損害資料 | 換算日を機械的に決めず、保険会社・弁護士に確認します。 |
海上運送人責任制限との関係
海上貨物事故では、ヘーグ・ヴィスビー規則などに基づき、運送人の責任がSDR建てで制限されることがあります。
代表的には、貨物の損害について、1包または1単位あたりの限度額、または貨物総重量1kgあたりの限度額を比較し、高い方を責任限度額とする考え方があります。
このとき重要になるのは、貨物価額だけではありません。貨物の総重量、包数・個数、B/L上の記載単位、コンテナ内の明細記載、適用される約款・準拠法、SDRの換算日が問題になります。
特にコンテナ貨物では、B/L上でコンテナ1本として記載されているのか、カートン数やパレット数が明記されているのかによって、責任限度額の考え方に影響することがあります。
航空運送人責任制限との関係
航空貨物でも、国際条約や航空運送約款により、運送人の責任限度額がSDR建てで定められることがあります。
航空貨物では、一般に重量を基準に責任限度額を計算する場面が多く、貨物価額が高い場合には、運送人責任限度額だけでは実損額を回収できないことがあります。
モントリオール条約に基づく航空貨物の責任限度額は、国際的な見直しにより変更されることがあります。したがって、記事本文に古い固定額を残すのではなく、実務では事故時点・運送契約時点・適用条約に応じて最新の責任限度額を確認することが重要です。
高額貨物、精密機器、医薬品、温度管理貨物などでは、運送人責任だけに頼らず、貨物保険の手配を検討することが重要です。
海上輸送と航空輸送の責任制限比較
| 比較項目 | 海上輸送 | 航空輸送 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 主な書類 | B/L、Sea Waybill、HOUSE B/L、MASTER B/L | Air Waybill、House Air Waybill、Master Air Waybill | 書類上の重量、包数、品名、申告価額を確認します。 |
| 責任制限の考え方 | 包数・単位基準と重量基準を比較する制度が問題になります。 | 重量基準で責任限度額を計算する制度が中心になります。 | 海上ではPackage Limitation、航空ではkgあたり限度額が特に重要です。 |
| 問題になりやすい記載 | コンテナ1本の記載か、カートン数・パレット数の記載かが問題になります。 | Chargeable Weightではなく、損害貨物の重量をどう見るかが問題になります。 | 運賃計算上の重量と責任制限計算上の重量は区別します。 |
| 高額貨物のリスク | 重量や包数に比べて貨物価額が高い場合、責任限度額が低くなることがあります。 | 軽量高額貨物では、責任限度額が実損額を大きく下回ることがあります。 | 電子部品、医薬品、精密機器では貨物保険が重要です。 |
| 求償実務 | 貨物保険会社が船会社、NVOCC、フォワーダーへ求償することがあります。 | 貨物保険会社が航空会社、航空フォワーダーへ求償することがあります。 | いずれも責任制限が求償回収額に影響します。 |
| 確認すべき相手 | 船会社、NVOCC、保険会社、弁護士、サーベイヤー | 航空会社、航空フォワーダー、保険会社、弁護士、サーベイヤー | 運送モードごとの約款と適用法を確認します。 |
適用要件・対象外となるもの
| 区分 | 適用・対象外の考え方 | 確認すべき資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| SDR責任制限が問題になる場合 | 運送人が国際条約、国内法、B/L約款、AWB約款に基づき責任制限を主張する場合です。 | B/L、AWB、約款、準拠法、事故資料 | 貨物事故があるだけで自動的にSDR計算になるわけではありません。 |
| 貨物価額全額を基準にできない場合 | 運送人責任が成立しても、責任制限により賠償額が限定されることがあります。 | Invoice、Packing List、重量資料、包数記載 | 貨物価額と責任限度額を分けて確認します。 |
| 責任制限が認められない可能性がある場合 | 故意または重大な無謀行為など、責任制限の喪失が問題になる場合があります。 | 事故調査資料、通信記録、運送人の行為記録 | 責任制限喪失の判断は高度な法的判断になります。 |
