カントリーリスクと貿易決済
カントリーリスクと貿易決済
カントリーリスクとは、買主個別の信用力とは別に、取引先国の政治、経済、金融、法制度又は政府措置により、貿易代金の回収、外貨送金、L/C決済、銀行業務、契約履行又は貨物引取りに支障が生じるリスクをいいます。
例えば、買主に支払意思があり、現地通貨による支払資金を確保していても、外貨不足、中央銀行の承認停止、国外送金規制、戦争、政変、経済制裁又は銀行業務停止により、輸出者へ代金を送れない場合があります。
このようなリスクは、買主の倒産、資金不足又は支払拒絶といった信用危険とは発生原因が異なります。
貿易保険では、戦争、外貨送金規制その他契約当事者に責任のない事由による損失を、非常危険又はポリティカルリスクとして整理することがあります。ただし、一般的なカントリーリスクと、個別の保険契約で補償される非常危険は同一ではありません。
カントリーリスクは、単に「危険な国かどうか」を評価する概念ではありません。
実務上は、買主が支払えるか、外貨へ交換できるか、国外送金できるか、発行銀行がL/C上の支払を実行できるか、送金経路上の銀行が処理できるか、確認信用状又は信用保険でどこまで補完できるかを具体的に確認します。
この記事で扱う範囲
| 項目 | この記事で扱う内容 | 別テーマとして整理する内容 |
|---|---|---|
| カントリーリスクの基本 | 国の政治・経済・金融・法制度上の事情が貿易決済へ与える影響 | 個別国の格付け、投資判断及び長期的な市場分析 |
| 信用危険との違い | 買主個別の支払能力と国・金融制度上の障害の切り分け | 買主の詳細な財務分析及び信用調査 |
| Transfer Risk | 現地資金があるにもかかわらず外貨交換又は国外送金ができないリスク | 各国の具体的な為替管理法令及び送金申請手続 |
| 経済制裁 | 制裁対象者、銀行、貨物、船舶、用途及び送金経路による決済停止 | 特定取引に対する最終的な制裁法令の適用判断 |
| L/C | 発行銀行及び発行銀行所在国のカントリーリスク | UCP600全体及び個別信用状条件の詳細 |
| 確認信用状・Silent Confirmation | 発行銀行リスク及びカントリーリスクを補完する仕組みと限界 | 個別銀行の確認条件、手数料及びSilent Confirmation契約 |
| Forfaiting・Aval | 輸出債権の資金化及び銀行保証とカントリーリスクの関係 | 個別の債権譲渡契約、保証文言及び準拠法 |
| 輸出取引信用保険 | 信用危険及び非常危険による代金回収不能の基本的な区別 | 個別保険契約の引受条件、事故認定及び保険金計算 |
| 貨物海上保険 | 決済・送金リスクと輸送中の貨物損害との違い | 貨物事故の損害査定及び保険金請求手続 |
カントリーリスクが問題になる理由
貿易取引では、売買契約、貨物輸送、書類作成、銀行決済、外貨交換、国際送金及び貨物引取りが複数国にまたがって行われます。
そのため、売主と買主の間に争いがなく、買主が支払資金を確保していても、政府、中央銀行、金融当局、関係銀行又は送金経路上の事情によって決済が停止することがあります。
カントリーリスクを判断する場合は、買主だけでなく、次の要素を一体として確認します。
- 買主所在国
- 発行銀行及び保証銀行
- 発行銀行及び保証銀行の所在国
- 確認銀行の有無及び所在国
- 支払通貨
- 送金銀行及びコルレス銀行
- 中央銀行の外貨承認制度
- 制裁対象者、貨物、用途、船舶及び港湾
- 信用保険の対象国及び与信限度額
買主の信用力が高くても、発行銀行所在国又は送金経路に重大な障害があれば、輸出代金を回収できない可能性があります。
信用危険とカントリーリスクの違い
| 項目 | 信用危険 | カントリーリスク・非常危険 | 実務上の切り分け |
|---|---|---|---|
| 主な原因 | 買主の倒産、資金不足、信用悪化又は支払拒絶 | 国の政治、経済、金融、法制度又は政府措置 | 買主個別の事情か、国・金融制度上の事情かを確認します。 |
| 問題の主体 | 買主又は債務者 | 政府、中央銀行、金融制度、制裁又は送金経路 | 誰が支払を妨げているかを確認します。 |
| 典型例 | 倒産、長期延滞、支払拒絶、契約紛争 | 送金規制、外貨不足、戦争、政変、制裁、銀行閉鎖 | 不払いの直接原因を資料で確認します。 |
