英国海上保険法における保険価額
英国海上保険法における保険価額とは
英国海上保険法における保険価額とは、船舶、運賃、貨物その他の被保険利益について、海上保険上どの価額を基準として評価するかを示す法的な概念です。
Marine Insurance Act 1906のSection 16は、保険証券に明示的な規定又は評価額がある場合を除き、船舶、運賃、貨物その他の保険対象について、保険価額をどのように算定するかを定めています。
外航貨物海上保険では、インボイス価額、海上運賃、船積費用、保険料、CIF価額、保険金額及び損害額が同時に登場します。しかし、これらはすべて同じ意味ではありません。
保険価額は、保険上評価される被保険利益の価額です。これに対し、保険金額は、保険契約上、保険者が責任を負う上限として設定される金額です。
また、評価済保険証券では、保険者と被保険者が証券上であらかじめ合意した評価額が、原則として保険価額を決定するため、Section 16の法定計算基準をそのまま使用しない場合があります。
本記事では、Section 16の法定評価基準、Sections 27・28のValued PolicyとUnvalued Policy、保険価額と保険金額の違い及びSection 81の一部保険との関係を整理します。
この記事で扱う範囲
| 項目 | この記事で扱う内容 | 他の記事で扱う内容 |
|---|---|---|
| Section 16 | 船舶、運賃、貨物その他の保険対象に関する保険価額の法定評価基準 | Marine Insurance Act 1906全体の構造及び他の主要条文 |
| 貨物の保険価額 | 貨物の原価、船積費用、船積みに付随する費用及び保険費用の関係 | 個別貨物の市場価額、再調達価額及び損害額算定の詳細 |
| 保険価額と保険金額 | Insurable ValueとSum Insuredの法的・実務的な違い | 「Trade Terms and the Sum Insured」記事におけるFOB、CFR、CIFからの保険金額計算 |
| Valued Policy | Section 27における証券上の合意評価額とSection 16との優先関係 | 個別保険契約におけるAgreed Valueの交渉及び設定方法 |
| Unvalued Policy | Section 28における事故後の保険価額の算定 | 損害査定、証拠資料及び個別の価額立証 |
| 一部保険 | 保険金額が保険価額に不足した場合のSection 81との接続 | 「代位求償・分担・一部保険」記事におけるUnderinsuranceの詳細 |
| CIF価額 | CIF価額と法定保険価額が常に同一とは限らない理由 | インコタームズ上の費用・危険移転及び売主の保険手配義務 |
| 損害額 | 保険価額が損害填補の基礎となる関係 | 全損、分損、共同海損、救助料、残存価額及び修理費の個別計算 |
既存の「Trade Terms and the Sum Insured」記事は、FOB、CFR、CIF等の建値から、実務上どのように保険金額を設定するかを扱います。
本記事は、保険金額の算出手順そのものではなく、Marine Insurance Act 1906上、保険対象の価額をどのように評価するかという法的な出発点を扱います。
また、既存の「英国海上保険法における代位求償・分担・一部保険」記事は、保険金額が保険価額に不足した後の法的効果を扱います。本記事は、その前提となる保険価額の確定方法を中心に説明します。
制度の目的と背景
海上保険では、保険対象の価額を確定しなければ、被保険利益がどの程度存在するか、保険金額が十分か、全損又は分損について保険者がどこまで責任を負うかを判断できません。
しかし、海上保険の対象は貨物だけではありません。船舶、運賃、貨物、船積費用、航海に伴う支出その他の利益が、個別に保険の対象となる場合があります。
Section 16は、保険証券に別段の明示規定又は評価額がない場合に使用する、法定の基本評価方法を定めています。
この規定は、保険対象の時価だけを確認する制度ではありません。保険対象の種類に応じ、危険開始時の価額、運賃総額、貨物の原価、船積費用及び保険費用等を組み合わせて保険価額を確定します。
一方、当事者が保険証券上で評価額を合意している場合には、Sections 27・28により、Valued Policy又はUnvalued Policyとして異なる処理が行われます。
Section 16の全体像
| Section 16の区分 | 保険対象 | 保険価額の基本的な構成 | 評価時点 | 主な実務資料 |