| 荷主側の貨物保険で処理する場合 | 貨物保険は貨物所有者の損害を補償する保険であり、SDR責任制限とは役割が異なります。 | 貨物保険証券、事故通知、保険金請求書類 | 保険金支払後の代位求償でSDR責任制限が問題になることがあります。 |
| 約款・準拠法が不明な場合 | どの責任制限制度を使うか判断できません。 | B/L裏面約款、AWB約款、運送契約、取引基本契約 | まず適用約款と準拠法を確認します。 |
| 国内配送だけの事故 | 国際海上・航空運送の責任制限とは別の国内運送約款や契約が問題になる場合があります。 | 配送伝票、国内運送約款、納品記録、契約書 | 国際運送区間の事故か、国内配送区間の事故かを分けます。 |
| 遅延損害・間接損害 | 貨物の物理的損害とは別に、遅延、逸失利益、工場停止損害が請求されることがあります。 | 請求書、契約書、約款、損害明細 | 運送人責任の対象外または制限対象となることが多いため、安易に認めないようにします。 |
他制度との比較
| 制度・概念 | 主な意味 | SDRとの関係 | 実務で確認する資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| SDR責任制限 | 運送人の賠償責任をSDR建てで計算する仕組みです。 | 責任限度額を円、米ドルなどへ換算する際に使います。 | IMFレート、B/L、AWB、約款、重量資料 | 最新レートと換算基準日を確認します。 |
| Package Limitation | 1包または1単位あたりの責任制限です。 | 包数・単位ごとにSDR建て限度額を計算する場面があります。 | B/L、Packing List、Shipping Instruction | コンテナ貨物ではB/L上の記載が重要です。 |
| Weight Limitation | 貨物の重量を基準に責任限度額を計算する仕組みです。 | kgあたりSDRで計算されることがあります。 | 重量証明、B/L、AWB、貨物明細 | 総重量、損傷貨物重量、課金重量を混同しないようにします。 |
| B/Lの責任制限 | B/L約款に基づく運送人責任制限です。 | SDR建ての責任限度額が約款に組み込まれている場合があります。 | B/L表面、裏面約款、準拠法条項 | HOUSE B/LとMASTER B/Lで条件が異なることがあります。 |
| 貨物保険 | 貨物所有者の貨物損害を補償する保険です。 | 保険金支払後、運送人への求償段階でSDR責任制限が問題になります。 | 保険証券、事故資料、求償資料 | 保険金額と求償回収額は一致しないことがあります。 |
| 運送人の免責 | 運送人が責任を負わない事由です。 | 免責が成立する場合、SDR計算以前に賠償責任が否定されることがあります。 | 事故原因資料、約款、サーベイ資料 | 免責と責任制限は別の論点です。 |
SDR換算で確認する項目
| 確認項目 | 確認する理由 | 確認資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 適用される運送約款 | どの責任制限制度を使うかを確認するためです。 | B/L裏面約款、AWB約款、運送契約 | HOUSEとMASTERで条件が異なる場合があります。 |
| 準拠法・裁判管轄 | 責任制限の適用可否や換算日の判断に影響します。 | B/L、AWB、契約書、約款 | 法的判断が必要な場合は弁護士に確認します。 |
| 貨物の総重量 | 重量基準の責任制限を計算するためです。 | Packing List、B/L、AWB、重量証明 | 貨物全体か損傷部分だけかを確認します。 |
| 包数・単位数 | Package Limitationを計算するためです。 | B/L、Packing List、Shipping Instruction | コンテナ1本か、カートン数か、パレット数かが争点になることがあります。 |
| B/L・AWB上の記載 | 運送人が認識した貨物情報を確認するためです。 | B/L表面、AWB、Booking Confirmation | 書類記載と実貨物明細が一致しているか確認します。 |
| SDR換算日 | SDR価値は変動するため、換算日の違いで金額が変わるためです。 | 約款、準拠法、裁判資料、保険会社の計算書 | 事故日、判決日、支払日など、どの日を使うか確認します。 |
| IMF公表レート | SDRを日本円、米ドルなどに換算するためです。 | IMF公表データ、保険会社計算書 | 記事本文には固定換算額を残さず、都度最新値を確認します。 |