| 買主の支払意思 | 支払意思又は支払能力がない場合があります。 | 支払意思及び現地資金があっても送金できない場合があります。 | 支払意思と送金可能性を分けて確認します。 |
| 主な確認資料 | 財務諸表、信用調査、支払実績、督促記録 | 銀行通知、政府発表、送金申請、外貨規制及び制裁情報 | 原因に対応した証拠を収集します。 |
| 主な対応手段 | 前払い、与信限度、保証、L/C、信用保険 | 確認信用状、Silent Confirmation、代替送金経路、非常危険の保険 | 一つの手段ですべてを補完できるとは限りません。 |
信用危険は、主に「買主が支払えるか」という問題です。
カントリーリスクは、主に「国又は金融制度の事情により、買主が支払いたくても支払えない、外貨へ交換できない、国外へ送れない又は銀行が処理できない」という問題です。
代表的なカントリーリスクの類型
| 類型 | 主な内容 | 典型例 | 主な対応手段 |
|---|---|---|---|
| 送金規制・外貨不足型 | 現地通貨はあるが、外貨交換又は国外送金ができない、若しくは遅延するリスク | 外貨割当停止、中央銀行承認制、送金枠制限、外貨送金待機 | 支払通貨確認、送金ルート確認、確認信用状、信用保険 |
| 政治・社会情勢型 | 政治・社会情勢により契約履行又は決済が妨げられるリスク | 戦争、内乱、政変、暴動、政府措置、輸入禁止 | 出荷判断、L/C条件、非常危険の保険、契約条項 |
| 制裁型 | 制裁法令により取引、送金、保険又は銀行処理が禁止・制限されるリスク | 制裁銀行、制裁対象者、制裁貨物、制裁船舶、資産凍結 | 制裁スクリーニング、銀行照会、取引停止判断、法務確認 |
| 銀行・決済システム型 | 銀行又は決済インフラの停止により信用状処理や送金が止まるリスク | 銀行閉鎖、銀行破綻、決済網停止、金融危機 | 確認信用状、代替銀行、送金ルート、期限管理 |
| 法制度・政府措置型 | 現地法令又は政府措置により債務履行や債権回収が制限されるリスク | 支払猶予、現地通貨弁済、収用、国有化、輸入許可取消し | 準拠法、仲裁、契約条項、信用保険、法務確認 |
これらのリスクは、単独で発生するとは限りません。
政変を契機として外貨準備が減少し、中央銀行が送金を制限し、銀行業務が停止し、その後に制裁が導入されるなど、複数のリスクが連続して発生することがあります。
カントリーリスクに該当する場合・該当しない場合
| 確認事項 | カントリーリスクに該当する可能性が高い場合 | カントリーリスク以外の可能性が高い場合 | 確認資料 |
|---|---|---|---|
| 支払資金 | 買主は現地通貨を確保しているが外貨へ交換できない | 買主が資金を用意できない | 買主口座、送金申請、銀行通知 |
| 支払意思 | 買主は支払手続を行っているが政府又は銀行が止めている | 買主が支払を拒絶している | 支払指図、銀行照会、買主との通信 |
| 送金遅延 | 中央銀行承認、外貨割当又は送金規制が原因 | 送金依頼の未実施又は単なる事務遅延 | 中央銀行申請、銀行受付記録、規制通知 |
| L/C不払い | 発行銀行所在国の規制、外貨不足又は業務停止が原因 | Discrepancy又は信用状失効が原因 | 信用状、拒絶通知、銀行営業状況 |
| 制裁 | 法令上、取引又は支払が禁止・凍結されている | 銀行内部の追加審査だけで処理が遅れている | 制裁根拠、銀行回答、当事者情報 |
| 契約紛争 | 国の措置により契約履行が不可能となっている | 品質、数量、納期等を巡る当事者間の紛争 | 売買契約、政府措置、クレーム記録 |
| 貨物損害 | 政府措置により貨物が没収又は輸入禁止となった | 通常の輸送事故による破損又は濡損 | 政府通知、Survey Report、運送記録 |
| 保険上の非常危険 | 保険約款及び運用規程で定める非常事由に該当する | 一般的な国情悪化にとどまり保険事故が発生していない | 保険証券、約款、事故通知、政府・銀行資料 |
カントリーリスクが存在することと、輸出取引信用保険の保険事故が成立することは同一ではありません。
保険金支払の可否は、対象取引、保険約款、事故原因、通知義務、待機期間、回収努力及び損失確定要件に基づいて判断されます。
