IUA Clauses eLibraryとロンドン市場モデル約款―LMA・JCC・ICCとの関係と確認実務
概要
IUA Clauses eLibraryは、International Underwriting Association of London(IUA)が公表する保険・再保険契約用のモデル約款、条項及び関連文書を検索・確認するための公開ライブラリです。
IUAは、ロンドン市場で国際保険及び再保険を取り扱う会社市場を代表する団体です。IUA Clauses eLibraryでは、海上、航空、財産、賠償責任及び再保険等に関するモデル文言を確認できます。
ただし、eLibraryに掲載されている文言は、それ自体が法律、行政規則又は強制的な標準約款ではありません。保険者、再保険者、保険仲立人、契約者その他の当事者が、個別契約の条件を設計する際の出発点又は参考文言として使用するものです。
実際の保険事故で適用されるのは、IUA又はLMAのウェブサイトに掲載された一般的な原文ではなく、保険証券、Insurance Schedule、Slip、Cover Note、Endorsement、特別約款その他の契約書類に組み込まれた具体的な文言です。
また、海上貨物保険で広く利用されるInstitute Cargo Clauses(ICC)は、単純に「IUAが単独で作成した約款」と整理するものではありません。ロンドン市場では、IUA、Lloyd’s Market Association(LMA)、Joint Cargo Committee(JCC)その他の市場組織が、それぞれ又は共同してモデル文言の検討、整備及び公表に関与しています。
本記事では、IUA Clauses eLibraryの位置付け、IUA・LMA・JCC・ICCの関係、モデル約款の契約上の性質、日本の外航貨物海上保険との接続、約款番号・版・日付・修正文言の確認方法を整理します。
本記事の固有担当範囲
| 項目 | この記事で扱う内容 | 他記事で扱う内容 |
|---|---|---|
| IUA | ロンドン会社市場を代表する団体としての位置付け及び沿革 | IUAの会員制度、組織運営及び個別委員会の詳細 |
| IUA Clauses eLibrary | 収録文書の性質、検索時の確認事項及び利用上の注意点 | 個別約款の全文解釈及び具体的事故への最終的な適用 |
| IUA・LMA・JCC | 各組織の役割及び貨物保険文言との関係 | 各委員会の議事、個別の市場政策及び会員向け運営 |
| Institute Cargo Clauses | ロンドン市場の標準的な貨物保険約款としての位置付け及び版の確認 | ICC(A)・ICC(B)・ICC(C)の条文別解説 |
| モデル約款の性質 | 公表、参照、契約への組込み及び修正採用の違い | 個別契約における最終的な法的解釈 |
| 保険契約書類 | Policy、Schedule、Slip、Cover Note及びEndorsementの照合方法 | 特定保険会社の証券様式及び社内引受手続 |
| 日本の外航貨物海上保険 | 日本実務でICC等の英文約款を使用する背景及び確認方法 | 保険料計算、確定通知、包括予定保険契約及び保険金請求の詳細 |
| 再保険 | モデル文言が再保険契約でも利用されることの概要 | Claims Control、Claims Cooperation及びFollow the Settlementsの条項別解釈 |
| War・Strikes・Cyber・Sanctions | 基本約款と別に追加文言を確認する必要性 | 各危険、免責及び制裁法令の詳細 |
| 事故時の判断 | 契約に組み込まれた版及び修正文言を特定する手順 | 損害原因、免責、因果関係及び保険金支払額の最終判断 |
| 専門家への確認 | 保険会社、保険仲立人、保険代理店及び弁護士へ確認すべき場面 | 個別案件に対する法律意見及び保険金支払判断 |
IUAの成立とInstitute of London Underwritersの歴史
IUAは、1998年12月31日にLondon International Insurance and Reinsurance Market Association(LIRMA)とInstitute of London Underwriters(ILU)が統合して発足しました。
ILUは、海上、航空及び運送保険分野に関係するロンドン会社市場の歴史的な引受団体であり、その活動の歴史は1884年まで遡ります。
「Institute Cargo Clauses」という名称に含まれる「Institute」は、Institute of London Underwritersにつながる歴史的な名称として理解できます。
ただし、現在のInstitute Cargo Clauses及び貨物保険関連文言を説明するときは、ILUの歴史だけでなく、IUA会社市場、Lloyd’s市場、LMA及びJoint Cargo Committeeを含む現在のロンドン市場の仕組みを確認する必要があります。
