知的財産侵害物品とは
知的財産侵害物品とは
知的財産侵害物品とは、商標権、意匠権、著作権、特許権などの知的財産権を侵害するおそれがある物品をいいます。輸入実務では、偽ブランド品、コピー商品、模倣品、無断複製品、権利者の許諾を得ていない商品などが問題になりやすい分野です。
関税法第69条の11は、知的財産侵害物品を輸入してはならない貨物として定めており、税関はその該当性を判断する権限を有しています。そのため、知的財産侵害物品の問題は、単なる民事上の権利侵害にとどまらず、輸入そのものが認められるかどうかに関わる重要な論点です。
輸入者、通関業者、フォワーダー、EC事業者は、ブランド品、キャラクター商品、デザイン性の高い商品、電子機器、玩具、衣類、雑貨などを輸入する場合に、知的財産権の確認を避けて通ることはできません。
対象になりやすい権利・法律
知的財産侵害物品で問題になりやすい権利・法律には、主に次のようなものがあります。
- 商標権:ブランド名、ロゴ、商品名などを無断で使用した商品
- 意匠権:商品の形状、デザイン、外観を無断で模倣した商品
- 著作権:キャラクター、イラスト、画像、映像、音楽、書籍などを無断で複製した商品
- 著作隣接権:音源、映像、放送、実演などに関する権利を侵害する物品
- 特許権・実用新案権:技術的な発明や構造を無断で使用した商品
- 回路配置利用権:半導体集積回路の回路配置を無断利用した物品
- 育成者権:登録品種などを無断で利用した種苗・植物等
- 不正競争防止法違反物品:商品表示の混同惹起、著名表示の冒用、形態模倣品、営業秘密侵害品など
育成者権は種苗法上の権利ですが、関税法上の知的財産侵害物品として水際取締りの対象になります。また、不正競争防止法は、商標権や著作権のような個別の知的財産権法とは別の法律ですが、関税法上は一定の不正競争行為を構成する物品も輸入してはならない貨物の対象となります。
輸入現場では、商標権侵害と意匠権侵害が特に問題になりやすく、バッグ、衣類、靴、時計、スマートフォン用品、玩具、キャラクターグッズ、家電周辺機器などで差止の対象となることがあります。
税関差止と輸入差止申立
知的財産侵害物品が疑われる貨物については、税関で輸入差止や認定手続の対象になることがあります。権利者は、自己の権利を侵害する貨物について、税関に対して輸入差止申立を行うことができます。
輸入差止申立が受理されている場合、税関は輸入申告貨物や国際郵便物の中から、申立内容に該当するおそれのある貨物を確認します。疑いがある場合には、その貨物が知的財産侵害物品に該当するかどうかを判断するため、税関が認定手続を行います。
認定手続では、権利者と輸入者に通知が行われ、必要に応じて証拠や意見の提出が求められます。輸入者が争う場合には、期限内に意見を述べ、真正品であることや権利侵害に該当しないことを示す資料を提出する必要があります。
知的財産侵害物品に該当すると判断された場合、その貨物は輸入できず、没収・廃棄または積戻しの対象となることがあります。税関による具体的な手続の流れは、税関による輸入差止めの記事で別途確認することが重要です。
知らなかったでは済まない場合
輸入者が「偽物だとは知らなかった」「海外の販売者から本物だと説明された」と主張しても、貨物自体が知的財産侵害物品に該当すると判断されれば、輸入が認められないことがあります。
特にECサイト、海外仕入サイト、オークション、個人輸入代行などを通じて仕入れた商品では、販売者の説明だけを信じるのではなく、真正品であることを確認できる資料が重要になります。
また、販売目的ではなく個人使用目的であっても、海外事業者から送付される模倣品については、輸入禁止の対象となる場合があります。小口貨物や国際郵便であっても、税関の確認対象から外れるわけではありません。
並行輸入との違い