Transfer Riskとの関係
Transfer Riskとは、買主又は債務者が現地通貨による支払資金を確保しているにもかかわらず、外貨交換、中央銀行承認、国外送金又は決済経路上の制限により、輸出者へ資金を移転できないリスクです。
Transfer Riskの中心は、買主の信用力ではなく、通貨交換及び国際送金の可否です。
典型的には、次のような場面があります。
- 買主が現地通貨で銀行へ支払ったが、外貨割当が停止している
- 中央銀行の事前承認が下りない
- 送金銀行に必要な外貨がない
- 国外送金額又は送金頻度に上限が設けられている
- 指定通貨による送金が一時停止されている
- コルレス銀行が当該国からの送金を受け付けない
買主が単に「国の事情で送金できない」と説明しているだけでは、Transfer Riskと確定できません。
送金申請、現地通貨の支払、銀行受付、中央銀行申請、拒絶又は保留の理由を示す資料を取得する必要があります。
Transfer Riskと輸出取引信用保険
Transfer Riskが顕在化した場合、輸出取引信用保険における非常危険として検討されることがあります。
ただし、外貨送金が遅れているという事実だけで、当然に保険金支払の対象になるわけではありません。
保険上は、次の事項を確認します。
- 対象国及び対象取引が保険契約へ登録されているか
- 買主又は発行銀行に対する与信限度額
- 送金規制又は外貨不足が約款上の非常事由に該当するか
- 買主が支払義務を履行しているか
- 送金申請が正式に行われているか
- 支払遅延又は危険発生の通知期限
- 回収努力及び損失防止義務
- 待機期間及び損失確定要件
買主と支払猶予、通貨変更、値引き又は分割払いを合意する場合は、事前に保険者へ確認が必要となることがあります。
送金規制との関係
送金規制は、カントリーリスク及びTransfer Riskの代表的な発生原因です。
輸入者が現地通貨を確保していても、外貨送金が禁止又は制限されている場合、中央銀行の承認が必要な場合、又は銀行が外貨割当待ちとなっている場合には、輸出者への送金が遅れる可能性があります。
契約前には、次の事項を確認します。
- 支払通貨
- 送金元国
- 送金銀行及びコルレス銀行
- 中央銀行承認の要否
- 送金額及び送金頻度の制限
- 必要となる輸入許可、税務証明又は契約登録
- 過去の送金実績及び平均的な所要期間
「米ドル建てで契約している」という事実だけでは、米ドル送金が確保されているとは限りません。
経済制裁との関係
経済制裁は、送金規制又は外貨不足とは異なる法的・規制上のリスクです。
制裁は、特定国だけでなく、特定の個人、企業、銀行、貨物、用途、船舶、航空機、港湾又は最終需要者を対象とする場合があります。
| 項目 | 送金規制・外貨不足 | 経済制裁 | 実務上の確認 |
|---|---|---|---|
| 主な発動主体 | 取引先国の政府、中央銀行又は金融当局 | 自国政府、第三国政府、国際機関又は制裁当局 | どの国の法令が誰に適用されるか確認します。 |
| 主な原因 | 外貨不足、為替管理又は金融危機 | 安全保障、外交政策、テロ対策又は紛争対応 | 規制目的と法的根拠を確認します。 |
| 実務上の問題 | 支払資金があっても国外送金できない | 取引、送金、保険又は船積み自体が禁止される場合がある | 送金可否だけでなく取引全体を確認します。 |
| 主な確認対象 | 外貨割当、中央銀行承認、送金銀行 | 当事者、銀行、貨物、用途、船舶、港湾、実質的支配者 | 送金経路を含めてスクリーニングします。 |
| 対応の方向性 | 代替通貨、別銀行、確認信用状、信用保険 | 取引可否判断、許可取得、停止又は法務確認 | 代替ルートの利用が制裁回避にならないか確認します。 |
買主及び発行銀行が直接の制裁対象でなくても、送金経路上の銀行、親会社、実質的支配者、貨物の最終用途又は使用船舶が問題となることがあります。
制裁を避けるために支払名義、送金経路、貨物名又は最終需要者を実態と異なる内容へ変更してはいけません。
L/C取引との関係
L/Cを利用しても、カントリーリスクが完全に消滅するわけではありません。
信用状条件に合致する書類が提示された場合、発行銀行は信用状上の支払、引受又は買取に関する義務を負います。