制度適用フロー
- 貨物事故が発生した輸送区間を確認します。
- 海上輸送、航空輸送、複合輸送、国内配送のどの区間かを整理します。
- B/L、Sea Waybill、Air Waybill、HOUSE B/L、MASTER B/Lなどの運送書類を確認します。
- 適用される約款、準拠法、裁判管轄、国際条約を確認します。
- 運送人に責任があるか、免責事由がないかを確認します。
- 責任がある可能性がある場合、責任制限の適用可否を確認します。
- 包数・単位基準と重量基準のどちらを使うか、または比較するかを確認します。
- B/L・AWB上の記載、貨物重量、包数、損傷範囲を確認します。
- SDR換算日とIMF公表レートを確認します。
- 貨物価額、保険金支払額、運送人責任限度額、求償可能額を分けて整理します。
- 荷主、保険会社、運送人、フォワーダー、弁護士、サーベイヤーと対応方針を確認します。
フォワーダー・荷主実務での位置づけ
フォワーダーや荷主にとって、SDRは日常的に使う通貨ではありません。
しかし、貨物事故が発生し、運送人責任や求償を検討する段階では、SDR建ての責任制限が問題になることがあります。
フォワーダー実務では、荷主から「なぜ貨物価額全額を運送人に請求できないのか」と質問される場面があります。その際、運送人には約款や国際条約上の責任制限があり、その計算単位としてSDRが使われることがあると説明する必要があります。
ただし、フォワーダーは法律判断を断定する立場ではありません。責任の有無、責任制限の適用可否、責任制限喪失の有無、換算日については、保険会社、弁護士、アジャスターと確認しながら整理することが重要です。
貨物保険との関係
SDRによる責任制限は、貨物保険実務でも重要です。
貨物保険で荷主に保険金が支払われた後、保険会社が運送人へ求償する場合、運送人がSDR建ての責任制限を主張することがあります。
この場合、保険金支払額と、運送人から回収できる金額が一致するとは限りません。
たとえば、貨物価額が高くても、運送人の責任限度額がSDR換算で低くなる場合、保険会社の求償回収額は限定される可能性があります。
そのため、貨物保険の有無、保険金額、免責金額、求償方針、運送人責任制限を分けて整理する必要があります。
IMF SDRレートの確認
SDRの価値は、IMFが公表するSDR評価レートで確認します。
IMFは、主要通貨のバスケットと市場為替レートに基づいてSDR価値を算出しています。実務では、責任制限額を日本円や米ドルに換算する際に、IMF公表レートを参照します。
ただし、Wiki記事内に特定日のSDR換算額を固定して記載すると、時間の経過により古くなります。そのため、実務では最新のIMF公表値を確認することが重要です。
また、換算日は常に事故日とは限りません。約款、準拠法、裁判所、和解実務、保険会社の処理方針によって、判決日、支払日、和解日などが問題になることがあります。
典型的に問題になるケース
| ケース | 何が問題になるか | 確認すべき資料 | 実務上の対応 |
|---|---|---|---|
| 海上輸送中に貨物が濡損した | 運送人がB/L約款に基づきSDR建ての責任制限を主張することがあります。 | B/L、Survey Report、写真、Invoice、Packing List | 責任の有無、免責、包数・重量、SDR換算日を確認します。 |
| 高額な精密機械が航空輸送中に破損した | 貨物価額に比べて航空運送人の重量基準責任限度額が低くなることがあります。 | AWB、重量資料、Invoice、保険証券、事故報告 | 貨物保険の有無と運送人責任限度額を分けて整理します。 |
| 貨物保険会社から代位求償が行われた | 保険会社の支払額と運送人から回収できる額に差が生じることがあります。 | 保険金支払資料、求償状、B/L、AWB、サーベイ資料 | SDR責任制限を踏まえて求償可能額を確認します。 |
| コンテナ貨物で包数記載が曖昧だった | コンテナ1本を単位とするのか、カートン数やパレット数を見るのかが争点になります。 | B/L、Shipping Instruction、Packing List、コンテナ明細 | B/L上の記載単位と実貨物明細を照合します。 |
| 荷主が貨物価額全額の賠償を求めた | 荷主の請求額と運送人の法的責任限度額が一致しないことがあります。 | 請求書、Invoice、B/L、約款、事故資料 | 全額支払を前提にせず、責任制限を説明します。 |