|---|---|---|---|---|
| Section 16(1) | 船舶 | 船舶の価額、艤装品、船用品、前払賃金、航海支出及び全体の保険費用 | 危険開始時 | 船舶評価書、船級資料、設備一覧、費用明細 |
| Section 16(1) | 汽船 | 船体に加え、被保険者所有の機械、ボイラー、燃料及び機関用品等 | 危険開始時 | 船舶仕様、機関一覧、燃料・船用品記録 |
| Section 16(2) | 運賃 | 被保険者が危険にさらしている運賃総額と、その全体の保険費用 | 危険開始時又は契約上の付保時点 | 運送契約、運賃明細、Charterparty、B/L |
| Section 16(3) | 貨物・商品 | 貨物の原価、船積費用、船積みに付随する費用及び全体の保険費用 | 保険対象となる船積み時 | Commercial Invoice、Packing List、運賃・諸費用明細 |
| Section 16(4) | その他の保険対象 | 保険証券が開始した時点で被保険者が危険にさらしている金額と保険費用 | 保険証券の開始時 | 契約書、価額資料、支出証明、保険証券 |
Section 16は法定の初期設定である
Section 16は、すべての保険契約について必ず機械的に適用される唯一の計算方法ではありません。
条文は、保険証券上の明示的な規定又は評価額に従うことを前提とし、それらがない場合に保険価額を算定する基本方法を示しています。
したがって、実務では最初にSection 16の計算を始めるのではなく、保険証券、Schedule、Declaration、Endorsement及び適用約款に、評価方法やAgreed Valueが定められていないかを確認します。
保険契約に「Invoice Value plus 10%」「CIF plus 10%」等の評価方法が明示されている場合、その契約上の評価方法とSection 16の関係を確認する必要があります。
船舶保険における保険価額
船舶保険では、危険開始時における船舶の価額が基本となります。
Section 16は、船体の価額だけでなく、艤装品、船用品、乗組員のための食料・備品、船長及び乗組員に対する前払賃金、その他航海のために支出された費用等を含める構造を採っています。
汽船の場合には、被保険者が所有する機械、ボイラー、燃料及び機関用品等も評価対象に含まれる場合があります。
さらに、これらの全体についての保険費用も加算されます。
ただし、現代の船舶保険では、船舶評価、保険証券上のAgreed Value、船体保険約款、船価の変動及び追加価額保険等が関係します。
外航貨物海上保険の実務担当者にとっては、船舶保険の価額計算自体よりも、Section 16が保険対象ごとに異なる評価基準を置いていることを理解する点が重要です。
運賃保険における保険価額
運賃保険では、被保険者が危険にさらしている運賃の総額に、その全体の保険費用を加えた額が保険価額となります。
ここでいう運賃は、単に請求書上の運賃額という意味ではありません。事故が発生した場合に、被保険者が取得できなくなる可能性のある運賃利益を対象とします。
運賃が前払いか後払いかだけでなく、運送契約上、誰が運賃喪失の危険を負担しているかを確認する必要があります。
既に確定し、事故が発生しても返還されない運賃と、貨物が目的地へ到着しなければ取得できない運賃とでは、被保険利益の内容が異なります。
貨物・商品保険における保険価額
Section 16(3)では、貨物又は商品に関する保険価額を、被保険貨物の原価に、船積費用及び船積みに付随する費用を加え、さらにその全体に対する保険費用を加えた額として整理しています。
貨物の原価とは、一般に、被保険者が貨物を取得するために負担した基礎的な価額を意味します。
船積費用及び船積みに付随する費用には、契約と事実関係に応じ、内陸輸送費、輸出梱包費、荷役費、港湾費用、海上運賃その他の船積みに必要な費用が含まれる可能性があります。
ただし、すべての費用を無条件で加算するわけではありません。誰が負担した費用か、既にインボイス価額へ含まれているか、保険対象となる利益と関係しているかを確認する必要があります。
既にCIF価額やCFR価額に含まれている運賃を再度加算すると、二重計上になります。
貨物の保険価額を構成する主な項目
| 項目 | 保険価額への関係 | 確認資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 貨物の原価 | Section 16(3)における評価の基礎 | Commercial Invoice、売買契約、仕入記録 | 販売価格と被保険者の取得原価が同一とは限らない |