しかし、発行銀行所在国で外貨不足、送金規制、経済制裁、銀行業務停止又は決済システム停止が発生すれば、発行銀行が支払義務を認めても、実際の送金が遅延又は停止する可能性があります。
L/C取引では、少なくとも次のリスクを分けて確認します。
- 買主の信用リスク
- 発行銀行の信用リスク
- 発行銀行所在国のカントリーリスク
- 支払通貨及び送金経路のリスク
- Discrepancy及び提示期限のリスク
- 制裁及び法令上の支払禁止
- 確認銀行の有無及び確認範囲
確認信用状との関係
発行銀行又は発行銀行所在国のリスクが高い場合、確認信用状が検討されます。
確認信用状では、発行銀行とは別の確認銀行が、信用状条件に合致する提示に対して独立した支払確約を追加します。
確認銀行が発行銀行とは異なる国に所在し、信用力及び送金能力を有している場合、発行銀行リスク及び発行国リスクを一定範囲で補完できます。
ただし、確認信用状でも、次の問題は残ります。
- 提示書類のDiscrepancy
- 確認銀行自身の信用リスク
- 確認銀行所在国のカントリーリスク
- 確認銀行へ適用される制裁又は法令
- 確認銀行自身の不可抗力又は業務停止
- 確認対象外の信用状変更
確認信用状の有無だけでなく、確認銀行、確認対象額、期限、支払場所、通貨及び適用法令を確認します。
Silent Confirmationとの関係
Silent Confirmationとは、信用状上に正式な確認銀行として表示されない第三者銀行が、輸出者との個別契約により、発行銀行リスク又はカントリーリスクの一部を引き受ける実務です。
輸入者へ正式な確認信用状を求めにくい場合や、信用状条件を変更せず輸出者側でリスクを補完したい場合に検討されます。
ただし、Silent Confirmationの補完範囲は、個別契約の文言によって決まります。
次の事項を確認します。
- 対象となる発行銀行
- 対象国
- 対象となる信用危険及びカントリーリスク
- 送金規制及び外貨不足の取扱い
- 経済制裁及び不可抗力に関する免責
- Complying Presentationの要否
- 支払条件、待機期間及び必要書類
- 手数料及び請求期限
Silent Confirmationは、正式な確認信用状と同一ではなく、すべてのカントリーリスクを包括的に補償するものでもありません。
Forfaiting・Avalとの関係
Forfaitingでは、輸出者が将来受け取る輸出債権又は期限付手形を金融機関へ売却し、早期に資金化します。
金融機関が遡求権なしで債権を買い取る場合、輸出者の買主信用リスク及び一定のカントリーリスクが移転することがあります。
ただし、Forfaiting契約上の表明保証違反、書類不備、詐欺又は対象外事由について、輸出者の責任が残る場合があります。
Avalは、手形又は約束手形に銀行保証を付す仕組みです。
Avalにより買主の信用リスクを補完できても、保証銀行所在国の外貨不足、送金規制、制裁又は銀行業務停止のリスクは残ります。
Forfaiting又はAvalでは、次の事項を確認します。
- 保証銀行又はAval銀行の信用力
- 保証銀行所在国のカントリーリスク
- 支払通貨及び支払場所
- 送金経路
- 遡求権の有無
- 表明保証及び買戻義務
- 制裁及び法令上の支払禁止
対応手段ごとのカバー範囲
| 対応手段 | 主な機能 | 補完し得るリスク | 残る注意点 |
|---|---|---|---|
| 確認信用状 | 確認銀行が信用状上の独立した支払確約を追加する | 発行銀行リスク及び発行銀行所在国リスクの一部 | 確認銀行自身のリスク、Discrepancy、制裁及び不可抗力を確認します。 |
| Silent Confirmation | 第三者銀行との個別契約によりリスクを補完する | 契約で定めた発行銀行リスク及びカントリーリスク | 正式な確認ではなく、補完範囲は契約文言によります。 |
| Forfaiting | 輸出債権を金融機関へ売却して早期資金化する | 買主リスク、保証銀行リスク及びカントリーリスクの一部 | 遡求、表明保証、保証銀行及び対象国を確認します。 |
| Aval | 銀行が手形又は約束手形の支払を保証する | 買主信用リスク | 保証銀行所在国の送金規制及び制裁リスクが残ります。 |
| 輸出取引信用保険 | 信用危険又は非常危険による回収不能を保険で補う | 買主不払い、送金規制、戦争、政変、外貨不足等 | 対象国、与信限度、通知義務、免責及び損失確定を確認します。 |
