荷主から「全額賠償しろ」と言われた場合の返し方

概要

貨物事故が発生した後、荷主から「全額賠償してください」「商品代金をすべて負担してください」と求められることがあります。フォワーダー担当者にとって強い圧力を受ける場面ですが、この段階で安易に責任を認めることは避けるべきです。

貨物事故では、損害が実際に発生していても、それが直ちにフォワーダーの全額賠償責任につながるとは限りません。事故原因、発生区間、B/L約款、運送人責任責任制限、貨物保険の有無、荷主側の梱包・申告・受領時記録などを確認する必要があります。

本記事では、荷主から全額賠償を求められた場合に、フォワーダーがどのように返答し、どの順番で責任整理を進めるべきかを解説します。

最初に全額賠償を認めてはいけない理由

荷主から強く請求された場合でも、最初の段階で「弊社で全額負担します」と回答してはいけません。事故原因や責任範囲が確定する前に賠償を約束すると、後から運送人、倉庫業者、海外代理店、保険会社への求償が難しくなることがあります。

貨物事故の責任は、単純に「手配したフォワーダーがすべて負う」という構造ではありません。海上輸送中の事故、CFS作業中の事故、国内配送中の事故、荷主側の梱包不備、貨物固有の性質、納品後の保管不良など、原因によって責任主体は変わります。

また、フォワーダーがHouse B/Lを発行している場合でも、B/L約款や適用法令により責任制限が働く可能性があります。貨物価額全額が損害額として認められる場合でも、運送人またはNVOCCが負う賠償額は責任制限額にとどまることがあります。

お詫びと責任承認は分けて考える

荷主対応では、事故によって迷惑をかけていることへの配慮は必要です。しかし、配慮と責任承認は別です。

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。まず状況を確認します」という表現は、顧客対応として自然です。一方で、「弊社の責任です」「弊社で全額補償します」「保険で必ず出ます」という表現は、責任や保険支払いを断定するものになりかねません。

実務上は、まず事故対応への協力姿勢を示しつつ、責任判断は事実確認後に行うという線を明確にする必要があります。

初動で使える回答フレーズ

荷主から全額賠償を求められた場合、初動では次のような返答が実務上使いやすいです。

「ご迷惑をおかけしている点は重く受け止めております。まず、事故原因、発生区間、受領時記録、保険手配の有無を確認したうえで、責任範囲を整理いたします。」

「現時点では事故原因が確定していないため、賠償責任の有無や金額については確認中です。写真、受領書、POD、検品記録をご共有ください。」

「全額賠償のご要望は承りました。ただし、運送約款、B/L条件、責任制限、貨物保険の有無を確認したうえで、正式に回答いたします。」

海外案件では、次のような英文表現も使えます。

“We acknowledge receipt of your claim and are currently reviewing the facts, including the cargo condition, delivery records, applicable transport terms, and insurance arrangements. We reserve all rights and defenses at this stage.”

“We are not in a position to admit liability or confirm the compensation amount at this stage. We will review the supporting documents and revert with our position.”

確認すべき資料

全額賠償要求を受けた場合、まず損害額と責任原因を分けて確認します。

損害額を確認する資料としては、Commercial Invoice、Packing List、損傷写真、検品記録、修理見積書廃棄費用再梱包費用、残存価額資料などがあります。

責任原因を確認する資料としては、B/L、House B/LMaster B/L、POD、受領書、デバン記録、コンテナ番号、シール番号、倉庫入庫記録、配送記録、サーベイレポートなどが重要です。

損害額が大きくても、責任原因がフォワーダー側にあるとは限りません。逆に、フォワーダー側に一定の関与があっても、賠償額が全額になるとは限りません。この二つを分けて考えることが重要です。

責任制限を荷主にどう説明するか

荷主が最も納得しにくいのが、責任制限の説明です。荷主から見ると「100万円の商品が壊れたのだから100万円払うべきだ」と考えるのは自然です。

しかし、国際海上輸送では、運送人やNVOCCの責任は常に貨物価額全額とは限りません。Hague-Visby Rules、国際海上物品運送法、B/L約款などにより、1梱包あたり、または重量あたりの責任制限が適用される場合があります。

