出荷前リスクとは

概要

出荷前リスクとは、輸出契約を締結した後、商品を出荷する前に、買主や取引先国の事情によって輸出できなくなるリスクをいいます。

たとえば、買主の倒産、支払不能、戦争、輸入禁止、政府措置、制裁、許認可停止などにより、輸出者が商品を出荷できなくなる場合があります。

輸出取引信用保険では、通常、商品を出荷した後の代金債権回収不能、つまり出荷後リスクが本体となります。一方、出荷前リスクは、保険商品や契約条件によって、特約を付帯することで補償対象になる場合があります。

出荷前リスクが問題になる理由

輸出者は、商品を出荷する前であっても、すでに製造費、仕入費、加工費、梱包費、検査費、手配費用などを負担していることがあります。

特に、特注品、専用品、買主仕様品、転売が難しい機械・部品・設備・原材料などでは、出荷前に取引が中止されると、輸出者が大きな損失を負う可能性があります。

このため、出荷前リスクは、単なる「出荷していないから安全」という話ではありません。契約締結後から出荷までの間にも、輸出者には費用発生・在庫化・転売困難・キャンセル対応のリスクが残ります。

出荷後リスクとの違い

出荷後リスクとは、商品を出荷した後に、輸出者が代金を回収できなくなるリスクをいいます。

出荷後リスクでは、輸出者の手元には買主に対する代金債権が残り、その債権を買主の倒産、不払い、送金規制、外貨不足などにより回収できなくなることが問題になります。

一方、出荷前リスクでは、まだ商品が出荷されていない段階で、輸出不能や契約履行不能が発生します。そのため、代金債権の回収不能というより、製造・仕入・加工・手配済みの費用や、転売困難な在庫の損失が問題になります。

つまり、出荷後リスクは「出荷後の代金回収不能」、出荷前リスクは「出荷前の輸出不能・費用損失」と整理できます。

特約による補償対象になる場合

輸出取引信用保険では、出荷前リスクは本体補償ではなく、特約によって補償対象になる場合があります。

出荷前リスクの特約では、輸出取引契約締結後から商品を出荷するまでの間に生じた輸出不能により、輸出者が被る損害が問題になります。

ただし、すべての出荷前損害が補償されるわけではありません。補償対象となる事故、対象貨物、対象費用、免責事項、通知義務、損害防止軽減義務を確認する必要があります。

対象になりやすい貨物

出荷前リスクが特に問題になりやすいのは、他の買主へ転売しにくい貨物です。

たとえば、次のような貨物では注意が必要です。

  • 買主専用仕様の機械・設備
  • 特注部品・専用品
  • 買主ブランド入りの商品
  • 特定国・特定規格向けの商品
  • 再販売が難しい大型設備・特殊貨物
  • 製造途中でキャンセルされると転用しにくい原材料・半製品

これらの貨物では、出荷前に取引が中止されると、別の買主に販売することが難しく、輸出者側に実損が残る可能性があります。

信用危険による出荷前リスク

出荷前リスクは、買主の信用危険によって発生することがあります。

たとえば、輸出契約を締結し、製造や仕入れを開始した後に、買主が破産、支払不能、再生手続、清算手続に入る場合があります。

この場合、輸出者は商品を完成させても代金を回収できない可能性が高く、出荷を停止せざるを得ないことがあります。

ただし、買主都合の単なるキャンセル、発注変更、価格交渉、需要減少などは、信用危険としての出荷前リスクとは別に整理する必要があります。

非常危険による出荷前リスク

出荷前リスクは、非常危険によって発生することもあります。

たとえば、輸出契約締結後、商品を出荷する前に、戦争、内乱、政変、輸入禁止、輸出禁止、政府措置、制裁、港湾閉鎖、許認可停止などが発生し、予定どおり輸出できなくなる場合があります。

この場合、買主に支払意思があっても、国・政府・行政・金融制度上の事情により、契約を履行できなくなることがあります。

非常危険による出荷前リスクでは、買主の信用力だけでなく、買主国、出荷先国、支払国、経由国、関係銀行、制裁対象の有無を確認する必要があります。

第三国の出荷前リスク

貿易取引では、買主の所在国と出荷先国が異なることがあります。

たとえば、買主はA国に所在しているが、商品は第三国Bへ出荷されるという取引です。この場合、買主国では問題がなくても、第三国Bで輸入禁止、戦争、港湾閉鎖、政変、政府措置などが発生し、輸出できなくなることがあります。

このような第三国に関連する出荷前リスクは、通常の買主信用リスクだけでは把握できません。

取引設計では、買主国、支払国、出荷先国、経由国、関係銀行の所在国を分けて確認する必要があります。

一方的キャンセルとの違い

出荷前リスクを考える際に重要なのが、買主都合の一方的キャンセルとの違いです。

買主が単に「不要になった」「価格を下げてほしい」「販売先が見つからない」といった理由で注文を取り消す場合、それが直ちに輸出取引信用保険上の出荷前リスクとして扱われるとは限りません。

保険上問題になるのは、買主の支払不能や非常危険など、保険条件上の事故により輸出不能となる場合です。

したがって、単なる商談取消、需要減少、価格交渉、買主の任意キャンセルと、保険上の出荷前危険は区別して整理する必要があります。

売買契約で確認すべき点

出荷前リスクを管理するには、売買契約の内容が重要です。

少なくとも、次の点を確認する必要があります。

  • キャンセル時の費用負担
  • 製造開始後の取消制限
  • 前受金・中間金の有無
  • 買主都合の仕様変更時の費用負担
  • 不可抗力条項
  • 輸入許可・輸出許可の取得責任
  • 制裁・法令違反時の解除条項
  • 転売・再販売が可能か