| 貨物海上保険 | 輸送中の貨物の物的損害を補償する | 破損、濡損、盗難、滅失及び共同海損 | 送金不能又は代金未回収は通常の中心対象ではありません。 |
どの手段も、カントリーリスクを完全に排除するものではありません。
書類不一致、通知義務違反、制裁、対象外事由、確認銀行自身のリスク又は保険の免責によって、想定した保護が得られない場合があります。
UCP600不可抗力条項との関係
UCP600 Article 36は、天災、暴動、内乱、戦争、テロ、ストライキ、ロックアウトその他銀行の支配を超える原因によって銀行業務が中断した場合の責任を扱います。
カントリーリスクが顕在化し、発行銀行、確認銀行又は指定銀行の業務が中断すると、書類受付、審査、支払、買取、通知、送金及び書類引渡しに影響が生じます。
銀行業務の中断中に信用状が失効した場合、不可抗力があったという理由だけで、信用状の有効期限又は提示期限が自動的に延長されるわけではありません。
リスクが高まった場合は、信用状期限、提示期限、提示場所、確認銀行及び代替送金経路を早期に確認します。
輸出取引信用保険との関係
輸出取引信用保険では、買主の倒産又は長期不払いなどの信用危険に加え、戦争、政変、送金規制、外貨不足又は政府措置などの非常危険が対象となる場合があります。
ただし、一般的なカントリーリスクが存在するだけで、保険事故が成立するわけではありません。
次の事項を確認します。
- 対象国及び対象取引
- 保険契約及び適用約款
- 買主又は発行銀行の与信限度額
- 事故原因が信用危険か非常危険か
- 危険発生又は支払遅延の通知期限
- 必要な銀行通知及び政府資料
- 回収努力及び損失防止義務
- 待機期間及び損失確定要件
- 免責及び被保険者の義務違反
輸入者との支払条件変更、分割払い、値引き、通貨変更又は債務減免を行う場合は、保険者の承認が必要となることがあります。
貨物海上保険との違い
| 項目 | カントリーリスク | 貨物海上保険 | 実務上の切り分け |
|---|---|---|---|
| 主な対象 | 代金回収、外貨送金、L/C決済及び国・金融制度上の障害 | 輸送中の貨物の物的損害 | 資金の問題か貨物の損害かを区別します。 |
| 典型例 | 送金規制、外貨不足、政変、制裁、銀行業務停止 | 破損、濡損、盗難、滅失、共同海損 | 同じ戦争でも決済と貨物損害を別々に判断します。 |
| 買主の支払意思 | 支払意思があっても送金不能となる場合があります。 | 支払意思とは無関係に貨物事故を確認します。 | 買主の意思と事故原因を混同しません。 |
| 主な確認資料 | 銀行通知、政府措置、送金申請、信用状 | 保険証券、Survey Report、写真、運送書類 | リスクごとに証拠を分けて保存します。 |
| 主な対応手段 | 確認信用状、Silent Confirmation、信用保険、送金ルート変更 | 外航貨物海上保険、戦争危険、ストライキ危険等 | 決済保護と貨物保護を別々に手配します。 |
貨物が無事に到着しても、送金規制によって代金を回収できない場合があります。
反対に、代金決済が完了していても、輸送中に貨物損害が発生する場合があります。
よくある誤解
| 誤解 | 実務上の考え方 | 注意点 |
|---|---|---|
| L/Cがあればカントリーリスクはない | 発行銀行所在国の送金規制、外貨不足、制裁又は銀行停止の影響を受ける場合があります。 | 発行銀行、発行国及び確認信用状を確認します。 |
| 確認信用状があれば完全に保護される | 確認銀行自身の信用、所在国、制裁、不可抗力及びDiscrepancyの問題が残ります。 | 確認銀行の所在地及び確認範囲を確認します。 |
| 信用調査をすればカントリーリスクも把握できる | 信用調査は主に買主個別の信用力を確認するものです。 | 国別情報、外貨事情、銀行及び制裁を別途確認します。 |
| 買主に支払意思があれば問題ない | 買主が現地通貨を確保していても国外送金できない場合があります。 | 送金申請及び外貨割当を確認します。 |
| 制裁対象国でなければ制裁リスクはない | 個人、企業、銀行、貨物、船舶、用途及び実質的支配者も対象となります。 | 取引関係者及び送金経路全体を確認します。 |