この責任制限は、運送人が高額貨物をすべて無制限に負担する制度ではなく、国際輸送の運賃水準とリスク分担の前提として設けられているものです。高額貨物について全額補償を確保したい場合は、貨物保険の手配や申告価額の設定が重要になります。

荷主へ説明する場合は、次のように伝えるとよいでしょう。

「貨物価額と運送人責任額は必ずしも一致しません。国際海上輸送では、B/L約款や適用法令により、運送人またはNVOCCの責任額が梱包数または重量を基準に制限される場合があります。そのため、事故原因と損害額に加えて、責任制限の適用有無を確認する必要があります。」

この説明では、「払わない」と言うのではなく、「制度上、貨物価額全額とは別に責任制限の確認が必要である」と伝えることが重要です。

貨物保険の有無を確認する

荷主から全額賠償を求められた場合、貨物保険の有無を必ず確認します。

貨物保険が付保されている場合、まず荷主が保険会社へ事故通知を行い、保険金請求を進めることがあります。その後、保険会社が保険金を支払った場合、保険会社から運送人、NVOCC、フォワーダーなどへ代位求償が行われる可能性があります。

貨物保険がない場合、荷主はフォワーダーや運送人に直接賠償を求める傾向が強くなります。しかし、貨物保険未付保であること自体が、フォワーダーの全額賠償責任を当然に発生させるわけではありません。

フォワーダーが保険手配を引き受けていたのか、単に輸送手配のみを受けていたのか、見積書やメールで貨物保険についてどのように案内していたのかを確認する必要があります。

保険会社・弁護士へ相談すべき場面

荷主からの請求額が大きい場合、責任原因が争われる場合、B/L約款や海外法が関係する場合は、早い段階で保険会社または弁護士へ相談するべきです。

特に、荷主が法的請求を示唆している場合、海外代理店や船会社との責任関係が複雑な場合、出訴期限が迫っている場合、英文Claim Letterが届いている場合は、担当者だけで回答しない方が安全です。

また、フォワーダー賠償責任保険に加入している場合は、保険会社への事故通知が遅れないよう注意する必要があります。通知遅れは、保険対応に影響することがあります。

具体例:全額賠償要求への対応

輸入貨物に破損が発見され、荷主から「販売できないので商品代金全額を賠償してください」と言われたケースを考えます。

この場合、まず確認すべきことは、商品代金全額が損害額として妥当かどうかではありません。先に、破損がいつ、どこで、どのように発生した可能性があるかを確認します。

デバン時に外装破損が確認されていたのか、納品時の受領書にリマークがあるのか、梱包状態は国際輸送に耐えるものだったのか、B/L上の数量・梱包数はどう記載されていたのかを確認します。

そのうえで、貨物保険の有無、B/L約款上の責任制限、運送人への通知期限、サーベイの必要性を整理します。

この段階でフォワーダーが言うべきことは、「全額払います」でも「払えません」でもありません。「請求内容は受領しました。責任原因、損害額、約款上の責任範囲、保険の有無を確認し、正式に回答します」という姿勢です。

まとめ

荷主から全額賠償を求められた場合、フォワーダーは感情的な圧力に流されず、事実確認、責任原因、損害額、責任制限、貨物保険の有無を分けて整理する必要があります。

事故対応では、誠実な対応と責任承認を混同してはいけません。お詫びや協力姿勢を示しながらも、賠償責任の有無と金額については、資料確認後に回答する姿勢を保つことが重要です。

全額賠償要求への対応は、単なる顧客対応ではなく、後日の保険請求、代位求償B/L約款、責任制限、法的紛争に直結する実務対応です。

同義語・別表記

  • 全額賠償要求
  • 損害賠償請求
  • フォワーダー事故対応
  • 貨物事故クレーム
  • Full Compensation Demand

公式情報