| 輸出梱包費 | 船積みに必要な費用として含まれる可能性がある | 梱包請求書、作業明細 | 商品価格へ既に含まれていないか確認する |
| 内陸輸送費 | 船積みに付随する費用となる可能性がある | トラック運賃、集荷費用明細 | 保険区間及び被保険者の費用負担を確認する |
| 港湾・荷役費用 | 船積みに付随する費用として含まれる可能性がある | 港湾費用、THC、荷役請求書 | 取引価格へ含まれている場合は重複計上しない |
| 海上運賃 | 貨物を輸送するための主要費用として含まれる可能性がある | Freight Invoice、B/L、見積書 | CFR・CIF価額には既に含まれる場合がある |
| 保険料・保険費用 | Section 16上、全体についての保険費用を加算する | 保険料計算書、保険証券 | 契約上の計算方法と循環計算の処理を確認する |
| 期待利益・加算率 | 契約上のSum Insuredへ加算される場合がある | 保険証券、付保基準、売買契約 | Section 16上の法定保険価額と当然に同一ではない |
| 税金・関税 | 特約又は個別保険の対象となる場合がある | 輸入申告、納税資料、保険条件 | 通常の貨物価額に自動的に含まれるとは限らない |
その他の保険対象における保険価額
船舶、運賃、貨物以外の保険対象については、保険証券が開始した時点で、被保険者が危険にさらしている金額に、保険費用を加えた額が基本となります。
どの利益が「危険にさらされている金額」に該当するかは、保険対象の性質と契約内容によって異なります。
将来発生する可能性がある支出や、実際には被保険者が負担していない費用を、当然に保険価額へ含めることはできません。
保険価額・保険金額・合意評価額・市場価額の比較
| 概念 | 英語 | 基本的な意味 | 確定方法 | 実務上の役割 |
|---|---|---|---|---|
| 保険価額 | Insurable Value | 海上保険上評価される被保険利益の価額 | Section 16又は保険証券上の評価方法 | 保険金額の十分性及び損害填補割合の基準 |
| 保険金額 | Sum Insured | 保険者が契約上責任を負う金額の上限 | 付保依頼、保険証券及び引受条件 | 保険者の最大支払責任を設定する |
| 合意評価額 | Agreed Value | Valued Policyで当事者が証券上合意した価額 | 保険証券に明示 | 原則として保険者・被保険者間の保険価額を確定する |
| インボイス価額 | Invoice Value | 売買契約上の請求価額 | Commercial Invoice | 貨物保険価額計算の重要資料だが、保険価額そのものとは限らない |
| 市場価額 | Market Value | 一定時点・市場における取引価額 | 市場資料、鑑定、販売実績 | 損害査定等で関係するが、Section 16の計算と常に一致しない |
| 損害額 | Amount of Loss | 事故によって実際に生じた経済的損失 | サーベイ、修理費、価値減少、売却結果等 | 保険価額・保険金額・約款に基づき支払額を判断する |
Valued PolicyとUnvalued Policy
Marine Insurance Act 1906のSection 27は、保険証券をValued Policy又はUnvalued Policyに区分しています。
Valued Policyは、保険対象について合意された価額を証券上に明示する保険証券です。
Section 27では、詐欺がなく、同法の他の規定に従う限り、証券上で定めた価額は、全損・分損を問わず、保険者と被保険者の間で保険価額を確定するものとされています。
Unvalued Policyは、保険対象の価額を証券上であらかじめ確定せず、保険金額を上限として、事故後に同法所定の方法で保険価額を算定する保険証券です。
Valued PolicyとUnvalued Policyの比較
| 比較項目 | Valued Policy | Unvalued Policy | Section 16との関係 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 証券上の価額 | Agreed Valueを明示する | 保険対象の価額を明示しない | Valued Policyでは合意評価額が優先する | Sum InsuredとAgreed Valueを混同しない |