| 送金銀行を変更すれば制裁問題は解決する | 法的に禁止された取引は送金経路の変更で適法になるわけではありません。 | 制裁回避と評価される対応を行いません。 |
| 非常危険なら必ず信用保険で補償される | 補償は保険約款、対象国、通知、限度額及び事故原因によります。 | 一般概念と保険契約上の危険を区別します。 |
| Avalがあれば国のリスクもなくなる | 保証銀行所在国の送金規制又は制裁リスクが残ります。 | 保証銀行及び支払国を確認します。 |
| Forfaitingなら輸出者の責任は一切残らない | 表明保証違反、詐欺、書類不備又は買戻条項が問題になる場合があります。 | 遡求及び表明保証を確認します。 |
| 貨物海上保険で送金不能も補償される | 通常の貨物保険は輸送中の貨物損害を対象とします。 | 代金回収には信用保険等を検討します。 |
実務で問題になりやすいケース
| ケース | 主な原因 | 確認資料 | 判断のポイント | 初動対応 |
|---|---|---|---|---|
| 買主が現地通貨を支払ったが外貨送金できない | 外貨不足又は中央銀行の外貨割当停止 | 銀行入金記録、送金申請、中央銀行通知 | 買主の不払いかTransfer Riskか | 銀行資料を取得し、信用保険へ通知します。 |
| 発行銀行がL/C支払を認めたが送金が止まった | 発行銀行所在国の送金規制 | 信用状、支払通知、送金保留通知 | 銀行義務と実際の資金移転を区別できるか | 確認銀行及び代替送金経路を確認します。 |
| 政変により中央銀行承認が停止した | 政府機能又は中央銀行業務の停止 | 政府発表、銀行通知、送金申請 | 一時的遅延か長期的送金不能か | L/C期限、貨物所在及び保険通知を確認します。 |
| 送金経路上の銀行が制裁対象と判明した | コルレス銀行又は中継銀行への制裁 | SWIFT、銀行回答、制裁情報 | 別経路が合法的に利用できるか | 送金を停止し、銀行及び専門家へ確認します。 |
| 確認銀行自身の所在国で規制が発生した | 確認銀行所在国の外貨規制又は銀行停止 | 確認信用状、銀行通知、支払条件 | 確認銀行の義務をどこでどの通貨で履行できるか | 確認銀行へ正式な支払方法を照会します。 |
| Silent Confirmationが送金規制を対象外としていた | 個別契約の補償範囲が限定されていた | Silent Confirmation契約、支払拒絶通知 | 対象危険及び免責に該当するか | 契約文言を確認し、別の回収手段を検討します。 |
| Forfaiting後にAval銀行所在国で送金規制が発生した | 保証銀行所在国のTransfer Risk | 手形、Aval、Forfaiting契約、銀行通知 | リスクが金融機関へ有効に移転しているか | 遡求、表明保証及び支払場所を確認します。 |
| 制裁対象でない買主への送金が銀行審査で止まった | 貨物用途、親会社又は最終需要者への懸念 | 取引資料、最終用途証明、銀行照会 | 法的禁止か追加確認か | 銀行が求める資料を提出し、法的根拠を確認します。 |
| 輸出取引信用保険の通知期限を経過した | 買主が支払うとの説明を信じて待った | 保険契約、延滞記録、銀行通知 | 通知遅延が補償へ影響するか | 直ちに保険者へ事情及び資料を提出します。 |
| 貨物到着後に輸入禁止措置が発令された | 政府による輸入制限又は禁止 | 政府通知、B/L、通関記録、保険証券 | 決済、貨物処理及び保険をどう切り分けるか | 貨物Hold、返送・転売、銀行及び保険通知を行います。 |
具体例1:買主に支払意思があるが送金規制で決済できない場合
輸入者はOpen Account条件の支払期日に、現地通貨による代金を取引銀行へ入金しました。
しかし、外貨準備の減少を理由として中央銀行が外貨割当を制限し、銀行は米ドルへの交換及び国外送金を実行できませんでした。
輸入者は支払申請を継続し、銀行も申請受付を認めています。
この場合、輸入者が単に資金不足で支払わない信用危険とは異なり、Transfer Risk又は非常危険として検討される可能性があります。
輸出者は、現地通貨の入金記録、送金申請、銀行の保留通知及び中央銀行規制を取得し、信用保険者へ早期に通知する必要があります。