| 時期 | 組織・出来事 | 主な意味 | 現在の実務との関係 |
|---|---|---|---|
| 1884年 | Institute of London Underwritersが正式な団体として活動を開始 | 海上・航空・運送保険会社市場の代表機能を担う | Instituteという名称の歴史的な系譜につながる |
| 1991年 | LIRMAが従来の非海上保険関係団体の統合により発足 | 非海上保険及び再保険分野を支援する | IUAの非海上・再保険分野の基礎となる |
| 1998年12月31日 | LIRMAとILUが統合してIUAが発足 | ロンドン会社市場の海上・非海上分野を一つの代表団体へ統合する | 現在のIUAの組織的基礎となる |
| 現在 | IUAが委員会活動及びeLibraryを通じてモデル文言を公表する | 保険・再保険契約文言の検討及び市場への提供を行う | 文言名、番号、日付及び本文を検索・確認できる |
モデル約款が必要とされる背景
ロンドン市場では、一つの保険又は再保険契約に複数の保険者、再保険者、引受人及び保険仲立人が関係する場合があります。
各当事者が異なる文言を使用すると、担保危険、免責、保険期間、通知義務、保険金請求手続及び再保険回収の前提が一致しないおそれがあります。
モデル約款は、当事者が共通の出発点となる文言を利用し、契約交渉、引受判断及び事故処理における認識を整理するために使用されます。
ただし、標準化の目的は、すべての契約を同一条件にすることではありません。保険の対象、航路、貨物、輸送方法、保険金額、引受方針及び再保険条件に応じて、原文を修正し、追加条項を付け、又は別の文言を採用することがあります。
| モデル文言を使う目的 | 得られる効果 | 限界 | 確認すべきこと |
|---|---|---|---|
| 共通の出発点を作る | 引受人、保険仲立人及び契約者が同じ文言を参照できる | 個別リスクへの適合性は保証されない | 対象リスクに適切な文言か |
| 契約交渉を効率化する | 一から全文を起草する必要を減らせる | 修正箇所が見落とされる場合がある | 原文との差分が明示されているか |
| 市場慣行を共有する | 国際的な取引関係者が文言を認識しやすい | 市場慣行と法的拘束力は同じではない | 契約へ正式に組み込まれているか |
| 複数引受人の条件をそろえる | Subscription Marketで同じ担保条件を共有しやすい | 各引受人の合意範囲が異なる場合がある | LeadとFollowing Marketsの条件が一致するか |
| 事故処理の基準を示す | 担保、免責及び通知条件の確認を始めやすい | 事故事実への当てはめは別途必要となる | 適用版、事故原因及び因果関係 |
| 再保険条件を整理する | 元受契約と再保険契約の文言を比較しやすい | 元受支払が自動的に再保険回収されるわけではない | Claims Control等の追加条件 |
IUA・LMA・Joint Cargo Committee・ICCの関係
| 組織・文言 | 主な位置付け | 貨物保険文言との関係 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| IUA | ロンドン会社市場の国際保険・再保険会社を代表する団体 | IUAの委員会等を通じてモデル文言を検討・公表する | IUA掲載文言とJoint Committee文言を区別する |
| LMA | Lloyd’sのManaging Agentを代表する団体 | LMAモデル文言及びJoint Committee文言を公表する | LMA文言も個別契約へ自動的に適用されるものではない |
| Joint Cargo Committee | Lloyd’s市場及びIUA会社市場の貨物保険引受代表者による共同委員会 | 貨物保険市場向け文言の検討、開発及び公表に関与する | JCC文言をIUA単独又はLMA単独の文言と誤認しない |
| Institute Cargo Clauses | 国際貨物保険で広く利用される標準的な貨物保険約款 | ICC(A)、ICC(B)及びICC(C)等により基本的な担保条件を示す | 約款名だけでなく版、日付、追加特約及び修正を確認する |
| Institute War Clauses | 貨物の戦争危険を扱う追加約款 | 通常のICCとは別に戦争危険の担保を構成する | 担保区間、解除通知及び対象地域を確認する |
| Institute Strikes Clauses | ストライキ、騒擾等の危険を扱う追加約款 | 通常のICCとは別にストライキ危険等を構成する | 戦争危険約款と同じ条件ではない |
「IUAのウェブサイトに掲載されているためIUA単独の約款である」「Institute Cargo Clausesは現在のIUAだけが作成した約款である」と判断するのは適切ではありません。
文書番号、発行名義、発行日、掲載区分及び関連Circularを確認し、IUA文言、LMA文言、Joint Committee文言又は歴史的なInstitute文言のいずれであるかを整理します。