特注品や専用品では、保険だけに頼らず、契約上のキャンセル料、前受金、製造段階ごとの支払条件を設けることが重要です。

前受金や中間金を受け取っておくことは、出荷前リスクを軽減する実務上有効な手段です。特に、特注品や転売困難な貨物では、製造開始前・中間工程・出荷前などの段階ごとに代金の一部を受領しておくことで、取引中止時の自己負担を抑えやすくなります。

与信限度額との関係

出荷前リスクを保険で検討する場合でも、買主ごとの与信限度額や引受条件が関係します。

買主の信用力、所在国、支払条件、取引金額、出荷予定、製造期間、転売可能性などによって、保険会社の引受判断が変わることがあります。

したがって、出荷前リスクを特約で補償したい場合は、契約締結前または製造・仕入開始前に、対象買主、対象契約、与信限度額、対象費用を確認しておく必要があります。

損害防止軽減義務

出荷前リスクが現実化した場合、輸出者には損害の防止・軽減に努めることが求められます。

たとえば、製造停止、追加仕入れの停止、転売先の探索、仕様変更による転用、保険会社への早期相談、買主との契約解除・費用負担交渉などが問題になります。

輸出者が合理的な損害防止軽減措置を怠った場合、保険金の支払可否や支払額に影響する可能性があります。

したがって、出荷前に異常が発生した場合には、社内判断だけで製造・出荷準備を継続せず、保険契約上の通知義務や対応方針を確認する必要があります。

貨物海上保険との違い

出荷前リスクは、輸出不能や代金回収不能に関するリスクであり、貨物海上保険とは対象が異なります。

貨物海上保険は、原則として輸送中の貨物の損傷・滅失を対象とする保険です。

出荷前に買主が倒産した、輸入禁止により出荷できない、戦争により契約を履行できないという問題は、通常の貨物海上保険ではなく、輸出取引信用保険や売買契約上のリスク管理で検討する必要があります。

なお、出荷準備中の貨物そのものが火災・盗難・破損などで損害を受ける場合は、出荷前リスクとは別に、倉庫保険、動産総合保険、火災保険などの対象になるかを確認する必要があります。

L/C取引との関係

L/C取引であっても、出荷前リスクがなくなるわけではありません。

信用状が発行される前に製造や仕入れを開始している場合、買主の信用不安、発行遅延、信用状条件の不一致、発行銀行所在国のリスクなどにより、出荷できなくなる場合があります。

また、信用状が発行されていても、制裁、輸入禁止、政府措置、不可抗力などにより、予定どおり輸出できないことがあります。

そのため、L/C取引では、信用状の発行確認、条件確認、出荷期限、書類条件、発行銀行リスク、出荷前費用の発生時期を整理する必要があります。

実務上の確認事項

  • 出荷前リスクが特約で補償対象になる契約か。
  • 対象となる買主・契約・貨物・費用が明確か。
  • 特注品、専用品、転売困難な貨物ではないか。
  • 製造開始前・仕入開始前に与信限度額や引受条件を確認しているか。
  • 買主の倒産・支払不能が発生した場合の出荷停止基準を定めているか。
  • 戦争、輸入禁止、制裁、政府措置などの非常危険を確認しているか。
  • 買主国だけでなく、出荷先国・第三国のリスクを確認しているか。
  • 買主都合の一方的キャンセルと保険上の出荷前危険を混同していないか。
  • 前受金、中間金、キャンセル料などを売買契約で定めているか。
  • 損害防止軽減義務や通知義務を理解しているか。
  • 貨物海上保険と輸出取引信用保険の対象リスクを分けているか。

実務上のポイント

  • 出荷前リスクは、輸出契約締結後から商品出荷前までに発生する輸出不能リスクである。
  • 輸出取引信用保険では、通常は出荷後リスクが本体であり、出荷前リスクは特約で補償される場合がある。
  • 特注品、専用品、転売困難な貨物では、出荷前リスクが特に重要になる。
  • 買主の倒産・支払不能だけでなく、戦争・輸入禁止・政府措置などの非常危険でも問題になる。
  • 買主都合の一方的キャンセルは、保険上の出荷前リスクとは区別する必要がある。
  • 第三国向け出荷では、買主国だけでなく出荷先国のリスクも確認する必要がある。
  • 前受金や中間金は、出荷前に発生する自己負担を軽減する実務上の手段になる。
  • 出荷前リスクは貨物損害ではないため、貨物海上保険とは対象が異なる。

まとめ

出荷前リスクとは、輸出契約締結後、商品を出荷する前に、買主の倒産・支払不能、戦争・輸入禁止・政府措置などにより、輸出できなくなるリスクをいいます。

輸出取引信用保険では、通常は出荷後の代金債権回収不能が本体補償であり、出荷前リスクは特約によって補償対象になる場合があります。

特に、特注品、専用品、買主仕様品、転売困難な貨物では、出荷前に取引が中止されると、製造費・仕入費・加工費などの損失が輸出者側に残る可能性があります。

出荷前リスクを管理するには、売買契約、前受金、キャンセル料、与信限度額、出荷前特約、損害防止軽減義務、第三国リスク、貨物海上保険との違いを整理して確認することが重要です。

同義語・別表記

  • 出荷前危険
  • Pre-shipment Risk
  • Pre-shipment Credit Risk
  • 輸出不能リスク
  • 出荷前輸出不能リスク

関連用語

公式情報