買主の説明だけでTransfer Riskと判断せず、送金不能の原因及び支払手続を客観的資料で確認することが重要です。
具体例2:確認銀行所在国でもカントリーリスクが顕在化した場合
輸出者は、発行銀行所在国の政治リスクを懸念し、第三国の銀行による確認信用状を取得しました。
輸出者は信用状条件に合致する書類を確認銀行へ提示しましたが、その直後、確認銀行所在国で外貨送金規制が導入されました。
確認信用状は発行銀行及び発行国のリスクを一定範囲で補完しますが、確認銀行自身の所在国に生じるカントリーリスクまで消滅させるものではありません。
輸出者は、確認銀行が国内口座への支払、別通貨による支払又は別拠点からの支払を実行できるか、法令上の制限があるかを確認します。
確認銀行の信用力だけでなく、その所在国、支払場所、支払通貨及び送金経路を確認する必要があることを示す事例です。
具体例3:制裁対象銀行が送金経路に含まれていた場合
輸出者、輸入者及び発行銀行はいずれも制裁対象ではありませんでした。
しかし、米ドル送金に使用されるコルレス銀行が新たに制裁対象となり、送金処理が停止しました。
この場合、買主の信用危険又は単純な外貨不足ではなく、送金経路上の制裁リスクが顕在化しています。
別の銀行又は別通貨を利用できる可能性はありますが、制裁対象取引を迂回する目的で送金経路を変更することはできません。
銀行は、取引当事者、貨物、用途及び代替経路が法令上許容されるかを確認したうえで処理を判断します。
制裁対象国だけでなく、送金経路上の金融機関まで確認する必要があることを示す事例です。
具体例4:Forfaiting後にAval銀行所在国で送金規制が発生した場合
輸出者は、輸入者が発行し現地銀行がAvalを付した期限付手形を、Forfaiting会社へ売却しました。
その後、Aval銀行所在国で外貨送金規制が導入され、手形満期日に国外送金が実行されませんでした。
輸出者が遡求権なしで債権を有効に売却していれば、買主及びAval銀行の支払リスクはForfaiting会社へ移転している可能性があります。
ただし、輸出者が手形の真正性、売買契約、船積書類又は制裁確認について表明保証に違反していた場合は、Forfaiting会社から請求を受ける可能性があります。
Forfaitingを利用する場合でも、遡求の有無、表明保証、保証銀行所在国及び支払通貨を確認する必要があります。
カントリーリスク確認フロー
| 段階 | 確認する人 | 確認事項 | 次の対応 |
|---|---|---|---|
| 1.取引国確認 | 営業、貿易担当、与信管理 | 買主国、政治情勢、外貨事情及び送金規制 | 高リスクの場合は決済条件を見直します。 |
| 2.買主・銀行確認 | 与信管理、銀行 | 買主、発行銀行、保証銀行及び所在国 | 信用危険とカントリーリスクを分けて評価します。 |
| 3.契約条件確認 | 輸出者、輸入者、法務 | 支払通貨、支払場所、送金銀行及び規制時の処理 | 代替通貨、解除及び費用負担を契約へ反映します。 |
| 4.リスク補完確認 | 銀行、保険担当 | 確認信用状、Silent Confirmation、Forfaiting、Aval及び信用保険 | 対象危険、免責及び期限を確認します。 |
| 5.船積前再確認 | 輸出者、フォワーダー、銀行 | 制裁、送金規制、貨物用途、船舶及び港湾 | 状況悪化時は船積みを延期又は停止します。 |
| 6.リスク顕在化 | 輸出者、銀行、輸入者 | 送金停止理由、L/C期限、貨物所在及び政府措置 | 証拠保全、期限延長及び貨物Holdを行います。 |
| 7.保険通知 | 輸出者、保険者 | 非常危険、通知期限、与信限度及び必要書類 | 回収不能確定前でも危険発生を通知します。 |
| 8.回収・損失処理 | 管理部門、銀行、保険者、法務 | 代替送金、回収努力、損失確定及び保険請求 | 承認された回収計画に基づき処理します。 |
専門家へ確認すべき場面
- 外貨不足と買主の資金不足を区別できない場合
- 中央銀行の送金承認が長期間保留されている場合
- 制裁対象者、実質的支配者又は最終需要者の判定が必要な場合
- 発行銀行又は確認銀行の支払義務と送金規制の関係が問題となる場合
- 確認信用状又はSilent Confirmationの補完範囲が不明な場合
- Forfaiting又はAvalの遡求・表明保証が問題となる場合