IUA Clauses eLibraryで確認できるもの
| 確認対象 | eLibraryで確認できること | 別途確認が必要なこと | 実務上の対応 |
|---|---|---|---|
| 文書名 | モデル約款又は条項の正式名称 | 保険契約に同じ名称で組み込まれているか | 保険証券及びScheduleと照合する |
| 文書番号 | IUA、Joint Committee等の参照番号 | 契約書類に番号が正確に記載されているか | 接頭記号、数字及び改訂記号まで確認する |
| 発行日・改訂日 | モデル文言が公表又は改訂された日 | 対象契約に採用された版の日付 | 契約締結時の書類と比較する |
| 文言本文 | 公表された標準的な原文 | 当事者が修正、削除又は追加した部分 | Endorsement及びManuscript Wordingと比較する |
| Guidance・Comment | 文言の背景又は利用上の参考情報 | 契約上の拘束力を持つ文書か | 約款本文と参考資料を区別する |
| 事業分野 | Marine、Aviation、Property、Liability等の分類 | 対象契約及びリスクへ適合するか | 保険種目と対象危険を照合する |
| 関連文言 | 同じリスクに関連する別の条項 | 複数条項間の優先関係 | 証券全体を一体として確認する |
IUA Clauses eLibraryだけでは確認できないもの
| 確認できない事項 | 理由 | 優先して確認する書類 | 対応 |
|---|---|---|---|
| 個別契約への適用 | 掲載文言は契約へ自動的に組み込まれない | 保険証券、Schedule、Slip | 文言を組み込む記載を確認する |
| 修正後の最終文言 | 当事者が原文を修正している場合がある | Endorsement、Manuscript Wording | 標準原文との差分を確認する |
| 事故への適用結果 | 事故原因、時期、場所及び因果関係が必要となる | 事故報告書、Survey Report、Claim書類 | 事実関係を契約文言へ当てはめる |
| 準拠法上の解釈 | 同じ文言でも準拠法及び裁判管轄が問題となる | Governing Law、Jurisdiction条項 | 必要に応じて弁護士へ確認する |
| 保険会社の個別引受意図 | モデル文言の掲載だけでは個別の引受判断は分からない | Broker Presentation、引受回答、メール | 契約交渉記録を確認する |
| 再保険回収の可否 | 元受契約と再保険契約は別契約である | 再保険契約、Claims Control条項 | 元受支払と再保険回収を分けて判断する |
| 新しい版の既存契約への適用 | 契約締結後に公表された文言は当然には適用されない | 契約始期、更新書類、Endorsement | 更新又は変更合意の有無を確認する |
モデル約款の法的・契約上の性質
モデル約款は、保険契約条件の候補となる文言です。ウェブサイトへの掲載、公表、業界での一般的利用又は契約交渉での参照だけでは、個別の保険契約へ自動的に適用されません。
個別契約に適用するには、保険証券、Schedule、Slip、Cover Note、Endorsementその他の契約書類によって、採用する文言を特定する必要があります。
契約当事者がモデル文言を修正して採用した場合は、原文ではなく、実際に合意された修正文言を基準として判断します。
| 状態 | 契約上の意味 | 確認資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ウェブサイトに掲載されている | 市場で参照できるモデル文言である | 掲載ページ、文書PDF | 掲載だけでは個別契約へ適用されない |
| 見積書で名称だけ参照されている | 採用予定条件を示している可能性がある | 見積書、Quotation、Broker Presentation | 版、日付及び修正の有無を確認する |
| Slip又はScheduleで特定されている | 契約条件として採用された可能性が高い | Signed Slip、Schedule | 証券及びEndorsementとの整合性を確認する |
| 保険証券へ添付されている | 契約文言の一部として扱われる | Policy Wording、約款集 | 添付漏れ又は異なる版でないか確認する |
| Endorsementで修正されている | 修正部分についてEndorsementが優先する | Endorsement、Amendment | 削除、置換及び追加の対象条項を確認する |
| 独自文言に置き換えられている | モデル原文ではなく独自文言が適用される | Manuscript Wording | 標準約款との違いを一覧化する |
日本の外航貨物海上保険とInstitute Cargo Clauses
日本の外航貨物海上保険でも、英文保険証券の基礎条件としてInstitute Cargo Clausesが広く利用されています。