| SDR換算日で意見が分かれた | 事故日、請求日、判決日、支払日など、どの日のレートを使うかが問題になります。 | 約款、準拠法、裁判資料、IMFレート、保険会社計算書 | 保険会社、弁護士、アジャスターに確認します。 |
| 遅延損害や逸失利益も請求された | 貨物の物理的損害とは別に、間接損害が請求されることがあります。 | 請求明細、契約書、約款、事故原因資料 | 運送人責任の対象か、免責か、責任制限対象かを確認します。 |
具体例1:海上輸送中の濡損事故でSDR責任制限が問題になる場合
海上輸送中にコンテナ内で貨物が濡損し、荷主が運送人またはNVOCCへ貨物価額全額を請求することがあります。この場合、まず事故原因と事故発生区間を確認します。海上輸送中の事故であり、運送人に責任がある可能性がある場合でも、運送人はB/L約款や適用法に基づきSDR建ての責任制限を主張することがあります。
実務では、B/L、Packing List、Invoice、Survey Report、写真、重量資料を確認します。次に、包数基準と重量基準のどちらが適用されるか、または比較されるかを確認します。コンテナ貨物では、B/L上の記載がコンテナ1本なのか、カートン数やパレット数が明記されているのかが重要です。
荷主に対しては、貨物価額全額を請求できることと、運送人から法的に回収できる金額が一致しない場合があることを説明する必要があります。
具体例2:航空輸送中に高額貨物が破損した場合
航空輸送中に高額な精密機器、電子部品、医薬品などが破損した場合、貨物価額が高額でも、航空運送人の責任限度額は重量を基準に計算されることがあります。
たとえば、軽量で高額な貨物では、kgあたりの責任限度額で計算すると、実損額に比べて運送人から回収できる金額が大幅に低くなる可能性があります。このため、航空貨物では、運送人責任だけに頼るのではなく、荷主側の貨物保険手配が重要になります。
フォワーダー実務では、AWB上の重量、貨物価額、保険手配の有無、申告価額、温度管理条件、梱包状態を確認します。高額貨物を扱う場合は、出荷前に貨物保険と運送人責任制限の違いを荷主へ説明しておくことが望ましいです。
具体例3:貨物保険会社が運送人へ代位求償する場合
貨物保険会社が荷主へ保険金を支払った後、保険会社はその支払額の範囲で荷主の権利を取得し、運送人、NVOCC、航空会社、倉庫業者などへ求償することがあります。
このとき、保険会社が支払った金額をそのまま運送人から回収できるとは限りません。運送人に責任があるとしても、約款や国際条約に基づくSDR責任制限により、回収額が限定されることがあります。
実務では、保険金支払額、求償状、B/LまたはAWB、事故原因資料、責任制限額、SDR換算日を整理します。求償を受けた側も、請求金額だけを見て支払判断をせず、責任の有無と責任制限を確認する必要があります。
具体例4:コンテナ貨物でB/L上の包数記載が争点になる場合
コンテナ貨物では、B/L上に「1 Container」とだけ記載されている場合と、コンテナ内のカートン数、パレット数、ケース数が明記されている場合があります。
運送人責任制限を計算する際、1包または1単位をどのように見るかは、責任限度額に大きく影響します。カートン数が明記されていれば、その記載を基準に計算が検討される場合があります。一方、コンテナ1本のみの記載では、責任限度額が大きく変わる可能性があります。
実務上は、Shipping Instruction、Packing List、B/Lドラフト、最終B/Lを照合し、荷主が意図する貨物明細がB/Lに反映されているか確認します。事故後に包数記載を修正することは困難なため、出荷前の書類確認が重要です。
4列判断チェックリスト
| 確認場面 | 確認する相手 | 確認事項 | 問題がある場合の対応 |
|---|---|---|---|
| 事故発生直後 | 荷主、荷受人、倉庫、配送会社 | 事故発見日時、発見場所、貨物状態、損傷範囲 | 現物保全、写真取得、サーベイ手配を行います。 |
| 運送区間確認時 | 船会社、航空会社、NVOCC、フォワーダー | 海上、航空、国内配送、倉庫作業のどこで発生した可能性があるか | 責任主体と適用約款を区間ごとに整理します。 |
| 運送書類確認時 | 荷主、フォワーダー、NVOCC、航空代理店 | B/L、AWB、HOUSE、MASTER、約款、準拠法 | 責任制限制度と適用条件を確認します。 |