| 保険価額の確定時期 | 契約締結時に合意 | 事故後に算定 | Unvalued PolicyではSection 16が基本となる | 価額を立証する資料を保存する |
| 全損・分損 | 原則として合意評価額が保険価額を確定する | 法定計算による保険価額を使用する | Section 27の効果を確認する | 詐欺又は証券上の別段規定がある場合は別 |
| 市場価額の変動 | 事故時の市場価額と異なっても合意評価額が基本 | Section 16上の価額資料が重要 | 契約時の合意の有無が決定的 | 市場価格だけで支払額を決めない |
| Constructive Total Loss | 合意評価額は原則としてCTL判定に決定的ではない | Section 60等の基準と算定価額を確認する | Section 27(4)の例外に注意する | 保険証券に別段の定めがあるか確認する |
Valued Policyにおける重要な例外
Valued Policyに記載されたAgreed Valueは、原則として全損・分損における保険価額を確定します。
ただし、詐欺がある場合には、その合意評価額が保護されるとは限りません。
また、保険証券に別段の定めがない限り、証券上の合意評価額は、Constructive Total Lossが成立するかを判断するための決定的な価額とはされません。
したがって、「Valued Policyで1億円と記載されているから、回収・修理費が1億円を超えなければConstructive Total Lossにならない」と単純に判断することはできません。
保険価額と保険金額の関係
保険価額と保険金額は、通常、密接に関連しますが、同一の概念ではありません。
保険価額は、被保険利益の評価額です。保険金額は、保険者が引き受けた契約上の金額です。
保険金額が保険価額と同額であれば、原則として被保険利益全体が付保されている状態となります。
保険金額が保険価額より少なければ、Section 81のUnderinsuranceが問題となり、被保険者は未保険部分について自己保険者として扱われる可能性があります。
反対に、複数の保険契約による保険金額の合計が填補可能額を超える場合には、重複保険又は超過保険の問題が生じる可能性があります。
保険価額と保険金額が一致しない場合
| 状態 | 保険価額 | 保険金額 | 主な法的・実務的影響 |
|---|---|---|---|
| 全部保険 | 1,000万円 | 1,000万円 | 被保険利益全体が付保されている基本的な状態 |
| 一部保険 | 1,000万円 | 700万円 | 未保険割合30%について被保険者が自己負担する可能性がある |
| 契約上の加算 | 1,000万円 | 1,100万円 | 期待利益等を含む契約上の付保基準が設定されている場合がある |
| 複数保険の重複 | 1,000万円 | 複数証券合計2,000万円 | 同一利益・同一事故を担保する場合は保険者間分担が問題となる |
| 支払限度額不足 | 2,000万円 | 証券記載2,000万円、個別限度1,500万円 | 保険金額とは別に限度額超過部分が自己負担となる可能性がある |
CIF価額との関係
CIFは、売買契約上、商品代金、保険料及び運賃を含む建値です。
そのため、CIF価額は、貨物保険価額を検討する際の重要な資料になります。
しかし、CIF価額とMarine Insurance Act 1906上の保険価額が、すべての契約で必ず一致するわけではありません。
CIF価額は売買契約上の価格であり、Section 16は被保険者が有する貨物の原価、船積費用、付随費用及び保険費用を基礎として保険価額を評価します。
また、外航貨物海上保険では、CIF価額の110%を保険金額とする契約実務がありますが、この110%はSection 16が一律に命じている法定保険価額ではありません。
110%の加算は、契約上の付保基準、期待利益、追加費用等を考慮したSum Insuredの設定方法として扱われます。
FOB・CFR・CIFと保険価額の確認
| 建値 | 通常含まれる主な費用 | 保険価額確認時に追加検討する項目 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| FOB | 商品代金及び本船積込までの売主負担費用 | 海上運賃、保険費用、買主負担の船積関連費用 | FOBインボイス価額だけでは不足する場合がある |
| CFR | 商品代金及び海上運賃 | 保険費用、その他の付随費用 | 海上運賃を再度加算しない |
| CIF | 商品代金、海上運賃及び保険料 | 契約上の加算率、追加費用及び保険対象範囲 | CIF価額とSum Insuredを同一視しない |