国際貨物輸送では、売主、買主、銀行、フォワーダー、船会社、保険会社及び損害査定代理店等が複数国にまたがって関与します。そのため、国際的に認識されている共通の英文約款を使用することには、取引当事者間で保険条件を確認しやすいという実務上の利点があります。
一方、日本の保険会社がICCを基礎条件として使用していても、保険契約全体がICCだけで構成されるとは限りません。日本の保険会社独自の追加規定、特別約款、Endorsement、保険証券のSchedule及び個別引受条件が併用される場合があります。
現在の契約実務では、1963年版、1982年版及び2009年版のICCが契約に応じて使用されています。名称が同じICC(A)であっても、版によって保険期間、免責、通知その他の文言が異なるため、版を特定する必要があります。
| 確認項目 | 確認する理由 | 主な資料 | 不明な場合の対応 |
|---|---|---|---|
| ICCの区分 | ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)で担保危険が異なる | Schedule、保険証券 | アルファベット区分を確認する |
| 制定日・版 | 1963年版、1982年版及び2009年版等で文言が異なる | 約款表題、日付 | 単にICC(A)とだけ記載しない |
| War Clauses | 戦争危険は通常のICCと別の追加約款で扱われる | Institute War Clauses | 付帯の有無及び版を確認する |
| Strikes Clauses | ストライキ危険等も別の追加約款で扱われる | Institute Strikes Clauses | War Clausesとの違いを確認する |
| 日本側追加規定 | 日本の保険実務に合わせた追加条件が付く場合がある | Supplementary Provisions、特別約款 | ICC原文だけで判断しない |
| 個別Endorsement | 貨物又は輸送条件に応じて担保を拡張又は制限する | Endorsement一覧 | 原文との差分を確認する |
| 保険期間 | 倉庫から倉庫までの範囲が個別条件で変わる場合がある | Transit Clause、Schedule | 始期及び終期を具体的に確認する |
約款番号・版・日付を確認する理由
モデル約款を確認するときは、約款名だけでなく、文書番号、版、制定日、改訂日及び契約へ組み込まれた日を確認します。
同じ又は類似する名称の約款が複数存在する場合、名称だけでは適用文言を特定できません。また、旧版を採用した契約へ、後日公表された新版が自動的に適用されるわけではありません。
| 識別情報 | 確認内容 | 誤りがある場合の問題 | 確認方法 |
|---|---|---|---|
| 正式名称 | 文言の完全な名称 | 別の危険又は別の保険種目の文言を参照する | 表題を一字ずつ照合する |
| 文書番号 | JC、LMA、IUA等の参照番号 | 類似名称の別文言と混同する | 接頭記号を含めて確認する |
| 制定日 | 文言の基準となる日付 | 旧版と新版を取り違える | 約款表題及び末尾を確認する |
| 改訂記号 | A、B等の改訂を示す記号 | 修正前の文言を使用する | Circular及び改訂履歴を確認する |
| 契約始期 | どの契約年度に採用されたか | 後日公表された文言を遡って適用する | Schedule及び更新書類を確認する |
| Endorsement日 | 契約途中の追加又は変更日 | 変更前後の適用期間を誤る | Endorsementの発効日を確認する |
| 適用対象 | 貨物、航路、保険期間又は特定危険の範囲 | 対象外の貨物又は事故へ適用する | Schedule及び定義条項を確認する |
原文採用・修正採用・独自文言の違い
| 採用方法 | 文言の状態 | 主な利点 | 主なリスク | 確認方法 |
|---|---|---|---|---|
| 原文採用 | 公表されたモデル文言を変更せず使用する | 市場で認識された文言を共有しやすい | 個別リスクに合わない場合がある | 公表原文と契約書類を照合する |
| 一部修正 | 特定の条項、語句又は定義を変更する | 個別リスクへ調整できる | 修正の波及範囲が不明確になる場合がある | 削除・追加・置換部分を一覧化する |
| 追加Endorsement | 原文を残し、追加条件を付ける | 特定危険を拡張又は制限できる | 原文との優先関係が争われる場合がある | 優先条項及び抵触条項を確認する |
| 独自文言 | 保険会社又は当事者が独自に起草する | 案件に合わせて詳細設計できる | 標準文言と同じ意味だと誤認される | モデル原文との差分表を作る |
| 複数文言の組合せ | 基本約款、War、Strikes、Cyber等を併用する | 複数の危険を一契約で整理できる | 条項間の重複又は矛盾が生じる | 優先順位及び各条項の適用範囲を確認する |