- 輸出取引信用保険の非常危険又は通知期限が問題となる場合
- 政府措置により貨物の輸入、返送又は転売が制限された場合
- 代替通貨又は代替送金ルートの利用が制裁回避となる可能性がある場合
案件に応じて、取引銀行、発行銀行、確認銀行、信用保険者、制裁・貿易金融の専門家、弁護士、フォワーダー、NVOCC及び現地代理店へ確認します。
カントリーリスク判断チェックリスト
| 確認場面 | 確認する相手 | 確認事項 | 問題がある場合の対応 |
|---|---|---|---|
| 取引開始前 | 営業、与信管理、貿易担当 | 買主国、政治情勢、外貨事情及び送金規制 | 前払い、L/C又は取引限度を設定します。 |
| 信用調査時 | 信用調査会社、与信管理 | 買主信用と国・銀行リスクを分けて確認しているか | 国別情報及び銀行情報を追加取得します。 |
| 契約条件決定時 | 輸出者、輸入者、法務 | 通貨、支払場所、送金銀行、規制時の扱い | 代替決済、解除及び費用負担を定めます。 |
| L/C発行時 | 通知銀行、輸出者 | 発行銀行、所在国、期限、通貨及び確認の有無 | 確認追加又は条件変更を依頼します。 |
| 保証・Aval確認時 | 銀行、輸出者 | 保証銀行、所在国、支払場所及び準拠法 | 別国の保証又は追加担保を検討します。 |
| 保険手配時 | 信用保険者、保険担当 | 対象国、非常危険、与信限度及び通知義務 | 船積前に保険条件を調整します。 |
| 制裁確認時 | 銀行、法務、コンプライアンス | 当事者、銀行、貨物、用途、船舶及び送金経路 | 確認完了まで取引又は船積みを停止します。 |
| 船積前 | 輸出者、フォワーダー、銀行 | 情勢変化、送金実績、港湾及び貨物規制 | 船積延期又は決済条件変更を検討します。 |
| 支払期日前 | 輸入者、送金銀行 | 外貨確保、送金申請及び中央銀行承認 | 不足資料又は承認手続を早期に補います。 |
| 送金遅延時 | 輸入者、銀行 | 買主の資金不足か、Transfer Riskか | 銀行証明を取得し、保険者へ通知します。 |
| L/C支払停止時 | 発行銀行、確認銀行 | Discrepancy、規制、制裁又は銀行停止のどれか | 原因ごとに期限延長、請求又は法務確認を行います。 |
| 回収不能時 | 保険者、法務、管理部門 | 非常危険該当性、通知、回収努力及び損失確定 | 証拠を整理し、保険請求及び回収を進めます。 |
まとめ
カントリーリスクとは、買主個別の信用力とは別に、取引先国の政治、経済、金融、法制度又は政府措置により、貿易代金の回収、外貨送金、L/C決済又は貨物引取りに支障が生じるリスクです。
信用危険は主に買主個別の支払能力又は支払意思の問題です。カントリーリスクは、政府、中央銀行、金融制度、制裁又は送金経路の問題です。
買主が現地通貨を確保していても、外貨交換又は国外送金ができないリスクはTransfer Riskとして整理されることがあります。
ただし、一般的なカントリーリスクと、輸出取引信用保険における非常危険は同一ではありません。保険事故の成立は、保険約款、事故原因、通知義務、与信限度及び損失確定要件によって判断されます。
L/Cを利用しても、発行銀行及び発行銀行所在国のリスクは残ります。確認信用状は有効な補完手段ですが、確認銀行自身のリスク、制裁、不可抗力及び書類不一致まで完全に排除するものではありません。
Silent Confirmation、Forfaiting及びAvalも、補完範囲、遡求、保証銀行所在国及び適用法令を確認する必要があります。
経済制裁は、特定国だけでなく、当事者、銀行、貨物、用途、船舶、港湾及び送金経路全体に関係する場合があります。
通常の貨物海上保険は、輸送中の貨物の物的損害を対象とし、外貨送金不能又は代金回収不能を直接補償するものではありません。
貿易決済におけるカントリーリスクを管理するには、買主の信用力、取引国、発行銀行、保証銀行、確認銀行、支払通貨、送金ルート、制裁、信用状条件及び輸出取引信用保険を分けて確認することが重要です。
本記事は一般的な実務情報を整理したものであり、個別案件におけるカントリーリスク、制裁該当性、銀行の支払義務、保険事故又は保険金支払を確定するものではありません。実際の判断は、売買契約、信用状、銀行間通信、保証、Forfaiting契約、適用法令及び保険契約に基づいて行われます。