| その他の建値 | インコタームズ及び売買契約により異なる | 各当事者が実際に負担する費用 | 名称だけでなく費用明細を確認する |
保険価額が問題になる主な場面
| 場面 | 主な論点 | 確認資料 | 確認目的 |
|---|---|---|---|
| 新規付保時 | 適正なSum Insuredの設定 | インボイス、運賃、付保基準、保険料 | 一部保険を防止する |
| FOB輸入貨物 | インボイスに含まれない運賃・保険費用 | FOB Invoice、Freight Invoice、保険条件 | 貨物保険価額を再構成する |
| CIF取引 | CIF価額と契約上のSum Insured | CIF Invoice、保険証明書、加算率 | 既に含まれる費用の二重計上を防ぐ |
| Valued Policy | Agreed Valueの優先 | 保険証券、Schedule、Endorsement | Section 16の直接適用の有無を確認する |
| Unvalued Policyの事故 | 事故後のInsurable Value立証 | インボイス、費用明細、会計記録 | 保険価額及び支払額を確定する |
| 分損事故 | 保険価額と損害割合 | サーベイ、損傷前後の価額、売却結果 | 損害填補額を算定する |
| 共同海損 | 保険金額と分担価額の不足 | 共同海損通知、貨物価額、保険証券 | 未保険部分の負担を確認する |
| 複数インボイス貨物 | 申告漏れと一部保険 | Invoice List、Packing List、B/L | すべての貨物価額が付保されているか確認する |
直ちに保険価額へ含められるとは限らない項目
| 項目・場面 | 直ちに含められない理由 | 追加で確認する事項 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 将来の販売利益 | Section 16上の貨物原価・船積費用とは別の利益である | 保険証券上の加算率、利益保険の有無 | 110%付保と法定保険価額を混同しない |
| 輸入関税 | 事故時点や契約によって負担の有無が異なる | Duty Insurance、特別約款、輸入申告 | 通常の貨物保険へ自動付帯するとは限らない |
| 事故後の緊急費用 | 保険価額ではなく損害防止費用等の別論点となる場合がある | 適用約款、費用の目的、保険者承認 | 事故前の価額構成と事故後費用を分ける |
| 市場価格の上昇分 | Valued PolicyではAgreed Valueが優先する場合がある | 証券区分、事故時市場価格、契約条件 | 市場価格だけで保険価額を変更しない |
| 同じ運賃の再加算 | CFR・CIF価額に既に含まれている可能性がある | インボイス構成、運賃請求書 | 二重計上を避ける |
| 被保険者が負担していない費用 | 被保険利益又は危険にさらされた金額に含まれない可能性がある | 売買条件、費用負担者、契約関係 | 第三者負担費用を当然に加算しない |
保険価額の確認フロー
- 保険対象を特定する
船舶、運賃、貨物又はその他の利益のどれを評価するかを確認します。 - 保険証券上の明示規定を確認する
評価方法、Agreed Value、Invoice Value plus a percentage等の記載を確認します。 - Valued PolicyかUnvalued Policyかを確認する
証券上で保険対象の評価額が合意されているかを確認します。 - 評価時点を確定する
危険開始時、保険証券開始時又は船積み時等の基準時を確認します。 - 貨物の原価を確認する
Commercial Invoice、売買契約及び仕入記録を照合します。 - 船積費用・付随費用を確認する
梱包費、内陸輸送費、港湾費用、荷役費及び海上運賃を整理します。 - 保険費用を確認する
保険料及び契約上の保険費用を確認します。 - 既に価格へ含まれる費用を除外する
FOB、CFR、CIF等の建値を確認し、二重計上を防ぎます。 - 契約上の加算率を確認する
110%等の加算が、Insurable ValueではなくSum Insuredの設定かを区別します。 - 保険価額と保険金額を比較する
Underinsurance又は保険限度額不足がないか確認します。 - 事故時の損害額と区別する
保険価額、Sum Insured、損害額及び残存価額を別々に整理します。 - 専門家へ照会する
高額貨物、Valued Policy、共同海損又は複雑な建値では、保険会社・保険代理店又は保険仲立人へ確認します。