確認すべき契約書類
| 書類 | 主な役割 | 確認事項 | 問題がある場合 |
|---|---|---|---|
| 保険証券 | 保険契約の基本的な成立内容を示す | 被保険者、保険期間、保険金額、対象貨物及び基本条件 | Schedule及びSlipと不一致がないか確認する |
| Insurance Schedule | 個別契約の主要条件を一覧化する | 採用約款、版、免責金額及び特別条件 | 名称だけでなく文書番号まで確認する |
| Slip | ロンドン市場等で引受条件及び参加割合を示す | Lead、Following Markets、条件及び署名 | 最終証券へ正確に反映されたか確認する |
| Cover Note | 正式証券発行前の引受内容を示す | 暫定条件、対象期間及び正式証券との関係 | 正式証券との変更点を確認する |
| Endorsement | 契約条件を追加、削除又は変更する | 対象条項、発効日及び優先関係 | 修正対象が明確でない場合は発行者へ照会する |
| Policy Wording | 担保、免責、条件及び請求手続の本文を示す | 全文、定義、相互参照及び適用法 | 抜粋だけで判断せず全文を取得する |
| Broker Presentation | リスク情報及び希望条件を保険者へ提示する | 申告内容、引受前提及び特別要望 | 契約条件との不一致を確認する |
| 約款一覧 | 契約へ組み込まれた文書を列挙する | 文書名、番号、日付及び添付状況 | 不足する文言を契約締結前に取得する |
本記事の判断が適用される主な場面
| 場面 | 主な問題 | 確認する資料 | 判断の方向 |
|---|---|---|---|
| 貨物保険条件を設計する | どの基本約款及び追加約款を採用するか | 見積条件、ICC、War、Strikes | 貨物・航路・輸送方法に適合する文言を選ぶ |
| ロンドン市場へリスクを提示する | 共通の市場文言を使うか独自文言を使うか | Broker Presentation、Slip案 | モデル文言を出発点として修正を明示する |
| 日本の英文証券を確認する | ICCの版及び日本側追加条件が不明確 | Policy、Schedule、約款一覧 | ICC原文と追加規定を一体で読む |
| 保険事故が発生した | 担保又は免責の対象となるか | 事故資料、契約へ組み込まれた文言 | eLibraryではなく契約文言を基準に判断する |
| モデル原文と証券文言が異なる | どちらが優先するか | Endorsement、Manuscript Wording | 合意された修正文言を確認する |
| 更新時に新版を採用する | 旧版から何が変わったか | 新旧約款、更新案内 | 差分及び既存特約との整合性を確認する |
| 再保険回収を検討する | 元受支払に再保険者が従うか | 再保険契約、Claims Control等 | 元受契約と再保険契約を分離して読む |
| 制裁・Cyber・Warが関係する | 追加免責又は担保条項の優先関係 | Sanctions、Cyber、War関連条項 | 事故原因と各条項の対象危険を分ける |
本記事の一般論だけでは判断できない場面
| 場面 | 本記事だけで判断できない理由 | 優先して確認するもの | 対応 |
|---|---|---|---|
| 具体的事故の補償可否 | 事故原因、因果関係及び証拠が必要となる | 契約文言、Survey Report、事故資料 | 保険会社又は保険代理店へ通知する |
| 特定条項の法的解釈 | 準拠法、判例及び契約交渉経緯が関係する | Governing Law、契約資料 | 海上保険に詳しい弁護士へ相談する |
| 保険金支払額 | 保険価額、損害額、免責金額及び費用の算定が必要となる | Invoice、Survey、修理見積 | 保険会社の査定手続で確認する |
| 貨物固有の特殊条件 | 温度、腐食、中古品、甲板積み等の個別条件がある | 個別Endorsement、貨物情報 | 引受前に条件を個別設計する |
| 制裁対象取引 | 複数国の制裁法令及び支払規制が関係する | Sanctions Clause、当事者・船舶情報 | 法務・コンプライアンス確認を行う |
| 再保険紛争 | 元受契約と再保険契約の文言及び事実が異なる | 再保険契約、Claims通知記録 | 再保険専門家又は弁護士へ相談する |
| 複数約款の抵触 | 優先条項及び特別約款の位置付けが必要となる | 証券全体、Order of Precedence | 条項相互の適用関係を整理する |
| 旧版と新版のどちらが適用されるか | 契約始期及び変更合意の確認が必要となる | Schedule、更新書類、Endorsement | 契約締結時の採用版を特定する |
IUAモデル文言を確認する実務フロー
- 対象となる保険種目、貨物、航路、輸送方法及び危険を特定する。
- 保険証券、Schedule、Slip、Cover Note及びEndorsementをすべて収集する。