| 包数・重量確認時 | 荷主、梱包業者、倉庫、フォワーダー | 貨物総重量、損傷貨物重量、包数、B/L・AWB記載 | Packing Listと運送書類の不一致を確認します。 |
| SDR換算時 | 保険会社、弁護士、アジャスター | 換算日、IMFレート、換算通貨、責任限度額 | 事故日だけで機械的に換算せず、適用基準を確認します。 |
| 荷主へ説明する時 | 荷主、営業担当、事故対応担当 | 貨物価額、運送人責任、貨物保険、回収可能額の違い | 全額回収を保証せず、責任制限の可能性を説明します。 |
| 代位求償を受けた時 | 貨物保険会社、NVOCC、運送人 | 求償額、支払保険金、責任制限、免責、事故原因 | 自社の保険会社・弁護士へ早期に共有します。 |
| 高額貨物を出荷する時 | 荷主、保険会社、フォワーダー | 貨物価額、貨物保険、責任制限、申告価額 | 出荷前に貨物保険手配とリスク説明を行います。 |
よくある誤解
| 誤解 | 正しい理解 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| SDRは実際に使う外貨である | SDRは通貨そのものではなく、IMFが定める国際的な会計単位です。 | 実務では日本円や米ドルへ換算して責任限度額を確認します。 |
| 貨物が壊れたら運送人が全額賠償する | 運送人に責任があっても、責任制限により賠償額が限定されることがあります。 | 貨物価額、責任制限額、貨物保険を分けて説明します。 |
| SDR換算は事故日のレートで必ず計算する | 換算日は約款、準拠法、裁判、和解実務により異なる場合があります。 | 保険会社、弁護士、アジャスターへ確認します。 |
| 海上輸送も航空輸送も責任制限は同じである | 海上輸送と航空輸送では、根拠条約、約款、計算方法が異なります。 | B/LとAWBを分けて確認します。 |
| 貨物保険に入っていればSDRは関係ない | 貨物保険で保険金が支払われた後、代位求償でSDR責任制限が問題になります。 | 保険金支払額と運送人からの回収額は一致しないことがあります。 |
| コンテナ1本は常に1包として扱われる | B/L上の記載や明細によって、包数・単位の判断が問題になります。 | 出荷前にB/L上の包数記載を確認します。 |
| 最新のSDR換算額を記事本文に書いておけばよい | SDR換算額は変動するため、固定額を記事本文に残すと古くなります。 | 実務ではIMF公表レートを都度確認します。 |
| 責任制限があるなら運送人は常にその金額だけ払えばよい | 免責が成立する場合は責任自体が否定されることがあり、逆に責任制限が失われる場合もあります。 | 免責、責任成立、責任制限、責任制限喪失を分けて確認します。 |
注意点
SDRは通貨そのものではなく、IMFが定める国際的な会計単位です。貨物事故では、運送人の責任制限額を算定するための基準として登場することがあります。
貨物価額全額を運送人から回収できるとは限りません。運送人の責任制限は、約款、国際条約、国内法、準拠法によって異なります。
海上輸送と航空輸送では、責任制限の考え方が異なります。コンテナ貨物では、B/L上の包数・単位の記載が重要になることがあります。
SDR換算額は変動するため、固定の数値を記事本文に残さないようにします。実務では、IMF公表レート、換算基準日、適用約款、準拠法を確認します。
求償や訴訟では、換算基準日、責任制限の適用可否、責任制限喪失の有無が問題になることがあります。必要に応じて、保険会社、弁護士、アジャスターに確認することが重要です。
まとめ
SDRは、IMFが定める国際的な会計単位であり、国際物流実務では運送人の責任制限額を計算する場面で重要になります。
貨物事故では、貨物価額、重量、包数、B/LやAir Waybillの記載、適用約款、準拠法、SDR換算日を確認し、運送人から回収できる範囲を整理することが重要です。
海上輸送では、包数・単位基準と重量基準の比較、コンテナ貨物のB/L記載、Package Limitationが問題になりやすくなります。航空輸送では、重量基準による責任制限が高額貨物の回収額に影響します。
貨物保険がある場合でも、保険会社が運送人へ代位求償する段階でSDR責任制限が問題になります。荷主、フォワーダー、NVOCC、保険実務者は、貨物価額、保険金額、運送人責任限度額、求償可能額を分けて整理することが基本です。