典型的な問題ケース
| ケース | 主な論点 | 確認資料 | 判断のポイント | 初動対応 |
|---|---|---|---|---|
| FOBインボイス価額だけで付保した | 運賃・保険費用の加算漏れ | FOB Invoice、Freight Invoice、保険証券 | 本来のInsurable Valueとの差額 | 船積前に付保金額を再確認する |
| CIF価額へ運賃を再加算した | 費用の二重計上 | CIF Invoice、費用内訳 | 運賃が既に価格へ含まれているか | 価額構成を項目別に再計算する |
| CIF価額の110%を保険価額と説明した | Insurable ValueとSum Insuredの混同 | 保険証券、付保基準 | 110%が契約上の保険金額設定か | 法定価額と契約金額を区別して説明する |
| Valued Policyの市場価額が下落した | Agreed Valueの拘束力 | 保険証券、評価資料、事故時市場資料 | 詐欺又は別段規定があるか | 市場価格だけで支払基準を変更しない |
| 複数インボイスの一部を申告していない | Underinsurance | Invoice List、Packing List、付保通知 | 未保険割合と事故時損害 | 全インボイスを照合する |
| 貨物価額が船積前に増加した | 追加加工費・価格変更 | 変更契約、追加請求、加工記録 | 保険開始前に増額されたか | 保険会社へ増額を通知する |
| 共同海損分担金が保険金額を基準に収まらない | 保険価額不足・一部保険 | 共同海損通知、貨物価額、保険証券 | 未保険部分の負担 | 保証手続前に保険者へ確認する |
| 評価済保険証券でConstructive Total Lossを判断する | Section 27(4)の例外 | Agreed Value、回収費、修理費、Policy Wording | 合意評価額がCTL判定に使用される契約か | 証券上の別段規定を確認する |
具体例1 FOB貨物の保険価額を再構成する場合
FOB条件の機械貨物について、Commercial Invoiceの価額が800万円だったとします。
買主は、このほかに海上運賃60万円、輸出梱包費20万円及び保険料2万円を負担しました。
Section 16(3)の基本構造では、貨物の原価だけでなく、船積費用、船積みに付随する費用及び保険費用を確認します。
この例では、単純化すれば、800万円、60万円、20万円及び2万円を基礎として、882万円の保険価額を検討することになります。
ただし、各費用が既にインボイスへ含まれていないか、被保険者が実際に負担しているか、保険証券上の別の評価方法がないかを確認します。
保険金額を保険価額の110%で設定する契約であれば、保険金額は970万2,000円となる可能性がありますが、この110%の保険金額と882万円の法定保険価額は同じ概念ではありません。
具体例2 CIF価額と110%付保を区別する場合
CIF条件の貨物について、CIFインボイス価額が1,000万円であり、保険証券ではCIF価額の110%を保険金額とする条件が定められていたとします。
この場合、保険金額は1,100万円となります。
しかし、「Section 16上の保険価額が当然に1,100万円である」と説明するのは正確ではありません。
CIF価額1,000万円は商品代金、運賃及び保険料を含む取引価格です。追加の100万円は、契約上の付保基準によりSum Insuredへ加算された部分です。
事故時には、CIF価額、契約上のAgreed Value、Sum Insured及び適用約款を分けて確認します。
具体例3 Valued Policyの合意評価額が市場価額と異なる場合
高額機械について、Valued Policy上のAgreed Valueが1億2,000万円と定められていたとします。
事故時の市場価額が1億円へ下落していても、詐欺がなく、保険契約に別段の問題がなければ、原則として1億2,000万円の合意評価額が、保険者と被保険者間の保険価額を決定します。
保険者が、事故後の市場価額だけを理由として、合意評価額を自動的に1億円へ変更できるわけではありません。
一方、Constructive Total Lossの成立を判断する場合には、Section 27(4)により、証券上の評価額が当然に決定的な基準となるわけではありません。
Policy Wordingに別段の基準が定められているかを確認する必要があります。
具体例4 複数インボイスの申告漏れによる一部保険