- 契約書類に記載された約款名、文書番号、版及び日付を一覧化する。
- IUA Clauses eLibrary、LMA Wordings及びJoint Committeeの公表文書から該当原文を確認する。
- 公表原文と契約へ組み込まれた文言を比較する。
- 削除、追加、置換又は独自文言がある箇所を差分として整理する。
- ICC、War、Strikes、Cyber、Sanctionsその他の条項の適用範囲を分ける。
- 基本約款とEndorsementが抵触する場合の優先関係を確認する。
- 契約始期、Endorsement発効日及び事故発生日を時系列で整理する。
- 事故の場合は、事故原因、損害発生場所、発見時点及び損害拡大防止対応を整理する。
- モデル原文の一般的な意味と、個別契約における修正文言を分けて検討する。
- 不明な文言は、保険会社、保険仲立人又は保険代理店へ書面で照会する。
- 法的解釈又は高額紛争がある場合は、海上保険に詳しい弁護士へ相談する。
- 確認した版、原文、差分及び照会回答を契約ファイルへ保存する。
実務で問題になりやすいケース
| ケース | 主な原因・争点 | 確認資料 | 判断のポイント | 初動対応 |
|---|---|---|---|---|
| 証券にICC(A)とのみ記載されている | 制定日及び版が特定できない | Schedule、約款一覧、引受回答 | 1963年版、1982年版又は2009年版のどれか | 保険会社へ採用版を書面で確認する |
| IUA掲載原文と証券文言が異なる | 独自修正又はEndorsementがある | 原文、Policy Wording、Endorsement | 実際に合意された文言を優先する | 差分表を作成する |
| ICC(A)だから全損害が補償されると考えた | 免責及び保険期間を見落としている | ICC(A)、特別約款 | All Risksと無条件補償は同じではない | 損害原因と免責を照合する |
| War Clausesが付いていなかった | 基本ICCだけで戦争危険も担保されると誤認した | Schedule、War Clauses | 戦争危険は別約款となる | 付帯状況を契約前に確認する |
| 最新版を事故契約へ適用した | ウェブ上の最新版と契約採用版を混同した | 契約始期、旧版約款 | 事故契約に組み込まれた版を確認する | 契約当時の文言を取得する |
| Guidanceを契約条項として扱った | 参考資料と約款本文を混同した | Guidance、Policy Wording | 契約へ組み込まれているか | 文書の法的な位置付けを分ける |
| 複数のEndorsementが矛盾した | 優先順位及び発効日が不明確 | 全Endorsement、Order of Precedence | 後発文言だけでなく優先条項も確認する | 保険会社へ統合版を求める |
| 元受支払後に再保険回収を拒否された | Claims Control又は事前同意条件に違反した | 再保険契約、通知記録 | Follow the Settlementsだけで判断しない | 再保険者への通知経緯を保全する |
| 日本独自の追加規定を見落とした | ICC原文だけを読んでいた | Supplementary Provisions、特約 | 日本側追加文言を一体で確認する | 約款一覧を再確認する |
| Sanctions Clauseにより支払が停止した | 担保事故と支払規制を混同した | Sanctions Clause、当事者情報 | 担保責任と法令上の支払可否を分ける | 法務・コンプライアンスへ照会する |
想定例1:ICC(A)と独自Endorsementの不一致
以下は、モデル約款と実際の契約文言の違いを説明するための想定例です。
神戸港からシンガポール港へ輸出された精密機械について、保険金額4,800万円で外航貨物海上保険が付保されていたとします。ScheduleにはICC(A)1/1/09が基礎条件として記載されていました。
到着後、密閉梱包内に結露が発生し、機械内部に腐食損害が確認されました。荷主は、ICC(A)がAll Risks条件であるとして、損害全額の支払を求めました。
保険会社は、証券に付帯された独自Endorsementに、温度変化及び結露による腐食を一定条件で除外する文言があるとして、免責を主張しました。
荷主は、見積時にICC(A)とだけ説明され、独自Endorsementによる制限について十分な説明を受けていないと反論しました。
確認の結果、IUA又は市場で公表されているICC(A)の原文とは別に、保険会社独自のEndorsementがSchedule上で明示的に組み込まれていたことが判明しました。
この場合は、「ICC(A)なら補償されるか」だけでなく、Endorsementが正式に契約へ組み込まれたか、原文のどの条項を修正したか、説明及び合意の経緯、腐食の直接原因並びに梱包状態を確認します。
想定例2:ICC(A)の版が特定されていなかったケース