知的財産侵害物品と混同しやすいものに、並行輸入があります。並行輸入とは、海外で正規に流通している真正品を、国内の正規代理店とは別のルートで輸入する取引をいいます。
真正品であり、権利者または権利者と関係のある者によって適法に流通した商品であれば、直ちに知的財産侵害物品とはなりません。一方で、見た目がブランド品に似ているだけの商品、ロゴを無断使用した商品、正規品を装った模倣品は、並行輸入ではなく知的財産侵害物品として問題になります。
実務上は、「ブランド品を輸入すること」自体が問題なのではなく、その商品が真正品であるか、権利者の権利を侵害していないか、国内での販売表示に問題がないかを確認することが重要です。
フォワーダー・通関実務での注意点
フォワーダーや通関業者は、貨物の権利関係を最終判断する立場ではありません。しかし、インボイス、商品写真、商品説明、ブランド名、型番、輸入者の事業内容などから明らかに疑義がある場合には、輸入者へ確認を促す必要があります。
特に注意すべき貨物には、次のようなものがあります。
- 有名ブランドのロゴが付いた低価格品
- キャラクターやアニメ画像を使用した雑貨・衣類
- 正規代理店ルートではないブランド品
- 商品写真とインボイス記載が一致しない貨物
- 「OEM」「ノーブランド」と説明されているが、実際には既存ブランドに酷似している商品
- 販売ページや商品カタログに権利者名・ライセンス表示がない商品
- メーカー名、ブランド名、型番の説明が曖昧な商品
疑義がある場合には、輸入者に対して、正規仕入書、販売許諾書、ライセンス契約書、真正品証明、メーカー発行資料などの確認を促すことが実務上重要です。
貨物保険との関係
知的財産侵害物品として税関で差し止められた場合、それは通常の輸送中の破損、濡損、盗難などとは性質が異なります。輸入禁止、権利侵害、法令違反に起因する損失は、標準的な貨物海上保険が予定する偶然な外的事故による物的損害とは異なるため、通常は保険の担保対象外として整理すべきです。
たとえば、知的財産侵害物品と認定されたことにより、貨物が輸入できない、販売できない、廃棄費用が発生した、納期遅延が生じたといった損失は、輸送中の貨物損害ではなく、輸入者側の法令・権利確認リスクに属する問題です。
したがって、輸入者は、保険を手配する以前の段階で、商品の権利関係、販売許諾、輸入可否、表示内容を確認しておく必要があります。貨物保険は、適法に輸送される貨物の物的損害を対象とするものであり、権利侵害リスクや輸入禁止リスクを代替するものではありません。
実務上の確認ポイント
知的財産侵害物品を避けるためには、輸入前に次の点を確認することが重要です。
- ブランド名、ロゴ、デザインの使用許諾があるか
- 真正品であることを示す仕入書や証明資料があるか
- 商品画像、パッケージ、説明書に無断使用の表示がないか
- キャラクター、イラスト、写真、音楽、映像等の権利処理が済んでいるか
- 並行輸入品の場合、真正品であることを説明できる資料があるか
- 国内販売時の表示、広告、商品説明に誤認を招く表現がないか
- 税関から認定手続開始の通知を受けた場合に、速やかに資料提出できる体制があるか
まとめ
知的財産侵害物品とは、商標権、意匠権、著作権、特許権、育成者権などを侵害するおそれのある物品や、不正競争防止法違反に該当する一定の物品をいいます。輸入実務では、税関差止や輸入差止申立の対象となる重要な規制分野です。
偽物、コピー商品、模倣品はもちろん、真正品かどうかを説明できないブランド品、権利者の許諾を確認できないキャラクター商品、デザインを模倣した商品なども、輸入時に問題となる可能性があります。
輸入者、フォワーダー、通関関係者は、単に「商品が届くか」だけでなく、「その商品を日本に輸入してよいか」「権利者の権利を侵害していないか」「税関で説明できる資料があるか」を事前に確認することが重要です。