同じB/Lで輸送される貨物に、700万円と500万円の2件のインボイスが存在していましたが、付保通知には700万円のインボイスだけが登録されていたとします。
船積費用等を考慮した保険価額が1,200万円で、保険金額が900万円だった場合、付保割合は75%となります。
貨物に400万円の分損が発生した場合、Marine Insurance Act 1906上の基本構造では、保険者が300万円、被保険者が100万円を負担する取扱いが問題となります。
損害額400万円が保険金額900万円を下回っていても、保険価額に対する付保割合が不足しているため、損害全額が支払われるとは限りません。
実際の支払額は、保険証券、適用約款、評価済・非評価の区分、免責金額及び個別条件を確認して決定します。
よくある誤解
| 誤解 | 実際の考え方 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 保険価額と保険金額は同じ意味である | 保険価額は被保険利益の価額、保険金額は契約上の責任上限です。 | Insurable ValueとSum Insuredを分けて記録します。 |
| インボイス価額がそのまま保険価額になる | 船積費用、付随費用及び保険費用を含める場合があります。 | 建値と費用負担を確認します。 |
| CIF価額の110%がSection 16上の法定保険価額である | 110%は契約上のSum Insured設定方法である場合があります。 | 法定評価基準と契約上の加算率を区別します。 |
| FOBインボイス価額だけを付保すれば十分である | 買主負担の海上運賃や保険費用が不足する場合があります。 | FOBからCIF相当額への再構成が必要な場合があります。 |
| CIF価額へ海上運賃を追加すべきである | CIF価額には通常、海上運賃が既に含まれています。 | 二重計上を防ぎます。 |
| Valued Policyでも事故時の市場価額を使用する | 原則として証券上のAgreed Valueが保険価額を確定します。 | 詐欺及び証券上の別段規定を確認します。 |
| Agreed ValueはConstructive Total Lossの判断にも常に決定的である | Section 27(4)では、原則としてCTL判断には決定的ではありません。 | Policy Wordingの別段規定を確認します。 |
| 損害額が保険金額以下なら必ず全額支払われる | 一部保険では未保険割合が分損にも影響する場合があります。 | 保険価額に対する付保割合を確認します。 |
| 市場価額が上昇すれば保険金額も自動的に増加する | 保険金額は契約上の金額であり、自動的には増加しません。 | 貨物価額増加時は増額手配を確認します。 |
| すべての付随費用を保険価額へ加算できる | 被保険者が負担し、船積み又は被保険利益に関係する費用かを確認する必要があります。 | 費用の性質と負担者を確認します。 |
フォワーダー実務での判断チェックリスト
| 確認場面 | 確認する相手 | 確認事項 | 問題がある場合の対応 |
|---|---|---|---|
| 付保依頼受付時 | 荷主 | 建値、インボイス総額、通貨、貨物数量及び複数インボイス | 価額構成が不明な場合は明細を取得する |
| 保険金額計算時 | 荷主・保険代理店 | FOB、CFR、CIF、運賃、保険料及び加算率 | 契約上の計算基準に従って再計算する |
| 保険証券確認時 | 保険代理店・保険会社 | Valued Policy、Unvalued Policy、Agreed Value及びSum Insured | 記載内容が付保依頼と異なる場合は訂正する |
| 高額貨物の船積前 | 荷主・保険会社 | 一輸送限度額、保険価額及び個別承認 | 限度超過の場合は追加引受を依頼する |
| 貨物価額変更時 | 荷主 | 価格変更、追加加工費、追加インボイス | 輸送開始前に保険金額を増額する |
| 事故発生時 | 荷主・保険会社 | 保険価額、保険金額、損害額、残存価額及び免責金額 | 各価額を別々に整理して提出する |
| 一部保険の疑い | 荷主・保険代理店 | Section 16上の価額と実際のSum Insured | 付保割合と自己負担額を試算する |
| 共同海損宣言時 | 保険会社・共同海損精算人 | 貨物価額、保険金額、分担価額及び保証額 | 未保険部分の保証方法を確認する |
| Constructive Total Loss検討時 | 保険会社・法律専門家 | Agreed Value、回収費、修理費及びPolicy Wording | Section 27(4)と契約上の基準を確認する |