横浜港からロッテルダム港へ輸出された工作機械について、保険金額7,200万円の保険証券に「Institute Cargo Clauses(A)」とのみ記載されていたとします。
輸送中に貨物が一時保管倉庫で損傷し、保険期間の終期が争点となりました。
荷主は2009年版ICC(A)を前提として補償が継続していたと主張しましたが、保険会社は当該包括契約では1982年版を使用しており、保険期間は既に終了していたと主張しました。
保険証券本体には制定日の記載がありませんでしたが、更新時のBroker Slip、保険会社の引受回答及び約款一覧を確認したところ、ICC(A)1/1/82が指定されていました。
このケースでは、現在ウェブサイトで容易に取得できる2009年版を参照するのではなく、事故対象契約へ実際に組み込まれた1982年版を基準に検討します。
約款名を略記するときでも、少なくともICCの区分、制定日及び版を契約書類へ明示する必要があります。
想定例3:Claims Control条項と再保険回収
以下は、再保険契約におけるモデル文言の確認方法を示す想定例です。
日本の元受保険会社が、タイから日本へ輸送された電子部品の濡損事故について、荷主と1億2,000万円で和解し、保険金を支払ったとします。
元受保険会社は、Follow the Settlements条項があるため、再保険者も当該支払に従うべきであると主張しました。
これに対し再保険者は、再保険契約に付帯されたClaims Control Clauseにより、高額和解には事前の協議及び書面同意が必要であったにもかかわらず、和解後まで十分な通知を受けていないとして回収を拒否しました。
元受保険会社は、事故発生時に速報を送っており、再保険者は事故を認識していたと反論しました。
この場合は、IUA又はLMA系モデル文言の一般的な意味だけでなく、実際の再保険契約に組み込まれたClaims Control、Claims Cooperation及びFollow the Settlementsの各条項、通知先、通知時期、同意要件並びに再保険者が事故対応へ関与できたかを確認します。
モデル文言を使用していることだけでは、元受支払の再保険回収が自動的に保証されるわけではありません。
よくある誤解
| 誤解 | 実際の考え方 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| IUAのウェブサイトにある文言はすべてIUA単独の約款である | Joint Committee文言その他の市場文言が掲載される場合もある | 文書番号、発行名義及びCircularを確認する |
| IUAモデル約款は法律である | 契約条件の候補となるモデル文言である | 契約へ組み込まれたかを確認する |
| 市場標準だから自動的に契約へ適用される | 業界で広く使用されていても自動適用はない | Policy、Schedule及びSlipを確認する |
| ICC(A)と書いてあれば版を確認する必要はない | 1963年版、1982年版及び2009年版等で文言が異なる | 制定日まで明記する |
| ICC(A)はすべての損害を補償する | 免責、保険期間及び契約条件がある | All Risksを無条件補償と理解しない |
| ICCがあればWar・Strikesも当然に補償される | 戦争危険及びストライキ危険は別約款で構成される | 追加約款の付帯を確認する |
| ウェブサイトの最新版を事故契約に使えばよい | 契約締結時に組み込まれた版を使用する | 契約始期及び採用版を確認する |
| モデル原文と異なる修正は無効である | 当事者が合意すれば修正文言が契約条件となり得る | Endorsementと合意経緯を確認する |
| Guidanceも約款本文と同じ拘束力を持つ | 参考資料と契約文言は区別される | 契約への組込みを確認する |
| 日本の貨物保険はICCだけを読めば判断できる | 日本側追加規定及び独自特約が付く場合がある | 証券全体を確認する |
| 元受保険者が支払えば再保険者も必ず支払う | 再保険契約の通知、同意及びClaims Control条件による | 元受契約と再保険契約を分ける |
| 約款番号が同じなら文言も同じである | 改訂記号又は契約上の修正が加わる場合がある | 番号、日付及び本文を照合する |
判断チェックリスト
| 確認場面 | 確認する相手 | 確認事項 | 問題がある場合の対応 |
|---|---|---|---|
| 保険条件設計時 | 保険会社、保険仲立人、保険代理店 | 対象リスク、基本約款、追加約款及び免責 | 貨物・航路に適した条件を個別に設計する |
| 見積取得時 | 見積発行者 | 約款名、文書番号、制定日及び版 | 略称だけでなく正式名称を書面で確認する |
| 契約締結時 | 保険会社、保険仲立人 | Schedule、Slip、Policy Wording及び添付約款 | 不足する書類を契約開始前に取得する |
| ICC確認時 | 保険会社、保険代理店 | ICC(A)・(B)・(C)及び制定日 | 1963年版、1982年版、2009年版等を区別する |
| 追加特約確認時 | 保険会社 | War、Strikes、Cyber、Sanctions及び独自Endorsement | 基本約款との優先関係を確認する |
| モデル原文照合時 | 保険仲立人、保険代理店 | 公表原文と契約文言との差分 | 差分表を作成する |
| 契約更新時 | 保険会社、保険仲立人 | 旧版から新版への変更及び既存特約との整合性 | 変更箇所と影響を契約者へ説明する |
| 事故発生時 | 保険会社、保険代理店、損害査定関係者 | 事故対象契約の版、担保、免責及び通知期限 | 最新版ではなく契約採用版を使用する |
| 証券とSlipが異なる時 | 保険仲立人、保険会社 | 最終合意条件及び証券発行上の誤り | 訂正Endorsementを取得する |
| 複数Endorsement確認時 | 保険会社 | 発効日、対象条項及び優先順位 | 統合された最終文言を求める |
| 再保険通知時 | 再保険担当者、再保険仲立人 | Claims Control、通知期限及び同意要件 | 和解又は支払前に必要な承認を得る |
| 制裁確認時 | 法務、コンプライアンス、保険会社 | 当事者、船舶、貨物、航路及び金融機関 | 担保判断と支払規制を分けて確認する |
| 法的解釈が争われる時 | 海上保険に詳しい弁護士 | 準拠法、管轄、条項の解釈及び契約交渉記録 | 通知期限又は出訴期限前に相談する |
保険会社・保険仲立人・保険代理店へ確認すべき場面
- 証券に約款名だけが記載され、文書番号又は制定日が不明な場合
- IUA又はLMAの公表原文と、実際の証券文言が一致しない場合
- 複数のEndorsementが同じ条項を修正している場合
- 基本約款とWar、Strikes、Cyber又はSanctions関連条項の優先関係が不明な場合
- 旧版から新版への変更内容が契約者へ説明されていない場合
- ICC(A)を基礎条件としながら、特定貨物に独自免責が追加されている場合
- 温度管理貨物、中古品、機械類、甲板積み貨物、在庫保管又は展示品を付保する場合
- 日本側追加規定と英文約款の関係が分からない場合
- 事故発生後に、契約へ組み込まれた約款一式を入手できない場合
- 再保険者への通知、協議又は事前同意が必要か不明な場合
海上保険に詳しい弁護士へ相談すべき場面
- モデル原文と修正文言のどちらが優先するか争われている場合
- 約款の組込み自体が成立しているか争われている場合
- 準拠法又は裁判管轄によって条項解釈が分かれる場合
- 高額事故について担保、免責又は因果関係が争われている場合
- 保険会社、保険仲立人又は保険代理店の説明義務が争われている場合
- 複数の保険契約又は再保険契約が同じ損害に関係する場合
- Claims Control違反を理由として再保険回収が拒否された場合
- Sanctions Clauseによる支払停止と保険契約上の支払義務が競合する場合
- 通知期限、契約上の時効又は出訴期限が迫っている場合
- モデル約款の一般的な市場理解と契約文言の文理解釈が対立する場合
まとめ
IUA Clauses eLibraryは、ロンドン会社市場で使用される保険・再保険のモデル文言を検索・確認するための重要な資料です。
IUAは、LIRMAとInstitute of London Underwritersの統合により1998年に発足しました。「Institute Cargo Clauses」という名称は、ILUにつながる歴史的な系譜を持ちますが、現在の貨物保険文言はIUAだけでなく、LMA及びJoint Cargo Committeeを含むロンドン市場全体の仕組みの中で理解する必要があります。
IUA、LMA又はJoint Committeeが公表するモデル文言は、法律又は強制的な約款ではありません。個別契約へ組み込まれ、当事者間で合意された範囲で契約条件となります。
実際の事故で確認すべきものは、ウェブサイト上の最新版ではなく、事故対象契約の保険証券、Schedule、Slip、Cover Note、Policy Wording及びEndorsementです。
約款名だけでなく、文書番号、版、制定日、改訂記号及び発効日を確認し、公表原文と契約文言との差分を整理する必要があります。
日本の外航貨物海上保険では、ICCの1963年版、1982年版及び2009年版が契約に応じて使用されています。また、War Clauses、Strikes Clauses、日本側追加規定及び個別Endorsementが併用される場合があります。
ICC(A)であること、IUA又はLMAのモデル文言を使用していること、又は市場標準と呼ばれていることだけで、個別事故の補償可否は決まりません。実際に組み込まれた文言、事故原因、因果関係、保険期間及び免責を確認します。
約款番号、版、修正箇所又は優先関係を自社で確定できない場合は、付保先の保険会社、保険仲立人又は保険代理店へ書面で確認します。高額紛争、再保険回収又は法的解釈が問題となる場合は、海上保険に詳しい弁護士への相談を検討します。