関係者の役割
| 関係者 | 主な役割 | 確認・提供する情報 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 荷主・被保険者 | 貨物価額、建値及び費用を正確に申告する | インボイス、売買契約、費用明細、追加請求 | インボイス以外の費用や価額変更も申告します。 |
| フォワーダー・NVOCC | 運賃、輸送区間、船積費用及び輸送資料を整理する | Booking、B/L、Freight Invoice、費用明細 | 保険価額を独自に確定せず、荷主・保険者へ確認します。 |
| 保険代理店 | 保険価額と保険金額の算定基準を確認する | 付保依頼、保険証券、加算率、引受条件 | Insurable ValueとSum Insuredを区別して説明します。 |
| 保険仲立人 | 保険契約者側で評価方法及び保険金額を保険市場と調整する | Slip、Policy Wording、Agreed Value、Declaration | Valued Policyの条件を明確にします。 |
| 保険会社・引受人 | 評価方法、Sum Insured及び引受限度を決定する | 貨物情報、価額資料、保険条件、事故資料 | 契約上の評価方法と事故後の損害額を区別します。 |
| サーベイヤー・鑑定人 | 貨物状態、損害額、残存価額及び市場価額を調査する | 写真、検査結果、修理見積、売却結果 | 保険価額を最終的に法的確定する立場とは限りません。 |
| 法律専門家 | Section 16、Valued Policy、Underinsurance等を評価する | 保険証券、契約書、価額資料、事故経緯 | 高額事故や英国法上の争点では早期確認が必要です。 |
実務上のポイント
保険価額を確認する際は、最初に保険証券上の評価方法又はAgreed Valueの有無を確認します。
Valued Policyであれば、詐欺等がない限り、証券上の合意評価額が保険者と被保険者の間で保険価額を決定するのが原則です。
Unvalued Policyであれば、Section 16を基礎として、貨物の原価、船積費用、付随費用及び保険費用を事故後に立証する必要があります。
貨物保険では、インボイス価額だけで判断せず、FOB、CFR、CIF等の建値と、誰がどの費用を負担しているかを確認します。
一方、既にインボイス価額へ含まれている運賃や費用を再度加算しないよう、二重計上にも注意が必要です。
また、保険価額、保険金額、Agreed Value、市場価額及び損害額は別の概念です。事故処理では、これらを一つの「貨物価額」としてまとめず、個別に整理します。
まとめ
Marine Insurance Act 1906のSection 16は、保険証券上の明示規定又は評価額を優先したうえで、船舶、運賃、貨物その他の保険対象について、保険価額を算定する基本方法を定めています。
船舶保険では、危険開始時の船舶価額、艤装品、船用品、前払賃金、航海支出及び保険費用等が問題になります。
運賃保険では、被保険者が危険にさらしている運賃総額と保険費用が基礎となります。
貨物・商品保険では、貨物の原価、船積費用、船積みに付随する費用及び全体の保険費用が基本となります。
Section 27のValued Policyでは、原則として証券上のAgreed Valueが保険価額を確定します。Section 28のUnvalued Policyでは、保険金額を上限として、事故後にSection 16の基準で保険価額を算定します。
ただし、Valued PolicyのAgreed Valueは、保険証券に別段の定めがない限り、Constructive Total Lossの成立を判断するための決定的な価額とはされません。
保険価額と保険金額は異なる概念です。保険金額が保険価額に不足する場合には、Section 81のUnderinsuranceにより、被保険者が未保険部分を負担する可能性があります。
CIF価額の110%等の付保基準は、契約上のSum Insured設定方法であり、Section 16上の法定保険価額と当然に同一ではありません。
実務では、保険証券、建値、インボイス価額、船積費用、運賃、保険料、Agreed Value及びSum Insuredを順番に確認し、二重計上と付保不足を防ぐことが重要です。
保険価額、保険金額及びValued Policyの取扱いは、保険証券、適用約款、建値及び個別の貨物・費用構成によって異なります。具体的な案件は、保険会社・保険代理店又は保険仲立人へご相談ください。
